花屋喰種   作:みぞれアイス

100 / 117
Re:第18話 Prove Thyself

 ブルーレイ達人工喰種達はロウによって作られ、カオリによって安定運用へと漕ぎ着けた存在だ。

 赫子を植え付けられ脳を弄り回された彼らに、人間だった頃の感情や意思は既に無い。与えられた命令を遂行する『ちょっと思考できるロボット』程度の存在である。

 だが、現段階で最も精度の良い人工喰種が作れるのは、間違いなくロウの所と言えよう。

 

 アオギリに所属している『嘉納』は、時としてカネキやオウルのような成功例を作り出す。だが、殆どは戦闘能力を持たない失敗作ばかりを作り出している。

 一方、7区と15区の地下にあるロウやカオリの実験場には、財力を惜しみなく投資した最新鋭の設備が揃っている。

 それだけでなく、ロウ達しか持っていない『特別な素材』もある。

 

─────それは『赫者の粉末』だ。

 

 カオリ製『尾赫赫者の粉』は複数の素材を繋ぐことに長けており、この粉末を人工喰種化施術に利用することで、ロウは施術の成功率を大きく上げている。

 また、最近ではリゼ製『鱗赫赫者の粉』を追加する事で、成功率と安定性を大幅に改善できることも分かった。

 

 よって、最近では『カセット未満のゴミ(ジャンク)』を作り出すことは殆ど無い。

 嘉納の人工喰種化施術は未だに数多くの『フロッピー未満のゴミ(タロちゃん)』を生み出している事からも、この差は明らかだ。

 

 それだけではない。15区と7区に拠点を持つロウ達は、区のほぼ全域で人を攫う事ができる。

 それはマユのような『勧誘』を使うこともあれば、カオリのような『一家丸ごと行方不明』を使うこともある。

 

 アオギリと違い構成員も少なく、喰種の肉を食べることも多いカオリ陣営は、大食らいが多いとはいえ、ふんだんに人間を実験材料に回すことができる。

 片やアオギリは構成員達の食事用に多数の人間を割り当てねばならず、実験材料に回せるのは残った僅かな人間に限定される。

 

 人工喰種を作る上で、環境も道具も被験体の量もアオギリより優れているカオリ陣営は、アオギリに先んじて人工喰種を実戦に大規模投入する事ができた。

 

 

 結果…………カオリ陣営は質的有利を維持したまま、数的不利を覆した。

 捜査官達はカセット集団の物量と爆発に為すすべもなく倒れ、残った者の多くもディスクやブルーレイの前に倒れていった……。

 

 無論フレディやチャッキーの砲撃支援によるところも大きい。制空権を支配され、無慈悲に降り注ぐ水晶の雨は、多くの捜査官を死傷させる。

 

 

 激しい戦闘により高速道路の高架は崩壊し、瓦礫と僅かな骨組みを残すのみ。

 倒れ伏す幾人もの捜査官を乗り越え、クインケ鋼目掛けて人工喰種達が群がっていく。

 そして、人工喰種達は高架下の道路へとクインケ鋼を放り投げた。

 

 轟音と共に落下した先には、別の人工喰種達が待機しており、クインケ鋼をどこかへ運んでいく。

 もはや人工喰種達の波を止める余力は無い。捜査官側の敗北はここに確定した。

 とはいえ、クインケ鋼は巨大なため、すぐに追跡できるだろう。

 だが……。

 

「なんだってんだ? どうしてクインケ鋼を路上に集めてやがる……?」

 

 飛来する水晶の雨を防ぎながら、7区担当の捜査官『富良(ふら)』は疑問を口にする。

 

 そう、追跡の必要すら無い。人工喰種達は高架下にある交差点にクインケ鋼を放り投げると、別のクインケ鋼を運搬し、また同じ場所に重ねていく。

 交差点の中央へ、無造作に積まれたクインケ鋼の山が形成され始めていた。

 

「考えてても仕方ねぇ……俺は俺にできる事をやるだけだっ!」

 

 富良は鱗赫のクインケ『ランタン』を振るい、人工喰種達を切り裂いていく。

 富良の持つ『ランタン』は、尾赫のクインケであるにも関わらず、その切れ味はジューゾーの持つ『ジェイソン』に並ぶ鋭さを持つ。

 ゆえに、再生力の高いグラトニーブルーレイであろうと、防御力の高いブラッドブルーレイであろうと、富良のランタンなら即死させることが可能だ……!

 

 この『ランタン』というクインケ、元は『三波(ミナミ)』という女子高生の喰種から作られているのだが……このミナミという少女は、かつて13区全域を支配下に置いていた喰種である。

 

 13区には当然『ヤモリ』を始めとした強者が揃っていたが、彼女はヤモリ達よりも一歩先にいた。

 

 しかし……それほどに強いランタンだが、クインケとしてのレートはA+しかない。なぜなら……。

 

「クソっ、もう歪んできてやがる……」

 

 ランタンは凄まじく耐久力が低い……! 少し使ったのなら、すぐにアタッシュケースへ戻し、休ませてやる必要がある。

 

 そこで、富良は新たなクインケを取り出す。

 

 それは薙刀型のクインケ。本来であればハイルが持っているはずの『アウズ』である。

 

 左手に盾、右手に薙刀を構えた富良は、まさに歴戦の戦士の如き佇まいだが……。

 

「ぐっ……伊丙上等の『アウズ』……結構重いな……ッ!!」

 

 富良は自身の右腕にかかる負担の強さに、思わず顔をしかめる。

 

「だが振れないことはねぇ……やってやらぁ!!」

 

 富良は歯を食いしばり、喰種達を屠っていく。

 

「へっ! キジマさん達がいなくとも、7区の捜査官は強ェんだよッ!!」

 

 戦場全体を見れば、富良の活躍は焼け石に水だろう。だが、富良達は諦める事無く喰種を駆逐し続けていった。

 

──────────

 

 弾幕をかいくぐり、法寺が2号達従業員喰種がいる場所へ到達した。法寺単騎での突撃だが、法寺は特等捜査官であり、かつて中国を震撼させた凶悪な喰種『(イェン)』を討伐した程の男である。

 その強さは最早鬼神。AK-47で武装した従業員達は、為す術もなく斬り殺されていく。

 

 他にも炎や氷の属性のクインケを持った捜査官達が、フラワー型人工喰種達を薙ぎ払い、CRcガスを持った捜査官達が他の人工喰種を殲滅し、法寺の援護に回っていた。

 

「まずいっ、戦闘配備!」

 

 2号が短く叫び、他の6人が素早く陣形を整える。

 

「いくよっ!!」

「速射する」

 

 羽赫の二人が法寺に向かって羽赫を連射していく。だが、法寺は『赤舌(チーシャ)』を盾のように構え、羽赫を防ぐ。

 

「なら次っ……は……」

 

 続けざまに指示を出そうとした2号だが、突如声がでなくなる。

 

 2号が自分の体を見下ろすと、胸元に小さな穴が空いているのが分かった。

 CRc狙撃銃だ。だがCRc狙撃銃はフレディが引き受けていたハズ……そう思いながら、2号は静かに崩れ落ちた。

 

「しまった……CRc狙撃銃!! 私が引き継ぐ! 3号は私と一緒に前に出るよ!」

 

 2号が倒れると同時、尾赫の喰種『4号』がリーダーを引き継ぐ。

 4号も2号ほどではないが、遊撃としての経験の多い喰種だ。全体を見渡し、的確な指示ができる。

 

 しかし、4号の戦闘方法は白兵戦よりも不意打ちで真価を発揮するため、リーダーとなった今、その戦い方はできない。

 4号はかつて平子班が追っていた『オロチ』と同じ程度の強さしかないが、4号には秘策があった。

 

「羽赫は3号の後ろ! 双子は私の後ろ! 3号はこれを!」

 

 4号は傘型のクインケを2つ拾うと、1つを3号に持たせ、もう1つは自分で構える。

 

「フレディさん! 私達ごと薙ぎ払って!!」

「ッ!?」

 

 4号の叫ぶと同時、法寺は慌てて赤舌を背面に向けるが……。

 

─────フレディは変わらず周囲に水晶の雨をばらまいていた。

 

「バァーカ! ひっかかったな!」

 

 4号はわざと通信機の電源を切っていたため、フレディから赫子が飛んでくることは無い。その隙に4号は尾赫を地面に突き刺し……。

 

「尻に赫子をシュゥゥゥ─────ッ!!」

 

 4号の声に合わせ、法寺の足下のコンクリートから赫子が突き出した。

 

「この程度っ!」

 

 法寺は自身の尻をめがけて飛んでくる赫子に対し、身をよじることで回避するが……。

 

「そーれもういっちょ!! そして二人は羽赫斉射!!」

 

 再び地面のコンクリートを突き破りながら、法寺の尻めがけて赫子が飛び出し、その上1号と5号による羽赫が飛来する。

 

「くっ……!!」

 

 法寺はさらに身をよじり、赤舌を構えて羽赫を防ぐ。

 だが無理な体勢で防御を行っている法寺は、体の軸が極めて不安定な状態だ。

 

「今ッ!!」

 

 続いては3号が大鉈状の甲赫を、赤舌目掛けて叩きつける。

 

 不安定な状態の上から重厚な一撃を与えることで、防御していた法寺の腕に電流が走る。

 

 そして6号と7号は赤舌をすくい上げるように尾赫を振るい……。

 

「しまった!!」

 

 法寺から赤舌を引き剥がす事に成功した。

 

「おっけ! それじゃあコレは飛んでけぇぇぇ!!!」

 

 4号は赤舌を赫子でキャッチすると、人工喰種達が集めたクインケ鋼の集積地めがけて放り投げる。

 

「よっし! 炎剣を奪っ……」

 

 4号は横へ頭から吹き飛び、動かなくなった。

 2号に続き、4号にもCRc狙撃弾が撃ち込まれたのだ。

 

「……4号ちゃんっ!! なんで相手はこっちを狙ってきてるの!? なんで!? え、えっと……二人を抱えてみんな撤退!!」

 

 次のリーダーは甲赫の3号だ。3号は即座に撤退を宣言。4号を抱え、法寺から背を向けるが……。

 

「3号足元缶!!」

「えっ……!?」

 

 5号の叫びに3号が振り返ると……法寺が3号の足下に向けて、CRcガスの入った缶を投げつけていた。

 

「ぅぐっ……体が……!!」

「走って! そいつまだクインケ持ってる!!」

 

 法寺はいつのまにか新たなクインケを両腕に装備しており……。

 

「こふっ……」

 

 CRcガスによって動けない3号の背中に、槍に似たナニカが突き刺さる。その先端は3号の赫包を貫通し、反対側の胸へと飛び出していた。

 

「3号ッ!!」

 

 血の泡を吹きながら崩れ落ちる3号。5号は駆け寄ろうとするも、CRcガスの効果範囲内であるため、近付くことはできない。

 

 その間にも法寺が5号めがけて武器を突き出してきたため、5号は慌てて距離を離し、そのクインケの構造を観察する。

 

「……槍? ……じゃない。リーチ極長穿龍棍(せんりゅうこん)っ!」

 

 法寺の持つクインケは、パイルバンカーによく似た見た目をしている。

 パイルバンカーと違い杭が飛び出すギミックは無いようだが、その代わりに長槍が設置されており、甲赫でありながら凄まじいリーチを持っている。

 

 クインケの銘は『イイツウ』。法寺が古くから愛用し、数多くの喰種を屠ってきた自慢の武器だ。

 

「くっ、狙撃手も狙ってる今、一旦退く……でも仲間は回収! みんな援護!」

「5号ちゃん待って!! 後はレディ・マイヤーズに任せ……ぁっ」

 

 倒れた仲間の元に駆け寄った5号に、1号は仲間を一旦置いていくように言おうとした。 だが、1号もまたCRc狙撃弾に撃たれ、糸の切れた人形のように倒れ伏す。

 

「どうする7号」

「5号はもう駄目。どの道レディ・マイヤーズがみんな回収してくれる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、逃げるのが一番」

 

 足の速い5号は単騎で法寺へ駆け出してしまったため、もはや6号達では追いつけない。

 

 そして、狙撃銃の射線が通っている上、既にヒラ従業員達は3号の指示で撤退を開始している。数の減った状態で法寺と戦うのは無謀だ。

 

「経路は……」

「ちょっと待って……」

 

 双子は人工喰種と捜査官の位置を考慮し、撤退が最も簡単そうな経路を探す。

 

「よし、あそこにいるデカい女」

「あいつを倒して一気に離脱する」

 

 腰に羽赫のクインケをぶら下げ、手には大剣を持った女捜査官がいるルート。その経路が最も簡単だと判断した。

 

 だが、6号達は知らない。そのデカい女の持つ武器は、かつて亜門鋼太朗という捜査官がアオギリの双子喰種を倒すときに使っていた武器であるということを……!

 

 

「こちら五里、法寺特等が交戦していたバラクラバ集団の幹部と思わしき二体がこちらに接近中。これより交戦を行う!」

 

 亜門に憧れ、亜門から戦い方を学び、亜門の武器を受け継いだ女『五里美郷(ごりミサト)』は、静かに武器を構えて双子喰種の迎撃態勢に移った。

 

──────────

 

 相棒(1号)は既に倒れ、残った双子は撤退に移った。

 

 1号が倒れる前に言っていた通り、撤退して後は切り札たる『レザーフェイス』に全て任せればいい。

 

 だが、この作戦は『レディ・マイヤーズ無しでもここまで私達はできる』と言うことを15区の主に見せつける意味を兼ねている。

 

 ロウから任せたと言われた。ロウは今もなお一人で有馬と戦っている。

 

 そんな中、おめおめと逃げる事は5号の矜持に反する。

 

 そして何より、レザーフェイスが到達する前に、仲間達は助からなくなる可能性が高い。

 

 瀕死の仲間も、今治療すれば助かるかもしれない。その思いが、5号から撤退する考えを掻き消した。

 

「誰も死なせない! レディ・マイヤーズには頼らない! 連れて帰って治療する!!」

 

 ゆえに、5号はたった一人……法寺へと突撃する。

 

「単騎で接近戦ですか……本当に後が無いようですね」

 

 だが、相手が悪すぎた。法寺は数多くの喰種を討伐してきたベテランだ。

 

「無駄です」

 

 法寺は自身の足下にCRcガスをバラまく。真紅の霧が舞い、5号の赫子がボロボロと崩れていく。

 

「ぐっ……赫子が無くとも足があるっ!!」

 

 CRcガスは即座に赫子の出力を抑制するが、身体能力は低下するまでに少し時間がかかる。

 5号は7人の中で最も身体能力が高い。その優れた体を活かし、CRcガスが立ちこめる中、法寺へと飛びかかり……。

 

「へし折れろッ!!」

 

 法寺の右脛に鋭い蹴りを叩き込んだ。

 

「っぐ……! ですがこれで終わりです」

 

 鈍い音を立てて法寺の右足の骨が砕けるも、法寺は華麗にイイツウを一閃する。

 

「あがぁッ!」

 

 イイツウが5号の胴体を通過し、上半身だけになった5号が地面へと投げ出された。

 

「常に余裕をもって優雅たれ……余裕の無くなった貴女はここで死ぬ」

 

 法寺はイイツウを5号の顔面へと突き刺す。

 ぐちゃりと音を立て、バラクラバに包まれた顔は血溜まりへと変わった。

 




 反 撃 開 始 
幹部達が死んだので統制が崩壊。CRcガスも相まって人工喰種達が弱体化します。

ちなみに、法寺さんの中の人はアルドノアゼロのクルーテオさんと同じです。優雅にアゾる炎系なのです。

■独自解釈要素
・リゼ赫者の粉
つまるところ竜遺児素材です。本作では人工喰種成功率上昇+性能上昇としています。

・アウズ
半人間が使っているので、少し重くてもいいよねっ!
という解釈のもと、やや重くしています。

・ランタン
13区の主にしてはレートが低いです。これを本作では耐久性の悪さと解釈しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。