花屋喰種   作:みぞれアイス

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Re:第19話 雨降りの傘

 時刻は遡り、クインケ鋼強奪作戦開始直後。

 リオはフワフワと飛びながら、地上へ水晶のような羽赫を雨のごとくバラまいていく。

 

「アハハハハ!! 雨々ふれふれー!!」

 

 着弾と同時に炸裂する水晶は、捜査官達を時として八つ裂きにし、時として激しい出血を与える事で戦場から遠ざける。

 

 その上、バァルが持つ『アブラガマ』による炎の雨、チャッキーによる水晶砲弾の雨、ランサーによる槍の雨が降り、しかも地上では人工喰種の失敗作『カセット』による自爆攻撃の嵐が巻き起こる。

 

「誰がどのくらい倒せたのか分からないや。殆どの捜査官(ハト)が死んじゃったから……なら、お姉ちゃんのためにもっともーっと恵みの雨を降らせちゃうんだから!」

 

 その後も水晶の雨を降らせていくが、多くの捜査官達が最初の一斉攻撃で退場しているため、残っている捜査官達の殆どはベテランだ。その上、対リオ用とも言わんばかりに大盾のような傘型クインケを所有している捜査官が殆どであるため、捜査官(いきのこり)達は退場する事無く戦線に立っていた。

 

「むぅ……あんまり効果が無いのかな?」

 

『こちらバァル。なんかこっちに向かってきてる連中が居るみたいだから、ビルの中で迎え撃つわ。アブラガマの支援は一旦ストップだからよろしくね』

『こちらランサー。なら一度仕切り直しましょうか。フレディは一旦姿を隠し、アタクシの合図を待ちなさいな。チャッキーも砲撃中止。そのまま合図があるまで屋上で待機』

 

 ロウの指示に従いリオは攻撃を中断。戦場からやや離れた場所へ着陸する。

 

「もしもしお姉ちゃん? 最初の一斉攻撃でかなりの数を減らしたよ。そっちの状況はどう?」

『はーい、こっちの準備はもうすぐ終わるから、ちょっと待っててねー? ろーちゃんも聞こえてるかな? 先に子供と老人のカセット使ってみてー』

『分かりましたわ! カセット第二部隊、武器を持った人間へ突撃なさい!』

 

 

 子供と老人で混成された人工喰種部隊が捜査官へ突撃する。第二部隊はあえてマスクを付けていない。それはこの戦場で使い捨てる気でいるのは勿論だが、『本来守るべきハズの人間が無表情で襲いかかってくる』というシチュエーションを捜査官達にぶつけるためだ。

 

 事実、捜査官達はカセット達の殺害に躊躇するものが出始め、捜査官達はますます数を減らしていく。

 

『フレディ、チャッキー。攻撃を開始しますわ! 目標は『有馬貴将』! アタクシ達で一気に敵の屋台骨を砕きますわよ!!』

 

 有馬を見つけていたロウは、一直線へ有馬へと疾駆する。

 

 そんなロウの後を追うかの様に、リオとキジマによる水晶の嵐が吹き荒れ、捜査官達は少しずつ死んでいく。

 

 

 リオはこの戦場で唯一の航空戦力。通常のクインケでは届かない程の高みに浮かび、安全地帯から一方的な攻撃を行うため、捜査官達にとってランサーや爆発する人工喰種をも上回る脅威であった。

 

─────ゆえに、そんなリオには遠距離攻撃のスペシャリスト達が対応する。

 

「うぐっ……」

 

 突如空中でリオは体勢を崩す。自身のRc細胞の制御が脆くなり、赫者の姿が不安定にブレる。

 

「もしかして、これがRc抑制弾? アハハハハ! 確かに厄介なのかもしれないけど……」

 

 リオは全身を巡るRc細胞を強引に活性化させる。すると不安定だった赫者の姿は安定し、リオは再び空を優雅に舞う。

 

「僕もお姉ちゃんみたいに、すぐ治せる」

 

 Rc細胞を無理矢理活性化させることによる『Rc抑制剤の即時無効化』……リオやカオリを始めとした15区のSSS級喰種は問題無く実行できる事だが、通常の喰種ではこうはならない。

 勿論、Rc抑制剤を打たれて少し時間が経った頃なら、同じ様な事をできる喰種もいる。

 事実、カネキはかつてジェイソンによってRc抑制剤を定期的に打たれ、1ヶ月に及ぶ拷問を受けていたが、追加のRc抑制剤が打たれる寸前に、今のリオと同じ方法でRc抑制剤を打ち破り、ジェイソンを倒した。

 

 だが、リオはさらにその上を行っている。撃ち込まれたCRc狙撃弾は数秒の足止めにしかならず、リオは再び水晶の雨を降らせていく。

 

 

─────そんなリオへCRc狙撃弾を撃ち込んだ捜査官『安浦清子(アウラきよこ)』は、苦い表情で見つめていた。

 

「数秒しか効果が無いなんて……佐々木一等とはまさに次元が違うのね……」

 

 安浦は喰種対策一課の課長の立場にある特等捜査官である。対策一課の課長とは実働部隊のトップであり、二課のトップである丸手と肩を並べる役職だ。

 安浦は最近の政府が突如打ち出した『女性管理職の促進』による昇進……ではなく、名だたる男性捜査官(ゴリラたち)を押しのけ、実力で一課の課長に登り詰めた実力者であり、羽赫のクインケによる狙撃で数多くの喰種を屠ってきた。

 その実力は殉職したかつての友から『おっぱいのついたゴルゴ』と言わしめる程に高い。

 

 だが、そんな安浦の正確無比な狙撃すら、リオはモノともしない。

 

 本来なら赫包が損傷した場合、赫子を使うどころか安定したRc細胞の循環による回復すらままならない。

 

 だが、赫子二種持ち……いわばカオリやマユ、ヒナミのような喰種は、片側の赫包が全損したとしても、もう片方の赫包に負荷をかけることで、多少の効率は落ちれど回復を続行できる。

 つまり、双方の赫包を機能停止させなければ、二種持ちの喰種を倒すことはできない。

 

 赫子を二種類持っているだけでこれほど厄介であるにも拘らず、リオはそれを超えた『赫子四種持ち』だ。四種の赫包全てを破壊せねばリオは止まらない。

 その上、リオには通常の喰種よりも頑強な赫者の鎧、鱗赫由来の驚異的な再生スピード、近接不可の飛翔形態といった特性も持ち合わせている……そんなリオに対応できる武器は、現状殆ど無いと言って良いだろう。

 

 だが極一部……遠距離攻撃かつ高出力の遠距離武器は存在する……!

 

「ハイアァァァァ……マ─────インドッ!!!」

 

 特等捜査官の『田中丸望元(モーガン)』が所有する羽赫のクインケ『高次精神次元(ハイアーマインド)もしくは天使の羽ばたき(エンジェルビート)』略して『ハイアーマインド』から、リオ目掛けて極大のレーザーが射出された。

 

 ハイアーマインドは非常に珍しいレーザービームを射出するクインケであり、その威力は極めて高い上に『熱線』である。

 つまり、カオリにダメージを与えることのできるクインケだ。

 

 しかし、リオ相手にはそうでもない。リオは水色(甲赫)の爪を変形させ、プリズム状に煌めく大盾を生成する。

 モーガンの放ったレーザーはプリズムの大盾に呑み込まれ、拡散し消えていった……。

 

「小癪……ッ! ならばキジマボーイから勝手に借りたコレを受けてみよ!!」

 

 モーガンはCRc狙撃銃を構え、リオ目掛けて放つ。だが、モーガンの放った銃弾はプリズムの盾を砕くのみに留まり、リオの体に届くことはない。

 

「今のもRc抑制弾……? 狙撃手二人、みつけた! フレディより各員へ。CRc狙撃銃は特等捜査官の『安浦清子』と『田中丸望元』が現在所持しています。今は僕とチャッキーさんに狙いが行ってますが、いつ狙いが変わるかは分かりません。なるべく僕達が引き受ける様にしますが、今から狙撃手の場所を攻撃しますので、みなさん場所を把握しておいてください」

 

 リオは通常の水晶弾よりも大きな水晶を生成し、狙撃手二人に向けて射出する。

 

 なお、リオが捜査官達の名前を知っている理由は、自宅のパソコンに『アマンダ&チャッキー作・強い捜査官、厄介な捜査官一覧』というデータファイルがあるからだ。

 

 水晶の雨が狙撃手二人に降り注ぐ。だが二人は特等捜査官だ。今回の作戦のために作られ、支給された甲赫のクインケ『パラソル』を素早く展開し、羽赫の雨から身を守る。

 

 だが、ただ守っているだけではジリ貧だ。二人はリオの射線から逃れるようにして、ビルの隙間へと入っていった。

 

「うーん、ビルの影に隠れちゃったか……他の人たちみたいに高速道路上にいるならやりやすかったんだけどなぁ……」

 

 

 リオは再び有馬へ向け雨を降らす。

 その間、ビルの影を進んでいたモーガンは『チャッキー』を狙撃できる地点へ進んでいた。

 

 

「ンン、レディ清子。こちらビルの上にいる喰種を狙える場所に出ました。これよりビルの上にいる『チャッキー』なる喰種を狙撃してみせましょう!」

『お願いします。こちらは再びフレディを狙える場所に出ました。そっちは任せましたよ』

 

 

 モーガンはキジマを、安浦はリオを狙う。だが、リオは撃たれてもすぐに治り、キジマはビルの影へ隠れながら砲撃を続ける。

 

「ンン……どうやらこちらに気付いているようだ……なれば!」

 

 CRc狙撃銃ではビルの外壁を貫通させる事はできない。ならば貫通できる武器に切り替えれば良いだけのこと。

 

「ハイアァァァァ……しまった、ビルの中には宇井ボーイ達が居たのであったな」

 

 だが、射撃直前でモーガンは思い出した。このビルの中では宇井達が戦っている事を……。

 

「ンン、ボーイズ&ガールズ! ビルの上にいる喰種は死角に逃げられたせいで打つ手無し……レディ清子を援護する!」

『フレディにCRc狙撃弾は当たってるだけど、すぐに復活するみたい……助かります。二人がかりならフレディを止められるかも』

 

 だが、他の部隊から『他とは赫子や挙動の違う7体の喰種がいる』という通信が入ったとき、モーガンはふと思った。

 

─────フレディよりも、その喰種達を狙うべきではないか……と。

 

 モーガンはスコープを覗く。少しの間探していると、法寺が他とは違う赫子を使う喰種達と戦っている場面を発見した。

 

「法寺ボーイがピンチのようだな!」

 

 おそらくリーダーと思わしき喰種めがけ、モーガンは引き金を引く。

 

「ヒットォ! ……だがリーダーではなかったようだ」

 

 赫包の位置を撃ち抜かれた喰種は、崩れ落ちる様に死んだ。だが、他の喰種が指揮を執っており、混乱は見られない。

 

「ならば何度でも撃ち抜くのみ」

 

 他の捜査官に当たらないよう細心の注意を払いつつ、照準を合わせていき……。

 

─────リーダーと思わしき尾赫の女喰種のこめかみを撃ち抜いた。

 

「ノォン! またしても他の喰種が!! ……まさかリーダーの順番を決めているのか……!?」

 

 だが、またしても他の喰種が指揮をとる。その様子に、リーダーを殺し損ねているのではなく、リーダーが死んだ場合に備え、次のリーダーが決められている事をモーガンは理解した。

 

「しかし! 多くても第三候補までだろう……ならば!」

 

 モーガンは再びスコープを覗く。指揮を執っている様に見えるのは、甲赫の女と背の高い羽赫の女……甲赫の女は法寺に近いため、誤射が危ない。よって、モーガンは羽赫の女目掛けて再び引き金を引いた。

 

「グッドボーイ! 敵は統制を失った!!」

 

 法寺が甲赫の女を殺し、モーガンが羽赫の一体を殺す。すると残った尾赫の二人組は逃げ出し、羽赫の片割れは無謀にも法寺へ突っ込んでいく。モーガンは自身の貢献具合にニヤリと笑うが……。

 

『おい! フレディを止めろって言っただろぉが!! クインケ鋼奪われ始めてんだ早くしろォ!!』

 

 通信機の向こうから、丸手がモーガンを怒鳴りつけていた。

 

──────────

 

 双子の女喰種『6号』と『7号』は、大柄で筋肉質な女捜査官『五里美郷(ごりミサト)』を目掛けて走っていた。

 

「作戦は」

「通常Aで」

 

 ほぼ同一の動きで迫り来る二人の喰種。その光景に、ミサトはかつての11区戦を思い出す。

 

「あの時の亜門鋼太朗と同じ状況か……ならば!」

 

 いつの間にか空からの攻撃が来ていない事に気付いたミサトは、今まで盾として使っていた『大剣型クインケ』を中段で構える。

 

 亜門はかつての11区戦で、アオギリ幹部の『瓶兄弟(しっぽブラザーズ)』という喰種を討伐した。その時に使っていたクインケこそ、現在ミサトが所有する甲赫のクインケ『クラ』である。

 

「コンビネーションの得意な喰種のやることは、おおよそ『あの時』と同じハズだ……」

 

 ミサトはクラを構えたまま、静かにその場で待つ。

 

(片方が攻撃を受け流し、もう片方が攻撃を仕掛けるか……まさにあのときと同じ!)

 

 双子喰種は二手に分かれ、ミサトの挟撃にかかる。ミサトの武器が大剣型のクインケだからそうしたのだろう。

 

 しかし、そう思わせる事こそがこの武器の真骨頂……!

 

─────()()()()()()がついた『クラ』は、中心から真っ二つに分離し、双子喰種を等しく切り裂く。

 

「なっ!」

「剣が裂けた!」

「残念だがこれは双剣……ぅぐっ!?」

 

 だが、一撃で倒すことはできなかった。

 

 それは亜門よりもミサトの方が筋力が低かったこともあるが、それ以上に双子喰種は瓶兄弟よりも強い喰種だったことにある。

 

 双子喰種はミサトに斬られながらも、ミサトの腹部と足へ攻撃をしかけていた。

 

 ミサトは双子喰種から受けたダメージにより血を流し、膝をつく。

 

「やられた……まさかのギミッククインケ」

「大丈夫……傷は赫包に届いていない」

 

 片や双子喰種は即座に傷を修復し、体勢を立て直す。

 それはミサトにとって絶体絶命のピンチだが……。

 

「トドメは……やめとこう」

「うん、行こう」

 

 双子喰種はミサトの横を通り抜け、高速道路から飛び降りる。ここでミサトを倒そうとすれば、逆に自分達がやられると判断し、追撃することなく逃走を選んだ。

 それを示すように、ミサトの元には一人の捜査官が駆け寄っていた。

 

「さっき近付いてきたあのハトは資料にあった」

「7区の富良……危険度は未知数。アレの相手は私達二人じゃ少しつらいかもしれない」

 

 その男、7区担当上等捜査官の『富良大志(ふらたいし)』。ニムラの作った『強い捜査官の一覧』に載っていた男だ。

 

 先程までは富良よりも上位の強さを持つ『法寺』と交戦していた二人だが、それは5人の仲間と大勢の部下や人工喰種(たまよけ)が居たからだ。

 仲間が死んだ今、法寺よりも劣る相手だとしても、勝てる可能性は少ない。

 

 そして何より、一覧に載ってすらいない女捜査官に傷を付けられた。その事実は双子の自信を大きく失わせる事になり。そんな中で一覧に載っている捜査官と戦うなどできなかったのだ。

 

 




 C R c 狙 撃 銃 無 双 
それ故の本数制限。

■富良さんって強いの?
・高校時代にクインケすら無い状態で『ヤモリ』と交戦し、無傷で生還。
・有馬さんの手によって既に死にかけの相手だったとはいえ、13区の主『ランタン』にトドメを刺す。
・若くして上等捜査官。CCG期待のホープにしてスピード昇進組だった亜門さんより、富良さんはちょっとだけ年上。つまり亜門さんと同じくスピード昇進コースを歩んでるくらいには有能。

なお、素手の状態でヤモリから逃げ延びる、ランタンを倒すといった戦歴は有馬さんによる棚ボタ功績ですが、カオリ達は富良さん単独でやったと思っているため、少し警戒されている。

原作では有馬などの白日庭組、ジューゾー、アキラ、ハイセといった異常な速度で昇進するヤバい人々で埋もれがちですが、富良さんも凄いんですよっ!
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