花屋喰種   作:みぞれアイス

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Re:第25話 Grim Embrace

 夕刻、S1班だけでなくS2・S3班も含めたCCGの主力達が21区にある月山邸を取り囲んでいた。

 

 だが、レザーフェイスへ最も有効な武器『ハイアーマインド』を持つモーガンや、遠距離武器のエキスパートたる安浦清子はこの場にいない。彼等は彼等の部下と共に、コクリアの守りについている。コクリアのSSS区画に安置されているロウの体を15区の喰種が奪還しにくる可能性があるからだ。それに伴い、キジマ班のCRc狙撃銃は安浦とモーガンが持っている。

 

「車が一台も無ェ……やっぱりどこかで情報が漏れてやがったな……だが数時間前に21区担当の奴がパトロールした時点では月山家に車があったのは確認済みだ。朝から検問も敷いてある。遠くには行ってないハズだ」

 

 こんな事なら張り込ませておけば良かったと丸手がぼやく。丸手はまたしても作戦の総司令部となっていた。

 

「……現在月山家が所有する物件のリストから逃走先を割り出しています。少々お待ちを」

 

 本来であれば作戦の総司令となっていた和修マツリは、ノートパソコンを片手に丸手へ告げる。今の彼は丸手を補佐する立場だ。

 

「任せた。さて……野郎共! 配置に着いたな! 突入しろォォオオオッ!!!」

 

 丸手の号令にあわせ、捜査官が月山邸になだれ込むが……。

 

「誰もいない……いや、なんだアレは!?」

 

 エントランスにあるのは人間サイズの花々。白い花弁の巨大な花がいくつも床から生えていた。

 

「マズい、グールイーターだ!! クインケ仕舞えッ!!」

「仕舞わなくて良い! 自立型グールイーターならクインケを仕舞わなくても襲ってくるぞ!!」

 

 24区の事を知っている捜査官の一人が慌てて指示を出し、クインケを収納させようとするが、別の捜査官が待ったをかけた。

 

 自立型グールイーターとは、根っこが虫やタコの如く蠢動しながら歩くグールイーターである。通常のグールイーターと同じ見た目をしているが、自立型グールイーターは人間も襲う。

 

 どちらか分からないその花に対し、少しずつ距離を詰める捜査官。そんな中、エントランスの奥から月山家党首『月山観母(ミルモ)』が姿を見せた。

 

「月山ミルモだな」

oui(ウィ)

 

 宇井の質問に対し、ミルモはゆっくりと頷く

 

「大人しく投降しろ」

「……我々は紳士でした。本来であれば抵抗せずに捕まる予定でしたよ……ですが事情が変わりました。少しばかりの抵抗をさせていただきます。貴方達には24区最深部付近で栽培されている新型グールイーター『マンドラゴラ』と戦っていただきましょう」

 

 ミルモはパチンと指を鳴らすと、白い花達が床から盛り上がり……自立する。

─────その根っこにあたる部分は、醜い赤ん坊の様なナニカが付いていた。

 

「24区深部の自立型グールイーターとは別物か……」

「ちなみにレディ・ソーヤーはマンドラゴラの事を『汚いピクミン』と呼んでいました。貴方達も好きなように呼べば良いでしょう。さて、奥には使用人がいます。調べれば分かるでしょうが、彼らも喰種です。我々は今から逃走しますが、無事に我々の下まで辿り着いたその時は、紳士淑女として大人しく捕縛されるとしましょう。ではこれにて失礼」

 

 ミルモが去ると同時、ミルモが去っていった扉以外の全てが開き、大量の『マンドラゴラ』がゾロゾロと入ってきた。

 

「なんて数だ……! だが数ならこっちの方が上だ!!」

 

 謎の生命体『マンドラゴラ』と捜査官の戦いが、今始まる……!

 

 

──────────

 

 マンドラゴラ達は頭頂部から根のようなナニカを生やし、捜査官達を貫かんとする。

 幾人かの捜査官は避けきれずに串刺しとなるが、ここに居るのは精鋭揃い。大半は難無く回避やクインケによる防御を行った。

 

「自立型グールイーターより威力が高い……俺達S3班が道を開く」

 

 ロウとの戦いから一年、傷の癒えた有馬は『IXA(イグザ)』と『ナルカミ』を携えながら言う。

 

『こちら丸手! 館内をサーモグラフィで見たが、喰種(クズ)共の数が少なすぎる! 恐らく大半のヤツらは8区にある月山グループ所有のビル『ルナ・エクリプス』へ集結している! 奴ら空路で逃げる気だ!! そっちにも何チームか向かわせろ!!』

 

 丸手とマツリはこの短時間の間に、月山家の逃走ルートを割り出していた。結果、3区にある『チャンドラクレスト』に逃げた可能性が2割。8区にある『ルナ・エクリプス』に逃げた可能性が7割。その他が1割。ほぼルナ・エクリプスに逃げたと考えて良いだろう。

 

「有馬特等、自分達は残りますか?」

 

 宇井が問う。グールイーターと同じ特性を持つのなら、炎や氷属性のクインケが有効だ。だが炎属性のクインケは去年の戦いで『ハイアーマインド』以外の全てが失われ、氷属性の残存クインケは、宇井の持つ『タルヒ』以外に無い。

 

「いや、S1は逃げた月山家関係者を追って貰う。任せて良いか?」

「分かりました。でも15区の喰種が出たなら戻ってきますからね! S1総員、8区へ移動ッ!!」

 

 宇井達が駆け出すと同時、マンドラゴラ達が宇井達へ根を伸ばす。

 しかし、伸ばした根は有馬のナルカミによって全て叩き落とされた。

 

「地下の自立型より強度があるな。"S-16"」

 

 有馬の号令と共に、S3班は速やかに陣形を整えマンドラゴラ達へ一斉射撃。脳天のような箇所を撃ち抜かれたマンドラゴラ達は、べしゃりと融解した。

 

「"5"」

 

 近接武器持ちの捜査官達が斬り込む。だが、高火力型の甲赫や尾赫のクインケを持っていた捜査官はマンドラゴラを切り裂くも、鱗赫や火力が低めのクインケを持っていた捜査官達はマンドラゴラを弾き飛ばすだけに終わる。

 

「……尾赫か。鱗赫持ちは羽赫のQバレットに持ち替えて攻撃」

 

 羽赫のQバレットが乱れ飛び、マンドラゴラ達を貫いていく。だがクインケに比べて火力の劣るQバレットでは、マンドラゴラ達の動きを止めるには至らない。

 それでも、撃ち抜けば敵の動きは鈍る。何発も当て続ければいずれは死ぬ。攻撃を止める理由は無かった。

 

 

 また、この場にはS2班も居る。S3班ほどの駆逐速度は無くとも、少しずつ戦線を押し上げていた。

 そんな中、一人だけ突出した活躍をみせる者の姿が映る。

 

「今までのジェイソンだったらダメだったかもしれませんねぇ。ラボの皆さんには感謝です」

 

 それは最年少で特等捜査官に登りつめたジューゾーの姿。彼は()()()()()()()()()()()()()()()()を振るい、敵を叩き割っていた。

 

──────────

 

 ロゼ殲滅作戦より少し前、ジューゾーはCCGのラボ区画に足を運んでいた。

 

「今のクインケにビッグマダムの赫子を組み合わせたい?」

 

 CCGラボの最高責任者『地行(ちぎょう)』はジューゾーに聞き返す。

 

「はい。有馬特等の様に武器を持ち替えるよりも、一つの武器で色々な役割を持てる武器が欲しいです。こんなのはどうです?」

 

 ジューゾーはあるアイディアを告げる。

 

「うーん、なるほどね。鈴屋っちは運が良い。ちょっと前に旧多(ふるた)っちからツナギ改二とパラソル改二の詳細を貰ってるから、それを流用して鈴屋っちの望む改造ができるよ」

 

 地行は快く承諾した。だがジューゾーの脳裏に、ふと疑問が浮かぶ。

 

「クインケ鋼、足りますですか?」

「いんや、足りてないね。でも鈴屋っちには特別対応さ。ここだけの話、鈴屋っちの武器は最優先で対応するよう言われてるからね」

 

 ジューゾーは自分が特等捜査官だからだろうかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

「……鈴屋っち。お偉方は鈴屋っちが切り札だと期待してるのさ。キジマ班でも真戸班でも有馬特等でもなくてね」

 

 切り札。その言葉にジューゾーは首を傾げた。自分なんかよりも有馬の方が強いハズ。

 

「有馬特等はランサーに負わされた傷の後遺症が酷くて、以前と比べてかなり弱ってる。でもキジマ班はお偉方に嫌われてるというか警戒されてるっぽいんだよねぇ。そこで白羽の矢が鈴屋っちにズドンというワケ」

 

 今でも有馬は他の追随を許さぬほど高度な動きをするが、その動きが以前と比べて見劣りしているのはジューゾーも理解している。

 

「有馬特等じゃ恐らくレザーフェイスにはもう勝てない。キジマ班に全てを任せたくない。期待の真戸班(クインクス)はまだ弱い。だから僕達ラボメンは鈴屋っちに最強の武具を与えるのさ」

 

──────────

 

「『13'sジェイソン:モード・パメラ』……鱗赫のジェイソンじゃダメでも、ママの一撃ならこの変な生き物も一撃ですねぇ」

 

 並の甲赫よりも重厚で、一撃の破壊力に特化したビッグマダムの尾赫。そんな赫子で作られた斧は、マンドラゴラ達を一撃で刈り取っていた。

 

 ジューゾーの活躍に応えるようにして、ジューゾーの部下達も奮起する。一人では倒せなくとも、複数人で同時に対処すれば倒せなくもない。

 

 

 だが……。

 

 

「くっ……キリがありませんね、鈴屋さん」

「この半兵衛、徐々に疲労が……」

 

 あまりにもマンドラゴラが多すぎる。雲霞の如く床下から現れ続ける異形の群れに、捜査官達の間に疲労が溜まっていく。

 

 そして、ついに捜査官の一人がしびれを切らした。

 

「だあああああ! こんな堅い敵にチマチマやってられるか!! CRcガスを使って一気に殲滅するしかねぇだろうがよぉ!! ガス投入すっぞ! 白日庭の連中はすっこんでろ!!」

 

『白日庭の出身者は育成課程で使用した筋力増強剤のせいでCRcガスにアレルギー反応があるため、共同捜査の時は使用を控えるように』と通達があろうと知ったことではない。そもそも一般公募で入局した叩き上げの捜査官にとって、白日庭出身者の過剰なまでの優遇は気に入らないのだ。

 

「待て、ここは俺達S3で突破できる」

「その前にこっちが全滅しかねないんですよねぇッ!! 有馬特等達は下がっていただきましょうか!! お前等!!CRcガス投擲開始!!投げまくれええええ!!!」

 

 次々とCRcガスの缶が宙を飛び、マンドラゴラ達を燻していく。マンドラゴラの頭頂部に咲いた花は(しお)れ、根のような赫子の攻撃も止まった。

 

「今だぁぁッ!! 撃ちまくれッ!!! 斬りまくれぇぇッ!!!!」

 

 岩かと見紛う程であったマンドラゴラの表皮は多量のCRcガスの影響で脆くなり、あっさりと斬られ、撃ち抜かれ、弾け飛んでいく。

 

 ここに大勢は決した。逃げ遅れたS3班の白日庭出身者が、有馬を含め膝を着いているが、優れた科学力の前には個人の力量など関係無いと言わんばかりの勝利であった。

 

 マンドラゴラを全滅させた捜査官はミルモを追いかけるが、既にミルモや使用人の姿はどこにもなかった。

 

 月山邸の庭園跡地には丸ごとくり抜かれたような大穴が空いており、ここから地下(24区)に逃げたと思われるが、今から24区入りするほど余裕の残っている捜査官はおらず、8区のルナ・エクリプスに増援として向かうことにした。

 

──────────

 

 先行してルナ・エクリプスへ向かっていたS1班は、到着すると同時に建物内へと突入していく。

 

 だが入り口で待ちかまえていたのは……。

 

「こんばんは、捜査官の皆さん」

 

─────15区の喰種『フレディ』だった。

 

「まずは挨拶代わりの一撃をどうぞ」

「総員防御ッ!!」

 

 先制攻撃の如く放たれたフレディの羽赫。炸裂する水晶の雨が捜査官達に降り注ぐ。

 

 咄嗟に『パラソル』を始めとした防御型クインケを展開できた者達は水晶の雨を防ぐ事ができたものの、間に合わなかった者や水晶の跳弾に抉られる者が多数発生。開始早々死傷者を出してしまった。

 

「キジマさん達やクインクスは未だ来ていないのですね……彼らを負傷に出来れば良かったのですが残念です。でも、ひとまず足止めは成功と言うことにします。さようなら」

 

 言うだけ言ってフレディはエレベーターに乗り込み、上の階へ向かっていった。

 

「一旦大勢を立て直す! 重傷者を外へ!!」

 

 15区の喰種が出張ってくるなら、キジマ班を待った方が良い。宇井はまず全員揃ってから再突撃する事にした。




 そ し て 食 べ ら れ る 

・マンドラゴラ:竜遺児のカオリ版。
尾赫の体で構成されており、美味しさはカオリの匙加減で調整可能。
赫子生命体なので喰種が食べると強くなる。ただし表皮が堅くて食べづらい。

引っこ抜いても叫んだりしないし、あなただけについていったりもしない。


■原作との変更点
・S1だけでなくS2とS3も参加。
・ミルモが逃げる
・CRcガス大量配備
・モーガン(ハイアーマインド)と清子(ゼビス)の遠距離特等とその部下達はコクリアの守りについている。
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