花屋喰種   作:みぞれアイス

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Re:第27話 Superior Anatomy

 富良はマイロと対峙する。マイロは右腕に槍状の赫子を纏ったオーソドックスな甲赫型喰種のように見える。

 

「レートは分からねえが、甲赫か……鱗赫のクインケは持ってねえし、どっちを使うか……」

 

 富良の持つクインケは、甲赫の『シュタイナー』と尾赫の『ランタン』。甲赫に対してなら、どちらを使っても良いだろう。

 

「執事の実力を侮らない事だな……私は松前にも引けを取らんッ!!」

 

 マイロが富良目掛けて疾駆する。その速度は比較的速いが、昨年の戦いでのランサーやその仲間達の速度と比較すれば、余裕をもって対処できる速度だ。

 

「シュタイナーはフレディ用に温存しときたいから、コッチで行くか……頼むぞ三波(ランタン)っ!」

 

 富良はアタッシュケースから刀型のクインケを取り出し、一閃。

 マイロはその一太刀を自身の赫子で防ぐ。

 

 しかし……。

 

「残念だったな。そいつは囮だ」

 

─────刀から剃刀のような触手が生え、マイロの脳天を貫いた!

 

「ア……ガ……ッ!」

「よっし一丁上がり! 再生は……しなさそうだな」

 

 崩れ落ちるマイロの姿を確認し、富良はハイルへ加勢にむかう。

 

 

「──行かせないよ。富良上等」

 

 

「誰だッ!? ……っと危ねぇっ!」

 

 どこからか声が聞こえてきた刹那、床から赫子が突き出してきた。

 咄嗟に富良は避けるが、赫子は富良ではなく、マイロ目掛けて突き刺さっていく。

 

「……なんだ? 何が起きてやがる?」

 

 突き刺さった赫子は、ナニカを送り込むかのように脈動しており、それに併せてマイロの傷が塞がっていく。

 

「アガガ……コ、コロス……」

 

 謎の赫子が床下へと戻っていき、再びマイロが立ち上がった。だがその目には狂気が灯っており、とても正常な様子ではない。

 

「……第二ラウンドってワケか? 上等だコラ」

「ゥググ……ガァァァアアアッ!!」

 

 富良目掛けてマイロが跳ねる。だがその動きには赫子が伴っておらず、純粋な肉弾攻撃だ。

 

「ハッ! 単なる格闘なら有馬の方が速いんだよっ!」

 

 繰り出される右拳に合わせるようにしてランタンを一閃。マイロの右腕を切り落とす。だがマイロは怯むこと無く次は左腕を繰り出してくる。

 

(おせ)ぇ!」

 

 左腕も切り落とし、その刃は首へと迫る。マイロの首が飛び、崩れ落ち……。

 

─────否、マイロは急速に欠損部位を再生し、富良へ疾駆する。

 

「マジかよ!?」

 

 富良は咄嗟に距離を取る。先程まで富良の居た空間には(いばら)の様な赫子が伸びていた。

 

「コイツも茨型の甲赫か……松前って喰種といい、月山家の喰種ってのはどいつもこいつも同じタイプなのか?」

 

 

 

 

「─────違うよー。その赫子は私が埋め込んだ薔薇の種子。時限式で自壊しちゃうけど、富良上等は勝てるかなー?」

 

 富良が呟いた疑問は、曲がり角から帰ってきた。現れたのは黄色いエプロンの女。皮膚を貼り付けたホッケーマスクを被ったその喰種は……。

 

「……レザーフェイス」

「はーいレザーフェイスさんですよー。二人が勝てたら相手をしてあげる。そこのメイド長と自壊式執事さんは私の赫胞を埋め込んでるから、ちょっとは苦戦するかもねー?」

 

 レザーフェイスは手を出してこない。だがそれで安心できるはずもなく、否が応でも富良とハイルはレザーフェイスを注視せざるを得ない。

 

「キジマ特等! 6階渡り廊下でレザーフェイスと交戦中! 伊丙上等と二人じゃ無理だ! 至急応援求む!!」

『こちらキジマ、現在レザーフェイス型人工喰種の集団と交戦中のため、早急に片付けてそちらに向かう。しばし持ちこたえてくれ』

 

 レザーフェイスを視界に入れつつ、富良はマイロと斬り結ぶ。先程よりも速度もパワーも増しているため、レートで言えばS+あたりだろうか。とはいえ、富良にとっては普段戦う相手より若干強い程度。じわじわとマイロへ傷を与えていく。

 

「うーん、素質の無い喰種を強化しても、このくらいにしかならないかー。これならマンドラゴラ複数体を運用した方が楽かなー?」

 

 のんびり観戦していたレザーフェイスが呟く。そして……

 

「─────じゃ、富良上等とクソザコ執事さんはボッシュートになりまーす」

 

─────富良の足元にあった床が抜けた。

 

 富良は階下へと落下していく。その先には、ラフレシアの様な巨大花が咲いている。

 

「ランタン! 花をブチ抜けッ!」

 

 (ランタン)から触手が飛び出し、花へ向かう。だが、触手が花に刺さることはなく、固い音を響かせながら弾かれてしまう。

 

「……くっそ、こんな所で終わるのか俺は……っ!!」

 

 富良は呟きは誰にも聞かれることなく……花に飲み込まれていった。

 

 

──────────

 

「マイロ……」

 

 落ちていく富良と、レザーフェイスの赫子に捕食されるマイロを、松前は静かに見ていた。

 

 攻撃が止まった事で、ハイルは今の状況を分析する。

 

(レザーフェイス相手にナルカミレプリカ(T-human)鱗赫薙刀(アウズ)でどこまでやれる……? それ以前にこの女喰種もなんとかしなきゃならない……危機的状況……だけど……)

 

「それが燃えてくるってモンでしょや!!」

 

 素早く『T-human』を構え、引き金を引く。バチバチと音を立てながら、その電撃は松前へ。

 

「無駄です。羽赫の攻撃が甲赫の私に防げないとでも?」

 

 松前は甲赫の大盾を展開し、電撃を防ぐ。床まで伸びた大盾はアースの役割をしているのか、感電する様子は無さそうだ。

 

「でも盾で守らなきゃダメって事は、私の攻撃中は動けないって事でしょ! ならそこに活路がある!」

 

 T-humanは引き金を引き続けている限り、電撃のビームが流れ続ける。だが、その分反動も発生し続け、固定砲台となってしまう。

 

 だが、ハイルはその常識を覆すように、一歩前へ。

 

(キッツ……反動で体がバラバラになりそう……)

 

 T-humanを持つ左腕から全身へと、尋常ならざる負荷がかかる。痛みに(くじ)けそうになるが、更に一歩前へ。

 

「私の盾を封じつつ、その右手に持つ薙刀で接近戦をご所望ですか? ですが私の右腕にはイバラの槍があります。それに、そもそも私は分離赫子が使えることを忘れているようですね」

 

 松前は床から茨の赫子を生やす。

まきびしのように張り巡らされた棘は、踏めば靴を貫通しそうに見える。

 

 だが、ハイルは臆することなく茨の床を進んでいく。足裏からは血が滲み、痛みに顔は歪む。T-humanを構え続けている左腕が下がりそうになる……重量級薙刀であるアウズの重みに、心が挫けそうになる……それでもなお、ハイルは進み続けた。

 

「大した気合いですね。しかしながら喰種相手に接近戦は愚策です」

「ちょっと待ってー」

 

 松前は赫子の槍をハイルに向ける。だが、ここでレザーフェイスから待ったがかかった。

 

「松前さん、その子は『ジークドリーマー』と『ドレッジ』の素体にするから、心臓以外は傷付けないでね? 心臓もできれば残ってて欲しいけど、まぁドレッジの心臓は他の人のでも良いんだよねー」

 

 ジークドリーマーやドレッジというモノが何なのかは、ハイルも松前も分からない。だが、ロクでもない代物であろうことは想像できる。

 

「……心臓狙いなら、こうすれば無敵でしょ」

 

 ハイルは胸の位置にT-humanを持ってくる。赫子の槍で刺すためには電撃の中に槍を突き入れなければならず、それは松前の感電を意味する。

 

「それで勝ったつもりですか? そのナルカミもどき諸共貫くまでのことッ!」

 

 松前は赫子の槍を放つ。T-humanの電撃を浴び、バチバチと音を立て、髪の毛はボサボサになっていく。

 

「うぐぐ……なんのこれしきっ!」

 

 感電しながらも松前は槍を前へ。ついにT-humanへ届く……!

 

 

─────事はなかった。

 

「よっと」

 

 ハイルは槍が届く直前にT-humanをオフにし、後方へ飛び退く。

 

 そして、コートのポケットから一本の注射器を取り出した。

 

V(ヴィー)の人達からは、本当に危機が迫ったとき以外使うなって言われてますが、このままだと倒すのに時間かかりそうですし、倒した後もキジマ特等達が来るまでレザーフェイス相手に時間稼ぎしなきゃいけない現状、使わざるを得ませんよね?」

 

 その注射器の中身に、レザーフェイスは見覚えがあった。

 

「それは『あーるしー促進剤』だねー。半人間にも効くんだ?」

 

 ハイルは答えることなく、首筋に注射器を突き刺し、薬液を注ぎ込んでいく。

 

 レザーフェイスはそれを楽しそうに見つめ、松前は感電から立て直せておらず、足を震わせているため、それを止める者はいない。

 

「……ここからが本番でしょや!」

 

 ハイルは先程までとは比べ物にならない速度で翔ける。狙うは感電の影響で動きの鈍っている松前へ……!

 

「ぐっ……貴女はここで倒します!」

 

 松前は大盾を半身に構え、ガード突きの体勢へ移行する。

 

「せいっ!!」

 

 大盾目掛け、ハイルはアウズを一閃。ガキンと音を立てて大盾が松前の体から離れた。

 

「何という力……!? ですがお返しします!」

 

 松前はハイルの心臓目掛けて槍を放つ。だがハイルの心臓を貫く直前、ハイルは松前の槍側面に手を触れ、攻撃をいなす。

 

「なっ……!?」

「これで終わり」

 

 ハイルはアウズをまっすぐ振り下ろす。松前は頭をかち割られ、顔が左右に別れた。

 

「さて、次はレザーフェイスか……」

「あまいなー。松前さんが頭を割られた位で終わると思ったのかなー?」

 

 ハイルは松前を見る。そこには頭部の再生が行われている松前がいた。

 

「松前さんは特別だからねー。弱い喰種ばっかりな妖精さんチームの中で、唯一頭を欠損してもしなない喰種だよー! ……んー、今なら壊れかけの男装執事さんも頭再生できるかな?」

 

 とはいえ、レザーフェイスやフレディのように即時再生するわけでは無さそうだ。頭が再生している間は動けないのか、崩れ落ちたまま動く様子はない。

 

 ハイルは少しだけ逡巡(しゅんじゅん)する。ポケットの中にはRc抑制剤の注射が一本。Rc促進剤でドーピングされた体には、Rc抑制剤を打たなければ『Rc細胞過剰分泌症(ROS)』を発症したのちに体が内部崩壊し、死に至る。

 だが、今すぐ松前に使って首を()ねれば、松前は倒せる。

 

 

 

 ハイルは決断する。注射器を持って松前へ走り、再生途中の断面に注射器を突き刺した……!

 

「これで……本当に終わり!」

 

 松前の再生が止まった事を確認し、アウズで首を刎ねる。

 

 頭部は再生されることなく、松前は生命活動を停止した。

 

「おみごとー! でも薬、使っちゃったね? もう助からないねー?」

 

 レザーフェイスはパチパチと拍手を送る。隙だらけだ。

 

 ハイルはT-humanを構え、電撃を射出する。レザーフェイスは避けることなく直撃するが……。

 

「20区の時に青メガネが私に電気攻撃したの覚えてないのかなー? 草タイプに電気タイプはいまひとつなんだよねー。その薙刀で頑張るしかないよっ! 頑張れ頑張れー!」

 

 レザーフェイス、まったくの無傷……!

 

 続いてハイルはアウズを大きく振り上げ、レザーフェイスの頭に振り下ろす。

 

「お面壊れちゃうから、顔はやめてね?」

 

 レザーフェイスは腕でガードする。服が切れるのを嫌ったのか、腕には細い赫子が巻き付いている。

 

 ハイルのアウズは、腕に巻き付いた赫子に少しだけめり込んだものの、切ることはできなかった。

 

「ふむふむ。ジェイソンのクインケよりちょっと強いねー。でも足りないよ? 私の茎や根を突破したいなら、青メガネがクインケ鋼輸送作戦の時に使ってたあの刀くらいのを持ってこなきゃねー?」

 

 レザーフェイスが(わら)う。無意味だと。

 

「弱すぎだねー。だから……呪い(しゅくふく)をあげるね?」

 

 レザーフェイスから黒色の粉が舞う。恐らくロクなモノじゃない。

 しかし、逃げようとしたら、即座に捕まるだろう……ハイルは戦うしかない。

 

 空気中に黒い粉が充満していくと、ハイルは己の力が増していくのに気付く。それと同時に自身の残された時間が更に減っていくのに気付いた。

 

「血中のあーるしーが増えていくのを感じるかな? それは私から贈る呪いにして祝福。運が悪ければ『あーるしー細胞過剰分泌症』になるし、運が良ければ人工喰種になる毒の粉。半人間なら一時的に更なる力が得られるかもね?」

 

 毒が巡り、体の節々に(コブ)ができていくような感覚に陥る。息が苦しくなり、空気を求めるように更に毒を吸い込んでいく……。

 

「負けない……っ!」

 

 ハイルはアウズを強く握りしめ、全力でレザーフェイスに叩きつける。狙うは顔。せめて素顔だけでも見なくては報われない。

 

「顔狙いなのかなー? 素顔は見せてあげないよ?」

 

 またしてもレザーフェイスの腕が受け止める。先程よりも刃は食い込んだが、細い根の装甲を断ち切れない。

 

 このままでは間に合わない。体を(むしば)む毒が、ジワジワと思考能力を低下させていくのを感じる。

 

「ああ……ああああああッッ!!」

 

 ひたすら顔へ、顔へ。刃を振り下ろす。

 もはや時間稼ぎなんてどうでも良い。せめてレザーフェイスの顔を明かさなければ、無駄死にだ。

 

 V(ヴィー)に所属する数多の半人間達が挑み、無駄死にしていった怪物……花狂い・レザーフェイス。死んでいった奴等は弱かったからだと……有馬さんや私なら余裕でしょとかつてのハイルは笑っていた……。

 

「ふふふ、無駄無駄ァ! もっと頑張れー!」

 

 憧れの『IXA(イグザ)』がレザーフェイスの赫子から作られていると知ったとき、ハイルは今までに感じた事の無いほどのトキメキを感じていた。

 幼少期の頃のレザーフェイスの赫子でこれ程優れたクインケが作られるなら、今のレザーフェイスで作ったIXA(イグザ)は、どれほど私をトキメかせてくれるのだろうと……。

 

「あ゛ぁ……ごほっごほっ……」

 

─────なんだこの堅さは?

 

 20区の時のレザーフェイスとは、明らかに強さが違う。今のハイルはドーピングと毒の効果により、既に有馬を超えた強さになっている。

 

「ごほっ……ごほっ……な、なんで……斬れない……?」

 

 だが、細い赫子一本すら断ち切れないではないか。

 

「そっかそっか。きっと捜査官さん達は、20区戦の時の私を参照しているんだね? あの時の私と、その後の私では明確な差があるんだよー?」

 

 そう、レザーフェイス達は20区戦の少し前に、あるものを手に入れている。20区戦の時はその効果が猛威を振るう前だったが、今は違う。

 

「─────それはね、食事だよ」

 

 そう。食事なのだ。

 

「人工喰種の研究が進んだことで、私達は毎日美味しい人工喰種を食べる事ができるようになった。人工喰種に使われている赫胞(かくほう)は、私、ランサー、バァル、ペニーワイズ……かつては時間をかけて雑魚の赫胞を漁るか、14区(養殖場)の喰種を収穫するしかなかった。当然そこそこの強さしか得られない。それが今はどう? 毎日一定以上の強さを持つ人工喰種を、毎日三食食べられるようになった」

 

 そしてこの一年、月山グループをパシリにして、大量の人間を集めさせた。もちろんレザーフェイス達も自分達で人間を集めている。

 

 在庫はたくさん。美味しい人工喰種が食べ放題、強さは指数関数的に上がっていく。

 

「私達を放っておけば放っておくほど、強く、強くなっていく。その点、青メガネは運が良かったね。もしランサーと今年戦ってたら、青メガネはランサーに勝てなかっただろうし」

 

 ハイルの心にヒビが入っていく……去年の戦いでさえ、誰も手が出せなかった世界樹になったレザーフェイスが、果たして今年はどれほど強くなっているのか……。

 

「そして何より……」

 

 もうこれ以上聞きたくない。絶望が増すだけだ……。

 

「私もまた、喰種にして人工喰種になった」

 

 レザーフェイスから赫子が生えてくる。だが、それは肩甲骨と尾骶骨だけではない……。

 

 肩と腰からも赫子が生えてくる。

 

 それは、フレディの羽赫と、リゼの鱗赫……。

 

「私はフレディの力と、神代リゼの力も手に入れた。フレディの力は捜査官さんなら嫌というほど味わったよね? 神代ちゃんの力は……佐々木上等で分かってるだろうし、元々V(う゛ぃー)だった貴女ならもっと分かるよね?」

 

 無理だ。もはやこの化物を止めることなどできるわけがない。ハイルの心は折れた。アウズは手から滑り落ち、痛みが全身を蝕んでいる……。

 

「さようなら、伊丙上等。そしてようこそ、ドレッジ。体はジークドリーマーとして大事に使うからねー?」

 

 その声はハイルに届かなかった。ハイルは急性ROSを発症し、木のような姿に変わっていたからだ……。




 毎 日 三 食 
なんとなく分かってた人もいるみたいですが、20区戦の少し前から加速度的に強くなってます。
というか人間一人食べたら一ヶ月絶食できる喰種のくせに食い過ぎだぞ!

みんなのアイドル伊丙さんは、原作だとこれで終わりですが、本作ではまた出番が来るよっ!

ちなみに、既に竜や世界樹の研究が進んでいる15区陣営は、ROSを治療できます。伊丙さんの体はちゃんと無事に入手できます。

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