花屋喰種   作:みぞれアイス

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今回の題名はフランス語なんですが、携帯の機種によって読めなかったりします?大丈夫だと良いんですけど……。

6話にてナキの赫子を『尾赫』と書いていましたが、正しくは『甲赫』の間違いです。この場をもちまして訂正とお詫びを申し上げます。


第11話 Câblifère

「ねぇカネキ君、『トビズムカデ』って知ってる?」

 血と汚物のニオイが満ちる部屋の中、ヤモリは15センチほどのムカデをカネキに見せた。

 

「これ、日本では最大級のムカデでねぇ、毒を持ってるんだ。その毒は耐え難い激痛を伴うんだけど……これをキミの耳の中に入れても……良いよねェ?」

 

 ヤモリはゆっくりと、カネキの左耳へムカデを近付けていく。

 

「嫌だ……嫌……やめて……お願い……やめて下さい……! やめろ! やめて! 入れなっ……ア゛ッ゛!!」

 

 ブチブチと嫌な音を立てながら、ムカデはカネキの耳へと入っていく。

 カネキは白目をむき、急に動かなくなったが、数秒後カネキは狂ったように笑いだした。

 それは理性の崩壊する音、嗜虐性を掻き立てる敗者の叫喚。

 

「ヤッベェエエエ!! これも面白ェエエッ!! もう殺してェなぁッ!! 殺したい殺したい殺したいッ!! 殺しちゃおうっかな!? やめよっかなァ! 顔の皮ァ……剥いじゃおっかなァー!! ギャーッハッハッハッハッハ!!」

 

 二人の狂騒が、部屋中に響き渡っていた。

 

「殺せぇ……殺して……もう、殺して下さい……」

 しばらくして理性が戻ってきたのか、カネキはヤモリへ自らの死を願った。

 

「駄目だよォ? さぁカネキ君、キミの皮でまたマスクを作らないとネェ……!!」

 

 ヤモリは右手に持ったメスを、カネキの顔へと突き刺した。

 

──────────

 

「ウタくんが用意してくれた『アオギリの樹』構成員のマスク。そのレプリカだ。みんなにはこれをつけて忍び込んで貰う」

 

 芳村はカオリ以外の全員に、アオギリマスクを手渡した。それはドクロの模様が描かれた、簡素なマスクであった。

 

「ちょっといいすか? このマスク付けてると……あー、そのー、喰われません? あの人に」

 ニシキはカオリの方へ顔を向ける。カオリはヒナミと何やら話し込んでいるようだ。

 

「問題ないよ。カオリちゃんは特に嗅覚が特化した喰種でね。マスクをしててもニオイで分かる。このマスクをしたとて我々がアオギリの樹になるわけじゃないから安心して良いよ」

 

 芳村はマスクを渡し終えると、イトリから貰った地図を広げた。

 

 

■アオギリアジトの簡易地図

[離れ]

[5棟][6棟][7棟][8棟]

[1棟][2棟][3棟][4棟]

[──正面入口──]

 

 

「我々あんていくはまず裏手にある8棟を制圧するので、カオリちゃんは5棟側から入ってほしい。その後の行動は任せるけど、我々を巻き込むような攻撃はなるべくやめてほしい。じゃあみんな、11区へ行こう」

 

 

「ありがとうヒナミさん、いい名前を付けてくれて。お父さんとお母さん、いっぱい活躍させるからねー」

「う……うん……」

 カオリは笑顔でヒナミにお礼を述べているが、ヒナミは複雑そうな顔をしていた。

 

──────────

 

 四方が運転する車に揺られ、ここは11区、アオギリの樹アジトの5棟。

 カオリは単身ここに攻め込んでいた。

 

 カオリの服はグレーのスーツに白鳩を模したバッジ。それにフルフェイスのヘルメットを被ったスタイルである。

 更に『レザーフェイス』のマスクもしているが、ヘルメットの上からは見えない。ヘルメットの風防(シールド)にミラージュ加工がされているため、中のマスクは見えないのだ。

 

 そして、両手にはクインケ入りアタッシュケース。ヘルメットこそ違和感があるが、それは紛れもなく喰種捜査官『真戸呉緒』の格好であった。

 

 カオリ達が11区に着くと同時、CCGもまたここへ攻め込んだため、急遽着替えた形である。しかし、今日の捜査官達はスーツではなく特殊作戦服であり、この格好の捜査官はいなかった。どうみても不審人物である。

 

 

「おい! 『箱持ち』がいるぞ! だけど単騎だ、やっちまえ!」

 

 アオギリのメンバー達がカオリを発見すると、次々に銃を構える。なお『箱持ち』とは、クインケを持った捜査官の事である。

 

「もしかして『赫子弾(かぐねだん)』ですかー? それ、甲赫相手だと相性悪いんですよー?」

 

 カオリが赫子弾と呼ぶ銃弾は、正式には『Qバレット』という名前がついている。銃弾に赫子が込められており、これに撃たれると喰種は深い傷を負うが、防御に特化した甲赫にはダメージがあまり通らない。

 

「赫子弾程度なら当たっても無傷なんですけどねー。せっかくなら捜査官らしく戦いましょうかー! さぁ行きましょう、『ドクター』! 『ナース』!」

 

 カオリはアタッシュケースからクインケを起動する。右手のクインケは大きな蛇腹剣、名を『ドクター』。 かつて喰種向けの医者をしていた『笛口アサキ』から作られた鱗赫のクインケである。

 左手のクインケは虫の翅のような大盾、名を『ナース』。笛口アサキの妻『笛口リョーコ』から作られた甲赫のクインケである。

 

 カオリがこのクインケを使う事はヒナミに伝えてある。

「わたしじゃ扱えないし、捜査官に使われるくらいなら、お花屋さんが使って」

 と、快諾を得ており、クインケの名前もヒナミが考えたものだ。

 

 『大盾(ナース)』を展開して銃弾を防ぐ壁としつつ、『蛇腹剣(ドクター)』は縦横無尽に空を跳び、変則的な動きで敵を切り裂いていく。

 

「あらー? もう終わっちゃいましたかー? アオギリの樹も末端は大して強くないんですかねー。とりあえず……『いただきます』」

 

 右手のクインケから新たに『根っこのようなもの』が伸びる。左手のクインケからは『蔓のようなもの』が伸びる。

 端から見ればクインケの追加機能のように見えるが、それっぽく見せているだけで実際はカオリの赫子である。

 

 牙の生えた根と蔓が、喰種の死体をバリボリと貪っていく。食事はすぐに終わり、カオリは新たな食事を探して歩く。

 

「ここから南に『離れ』、西に『6棟』、北に『1棟』ですねー……。1棟には捜査官さんのニオイばっかりなので、見た目は偽装してますけどあんまり近寄りたくないですねー。とりあえず5棟(ここ)で食べ歩きながら、捜査官さん達が来る前に『離れ』の方へ行ってみましょうかー。作戦本部な気もしますし、美味しい人がいるかもしれませんねー?」

 

 カオリは手近な喰種達を『ドクター』で切り裂き、時には赫子で貫き、捕食していく。

 

 

 そして、ついにカオリは出会った。

 

 

「おやー? 濃厚な赫包(かくほう)のニオイですねー。少なくともヤクモちゃんよりは楽しめそうですねー! でも……あなた相手だとクインケは壊れちゃいそうですかねー? というよりもあなた、『24区の人』ですねー? 特徴的なニオイがしますよー」

 

 そこに現れたのは真っ白な面に口だけが描かれたマスクをつけた喰種。背格好からして男のように見える。

 

 カオリはこの喰種の名前を知らないが、この男は『ノロ』と呼ばれている喰種であり、かつて24区に住んでいた喰種である。

 

 24区とは、東京の地下深くに存在する巨大な迷宮であり、喰種達が住む喰種達のための場所である。24区は『Rc細胞壁』と呼ばれる壁で覆われており、その壁は硬い上に再生するため、適切な入り口以外から壁を壊して入ることは殆どできない。

 なおRc細胞壁は食べることができるが、想像を絶するほど固い上に、噛みしめるたびに猛烈な不味さが襲う。

 しかし、人間の居ない24区は食料事情が悪く、やむを得ずこのRc細胞壁を食べることがある。Rc細胞壁を多く捕食した喰種は、自身の肉もこのRc細胞壁に近いニオイや味わいとなる。

 

「あなたが相手なら私も本気で食事(あいて)をしたかったんですけど、ここは狭いですね……『甲赫の赫者』は無理ですし……『尾赫の赫者』で相手をしますよー!」

 

 カオリの全身は甲赫と尾赫で覆われていき、更にその上から『特殊な赫子を纏った尾赫』が包み込んでいく。

 

 特殊な赫子はカオリを一回りほど大きく包み込む。カオリの頭からは大きな白い花が咲き、頭部に成り代わっていく。

 

 頭部は大きな白い花、全身は蔓とも根とも呼べるような黒いモノで構成され、足のあった場所には無数の根が生え、密集した根が足の代わりになっていた。

 

 

「ふふふ……さァ、遊びましょう!」

 カオリは無数の尾赫(ねっこ)を伸ばし、ノロを串刺しにしていく。しかし、ノロは避けようともせず、針山へと変わった。

 

「あらー? どうして何にもしないんですかねー? 食べちゃいますよー!」

 

 根に牙が生え、ノロを貪っていく。カオリ自身も赫子に付着したノロの肉を少し味見し……苦い顔をした。

 

「ん゛ん! この科学的な味……やっぱり24区の人ですねぇー」

 

 文句を言いつつも捕食を止めないカオリ。ノロも流石に無抵抗ではマズいと思ったのか、()()()()赫子が吹き出し、カオリの尾赫(ねっこ)をはじき、拘束から離脱した。

 

 弾き飛ばされた根は、一部折れたり、欠けてしまっているものもあった。

 

「おおっ! 赫者状態の根っこを折るとは! 強いですねー。じゃあ甲赫(こっち)はどうでしょー?」

 

 手始めと言わんばかりに、1本の甲赫(ツル)が刃のように薄くなりノロに迫る。

 甲赫は他の赫子より速度が遅いが、重量級の赫子である。つまり、重い分尾赫よりも威力が高いのだ。

 

 ノロはヒラリと身をかわすが、カオリの出せる蔓は1本だけではない。次々と蔓の鞭は増えていく。ノロも全身から赫子を展開して迎撃するものの、少しずつノロは刻まれ始める。

 

 やがて躱しきれなくなり、ノロは上半身と下半身が真っ二つになった。

 

「あらー? 終わっちゃいましたかー? 案外呆気な……うぐっ!」

 

 ノロの()()()から無数の赫子が伸び、カオリの腹を貫いた。

 カオリを貫いたノロの赫子には牙が生えており、カオリの肉を捕食した。

 

 カオリは尾赫とはいえ赫者の装甲が突破された事と、下半身だけで攻撃してきたという事に驚きつつも、すぐさま下半身を甲赫で捕食した。

 

「痛たた……油断してました、まさかそっちから一撃貰うとは思いませんでしたよー。脳味噌の無い下半身が攻撃してきたのは予想外でしたねー。それにしても、あなたも『赫子で食べれる』人ですかー。親近感ですよー!」

 

 カオリに内包されている潤沢なRc細胞は、瞬く間に傷を再生させた。

 そして、上半身だけになったノロも、瞬く間に下半身を再生させていた。

 

「やっぱり再生持ちですかー! 何度でも食べれますねー。24区の人はあんまり美味しくないんですけどまぁ……その分赫包(かくほう)は充実してるんでしょうけどー……」

 

 カオリの心は『ヤクモちゃん(ヤモリ)』以来の瞬間再生する喰種(ごはん)がいるという喜びと、あまり美味しくない24区の喰種(ごはん)という哀しみが混ざり合った。

 

「ふふふ……美味しくなくても始めましょうかー! 喰って喰われる螺旋の食事を! さぁ、いただきま……なんですかこの音は?」

 ピピピ……ピピピ……と、目覚まし時計のような音がノロから鳴り響く。

 

 ノロは懐から時計を取り出し、音を止めた。そして時計を懐にしまうとカオリに背を向け、6棟のある方向へ走り去った。

 

「逃しませんよー! ……逃げちゃいましたかー」

 即座にカオリの尾赫が伸び、ノロの足を捕まえた。しかし、ノロは捕まった足を切り落とすと、足の遅いカオリでは追いつけない距離までノロは逃げてしまった。

 

 赫者化を解除したカオリは溜め息を一つ吐き、離れのある方向へと歩いていった。

 

「あ、服に穴あいてる! このスーツ結構したのにー! ……まぁいいや、お金なら困ってないし。それじゃ『離れ』に行こーっと」

 

──────────

 

「『この世全ての不利益は、当人の能力不足』。これを教えてくれたヤツは糞みたいな人間だったけどね、今では感謝してるんだ。カネキくん、キミは肉体面は勿論だけど、精神面も案外タフだよね……だから、ちょっと趣向を凝らしてみようと思うんだ。『母親と赤ん坊、どっちを殺したい』?」

 

 血と汚物のニオイが充満する部屋にて、ヤモリはカネキに問いかけた。

 

「え……選べません……」

「そうなの……? カネキ君が選ばないなら、僕が選んでも良いのかなぁ? それじゃあ、母親を殺すね」

 

 ヤモリは部屋の扉を開けると、縛り上げられた親子を部屋に放り込んだ。

 

「やめて下さい……私が死んだら誰がこの子を……お願いします……殺さないで……」

 母親は懸命に命乞いをするが、ヤモリはニンマリと嗤いながら、鱗赫を展開した。

 

「あぁ……やめろ……やめろおおおおおおお!!」

「キミが選ばなかったからァ! 母親は死ぬんだよォ!!」

 

 カネキの制止も虚しく、ヤモリは母親の首を刎ねた。首の無くなった母を見て、赤子は狂ったように泣き声を上げた。

 

「キミが赤ん坊を選んでいたら、母親は死ななかったのにねぇ」

「あぁ……酷い……あんまりだ……」

「でもね、実はこれだけじゃないんだ」 

「……え?」

 

 ヤモリは再び扉を開けると、二人の男女を部屋に放り込んだ。

 それは万丈の仲間であり、ヤモリの目を盗んでカネキを助け出そうとしていた人であった。

 

 カネキは全身が細かく痙攣し、冷や汗が吹き出した。

 

「助けが来るって希望を持っちゃった? こいつらに期待しちゃってた? 恩人だと思った? 僕が何の考えもなしに、わざわざ裏切り者をここの清掃員にすると思う? 全てはこの時のためさぁ……さぁカネキ君、本番だ。愛し合う男と女ァ! どっちを殺すか……選べぇ!!」

 

「はっ……はあっ……い、嫌だ……こんなの……シュウさん……ハルさん……」

「んで、どっち? 選ばないとどっちも殺すよ? 言い方変えよっか。どっちを……救いたい?」

 

 猿轡を付けられている二人は、言葉を話すことができない。しかし、その目は『自分を殺せ』『妻(夫)を助けろ』と語りかけていた。

 

「なんで……僕なんだ……なんで僕が選ばなくちゃいけないんだ……こんなの選べない!! これじゃあ……僕が殺すみたいじゃないか!」

 

 今までの人生において、流されるがままに、波風を立てないように生きてきたカネキにとって、この選択は何よりも彼の心を抉っていく。

 

「チッ……選べ! 選べェ! えーらーべーよォ!! 男、女!? 右、左!? さっさと選べよォ!!」

「選べるわけ……無いだろっ……殺すなら僕自身を殺してくれ……!!」

 

 カネキは選ぶことができない。ヤモリはカネキから離れると、泣き叫んでいた赤子の元へ歩いていく。

 

「カネキ君、さっき君は親子のどっちも選ばなかったよね。どっちも選ばないと……こうなるッ!」

 ヤモリは赤子の頭を踏み潰した。脳漿が弾け飛び、4人にべちゃりと付着する。

 

「あ……あぁ……どうして……お母さんを殺したのに……」

「君が選ばなかったからだよォ? さぁもう一度聞くよ。男と女、どっち?」

 カネキは嗚咽を漏らすばかりで、今もなお選ぶことはできない。

 

「そっか、それじゃあよーく見とけよ?」

 ヤモリは女の首を鷲掴みにし、高く持ち上げた。

「こっちかァ!? こっちでいいかァ!? 違う? そう? 選べよォ! 選べッ!!」

 

 女の首はミシミシと軋み、その喉からは苦悶の音が響き出した。

 

「ほら! 選べ選べ選べ選べェ!! さぁ、さぁさぁさぁ!!」

 女の猿轡から、血液混じりの唾液が吹き出し始めた。

 

 その時、縛られていた男の猿轡が少し緩んだ。

 

「早くオレを選べカネキさん!! このままではハルが死んでしまう!! オレを選べ!! オレを……カネキィィィィッ!! 早くしろォッ!」

「時間切れェェェェェ!!」

 ヤモリは女の首を握りつぶした。最愛の人を失った男は、怨嗟の慟哭を上げる。

 

「ぜーんぶお前のせい」

 ヤモリは男の首を鱗赫で刎ねた。4人の亡骸が部屋に横たわる。

 

「ほぉら、死体は君の前に並べておいてあげるよ。みーんなお前が選ばなかったから死んだ。お前が殺したんだよォ?」

 ヤモリはカネキを嗤いながら、部屋から出ていった。

 

 カネキはあまりのストレスに、髪の毛が白くなっていった。




 う わ ノ ロ さ ん 強 い 

今回のタイトルを日本語に訳すと『デンジュモク』です。
尾赫の赫者は、ポケモンに出てくるデンジュモクのウニ部分が白い花になっている感じです。

主人公はノロさんの味に散々文句を言っていますが、主人公も24区に一時期居たため、同じような味がします。


・赫者補足
尾赫の赫者(デンジュモク)→バランス型。それでも普通の喰種よりは足が遅い。狭い場所でも使える。船に例えるなら重巡洋艦。

甲赫の赫者(フシギバナ)→素早さを捨てた防御特化。ちょっと大きいので、狭い場所だと使えない。船に例えるなら戦艦。
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