花屋喰種   作:みぞれアイス

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Re:第28話 Coulrophobia

 ハイセを除く真戸斑(クインクス)と伊東斑は、ルナ・エクリプスの吹き抜けエリアに辿り着く。

 

 そこに待ち受けるのは、アオギリの喰種である『ノロ』だった。

 

 体を切断しても、首を刎ねても再生を繰り返すノロを相手に、伊東斑は道端(みちばた)一等捜査官と黒磐(くろいわ)一等捜査官を除き、全員が戦闘不能になってしまう。

 

「こちら伊東斑の道端一等! 現在真戸斑と共にアオギリの喰種『ノロ』と交戦中! 伊東斑で死者二名、班長の伊東が重篤! 至急医療班を要請する! 現在地は……」

 

 道端が通信をしている間もノロの攻撃は続く。苛烈な攻撃だが、全て真戸アキラが引き受けていた。

 

 かつてレザーフェイスが改造したキメラクインケ『フエグチ(ドクター)改』を構え、(はね)のような甲赫の盾でノロのどこまでも伸びる赫子を防ぎ、盾中央に付いた鱗赫の蛇腹剣でノロをズタズタに引き裂いていく。

 

 ノロは他の人間を減らそうと動くが、アキラがそれを防いでいる。だがアキラもまた、ノロを足止めするのに精一杯だ。

 

「真戸准特等がヘイトを引きつけてくれてる間に、俺達が何とかするしかねぇ。クインクス! お前らの中で一番火力を出せるヤツは誰だ?」

 

 道端が尋ねる。瓜江は才子を指差した。

 

米林(よねばやし)ですが、米林の赫子は連続使用できません。さっきノロ相手にもう使っているので、しばらくは休ませないと……」

 

 ライダー(マユ)との戦いでは大技を連発していた才子だが、あれはRc促進剤があってできたこと。普段は一発技を使ったら、しばらくの間チャージが必要なのだ……。

 

「Rc促進剤は持ってきています。誰かに使わせますか?(俺の『F(フレーム)4』でもいいぞ)」

 

 瓜江の提案に、道端は首を横に振る。

 

「ダメだ。ソイツは15区の喰種が出てきた時のためにとっておけ。幸いレザーフェイスはキジマ斑が対応中だが、フレディが見つかってない。もしかしたら大喰い(バァル)やペニーワイズもいるかもしれない。ラストエリクサー症候群になっちまうかもしれねぇが、今使うのはやめた方がいい」

 

 ならばどうする……アキラを援護しつつ、チマチマ削っていくしかないか? そう誰もが思っていたとき……。

 

「こ……こいつを使います!」

 

 シラズがアタッシュケースを展開した。

 

「シラズ一等、そいつは何だ?」

「『ナッツクラッカー』です。地行(ちぎょう)博士が言うには、現存するクインケの中で最も火力の高いクインケです……」

 

 シラズはマユを……否、生き物を自らの手で殺すという経験により、精神にダメージを負っていた。マユの死に際の一言が脳裏にこびりつき、ナッツクラッカーを見ると嘔吐してしまうほどのトラウマを抱えていた。

 

─────だが、伊東斑の仲間達が次々と死に、傷付いていく姿を見た今、トラウマが別のトラウマに書き換わり、ナッツクラッカーを使用する決心が付いた。

 

「馬鹿野郎! そんなもんがあったならさっさと使え!」

 

 道端の怒りはごもっともである。

 

「すみませんッ! 全部俺の心が弱かったせいです!! でも、俺はもう迷わねぇ!!」

 

 アタッシュケースの中には、ボウガンが入っていた。装填されているのは、杭のようなモノが一つ。

 

「一発限りの弾丸か?」

「いえ、この杭は撃った後拾って装填し直せばまた使えます」

 

 だが、戦闘中に射出した杭をわざわざ拾わせてくれる相手はいないだろう……実質一発限りの弾丸と言うことだ……。

 

「実質一発か……頼んだぞ、シラズ一等。准特等! シラズ一等が大技を使う! 距離を取ってください!!」

 

 アキラが素早く飛び退き、ノロとの距離が開く。

 

「─────行っけぇ!!」

 

 シラズがトリガーを引くと、とてつもない速度で杭が飛翔する。杭はノロに突き刺さり……。

 

─────杭が爆発と見紛うほどの大膨張を起こした。

 

 ノロは膨張するナッツクラッカーに巻き込まれ、木っ端微塵になる。

 

「なんつー威力だ。ノロが粉々になっ……待て! ヤツはまだ再生する気だ!!」

 

 粉々になった腰と思われるパーツを中心とし、肉片が集まっていく。粉々になってなお、まだ生きているようだ。

 

「……いや、よくやったシラズ。これでようやくRc抑制弾が使える」

 

 アキラはフエグチ改を仕舞い、CRc狙撃銃を構える。

 

 そして、引き金を引いた。

 

 弾着と同時にノロの再生が止まり、肉片が崩れ落ちていく。これでようやく戦いが終わる……。

 

 

 

─────事はなかった。床から突如銀色の蛇腹剣が生え、道端の体を貫く……!

 

「道端一等!!(ここで新手だと!?)」

 

 銀色の蛇腹剣が戻っていく。穴を一つ残して……。

 

─────その穴から、白い手がニュッと出てきた。そのまま穴のふちに手を添え、メリメリと穴を押し広げていく。

 

「ハァイ、クインクス。アオギリの喰種を倒せたようだな……おっと! いきなり手荒なご挨拶だ。同じアキラという名前同士、仲良くしようじゃないかセイバー?」

 

 ペニーワイズがひょこっと這い出してきた。すぐさまアキラは狙撃銃で狙い撃つが、ペニーワイズは素早く飛び上がり、それを避ける。

 

「生憎だが、生粋の喰種と友になる気は無いな」

 

「おーぅ、そいつは残念。なら代わりに風船をあげよう」

 

 ペニーワイズはどこからか風船を取り出し、アキラへ向けてゆっくり投げる。

 

 風船はゆっくりと浮かび上がり……。

 

─────まばゆい閃光と甲高い轟音が目と耳を貫いた。

 

「ぐぁ……ッ!!」

 

 風船の正体は閃光手榴弾だ。アキラ達は風船を視界に収めてしまったがために、視覚と聴覚が一時的に使えなるだけに留まらず、その衝撃によって意識を乱してしまった。

 

 鼻の利く瓜江は、ペニーワイズが周囲を動きまわっていることに気付いたが、攻撃してこない事を不思議に思う。

 

「セーフティがかかっているとはいえ、喰種の力を得ているんだ。セイバーと黒磐以外はそろそろ見えて聞こえるようになっただろう?」

 

 耳鳴りの中、ペニーワイズの声が聞こえる。視界も段々と見えるようになってきた。

 

「やってくれたな、ペニーワイズ……伊東斑を攫っていたのか」

 

 伊東斑のメンバーが、黒磐を除き殉職したメンバーを含めて居なくなっている。重症を負った伊東も、道端も居ない。

 ノロの死体もなくなっている。ペニーワイズが運び出してしまったようだ。

 

 それどころか……

 

CRc狙撃銃(チート武器)は壊させてもらったが、問題があったかな?」

 

 まだ朦朧としているアキラが持っているCRc狙撃銃の、前半分が削り取られていた。

 

「そっちの情報を()()()()()()()()。残りのCRc狙撃銃2つはコクリアにあるんだろう? ならここにCRc狙撃銃はもう無い。これでお前達は俺達をどうにかする手段が無くなったと言うわけだ。だが、俺は踊る愉快な道化師だからな。俺くらいなら倒せるかもしれないぞ?」

 

 ペニーワイズは余裕そうに笑う。

 

「どうして目眩まし中に俺達を狙わなかった?(ナメプか? ふざけやがって……)」

 

「お前達クインクスがどこまで15区にしがみ付くことができるかを、あの方は楽しみにしている。勿論俺も楽しみにしているぞ! セイバーはあの方のお気に入りだからな。まだ殺しはしない。黒磐武臣(くろいわたけおみ)には()()()()()()()()今後ちょっとした余興をして貰う予定でな。今殺しては楽しみが減ってしまうというわけだ」

 

 アキラとジューゾーはレザーフェイスのお気に入りだ。というのも、現状の喰種対策局(CCG)において、レザーフェイスのお眼鏡にかなったのがその二人しか居なかったというべきか……。

 

 黒磐はニムラ(アマンダ)プレゼンスのちょっとした楽しみに使う予定である。カオリは特段黒磐に思い入れは無いが、面白そうなので生かすことにしているのだ。

 

「というわけだ。さてクインクス、お前達の力を見せてみろ。負け犬(ルーザーズ)クラブッ!」

 

 ペニーワイズは銀の蛇腹剣を2本展開し、瓜江と才子に向けて放つ。

 

「どひゃあっ!? いきなりウチが狙われてる!!」

 

 才子は転がりながら何とか回避した。瓜江は赫子を盾のように構え、ガードを試みる。

 

「一等捜査官にもなって赫子の相性すら知らないのか? 甲赫は鱗赫に弱い」

 

 瓜江の赫子はあっさりと粉砕され、咄嗟に身をよじるも、脇腹を切り裂かれた。

 

「ぐっ……(ノロの攻撃にも耐えた俺の赫子が、こんなにあっさりだと!? なんて威力してやがる……!)」

 

 狙われていないシラズがロケット型の赫子を飛ばし、ムツキが尾赫で貫こうと接近する。

 

「ハッハ! ターミネーターと野獣蠍の赫子を使ってその程度か?」

 

 ロケットは着弾前に切り裂かれて爆散し、ムツキの赫子はペニーワイズを切り裂くが、即座に再生した。

 

「ふむ……先程のアオギリとの戦いを見させて貰ったが、赫子の強さは『仙人』>『あいさつ』>『ターミネーター』>『野獣』のようだな? だが『仙人』は赫子を使いこなせていない事から『ターミネーター』未満とも考えられそうだ……おーぅ、俺への有効打たる尾赫が一番弱いとは可哀想に。風船をあげよう」

 

 ペニーワイズは再び風船を取り出し、ムツキに向かってふんわりと投げる。

 

「シラズ! 風船を撃ち抜け!」

「任せろ!」

 

 シラズは風船目掛けてロケットを飛ばす。着弾直前にクインクス達は目をそらして耳を塞ぐが、今度の風船は普通の風船だったらしく、静かに破裂しただけであった。

 

「風船一つに怯えすぎだ。それに、俺から全員目を離したな? 俺が本気だったら、お前達は今全滅していたぞ」

 

 ペニーワイズはヤレヤレとジェスチャーをする。

 

「ナッツを使う! みんなペニーワイズを足止めできるか!?」

 

 シラズが問う。クインクスの赫子で有効打が無いなら、同じ15区の喰種を使えばいい。

 

「ほっほ! やめてくれカカシ、その術は俺に効く」

 

 ペニーワイズはふざけた言動をしているが、どうやらナッツクラッカーの攻撃は嫌みたいだ。勝機はそこだとシラズ達は確信した。

 

六月(ムツキ)米林(よねばやし)。俺達三人でヤツの足を狙う。即再生するだろうが、一瞬でもヤツを止めればシラズがやってくれる。行くぞ!」

 

 瓜江とムツキは赫子を再展開。才子はハンマー型クインケ『ぼくさつ2号』を構え、ペニーワイズへ接近戦を仕掛ける。

 

「俺の体型が旧版のペニーワイズそっくりだからと言って、足が遅いと思ったか? 甘い、甘過ぎるぞジョージィ」

 

 ペニーワイズはその体に見合わぬ速度で駆ける。

 

You float too(お前も浮かび上がれ)!!」

 

 素早く才子に肉薄し、その鳩尾へアッパーを繰り出した。

 

「おごぶ……っ!?」

 

 血を吐きながら浮き上がる才子を横目に、続いてムツキへ。

 

「ペニーキック! ペニーキック!」

 

 素早くムツキへ二度蹴りを放ち、ムツキを吹っ飛ばす。

 

「サァーメっていいなッ!」

 

 二本の蛇腹剣を交差させ、まるで噛み付くかのように瓜江へ襲い掛かる。

 

 瓜江は受け流すように甲赫の盾を構え、飛来する蛇腹剣をいなす。ギャリギャリと音を立てながら赫子が削られていくが、何とか持ちこたえた。

 

 だが、赫子を防いでもペニーワイズ本体がフリーで動ける。ペニーワイズは瓜江の頭上へと飛び上がり……。

 

「ドナルドマジック!!」

 

 両腕を瓜江の頭に振り下ろした。

 

 才子はべしゃりと落下し、ムツキは壁に叩き付けられ、瓜江は床に突き刺さる。

 ペニーワイズの強さは圧倒的であった。

 

「弱い……弱すぎるぞルーザーズクラブ共……おっと、セイバーと黒磐が復帰したか!」

 

 飛来するフエグチの蛇腹剣を、自身の蛇腹剣で相殺する。アキラと黒磐はふらつきながらも、クインケをしっかり構えていた。

 

 黒磐も果敢に刀型のクインケ『ツナギ<hard>』でペニーワイズに斬り掛かるが、ツナギシリーズは尾赫とはいえどレートがCしかないクインケであり、ペニーワイズに有利な相性であるにも(かか)わらず、ぺしっと赫子で弾かれてしまった。

 

「……待たせた」

「……すまない。復帰まで時間がかかった。総員Rc促進剤の使用を許可する! だがフレームは3までだ!それ以上のフレーム解放は、今のお前達ではまた自我を失う」

 

 クインクス達はこの一年間の鍛錬で、フレーム3までならRc促進剤ありでも自我を保てるようになった。フレーム4になると自我が崩壊し始めるため、アキラはフレーム3までに留めるよう厳命する。

 

「ドーピングタイムか? なら待つとしよう。今のお前達でどこまでやれるのかは、俺もあの方も気にしているからな」

 

 ペニーワイズは踊り始めた。どうやら本当に待ってくれるようだ。

 

 4人はポケットからRc促進剤を取り出し、自らに注射していく。ノロとペニーワイズに負わされた傷は少しずつ治っていき、彼らは再び立ち上がる。

 

 ペニーワイズは踊りを止める。

 

「さぁ来いルーザーズクラブ。こちらもさっきよりはやる気になってやろう」

 

 ペニーワイズは更に二本の赫子を生やす。四本の蛇腹剣が、クインクス達目掛けて飛んでいく……!




 ふ ざ け す ぎ
久々の出番にウキウキサブカルクソクラウン

原作との相違点
・クインクスにアキラが同行。
・ナッツクラッカーがボウガン仕様にレベルアップ。強さもマシマシ。
・ナッツクラッカーでノロの超速再生をブチ抜いて粉々にする。
・伊東さん脱落。
・シラズがノロ戦で生存する。しかし……
・ノロの死体を持ち去られる。

小林も強くなってるよ!という回でした。

Q.黒磐武臣って誰だっけ? 
A.原作のオークション戦でガンボの首をへし折り、素手で喰種を殺した男として持て囃される青年。本作ではガンボがオークションに参加していないので、出番が無かった。その後もちょいちょい出てくるが、ほぼ空気なポジションになってしまう。
・尊敬できる父がいる。
・可愛い彼女(トーカちゃんの友達)がいる。
・高め合えるライバル(瓜江)がいる。
・頼れる上司(伊東さん)がいる。
ほら、ニムちゃんが遊びたくなる愉悦の種がたっぷりだね!
本作では出番が後半にたっぷりあるからね!楽しみにしててね!
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