カネキは人と喰種の境界線に立っていたが、長きに渡る拷問の末、その天秤は喰種側へと傾いていった。
「不味いな……まるで腐りきった魚のハラワタを食べてるような気分だ……」
カネキは血錆で脆くなっていた拘束椅子の鎖を引きちぎると、ヤモリの首筋に喰らいつき、その肉を食べていた。
「俺を喰った……だと……!? 殺す……殺す殺すコロスッ!! グッチャグチャに……殺スゥウウウ!! 喰い殺すッ!!」
ヤモリは半赫者化し、カネキに猛攻を加えるものの、傷は即座に再生した。
「ふふっ……今更そんなモノ、痛がると思う? 今度は……こっちの番」
カネキは腰から4本の鱗赫を展開し、ヤモリへ反撃を開始した。
「カネキィ……ッ! 馬鹿な……どこにそんな力がァ……ッ!?」
カネキの鱗赫はヤモリの半赫者化した鱗赫に拮抗……否、カネキが上回っていた。ヤモリの赫子はジリジリ削れていく……。
そして、ヤモリは床へと叩きつけられた。床には大きなクレーターができ、中央にヤモリが倒れ伏している。
「ぐっ……ぜぇ……はぁ……ッギャァァアアア!!!」
倒れているヤモリに、カネキは赫子を突き刺していく。
「1000引く、7は?」
「……ハ?」
ヤモリはカネキが言っていることの意味がわからなかった。答えないヤモリへ、カネキは次々に赫子を突き刺し、ヤモリの悲鳴は大きくなっていく。
「もう一度言うよ。1000引く7は?」
「ッグァアァァァァアアア!」
もはやカネキはヤモリの返答を待つことなく、赫子を刺し続けた。
「1000引く7は? 1000引く7は? 1000引く7は?」
ヤモリの脳裏に過去の光景が蘇る。それは悍ましい顔の捜査官……それは悍ましい花の化物……そしてそれは、カネキの姿と混ざりあった……。
「あぁ……あああああぁ!! きゅ、きゅうひゃく……きゅうじゅう……さん……! きゅうひゃく……は、はちじゅう……ろッギャアアアアアア!!!」
数を数え始めたヤモリだが、カネキは突き刺すのをやめない。
「ほら、声が小さくてなんて言ってるか分からないよ? だからもっと……腹から声出せ!」
「きゅうひゃくッ! はちじゅう! ろくッ!」
狂ったような大声で、ヤモリは数字を唱え続けた。
「ふふふ……僕にやった事……分かってるよね? なら……僕に喰われても……仕方ないよね?」
カネキは串刺しにしたヤモリへと、その顔を近付けていった。
──────────
ノロと戦った後に出会ったのは手頃なご飯ばかりであり、カオリはそれらをサクサク食べつつ、『離れ』へと到着した。
「うーん、なんかアオギリの作戦本部って感じじゃないですねー。さっきの人以外はロクに赫子すら出せない雑魚ばっかりですし……ひとまずご飯のニオイが沢山する方へ行きましょうかー」
カオリが気の向くまま進んだ先は牢屋であった。牢屋の中にいるうちの一人はどこかでみたような顔だ。
「ゲェッ! ハト!?」
「どこかで見たような……誰でしたっけ……? あ! あんていくに居た人ですねー」
そこにいたのは万丈。あんていくへリゼの危機を伝えに来た喰種である。
万丈という喰種をカオリは詳しくしらないため、『牢屋に居る=アオギリではない』と考えた。
「捜査官さんじゃありませんよー。覚えてませんかー? あんていくで出会ったレザーフェイスさんですよー?」
カオリは尾赫を展開し、ひらひらと振った。
「その赫子! アンタはあんていくでヤモリ達を圧倒してた人!! 頼む、この先にカネキがいて、ヤモリに拷問されているんだ! 助けてやってくれないか!?」
万丈はカオリに土下座して頼み込んだ。
「んー。金木さんを助ける班は別に動いてるから、そっちに任せますよー。でもまあ、この先にヤクモちゃんがいるなら……この前の続きをしなくちゃねー」
「おーい!! ここを開けてってくれないのか!?」
「えー? この牢屋くらい開けて出てこれないなら、むしろ邪魔だよー? ばいばーい!」
牢屋に入っている万丈達に手を振りながら別れを告げ、奥へと進む。そこには重厚な扉があった。
カオリはその扉を開けて中に入ると、万丈の話通り、カネキとヤモリがいた。しかし……。
「ま……アガ……ひとりに……しないで……」
「どうせもう再生できないんだし、勝手に殺されるか死んでください。あなたの命の責任なんて取りたくない」
倒れ伏しているのはヤモリであり、全身が血にまみれている。
一方のカネキは雰囲気が大分変わり、その口からはヤモリの赫包のニオイがした。
ヤモリを一瞥していたカネキが、部屋を出るために扉の方を向くと、そこにカオリがいることに気付いた。
しかし、カオリは喰種捜査官の格好をしていたため、カネキは捜査官がやってきたのだと思った。
「ハト……」
「はずれでーす。正解はレザーフェイスさんですよー!」
カオリはヘルメットのシールドを上にずらしてマスクを見せる。ヤモリは大声をあげて泣き叫び始めた。
「金木さん、芳村さん達が8棟の方にいますよー。霧嶋さんもヒナミさんも来てるから、そっちに行ってくださいねー」
「……共食いをすると、喰種の血が強まるんですね」
カネキは純粋に感想を述べただけだが、カオリはそれを曲解してとらえた。
「……もしかして、私を食べたいの? ヤクモちゃんを食べたくらいで、神代ちゃんの赫子が私に効くとでも?」
カオリは無数の尾赫を展開し、カネキにその先端を向けた。カネキは首を横に振り、カオリの勘違いを否定する。
「違いますよ、僕はあなたを食べません。あなたはひどい人ですけど、感謝しているんです。僕はまだやることがあるので、これで失礼します。ちなみに『ソレ』は既に食べてしまったので、そこは謝っておきます」
泣き叫ぶヤモリは
「んー、まぁいいよ。ヤクモちゃんって赫者でこそあったけど、別に『
カネキは部屋を出ていった。残るはカオリとヤモリのみ。
「助けて……だずげで!! おがあさん……おかあざん……あくまのつぎは……ばけものがきたよぉ……こわい、たすけて……」
ヤモリはジタバタともがき、ここにはいない誰かに助けを求めている。その崩壊した精神と言動は、カオリの嗜虐心を掻き立てた。
「ふふっ……ふふふふふふ!! ヤクモちゃんって本当におもしろいよ! ねぇねぇ、悲しくならない? ……せっかくの赫者なのに捜査官さんに拷問されて、私のオヤツにされて、あげくはあんな非力な金木さんにまで食べられちゃって、それで精神崩壊? おかあさんを求めて? 本当に可哀想で、可愛くて……アハハハハハ! 最高だよ! 最高だよ『
ヤモリの右手を踏み砕き、わめき散らす様子をしばらく観察する。
やがて飽きたのか満足したのか、カオリはヤモリを捕食するために赫子を出そうとするが……
「あなたは誰ですか~? 見たこと無い人ですねぇ? それにぃ、今日の服は
特殊作戦服に身を包んだ少年が、入り口に立っていた。
「あらー? 服は間違えてしまったのですよー。そこの死にかけはヤクモちゃんですよー? 今はこんな有様ですが『ジェイソン』のあだ名があって、一応Sレートだったはずなので、良いクインケが作れますよー? ささ、トドメは貴方にあげましょう! 私はクインケが2つありますのでー」
カオリのアドバイスに従い、少年捜査官はナイフ型のクインケを振るう。
─────だが、それは死にかけのヤモリではなく、カオリに。
「んー? 私は『神代リゼ上等捜査官』ですよー。喰種はこっちじゃなくてあっちですよー?」
カオリもアタッシュケースから『
カオリはとっさにデタラメな名前と階級を名乗ったが、他の捜査官の名前を少年捜査官は覚えていなかったため、本当に捜査官だと信じた。
「すみませ~ん。僕は三等捜査官の『
カオリも本当に危険なら赫子を使うが、クインケでも充分間に合う時間があったため、赫子を出す必要がなかっただけである。
「いえいえー。私もあなたがアオギリの仲間かと思ったので、おあいこですよー。私はまだ
のんびりした雰囲気の少年捜査官に、どこかシンパシーを感じながら、カオリは離れを後にした。
その後、この少年捜査官にヤモリは討伐され、彼のクインケとなる。
少年捜査官こと『
5棟にカオリが戻ったとき、そこは喰種捜査官達のニオイで溢れかえっていた。カオリが多数の喰種を食べてしまったために数が大きく減り、そこを捜査官達に占拠されたようだ。
(失敗したかなー。ヤクモちゃんで遊びすぎたー。もう殆ど喰種のニオイが残ってないよー! ……仕方ないから帰ろーっと)
カオリはそっと5棟から離れようとするが……。
「貴様、捜査官ではないな」
カオリの背後から男の声がし、大剣型のクインケがカオリに迫る。
「おっとと、危ないですねー!」
カオリは『ナース』を展開し、大剣を防ぐ。
「そのクインケは真戸さんの『フエグチ』ッ!! ……貴様ラビットの仲間……いや、まさか『レザーフェイス』か!」
その男、亜門鋼太朗。かつて真戸という捜査官の部下であった人物だ。真戸という捜査官は、20区で笛口一家を追っていた捜査官であり、水路でカオリにトドメを刺された捜査官である。
「何を言っているんですかー? 私は『神代リゼ上等捜査官』です。ラビットという喰種は知りませんし、これはアオギリの喰種から取り返したものですよー? そうそう、この先にある離れにジェイソンって喰種がいますよー。相手は少年の捜査官ひとりだけだったので、助けに行ってあげた方が良いと思いますよー?」
(神代なんて名前の捜査官は居ないはずだが……それと単独行動の少年捜査官……什造の事か?)
亜門はカオリ言葉に思いを馳せていると……。
「……ッ!!」
カオリが亜門へと『ドクター』を振るう。咄嗟に亜門は大剣のクインケを盾のようにして防ぐが、すかさずカオリは『ナース』で追撃し、亜門は数メートル後方の壁へと弾き飛ばされてしまった。
「あなたとここで時間を潰していることで、他の捜査官が喰種を倒す。そうすると、私の手柄が減るじゃないですかー。なので、もうそこで大人しくしてて下さい。後から捜査本部でゆっくり話をしましょうねー?」
「ぐ……ま、待て!! 神代なんて名前の捜査官は聞いたことがない! 誰の部下だ!?」
亜門の言葉に返事をせず、カオリは亜門から見えない場所まで移動する。
誰からも見られていないことを確認すると、尾赫を展開し柱に巻き付け、柱を支点としながらカオリは回転を始める。
そして、遠心力で空へと飛んでいった。足の遅いカオリが使う逃走術の一つである。
壁から抜け出た亜門は、カオリが入っていった角へと走るが、そこには誰も居なかった。
「神代……そんな捜査官は居ないハズだ……じゃあ神代とは誰だ? あれがレザーフェイスなのか? 一体誰が真戸さんを殺した犯人なんだ……? クソッ! 出てこぉおおおい! 神代リゼェェェェェエエエエエ!」
亜門の叫びは、虚しく空へ消えていった。
「おかえりなさいカオリさん。もういいのですか?」
カオリが8棟のあんていくが占拠した場所に戻ると、入見とヒナミだけが残っていた。
「もういいかなー。もう喰種よりも捜査官さんが多いですし。そうそう、金木さんは自力で脱出してたから、もうすぐこっちに来ると思いますよー」
「そうですね、今カネキくんは6棟で交戦中みたいです」
「そっかー。じゃあ先に車のとこで待ってますねー」
カオリは一足先に四方の運転する車へ戻り、のんびりと作戦が終わるのを寝て待った。
暫くしてから芳村達が車へと帰ってきた。しかし、カネキと月山とヒナミの姿がない。
「ふわぁーっ……おかえりなさーい……あらー? 金木さんとしゅーちゃんとヒナミさんはどうしましたー?」
「彼らはやりたいことがあるそうだ。ここへは来ない、帰ろう」
芳村はそう告げ、車に乗り込んだ。20区へ向かう途中にある15区でカオリは車を降り、家へと戻った。
「今回は外れでしたけど、次は楽しめるといいですねー。というか何も持ち帰れなかったので、今度は自分用の車が欲しいですねー……運転手も欲しいですねー……」
カオリが眺めるテレビには『11区の喰種集団、喰種収容所を襲撃』の文字が輝いていた。
──────────
その夜、寝ていたカオリは目を覚ました。
「……んー? 珍しく喰種のニオイ……わざわざ
カオリはニオイのする方へ向かうと、そこには1人の子供が倒れていた。まだ幼く、栗毛短髪の中性的な子である。
「子供の喰種ですかー? いただきま……んー? このニオイ……まさか……『赫子四種持ち』ですかー!? ここで食べちゃうのは勿体ないですねー! これは『仲間』にするっきゃないですねー! ふふふ……とーってもツイてますねー! この子はアオギリの『タタラ』とかいう炎使いの対策になりそうです……!」
子供から『4種類の
神 代 利 世 上 等 捜 査 官
さらっと嘘をつく主人公。
原作と違いアオギリ側の一般喰種がほとんど
アヤトさんの半殺しシーンはカットされたのだ……。
・少年は誰に拾われ、そしてどうなる?
カラス → カネキの身代わりに死ぬ
小説家 → もちもちもちもち
主人公 →
次回よりJAIL編です。
─────そして、少年は少女になる。