翌日、太陽が沈み茜色に染まる頃、リオは15区の家で目を覚ました。
「おはよー、よく寝てたねー。はいお水」
カオリは寝ぼけ眼のリオに水を渡す。リオは喉を鳴らして水を飲み、渇いた体を癒していく。
「っぷは! ありがとうございます。ところで僕、なんでここに……あ……」
ようやく昨夜の事を思い出したリオは、顔を真っ赤にして俯く。
それは共食いの後にあった事。強制的に
「ふふふ、気にしなくて良いのにー。でも……
リオは掛け布団から出て体を動かしてみると、服の摩擦による刺激がビリビリときてしまい、思わずうずくまった。
「あっ……っく……服が擦れて……」
「あー、最初はやっぱりそうなっちゃうかー。最初は私も似たような事になってたよー? 共食いで身体能力が急激に上がるから、体に心がついていけてないんだよね……『ヘルスケ』の情報だと、『共食いに極めて高い適性のある喰種』なら体と心はすんなりついていくし、赫者にもすぐ成れるらしいけど、リオちゃんも共食いの適性はどうかな……? でもまぁ、リオちゃんの成長率は私より遥かに良いみたいだから、結構良い感じの適性はありそうだねー」
カオリはタンスの中から、下着を幾つか取り出した。
「はい。下着はこっちにかえてねー。この下着なら肌と服が擦れなくなるから、だいぶ楽になるよー。あ、一応言っておくと、パンツを履いてからタイツを履いてね」
「は……はいっ……」
長袖のシャツ、タイツ、パンツ。全て女物であるが、調教の効果かリオはおとなしく着替えていく。
「よし、今日は共食いで『あーるしー細胞』も増えたことだし、
カオリは甲赫を腕に巻き付けていく。甲赫には無数の鋭利な刃がついており、触れただけで血が吹き出しそうだ。
「じゃーん、イバラの籠手! こんな感じで、赫子を身につけて格闘する感じだねー。でも私は格闘が好きじゃないので、あんまり教えられません。でも20区に教えてくれる人が居るから、今度会わせてあげるねー?」
カオリは甲赫を戻し、話を続ける。
「それと、赫子も身体能力もロクに使えないような弱い喰種とかは『人間の武器』を使うよ。昨日集めた『ハジキ』とかだねー。中には、実力や正体を隠すためだったり、油断を誘うために、わざと人間の武器を使うこともあるけど、そんな面倒な事をする喰種は多くないから、気にしなくていいかなー?」
カオリは黒いローブをリオに手渡す。
「ひとまずはそれだけ着てから出かけようねー。赫子に慣れてないと、服破いちゃうからねー。ちなみに下着は破けても大丈夫。替えは沢山買ってあるから!」
カオリはリオを連れ家を出る。行き先は近所にある水路。訓練するついでに、
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近場の川から水路へ入っていき、立ち入り禁止の柵を越え、水路の中にある梯子を伝って下に降りていく。
下へ下へと歩いて行くと、他の部分とは材質の違う壁がある。カオリはその壁へと向かい……壁を甲赫で切り裂いた。
壁からは石や金属の音ではなく、肉を切るような音が響いた。切られた壁はウネウネと揺れ、少しずつ再生していく。
東京の地下には『24区』と呼ばれる迷宮が広がっており、これはその迷宮の外壁こと『Rc細胞壁』と呼ばれる物質であり、Rc細胞で出来た
カオリは易々とRc細胞壁を切ったが、通常の喰種ではRc細胞壁を破壊するのは困難を極める。
また、Rc細胞壁は自己増殖や自己修復を行うため、壁の再生途中でゴミを埋め込んでしまえば、まずゴミを漁られる事はない。その上、Rc細胞壁が時間をかけて消化するため、時が立てばゴミそのものが消えるのである。
カオリは赫子を取り出し、その赫子は次々に
このゴミの正体は、昨夜捕食した人間や喰種の『食べれない部位』を圧縮して固めたものである。
衣類、胃の中の内容物、排泄物などは、喰種にとっても食べれるものではない。そのため、喰種は人間を全て食べることができず、捕食の痕跡を残してしまう。それを喰種捜査官に調査されると、最終的には捕獲及び討伐となってしまうのである。
逆を言えば、痕跡を残さない食べ方をしてしまえば、捜査官は易々と調べることができない。
痕跡として残ってしまうモノを赫子の中に隠しておいて、見つからない場所へ捨てる。これこそがカオリが15区全ての喰種を捕食し、時々人間を捕食しても、捜査官がカオリを発見できなかった理由である。
捕食被害なら喰種捜査官が出張り、殺人事件なら警察の精鋭である捜査一課が全力で調査するが、『行方不明』なら警察が少し調べるだけであるからだ。
このRc細胞壁、カオリはゴミ捨て場として利用しているが、食べることもできる。その代わりとんでもなく不味い。カオリはこれを『科学的な味』と呼び、カオリでさえもあまり好んで食べようとしないくらいである。
余談ではあるが、人間の居ない24区は食料事情が悪く、やむを得ずこのRc細胞壁を食べることがある。Rc細胞壁を多く捕食した喰種は、自身の肉もこのRc細胞壁に近いニオイや味わいとなる。11区で戦った『ノロ』が、まさにこれだったため、カオリはノロを24区の住人だと判断したのである。
しかし、Rc細胞壁は『割と高純度な赫包』を食べるのと同じ意味を持つ。弱い喰種が無理に食べると、昨夜リオが受けていた以上の苦痛にみまわれることとなるだろう……。
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ゴミを捨て終わり、カオリはリオと向かい合う。
「それじゃー、
自分の使える赫子が多いことに驚くリオ。カオリは説明を続ける。
「そんな凄いリオちゃんには、全部の赫子を説明していくね。まずは『
カオリは尾骶骨付近から尾赫を展開し、木の根に似たそれをひらひらと振る。
「尾赫の特徴としては、万能型かな? 射程もそこそこ。威力もそこそこ。耐久もそこそこあるね。人によって色んな戦い方をしてくるから、ちょっと面倒かもー。耐久の弱い鱗赫と相性が良いよ。その代わりに、高威力高射程の羽赫にはちょっと弱いかなー」
カオリは尾赫を仕舞うと、持ってきたアタッシュケースを開く。そこに入っていた蛇腹剣を取り出し、腰に当てる。
「これが『
カオリは蛇腹剣を軽く振り、風切り音を立てながら蛇腹剣が舞う。
「鱗赫は尾赫よりちょっと射程が短いけど、威力は鱗赫の方が高いよー! その代わりに耐久が低いので、相手の攻撃を相殺しようとするとあっさり壊れるねー。高威力低耐久だから、尾赫とぶつけ合うと壊れちゃうんだよねー……後は、鱗赫が使える喰種って、再生能力が高いことが多いんだよね。私は良く分かんないんだけど、『あーるしー細胞の結合能力』が高いんだとか?」
カオリはクインケを仕舞い、甲赫を展開する。背中から葉っぱや蔓のような赫子が現れ、カオリは植物の如き様相となる。
「これが『
カオリは甲赫を戻し、今度は羽赫を展開……しなかった。カオリは羽赫を使えないし、羽赫のクインケも持っていないのだ。
「『
カオリは自身の性能上、高機動型や遠距離型の喰種に弱い。羽赫の赫子飛ばしによるヒット&アウェイ戦法を取られると、カオリにとってはとてもつらい。
また、羽赫による赫子飛ばしではなく、高機動型であることを理由にした接近戦を好む喰種もいる。その戦法の特徴はRc細胞の消耗を抑える点にあるが、カオリからすればその戦法は鱗赫の下位互換であり、ただの愚策でしかない。
そんな策を好む羽赫の喰種が、かつて14区にいた。その喰種はカオリに嬉々として接近戦を挑んだ結果フルボッコにされ、1年近く14区内でパシリにされたり、『ちゃん付け』で呼ばれたり、
「とりあえず、これで赫子の説明は終わりー! 後は……『
今後もカオリはリオに共食いをさせる予定であるため、いずれは赫者になれるだろうと考えている。
4種類の
「それじゃ、まず尾赫から出してみよっか! 出し方は分かるかな? お尻の少し上あたりから、新たに手を生やすような感覚だよー? 尾赫の名前通り、しっぽを生やすような感覚でもいいのかなー?」
「分かりました。やってみますね!」
リオは言われた通りに力を入れてみたところ、ズルリと皮膚を破って
「んっくぅ……か、赫子が出てきた時の感じが……あっ……」
リオの足はガクガクと震え、腕は自身を抱きしめるように交差させている。赫子が出てきた時の刺激は、感覚が鋭敏になっているリオにとって、耐えるのが難しいモノであった。
「んー、なかなか立派な尾赫だね! その刺激は段々慣れてくるから、今は我慢しようねー。じゃあその赫子で戦ってみよっか! 私を殺す気で攻撃してね。そうしないと練習にならないよー」
カオリは甲赫と尾赫を全身に纏い、植物のような姿に変わる。
「まぁ、そう易々と私の赫子を突破できるとは思わないでねー」
「んっく……や、やってみますっ! せぇいッ!!」
リオは全力で尾赫を振るった。まるで龍の尾のような赫子は、風切り音共にカオリへ飛来し……
─────地下の空洞に、まるでダイナマイトが爆発したかのような轟音が響き渡った。
「んー! 初めてにしてはいい感じの威力かなー? これなら弱い喰種相手にはなんとかなるねー。捜査官さんのレート的にはBの上位ってところかな?」
轟音の爆心地たるカオリ、無傷……っ! 片や攻撃した側のリオは、地下に響く轟音に耳をつんざかれ、目を回していた。
「あら、耳をやられちゃったかなー? じゃあ再生するまでストップだねー」
喰種の回復力は高い。リオもすぐに眩みから復活した。
「ごめーん。こんな密室で受け止めると
リオの尾赫による猛攻が開始された。しかし、一本の尻尾による殴打では、圧倒的に手数が足りなかった。
上から叩きつけても、横から薙ぎ払っても、下から打ち上げようとしても、それらは全てカオリのたった一本の細い
「私のねっこはたくさんあるよー? 今のままだと終わんないよー? だからリオちゃん、鱗赫も出してみよっか! 鱗赫は腰からだよ! さぁ、さぁさぁさぁ!!」
カオリに急かされ、リオは鱗赫を出そうと試みる。
感覚が不安定だが、リオは確かに鱗赫を感じ取った。戦いによる興奮のままに、鱗赫を強引に展開した。
じゅるりと音を立てて、腰から出るは4本の硬質な触手。紫色をしたそれらは尾赫よりも、細く鋭い印象を抱かせる。
「んぁああああっ! っく……ふー……」
敏感な肌から鱗赫を展開した事で、リオはぶるぶると体を震わせる。
嬌声をあげそうになる心を抑えつけ、無理矢理息を整え、カオリと再び対峙する。
「そうだね! 喘いでないで戦おう! さぁ、その増えた手数をどう活かすかなー?」
まだまだ余裕のあるカオリの声。赫子に埋もれたその顔は、表情をうかがうことはできないが、間違いなく嗤っているだろう。
「ふー……せぃっ!!」
一呼吸ののち、リオは一気にカオリへ接近した。叩き込むは5本の赫子。尾赫が薙払いをしかけると同時に、鱗赫は刺突を連打。接近しているため、受け流されてもすぐに体勢を立て直し連撃を再開する。
しかし、その絶え間ない赫子の嵐が吹き荒れる中にも関わらず、無数の根は全てを受け流していく。
「あーちゃんを思い出すなぁ……本来の射程距離を捨て、接近戦に持ち込もうとする……でもね、接近戦は……最も反撃されやすいことを忘れちゃいけないよねー。私の甲赫は身を守る鎧ってだけじゃない。速度は遅いけど、接近戦相手なら当たるんだよー?」
ついにカオリも受け流すだけでなく、攻撃を開始した。木の幹の如く体を包んでいた甲赫から、にょきにょきと蔓が伸びていく。
それの数は根と同じくらいであろうか、カオリの手数が倍になった事実に、リオは息を呑む。
「甲赫は尾赫よりも威力が高いんだよー? でもね、今は練習だから痛くしないし、とってもゆっくり攻撃するよー」
甲赫の蔓がゆるりと動き出す。初速はカオリの言うとおり緩慢なものだが、段々と動きが速くなる。重量武器である甲赫に、遠心力で速度を乗せることにより、遅さをカバーしているのだ。
尾赫に攻撃をいなされながら、甲赫の鞭が迫る。幸いにもカオリが一定以上の速度を出さないようにしているので、リオもなんとか回避できているが、段々と接近したままでいるのは難しくなり、リオはジリジリと後退する形になった。
「とまぁ、私に接近戦は自殺行為でしかないので、ちゃんと距離を取った方がいいよー。よし、今日はこれで終わりにしよっか。甲赫と羽赫はまだ試してないけど、少なくとも後1回は
次の
平 和 な 回
まるで原作JAILのような健全っぷりですね(震え声)
(まえがきで事後とか言ってますが、R-18版はしばらく書く予定がないのでネタばらしをしておきますと、リオ君はDTのままだゾ)
☆原作と違う点
・強化方法:原作では共食いの代わりに時間遡行(世界線移動?)を繰り返す事で強くなりますが、本作では共食いにより、周回プレイと同様の強さを発揮します。当然共食いは、時間遡行と違って体と心に変調をきたしていきます。
・赫子:原作では4週目にならないと全ての赫子が揃いませんが、本作では二種持ちの主人公が指導し、なおかつ体を弄り回すことにより、初戦(第一ジェイル候補戦)から4種類の強化された赫子を使って戦えるようになります。
☆モンハン風アイテム紹介
戦喰種の紅玉 10z
『戦喰種の体内に蓄積された不純物が圧縮された結石。少しの衝撃を加えるだけで砕け、中の汚物が吹き出す。取扱い注意』