「お、タクシーみっけ!」
14区の比較的大きな通りで、カオリはタクシーを見つけ、乗り込んだ。
「よいしょっと」
「お客さん、どちらまで?」
「池袋までお願いしまーす」
巨大な旅行用カバンとクーラーボックス、意識のない少女(♂)を抱えて乗り込んだカオリ。フードを被っているため、運転手からカオリの顔は分からない。紛れもなく不審者である。
しかし、運転手はそんなカオリに文句一つ言わず、タクシーを走らせた。
「ふむふむ……小林
カオリは運転手のプロフィールが書かれたプレートを見ていた。
「そうですねぇ、お菓子を作るのが一番好きですが、パンを作るのも好きですよ?」
「やっぱりー! 運転手さんって『ジャムのおじさん』に似てますもんねー」
中年男性の運転手『小林昭』は、とてもジャムなおじさんに良く似ていた。
「ハハハ、そう仰る方もいますねぇ」
「私もたまーに作るんですよー? お菓子なら……眼球に血を染み込ませて、それを凍らせて、ちょっと脳味噌あたりを付け合わせにしたアイス。パンなら……人間の皮で作った生地に、厳選した人間の挽き肉、太った少年の脂で揚げたコロッケパン。そんな感じですかねー」
カオリの放った一言に、車内の空気が変わる。
「お客さん……もしかして喰種ですか?」
「あなたもですよね、小林さん。ニオイで分かりますよー?」
カオリは袖から赫子を出し、ひらひらと振った。
「ほっほ! どうやらお客さんは話の分かる方みたいですねぇ……! 確かに生食こそRc細胞の補給効率が一番良いことは認めましょう! ですが、Rc細胞補給効率が下がろうとも、あえて一手間加えることで、そこには効率を超えた美味しさがあるんですよ!! まぁ……効率が悪くなる分、赫子はなかなか成長しませんがね……」
そう話す小林から感じる
「小林さん、今どこかの喰種組織に属してたりします? 『アオギリ』とか『びー』とか」
「いえいえ、私みたいに弱い癖に食事だけは煩い中年喰種。どこにも所属できませんよ」
「じゃあさ、私と組まない? 私は小林さんの運転技術と料理技術が気に入ったよー!」
カオリは小林を仲間に誘った。
「失礼ですがお客さん、お客さんはどこの組織に属してるんです?」
「まだ私とこの子しか居ないから名前はないですよー」
「そうですか……それだと私にメリットがありませんねぇ……」
「お金はたくさん持ってますので、小林さんの働きに応じて出しますよ? それと、
15区と聞いて、小林は相手の正体を察した。額から汗が吹き出し、太股へと落ちる。
「は……ははぁ……私に拒否権は無さそうですね……断ったら私、捕食されますよね? 『レザーフェイス』さん?」
「……ひとまず一緒に池袋での『仕事』について来て下さい。小林さんはお金と食材が手に入る。私は車という移動手段が手に入る。良いことづくめですよー?」
捕食するかの問いに応えなかったカオリ。その理由を小林は察し、涙を流しながら池袋へ向かった。
──────────
小林が池袋に着くと、カオリはリオを起こした。
「おはようフレディ。起きて」
「……んぁ……カオむぐっ!!」
カオリと言いそうになったリオの口を、カオリは急いで塞いだ。
「これから『喰種の時間』。本名禁止」
「ぷはっ!! すみません……えっと……レザーフェイスさん」
リオはカオリをマイケルと呼ぶかレザーフェイスと呼ぶか迷ったが、レザーフェイスと呼んだ。どうやら正解だったようで、カオリはニッコリと頷いた。
「宜しい。小林さんはなんか名前あります?」
「いえ……私はありませんね……」
「では……何て呼びましょうか? 『ジャムおじさん』だと身バレしそうですし……あ、そうだ!!」
カオリはカバンの中から、一着の衣装を取り出した。
「じゃあ小林さんは今から『ペニーワイズ』です! これは『
カオリは予備の衣装として用意していた道化師服とマスクを手渡した。
「道化師ですか……息子を思い出しますねぇ……」
ペニーワイズの衣装を見て、小林はしみじみと呟く。
「息子さんは道化師なんですかー?」
「えぇ、親父みたいなつまらない人生は嫌だと家を飛び出した馬鹿息子でしてね……『ピエロ』という喰種集団に加入したんですよ。『ガンボ』という異名で頑張ってたんですが、ここ数年はめっきり便りが無くて……私に似て弱い喰種でしたので、きっともう殺されてしまったんでしょうねぇ……」
小林は音信不通な息子の事を思い、一つ溜め息を吐いた。
「じゃあ息子さんの思いを受け継いで、ペニーワイズ頑張って下さいねー。次の道を左ですよー。フレディは今のうちに着替えちゃってー」
狭いタクシーの中、リオはフレディの衣装へと着替え、カオリはレザーフェイスの衣装へと着替えていく。
「小林さーん。こっちを鏡で見るのはやめてねー? ちゃんと運転してくださーい」
「ここで止めてください。小林さんがペニーワイズに着替えたら、早速一仕事行きましょう!」
人通りの少ない路肩に車を止めると、カオリとリオは車を降りた。
タクシーのトランクから旅行用カバンや大型のクーラーボックスを取り出していると、ペニーワイズの衣装に身を包んだ小林が降りてきた。
「いいですねー! レザーフェイス、フレディ、ペニーワイズ! まさに恐怖の一団ですよー! じゃあ、まずはフレディ用の食材から行きましょう!」
カオリは路地の奥へと進む。少し進むと、
「そろそろ交戦ですね……!」
余所の喰場への侵入。リオは思わず身構えたが、小林とカオリは平然としている。
「ひどいニオイですねぇ……食材が可哀想だ。もっとしっかり処理すれば、美味しく食べれるのに……」
「血抜きが足りてないですよねー」
小林は保存食にケチを付け、カオリが同意する。これから戦う雰囲気は微塵も無かった。
「なんでペニーワイズさんは平気なんですか? 他人の喰場なんですよ……?」
「ハハハ。こっちには15区の主が居るんですよ? 15区の主が勝てないような相手なら、私は潔く諦めますとも! 幸いレザーフェイスさんは私のタクシーを必要としているようですし、守って頂けるんですよね?」
「うん。フレディも戦わなくて良いよー? 今回は私が全部やるから」
小林の開き直った態度に、リオは思わず苦笑した。
「おい! そこのヘンテコ3人組!! テメェらここが『アオギリの樹』の喰場って分かって来てんだろうなァ!?」
ドクロのマスクをした男が、路地裏から現れた。
「はーい、分かってきてますよー。私達は『アオギリの樹』への参加希望者です。嘘でーす」
「あァ!? テメェふざけっ……」
カオリは尾赫を振るい、男の首を刎ねた。血飛沫が舞い、辺りに血のニオイが立ち込める。
「おや、良いんですか? これではニオイで集まって来ますよ?」
「良いんですよー。むしろニオイでおびき寄せるんです。もう罠は仕掛け終わってますから」
カオリの足元を見ると、無数の尾赫が地面を這っている事に気付いた。
「こ、これほどの赫子……いやはや……15区の主は思った以上の存在でしたね……花の化物、さしずめこれは根っこですか……」
あまりにも多いカオリの赫子に、小林の顔が引きつった。
「おい、何だこのニオッ……!」
「敵だ! 敵のしゅッ……!」
「お前等! 何が何でもこいつらを殺せ! さもないとタタラッ……!」
「おいやべぇ、あのマスクってッ……!」
次々と現れるアオギリの構成員達だが、地面に張り巡らせた尾赫を踏んだ途端、全身を串刺しにされ、死体へと変わる。
暗い路地裏に薄く張り巡らされた黒い根。目を凝らさねば気付くことができない。
一人、また一人と、尾赫に貫かれて死んで行く。
「ふふっ。こうやって股から脳味噌まで一本刺しにするとねー、ビクビク痙攣して凄く可愛いよね。ほらみてよフレディ、あの人、痙攣しながらおしっこ漏らしてるよ。私の赫子の上なのに汚いなー」
あまりにも
やがて増援が居なくなると、地面に張り巡らされた根は、死体達を包み込んでいき、一つの大きな球体へと変わった。
球体の中、何かが砕ける音が断続的に鳴り響き、やがて1つの大きな球体は、3つの小さな球体に分かれた。
「失礼……これは何をしているので?」
「ん? 分けてるんだよー? 私が食べる部分と、フレディやペニーワイズさんが食べる分、誰も食べれない部分の3つにねー。フレディ、クーラーボックス3つ持ってきてー」
リオは3つのクーラーボックスをカオリの元へ運んだ。
「まずこれが、二人の分」
カオリは1つ目の球体を開く。そこにはいくつもの
「それで、これが私の分」
2つ目の球体には、肉や内臓が入っていた。
「んで、これがゴミ」
3つ目の球体の中には、赤い玉が入っていた。
「このゴミ……ですか? これは一体?」
見慣れぬ赤い玉に、小林は首を傾げた。
「これはねー。排泄物や洋服とかの食べれない部分を圧縮したものだよ! これを24区のゴミ捨て場に捨てれば、死体は一切見つからないってワケなんですよー」
「ひぃっ……こ、これが神隠しの正体っ……! こんな風に死ぬなんてまっぴらですねぇ……」
小林にとって、それはあまりにも恐ろしい光景であった。
「ふふっ、大丈夫ですよー? ペニーワイズさんはこの後、喜んで私に仕えたいって言うと思いますよー? もう喰種のニオイはしないし、次はお待ちかね。お金稼ぎの時間です! 二人は荷物持ち宜しくねー」
カオリ達は路地を進み、ひっそりと佇む雑居ビルへ向かう。ビルの前に立つ見張りの男達から見えない位置に隠れ、カオリは二人に説明を始める。
「ここが、さっきの喰種達が守ってた建物だよ。アオギリの樹の幹部と関わりのある、海外マフィアのアジト。稼ぎはこの前より多いかもね。ここからは見つからないようにやるから、この前と一緒だよー」
カオリは甲赫と尾赫を展開すると、壁や床を這うように、ゆっくりと赫子を進めていく。
見張りのすぐ側まで赫子を進めると、目にも止まらぬ速さで赫子が見張り達を包み込んだ。
「ああ、これ知ってますよ。カマキリが虫を捕食するヤツですねぇ……こんなに簡単に人間2人を捕らえるとは……」
人間を丸呑みにした赫子は膨らみ、まるで木に成る実のようである。
「ちょっと中の人達を捕まえて来るねー。二人はここで待っててね? すぐ終わるから」
カオリは背中に赫子の木を生やしながら、雑居ビルの入り口へと入っていった。
「私の趣味はお菓子づくりなんだけどね……それは新鮮な人間を食べれないから、せめて美味しく食べる方法を探しての結果なんだよ。弱い私は人間をロクに狩れないから、自殺した人間の死体をこっそり頂くくらいでね……」
「分かります……僕もレザーフェイスさんと会うまでは、自殺した人だったり、他の喰種の食べ残しを食べてましたから……」
小林とリオ。弱い喰種の二人は、食に困る日々を過ごしていた。
「それがだよ……あの人の元なら、新鮮な肉がこんなにもあっさりと手に入る……新鮮な肉で作る料理は一体どれほど美味しいのだろう……喰種の肉とは、いったいどんな味なのだろうか……!」
「あの……喰種の肉は……とっても不味いですよ? ……でも、これから僕達はそれを食べさせられるんですけどね……」
リオは喰種の味を思い出し、げんなりとした。
「むむ、フレディちゃんは共食い経験者か……いやはや……うーむ、不味いのか……それはなんの意味があるんだい? わざわざ不味い喰種を食べずとも、人間の肉に困らないだろう?」
共食いによって赫子が強化されることは、あまり広く知られていない。小林も共食いの利点を知らないため、わざわざ不味い喰種を食べる理由が分からなかった。
「レザーフェイスさんが言うには『Rc細胞』が強化されるみたいですよ?」
「『Rc細胞』……なるほど、赫子が強くなるんだねぇ……納得がいったよ。あの人は15区の喰種全てを食べたから、あれほど恐ろしい赫子を持っているのか……そして、私達もそのおこぼれを頂けると……フフ、フフフフ!! あの世で見てるか? 妻よ、息子よ……私も強者の仲間入りを果たすぞッ!!」
これから先の輝かしい喰種生活を夢見て、小林は思わず笑みをこぼす。そんな小林を、リオは冷めた目で見ていた。
「そうですか……一度体験したら分かると思いますけど、共食いはつらいですよ。まともな喰種なら、まずしませんから……」
共食いによるRc細胞異常活性の痛みを知っているリオは、小林にそう告げるが、小林の耳には入らなかった。
「おまたせー! 入ってきてー!」
雑居ビルの窓が開き、カオリが二人を手招きした。
「さぁ行こうかフレディちゃん! 私達の輝かしい未来のために!!」
「はぁ……どうなっても知りませんからね」
二人は雑居ビルの中へと入っていった。
踊 る 道 化 師 シ ャ ブ お じ さ ん
愛と勇気をなくした子供の前に、"それ"は現れる。
シュッ! シュッ! シュッ!
15区で捕食しても殺さない(痛めつけないとは言ってない)
え、小林さんが誰かわからない?
東京喰種:Reの1話であっさりやられた人ですよォ!
アニメのエンドロールには【運転手喰種】としか書かれていませんでした。
小林さんの赫子ってめっさ格好良くないですか?綺麗な銀色の蛇腹剣はロマンが溢れます。原作ではあんなにあっさりやられてマジカワイソス。
Q.ピエロのガンボって誰?
A.東京喰種:Reのオークション編において、
Q.小林さんとガンボって親子なの?
A.原作にそんな描写はないです。お互い瞬殺されてますし。
ただし、中の声優さんが一緒です。体型も似てるので、親子っぽくね?という独自解釈です。
次回、