花屋喰種   作:みぞれアイス

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原作開始です。時間軸としては『隻眼バトル! 馬糞と化した先輩』の後、『笛口親子来訪』の前になります。



第2話 花屋喰種

 少女が東京に降り立って15年の月日が流れた。

 

 ここは東京15区・西荻窪。すっかり大人の女になった少女は、小さいながらも一戸建ての家に住んでいる。

 寝起きに水を少し飲み、愛用の125ccスクーターに乗って『職場』へ向かう。

 

「おはようございまーす!」

「おはようカオリちゃん。今日も元気ね」

 

 従業員専用口から職場へ入ると、恰幅の良い中年女性が出迎えた。ここ『フラワーショップ西荻窪』の店長である。

 

 花村カオリ27歳。職業・花屋アルバイト。人間のような生活は無理だとかつて言われた少女は、例えアルバイトであろうとも花屋になることができた。

 花を咲かすこと、花屋になること。今やカオリは()()()()()()()()()()

 

 一戸建てに住んでいるカオリだが、その資金はアルバイトの給料から捻出したわけではない。そもそも西荻窪は他の区より家賃や地価が安いとはいえ『東京の区内』である。

 給料の安い花屋のアルバイトでは家を買うどころか、一人暮らしさえできない。

 しかしそこは喰種らしく、時折人間を摘まむついでに金を頂いている。それが積み重なり、ついに家を買うに至った。花屋のアルバイトは趣味のようなモノだ。

 

 

「それじゃ、これから20区の『あんていく』さんにこの花を届けてね。それが終わったら今日は店内で接客だから、サボっちゃダメよ? カオリちゃんが見つけてきたお客様だから、ちょっとくらいお話するのは構わないけどね」

 

 花屋の店長は、カオリに配達の業務を指示した。

 

「ウチの花は別に安いワケでもないですからねー。もう要らないって言われないようにバッチリ仲良くお話ししてきますよっ! それでは行ってきまーす」

 

 目指すは北にある東京20区の 喫茶店『あんていく』。フラワーショップ西荻窪の取引先の一つであり……。

 

 

 従業員全員が喰種(グール)の喫茶店でもある。

 

 

 

「こんにちはー! お花を届けにきましたー!」

 

 ドアを開け『あんていく』へ入ると、そこには数人の客と3人の従業員がいた。

 

「おや、カオリちゃんか。いつもありがとね」

 

 従業員の1人目はあんていく店長の芳村(よしむら)。喫茶店を経営しながらもここ20区を支配している喰種(グール)の初老男性だ。

 

「どーも、いつもお世話になってます」

 

 2人目は霧嶋董香(きりしまトーカ)。喰種にして現役女子高生だ。カオリは学歴がゼロであるため、素直に羨ましいと思っている。

 

「えーっと……こんにちは」

 

 そして3人目、カオリの知らない男子。片目に眼帯をした大人しそうな子で、霧嶋トーカより若干年上に見える。

 

「はーい、こちらこそいつもお世話になっております。そこのあなたは初めましてー。私は花屋でアルバイトをしている花村カオリです。ここへは毎日お花を卸してるので、今後とも宜しくお願いします」

 

「こ、こんにちは。金木研(カネキけん)です。宜しくお願いします」

 

 カネキがお辞儀したとき、カネキから知っているニオイがすることにカオリは気付いた。

 

「はーい、こちらこそー。……ところで金木さんからとっても『神代ちゃん』のニオイがするけど、もしかして神代ちゃんの彼氏さん?」

 

 神代リゼ。『大食い』の異名を持つ喰種であり、カオリの知り合いである。

 リゼとの出会いは西荻窪のある15区から南下し、12区をそのまま通り過ぎた先にある11区。

 11区にあるリゼの『喰場(くいば)(縄張りのようなもの)』に突如現れたカオリは、当然最初は敵対関係にあった。

 しかし、カオリの物理的説得により和解となり、リゼを『神代ちゃん』と呼ぶ程度には仲が良くなった(……とカオリは思っている)。

 

 なお、喰種を主食とするカオリがリゼを食べずに和解した理由は、いわゆる足掛かりである。

 普段行かない場所は、どこに喰種(グール)が集まるのか分からない。11区にてある程度の活動範囲を持っていたリゼは、食べるよりも11区の情報源として生かした方が良いと判断したためだ。

 とはいえ、その後リゼは20区に引っ越してしまったので、足掛かりとしては役に立たなかったが……。

 

「えっと……あのですね……」

「カオリちゃん、詳しくは奥で話そう。カネキくんも良いかな? トーカちゃんは少しの間お店を頼むよ」

 

 店の奥で、カオリはカネキがリゼと共に工事現場の事故に巻き込まれた『人間』であり、手術でリゼの臓器を移植されたために喰種となってしまった『元人間の半喰種』であると教えてもらった。

 

「ほぇー、金木さんって仮面ライダーみたいですねー。あ、昔のやつだよ? 今の仮面ライダーはあんまり詳しくないからね! それにしても……神代ちゃん死んじゃったかー。あんなズボラな食べ方だし、いつか捜査官さんにあっさりやられるかと思ってたけど、意外かなー……あっ! 神代ちゃんがもう居ないってことは、11区の足掛かりなくなっちゃった! でもまぁいいや。神代ちゃん()()()()()なら、代わりは探せばいるだろうし」

 

 カオリにとってのリゼは『その程度』だが、多くの喰種にとってリゼは決して『その程度』と片付けて良い喰種では無い。リゼの赫子は攻撃力に定評のある『鱗赫(りんかく)』であり、幾人もの喰種や捜査官(ハト)を葬ってきた強者であった。

 

「ねぇ金木さん、元人間ってことはやっぱり人間を殺して食べるのは嫌な気分なのかなー? ……んー、ここにいるって事はやっぱり狩れないから?」

 

 あんていくには弱過ぎたり、優しすぎたり、怪我で戦えなくなってしまったりと、様々な理由はあれど人間を狩れない喰種が集う。殺しに慣れていない元人間に、喰種の世界は難しそうだなぁとカオリは思った。

 

「カオリちゃん、カネキくんは今まで殺人どころか、人の肉を食べる事にさえ拒否感を持っているんだ。あまり心無い事を言ってはいけないよ……とはいえ、キミにとっては何が心無いのか分からないとは思うけどね……」

「むー、無学だからってからかってますね! ……確かに何が良くなかったのか分かんないですけど……とりあえずごめんね金木さん」

 

「い……いえ、大丈夫です……。あの、花村さんも喰種なんですよね……? ヒトを狩ったり……するんですか?」

 

 温厚なカネキから見て、のんびりした雰囲気のカオリは、とても人を狩るようには見えなかった。

 

「んー? もちろん狩るよ? でも20区では狩ってないから安心してねー」

 

 カネキにとっては、何が安心なのか分からないが、ひとまず頷く事にした。

 

 

「さてカネキくん。いきなりだが喰種として生きるためのレッスンをしようか。ちょうどここにはヒトの世界で生きるスペシャリストのカオリちゃんもいるからね」

 

 芳村はサンドイッチをテーブルに置く。

 

「おおー! ヒトのご飯を食べる練習ですね !私も得意ですよー」

 

 芳村とカオリはサンドイッチを手に取ると、芳村は味わうようにゆっくりと、カオリはリスの様にもくもくとサンドイッチをかじる。人肉とコーヒー以外は吐くほど不味く感じる喰種の味覚。しかし、両者共とても美味しそうに食べている。

 

「どうかな?」

「す、凄く……美味しそうです……! サンドイッチに何か仕掛けが……?」

 

 芳村は残り1つになったサンドイッチをカネキに手渡した。カネキは恐る恐るサンドイッチを口にする。

 

「うぉっっ……ぐっええええ!!!」

 

 一口食べた途端、強烈な不味さがカネキを襲った。あまりの不味さにカネキは(うずくま)り、サンドイッチを吐き出す。

 

「おおー、凄い反応。流石に大げさな気もするけど」

「ごめんねカネキくん、大丈夫かい?」

 

 カネキは息も絶え絶えに、床を汚してしまったことを芳村に詫びる。

 

「て、店長……すびばせんけど、これ……不味……パンはまるでスポンジみたいで、レタスは……鼻の奥まで……青臭くて……うぇっ……チーズなんか、まるで泥で粘土だッ……! これは、まるでゲロ……」

 

 ふとカネキが二人の顔を見上げると、芳村とカオリはとてもにこやかな笑みを浮かべていた。

 

「な、なんですか……?」

「いや、随分と面白い反応をするものでね……」

「ふふふ。流石は元人間なのでしょうか? 私達喰種からすれば、ただ不味いとしか表現できないですからねー」

 

 笑っちゃってごめんねと、二人は素直にカネキへ謝った。

 

「カネキくん、コツは『たべる』のではく『飲む』こと。噛んでしまうと不味さが広がってしまうから、一口で噛み切って一気に飲み込むんだ。そして10回ほど『噛むフリ』をする。咀嚼音を出してあげれば、よりそれらしくなるよ」

 

「芳村さん……あんまりクチャクチャやると、食べ方が汚いって嫌われちゃいますよー? モグモグするような感じだけで良いと私は思いまーす」

 

「ふむ、ヒトのマナーとしてはカオリちゃんの言うとおりなんだけど、大事なのは食べているとアピールする事だから、カネキくんは時と場合によって使い分けるといいよ。そして何より大切なのは『美味しそうにしている表情』。ただ……これが一番難しい。そして、消化される前に吐き出すのを忘れないようにね。そのままだと体調を崩してしまうからね」

 

 ここまでして喰種は人間を装っていたのかと、カネキは驚いた。そして、自分にもそれができるのかと不安になった。

 

「カネキくん、最初は難しいとは思う。だけど練習すれば友達と食事に行けるようになるよ」

「はい、頑張ります」

「その意気ですよー!」

 

 その後、芳村は『空腹を一時的に抑える角砂糖』をカネキに渡した。しかし、いざとなったら肉を口にすることを忘れてはならないと告げて……。

 

「さてカネキくん。私はカオリちゃんと打ち合わせをするから、先にフロアへ戻ってくれるかい?」

 

 カネキが部屋を出た事を確認すると、芳村とカオリは向かい合うようにして座る。明日はなんの花が幾つ必要で、幾らかかるかの商談をした。

 

「ふむ……表向きの話はこれで充分かな? カオリちゃん、最近14区から20区に流入してくる喰種が増えているという噂を耳にした……。『あんていく(ここ)』を頼ってくる喰種達(ひとたち)なら別に良いんだけど、14区の喰種達(かれら)は20区の喰種達にとって脅威となりうる存在も多い。カオリちゃんが()()()()1()4()()()()()()()()()のは分かっているけど、なるべく気をつけて欲しい」

 

「14区の管理はここ1年『あーちゃん』に丸投げしてて、そのあーちゃんが最近逃げちゃったんですよー! なので調()()がちょっと大変で……とはいえ、ちゃんと20区以外へ逃げるように情報操作はしているんですよー? でも、4区は荒れ気味な上に警察が多いですし、13区は『ヤクモちゃん』の縄張りなんですよねぇ……ヤクモちゃんって()()()()でも他のひとたちから怖がられてるみたいですし……かといって15区(ウチ)には来てくれないですし……」

 

 東京14区。喰種同士の『共食い』が流行する危険な場所である。14区の地理は北に20区、東に4区、南に13区、西に15区となっている。

 

 4区は喰種の縄張り争いが激しく、警察も多く居るため、喰種及び捜査官との交戦確率が高い。

 

 13区はヤクモちゃん……ではなく『ジェイソン』と呼ばれる拷問狂の喰種と、その部下達が集う場所である。

 ジェイソン一門は非常に好戦的な喰種集団であり、一門以外にはとても住みづらい。

 血の気が多く、怖い場所。多くの喰種はその様に認識していた。

 

 そして15区。比較的平和な20区に輪をかけて喰種の捕食被害が少ない町と言われ、人口もそこそこ多いが、まともな喰種は決して近寄ろうとはしない。

 

「まぁ……20区(ここ)が一番安全だからね」

「芳村さんにはお手数をおかけします……こっちもなるべく14区の北側で狩りをするようにしますね……」

 

 芳村とカオリは、深くため息を吐いた。

 芳村は今後の20区情勢を憂いて。カオリは自分の蒔いたタネが面倒事を咲かせたことを嘆いて。




 1 4 区 共 食 い ブ ー ム の 元 凶 

原作の食べる練習では、芳村さんとトーカちゃんとカネキくんの全員が店の奥に行ってるんですが、その間お店はどうしたんですかね。他メンバーがいる描写はないですし、こっそり四方さんが接客したんでしょうか。

そして、原作突入したばかりですが、次はまた過去編なのです。
次話の時間軸としては、15区の喰種を全滅させた少し後になります。

次回、原作キャラ捕食及び半殺し注意。
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