花屋喰種   作:みぞれアイス

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平和な回。全知(ノー)フェイスさんが言う通り、20区って平和だなぁ


第20話 "IDOLA" da Sledge of Destruction 《Side.リオ》

 リオがあんていくで働き始めて一週間が経った。1ヶ月の地下生活中にカオリと接客練習をし、小林と料理の練習をしていたリオは、順調に『あんていく』へ馴染んでいった。

 

 芳村からコーヒーの淹れ方を学んでいると、フロアから皿の砕ける音が響いた。

「やれやれ……リオちゃん。箒を持っていってあげなさい」

「分かりました」

 リオは箒とチリトリを持って、フロアへ向かう。

 

「帆糸ォー! まーた皿割りやがったな!!」

「ひぇー! すみませーん」

 皿を割ってしまったロマへ、ニシキの怒声が飛ぶ。ロマは勤務中に必ずと言って良いほど皿を割るため、ニシキの怒声も遠慮の無いモノとなっている。

 

「ロマさん。箒持ってきました」

「お、サンキューリオちゃん」

「おう、わざわざ悪ィなリオ。てーか帆糸、お前はリオを見習えよ。お前がリオよりできるモンと言やぁ、『食べるフリ』くらいじゃねぇのか?」

 

 リオは『食べるフリ』が不得意である。カオリと小林監修の下、少しずつ上達してきてはいるものの、まだ違和感の残る出来栄えであった。

 

「ひ、ひどいですよ先輩! あたしの先輩としての威厳が……」

「じゃあ皿割るなよ。タダじゃねぇんだぞ」

 

 賑やかでありながらも穏やかな店内。心優しいメンバー達。まだ一週間しか経っていないが、まるで自分の帰るべき場所のように感じていた。

 

 

 

「クッソ暇すぎる」

 夕方になり、客足も少なくなった頃、ニシキが退屈そうに呟いた。

「ですよねぇ……あたしもなんだか眠く……ふわぁ~」

 ロマもニシキに同意し、テーブルに突っ伏した。

 

「あの……店長、僕も特にやること無いんですけど……どうしたら良いですか?」

「そうだね……3人とも暇なら、分担して店内の掃除をして貰おうかな。リオちゃんは従業員室をお願いするよ。ニシキ君は厨房を、ロマちゃんはお手洗いをお願いしようかな」

「わかりました。掃除してきますね」

 リオは掃除用具を手に取ると、従業員室へ向かった。

 

 従業員室も掃除が行き届いているのか、さほど汚れていなかった。そのため、ロッカーの上などの普段目につかない場所を掃除していった。

 

「よし、上は綺麗になったから、次はロッカーの扉を綺麗にしようかな?」

 

 リオはロッカーの戸を順番に水拭きしていく。ロッカーのネームプレートには名前がついており、リオにも『花村』とプレートの書かれたロッカーがある。

 

 四方、入見、古間、西尾、帆糸。知っている名前の書かれたロッカーだが、その中の3つには、リオの知らない名前が書かれていた。

 

「『霧嶋』、『笛口』、『金木』……この中の2人は姉さんの言ってた看板娘かな?」

 3人のロッカーを開けてみると、金木と書かれたロッカーには男物の制服が入っており、残り二人のロッカーには女物の制服が入っていた。

 

「ということは、霧嶋って人と笛口って人が今は来ていない看板娘なのかな? 金木……そういえばロマさんは『カネキ様』に憧れてここで働き出したって言ってたし、ちょっと聞いてみようかな」

 

 

 リオは掃除を終えたが、ロマはまだ掃除中のようであり、フロアにはニシキと芳村の2人しか居なかった。そのため、ロマに聞こうと思っていたことを、ニシキに聞くことにした。

 

「ニシキさん、ロッカーの名前について聞いても良いですか?」

「ん? ロッカーの名前?」

「えっと、知らない人の名前が3人あったので……」

「知らない名前? あぁ、クソトーカと……ヒナミとカネキか」

 ヒナミとカネキの名前を口にしたニシキは、どこか寂しそうな顔をした。

 

「あぁ、私が教えてあげよう」

 寂しそうな顔のニシキに代わり、芳村が口を開いた。

 

「トーカちゃんは『霧嶋』と書かれたロッカーの子でね、人間と同じ学校に行ってるんだ。勉強が忙しくてあまりこっちには来られないけど、勉強が落ち着いたら来られるようになる筈だよ。ヒナミちゃんとカネキくんは……うん、何か大切なことがあるみたいでね。連絡がつかなくて、いつ戻ってくるか分からないんだ……でも、みんながいつでも戻って来られるように、ロッカーはあのままにしてあるんだよ」

 

 どこか遠くを見るような目で、芳村は語る。

 

「カネキ君が『あんていく(ここ)』を出ていったのは、強大な運命に立ち向かうために、もっと必要なものがあると考えたからだろう。ヒナミちゃんは、彼がひとりぼっちにならないように、ついていってあげたんだろうね……」

「必要なもの……?」

「そう、カネキ君は強大な運命に立ち向かうために、『強さ』を求めたんだ……」

 

 そう芳村は語るが、リオは疑問に思った。

 

「強さを求めるのに……ここを離れるんですか? 姉さんが『最高峰の羽赫』って言うくらいの店長が居るのに?」

「えっ! 店長ってあのひとにそこまで言わせるほど強いんスか!?」

 ニシキは芳村の強さを知らなかったため、リオの何気ない発言に、ニシキは驚いているようだ。

 

「彼には彼なりの考えがあったんだろうね……それに……私は強くなんてないさ……」

 

 そう呟く店長の顔は、どこか(かな)しげであった。

 

 

──────────

 

 仕事の終わりに、リオは四方と戦う訓練をしていた。今日はニシキも見学している。

 

「いつものように、使って良いのは羽赫と近接格闘だけだ。俺に一撃入れてみろ」

「……いきます!」

 リオは羽赫から水晶の弾幕を展開しつつ、四方へ疾走する。リオの水晶弾は着弾と同時に破裂する性質を持つため、当たればただでは済まないが……。

 

「俺にそれは効かない」

 バチバチと音を立てながら、四方の肩から電撃が迸る。電撃に貫かれた水晶はその場で破裂し、四方へ届くことはない。

 

「分かってます! この訓練のメインは格闘ですもんねっ!!」

 風切り音と共に、リオの蹴りが四方へ飛ぶが、四方は難なく受け流し、リオの腹部へ拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ……このっ!!」

 腹部の痛みに顔をしかめつつも、リオは四方の顔へ拳を振るう。

「フッ……」

 四方は顔をずらすことで拳を避け、振り切ったリオの腕を掴む。

 

 そして、綺麗な背負い投げを決めた。

 

「いたた……」

 リオは起き上がると、服についた砂を払った。

 

「……良い拳だったが、外したならすぐに引っ込めろ。今みたいに投げられる」

「……はい!」

 

 その後も四方との訓練は続いたが、リオは一度も四方へ攻撃を当てることはできなかった。

 

「……よし、今日はもう良いだろう」

「はぁっ……はぁーっ……ありがとうございましたぁ……」

 リオは汗を拭うと、水筒から水を飲んだ。

 

「ニシキ、お前からも何かあるか?」

「いや……なんつーか……二人とも強過ぎじゃないっすか? 四方さんが凄いのは俺も訓練してもらってるんで知ってますけど、リオってヒナミと歳1つしか変わんねぇのにコレだけできるってのが末恐ろしいっつーか……流石15区の喰種っつーか……」

 

 15区ってやっぱ地獄だなと、ニシキは一人呟いた。

 

──────────

 

「お疲れ様でしたー」

「あぁ、お疲れリオちゃん。気をつけて帰ってね」

 

 あんていくでの仕事を終え、リオは帰宅……せずに14区へ向かっていた。カオリから『Helter Skelter』に『ジェイル』の情報が来ていると教えられたためである。

 

 

 14区に到着し、バーへ向かって歩いていると、()()()()()()が聞こえてきた。

 

─────カツン……カツン……

 

 それはリオが喰種収容所(コクリア)に居た時。尋問が始まる合図。それは、准特等捜査官『キジマ式』の義足が立てる音……!

 

─────カツン……カツン……

 

 物陰からのっそりと、ツギハギだらけの顔をした義足の捜査官、キジマが姿を現した。

 

(ひっ……だ、大丈夫……今の僕は女の子……キジマが分かるわけ無い……怪しまれないように通り過ぎれば良い……)

 

 キジマとリオの距離が少しずつ縮まり……。

 

 そのまますれ違った。

 

(ふぅ……)

 

 バレなかった事に安堵し、ふと後ろを振り返る。

 

 

 

─────目の前に、キジマがいた。

 

「ひぃっ……!?」

「ヒヒヒ……キヒヒヒヒヒッ!! 遂にぃ……見ぃつけたよぉ……リオくぅーん!! 女の子のフリをしてたんだねぇ……? でもねぇ、私とリオくん程の仲なら……ニオイで分かるんだよぉ……? さぁ……コクリアに仕舞っちゃおうねぇ……」

「うわああああ!!!」

 

「おやぁ……逃げたって無駄だよぉ? 私は必ず君を捕まえるからねぇ!!」

 

 リオは全力で逃げた。共食いで強化された身体に、四方から教わった体捌きが加わった疾走により、あっという間にキジマは見えなくなった。

 

「はぁ……はぁ……ニオイで分かる……? 香水……姉さんに貰っておこうかな……」

 

 キジマが追ってこない事を確認し、リオは再び『Helter Skelter』に向けて歩き出した。

 

 

 

「こんばんはー……」

「はい、いらっしゃー……リオっち、よね? ひぇーっ、これもう元のニオイ知らなかったら性別分かんないわ……見た目どころかニオイまで女の子じゃん……あ、注文どうする? 血酒要る?」

 

 イトリは変わり果てたリオの姿に驚愕しつつも、リオに注文を尋ねた。

 

「えっと……コーヒーだけで良いです。それと『ジェイル』についてお願いします」

「はいよー。ちょっち準備すっから、座って待っててー」

 

 イトリはカウンターの向こう側にある部屋へと入っていき、1枚の写真を持って戻ってきた。

 

 

 

「コーヒー作りながらだけど説明するわね。コイツの名前は『ルチ』。18区に住んでる喰種で、捜査官殺しもやってるレートAの羽赫。最近どんどん力をつけてて、もしかするとそろそろSレートになるんじゃないかって噂もあるわね。目元には『格子状の()()』があるから、もしかしたらその『ジェイル』の可能性があるってワケよ」

 

 灰色の髪の毛に、革のジャケットを着た細い体躯。顔の左部分には格子状の入墨がある男が写真に写っていた。男は厭らしい笑みを浮かべており、いかにもチンピラ然とした見た目だ。

 

「刺青……ですか? アザじゃなくて?」

「キジマがどんな状況で『ジェイル』を見たか分かんないじゃん? 刺青をアザと見間違えた可能性もあるわよね? ほいコーヒー」

 

「ありがとうございます……この写真は貰っても?」

 リオはコーヒーを飲みながら、その写真を眺めた。

 

「ダメよ? この写真は他にも使い道あるかもしんないし」

 写真は持ち帰れなかったため、リオはルチの姿を頭に叩き込んだ。

 

「覚えました。コーヒー、美味しかったです」

「せいぜい頑張りなー。ま、あたしの見立てならルチよりもリオっちの方が強いだろうし、余裕だとは思うけどね」

 

 リオはコーヒーの会計を済ませると、15区の家に帰った。

 

 

 家には明かりがついておらず、カオリは居なかった。

 

「あれ……? 姉さんはこんな遅い時間に外出……あ、メモがある」

 

 メモには『ペニーワイズといっしょにゴミすてばの向こうにいる。先にねてて、朝までにはかえる』と書いてあった。

 

「あはは……小林さんは共食いさせられてるのかな……頑張って、小林さん……」

 

 24区で苦痛にのた打ち回っているであろう小林に手を合わせ、リオはお風呂場へ歩いていった。

 

 

 

「ぎひぃ……! ひゃぁ……アッヒャヒャヒャヒャァッ!!」

 

 24区にて、小林は狂ったように笑っていた。

 

「ふふふ……さぁペニーワイズ! 24区で取れた子供の赫包はどう? とっても不味いよねー。科学的な味がするよねー? でも、今のペニーワイズには多分最適なハズだよー? さぁ、浮上しようペニーワイズ!」

 

 Rc細胞の異常活性により、全身から血を流しながら踊り狂う小林を、カオリは(たの)しそうに眺めていた。

 

「キキキ……あぁ、新しい顔だよォ! 美味しい美味しい脳味噌の詰まったアンパンだよォ!! ヒャハハハハァッ!!」

 

「ふふっ! 今はジャムのおじさんじゃなくて、ペニーワイズなんだけどなー! でもまぁ面白いからいいやっ!」

 

 踊る道化師の夜は、まだまだ続く……。

 




 し ま っ ち ゃ う 捜 査 官(おじさん) 
中の人ネタ(ノ´∀`*)


☆原作JAILと違う点
・仕事:原作では接客も裏方もまるでダメ。本作はカオリ達との練習のおかげで、バッチリこなす。

・掃除:原作ではロマではなくトーカちゃんがいるため、トイレ掃除はニシキパイセンが担当した。

・訓練:羽赫以外の赫子使用制限&四方が電撃解禁。

・ニシキ:原作と違ってリオちゃんが優秀な女の子(♂)なので、ニシキパイセンが優しい。

・ロッカー:原作にヒナミちゃんのロッカーがあるかは不明。でもヒナミちゃん看板娘っぽいことやってたし、多分あるんじゃね?


※お詫び
今回の後書きに、後々のネタバレを書いてしまっていました。
投稿前に削除したと思っていたのですが、削除できてなかったようです。
6/9正午、該当の後書きは削除しましたが、6/9の午前中に本話の後書きを見てしまった方へ、深くお詫び申し上げます。
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