あんていくに出勤しない日、リオは『町屋』という駅に来ていた。
町屋とは18区のほぼ中央に位置する駅であり、ここからリオはルチの探索を始めていく。
カオリが同行していないため、フレディの衣装を借りることができなかった。そのため、リオは白と黄色の縞々ワンピースと水色のジャンパーを着ている。その姿はどこから見ても少女であった。
「よし、まずは喰種が居そうな場所を探そう……」
リオは黄色睡蓮のバイザーマスクをつけ、路地裏へと入っていった……。
「あの……すみません……ここにルチという人は居ませんか?」
リオは路地裏に
「アァん? そのマスク……喰種か。嬢ちゃんはどこのどいつだ? 確かにここはルチの兄貴の喰場だが……」
(よっし、いきなりビンゴ!)
「では、ルチのもとまで案内してくれませんか?」
「おい嬢ちゃん、ふざけてんのか? 余所の喰種をホイホイ案内できるわけねぇだろ! 帰れ帰れ!」
男達はリオを案内する気は無かった。
「そうですか……じゃあ貴方達を痛めつけたら、ルチは貴方達を助けに来てくれますか……?」
小さな少女のふざけた挑発に、男達の怒りは頂点に達した。
「あ゛ぁ゛!? ナメてんじゃねぇぞこのメスガキィ! 大人の怖さ理解できてねぇみたいだなゴルァ!!」
男の一人がリオへ殴りかかるが、その動きはあまりにも遅い。
(四方さんのパンチと比べたら、まるで止まって見える……これなら……)
リオは片手で男の拳を掴み取り、もう片方の手で男の肘を掴んだ。
「あぁッ? 離せやこのっ……! 離せぇ!!」
男はリオを振り解こうとするが、リオは全く動じない。
「ギャハハハ! お前ガキ相手に手加減してやってんのか? お前お人好しかよ!!」
「いや待て、アイツマジでやってないか?」
「バッカおめぇ何言ってんだよ。アイツがあんなガキの細腕振り解けねぇワケが……」
その時、鈍い音と肉の弾ける音が鳴り響いた。
「あぁ……ぎぃやぁぁああああ!! 俺の腕が……腕があああああ!!」
リオは男の右腕を捻り折った。腕は曲がるはずのない場所が曲がり、男は激痛に地面をのた打ち回る。
「テメェ良くも仲間をッ!!」
「待てよっ! そのガキなんかやべぇぞ!」
仲間の忠告を無視し、1人はリオへと走ろうとするが……。
「遅過ぎですよ?」
その男の目の前にリオがいた。リオはそっと男の頭を掴み……。
「良い
男の頭を地面に叩きつけた。二種類の砕ける音が響き渡り、男はアスファルトに沈む。
「く……俺一人じゃ勝てねぇ……だけど……ここでお前を少しでも消耗させてやらぁ!!」
男は鱗赫の赫子を2本出し、リオへ飛びかかる。
「少なくとも姉さんの甲赫よりも速い赫子じゃなければ、僕にはあたりませんよ」
リオは鱗赫を躱し、男の側頭部を蹴り上げる。リオのハイキックが男の頭をとらえた時、一瞬スカートが垣間見えた。
(あ、しましま……)
男の意識はそこで途絶えるが、その顔はどこか幸せそうであった。
3人の男達を倒したリオは、路地裏の奥へと進んでいき、ついに目的の人物を発見した。
「久々に俺の喰場を荒らしに来た命知らずが、まさかこんな小せぇガキだとはなぁ……『ブラックドーベル』ナメんじゃねぇよ!!」
灰色の髪に、目元に格子状の刺青を持つチンピラ然とした男が激昂している。
「聞きたいことがある。ルチ、あなたは『ジェイル』か?」
リオはルチに『ジェイル』かどうか尋ねた。
「は? 俺の言ったこと聞こえてねぇのか!? 『ブラックドーベル』だっつってんだろうがよォ! ……それに、俺も聞きてぇ事がある。テメェ……どこのモンだ?」
「どこのモン……? えっと……15区?」
「15区だと……ッ!!」
リオが15区と口にした途端、場の空気が一変した。ルチの目は赫眼に変わり、ルチの部下達も各々戦闘態勢をとりだす。
「テメェら、相手はただのガキじゃねぇ……レザーフェイスだ!! ……絶対コイツから目ェ離すんじゃねぇぞ……目そらしたヤツから死ぬと思え!!」
ルチはリオをカオリと間違え、全力で警戒していた。
「知ってるんですか?」
「ハッ! 当たり前だ!! テメェがいるせいでなぁ!
ルチは勘違いをしている。リオはレザーフェイスでは無いし、『姐さん』と慕う喰種が組織を抜けたのはカオリのせいではない。
しかし、それを指摘するモノは誰もおらず、戦いの火蓋は切られた。
「先手必勝! 死ねやレザーフェイス!!」
リオはマスクに内蔵されたカメラの録画を始めながら、水色の甲赫をタワーシールドのように構え、ルチの羽赫を防いだ。
「チッ……姐さんから聞いた通りのヤベェ甲赫か……テメェら! あの甲赫は自在に変形するぞ! 下手に近寄りすぎるな! 囲んで殺せ!! それと尾赫も使うハズだ!! 甲赫ほどヤバくはねぇらしいがそっちも警戒しろ!!」
(尾赫を使っても意表はつけない……じゃあ尾赫は使っちゃおう)
リオは大蛇のような灰色の尾赫を展開し、近付く敵を薙払って行く。例え警戒していたとしても、戦闘能力の低い喰種ではどうしようもなかった。
「クソっ……お前ら一旦下がれ! 俺が前に出る! お前らは合間を縫って援護しろ!!」
(今だっ!)
部下が距離を離そうとした瞬間、リオは羽赫を展開し、ルチの部下達へ水晶の弾幕を放つ。完全に油断していた部下達は、次々に炸裂する水晶の餌食となり、出血に苦しむこととなった。
「ハァ!? 羽赫だとッ!? 知らねぇぞこんな……ッ!?」
意表を突かれ、ルチの思考が止まる。その隙にリオは尾赫を叩き込むが、寸前でルチは尾赫を躱した。
「あ、あぶねぇ……クソっ……! このままじゃ……やらせねぇ……俺の仲間をッ! テメェに食わせたりしねぇ!!」
ルチはリオに向かって吠える。その声に応えるように、ルチの部下達も起き上がっていく
「俺達もだぜ、ルチの兄貴……」
「あぁ、ルチさんは絶対食わせねぇぞレザーフェイス……!」
「ブラックドーベルの本気、見せてやらぁ!!」
部下達はリオを取り囲んで行く。
(面倒だな……殺しちゃえば楽になるのかな……でも……)
リオはカオリによる殺戮を何度か見ており、相手を痛めつける事に抵抗は無くなったものの、殺すことにはまだ若干の抵抗があった。
─────その時、ルチ達の後方に、見慣れない喰種が居ることに気が付いた。ルチの増援かと思ったが、次の言葉でルチの仲間では無いと理解した。
「あなたがルチですか?」
その喰種は片目を隠した青年であった。歯茎をモチーフにしたマスクを被り、その髪は真っ白である。
ルチの髪も比較的白いが、ルチのように染めた灰色ではなく、その青年は毛根から白い。そんな髪の色であった。
「なんだ!? こちとら取り込み中だ!! 後にしろ!!」
ルチはリオから目を逸らすことなく、後方にいる青年へ怒鳴る。
「大量捕食、捜査官殺し、喰場争いで喰種も殺している……」
青年はそう呟き、ルチの部下達を殴り倒して行く。
「クソっ……挟み撃ちはヤベェ!! お前ら少し耐えててくれ!! 俺は男の方を先に殺してくる!!」
ルチは青年へ振り返ると、羽赫を掃射しながら青年へと突っ込んでいく。
「クズ豆は……摘まないと」
青年はルチの赫子を躱し、ルチへ一気に迫る。あまりの速さに驚くルチに、青年は強烈な回し蹴りを放った。
「グベェッ!!」
ルチは潰れた蛙のような悲鳴を上げながら、廃屋の壁へめり込んだ。
(この人……強い!)
赫子すら使わず、一撃でルチを倒した。その事にリオは警戒を強めるが、青年はリオではなく、周りの喰種達を次々に殴り倒していく。
そして、遂に立っている喰種はリオと青年だけになった。
(素早い相手、赫子は不明……羽赫で先制する? 甲赫で様子見? どっちにしよう……)
青年とどう戦うか考えているリオであったが、青年はリオに優しく微笑みかけた。
「キミ、大丈夫だった?」
「……え?」
てっきり攻撃が来るとばかり考えていたリオは、青年の言葉に思考が止まった。
「彼らに絡まれていたみたいだったからね。怪我は無い?」
青年はリオがルチ達に襲われたと考えているようであった。
「あ……はい……? 怪我はありませんけど……別に襲われてたというか、襲ってたというか……」
「……?」
煮え切らないリオの言葉に、青年は首を傾げている。
「それでは……この人は頂いていきますね」
「……えっ!? ちょ、ちょっと待ってください! それって……」
青年はあろうことか、ルチを持っていこうとしていた。
「僕は彼を食べます。正確には、彼の赫包をですけど」
「こ、困ります! 彼は僕にとって必要な人なんです! 食べるなら、その前にして欲しいことがあるんです!」
リオは、ルチを連れていこうとする青年に待ったをかけた。
「(僕っ子……)えっと、彼にして欲しい事があるのかな? もし何か事情があるなら、僕も手伝うよ?」
リオに尋ねる青年は、強くもどこか優しい雰囲気を纏っていた。それは『あんていく』の空気を彷彿とさせた。
「僕の大事な人……兄さんを助けるために必要なんです」
「お兄さんを助ける……?」
「はい。兄さんは『ジェイル』という悪い喰種と間違われ、コクリアに囚われています……なので本当のジェイルを僕が捕らえて、
青年はリオの言葉を聞き、何やら考えるような仕草をしている。
「『ジェイル』……か。彼がジェイルかどうかは分かる?」
「いえ……捕まえてから聞き出そうかと思ってまして……」
あまりにも無計画なリオに青年は唖然としたのか、何やら微妙な空気になってしまった。
その時、青年の後ろから、ガスマスクを付けた3人と、筋肉質な大男が走ってきた。
「後ろ、新手が来てます! 気をつけて」
「大丈夫、彼らは僕の味方だよ」
リオは青年に注意を呼び掛けたが、どうやら青年の仲間であった。
「おーいカネキィ! もう終わっちまったのか?」
大男が青年に向かって叫んだ。
(カネキ……僕が働く少し前にあんていくを辞めた人の名前と一緒だな……)
「まぁ良いんじゃないっスか? バンジョーさん居ても意味なかったでしょうし」
「まーカネキさんと比べたら……ねぇ?」
「そうそう」
「うるせぇぞイチミ、ジロ、サンテ!!」
ガスマスクの三人組が囃し立て、大男ことバンジョーが怒鳴り返す。
「悪ィカネキ、ちょっと事故って遅くなった……誰だソイツ、迷子か?」
青年ことカネキの後ろに立つリオを、バンジョーは迷子だと考えたようだ。
「いえ、僕より先にルチと戦っていたんです」
「へぇ……まだ小せぇのにすげぇな」
「今、この子から話を聞いていたんですけど、バンジョーさんは『ジェイル』という喰種を知っていますか? 僕に心当たりは無くて……」
カネキはバンジョーに『ジェイル』という喰種について尋ねた。
「じぇいる? 宝石みたいな名前だな」
バンジョーはあろうことか、15区の化物と全く同じ答えを導き出した。
「そりゃジュエルっすよ?」
「バンジョーさんもうちょっと本読みましょうよ」
「そうそう」
「うっせぇ!! じゃあお前ら『じぇいる』って何だか分かんのか?」
ガスマスク3人組のツッコミを受け、バンジョーは尋ね返すが、ガスマスクの3人組はそろってそっぽを向いた。
「……ジェイルとは英語で『牢獄』や『檻』という意味を持ちます。それで、ルチはジェイルと呼ばれていたんでしょうか?」
「サンキューカネキ。いや、聞いたことがねぇな」
バンジョーは、ルチがジェイルと呼ばれていたことは無いと告げた。
「ルチがジェイルかどうか、どうすれば判断がつきますかね」
「あー……
バンジョーは土台無理な例えを出すが、カネキは『それだ』と口にした。
「さっきキミは『アイツ』って言ってたよね? 交渉する相手が……いるんだよね? その相手は……喰種捜査官かな?」
「はい。『キジマ
カネキは『キジマ……キジマしき……』と呟いている。
「バンジョーさん、とりあえず月山さんに聞いてみましょう。月山さんなら、何か知っているかもしれない。ひとまずはルチを連れてアジトまで行きましょう。残党がいたら面倒ですからね」
「おう。何もできなかった分、ルチは俺が持っていくぜ」
バンジョーはルチを大きなトランクに詰めると、トランクを抱えながらその場を後にした。
(ついて行くしかない……かな……)
リオはカネキ達の後をついていった。
な ん か 犬 っ ぽ く ね ぇ な ぁ ( 羽 赫 )
カオリは自分と一緒の時でないと、殺人鬼衣装を貸してくれません
今更ですけど、JAIL編はゲームしかやったことないです。原作との相違をあれこれ書いてますが、書籍版と違ってたらごめんなさい。
Q.ルチがいう姐さんって誰よ?
A.あんていくの古参従業員『入見カヤ』です。ルチのサブイベをコンプリートしないと分からないため、既プレイヤーでも知らない人いるんじゃないかしら?
☆原作JAILと違う点
・ルチ:原作は迷い込んできたガキを甚振ってやろう程度の認識だったため油断している。しかし、本作ではリオを
・カヤさんが組織に戻ってこない理由(ルチの主観):
原作の理由『あんていくに無理やり従わされている』
本作の理由『15区の化物レザーフェイスから20区を守るために、姐さんは20区を離れられない』
・リオ:原作と違い、ガッツリ共食い経験者であるため、カネキの共食い発言に驚かない。
・カネキ:リオがヒナミよりちょっと大きいくらいの女の子にしか見えないため、原作と話しかけ方が若干違う。