花屋喰種   作:みぞれアイス

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6話でまるっとカットされたあの人、月山さん初登場です。


第22話 HOW CLOSE YOU ARE 《Side.リオ》

 ルチの縄張りから離れた路地裏にて、バンジョー達は休憩を取っていた。例え喰種であろうとも、大の大人を運ぶのは、なかなか骨が折れるのである。

 

「キジマへ安全にコンタクトを取れる方法を、僕らのアジトで調べます。ルチを確保した上で、彼がジェイルかどうかキジマへ確認して貰えばいい」

「あの……どうしてここまで協力してくれるんですか……? 僕があなたに差し出せるものは、()()()()()()のに……」

 

 リオはカオリの協力を得る対価として、自身の体を奪われた。服も、金も、住む場所も、食事も、全てがカオリの所有物であり、体さえもカオリの所有物となった今、リオの差し出せるモノはもはや何もない。

 

「お兄さんを助けたいんだよね? 僕がキミに協力する理由は『お兄さんを助けてもらいたいから』だよ」

「……え?」

 それはあまりにもカネキにメリットが無い。リオはそんな対価で良いのかと困惑した。

 

「奪い奪われるより、助け合う方が素敵じゃないかな? 僕は『金木研』。キミの名前は?」

 カネキはマスクを外して微笑み、右手をリオに差し出した。

 

「あ……」

 

 それは温かみ。どこか狂った15区(じたく)には希薄で、20区(あんていく)には色濃くあるもの。

 

 優しい兄の姿が、カネキと重なって見えた。

 

 

「はい! 僕は花村リオです」

 

 カオリには本名をなるべく語るなと言われているが、リオはカネキ達なら信頼できると確信し、本名を告げる。

 黄色睡蓮のバイザーマスクを外し、リオはカネキの手を握った。

 

「おっ、握手か! なんか良いよな、こういうのってよ」

 握手する二人を、万丈は楽しそうに眺めていた。

 

──────────

 

 6区の閑静な住宅街にある一軒家のひとつ。カネキ達のアジトはそこにあった。

 

 数ヶ月前のリオならば、一軒家を持っているカネキ達に感動を覚えただろう。しかし、カオリと共に暮らすようになった今、特に感じ入る事は無かった。

 

「おかえり! お兄ちゃ……あれ? お客さん?」

 家の中から、リオよりも少し小さな少女が出迎えた。

 

「おうヒナちゃん、こいつはリオ」

「初めましてリオさん、私は笛口ヒナミです。あの……よろしくお願いします」

 

 リオはその名前に心当たりがあった。

 

(たしか……あんていくを辞めた看板娘……なら、やっぱりカネキさんは20区のカネキさんなのかな)

「花村リオです。よろしくお願いします」

 ヒナミのお辞儀に合わせ、リオもお辞儀を返した。

 

「バンジョーさん、可愛い少女達が自己紹介しあうのって、なんかこう……グッとくるものがないッスか?」

「イチミ……お前それは気持ち悪いぞ?」

 

 ガスマスクの一人に万丈がツッコミを入れていると、部屋の奥から背の高い青年が現れた。

 

「やぁカネキくん、それにバンジョイくんと愉快な仲間達の諸君。お邪魔しているよ」

 

 その青年は整った顔立ちこそしているが、紫色の髪の毛と、派手な柄の服が強烈なインパクトを放っており、黙っているにも関わらず、うるさそうなイメージをリオに与えた。

 

「月山さん……来るときは連絡してください」

「おやおや、これはMistake(ミステイク)。以後気をつけさせて頂くよ」

 

 うるさそうな青年こと月山は、独特のポーズを取りながらカネキに謝罪した。

 

「ヒナちゃん……不審者を家に上げちゃダメじゃないか……」

「えぇ……? ごめんなさい……」

 ヒナミは月山を知っているから家に上げたが、万丈はそういう認識ではなかったらしい。ヒナミはしぶしぶ万丈に謝った。

 

「フフ、バンジョイくん。リトル・ヒィナミが可哀想じゃないか。そ・れ・に……勝手知ったる友を、不審者とは呼ばないのだよ?」

「お前は勝手知ったるんじゃなくて、好き勝手してる。だろうがよ……」

「アッハ! Unique(ユニーク)!!」

 

 月山は上半身をひねりながら、謎のポーズをとる。その様はとてつもなく(やまか)しかった。

 

「ただ今日はちょうど良かった。頼みたい事があったんです」

「ふむ、なんなりと申し付けてくれたまえよカネキくん。ただその前に……そこのお嬢さんを紹介して貰えないだろうか。(あるじ)の客人は、主の剣である僕の客人でもあるからね。こんにちはお嬢さん、僕は月山(しゅう)。よろしく頼むよ」

 

 月山はリオに、一輪の花を手渡した。月山から渡された花は、リオの知っている花であった。

 

「あ、ありがとうございます。フリージア……親愛ですか? 僕は花村リオです。よろしくお願いします」

 

 リオは月山にお辞儀をする。リオが顔を上げると、とても複雑そうな顔をしていた。

 

「あの……月山さん?」

「……すまないねリトル・リィオ……つかぬ事を聞くけど……キミの姉君(あねぎみ)にカオリという女性は居るかい?」

「姉さんの知り合いですか? ……あ、実の姉では無いですよ? 2ヶ月前姉さんに拾われて、花村の苗字を貰いました。」

 

 リオがそういうと、月山は神妙な顔付きに変わった。

 

「ふむ、花村氏が……? そうか、キミとはぜひ仲良くしておきたいね」

「……月山さん、その花村カオリさん? って方と知り合いなんですか?」

 カネキは『花村』の名前を持つ喰種に心当たりがない。しかし、月山の知り合いということは、カネキにとって捕食対象(わるいグール)なのではないかと考えた。

 

「ちょっとした……ね。芳村氏とも交流がある喰種さ。カネキくんも知らないだけで、どこかで出会っているかもしれないね? それでカネキくん、頼みごととはなんだい?」

 

 芳村とも交流のある喰種。ならば問題ないと判断したカネキは、それ以上の追及をやめた。

 

「ある喰種捜査官へ安全にコンタクトを取りたいんです。捜査官の名前はキジマ式」

「それはまたMystery(ミステリー)。一体なぜだい?」

 

「月山さんは『ジェイル』という喰種を知っていますか?」

「Non」

「ルチがそのジェイルかどうか、キジマへ確認を取りたいんです」

「随分と奇妙な頼みごとだねカネキくん。もしやそこにいる少女のためかな?」

 

 月山はリオを見つめている。

 

「ええ、彼女の囚われたお兄さんを助けるために必要なんです」

「フフフ……まったくキミという主は……そうだね、一般の電話回線を使わない通信端末が要るだろう。画像や動画も添付できるものが良い。キジマ式……少し調べてみよう……こういうモノはCCG公式ホームページの情報募集の項目から……」

 月山はタブレット端末を使い、調べ物を始めた。

 

(姉さんのよりも大きな『携帯電話』……調べ物には便利そうだけど、あれじゃポケットに入らないし、電話もしづらそうだなぁ……)

 リオはカオリの家にある『携帯電話』もといスマートフォンしか知らないため、月山のタブレットは非常に不便そうに見えた。

 

Complete(コンプリート)。キジマ式は数年前から『ジェイル』の情報を募集しているようだね、御丁寧に直通の電話番号とメールアドレスまで載っているじゃないか。リトル・リオ、これを使いたまえ」

 

 リオが月山から受け取ったモノは、リオの良く知る『携帯電話』だった。

 

「僕からキミへのPresent(プレゼント)だ。今後もキミが持つといい」

「姉さんが言ってましたけど、こういうのは()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないですか?」

「フフフ、リトル・リィオ……僕がそんな事すら知らないと思っているのかい? これは僕の家が抱えているSuperHacker(スーパーハッカー)の喰種が開発した優れモノさ。こちらに足がつくことは一切無いと断言しよう」

 リオはスーパーハッカーという言葉の意味は分からないが、足のつかない凄い携帯電話であるということは理解した。

 

「ありがとうございます! 使わせて貰いますね!」

 リオはマスクについているUSB端子とスマートフォンを接続し、メールを書き始めた。

 

『キジマへ 動画の男はジェイル?』

 短い文章と共に、戦闘中撮影した動画を添付し、キジマへメールを送った。

 

「よし、これで後は返事を……うわっ、もう来た!」

 

───

親愛なる情報提供者様

 

いつもお世話になっております。

CCG准特等捜査官 キジマと申します。

 

情報提供、深く御礼申し上げます。

誠に恐れ入りますが、この喰種は

赫眼や赫子の形状から判断し、

ジェイルでは無いことを確認致しました。

 

私は誰がジェイルかを存じております。

 

ゆえに、情報提供者様は

ただちに23区のコクリアまで来い。

今からお前の兄の指を切断する。

───

 

 最初こそ丁寧な文であったが、最後にはメールの主がリオであると確信しているかのようなメールが返ってきた。

 

「ば……ばれてる……どうしよう……兄さんが拷問されてる映像が送られてくるかも……」

 

 リオの不安を余所に、キジマはこれ以降メールを送ってくることは無かった。

 

 

 

「ルチはジェイルじゃなかったんだね……それじゃ、ルチは貰うね? バンジョーさん、ルチはどこに置いてます?」

 

「あん? そこのカバンに……あれ? カバンが開いてるぞ……? おいイチミ! ルチどこやった?」

「ジロ知ってるッスか?」

「知らない。サンテは?」

「知らなーい」

 

 どうやらルチはこっそりと逃げていたようだ。見てなかったと謝る万丈を、カネキは笑って許した。

 

「また捕まえれば良いだけですから。それでリオちゃん、これからはどうするの? アテはある?」

「いえ……またイチからジェイル候補を探します」

 Helter Skelterから貰った情報は、ルチのことだけである。今のリオに次の手掛かりは無かった。

 

「そっか……リオちゃん、僕らは大量に人間を捕食したり、無駄な殺しをやるような、凶悪な喰種を狙ってるんだ」

 

 カネキの言葉に、リオはギクリとした。大量の捕食、無駄な殺し、凶悪な喰種。最初の2つは世間に発覚していないとはいえ、それらは全てカオリの特徴と当てはまる。

 

「例えば『アオギリの樹』のような。もしもアオギリの情報を手に入れたら、僕のもとまで持ってきて欲しい。お互い協力しよう。僕らもジェイルらしき喰種を見つけたら連絡するよ。僕が狙う喰種の中に『ジェイル』がいるかもしれないからね。『ジェイル』の特徴を教えてくれる?」

 

 リオはカネキに『ジェイルは目元に格子状のアザを持つ喰種。ただし、本当にアザなのかは不明』と告げた。

 

「ジェイルについての情報はそれだけです。性別すら分かってなくて……それとカネキさん、凶悪な喰種を狙ってるってことは……1()5()()()()()()……ですか?」

 

「15区の喰種……『レザーフェイス』の事かな? そうだね……僕の目指すものは、あの人が居る限り届かない……いつかは、倒したいな」

 

 リオはカネキの目指すものを尋ねようとしたが、やめることにした。その後は特に話も無かったため、解散の運びとなった。

 

 

(いつかは戦うことになったとしても……それまでは、カネキさんたちと仲良くしたいな……あ、しまった。あんていくの事聞き忘れた……)

 

 6区のアジトを出た後、リオは一人、そんなことを思っていた。

 

──────────

 

 

「待ちたまえ、リトル・リオ」

 リオが駅に向かって歩いていると、後ろから月山が走ってきた。

 

「月山さん……? どうしたんですか?」

「我が主達の前では詳しく話せないからね、改めて自己紹介しよう。僕は月山習。『美食家(グルメ)』という肩書を持つ者さ。キミの姉君からは不本意ながら『しゅーちゃん』と呼ばれているがね……」

 

 その呼び方はリオにも心当たりがある。それは小林が食事に対して過剰なリアクションを取っていた時の事……。

(『小林さん、大げさだなー。『しゅーちゃん』みたいだよー?』)

 

「えっと……食事に対して大げさなリアクションの人……?」

「Non! 僕は美食に対して正直な気持ちを表しているだけさ。花村氏の食事は素晴らしいだろう? 僕も以前に()()()()()()()()()()から、花村氏が自ら処理した肉を分けて貰ったことがあるんだけどね……それはもう美味しかった。僕の屋敷にも素晴らしい料理人達はたくさんいるけど、彼女ほど食材を完璧に下処理できる喰種は居なくてね……キミが羨ましいよ」

 

 月山は過去を思い出しているのか、どこか遠い笑みを浮かべている。

 

「今度連れてきましょうか? それにもう一人、料理の上手な仲間がいるんです。姉さんの下処理に、こ……ペニーワイズさんの料理があわさると、本当に美味しいんですよっ!」

 リオは『小林』と言いそうになったが、小林が月山の知り合いとは限らない。名前を出すのはやめることにした。

 

「(ペニーワイズ……?)いや、その申し出は遠慮しよう。というか止めてくれたまえリトル・リオ。花村氏は困ったことに『僕の肉』に興味を示していてね……確かに僕は僕自身を食べたことがあるけど、事実美味しかった。そんな僕に花村氏が無傷(タダ)で食事を振る舞ってくれるとは思わないさ。『喰種なのに美味しい』と知れたら、花村氏が放っておくと思うかい?」

「……いえ」

 

 カオリは共食いをメインに行う喰種である。毎日の食事においても、カオリだけは喰種の肉を食べている事が多い。喰種なのに美味しいという存在がいれば、間違いなく自宅の地下にある冷凍庫へ仲間入りを果たすだろう……。

 

 

「本題だけど、キミに聞いておきたいことがあってね。花村氏……キミの姉君(あねぎみ)は何を考えてキミを殺していない(生かしている)んだい?」

「……はい?」

 

 リオは月山が何を言っているのか分からなかった。

 

「僕が知る限り、花村氏は仲間なんて作ったことがない。僕の知る限り、かつての15区にいた喰種も、外部から勧誘に来た組織も軒並み捕食している……今でも15区で生きてるなら話は別だが、15区にキミと姉君、そのペニーワイズなる人物以外に喰種は存在しているかい?」

 

 過去、15区に複数の喰種集団が入っていくのを、月山家の情報網は把握している。だが、出てきたところは確認できていない。

 

「いえ、ペニーワイズさんは15区に住んでないので、15区に居るのは僕と姉さんだけです」

「ふむ、やはり全員捕食されている訳か。ならば尚の事、キミとペニーワイズなる人物が、何故花村氏に仲間として受け入れられているのかが分からない」

 

 リオはなぜカオリが自身を拾ったか分からないが、カオリは良くリオが『赫子四種持ち』であることを褒めていた。

 

「多分……僕は赫子だと思います。ペニーワイズさんは……多分料理と運転?」

「赫子……か。確かに花村氏は過去、僕を痛めつけながらこう言っていたよ……『喰種の強さは赫子が全て。赫子がバイクのエンジンなら、Rc細胞はガソリン』だとね……キミの赫子が気になるけど、藪からSnake(スネーク)になりそうだからやめておくよ、ひとまずキミの理由はわかったからね」

 

「月山さん、僕からも聞きたいことがあります。どうしてカネキさんは『あんていく』を離れたんですか? あそこは姉さんに『羽赫の最高峰』と言わせるだけの強さを持つ店長や、僕ではまだ勝てない四方さんがいます。それに、僕は詳しく知りませんけど、古間さんや入見さんも強いと聞きます。カネキさんは強さを求めているんですよね? なら尚の事『あんていく』から離れる理由がありません」

 

 その言葉に月山は、フフッと笑みをこぼした。

 

「簡単なことさリトル・リオ。我が主は『不殺の梟』が君臨する『あんていく』さえも守る強さを欲しているのさ。そんなカネキくんだからこそ、この月山習が仕えるに値するというモノさ……ではSalut(サリュー)、また会おうMademoiselle(マドモアゼル)。その携帯には僕の電話番号やメールアドレスも入っている。何かあったら連絡を寄越すといい」

 

 月山はリオにウインクをし、来た道を戻っていった。

 




 や ぶ か ら ス ネ ー ク 
ルー月山になっているような気がしなくもない。

カオリは美味しい喰種を知りません。
だって11区の離れでは、カネキくんよりもヤモリさんの血の匂いがしてましたから……。


■6区メンバーの認識
カオリがレザーフェイスであることを
 月山:知ってる
 金木:知らない
 万丈:知らない
 雛実:知ってる

カオリの苗字が『花村』であることを
 月山:知ってる
 金木:覚えていない
 万丈:知らない
 雛実:覚えていない

外部の人の名前なんて一々覚えてませんよね。
記載こそしていませんが、カオリが仕事休みの日は別の人が花を卸していたので、尚の事印象が薄いんです。

つまり、リオちゃんの背後に存在(カオリ)が居ると気付いているのは月山さんだけです。



☆原作JAILと違う点
携帯:アドレス帳000番に『MoonMountain』が入っている。

カネキ:当然レザーフェイスも倒す対象。ただし実力差は理解している。

今回はそこまで原作と大きな違いはないです。月山さんに焦点が多めにあたってるくらいでしょうか?


次回、共食いの副作用
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