花屋喰種   作:みぞれアイス

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今回は第二のジェイル候補こと、キンコ戦です!
キンコ戦は、原作だと喰種レストラン戦よりも後のサブイベントなのですが、本作では先にキンコと戦ってもらいます。


第26話 脱走囚に花束を 《Side.リオ》

 別の日、リオは銀座の街に来ていた。銀座や築地などが有名な2区は人の数が多く、どことなくリオを不安にさせた。

 

(す、凄い人の数だ……みんな何しに来てるんだろう?)

 リオは人混みの中、街を行く人々を観察する。どうやら銀座には買い物をするために来ているようだと分かった。

 

(僕も何か見ていこうかな?)

 リオは人の出入りの多い、大型ショッピングセンターへと入っていった。

 

 

(た……高い……なんで時計がこんなに高いんだろう……? 携帯電話があれば時間分かるし、わざわざ要らないんじゃないかな?)

 

(この服はなんでこんなに値段がするのかな? 姉さんが僕に買ってくれる服は、『ふりる』や『れーす』の作りが複雑だから高いって言ってたけど、この服はただのシャツなのに……?)

 

(うっ……財布の値段が凄い……姉さんは材質で金額が変わるって言ってたっけ? 材料は何で出来てるんだろう? 喰種の皮で作られてたらやだなぁ……でも喰種の皮って丈夫だし、案外使われてるのかな……?)

 

 喰種社会には喰種社会の見栄があるように、人間社会には人間社会の見栄がある。人間社会に紛れて生きる経験の浅いリオには、まだ分からなかった。

 

(あ、このブローチいいな。あんまり高くないし、買っちゃおっと)

 リオはヒマワリのブローチを購入すると、ショッピングセンターを後にした。

 

(よしっ、じゃあキンコを探そう。近くの公園はどこにあるのかな……?)

 ワンピースの胸部分にヒマワリのブローチを付け、リオは2区の公園を探し始めた。

 

──────────

 

 銀座から南東へ歩き、幾つもの公園を経由し、2区の最も南にある公園にたどり着いた頃、既に空は薄闇色に変わっていた。だが、リオはついに『キンコ』らしき人物を発見した。

 

 焦茶色の髪をなびかせた、目元に『格子状の傷跡』があるゴリラのような大男。リオの二倍以上はあるその巨躯は身動き一つせず、草花を眺めている。

 

 リオは黄色睡蓮のバイザーマスクを被ると、キンコらしき人物へ向かっていった。

 

「キンコさん……ですか?」

 リオが声をかけると、大男はゆっくりとリオへ振り返った。

 

「ん……そ、おで……キンコ……おまえ……だれ」

「えっと……『フレディ』です。初めまして」

「おまえ……あいさつ……おでも……あいさつ……はじめ、まして……おで、キンコ……」

 

 キンコはゆっくりとした動きで、リオに挨拶をした。

 

「キンコさん、あなたは『ジェイル』ですか?」

「ちがう……おで……キンコ……ジェイル、ちがう……」

 

 その後もリオはいくつかキンコに質問をするが、どれも要領をえない回答ばかりであった。

 

(ダメだ。このままじゃ分からない。キンコさんを怒らせるには、花を踏めばいいんだっけ? でも……花を粗末にすると姉さんに怒られそうだなぁ……そうだ! キンコから取り上げてみよう)

 

 リオは、先程までキンコが見ていた花を摘んだ。

 

─────その瞬間、キンコの様相が一変する。

 

「オマエッ! ソレ! ハ、ナッツンダ!! オマエ、ハ、ナッツンダァ!」

 キンコの眼が赫眼へと変わり、リオに向かって叫びだした。

 

「ハ、ナ。ナニ……モ、シテナイノニ!! ハ、ナッツンダァ! ハ、ナッツンダァァッ!! ハッ!! ナッツッ……!! ……もうマヂ無理……」

 

 花摘(ハ、ナッツ)ンダと叫んでいたキンコが、突然静かになった。

 

「あの……キンコさん?」

 リオが動かなくなったキンコに声をかけようとした時……。

 

─────リオの首目掛けて赫子が飛んできた。

 

「ッ!?」

 咄嗟にリオは後ろへ跳び、赫子を躱す。

 

(なんじ)、花の痛みを知るべし。汝の遊興(ゆうきょう)によって摘み取られし、小さき魂の痛みを知るが()い」

 

 先程までのゆっくりとした喋り方ではなく、流暢に言葉を紡ぐキンコ。腰からは6本の鱗赫が展開されており、その赤紫色の鱗赫は、キンコの体に合わせるが如く、大きく、重厚であった。

 

 リオはマスクに内蔵されているカメラの録画ボタンを押し、戦う構えを取る。

 

「我、声無き魂の声聴く者。我、声無き魂を助く者。我、汝を(めっ)する者(なり)ッ!」

 キンコはその巨躯からは信じられない程の速度でリオに迫る。

 

(四方さん並!? 羽赫、甲赫間に合えッ!!)

 

 リオはキンコに向けて橙色の水晶弾をばらまき、水色の大盾を構える。水晶弾はキンコに着弾すると同時に炸裂し、キンコの体から血液が吹き出していく。

 

 しかし、キンコは一切の速度を弛めることなく、リオへ肉薄した。

 

懺悔(ざんげ)せよッ!!」

 キンコは甲赫の大盾越しに赫子を振るう。キンコの重厚な鱗赫は、リオの甲赫を容易(たやす)く突き破り、リオの腹部を串刺しにした。

 

「カハァっ……うぶっ……!!」

 リオの腹部からは血が流れ出し、逆流した血液が口から溢れだす。

 

()は花の辛苦(しんく)(いな)、花の悲痛は其以上也。誅罰(ちゅうばつ)(いま)だ終わらず。(ゆえ)、懺悔せよッ!!」

 

 キンコはリオに向け、その巨腕を振るう。それは未だ血の流れるリオの腹部へ。

 

 ねちゃりと音を立てながら、傷口を抉るようにその腕は沈んでいく。

 

「ぎッ……!? おぶっ……!!」

 

 傷口が押し広げられ、吹き出す血液はその量を増していく。

 緑溢れる公園が、じわじわと真紅に染まっていった。

 

「痛み、其は生の証。汝が摘んだ命、最早其を感じること(あた)わず。故、其の痛みに感謝し、(むくろ)と成るが善い」

 

 キンコはトドメの一撃と言わんばかりに、リオの首筋へ向けて鱗赫を放つが……。

 

─────その鱗赫は、灰色の尾によって砕かれた。

 

「見事。其の傷で未だ我へ挑むか」

「あは……おぶッ! ……あははははは!!」

 

 大地を紅く染めながらも、リオは纏う赫子を増していく。

 

「我等喰種(グール)、狂気もまた強さ也。(来る)が善いッ! 幼子よッ!!」

 

「めちゃクールだねぇ……めっちゃカチカチだよぉ……いひ、いひひひひィッ!!」

 リオは無数の水晶をばらまきながら、キンコへ尾赫を叩きつけていく。

 

「其の赫子は効かぬ。笑止……ヌゥッ!?」

 

 キンコは羽赫を無視し、尾赫のみを対処しようとしたが、リオの羽赫は先程より威力が上がっており、キンコの肉体に激痛として影響を及ぼした。

 

「グガァッ……!?」

 そして、キンコが激痛で怯んだところに、リオの尾赫が叩きつけられた。

 

 頭部を打ち据えられたキンコは、轟音と共に地面にめり込むが、キンコは殺気を感じ、即座に地面から飛び退いた。

 

「あははぁ……ざんねぇん……♪」

 まさに間一髪。キンコの頭部がめり込んでいた場所には、紫色の鱗赫が突き刺さっていた。

 

呵々々(カカカ)……実に見事也。我を単独にて此処まで追い詰めた者、他に(あら)ず……されど我、声無き魂を護る者。我亡き後、声無き者を護る者居らず。故、我倒れる事(ゆる)されずッ!!」

 

 キンコは再び赫子を展開し、リオへと疾駆する。

 

「りんかくぅ……兄さん? なら僕もォっ!!」

 リオも対抗する様に鱗赫を展開した。その数8本。キンコの鱗赫より2本多いそれは、手数をもってキンコの鱗赫と拮抗した。

 

 だが、リオの赫子は鱗赫だけではない。リオは更に赫子を展開していく。

 

「ワォっ!」

「ガハアァァッ!?」

 リオの右腕に展開された水色の大剣、リオの尾骶骨付近から生える灰色の尾。それら2本の刺突が、キンコへと突き刺さる。

 

「ついげきぃ? ィヒヒヒイィッ!!」

 駄目押しと言わんばかりに羽赫がバラ撒かれ、キンコの足をズタズタに引き裂いた。

 

「ヌ゛グゥ……ッ!! ム、無念……」

 体の2箇所に大穴が空き、足を破壊されたキンコは、遂に地面へと崩れ落ちた。

 

 

「ぃ……ひ……ぁ……あはぁ……兄さん……姉さん……ああああああっ!!」

 リオは自らの右手で、自らの頬を殴りつけた。

 

 自らの手で自らに攻撃を加えた衝撃により、リオの目に理性が戻ってくる……。

 

「っく……はぁ、はぁーっ……今度は……戻って、これた……っぁぐぅ!! き……傷がぁ……」

 正気を取り戻したリオは、肩で大きく息をしたが、怪我による激痛が全身を蝕んでいた。

 

─────その時、遠くから捜査官が走ってきた。

 

「居たぞ! 通報のあった喰種2体だ!」

「っく!? ……逃げ、なきゃッ!!」

 

 激痛で悲鳴を上げる全身に歯を食いしばりつつ、リオはその場から逃走した。

 

「待てぇ! そこの女喰種ぅぎゃべっ!?」

「我死せずゥッ! 我声無き魂の守護者也ッ!! 懺悔せよッ!! 懺悔セヨォォオオオオッ!!」

「キンコが起き上がったぞ!! 応援を呼べぇええ!!」

 

 捜査官達は倒れ伏したキンコを無視し、リオを追おうとした。だが、突如キンコが起き上がり、捜査官へと殴りかかる。

 

「我、魂ヲ護るッ! 護ルゥゥゥウウッ!!」

 キンコはリオへ攻撃をしかけたつもりでいるが、すでに満身創痍のキンコは、リオと捜査官の区別がついていなかった。

 

(助かった! 今の内に逃げなきゃ……)

 キンコが偶然にも囮の役割を担ったため、リオは逃亡に成功した。

 

 

 

「はぁ……あっぐぅ……小林さんに……電話しなきゃ……」

 血痕や血のニオイを消すため、リオは海に隠れていた。

 血は海水に流されていくが、海水が傷口に浸蝕し、リオの体を激痛が苛んでいた。

 

 携帯電話が海水に濡れないよう気をつけながら、リオは小林に電話をかける。

 

『もしもし? リオちゃんかい?』

「小林さん……っぐ……迎えに……はぁっ……迎えに来て貰えませんか……?」

『ど、どうしたんだい!? 今どこにいるんだい?』

「2区……晴海ふ頭公園の……海に隠れています……晴海ふ頭公園まで来てもらえませんか?」

『海? ……分かった。今東京駅でお客さんを降ろしたところでね。晴海ふ頭公園だね? すぐに向かおう』

「お……お願い……します……」

 

 約20分後、小林は2区にある晴海ふ頭公園まで駆け付け、リオをタクシーに乗せる。後部座席には、たくさんのバスタオルが敷かれており、とてもフカフカであった。

 

「詳しい事は後で聞くけど、ひとまずは花村さんの家で良いかい?」

「は、はい……お願い……します……そうだ……メール、しなきゃ。小林さん……USBあります?」

 

 リオは小林からUSBケーブルを受け取ると、疲労と激痛に震える手でメールを書き始めた。

 

『きじまへ かれはじぇいる?』

 短いメールと共にキンコの動画を添付し、キジマのメールアドレスに向けて送信する。

 

 激痛で意識が飛びそうな中、幸いにもキジマからのメールはすぐに来た。

 

──

親愛なる情報提供者様

 

いつもお世話になっております。

CCG准特等捜査官 キジマと申します。

 

情報提供、深く御礼申し上げます。

誠に恐れ入りますが、この喰種も

赫眼や赫子の形状から判断し、

ジェイルでは無いことを確認致しました。

 

また、当方からも質問がございます。

 

脱獄者同士で仲良く遊んでいるのか?

そもそもその男はコクリアに居た喰種だ。

私がそんなことすら知らないとでも?

──

 

「キンコも……違っ……た」

 リオはそう呟くと、糸が切れた人形のように、座席へ倒れ込んだ。

 

「やれやれ、リオちゃんは何をしたのやら……バスタオルを大量に買っておいてよかった……血塗れの座席じゃ、次のお客さんを乗せられないからねぇ……」

 

 大量のバスタオルにくるまれたリオを乗せ、小林のタクシーは15区へと走っていった。

 




 傷 口 に 海 水 
HPが半分を下回っていると、受けるダメージが大きくなるぞ!

24話のナキ戦と違い、半赫者による急速修復が行われていないため、傷が治っていません。その代わり精神は無事です。

第一崩壊までなら自分で戻れるようになったリオちゃん。着実に成長はしてるんです!
ちなみにこの第一崩壊とは、いうなれば原作カネキくんの『リゼモード』にあたります。ムカデ状態(暴走半赫者)が第二崩壊。

Q.原作のリオくんより遥かに強くなっているのに、リオちゃん痛めつけられ過ぎじゃね?
A.原作の喰種達は、油断したり、手加減してくれたり、戦闘を途中で止めたりしてくれました。本作の戦闘相手は、そういう優しさが取っ払われてますので仕方ないね。


☆原作JAILと違う点……というかキンコの変更点について

・性格:小さな命を愛するのは変わらないものの、原作では攻撃を受けた時点で攻撃的な性格へ変わる。一方、本作のキンコは攻撃を受けても逃げてしまう。その代わり、小さな命への攻撃を確認した瞬間に覚醒開始。

・喋り方:原作では始終、未開の地に住む蛮族みたいな喋り方をしています。本作も激昂前はそんな感じで喋りますが、激昂後はもはや別人。

・戦闘能力:原作キンコはルチ以上ナキ以下の喰種でしたが、本作のキンコはだいぶ強化されています。喋り方から違いますし。

・覚醒:原作では世紀末のハート様みたいな感じで怒り出し、リオくんに襲いかかる。本作ではわりと有名なコピペ『もうマヂ無理』をモチーフにしたような感じで怒り出す。
INT値低いキャラが突然脳味噌覚醒するのほんとすこ。
(※すみませんッ!『もうマヂ無理』のコピペは、本来もっと難しい言い回しをするのですが、私の頭ではこれが限界です!)


・遭遇タイミング:原作では『喰種レストラン戦』の後にキンコと戦います。しかし、本作では『喰種レストラン戦』よりも前にキンコとの戦いを入れました。

理由としては2つありまして、
1つ目の理由が、次のジェイル候補は『目元に格子状のメイクのある女喰種』だからです。25話の最後にイトリ達が言っている通り、この女喰種は原作よりも大幅に強化されているため、キンコより後に出したかったからです。

2つ目の理由ですが、原作の時系列だと『喰種レストラン戦』の次に『嘉納という医師の家に侵入』が来るのですが、その期間が1ヶ月しか無いんですよね……。

そのため原作の流れ通りにすると、一ヶ月の間に以下のようなスケジュールが発生します。
『喰種レストラン→傷を癒やす→キンコ戦→傷を癒やす→情報収集(ナキリベンジ戦 with 鯱)→傷を癒やす→大乱闘嘉納ハウス』
こんなスケジュールじゃリオちゃんが死ぬぅ!

原作のリオくんが負う怪我は、即死or無傷or軽症。つまり、治療を要する期間が必要無いため過密スケジュールでもなんとかなりますが、本作のリオちゃんは重傷を負ったり、精神汚染で調整が必要になったりと、戦闘後はある程度の日数が要求されます。ここリョナ要素


次回、キンコの過去。
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