花屋喰種   作:みぞれアイス

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リオちゃんと別行動中の主人公は何をしていたのか。という回です。
……カオリはストーリーで言うところの敵サイドなんですけど、主人公って表現で良いのか不安になる今日この頃。


第28話 Insidious

 喰種達は24区という地下迷宮を東京に作り、その深部には大量の喰種が暮らしているという。

 

 喰種達が24区から地上へ上がってこないように、喰種対策局(C C G)は定期的に24区を探索し、喰種を駆逐する仕事をしなければならない。この仕事を、喰種捜査官は『モグラ叩き』と称している。

 

 24区は喰種のための領域。24区の全てがモグラ叩きをする捜査官達の敵であり、気が休まる時間は無い。

 

─────だが、例外は存在する。

 

 東京24区の奥深く、一輪の白い花が咲いていた。だが一輪の花と言えど、その大きさは2メートル近くもある巨大な植物であった。

 

「おい! 『グールイーター』だ。しばらく休憩できるぞ!!」

 喰種捜査官の一人が、部下の捜査官に向けて叫んだ。

 

「おおっ!? これが別名『クズトリソウ』とか『ラフレシア』とか呼ばれてる花ですか!? 本当にあったんですねぇ……」

「分かってるとは思うが、クインケをアタッシュケースから出すなよ?」

「勿論です! この花は『喰種』に反応するため、喰種から作られているクインケもダメなんですよね?」

 

 部下の言葉に、上司は大きく頷く。

 

「ああ。コイツは喰種を捕食する24区のレアモノだ。こいつの近くには喰種が寄ってこない。どこに喰種が潜んでいるか分からない24区での休憩ポイントだな……まぁ、訓練好きな有馬特等の班と組めば話は変わるけどな。あっという間に訓練スポットよ……あの人、クインケ持ってこいつと戦うんだぜ?」

「この花、戦うんですか? ……花が?」

 

 花が戦う。どうやって戦うのか理解できない部下は、首を傾げる。

 

「ああ。つっても花だから動いたりしないが、なんつうか……ツタや根っこを伸ばすって感じだな。ソレが花のクセにかなり速くてなぁ……応戦しようと思えばなんとかできるが、俺はワザワザ戦おうとは思わん。休めなくなるしな……ちなみに俺達人間なら触っても問題ないぞ。触ってみろ」

 

 部下は恐る恐る花に触ってみるが、何も起こらない。

 

「うーん? 食虫植物みたいなモンなんでしょうか? Rc細胞壁といい、24区って意味不明ですね……」

 

「この花を調べようにもなぁ……結構前に聞いた話だが、摘んだら花が溶けちまうんだとよ。溶けた跡からRc細胞が検出された事から、Rc細胞壁と同じく24区の喰種による独自技術じゃないかって話だが、詳しいことは分かってねぇ……とりあえずコイツに布をかけて隠すぞ」

 

 上司の男は、白い花に布を被せた。

 

「何やってるんですか?」

「何って囮だよ。この花があると喰種(クズ)共が寄ってこない。だが、奴らが知らなければどうだ? この花に討伐数こそ取られちまうが、手っ取り早く喰種(ゴミ)掃除ができるってわけよ。よし、俺はちょっと寝るわ。お前も休んで良いぞ?」

 

 上司の男は地面に横たわった。

 

「じ、自分は起きてますよ!? 本当にこの花が安全か不安ですし……」

「わっはっは! お前は心配性だなぁ……まぁ、1時間したら起こしてくれや。俺達サラリーマンは休憩時間を取る義務があっからな」

 

 上司は目をつぶると、すぐにいびきをかきはじめた。

 

「まったく……マイペースな人だなぁ……」

 

 

 しばらくの間、部下の男がぼーっとしていると、通路の向こうから2体の喰種が歩いてきた。

 

「……喰種!?」

「■★●!」

「○□☆◇!!」

 

 捜査官の知らない言語を喋る喰種達は、寝ている上司と、驚き固まったままの部下に飛びかかった瞬間……。

 

─────突如花から伸びた根の様なモノに、頭を貫かれて死んだ。

 

「ひぃっ!?」

 

 部下が情けない悲鳴を上げた事で、上司がおもむろに起き上がった。

 

「ふぁーっ……お? 早速掛かったか。な? この花は便利だろう? 近寄ってきたクズ共は殺してくれるし、赫子に反応する性質のおかげで、羽赫の攻撃が来ても盾になってくれるんだぜ? 結果、俺はのんびり休憩できるってわけよ。ほら、あのクズ共見とけよ。面白いモンが見れるぜ」

 

 部下が喰種達に目を向けると、喰種達はビクビクと痙攣を起こしていた。脳が破壊されたことにより、デタラメな電気信号が体を駆け回っているのだ。その様はあまりにも(おぞ)ましいが、上司の男は手を叩いて笑っていた。

 

「ははは! 見ろよあのザマをよ。クズ共には相応しい末路だと思わねぇか? お、来るぞ来るぞ! 人様(ひとさま)を喰うゴミが、花に喰われる瞬間だ!!」

 

 花から新たに根のようなモノが伸びるが、先程の槍に似た形状と異なり、大蛇を思わせるような太さである。

 太い根が喰種達の死体へ近付くと、根の先端が開き、喰種達を丸呑みにしていく……。

 

「目ェ逸らすなよ? ここからが良いんだ」

 

 喰種達が根の中に取り込まれ、その先端が閉じた途端、根の中から、肉や骨を噛み砕く音が響いた。

 それは、中の状態がハッキリと分かるような音。あまりにも無残で恐ろしい光景に、部下は思わずへたり込んだ。

 

「かーっ!! 気分が晴れるぜぇ!! これがあっから『モグラ叩き』は辞められねぇんだよなぁ。うっし、それじゃ出発すっか! 今のままじゃ成果無しだからな……この花もなぁ、死体の一部でも残してくれりゃあ良いのによぉ……まぁ、植物相手に愚痴っても仕方ねぇか」

 

 上司の男は部下を連れ、24区を進んで行く。

 

 

《ふふふっ……ごちそうさま……》

「!?」

 

 部下の男が振り返る。誰もいないハズの場所に、そんな声が聞こえた気がしたのだ。

(もしかして、花が喋った……?)

 

「おい! その花が名残惜しいのは分かるが、さっさと行くぞ!」

「(いや、気のせいか……)はいっ! すぐ行きます!!」

 

 捜査官達が去った後、そこには巨大な白い花が一輪、風も無いのに揺られていた……。

 

 

 東京24区、そこは喰種だけが住まう、喰種のためだけの迷宮。

 

 だが、その地に住まう喰種達の生活は、常に(おびや)かされている。

 

──────────

 

 とある日の深夜、カオリは小林のタクシーに乗り、21区に来ていた。

 

「今日も共食いですか?」

「そうだよー。北千住に良い喰場があるって情報を手に入れたんだー」

 

 北千住駅から少し離れた場所にあるコインパーキングにタクシーを止め、小林はトランクからクーラーボックスを取り出した。

「準備完了、では行きましょうか……えっと……ブギーマンさん?」

 

 カオリの恰好は黒いツナギにハロウィンマスク。ブギーマンの衣装である。

 

「正解だよペニーワイズ! よくできましたー!」

 

 そんな他愛もない雑談をしながら、ツナギの女と道化師の中年男性は、とある会員制クラブハウスの前に来ていた。入り口には見張りが2人居て、会員ではない者を追い返す役割を担っているようだ。

 

「やぁ、こんばんは」

 そんな中、小林は見張りの男に声を掛けた。

 

「会員証を」

「ちょっと待っておくれ……確かこのポケットに……」

 

 見張りの男達の目は、ポケットの中をまさぐる小林に集中していた。つまり、この時誰もカオリを見ていなかったのである。

 

「お客様。会員証をお忘れなら、当クラブへの入じょ……ッ!?」

「おい、どうしっ!?」

 

 男達はどこからともなく現れた赫子に、一瞬で全身を包み込まれ、悲鳴をあげる暇さえ与えられず肉片へと変わった。

 

「おーわり! この建物って、会場は地下にあって、出入り口はここだけなんだ。だから……誰も逃げられない」

 

 カオリは小林を連れ、地下にあるクラブハウスの防音扉を開けた。

 

 

「お楽しみのところ失礼致しまーす! いきなりですが、今日はなんと、更に特別な催し物が開催されることになりましたー!!」

 

 クラブハウスの中では、人間を使った残虐ショーが開催されていた。

 

「お、なんだなんだ?」

「あら! それは楽しみねぇ!」

 

 クラブハウスの客達は、更なる楽しみに期待していた。だが、一方で主催者側は困惑する事になる。

 

「おい、あのスケキヨ女とピエロオヤジは誰だ?」

「しらねぇよ。酔った客か? ったく勘弁しろよ……めんどくせぇな」

 

「はーい! 今私をスケキヨって言ったそこの人、あなたは失格でーす!!」

 

 その瞬間、カオリをスケキヨと言った男の首が消えた。切断面からとめどなく溢れる血液が、フロアを赤く染めていく……。

 

 フロアの喰種たちから、悲鳴が上がった。

 

「さぁさぁ! 本日最後の催し物ですよー! もちろん全員参加者ですのでご安心を!! 皆様はこの私『ブギーマン』が出す遊びを、最後までやり遂げて下さーい! ちなみに、私はスケキヨではありませんよー? ブギーマンですよー? ハゲてないですからねー? スケキヨと言った方は漏れなく失格となりますのでご注意下さい!! では、審判のペニーワイズさん、開始の合図を!」

 

「ククク……さぁ皆さん……ゲームスタートッ!」

 

 小林が合図をした途端、カオリから無数の甲赫が展開された。

 

「私ブギーマンが提供する最初の遊びはー……『いろはにこんぺいとう』ですっ! みなさんは遊んだことはありますかー? くぐる・またぐ・跳ぶのどれかを選ぶ縄跳びの遊びですよー! とはいえ、私の出す遊びの関係上、またぐと跳ぶのは同じ扱いになるので、みなさんには『くぐる』『跳ぶ』のどちらかを選択して頂きます。では行きますよー?」

 

 カオリの甲赫は刃の様に薄くなり、クラブハウスの薄闇に溶け込んでいく。

 

「いーろーはーにーこんぺーとうっ!!」

 

 カオリは甲赫を振るう。風を斬る鋭い音がフロアに響き、あたりは静寂に包まれた。

 

「さぁ、今回は『跳ぶ』が正解です!! 第一回目の勝者は誰だーっ!?」

 

 カオリの声と共に、クラブハウスには無数の絶叫が木霊し、濃厚な血液のニオイが充満した。

 

 誰も事態を飲み込めていなかったため、『跳ぶ』を選択できた者は居なかった。結果、クラブハウスに居た喰種達の全員が、膝から下を失うことになってしまった。

 

「皆さんの熱気、良いですねぇー! ちなみに、全部で3回ですよー!」

 無慈悲にも続行されるゲーム。悲鳴と命乞いの叫びがフロアを埋め尽くした。

 

 

「さぁさぁ皆さん行きますよー? いーろーはーにーこんぺーとうっ!!」

 

 再び鋭い風切り音が鳴り、悲鳴が消えてなくなった。

 

「今回も『跳ぶ』が正解です! さぁ……今回の勝者はー……? おっとどういう事でしょー!? 誰もいませーん! やはり全員足を失ったのが大きかったようです!! では、今夜の催し物は、私ブギーマンの圧勝でーす! ……さてと、んじゃペニーワイズ、クーラーボックスの準備おねがーい」

 

 カオリは喰種の死体を赫子に詰め込んでいき、肉と赫包とゴミに分類した後、クーラーボックスに詰め直した。

 

「後はいつも通りの略奪だよー! ここは比較的お金を持ってる喰種達用の場所だったから、結構良いものあるんじゃないかな?」

 

 カオリと小林は、手分けして戦利品を鞄に詰めていく。

 

「結構たんまり手に入ったね。それじゃ、帰ろっか!」

 

──────────

 

 その後、15区の家に戻ってきたカオリ達は、『喰種の肉』を食べていた。

 

「ぬぅぉぉ……ま、不味すぎる……赫包のような痛みは無いとはいえ、これは……調理したら余計に不味くなりそうだ……」

 

 戦利品の中には客に出す用の人間や、ショーに使う用の人間が居たため、食材が不足している訳ではない。たまには小林も喰種を食べようというカオリの思い付きによるものである。

 

「喰種の肉の有効性を、わかりやすく例え話で教えてあげるね? 小林は車持ってるから分かるかな? 私達喰種をバイクや車に例えるなら、赫子がエンジンで、『あーるしー細胞』……人の肉って言った方がいいかな? そう、人の肉がガソリン。じゃあ、喰種の肉や赫包って何だと思う?」

 

 カオリの質問に、小林はニヤリと笑う。

 

「くっふっふ、共食いを経験したからこそ分かりますぞ~! ズバリ! 喰種の赫包はエンジンの改造や増設で、喰種の肉はさしずめニトロってとこですな?」

「正解っ! いぇーい! だから不味くても食べようねー」

 

 カオリと小林はハイタッチをしてから、不味い喰種の肉を食べることに集中した。

 

 

 

「これ食べ終わったら、私は24区で『釣り』をしてくるけど、小林はどうする? 帰る?」

「帰る予定ですが、ちなみに釣りとはなんですかな?」

「これをね、ちょっと離れた場所に咲かせるの」

 

 カオリは『特殊な赫子を纏った尾赫』を一本展開する。その先端には、白い花が咲いていた。

 

「ほほう? 花を摘みに来た健気な子供を、むしゃっと行くのですか?」

「違うよー? この花を使って、捜査官を釣って、さらに喰種を釣るんだー。たまに最初から喰種が釣れた時は運がいいんだよー。四葉のクローバーだねっ」

 

 カオリの説明が理解できなかったのか、小林は首を傾げる。

 

「んっと……ざっくりいうなら、私は遠くにこの花を出して寝てるだけで、捜査官が喰種を食べさせてくれるんだ! たまに花が壊されちゃうけど、私そのものが怪我する訳じゃないから問題ないし」

「……? 捜査官(ハト)が花村さんに協力……? やはり良く分かりませんなぁ。しかし花村さん、どうして共食いを続けるのです? 貴女とて赫包を喰らう痛みがありましょう? 私の見立てなら、貴女はもう誰よりも強いのでは?」

 

 小林の言葉に、カオリは少しだけ微笑む。

 

 だが、それはどこか寂しそうであった。

 

「ふふっ、小林には私がそう見えるんだね……? でも、そうじゃないんだよ。アオギリには『タタラ』って喰種がいて、その人と私は相性最悪なの……それにね、捜査官だって油断できないんだよ? 捜査官はクインケを使う。クインケには色んな種類がある。その中には私にとって相性の悪いモノだってあるんだ……だから、相性の悪い相手でも倒せるようにする。そのためには、まだまだ強くならないとね? そして何より……」

 

 カオリは小林に、ニヤリとした笑みを向けた。

 

「リオちゃんだよ。リオちゃんは、私よりも遥かに速いペースで強くなる。怠けてた結果、妹に負けるおねーちゃんって格好悪いでしょ? それにね、私はリオちゃんに隠し事をしてるんだ。それはリオちゃんにとって残酷な隠し事……リオちゃんがそれに気付いた時、私に反感を持つ可能性があるんだよー?」

 

 あのリオが反感を抱くほどの隠し事。小林には見当がつかなかった。

 

「だから小林も見てた通り、私はその芽をなるべく摘んだ。リオちゃんを私に依存させるために、被虐にどっぷり漬けて、快楽に溺れさせて、男の子のまま女の子に変えた。それでもなお、その芽が生えてきたなら……」

 

 カオリの言葉に、小林は思わず息を呑んだ。

 

「……その芽を完全に踏み潰せるようにしなきゃ……ねっ?」

 




 花 屋 要 素 ・ 無 し 
「こんなの花屋じゃないわ! 花の付いた殺人鬼よっ!!」

今更ですが、本作に花屋の要素が少なすぎる気がしてきました……かといって花屋の接客風景垂れ流しても……うーん……
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