花屋喰種   作:みぞれアイス

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第29話 ファッとしてあんていく

 喰種は並外れた治癒及び再生能力を持つが、赫子によって付けられた傷は、通常の傷よりも治りが遅い。

 リオはキンコの赫子によって重傷を負い、その傷を海水によって抉るという暴挙を行ったため、しばらくは安静にせざるを得なくなってしまった。

 

 なお、リオは以前にナキから重傷を負わされているが、その時は半赫者化によって傷を治し、その時の記憶は無くなっている。

 そのため、後にまで引く重傷の経験は、これが初といえる。

 

 

「はいリオちゃん、あーんしてねー」

 そんな重傷で動けないリオを、カオリは看病していた。

 

「あむっ……!? あ……うああああ゛あ゛あ゛ッ!?」

「ふふふっ! 実はそれ、赫包(かくほう)でしたー! 怪我には赫包だよっ! 痛いけど治りは早くなるよー?」

 

 リオはあまりの痛みに、布団の上をのたうち回った。

 

「あぁ……痛い……痛いよぉ……うぐっ……やめてよぉ姉さん……酷いことしないでぇ……っ!! 今は……本当にっ……つらいの……っ!」

 

 共食い後の痛みと、戦闘の負傷による痛みは、言うなれば別種の痛みである。今までこれほどの怪我を負ってこなかったリオにとって、この痛みに耐えるのは難しかった。

 そこにカオリの意地悪という一押しが重なり、ついにリオは決壊。その瞳からは止めどなく涙が溢れた。

 

「あ、あれー……? そんなにつらいの? うーん……お腹貫かれるくらいで大袈裟な気もするけど……ごめんねリオちゃん。お姉ちゃん意地悪し過ぎたよー。次は普通のご飯にするね。おわびに……優しく食べさせてあげる」

 

 カオリは新鮮な肉を自らの口に含み、そっとリオの口と重ね合わせた。

 口から口へ、新鮮な肉が流れていく。

 

「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ……姉さん、姉さん……」

「ふふっ、リオちゃんはまだまだ甘えたい年頃なのかなー? でも今日は可愛い妹を甘やかしてあげましょーう! よしよーし、いい子いい子ー」

 

 その後も何度か口移しで肉を与えると、リオは満足したのか、寝息を立て始めた。

 

「ふふっ、口のまわりがご飯でベタベタのまま寝ちゃった。しょーがないなぁ……」

 

 カオリはリオの口をタオルで拭き、自身も横になった。

 

「あ゛~。私も最近結構共食いし(たべ)てるから、体が痛いなぁ……それにしても、最近私以外にも誰か頻繁に共食いしてる人がいるなぁ……誰だろ? 『ろーちゃん』かな? 14区の誰かかな? でも、共食いが大量に起きてるのは東側……やっぱり『ろーちゃん』かなぁ……まぁいいや、今度探してみよっと。ふわぁーっ、私もお休みぃ……」

 

 そんな平日の昼、仕事を休んだ二人は、のんびりと惰眠を貪った。

 

──────────

 

 後日、リオの容態がだいぶ落ち着いたため、カオリは『Helter Skelter』を訪れていた。

 

「いらっしゃーい。お、レザーフェイスさんか。いつもので良い?」

 

 今日のカオリの衣装は、人の皮を貼り付けたホッケーマスクに黄色いエプロン。レザーフェイスのスタイルである。

 

「はーい、いつものでお願いしまーす。それと……ニコさんと帆糸さんもこんばんはー。帆糸さんとここで会うのは初めてですねー」

 

 イトリの他にはニコとロマがおり、二人はのんびりと血酒(ワイン)を飲んでいた。

 

「ハァイ、レザーフェイスちゃん。リオきゅん、無事キンコを倒せたみたいねェ」

「どもーっす! 聞いて欲しいっすよレザーフェイスさん! 最近リオっちが休んでるせいで、私の負担がデカすぎてヤバいっす。ついでに西尾パイセンからの風当たりもマジヤベー。リオっちいつ頃復帰予定で?」

 

「ほい、いつものお待ちどっ」

 イトリは珈琲2杯にワイン1杯、おつまみの乗った皿をカオリの前に置いた。

 

「ありがとうございまーす。リオちゃんはもうちょっとしたら復帰できますよー。それでイトリさん、最近東側で大量に共食いしてる喰種って誰か知ってます? 『ろーちゃん』?」

「はいはーい! 私知ってまーす!」

 

 カオリの質問にロマが挙手し、語り出す。

 

「共食いしてる人の正体はカネキ様っす! なんかカネキ様、強さを求めてるっぽくて、片っ端から共食いしてるそうっすよ? ちなみに『その人』は最近両国あたりに出没してるとか? なんかカネキ様、最近は6区を拠点にしてるっぽくて、もしかするとぶつかるかも?」

 

「あ、その話題で伝えなきゃいけないことあったわ」

 『ろーちゃん』の名前が出たことで、イトリもカオリへ話し掛けた。

 

「次のジェイル候補なんだけど、あたしが次に紹介できるのって、『その人』なんだよねぇ……レザーフェイスさん的に、リオっち勝てると思う?」

「ろーちゃんと最後にあったのはだいぶ前だけど、その時にはもう今のリオちゃんくらいあったから……ろーちゃんが今も共食い続けてるなら、無理だと思いますよー?」

 

 ろーちゃんとカオリが呼ぶ喰種は、カオリ同様共食いにいそしむ喰種である。

 

「はぁー……『あの人』がレザーフェイスさんの教えをサボるワケないっしょ? 噂だともう()()()()()()()()()とか?」

「おおっ! 当時は半赫者までだったろーちゃんも、強くなったんですねー! うーん、それならリオちゃんにはまだキツいかなー」

 

()()……か。はいよん。んじゃ、リオっちには情報伏せとくわ。まぁこっちはこっちで、またそれっぽい喰種探しとくし、次の料金高めにしときゃあ時間は稼げるかな? そうそう、レザーフェイスさんに大ニュース。ついにCCGで『()()()()()()()()()()()』が作られ始めたみたい。ちなみに持ち主になる人物は、なんとキジマ式」

「詳しくお願い。お金なら出すよっ!」

 

 映画『悪魔のいけにえ』に登場する殺人鬼・レザーフェイスの特徴といえば、チェーンソーである。ゆえにカオリはチェーンソー型のクインケが欲しいと常日頃思っていたため、イトリの話題に素早く反応した。

 

 

「ふふふ……それってとっても可哀想だけど……とっても面白ーい! まさに最高のクインケだねっ!」

 

 イトリからチェーンソー型クインケの真相を聞いたカオリは、マスクの下でニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

 

「……でもさ、レザーフェイスさんの戦い方的に、超近距離限定のクインケとか要らなくない?」

「うっ……た、確かに……いやでも、映画みたいに椅子に縛り付けてる時とかなら……」

 

「てかレザーフェイスさんって生け捕りとかするんすか?」

「し……したことないけど……」

 

「それに、レザーフェイスちゃんにはすでに良いクインケが2つもあるじゃない? 手は二つしかないのよォ?」

「む……むむむむむ……」

 

 欲しいと思ったものの、案外チェーンソーは使い道がないのでは? と考えてしまうカオリであった。

 

──────────

 

 リオは布団の中で、カネキが『アオギリの樹』の情報を知りたがっている事を思い出した。しかし、リオはアオギリの情報を未だに掴めていない。

 

(しまったなぁ……こんな事ならナキさんから聞いておけば良かった……そうだ、姉さんは11区掃討戦に参加してたし、何か知らないかな?)

 

「姉さん」

「どうしたのリオちゃん?」

「アオギリの樹について、知ってることはありますか?」

「あるよー。何が知りたいの?」

 

 駄目元で聞いてみたリオだったが、カオリはアオギリの情報を持っていた。その情報の多くは掃討戦以前のモノであったが、中には今でも有益な情報があった。

 

「というか……池袋で奪った資金って……アオギリのお金だったんですか……」

「だから喰種の護衛も居たでしょ? アオギリって人数が多いから、食べるのに最適なんだよー。私に盗られたお金が無いと、人数を維持できない。だけど私は人数も減らしてあげてる。私ってアオギリに優しいねっ!」

 

「え……? そ、それはともかく、情報ありがとうございます」

 カオリの優しさは全く分からなかったが、ひとまずリオはお礼を述べた。

 

「でもこれ、ニコさんから貰った情報だから『ヘルスケ』に売れないよ?」

「いえ、別の人に渡すんです」

「……そっかー。詳しくは聞かないけど、頑張ってね!」

 

 兄を救うためにと意気込むリオを、カオリは微笑みながら眺めていた。

 

──────────

 

 数日後リオの怪我が完治し、再びあんていくへ出勤できるようになった。

 

 リオとカオリは朝食を食べながら、ぼんやりとテレビを見ている。

 

「あ、そういえば姉さん。僕は四方さんから羽赫や格闘の稽古をつけてもらってるんですが、四方さんってかなり強いですよね……店長は更に強いんですか?」

「んー? 四方さんはあんていくでは3番目に強い人だねー」

 

「3番目……なんですか?」

 四方よりもさらに強い一人は店長だとしても、もう一人が誰だか分からない。

 

「一番強いのは芳村さんだねー。次に強いのは帆糸さんだよー?」

「えぇっ!? ロマさんって四方さんより強かったんですか!?」

 

 リオはロマのことを、ちょっぴりドジでお茶目な先輩としか思っていなかったため、驚きを隠すことができなかった。

 

「うん、だってあの二人は『赫者(かくじゃ)』だからねー。今度リオちゃんも帆糸さんと訓練したみたら?」

「そうだったんですか……今度ロマさんに聞いてみます。あ、そろそろ時間なので、シャワー浴びてきます!」

 

 喰種はその食性の関係上、食後には血のニオイがしてしまう。そのため、食後はシャワーを浴び、歯を磨くことで、血や臓物のニオイを落とす必要がある。

 

 とはいえ、多くの喰種は家を持っておらず、カオリ達のように毎日食事ができるわけではないため、そこまで頻繁にシャワーを浴びたりはしない。

 

 

「姉さん、行ってきます!」

 シャワーを浴び終えたリオは、自身に軽く香水を振り、あんていくへ向け家を出た。

 

「いってらっしゃーい! ……さてと、私もシャワー浴びよっと」

 

 カオリ達は喰種の中では珍しい、非常に文化的な喰種なのである。

 

 

──────────

 

 

「みんな、今日はお疲れ様」

「お疲れ様でした!」

 

 あんていくの仕事を終えた後は、四方と稽古をするのだが、今日は四方が出勤していない。そのため、リオはロマへ声を掛けた。

 

「ロマさん、今日お時間空いてますか?」

「ん? どしたんリオっち」

「僕に稽古をつけてくれませんか?」

「いいよっ! じゃあどこか良さげな場所よろしゅうっ!」

 急なお願いであったが、ロマは快く受けてくれた。

 

「お前ら稽古すんの? 俺も着いてって良いか?」

「いいですねぇ! 先輩も訓練しましょ!」

 

 ニシキ達3人は、普段四方と稽古をしている水路へと歩き出した。

 

 

 水路に到着すると、濡れていない場所にニシキは腰を降ろした。

「ま、ついて来はしたけどよ、俺は見てるだけな。帆糸があまりにも駄目だったら替わってやるぜ?」

「先輩酷いですっ! 確かにあたしはちょっと失敗が多いですけど、これでも強いんですよぉ? それじゃぁリオっち、普段どんな風に稽古するん? ルール無用のガチバト?」

 

 カオリはロマが四方よりも強いと言っていた。そんな相手にルールを決めずに戦えば、大怪我を負いかねない。

 

 リオはまず、ロマの赫子を確認する事にした。

 

「ロマさんの赫子って何ですか?」

鱗赫(りんかく)っ!」

「鱗赫なんですね……助かります。鱗赫の訓練は姉さんのクインケでしかしたことがなかったので……では使うのは鱗赫と格闘だけで。僕を殺すような攻撃や、赫者も無しです」

「おっけー! 手加減する感じね。リオっちは殺す気で来てもええよん?」

 

 それは相手の力量を理解しているがゆえのやり取り。ロマの強さを知らないニシキは、首を傾げている。

 

「なぁ? もしかして帆糸ってリオより強ぇの?」

「姉さんが言うには、ロマさんは四方さんより強いらしいですよ?」

 

 その言葉にニシキの表情が固まる。

 

 ニシキもリオ同様、四方から訓練を受けているため、四方の強さは良く理解している。その四方を越える強さを、ロマが持っていることなど信じられなかった。

 

「……ははっ。ならクソドジの実力ってヤツを見せて貰うとすっかね」

「良いでしょう! まずは『夜叉の構え』っ!」

 

 ロマは片足立ちの独特なポーズを取っているが、何も起こらない。

 

「……おい、ちゃんとやれ帆糸」

「そこまでふざけてないですよぉ? 説明しましょう! 『夜叉の構え』とは最大MPが20%アップするアビリティです! そしてぇ……赫子(かぐね)ぷるんこっぺそぉぉぁい!!」

「っ!?」

 独特なポーズのまま、ロマの腰から無数の鱗赫が飛び出す。それは今までに出会った鱗赫使いの誰よりも速く、数の多いものであったが……。

 

「出し方が姉さんの尾赫と一緒です! それは慣れてますっ!」

 リオは後ろへ大きく跳躍することで赫子を躱しながら、リオは自身の鱗赫を、ロマの鱗赫へ叩きつけた。

 

「よっし、でも再生が早い……」

 しかし、ロマの鱗赫は砕けても即座に再生し、数を減らすことはできなかった。

 

「ふっふっふー! あたしの()()()()()()()を構成する赫子だからねっ。レザーフェイスさん相手ならまだしも、リオっちに突破させる気は無いぞー! ほいっ、いそぎんちゃくからのー……荒ぶる鷹のポーズ!」

 

 ロマは赫子をゆらゆらと揺らしながら、先程とは少し違う構えをとる。

 

「帆糸の赫子がすげぇのは分かったけどよ……さっきからポーズがクソウゼェ……」

 ニシキはあまりにもふざけたロマのポーズに苛ついていた。

 

「今度はリオっちからどーぞ? あたしの胡乱(うろん)鱗赫(りんかく)を越えられるかなぁ?」

「いきますっ!」

 リオも8本の鱗赫を展開し、ロマへと跳ぶが……。

 

「無駄無駄無駄ァ! WRYYYYY(ウリィィィィィ)!!」

 ロマの鱗赫による怒涛のラッシュ攻撃が放たれた。それはリオの鱗赫を次々に砕き、やがてはリオ自身も呑み込まれていった。

 

 リオの鱗赫とて決して弱くはない。幾人もの捜査官を葬ってきたキンコの鱗赫と打ち合い、拮抗できただけの実力はある。

 ……それは、ロマの鱗赫がキンコの鱗赫を越えている。ただそれだけであった。

 

「は、放してくださいっ!!」

 リオはロマの赫子に絡め取られ、宙吊りにされていた。

 

「ぬわぁっはっはっはぁー! どうだリオっち、これが先輩の凄さってやつよ! あ、西尾先輩、リオっちのパンツ見ます? 今ならひっくり返すだけで簡単にスカートからモロ見えっスよ?」

「お前はオッサンか……可哀想だから降ろしてやれ……」

「ぶー! 西尾先輩って、リオっちにばっかり優しくないですか? もっとあたしにも慈悲を下さ~いっ!」

 

 ロマはつれないニシキに文句を言いつつも、リオを地面に降ろす。

 

「じゃあお前は皿割んな。マシな珈琲淹れろ! ……はぁ」

 ロマにツッコミを返したニシキであったが、急に暗い表情に変わった。

 

 

「はぁ……何? もしかして俺があんていくで勝ってんのって、クソトーカだけ……? やっぱ共食いした方が良いのか? ……でもなぁ……頭イカレて貴未(きみ)になんかやらかしちまったらマズいしなぁ……」

 

 そう呟くニシキは、かつて14区に乗り込んだ時、クレイジーな男達に捕食されそうになった事があり、そこをカネキに救われている。

 後日、芳村から共食いは精神に異常をきたすと教わった。そのため、ニシキは強くなれると知っていても、共食いに踏み切れなかった。

 

「共食いはあんまりオススメしないですよ? 僕だって15区に来る前と今じゃ……色んな意味で変わっちゃいましたから……」

 

 そう話すリオの目には、哀愁が漂っていた。

 

「あぁ、うん……やっぱ15区って地獄だな」

 

 リオがあんていく(ここ)に来る前は、どんな少女だったのかとニシキは気になったが、聞いたら後悔しそうな気がしたため、何も聞かないことにした。

 

 そして、やっぱり共食いは最終手段にしよう……と、ニシキは心に誓った。

 




 本 作 の 良 心 ・ 西 尾 錦 
ニシキ(リオは以前どんな少女だったんだ?)
 → 以 前 は 少 年 だ っ た 


■『夜叉の構え』『ぷるんこっぺそぉぉぁい』
中の人ネタ。てーきゅう1話はニコニコ動画で今も視聴可能。

またしても本人は出ていませんが、6話以来の『ろーちゃん』です。
ろーちゃんが誰なのか分かってる人もいるとは思いますが、次回から喰種レストラン戦なので、ろーちゃんがバッチリ登場します。

※なお喰種レストラン戦は、本作の中で最も、
鬼ごっこホラーゲーム『Dead by Daylight』の要素を含みます。
というか鬼ごっこします。


☆原作JAILと違う点
・ろーちゃん:原作でも共食いをしている喰種であるが、赫者までは至ってない。しかし本作では赫者に至っている。

・ニシキ:原作と違いリオちゃんが強いので『シマシマに稽古付けてやんよ!』とは言わない。


■おまけ・リオのアドレス帳
000:MoonMountain
001:おねえちゃん
002:ジャム☆おじ
003:喫茶あんていく
004:N.Nishio
005:うろたん

※:リオちゃんは原作ほどではないですが、電子機器の操作は不慣れなため、アドレス帳を本人たちに書いてもらっています。なお003を入れたのは西尾先輩。
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