花屋喰種   作:みぞれアイス

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今回からJAIL編だけでなく、漫画版無印後編(9巻以降)の内容も混ざってきます。


花屋喰種 √?【THE SHAPE】
第30話 狂宴の幕開け


 カオリは7区の『両国』に来ていた。ロマから『ろーちゃん』が両国に現れているという情報を得たためだ。

 

 だが、カオリは探索をせずに、両国国技館へ来ていた。

 

 両国には『大相撲夏場所・千秋楽(さいしゅうび)』という広告が大々的に打たれており、まずは相撲を見物する事にしたのである。

 

 

 カオリは土俵から離れた場所にある座席に座り、のんびりと相撲を眺めていた。

 

(ガッシリついた筋肉に、それを覆う中落ち……中落ちと中落ちのぶつかり合い……相撲はお腹が空いてくるよー! でも、塩を振るのは良くないなー。人間ならそれで良いのかもしれないけど、喰種にとっては味が落ちちゃうんだよねー……)

 

 激しくぶつかり合う力士達に、相撲本来の趣旨とはまるで違うことを考えていると、ふと懐かしいニオイがカオリの鼻へ飛び込んできた。

 

 カオリはニオイの主へと振り返り、手招きをした。

 

「『ろーちゃん』、久し振りっ!」

 

 カオリが手を振る先には、青のドレスを着て、『目元に格子状のメイクをした女性』が、水色のロングヘアーをなびかせていた。

 

「お久しぶりですわ、『マイヤーズ姉様(ねえさま)』。数年前と変わらずお美しい……」

 

 ろーちゃんはカオリに向け、綺麗なカーテシーで挨拶をした。

 

「ふふっ、ろーちゃんも……()()()()()()()()()()()()よ? ほら、ここ座って座って!」

「姉様にそう言って頂けると、アタクシも()()した甲斐がありましたわ! では、お隣失礼致します……ところで、姉様はどうして国技館(こちら)に? 人間の相撲に興味がお有りでしたの?」

 

「ううん、ただなんとなく。でも、相撲ってのも悪くないねー? ついつい食欲が湧いてくるよー」

 

 その言葉に、ろーちゃんはニッコリと微笑んだ。

 

「もしや、姉様も力士が気に入りましたの? それでは、今度アタクシと『レストラン』に行きませんか? 前菜には、幕下ですけど力士が出るらしいですの」

 

 その言葉に、カオリは少し眉を寄せる。

 

「うーん……でも私が行っていいのかなー? ろーちゃん、以前私が行くの嫌がってたじゃん?」

「……あの頃はアタクシに力が無かったので、もしも姉様に暴れられたら、アタクシの立場が危なかったのですわ……ですがご安心下さいまし! アタクシはあの頃と違い、力も財もありますわ!! かの『ビックマダム』ですら口出しさせないだけの地位を得ましたの。ですので姉様、あの頃のアタクシを導いて下さった御礼を、今こそさせて下さいまし」

 

 ろーちゃんの真剣な表情に、カオリはろーちゃんの頭に手を伸ばす。

 

 そして、ろーちゃんの髪の毛をサラサラと梳きながら、頭を撫でた。

 

「あっ……姉様……いったい何を……?」

「ふふふっ、ろーちゃんは昔っから一途で可愛いねー。そんなろーちゃんだからこそ、私はあの時ろーちゃんを捕食し(ころさ)なくて良かったと思えるよー」

 

 カオリの手が頭から顔へ、そして首筋へと滑っていく。

 

「ああっ、姉様……姉様っ……」

「ふふっ……一緒にレストラン、いこっか?」

「はいっ……! 宜しくお願いいたしますわ! それでは当日の流れをお伝えするので、どこか静かな場所へ参りましょう」

 

 カオリとろーちゃんは、国技館を後にした。

 

──────────

 

 あんていくが休みの日、リオは6区へ来ていた。カオリから手に入れた『アオギリの樹』の情報を、カネキに渡すためだ。

 

 

 カネキの家のインターホンを押すと、しばらくしてヒナミの声が返ってきた。

 

「ど、どちらさまですか……?」

「えっと、リオです」

「あっ! こんにちはリオさん! 今開けますね」

 

 ヒナミはリオを家の中へ案内した。どうやらカネキ達は外出しているようで、ヒナミ以外には誰もいなかった。

 

「いらっしゃいリオさん。今日はどうしましたか?」

「カネキさんに会いに来たんですけど……いますか?」

 

 やはりカネキは居ないらしく、ヒナミは悲しそうに顔を振った。

「ううん……お兄ちゃん、最近家に帰ってきてないの……」

「どこにいるか、知ってたりは……?」

「……ごめんなさい」

「ありがとう。ちょっと月山さんに聞いてみます」

 

 月山に電話をかけると、しばらく呼び出し音が流れてから、月山に繋がった。

 

Bonjour(ボンジュール)、リトル・リオ。この月山習に何かご用かな?』

「今6区のカネキさんの家にいるんですけど、カネキさんがいないみたいで……月山さんはカネキさんがどこにいるか知ってますか?」

『Non。僕もカネキくんを探している最中でね……カネキくんを見つけたら、僕にも教えてくれたまえ』

 

 どうやら月山も知らなかったらしく、カネキの行方は分からなかった。

 

「お兄ちゃんが行きそうな所……うん、お兄ちゃんは本が好きだから、本屋さんとかかなぁ? 図書館かも?」

「本が沢山あるところ……なのかなぁ? お店の数が多すぎて回りきれなさそう……この家で待ってても良いですか?」

「うん! ヒナミ、ずっとお留守番ばっかりなんだ……だからリオさんが居てくれて嬉しいなっ」

 

 ヒナミは年齢の近い友達が居なく、少し寂しさを感じていた。自身と年齢の近そうなリオが居ることは、ヒナミにとって嬉しかった。

 

「本当? それは良かったです。そういえば、僕も今の生活になる前は、ずっと留守番ばっかりだったなぁ……」

 

 今も監禁や絶対安静などで家から出られない時こそあるが、基本的には自由に外出ができる。

 一方で、兄と暮らしていた時は、廃屋で兄の帰りを待つ日々を送っていた。

 

「そうなんだ……ヒナミと一緒だったんだね……リオさんは一人の時、何をして待ってたの?」

「散歩したり、拾った本を読んだりとかかなぁ……でも……最近は読んでないなぁ」

 

 偶然拾った本が、かつてのリオにとって、大きな娯楽であった。しかし、今となっては家にテレビがあり、パソコンで映画も見られる。本よりも分かりやすいその娯楽は、リオを読書から離れさせるのに充分であった。

 

「ヒナミは本をよく読むよ! 今はね、これを読んでるの!」

 

 ヒナミがリオに見せた本は、人間ですら読むのに苦労しそうな本であった。

 

(たか)……(いずみ)? 作者の名前すら読めないや……タイトルも読み方がわかんないなぁ……『こやしぐれ』?」

「『小夜時雨(さよしぐれ)』だよっ! 書いてる人の名前は『高槻泉(たかつきせん)』って読むんだって。お兄ちゃんが好きな作家さんなんだよ? 難しい字が多いけど、面白いよ! リオさんに字、教えてあげよっか?」

 

 その後、リオはヒナミから読めない字を教わりつつ、本を読み進めていく。

 

 二人は段々と打ち解けていき、楽しい時間を過ごしていた。

 

 

 

 

「面白かったけど、結構怖い話なんだね……ちょっと意外だったかも。こういう話って、姉さんも好きそうだけど、姉さんは本読まないしなぁ……」

 

 小夜時雨はどことなく残酷な表現が散見され、カオリが見るホラー映画と良く似ていた。

 

「リオさんはお兄さんだけじゃなくて、お姉さんもいるの? あ、そういえばこの前拾われたって言ってたっけ。お姉さんはどんな人なの?」

 

 カオリはカネキ達と最終的には敵対する関係であるため、カオリの事を話しても良いとは思えなかった。ヒナミの言葉に、リオは少し悩む。

 

「えっと……強い喰種……かな……」

 

 ようやく口に出せたのは、当たり障りのない答えだった。

 

「そうなんだ。ヒナミも強くなりたいなぁ……あの人は『二種持ちだから間違いなく強くなれる』って言ってくれたけど、共食いをやる勇気は出ないし、誰かを殺し回るなんてしたくないよ……」

 

 その言葉に、リオはどこか引っかかるものがあったが、何か嫌な予感がしたため、それを問うことをやめた。

 

──────────

 

 

 夜になり、リオが諦めて帰ろうとしていたところ、カネキが帰ってきた。

 

「おかえりお兄ちゃん!」

「ただいまヒナミちゃん。あれ? リオちゃんも来てたんだね。ジェイルの情報は掴めた?」

 

「『キンコ』という喰種の情報を手に入れたのですが、キンコもジェイルではありませんでした……それと、アオギリの情報を入手しました。少し古いみたいですけど……」

 

 リオはカオリから得た情報を、カネキに伝えた。

 

「アオギリの情報ありがとう。リオちゃんの話と合わせると、やっぱり14区と15区の支配は諦めたと考えて良いのかな……リオちゃん、お返しって訳じゃないんだけど、『ジェイル』の可能性がある喰種を一人見つけたよ。僕が見つけた喰種は『ロウ』という女性の喰種だ」

 

 カネキは懐から一枚の写真を取り出す。そこには『目元に格子状のメイクをした女性』が写っていた。

 

「リオちゃんのお兄さんだけじゃなくて、リオちゃんもジェイルと疑われてるってことは、キジマはジェイルの性別がわかってないんじゃないかな? ……目元にアザではないけど、格子状のメイクを施していて、それをキジマが見間違えたかもしれないと思ってね」

 

 カネキのその言葉に、確かにジェイルが女性の可能性もあるとリオは思った。

 

「それに彼女は大量殺害だけじゃなく、『共食い』もやる喰種だ。他の喰種を屠るくらいだから、かなりの実力が有ると思う……」

「共食い……」

 

 リオの脳裏に、カオリの姿が浮かぶ。共食いにより赫者となるのであれば、ロウも赫者である可能性が高いとリオは考えた。

 

「それで、彼女の居場所だけど……今度どこに現れるのかはアタリがついてる……『喰種レストラン』だ」

「喰種レストラン?」

 聞き覚えのない言葉に、リオは首を傾げる。

 

「残酷な場所だよ……裕福な喰種達が集まって、目の前で人間を解体して食べるんだ……あんな場所はあっちゃいけない。だから僕は、そこを潰す。そこに居る喰種も……今度そこで行われるショーの参加者名簿に『ロウ』の名前もあった……君も一緒に来る?」

「一緒に行っても良いんですか?」

 

 例え一人でもリオは行くつもりであったため、カネキの同行はとてもありがたいモノであった。

 

「安全は保障できないけど、それでもいいなら」

「ありがとうございます! 一緒に連れて行って下さい!」

「うん。じゃあ当日の流れを説明するね……」

 

 その後、帰ってきた万丈達も交えつつ、カネキは当日の作戦を説明していった。

 

 

──────────

 

 

 約一週間後、リオはカネキ達と共に、7区の『喰種レストラン』がある建物の前に来ていた。

 

「では打ち合わせ通り、万丈さんは裏口から侵入して下さい。僕は今日の『ディナー』として、月山さんと一緒に行きます」

「気ィつけろよな、カネキ……」

 

 カネキ自身を囮にした作戦。万丈は不安そうにカネキを見ていた。

 

「フフッ、安心したまえバンジョイくん。我が主は責任を持って僕がお守りしよう」

「中の客は全て僕が始末します。リオちゃんや万丈さん達は、ヤツらが逃げないように出口を封鎖して下さい」

 

「おう!」

「うぃっす!」

「了解!」

「任せて下さい!」

 万丈とガスマスクの3人組は、元気良く返事をした。

 

「分かりました! ……あの……ところで……皆さんを何と呼べば良いですか? あ、僕の事は『フレディ』でお願いします」

 

 喰種の時間は本名禁止。カオリの言いつけを守っているリオは、カネキ達をどう呼べば良いのか質問した。

 

「は? 呼び名? 何言ってんだ?」

 だが、万丈はリオの質問が理解できなかったらしく、首を傾げている。

 

「フフッ、リトル・フレディ。バンジョイくんとその仲間達はそのまま呼んで構わないよ? 僕の事は『美食家(グルメ)』と呼んでくれたまえ」

「僕は『眼帯』……かな? CCGがそう呼んでるらしいから……」

 

「分かりました。グルメさんと眼帯さんも気をつけて下さい。もしロウが居たら、宜しくお願いします」

 

 リオは万丈達と共に、喰種レストランの裏口へと歩いていった。

 

 

「万丈さん、中の客って、どのぐらい居るんですか?」

「100人ぐらいはいると思うぜ?」

 100人の喰種。そんな数を相手にできるほどカネキが強いのか、リオには分からない。

 

「それ、全部カネ……眼帯さんが相手をするんですか?」

「まぁ……そう言ってたしなぁ……でも()()が下手に手出ししたら、逆に足引っ張るかもしれねぇし……」

 

 万丈はリオの戦いを見たことがない。万丈にとって、ヒナミと同い年くらいにしか見えない少女が、よもやカネキ以上の強さを持っていることなど、知る由も無かった。

 

 

 しばらくの時間が経過し、会場からは幾つもの悲鳴が聞こえてきたが、万丈達のもとへは誰一人として来なかった。

「始まったか……カネキ、しっかりやれよ……!」

 

 悲鳴の中にはいくつもの断末魔が混じり、悲鳴はますます大きくなっていく。

 

─────ふとその時、大きな破壊音が響いた。

 

「ドアがぶっ壊された音だな……! 逃げてくる奴らは俺らで足止めすっぞ!!」

 

 万丈の叫びとともに、臨戦態勢を取る……が、走ってきたのは月山だった。だが、彼の表情は鬼気迫るモノであり、それはカネキに危機が迫っていることが、ハッキリと分かる様であった。

 

「月山!? おい、カネキはどうし……」

「フレディッ!! すぐに来たまえ!! ()()を止められるのはキミだけだッ!!」

 

 月山はリオの腕を掴むと、会場に向かって走り出す。

 

「おい! 待てよッ!! 俺たちも行くぞ!」

 万丈はガスマスクの3人と共に、月山達の後を追った。

 

 

 

 会場には、惨劇が広がっていた。全ての客が無残に殺され、床の上に転がっている。

 

 だが、それを作り出したのは……カネキではない。惨劇を作り出すはずだったカネキは足を失い、床の上で痛みに呻いていた。

 

 そこに立って居たのは2人。赤いドレスを着た女と、青いドレスを着た女。

 

(う、嘘だっ……姉さん……)

 

 赤いドレスの女からは、()()()()()()()()()()赫子が生えていた。

 




 カ オ リ が 敵 陣 営 
原作とはまるで別物の喰種レストラン戦。はじまりますっ!
タグにある通り、カオリは【第三勢力】です。ムシャりムシャられるのはアオギリだけじゃありません。

タイトルに《過去話》とか付けて分かったのですが、20話から26話って、ずっとリオちゃんオンリーだったんですね……。
(´@盆@`)そりゃ最近カオリ出てねぇぞ!って御指摘が出ますよね。本当に申し訳ない。


ようやく『ろーちゃん』こと『ロウ』の登場です。JAILユーザーからは「女版の月山みたいなヤツ」とか呼ばれたりしてるキャラです。
でも実際のところ、月山さんほどぶっ飛んでるキャラじゃないと思うんだけどなぁ……。

Q.ロウの言ってた『マイヤーズ姉様』のマイヤーズって何?
A.ハロウィンという映画に出てきたブギーマン「マイケル・マイヤーズ」です。


☆原作での喰種レストラン戦とは
1:カネキ「ちょっとレストラン潰してくる」
2:レストラン客「グエー死んだンゴ」
3:謎の白黒少女「こんばんは、私達と同じ赫子を持つ人。また会おうね」
4:終わり!

たったこれだけのイベントです。原作で数ページしかないイベントなんですよね。JAIL版でもサラっと終わりますし……。



■レストラン戦における各陣営の戦力
・カネキ陣営
カネキ・月山・リオ・万丈・イチミ・ジロ・サンテ

・???陣営
謎のおばさん・謎の白髪少女・謎の黒髪少女

・レストラン陣営
謎の雑魚キャラ軍団約百体(全滅)

・ロウ陣営
赫者のやべーやつ・赫者のもっとやべーやつ


次回『No One Escapes Death(誰も死から逃れられない)

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