第30話 狂宴の幕開け
カオリは7区の『両国』に来ていた。ロマから『ろーちゃん』が両国に現れているという情報を得たためだ。
だが、カオリは探索をせずに、両国国技館へ来ていた。
両国には『大相撲夏場所・
カオリは土俵から離れた場所にある座席に座り、のんびりと相撲を眺めていた。
(ガッシリついた筋肉に、それを覆う中落ち……中落ちと中落ちのぶつかり合い……相撲はお腹が空いてくるよー! でも、塩を振るのは良くないなー。人間ならそれで良いのかもしれないけど、喰種にとっては味が落ちちゃうんだよねー……)
激しくぶつかり合う力士達に、相撲本来の趣旨とはまるで違うことを考えていると、ふと懐かしいニオイがカオリの鼻へ飛び込んできた。
カオリはニオイの主へと振り返り、手招きをした。
「『ろーちゃん』、久し振りっ!」
カオリが手を振る先には、青のドレスを着て、『目元に格子状のメイクをした女性』が、水色のロングヘアーをなびかせていた。
「お久しぶりですわ、『マイヤーズ
ろーちゃんはカオリに向け、綺麗なカーテシーで挨拶をした。
「ふふっ、ろーちゃんも……
「姉様にそう言って頂けると、アタクシも
「ううん、ただなんとなく。でも、相撲ってのも悪くないねー? ついつい食欲が湧いてくるよー」
その言葉に、ろーちゃんはニッコリと微笑んだ。
「もしや、姉様も力士が気に入りましたの? それでは、今度アタクシと『レストラン』に行きませんか? 前菜には、幕下ですけど力士が出るらしいですの」
その言葉に、カオリは少し眉を寄せる。
「うーん……でも私が行っていいのかなー? ろーちゃん、以前私が行くの嫌がってたじゃん?」
「……あの頃はアタクシに力が無かったので、もしも姉様に暴れられたら、アタクシの立場が危なかったのですわ……ですがご安心下さいまし! アタクシはあの頃と違い、力も財もありますわ!! かの『ビックマダム』ですら口出しさせないだけの地位を得ましたの。ですので姉様、あの頃のアタクシを導いて下さった御礼を、今こそさせて下さいまし」
ろーちゃんの真剣な表情に、カオリはろーちゃんの頭に手を伸ばす。
そして、ろーちゃんの髪の毛をサラサラと梳きながら、頭を撫でた。
「あっ……姉様……いったい何を……?」
「ふふふっ、ろーちゃんは昔っから一途で可愛いねー。そんなろーちゃんだからこそ、私はあの時ろーちゃんを
カオリの手が頭から顔へ、そして首筋へと滑っていく。
「ああっ、姉様……姉様っ……」
「ふふっ……一緒にレストラン、いこっか?」
「はいっ……! 宜しくお願いいたしますわ! それでは当日の流れをお伝えするので、どこか静かな場所へ参りましょう」
カオリとろーちゃんは、国技館を後にした。
──────────
あんていくが休みの日、リオは6区へ来ていた。カオリから手に入れた『アオギリの樹』の情報を、カネキに渡すためだ。
カネキの家のインターホンを押すと、しばらくしてヒナミの声が返ってきた。
「ど、どちらさまですか……?」
「えっと、リオです」
「あっ! こんにちはリオさん! 今開けますね」
ヒナミはリオを家の中へ案内した。どうやらカネキ達は外出しているようで、ヒナミ以外には誰もいなかった。
「いらっしゃいリオさん。今日はどうしましたか?」
「カネキさんに会いに来たんですけど……いますか?」
やはりカネキは居ないらしく、ヒナミは悲しそうに顔を振った。
「ううん……お兄ちゃん、最近家に帰ってきてないの……」
「どこにいるか、知ってたりは……?」
「……ごめんなさい」
「ありがとう。ちょっと月山さんに聞いてみます」
月山に電話をかけると、しばらく呼び出し音が流れてから、月山に繋がった。
『
「今6区のカネキさんの家にいるんですけど、カネキさんがいないみたいで……月山さんはカネキさんがどこにいるか知ってますか?」
『Non。僕もカネキくんを探している最中でね……カネキくんを見つけたら、僕にも教えてくれたまえ』
どうやら月山も知らなかったらしく、カネキの行方は分からなかった。
「お兄ちゃんが行きそうな所……うん、お兄ちゃんは本が好きだから、本屋さんとかかなぁ? 図書館かも?」
「本が沢山あるところ……なのかなぁ? お店の数が多すぎて回りきれなさそう……この家で待ってても良いですか?」
「うん! ヒナミ、ずっとお留守番ばっかりなんだ……だからリオさんが居てくれて嬉しいなっ」
ヒナミは年齢の近い友達が居なく、少し寂しさを感じていた。自身と年齢の近そうなリオが居ることは、ヒナミにとって嬉しかった。
「本当? それは良かったです。そういえば、僕も今の生活になる前は、ずっと留守番ばっかりだったなぁ……」
今も監禁や絶対安静などで家から出られない時こそあるが、基本的には自由に外出ができる。
一方で、兄と暮らしていた時は、廃屋で兄の帰りを待つ日々を送っていた。
「そうなんだ……ヒナミと一緒だったんだね……リオさんは一人の時、何をして待ってたの?」
「散歩したり、拾った本を読んだりとかかなぁ……でも……最近は読んでないなぁ」
偶然拾った本が、かつてのリオにとって、大きな娯楽であった。しかし、今となっては家にテレビがあり、パソコンで映画も見られる。本よりも分かりやすいその娯楽は、リオを読書から離れさせるのに充分であった。
「ヒナミは本をよく読むよ! 今はね、これを読んでるの!」
ヒナミがリオに見せた本は、人間ですら読むのに苦労しそうな本であった。
「
「『
その後、リオはヒナミから読めない字を教わりつつ、本を読み進めていく。
二人は段々と打ち解けていき、楽しい時間を過ごしていた。
「面白かったけど、結構怖い話なんだね……ちょっと意外だったかも。こういう話って、姉さんも好きそうだけど、姉さんは本読まないしなぁ……」
小夜時雨はどことなく残酷な表現が散見され、カオリが見るホラー映画と良く似ていた。
「リオさんはお兄さんだけじゃなくて、お姉さんもいるの? あ、そういえばこの前拾われたって言ってたっけ。お姉さんはどんな人なの?」
カオリはカネキ達と最終的には敵対する関係であるため、カオリの事を話しても良いとは思えなかった。ヒナミの言葉に、リオは少し悩む。
「えっと……強い喰種……かな……」
ようやく口に出せたのは、当たり障りのない答えだった。
「そうなんだ。ヒナミも強くなりたいなぁ……あの人は『二種持ちだから間違いなく強くなれる』って言ってくれたけど、共食いをやる勇気は出ないし、誰かを殺し回るなんてしたくないよ……」
その言葉に、リオはどこか引っかかるものがあったが、何か嫌な予感がしたため、それを問うことをやめた。
──────────
夜になり、リオが諦めて帰ろうとしていたところ、カネキが帰ってきた。
「おかえりお兄ちゃん!」
「ただいまヒナミちゃん。あれ? リオちゃんも来てたんだね。ジェイルの情報は掴めた?」
「『キンコ』という喰種の情報を手に入れたのですが、キンコもジェイルではありませんでした……それと、アオギリの情報を入手しました。少し古いみたいですけど……」
リオはカオリから得た情報を、カネキに伝えた。
「アオギリの情報ありがとう。リオちゃんの話と合わせると、やっぱり14区と15区の支配は諦めたと考えて良いのかな……リオちゃん、お返しって訳じゃないんだけど、『ジェイル』の可能性がある喰種を一人見つけたよ。僕が見つけた喰種は『ロウ』という女性の喰種だ」
カネキは懐から一枚の写真を取り出す。そこには『目元に格子状のメイクをした女性』が写っていた。
「リオちゃんのお兄さんだけじゃなくて、リオちゃんもジェイルと疑われてるってことは、キジマはジェイルの性別がわかってないんじゃないかな? ……目元にアザではないけど、格子状のメイクを施していて、それをキジマが見間違えたかもしれないと思ってね」
カネキのその言葉に、確かにジェイルが女性の可能性もあるとリオは思った。
「それに彼女は大量殺害だけじゃなく、『共食い』もやる喰種だ。他の喰種を屠るくらいだから、かなりの実力が有ると思う……」
「共食い……」
リオの脳裏に、カオリの姿が浮かぶ。共食いにより赫者となるのであれば、ロウも赫者である可能性が高いとリオは考えた。
「それで、彼女の居場所だけど……今度どこに現れるのかはアタリがついてる……『喰種レストラン』だ」
「喰種レストラン?」
聞き覚えのない言葉に、リオは首を傾げる。
「残酷な場所だよ……裕福な喰種達が集まって、目の前で人間を解体して食べるんだ……あんな場所はあっちゃいけない。だから僕は、そこを潰す。そこに居る喰種も……今度そこで行われるショーの参加者名簿に『ロウ』の名前もあった……君も一緒に来る?」
「一緒に行っても良いんですか?」
例え一人でもリオは行くつもりであったため、カネキの同行はとてもありがたいモノであった。
「安全は保障できないけど、それでもいいなら」
「ありがとうございます! 一緒に連れて行って下さい!」
「うん。じゃあ当日の流れを説明するね……」
その後、帰ってきた万丈達も交えつつ、カネキは当日の作戦を説明していった。
──────────
約一週間後、リオはカネキ達と共に、7区の『喰種レストラン』がある建物の前に来ていた。
「では打ち合わせ通り、万丈さんは裏口から侵入して下さい。僕は今日の『ディナー』として、月山さんと一緒に行きます」
「気ィつけろよな、カネキ……」
カネキ自身を囮にした作戦。万丈は不安そうにカネキを見ていた。
「フフッ、安心したまえバンジョイくん。我が主は責任を持って僕がお守りしよう」
「中の客は全て僕が始末します。リオちゃんや万丈さん達は、ヤツらが逃げないように出口を封鎖して下さい」
「おう!」
「うぃっす!」
「了解!」
「任せて下さい!」
万丈とガスマスクの3人組は、元気良く返事をした。
「分かりました! ……あの……ところで……皆さんを何と呼べば良いですか? あ、僕の事は『フレディ』でお願いします」
喰種の時間は本名禁止。カオリの言いつけを守っているリオは、カネキ達をどう呼べば良いのか質問した。
「は? 呼び名? 何言ってんだ?」
だが、万丈はリオの質問が理解できなかったらしく、首を傾げている。
「フフッ、リトル・フレディ。バンジョイくんとその仲間達はそのまま呼んで構わないよ? 僕の事は『
「僕は『眼帯』……かな? CCGがそう呼んでるらしいから……」
「分かりました。グルメさんと眼帯さんも気をつけて下さい。もしロウが居たら、宜しくお願いします」
リオは万丈達と共に、喰種レストランの裏口へと歩いていった。
「万丈さん、中の客って、どのぐらい居るんですか?」
「100人ぐらいはいると思うぜ?」
100人の喰種。そんな数を相手にできるほどカネキが強いのか、リオには分からない。
「それ、全部カネ……眼帯さんが相手をするんですか?」
「まぁ……そう言ってたしなぁ……でも
万丈はリオの戦いを見たことがない。万丈にとって、ヒナミと同い年くらいにしか見えない少女が、よもやカネキ以上の強さを持っていることなど、知る由も無かった。
しばらくの時間が経過し、会場からは幾つもの悲鳴が聞こえてきたが、万丈達のもとへは誰一人として来なかった。
「始まったか……カネキ、しっかりやれよ……!」
悲鳴の中にはいくつもの断末魔が混じり、悲鳴はますます大きくなっていく。
─────ふとその時、大きな破壊音が響いた。
「ドアがぶっ壊された音だな……! 逃げてくる奴らは俺らで足止めすっぞ!!」
万丈の叫びとともに、臨戦態勢を取る……が、走ってきたのは月山だった。だが、彼の表情は鬼気迫るモノであり、それはカネキに危機が迫っていることが、ハッキリと分かる様であった。
「月山!? おい、カネキはどうし……」
「フレディッ!! すぐに来たまえ!!
月山はリオの腕を掴むと、会場に向かって走り出す。
「おい! 待てよッ!! 俺たちも行くぞ!」
万丈はガスマスクの3人と共に、月山達の後を追った。
会場には、惨劇が広がっていた。全ての客が無残に殺され、床の上に転がっている。
だが、それを作り出したのは……カネキではない。惨劇を作り出すはずだったカネキは足を失い、床の上で痛みに呻いていた。
そこに立って居たのは2人。赤いドレスを着た女と、青いドレスを着た女。
(う、嘘だっ……姉さん……)
赤いドレスの女からは、
カ オ リ が 敵 陣 営
原作とはまるで別物の喰種レストラン戦。はじまりますっ!
タグにある通り、カオリは【第三勢力】です。ムシャりムシャられるのはアオギリだけじゃありません。
タイトルに《過去話》とか付けて分かったのですが、20話から26話って、ずっとリオちゃんオンリーだったんですね……。
(´@盆@`)そりゃ最近カオリ出てねぇぞ!って御指摘が出ますよね。本当に申し訳ない。
ようやく『ろーちゃん』こと『ロウ』の登場です。JAILユーザーからは「女版の月山みたいなヤツ」とか呼ばれたりしてるキャラです。
でも実際のところ、月山さんほどぶっ飛んでるキャラじゃないと思うんだけどなぁ……。
Q.ロウの言ってた『マイヤーズ姉様』のマイヤーズって何?
A.ハロウィンという映画に出てきたブギーマン「マイケル・マイヤーズ」です。
☆原作での喰種レストラン戦とは
1:カネキ「ちょっとレストラン潰してくる」
2:レストラン客「グエー死んだンゴ」
3:謎の白黒少女「こんばんは、私達と同じ赫子を持つ人。また会おうね」
4:終わり!
たったこれだけのイベントです。原作で数ページしかないイベントなんですよね。JAIL版でもサラっと終わりますし……。
■レストラン戦における各陣営の戦力
・カネキ陣営
カネキ・月山・リオ・万丈・イチミ・ジロ・サンテ
・???陣営
謎のおばさん・謎の白髪少女・謎の黒髪少女
・レストラン陣営
謎の雑魚キャラ軍団約百体(全滅)
・ロウ陣営
赫者のやべーやつ・赫者のもっとやべーやつ
次回『