カオリの放った
黒い根は壁や天井にも張り巡らされ、レストランはまるで黒いジャングルのような姿へと変わった。
「では遊び方を教えようっ!! このレストランの中に、たった今7つの『ガイコツ』を設置した! ガイコツには『白い花』が咲いているので、見つかればすぐに分かると思うよー? キミ達は私から逃げつつ、そのガイコツを5つ破壊する事。ガイコツは一度の攻撃では壊れないけど、何度か攻撃すれば壊せるくらいの強度にしてあるよ! 5つのガイコツを破壊したら、私は赫子で封鎖した扉を開放しよう。その扉から出ることができれば、キミ達の勝利だ!」
月山達が扉のあった場所を見ると、そこはびっしりと尾赫が貼りついていた。
「やべぇぞ月山……閉じ込められちまってる……カネキィ! 足は大丈夫か!?」
「えぇ……もう再生しました。これほどの赫子……一体どれだけの人や喰種をッ……!!」
「ッ!? 待ちたまえカネキくん!」
足を再生させたカネキは、再びカオリに向かっていこうとするが、月山がカネキを止める。
「残念だが……彼女の誘いは断りたくとも断れない……
「そそ、おーらいおーらい。鬼ごっこしたくないならそれでも良いけど、足元から串刺しになるだけだよ? こんなふうに」
床、壁、天井に至る全てに張り付いた黒い根。それらは一斉に月山へと殺到し、貫く寸前で止まった。
「び、Be cool……フラットに行こうじゃないか……」
「ごめんごめーん。この中で一番強いのはグルメちゃんでしょ? グルメちゃん相手に見せたほうが、他の子達も分かると思ってねー。よっし、では説明を続けよう! まず私のハンデとして、『嗅覚と赫子による感覚拡張』は使わないと約束しよう!! これがあると、キミ達がどこに居ても分かってしまうからねー」
カオリはポケットからティッシュを取り出すと、鼻に詰めた。
「んしょ……鼻栓はちょっと絵面が間抜けだけど、この『山羊仮面』があるから皆は見えてないよね? ……そして、鬼は私のまま変わらない! キミ達はいつまでも逃げる側であーる! また、私はキミ達に追いついた時、これで攻撃を行う」
カオリは肩から甲赫を展開し、大きな鉈へと変形させた。
「このナタでキミ達を斬りつけ、切り落とした部位を私が食べる。私が食べている間は歩かないので、その間に再び私から逃げることができるぞっ! なお、私への攻撃はもちろん自由に行って構わない。だが、私を倒そうなんて無駄な事をするよりも、さっさとガイコツを破壊して逃げたほうが良いと思うよ? では、鬼ごっこを開始しよう!! 私が10秒数えたら開始するよー! ……じゅー……きゅー」
カオリは耳を塞ぎながら目を閉じ、その上から甲赫を纏う。
「……いーち……ぜろっ!」
カオリが目を開けると、全員が身を隠……してはおらず、月山が目の前に立っていた。
月山が入手したレストランの来客一覧には、カオリの名前は無かった。そのため、喰種レストランの来客に、手こずる相手は居ないと判断していた。だが、実際にはカオリが居て、月山の予想を遥かに超えた強さのロウが居た。
その結果、無二の親友であり、主であるカネキを危機に晒した。
その責任を取るために、月山は全力でカオリをこの場に引き止める役割……つまり囮を買って出ていた。
「……グルメちゃん、これ……逃げたり隠れたりする鬼ごっこなんだけど……まぁいっか」
カオリが鉈を振り上げると同時、月山は大きく後ろへ跳ぶが……月山の背後には、いつの間にか尾赫の壁が作られていた。
「んなっ!?」
月山の驚愕に、カオリはニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ざんねーん。いつの間にか地形が変わってたみたいだねー?」
カオリの鉈が月山の右腕へと迫る。月山は咄嗟に甲赫を纏うが、カオリの鉈は赫子ごと右腕を切り落とした。
「ぐっ……!!」
「はい、まずは一撃」
血飛沫が舞い、月山の額から脂汗が流れ落ちるものの、月山は悲鳴一つ上げなかった。
「グルメちゃんの肉にはずっと興味があったんだよねー。さてさて、まずは味見をしましょーう」
カオリは月山の腕を拾うと、ゆっくりと
「おおっ! 隻眼の子達程じゃないけど、グルメちゃんも美味しいよっ! 普通の喰種でこの味は凄いことだよー!」
「ひ……ひとつ聞かせてくれたまえ……貴女は芳村氏との約束を
あんていくの店長である芳村との約束。それは20区の喰種を殺したり捕食したりしないこと。
だが、カオリはニヤリと嗤った。
「ふふふ、グルメちゃんならそう言うと思ったよー? でも『皆様』と言ったのはグルメちゃんだよね?
「……僕のせい、か……I'm an idiot」
「まぁ、流石に20区の子を殺しはしないけどねー? ところでさ、グルメちゃんは逃げなくていいの? そろそろ食べ終わるよ?」
カオリは月山の腕を殆ど食べ尽くしており、残すは手の部分となっていた。
「生憎だけど、僕は貴女の足止めをさせてもらうよ。カネキくん、バンジョイ君と愉快な仲間達、隻眼の少女達……7人もいれば、たかが5つのドクロくらいすぐ壊せるハズさ……」
月山の言葉に、カオリは笑みを強くする。
「ふふ……ふふふっ、ねぇグルメちゃん? そのバンジョイ君と愉快な仲間たちは……
「……What?」
「壊すガイコツだけど……確かに何度か攻撃すれば壊せるようにはしてるよ? でもそれって……
カオリの言葉に、月山はその意味を理解してしまった。
「ニオイで分かるよ、あの4人には赫子……つまり、ガイコツを壊す力がないんだよねー? ふふっ、グルメちゃんのアテが外れたねー。グルメちゃんじゃなくて、あの役立たず達を囮にすれば、4人でガイコツを壊せたのにね?」
「No kidding! 貴女のその
「……ん、ごちそうさま」
カオリは月山の腕を食べ終えた。
「そうかもしれないねー。なら、グルメちゃんが起き上がれなくなるまで何度でも食べるとするよー。幸いまだガイコツは壊されてないみたいだしっ」
カオリは鉈を振るい、月山の体を刻み、捕食し、再び鉈を振るう。
「……っガ……まだだ! 僕はまだ倒れていないぞッ……!」
月山は幾度も腕を切り落とされ、ついには左足さえも切り落とされた。
だが、片足だけになっても、未だカオリの前に立ちはだかっていた。
「うんうん。頑張ってるねー。でも……以前教えたよね? 喰種にとって、肉はガソリン。もうそろそろ燃料切れなんじゃないかなー。多分、これで最後っ!」
カオリの捕食スピードに対し、月山の再生スピードは段々落ちていき、ついに再生が間に合わなくなった。
そして、カオリのナタが、最後に残った月山の右足を切り落とす。両手足を失った月山は、床にべしゃりと落下した。
「んぐ……んぐ……ふぅー、案外グルメちゃんもしぶといんだねー。まさかガイコツ2つ分も時間を稼ぐなんてね……あ、これで3つ分だ。さてと、残りのガイコツを巡回しよーっと」
カオリは鉈についた血を払うと、残っているガイコツのある場所へと歩き出した。
──────────
万丈とガスマスク3人組は当初、カネキと別れてガイコツ探しをしていた。
だが、万丈達は運良く『花の生えた頭蓋骨』を見つけたものの、いくら攻撃を加えても傷一つ付かない。
結局万丈達ではガイコツを壊すことはできず、様子を見にきたカネキの赫子によって、ガイコツは破壊された。
「すまねぇ……すまねぇカネキ……俺達じゃ役に立つこともできねぇ……! せめて俺達も囮に」
「やめてください万丈さん。僕は万丈さんを失いたくはありません……!? 皆さん、ここからすぐに、音を立てずに移動しましょう。向こうから恐らく『あの人』が来てます」
カネキの鼻は、
カネキ達が物陰に隠れてしばらくすると、カネキが指し示した方向から、カオリが大股で歩いてきた。だが、それは小走りする速度と変わらぬほどの速さである。
よく見るとカオリの足は根っこの様なモノへと変化しており、ヒトの骨格では不可能な動きを見せていた。
息を潜めるカネキ達に、カオリは気付くことなく通り過ぎていった……。
「うげ……なんだよあれ」
「バンジョーさん、自分らアレ知ってるッスよ」
「知ってる知ってる。アレってポケモンの……」
「マダツボミ……」
ガスマスク3人組の言う通り、マダツボミのようにユラユラとした挙動で歩く赤いドレスの山羊頭。赫子をズルズルと伸ばしながら歩くその姿は、彼等に生理的嫌悪感をもたらした。
「なんつーか、あの動き……めちゃくちゃキモイな……夢に出てきそうだ……」
万丈はホラー映画が大の苦手であり、まさにホラー映画さながらの挙動で動き回るカオリを、心の底から恐怖した。
「よし、今の内に離れるか……」
「待って下さい。もうしばらくここに留まります。もうしばらく息を潜めて下さい」
カネキの発言を疑問に思いながらも、万丈達はその場に隠れ続ける。すると、
そして、やはりカネキ達に気付くことなく、そのまま通り過ぎていった。
「……万丈さん、あの人はこの床を保ちながら歩くために、赫子を伸ばし続けているみたいです。なら、どこかで伸ばせる限界が来るはずです。1度目にあの人が来たときは、あの人は赫子を伸ばしていた。そして今、あの人はその赫子を体に戻しながら歩いてきた。多分暫くは戻ってこないハズです」
「なるほどな、掃除機みたいな奴だったのか……それにしてもカネキ、良く気付いたな……俺は全く分からなかった……」
カネキ達は今度こそ物陰から出て、骸骨を探し始める。暫くは戻ってこないと予想していた。
─────だが、それもまたカオリの罠であった。
「しまった!? みんなすぐに隠れ……」
「……みぃつけたぁ」
暫くは戻ってこないと思われていたカオリが、すぐに戻ってきた。
「ふふっ、やっぱりねー。さっき壊された3つ目のガイコツのそばに、誰か隠れてると思ったよぉー?」
カオリはユラユラと揺れながら、一気に万丈達との距離を詰める。
「ヒィッ!?」
「あわわわわ、やばいッスよ!?」
「逃げるしかないよ!?」
「助けて!!」
絶体絶命の万丈達だが、そこにカネキが割って入る。
「早く逃げて下さい! 僕が時間を稼ぎます!!」
「す、すまねぇカネキ! 生きてくれよっ!!」
ガイコツを破壊できない万丈達は、この鬼ごっこでは役に立たない。もしも万丈達を活用するならまさにこの時、囮として使うべきであった。
だが、カネキは『カオリの攻撃を万丈達が受ければ、万丈達は即死する』という確信があった。
囮として使えば、万丈達は死ぬ。万丈達を見殺しにすることなど、カネキにはできなかった。
「このぉッ!!」
足を斬られた先程と違い、カオリの攻撃は『赫子の鉈を振るう』という近接攻撃。ならばカネキは、自身の鱗赫で先制できると考えた。
カネキの鱗赫が放つ一撃は、確かにカオリの鉈よりも速かったが……。
─────カネキの鱗赫は、カオリの体にぶつかった瞬間砕け散った。
「……あ」
「11区で言ったよね。大食いちゃんの赫子で私に勝てるとでも? 大食いちゃん本人ですら、傷一つ付けられなかったのにねっ!」
カネキの赫子を正面から粉砕したカオリは、鉈でカネキの腕を切り落とした。
「……っがぁぁっ!?」
「さーて、ご馳走の時間だー! グルメちゃんのも悪くは無かったんだけど、隻眼の喰種は別格なんだよねー!!」
カオリはカネキの腕を拾うと、ゆっくりとかじりついた。
「……んー! やっぱり美味しいっ!! いくつかみんなのお土産にしたいから……」
カオリは甲赫の中にカネキの腕を入れ、収納した。
「はい、食べ終わっちゃった! 逃げ遅れた歯茎さんにもういっかーい!」
カオリは、カネキのもう片方の腕を切り落とす。
「っあああッ!」
両腕を失ったカネキだが、即座に腕を再生させた。
「早っ! ヤクモちゃん並じゃん! じゃあ追撃しまーす」
カオリはカネキの両腕を切り落とした。
「っ!? ……がああアアアアッ!?」
即座に何度も腕を切り落とされたカネキは、激痛に襲われていた。
「ごめんなさいねー。ちょっとお土産にしたくてー。でも最初に決めた事と違うことをしちゃったから、歯茎さんは一旦見逃してあげるねっ! ばいばーい!」
カオリは残りのガイコツを巡回するため、カネキから去っていった。
『この世全ての不利益は、当人の能力不足』
ヤモリの言葉が、カネキの脳内に響く。
「っぐ……クソッ!! クソォ……ッ!!」
カオリの背を睨みつけるカネキの目には、幾つもの涙が浮かんでいる。
それは……決して痛みや恐怖だけの涙では無かった。
マ ダ ツ ボ ミ
つまりは
実は歩くというよりも、地面に張り巡らせた赫子を伸ばして移動しているので、本来足の遅いカオリでも素早く動けています。
そのため、実はスライド移動もできます。ゆらゆら歩いているように見せてるのは、雰囲気作りだったりします。
Q.ガスマスク達はポケモンとか知ってんの?
A.ガスマスク達はJAIL編にて、ゲームセンターに通う描写がありました。ゲームが好きならポケモンは知ってるのでは……という解釈です。
Q.鬼ごっこのハズなのに、肉壁ばっかりで鬼ごっこしてねぇぞ!
A.つ、次話の白黒少女は鬼ごっこしますので……
■現在の実績
・白黒少女:ガイコツを1つ破壊。2つ目を発見した。
・カネキ(負傷):ガイコツを2つ破壊。
・月山(瀕死):ガイコツ3つ分の時間を稼いだ。
・万丈ズ:なし