花屋喰種   作:みぞれアイス

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第35話 Tinkerer

 喰種レストランの近くへ小林(タクシー)を呼び、カオリ達は15区の自宅へと戻ってきた。

 

「では、戦利品のお披露目だよー!」

 自宅の地下室にて、カオリはクーラーボックスを開けていく。

 

「まずは……じゃーん! 歯茎さんの手足の詰め合わせです! 小林はこのニオイ、分かるかなー?」

 

 一つ目のクーラーボックスには、大量の手足が入っている。小林はそのニオイを嗅ぐと、思わず目を見開いた。

 

「こ、これは素晴らしい……ッ!! ニオイだけで分かりますぞっ! 間違いなく最高級ッ!! これで作る料理は一体どれほどのご馳走になるのか想像もつかないッ!!」

「うんうん、小林には今度料理をお願いするからねー! では続いて……私が食べずに集めた赫包(かくほう)です! これは小林に優先して食べてもらうねー」

 

 共食いには痛みが伴う。強くなれるという嬉しさと、またあの痛みを味わうという恐怖に、小林は複雑な顔をした。

 

「わ、わかりました……ところで、あの……ずっと気になっていたのですが、リオちゃんはどうしてしまったのです……? そして、そこの女性はどなたです……?」

 

 小林は、リオとロウを指差した。

 

「………………」

 リオは目を開けたまま、だらりと床に横たわっている。半開きの口からは(よだれ)が垂れており、まるで死体のようであった。

 だが、確かにその姿には正気が感じられないものの、時折まばたきをしているので、かろうじて生きていると分かる。

 

「リオちゃんの事は聞くと後悔するよ? んーと、こっちは『ローリー』。私がろーちゃんって呼んでる子だよー」

「初めましてムッシュ・小林、アタクシの事は『ロウ』と呼んで下さいまし。そこのボウヤと同じ様に、かつて姉様に師事した喰種ですわ」

 

「これはご丁寧に。私は小林……数ヶ月前まではただのしがないタクシードライバーでしたが、今では花村さんから『ペニーワイズ』の名を賜っております。ところで……」

 

 小林はロウの姿を眺める。水色の髪に青いドレス。装飾品を飾り付けたその姿は、紛れもなく女性の姿であるが……。

 

「花村さんに師事? つまり……ロウさんは……男性?」

 

 リオの『調整』を何度か見ている小林は、ロウもまたカオリによって変えられてしまった犠牲者と勘違いした。

 

「……そこのボウヤと一緒にしないで下さいまし。ぶっとばしますわよ?」

 ロウの目が赫眼へ変わり、小林を睨みつける。その鋭い殺気を帯びた眼光に、小林は思わず身が竦んだ。

 

「小林はリオちゃんと違って、まだ強くないから駄目だよー。では次っ! 喰種肉の詰め合わせでーす! これはいつもどおり私専用になるのかなー?」

 カオリが戦利品の説明を続けた事で、ロウの意識がそちらへ向かう。殺気から解放された小林は、ほっと息を吐いた。

 

「それじゃ最後っ! レストランの食料庫にあった食材です! これを持ってきてくれたろーちゃんに拍手っ!」

 その中には人の肉が詰まっていた。レストランのプロが下処理を行ったその肉は、カオリの赫子による下処理よりは劣るものの、しっかりと芳醇なニオイを放っている。

 

 カオリと小林の拍手に、ロウはゆっくりとお辞儀をした。

 

「あの……未開封のが2つ残ってるみたいですが……?」

 

 小林は残った2つのクーラーボックスを指差し、首を傾げている。

 

「これは私専用の肉と、ろーちゃん専用の肉。私のはレストランで食べた隻眼の女の子たちの肉。美味しいけどあげないよー。数が少ないからねっ! それでろーちゃんのは……聞きたい? リオちゃんがああなった理由なんだけど」

 

 その言葉に小林は嫌な予感がしたが、好奇心に勝てず『知りたい』と口にした。

 

「フフフ……ではムッシュ。こちら……ボウヤの生命のみなもと。その詰め合わせでございます」

 

 ロウがクーラーボックスを開けると、小林の良く知るモノが現れた。

 

「ヒェッ……み……見なきゃ良かった……まぁ、それだけ切り落とされたなら……あんなふうにもなってしまいますね……」

 

 小林はリオが受けたであろう痛みと苦しみを想像し、さっと自身の股を隠す。

 

「ちなみに、実際は潰してる方が多いらしいから、リオちゃんの痛みはこれ以上だったみたいだよー」

 

(ロウさんも花村さん同様、恐ろしい方だ……っ!!)

 楽しそうに笑うカオリとロウの姿に、小林は滝のような汗を流していた……。

 

 

──────────

 

 赫包が入ったクーラーボックスと、普通の肉が入ったクーラーボックスを手に、4人は15区の地下から24区へと来ていた。

 

「さぁっ! 共食いの時間だよっ!」

 担いでいたリオを床に降ろし、カオリは高らかに宣言する。

 

「姉様、誰からになさいますの?」

「ろーちゃんから」

「アタクシからですのっ!? ちょっとお待ち下さいまし」

 ロウは着ている服を脱ぎ捨てながら、『特殊な赫子』を全身に纏わせた。特殊な赫子は全身に広がり、青のボディスーツのような形状へと変わる。

 

「おおっ! それがろーちゃんの赫者っ! ふむふむ、見た目は布かゴムっぽいけど、ちゃんと甲赫の固さだねー」

 カオリはロウが纏う赫子に触れてみたところ、極めて硬質な感触が返ってきた。

 

「これなら赫子が暴走したとしても、帰りの服が無くなったりしませんの。さぁ姉様、バッチコイですわッ!!」

「それじゃ、まずは粉をどうぞー」

 カオリは黒い粉末をロウに飲ませた後、尾赫を自分自身の肩甲骨に突き刺した。

 

「づっ……いったぁ……はい、ろーちゃんには2つです!」

 カオリは甲赫の赫包を2つ引きずり出し、ロウの口へと運んでいく。

 その赫包が内包するRc細胞の純度に、ロウは訪れるであろう痛みを予測し、顔をしかめた。

 

「ふふふっ、ろーちゃんは無理矢理食べさせなくても、ちゃんと食べれるよねー?」

 ロウの躊躇を嗤うかのように、カオリはニヤリと口元を歪める。

 

「っく……ええい、ままよ! いただきますわっ!!」

 恐怖に顔を歪めていたロウは、意を決して赫包を飲み込む。途端、ロウの全身に激痛が走った。

 

「あっがッ!? ……っぐ!! これは……ちょっと……洒落にならない痛みですわあああぁぁぁぁあああああッ!!」

 

 並みの喰種の赫包ならば、平然と平らげることのできるロウ。しかし、そんなロウであろうとも、カオリの赫包による痛みは耐えられるものではなかった。

 

「く……くふふふふ……!! 姉様、申し訳ないですけど……衝動が抑えきれませんわッ!」

 痛みに慣れ、全身の血液が沸き立つ。ロウはその衝動のままに、血煙のような粒子を纏う槍を次々と生み出し、カオリへと投擲する。

 

「ちょっ! それは危なっ!?」

 

 カオリは即座に『紅い花の咲く赫者(フシギバナ)』へと変わり、ロウの槍を受け止める。その体には次々と槍が刺さっていき、まるでハリネズミのような姿になってしまった。

 

「もー、お返しするよーっ!!」

 しかし、無数の槍が刺さっていようとも、カオリは苦悶の声一つ上げない。むしろ槍に呼応するかの如く、いくつもの甲赫(ツル)を展開し、ロウへと叩きつける。

 

「姉様姉様姉様ァァァァアアア! アタクシだってもはやそのツルに甚振られるだけではなくてよォォォッ!!」

 ロウの槍による一撃が、カオリのツルを切り裂いた。

 

「おおっ、私の甲赫を切れるって凄いねっ! それならー、どんどん太くしていくよー」

 

 ロウがカオリの赫子を切り裂くたび、そのツルは少しずつ太くなっていく。容易く切り裂くことのできた甲赫は、すこしずつ切り裂くのに力が必要となっていき、ついには一撃で壊せないほどの太さへと変わっていった。

 

「くっ……まだまだですわッ!!」

「ううん、これでおーわりっ!」

 巨木の丸太とも言わんばかりに太いツルが、ロウを滅多打ちにしていく。それはロウの纏う鎧を砕き、地面へと叩きつけた。

 

「ガハア……ッ!?」

 轟音と共に地面に叩きつけられたロウは、ゆっくりと意識を手放した。

 

──────────

 

 ロウが目を覚ますと、全身から血を吹き出した小林が倒れていた。

「すみません姉様、先程はお手間を……ペニーワイズはもう共食い後ですのね。寝ている間に見逃してしまいましたわ……」

「気にしなくていいよー。さぁ、次はお待ちかねの……フレディです!!」

 

 カオリは横たわっているリオの服を脱がせると、両手足を特殊な赫子を纏った甲赫で縛り上げる。

 

「………………」

 服を脱がされ、手足を拘束されようとも、リオはぼんやりと宙を眺めていた。

 

「あの、姉様……やってしまったアタクシが言うのはオカシイかもしれませんが……ボウヤには心の傷を癒やす時間が必要なのではないでしょうか……?」

「ううん。むしろ好都合だよ。ここまで壊れちゃってるなら、これ以上壊してもやること同じだし。だから……こうしますっ!」

 

 カオリは甲赫の1本を、自身の腰へと突き刺し、尾赫の赫包を引きずり出した。

 

「いっ()ぅっ……赫包は全部取ってないから……ちゃんと再生はするんだけど……やっぱり痛いのには変わりないんだよねぇ……」

 

 痛みにカオリは顔をしかめつつ、リオの口を尾赫で広げ、口の中のモノが直接胃へと落ちるように固定した。

 

 そして、カオリは黒い粉末と共に、自身の赫包をリオの口へとねじ込んでいく。

 

「…………!? ……!! ……!!」

「そしてー、さらに余った喰種の赫包達もドーン」

 

 精神が壊れてなお、更に肉体と精神を破壊される。リオの目からは静かに涙が溢れ続け、痙攣と共に失禁を繰り返した。

 

「そしてーっ……とどめに私の甲赫の赫包もプレゼントっ!!」

 追加で肩から引きずり出した赫包を、リオの口へと叩き込む。

 

「……………………」

 穴という穴、筋肉や関節、あらゆる部分が痙攣し、そこから血液や謎の液体を吹き出す。そんなリオの姿に、思わずロウは顔をしかめた。

 

「……あの……姉様……これならまだ顔を剥いだ方がマシなレベルですわよ……? というかこのボウヤ、もはや戻ってこれるとは思えないのですが……」

「ふっふふー。ろーちゃんも赫者になったように、私もいろいろ勉強したんだー。ずばり精神の崩壊って、脳の異常みたいなんだよねー? だから、こうしまーす」

 

 カオリは極細の尾赫を展開すると……。

─────リオの耳の中へと入れた。

 

「耳から脳に向けて進み、アタマを直接弄っちゃうんだ! そうすれば、壊れた精神もだいたい復元できるよー。そこから……ちょーっと『調整』してあげれば、あっという間に元通りっ!」

「ほ、本当に大丈夫ですの……?」

 

 耳の中に赫子を入れられたリオは『ぴゃぎ!』『ぺ……ぷ!?』などの奇声を上げながら痙攣する。その目は大きく見開かれており、どう考えても大丈夫なように見えなかった。

 

「そして……ここらへんをチクチクっと…… ここはガリっとで良いかな?」

「み゛ょ゛っ……!! ビイィ!?」

「あっ、ちょっと間違えた」

 

 リオがひときわ大きく痙攣すると、目・鼻口から透明な液体が、ダラダラと流れ出した。

 

「ぶべぇ……うゆっ……」

「ね……姉様? ボウヤから髄液(ずいえき)らしきモノが流れているんですが……本ッ当に、大丈夫なんですの!?」

 

「だいじょーぶ! 人間なら駄目だけど、喰種ならこれくらい余裕だよっ! だって何度か実験してるし。あ、もちろん味に影響は無かったよー」

 

 カオリはかつて捕食前の食料を使い、多くの経験を積んでいる。そのため、喰種相手ならば多少の失敗は問題ないと判断できた。

 

「ろーちゃん、ちょっとクーラーボックスから普通の肉持ってきてー。ちょっと栄養補給させないと駄目そう」

「……持ってきましたわ!」

「細かく刻んで口の中に突っ込んでー」

 

 ロウは赫子をナイフの形に展開し、肉を細かく刻むと、リオの口へと流し入れていく。

 すると、痙攣こそ止まらないものの、透明な液体の排出は止まった。

 

「それじゃ、もう一回同じの準備してくれる?」

「分かりましたわ」

 

 ロウは手早く肉を刻み、リオの口へと入れようとするが、カオリがそれを手で制す。

 

「ううん、それは後。私が合図したら、ろーちゃんは一回目の合図でフレディのアレを踏みつぶして、二回目の合図で切り落としてー」

「……はい?」

「だから、ろーちゃんがレストランでやったのと同じ事をやってー」

「え……良いんですの?」

 

 ロウは怪訝な顔でカオリを見つめるが、カオリはゆっくりと頷いた。

 

「合図したらだよー! それじゃー準備してー!」

 カオリは宙吊りにしたリオを、座らせるかのように地面へ下ろし、股を大きく開かせる。

 

 ロウはその間に立ち、片足を持ち上げた。

 

「……3、2、1、潰してー」

 ロウは持ち上げた片足を振り下ろす。柔らかいものが弾け飛ぶ音が響き、ロウの足に残骸がべっちゃりと付着した。

 

「びぃ゛ゅ゛ぅっ!」

「切ってー」

 ロウは赫子の槍を展開すると、素早く振り下ろした。

 

「ん゛ぢぃ゛っ゛!」

「肉食べさせてー」

 ロウは準備していた肉を、素早くリオの口へと流し込む。

 

「はーい、ありがとー! あ、切り落としたヤツは私にちょーだい」

 

 栄養を補給したことで、リオの欠損はみるみる回復するが、先程よりも激しく痙攣するリオに、ロウはゾクゾクとした刺激が体を駆け巡った。

 

「ふふふっ……ろーちゃんも楽しい? 私も見てるだけでたのしー!!」

「ええ、アタクシはとても楽しいのですが、これには何か意味がありましたの?」

「ちょっと待ってね。仕上げしちゃうから……」

 

 リオの奇声と、カオリが脳髄をいじくり回す音が響くこと十数分、カオリはリオの耳から赫子を引き抜いた。

 

「い……ひひひ……うひひひひひ……」

「よっし、多分バッチリ!」

 痙攣を繰り返し、涙や鼻水でベチャベチャになりながら笑うリオを、カオリは満足そうに眺める。

 

「それで、えっと……さっきの質問ですが……」

「金的攻撃対策だよー。苦痛の記憶を快楽に変えたり、多幸感を刺激したりとかだねっ! でも、これでまた一つ、リオちゃんは男の子から遠ざかってちゃったねー!」

 

 それは、所謂(いわゆる)条件付けのようなもの。金的攻撃を受けている最中に脳味噌を改造し、激痛の感覚を緩和し、変換するといった効果をもっていた……。

 

「ふふふっ……体はちゃんと『男の子』を残してあげてるけど、精神は直るたびに段々ズレていって……でも……それが……楽しいーっ!!」

 

 カオリはゲラゲラと嗤いながら、24区と15区をつなぐ壁を破壊する。

 

「さぁ、帰ろっか! シャワーしてからご飯を食べて、フレディの調整をやるよー! ろーちゃんも参加してってね! 私監修の元なら金的攻撃も許可します! 作り変わったリオちゃんの反応をとくと御笑覧あれ!」

「ぜひっ!」

 

 カオリは小林とリオを抱え、自宅へと戻っていった。




 耳 か ら 脳 を 弄 り 回 す  
そんなゲームがありますよねっ。あれも猟奇的ってかホラーな内容ですけど。

喰種レストランには飼いビトや、飼いビトが使うクインケもあったのですが、全部カオリやロウに喰われています。
そのため、戦利品として残っていません。
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