花屋喰種   作:みぞれアイス

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前話にて、次から漫画版後編と言いましたが、今回はまだ漫画版ではないですごめんなさいっ!


第36話 まよひが

 連日に渡るリオの『調整』が終わり、朝の爽やかな日差しが差し込む15区の家にて、カオリ・ロウ・リオの3人は、ゆっくりと朝食を味わっている。

 小林も毎晩調整に参加していたが、タクシー運転手は休日が少ない。今日は既に出勤していた。

 

 この日のメニューは、カオリとロウが喰種肉、リオが人の肉を食べ、全員がリオの淹れた珈琲を飲んでいる。リオが喫茶店の仕事を始めてから数ヶ月、美味しい珈琲を淹れる事ができるほどに成長していた。

 

()()()()()。この前のレストランでの映像を、捜査官(ハト)に送っても良いですか?」

「……どういう意味ですの?」

 (つや)やかな顔をしたロウは、リオの質問を理解できず、首を傾げた。

 

「実はですね……」

 リオは、喰種収容所(コクリア)脱獄から今に至るまでの経緯を話した。

 

「そういうことですのね。ですが、アタクシはジェイルなる者ではなくてよ? まぁ、動画を送る程度なら良いですが、撮り直しをしましょう。姉様、どこか特定されなさそうな場所はありまして? 暴れるワケではありませんので、どこでも良いですわ」

「それならここの地下室で良いんじゃないかなー?」

「ではそう致しますわ」

 

 

 ロウは地下室にて、リオと対峙した。

「ではボウヤ、アタクシが撮影開始と言ったら撮影を始めなさい」

 

 ロウは全身に『特殊な赫子』を纏い、格子状のメイクだけが見えるマスクを装着した。

 

「撮影開始なさい!」

「はい!」

 

 リオが撮影開始ボタンを押すと、ロウは血煙を纏う槍を作り出し、クルクルと回し始める。

 格好良くポーズを決めた後、一気に距離を詰め……。

 

─────リオのマスクを優しく弾き飛ばした。

 

「これだけ見せれば充分でしょう? さぁ、動画を編集しますわよ!」

 

──────────

 

『キジマへ この女はジェイルか?』

 

 リオのマスクが弾き飛ばされた以降の部分をカットし、数秒の短い動画にしてメールを送信する。

 

 少しして、キジマから返信が来た。

 

──

親愛なる情報提供者様

 

いつもお世話になっております。

CCG准特等捜査官 キジマと申します。

 

情報提供、深く御礼申し上げます。

誠に恐れ入りますが、この喰種も

赫眼や赫子の形状から判断し、

ジェイルでは無いことを確認致しました。

 

また、当方から申し上げたい事がございます。

 

いくら自分が女の恰好をしているからといって、

女喰種を撮影しても無駄だと分からないのか?

 

そもそもその女は赫子の形状からして、

SSレートの『ランサー』だ。

 

SSレートの喰種を相手に生き伸びる程には

腕を磨いたようだが、分かっているだろう?

君ではジェイルを倒すことはできやしない。

 

リオくん、君は本当に気付いていないのか?

 

君が送ってくれた動画の喰種共は、

Aレート、Sレート、SSレートの喰種だ。

 

Aレートにすら満たない君が、

なぜたった半年という短期間で

AレートとSレートの喰種を屈服させ、

SSレート相手に逃げ延びるほど強くなれたのか。

 

リオくん。君は、自分の正体に……

 

薄々気が付いているんじゃないのかい?

 

──

 

「……ボウヤがジェイルなる喰種だから強くなれた。と言いたいようですが、失礼なハトですわね! 確かにボウヤは赫子四種持ちという才能こそあれど、ボウヤが強くなれたのは紛れもなく姉様の手腕によるもの。もしも通常よりも早いペースで強くなれた者がジェイルなら、アタクシやペニーワイズだってジェイルでしてよ?」

 

 ロウはリオのためではなく、カオリのために怒っているようだが、その言葉はリオの励みとなった。

 

「そうですよね……僕はジェイルなんかじゃない。僕がルチやキンコを倒せたのは、姉さんが共食いをさせたから……」

 

 しかし、リオがジェイルであることを確信しているかのようなキジマの態度に、どこか引っかかるモノを感じていた。

 

──────────

 

「あ、そうだ。目元に格子状の痣がある喰種なら、この前の女の子達なんてどうかな?」

 

 カオリは()()()()()()()()()()()()()()。その上で、都合の良い生贄を思いついた。

 

「女の子達……? もしや隻眼の?」

「姉さんは何か心当たりがあるんですか?」

 それは喰種レストランでカオリが捕食した姉妹。クロとシロの事である。

 

「そっか、あの時リオちゃんはろーちゃんに虐められてたから知らないんだねー。喰種レストランにね、とっても美味しい2人の喰種が居たんだよー! その子達が赫眼になったとき、目元に格子状の模様が浮き上がってたんだー。だからリオちゃん! もう一回捕まえに行こう! そして食べよう!!」

 

 食べる気満々のカオリに、リオは思わず苦笑する。

 

「姉さん……どちらかがジェイルだった場合は、キジマに引き渡しますからね?」

「うーん……本当にジェイルだったら仕方ないね。その時は手足の一本くらいで我慢するよー」

「食べはするんですね……それで、その喰種達は何処にいるんですか?」

「知らないっ!」

 

 高らかに知らないと宣言するカオリに、リオはガックリと肩を落とすが……。

 

「姉様、それでしたらアタクシに心当たりがありますわ!」

 

 ロウは、まさにその情報をマダム(エー)という喰種から仕入れていた。

 

「おっ、ろーちゃん詳細よろしくー」

「マダムAの護衛をしていた少女(ごちそう)達は、名前を『シロ』『クロ』と言うそうです。髪の毛の色と同じ、安易な名前ですわね。その二人が『パパ』と呼ぶ人物が居りまして、その男の苗字は『嘉納(かのう)』というそうです」

 

 嘉納という名前に首を聞き覚えはなく、カオリ達は首を傾げた。

 

「んーっと……つまり、そのカノウさんを人質にして、おびき出すってこと?」

「姉様の言うとおりですが、それだけではありません。この嘉納という男は、20区にある『嘉納総合病院』の院長で、ただの人間なのですが……()()()()()()()()()()()()()()を持っているそうですわ」

 

 その言葉に、カオリは思わず立ち上がった。

 

「捕まえよう! 美味しいご飯量産計画だよー!!」

 

 嘉納という男が居れば、いくらでもカネキや少女達と同じ高品質の肉が取れる。それは、喰種にとって大きな意味を持っていた。

 

「その通りですわ! 嘉納を捕まえ、シロクロを呼び出して捕まえ、嘉納にはアタクシ達の元で食糧生産に励んで頂く。まさに一石二鳥なのですわぁ!!」

「よーっし! 今までリオちゃんのジェイル探しは、リオちゃん一人でやって貰ってたけど、今回は私も参加するよー! 美味しい赫包(かくほう)祭りだー!!」

 

 カオリとロウはハイタッチをし、笑いあう。

 

(人間1人に過剰戦力じゃないかな……?)

 圧倒的強者(ロウ)と、15区の怪物(カオリ)の参戦。それは相手にとって絶望そのものだなぁだとリオは感じていた。

 

「……それじゃー、その病院に忍び込む感じー?」

「いえ、マダムAから嘉納の個人研究所を教えて貰いましたので、直接そこへ乗り込みましょう。では、アタクシは嘉納の行動パターン等の情報を集めますので、2週間後にまた話し合いましょう。姉様方も準備を宜しくお願いいたします」

 

 ロウは綺麗にお辞儀をすると、15区の家を去っていった。

 

「よっし、私達も仕事に行こっか。リオちゃんは2週間ぶりの出勤だねー! 身体能力が結構上がってるハズだから、仕事しつつならしていってねー」

 

 梅雨の空には、どこかどんよりとした雲がかかっていた。

 

 

──────────

 

 

「すみません、赤いバラはどこにありますか?」

 

 フラワーショップ西荻窪にて、常連の青年がバラを買いに来ていた。

 

「いつもご贔屓にありがとうございまーす。赤いバラでしたらこちらにありますよー! いくつお求めですか?」

「12本で」

「おおっ、誰かに告白ですかー! それなら、告白に良さそうなお花を厳選しますねー」

 花屋の店員はその意味を理解し、可愛らしいバラを12本花束にした。

 

「頑張って下さいねー」

 会計を終えた青年に、店員は優しく微笑むが、青年はそこから動く様子がない。

 

「えーっと……まだ何かお求めですかー?」

「この花は……貴女に受け取って欲しいのです……『如月(きさらぎ)カオリ』さん」

 

 青年はバラの花束を、その店員に差し出した。

 

「ふぇっ!? 私ですかー!?」

 驚く店員の後ろから、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら店長が現れた。

 

「アッハッハッハ! カオリちゃんモテモテねぇ……それで、返事はどうするの?」

 

「分かりました。とはいえ、私はお兄さんの事を良く知らないので、今日の仕事が終わったら一緒におでかけして、相互理解しましょー」

 

 告白を断られなかった事に、青年はグッとガッツポーズをした。

 

 

 

 業務終了後、花屋の店員と青年は、フランス料理の出るレストランに来ていた。

 

「私はずっと自炊なので、外食は殆どしないんですよー。こういうお店は2回目ですねー」

 

 2回目という言葉に、青年は強く反応した。

 

「以前にも誰かとデートを……?」

「デートじゃないですねー。女友達と一緒に肉料理が自慢のレストランに行ったんですよー。ちょうどその日は珍しい高級肉が入ってたみたいで、私もろーちゃ……女友達も運が良かったです」

 

 男とデートではないという事実に、青年はほっと胸をなで下ろした。

 

「如月さんって家庭的な方なんですね。普段はどのような料理を作るのですか?」

「私も妹も肉料理が好きなので、ステーキとか焼き肉とかが多いですよー? あとは、お菓子を作ったり、ジュースを作ったりとかですねー」

 

 このフランス料理も、肉がメインディッシュとして出てくる。肉料理メインの店を選んだ自分に、青年は心の中でガッツポーズをした。

 

「お菓子ですか? どのようなものを?」

「最近は少しずつ暑くなってきたので、アイスが多いですねー。果実に自家製のシロップを漬け込んで、冷凍庫で冷やすんです。簡単ですけど、美味しいんですよー?」

 

 二人はおだやかなムードで、フランス料理を楽しんだ。

 

 

「美味しかったですね、如月さん」

「はい。美味しかったですよー! 今日はわざわざありがとうございました。せっかくですので、もしよろしければ……私の家に来ますかー? 妹はアルバイトで帰りが遅いので、今なら……私だけですよっ?」

 

 悪戯っぽく微笑むその姿に、青年は胸が高鳴った。

 

「……良いんですか?」

「ええ、案内しますよー」

 

 花屋の店員は青年の手を握り、夜の15区を歩く。

 

(ああっ……今日は最高の一日だ!!)

 

 まるで恋人同士のような状況に、青年はどんどん舞い上がっていく。

 

─────だが、絶望はすぐそこまで来ていた。

 

「はいっ、私の家ですよー!」

 

 青年は握られた手の感触に夢中で気付かなかった……その家の表札は、如月ではなく……『花村』と書かれていたことに……。

 

「ささ、お先にお上がりくださーい」

「は、はいっ! お邪魔しますっ!!」

 

 花屋の店員は、青年を玄関へと進ませる。青年は玄関で靴を脱ぎ始めると……。

 

─────花屋の店員ことカオリは、赤黒いハンマーのようなモノで、青年の頭を打ち据えた。

 

 

 

 

 

「っ……頭が痛い……あ、あれ?」

 

 意識を取り戻した青年は、激しい頭痛に頭を押さえようとしたが、腕が動かせないことに気付く。

 

「な……なんだよこれっ!?」

 青年は全裸で椅子に拘束されていた。

 

「誰か!! 誰かいないのか!? 助けてくれぇ!!!」

 

 青年は必死に叫ぶが、この部屋には窓もなく、青年の叫びは誰にも届かなかった。

 

 その時、ガラガラと重厚な音を立てながら、引き戸が開かれた。

 

「おはようこざいまーす。ご機嫌いかがですかー?」

 

 そこには、黄色いエプロンと長靴を装備したカオリが立っていた。

 

「如月さん!? これは一体どういうことなんですか!!」

 

「ふふふっ、さっきのレストランのご飯が()()()()()()()()()()ので、お口直しに私の手料理を振る舞おうと思いましてー」

 

「えっ! 不味かったんですか!? ……ってそうじゃない!? これを外して下さい!!」

 

 しかし、青年の叫びを無視し、カオリは鍋と皿をテーブルに並べていく。

 

「ふふふっ……ねぇ……『きさらぎ駅』って知ってますか? 都市伝説の1つなんですけどね。それは存在しない駅で、そこに降りてしまったら……二度と帰ってこれないんです」

 

 カオリの様子がおかしい事にようやく気付いた青年は、背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。

 

「そ……それがどうしたんですか?」

「如月なんて名前の人……居ないんですよ? 私の本名は『花村』です。存在しない『きさらぎ』に、あなたは降りてしまったんです。さぁ、そんなことよりご飯を食べましょう」

 

 カオリが鍋の蓋をあけると、そこには『真っ赤なスープ』が入っていた。

 

「お皿によそいますので、少し待って下さいねー」

 

 カオリはおたまでスープを掬い、皿へと入れる。だが、スープに入っていた具材は……。

 

─────どうみても人間の指であった。

 

「ヒッ……ヒィイイイ!! 誰かぁぁああああ!!! 助けてくれぇぇえええ!!!」

 

 真っ赤なスープは煮えた血液、具材は人間のパーツ。あまりにも(おぞ)ましい料理に、青年は狂ったように泣き叫んだ。

 

「無駄ですよー? ここの防音は完璧です。そして……あなたはもう逃げられない。さぁ、召し上がれ?」

 

 カオリはスプーンで肉入りスープを掬い、青年の口へと運んでいく。

 

「嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だぁぁああああ!!!」

「ざんねーん! 固定しまーす」

 

 カオリの腰から『根のような何か』が生え、青年の口へと入り込み、無理矢理口を開かせた。

 

 そして青年の胃へ、悍ましい料理が落ちていく。

 

 

「お゛ぅ゛っ……う゛べぇ゛ぇ゛ぇっ!?」

 舌に伝わる悪意の味。生理的嫌悪感を極限まで高めたその味に、青年の口からは絶え間なく吐瀉物が吹き出る。

 

 動くことのできない青年は、自らの吐瀉物が付着し、異臭を放っていた。

 

「きったないなー、美味しいのにー。やっぱり人間の味覚は合わないねー」

 

 ヒトならざる何かを生やし、人の肉を好む生物。それ即ち喰種である。

 

「なんで……15区に喰種は居ないはずじゃ……」

「そんなの、私がみーんな殺したからに決まってるじゃん。そして……あなたもね?」

 

 カオリは大きな肉切り包丁を手に持ち、ゆっくりと青年へと歩いていく。

 

 それは明確な死。そのあまりの恐怖に、青年の足元には黄色い水溜まりができていた。

 

「助けて……誰にも言わない!! お金だっていくらでも払う!! なんでもする!! だから殺さないで!! ……やだ……やだやだやだ……!! 来ないでっ!! ……来ないでくれぇえええ!!!」

「さよなら」

 

 カオリは、肉切り包丁を振り下ろした。

 

──────────

 

「カオリちゃん、あのお兄さんとはどうだった?」

 

 翌日、満面の笑みで店長がカオリへ話しかける。しかし、カオリは首を横に振った。

 

「駄目でしたねー。店長、リオちゃんって覚えてます?」

「覚えてるわよ? カオリちゃんの可愛い妹さんよね?」

「地元にですね、リオちゃんと同じくらいの弟も居るんですが……あの人……アレの大きさが、その……弟並みだったので……無理でした。それを言ったら、泣きながらどっか行っちゃいました」

 

 その言葉に、店長はゲラゲラと笑い出した。

 

「アハハハハッ!! あのお兄さん、小学生レベルだったのかい? ……確かにそれじゃあ厳しいわね……アタシの旦那は凄いわよ? 馬並みよ馬並み。あ、ウチの旦那誘惑したらクビにするからね?」

 

 よほど夫を愛しているのか、店長は鋭い眼光でカオリを見つめた。

 

「しませんよー! 慰謝料とか洒落(シャレ)になりませんしー……可愛い子ならあれくらいの大きさでも良かったんですけど、あの人……可愛いよりもかっこいい系だったので余計に……」

「あー、それ分かるわ。ギャップ萎えってヤツね……まっ! カオリちゃんも良い出会いがまたあるわよ! 15区(このまち)は喰種が来ないから、相手が人のフリした化け物かもしれないって心配もしなくていいし」

 

 カオリこそが喰種であることを知らない店長は、のんきに笑っていた。

 




 き さ ら ぎ カ オ リ 
人権を始めとし、あらゆる権利を保有しない喰種にとって、戸籍偽造が出来なければ死ゾ。

アイスのくだりは小林さんと初めて出会った時のアレです。果実やシロップ……つまりはそういうことです。

(ノ´∀`*)椅子に縛り付けて人肉をお客様に振る舞うのは、ソーヤーさんちのたしなみ♪


☆原作JAILと違う点
・キジマ:原作は3人の情報をメールで送った後にキジマが現れ、メールのセリフ『君ではジェイルを……』を喋り、四方に助けられる。
・嘉納ハウス:第三勢力として参戦決定。
・第四ジェイル候補こと白黒姉妹の情報:原作のようにHelter Skelterへ行かずとも、カオリやロウが知ってた。



※※若干東京喰種:re最終回のネタバレ注意※※




リオちゃんは赫子四種持ちだけじゃなく、悪魔城でいうところの『進化する変態』を持っているそうです……ちょっと才能凄いとかいうレベル超えてません?なろう小説のチート系主人公かな?

なので、リオちゃんが更に強化されますねぇッ!

Re編の覚醒宗太を『バラモス』とするなら、本作のカオリは『ゾーマ』に近いポジションとしてストーリーを考えていたんですが、リオちゃんに成り代わられる可能性が……ちょっと構想見直さなきゃ……
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