花屋喰種   作:みぞれアイス

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今回から試験的に特殊フォントを使っています。見づらかったらごめんなさい!


第39話 Sleepy Hollow

「……ゼェ……ハァ……ハァ……」

 

 赫者状態を解除したタタラは、思わず膝を突いた。Rc細胞の大量消費に伴う餓えと疲労が、タタラの全身をじわじわと苛んでいるためだ。

 

 タタラの視線の先に、もはやカオリは居ない。しかし、そこにはかつてカオリが居たことを示すように、クインケが転がっていた。

 

 だが、大盾型のクインケは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クインケは残っていたか……待て、アレは何かを守っている? レザーフェイスが隠れていたりするのか……? いや、どう見ても奴の半分ほどしかない。考え過ぎか……だが一応警戒はしておこう」

 

 タタラはゆっくりとクインケに近寄るが、何も起こらない。

 

 タタラはそのクインケを蹴り飛ばすと、中からクインケ用アタッシュケース、悪趣味なホッケーマスク、CCG捜査官風の衣装、そして……。

 

─────べしゃりと音を立てながら、肉塊がこぼれ落ちた。

 

 それは人型の胴体。手足と首のないソレは、芸術もしくはオナホールに詳しい者ならこういうであろう……。

 

 

『トルソー』と。

 

 

(ハオ)。これでアオギリ最大の不確定要素(イレギュラー)は消えた」

 

 カオリの死を確信し、タタラはホッと一息をつく。

 

「おーいタタラー!! 花のバケモンはどこいった? ……まさか逃げたのか!?」

 

 部屋の熱が少し冷めたため、ナキ達が戻ってきた。タタラはナキ達を一瞥すると、胴体だけの肉塊を指差す。

 

「レザーフェイスはこれだ」

「おいィ!? トドメはオレだって言ったじゃねぇか!!」

 

 見るからに死体と分かるソレに、ナキは機嫌を悪くするものの……。

 

「でも……それ以上に……アニキ……ウドぉ……!! 良かっだぁ……良がっだァ!! 13区のリューギ、果たしたぞぉぉおおおお!!」

「ガギィ……!」

「ガゴゥ……!」

 

 ナキ達はとめどなく涙を流す。その顔はどこか晴れやかであった。

 

「……愚娘(ぐじょう)の名を騙る超不届き者……せめて辞世の句を詠ませたかったが……まぁ良い、(ワシ)はランサーを追う。彼の者もまた武の極致に立つ者……己の内に蓄えた練武……拳と槍の違いこそあれど、ぜひ死合(しあ)いたいッ!」

 

 鯱はカオリの残骸を見ることもなく、ロウが去った方向へと走っていった。

 

「死体とはいえレザーフェイスの体、嘉納の研究材料に使えるハズだ。情報によればレザーフェイスは甲赫と尾赫、肝心の赫包(かくほう)部分はしっかり残ってい……」

 

 そこでふと、自身の仲間であるノロの事を思い出した。

 

 ノロは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もしも……レザーフェイスも同類なら?

 

 

 

 

「─────ッ!!」

 

 タタラはカオリの胴体を蹴飛ばすと、なけなしの力を振り絞って尾赫を展開し、胴体だけになったカオリの肩部分と腰部分に向けて尾赫を振り下ろすが……。

 

 

「……へ?」

 

 その光景に、ナキは呆然とした。

 

 

「やはりノロと同類かっ……!」

 

 胴体だけの肉塊から生えるは、(おびただ)しい数の赫子。

 血と肉を撒き散らしながら、赤黒い根や蔓が、人の形を取るように蠢き……。

 

 その赫子はタタラの攻撃を容易く弾き返していた。

 

 

ゲチャぁ……ギャギャギャギャ……!!

ギチャぁ……ギャギャギャギャ……!!」 

 

 首から生えるは一枚の黒い双葉、その葉脈は、無数の口のようなナニカでできている。

 

 無数の口らしきモノによる、悍ましい鳴き声。その姿にタタラ達はぶるりと身震いした。

 

「ッ……大人しく死ね」

 タタラは尾赫に炎を纏わせ、再びカオリの胴体へ叩きつけるが……。

 

「何っ……!」

 右手を模した赫子が『大盾(ナース)』を持ち、タタラの攻撃を防いでいた。

 

ミヂャぁ!! ゲヂャぁ……!

 

 それだけではない。肉塊の全身からは悍ましい鳴き声と共に無数の赫子が飛び出す。

 

「ぐっ……クソ……っ」

 

 咄嗟に躱そうとしたタタラだが、疲労と消耗による集中力不足ゆえか、タタラの腹部にカオリの赫子が突き刺さってしまう。

 

「……思ったより傷が深い……ナキ、一度退くぞ。エトと鯱の居ない今、俺達が劣勢だ」

「嫌だ!!」

 

 だが、ナキはこの場を離れようとしない。

 タタラがナキへ視線を移すと、ナキは自身の甲赫をカオリの胴体目掛けて突き立てていた。

 

「クソッ!! クソがァ!! なんでオレの赫子が通らねえんだァ!! 通れ通れ通れよぉぉおおお!!」

 

 だが……カオリにはかすり傷一つ与える事ができず、ガンガンと虚しい音が響いている。

 

「っぐ……ナキ、ヤモリの事を想うのなら退け。ヤモリはお前が無駄死にする事を望むのか?」

「うるせェ!!」

 

 ナキは何度も……何度も……赫子をカオリの赫子に叩きつける。だが、繰り返すうちに、ナキの甲赫は耐えきれずに砕け散った。

 

「……ちくしょぉ……ちくしょぉおお゛お゛お゛ぉ!!」

 

 タタラは仲間と合流するため、ナキを引きずりながらその場を離れていく。

 

 それを見送る植物には、ナキがあれほど攻撃したにも(かかわ)らず、傷一つ無かった。

 

──────────

 

「やぁタタラさん、ナキさんにガギとグゲも。レザーフェイスは……駄目だったみたいだね」

 

 タタラ達と合流した包帯娘は、その表情からおおよその事態を察した。

 

「あぁ……だがヤツの大部分を焼き払った。しばらくは動けないハズだ……お前の方はどうだったんた?」

「こっちは問題なし。楽園の蛇は愚かなヒトに知恵の果実を与えましたとさ」

「ならいい……悪いが俺は撤退する。ナキ達の指揮は任せた。鯱はランサーを追っている」

 

 苦い表情で告げるタタラの腹部からは、ジワジワと赤い染みが広がっていた。

 

「お大事にタタラさん。後は私達に任せて」

「おう、任せろタタラ。マッド()()()()()()はオレらが持って帰るぜ! そんで、サイエントスのマッドパワーで俺は強くなって、次こそあの花をブッ殺してやる!!」

「……サイエントスではない、サイエンティストだ。それと、分かってると思うが……」

捜査官(ハト)……それに()が来てるんでしょ? 分かってる。作戦に支障はないから安心して」

「ああ、頼んだぞ」

 

──────────

 

 誰も居ない通路を、首のない人間のようなものが歩いていく。

 ソレは顔の代わりに首から双葉のような草が生えており、傍目からは人間よりも植物を連想させる姿だ。

 

 首のないソレはグレーのスーツを身に纏い、白い手袋にはクインケ入りアタッシュケースが握られている。それは遠くから見れば、首のない喰種捜査官である。

 

 しかし、服を脱げば分かるが、人型のパーツは胴体部分だけしかない。服に隠れて見えないが、手や足にあたる部分は、黒い植物のようなモノが擬態しているだけなのだ……。

 

ニクのニオイ……ニクのニオイがスルゾ……!!

「ギヒィィ!! だ、誰か助けてぇ!!」

 

 そんな(おぞ)ましい植物型のナニカから、全力で逃げる一人の女が居た。

 

─────その女、『マダム(エー)』。マダムAはとある理由でこの研究所に連れてこられていた。

 今より少し前、マダムAを無理矢理ここへ連れてきた連中が他の喰種と交戦を始めたため、その隙をついて逃げ出してきたのだが……。

 

「ひぃぃ!! 私は人間じゃないわよぉ!! どっか行ってぇぇ!!」

ウマソウな……ニクのニオイ……ドコにイル!!

「ぎぃゃぁあぁぁぁぁあああああ!!! こんな事なら逃げなきゃ良かったぁぁぁああああ!!」

 

 マダムは必死に逃げる。植物の移動速度はあまり速くないのか、マダムAに追い付く様子は無い。だがマダムAを離すこともない速度だ。

 ウネウネと蠢く怪物は、目も耳も無いのにまっすぐマダムAを目指して向かってくる。

 

 ふと、その時マダムAの脳裏に閃きが走る。

 

「はぁ……はぁ……あの化物、目も耳も無いし、『肉の匂い』……もしかして嗅覚で獲物を追ってる……? なら肉のニオイを誤魔化せば……!」

 

 マダムAは持っていたポーチを開き、香水の入った瓶を取り出し……。

 

─────液体ごと自分の体にぶちまけた。

 

「一個じゃ足りないかもしれませんわよね……」

 

 ポーチから次々に香水の瓶を取り出し、自分の体にドバドバと垂らしていく。夥しい量の香水をぶちまけたマダムAの体は、強烈な悪臭を放つ。

 

「うぇっ……鼻が曲がりそう……頼むわよぉ……これで誤魔化されて!!」

 

 キツすぎる香水のニオイに目眩を起こすマダムA。そして……!

 

クセェ!! ナンダこのニオイは!? ダガ……ニクのニオイではナイ……ドコだ……ドコにイル……!!

 

 悍ましい植物型の怪物にも香水作戦は有効であった……! 植物の化物はマダムAが居る通路ではなく、別の通路へと歩いていく。

 

「た……助かったようですわね……確か出口は……」

 

 マダムAは鼻をつまみつつ、出口に向かって走っていった。

 

──────────

 

 首無し捜査官モドキの植物は、プールのような、貯水池のような部屋へと辿り着いた。部屋には人一人が通れる道があるだけで、それ以外は水が張られている。

 

ニクのニオイ……ニクのニオイがスルゾ……!! ドコだ……ドコにイル……!

 

 首の切断面、正確に言えばそこから生えてる双葉から何やら声が響く。

 

 その声に呼応するかの如く、水底から人間のようなモノが現れた。

 

「いたい」

「うぺぁ」

「ま……ま……」

「おなかすいたよ」

「たすけて」

 

 それらはまるで出来損ないの赤ん坊が、そのまま大きくなったかのよう。毛もなく、理性もなく、本能のままに動くソレはゾンビを彷彿とさせた。

 

 これはこの研究所の所有者『嘉納』が作り出した人工喰種……の失敗作である。

 

 人工喰種化は数多の失敗作を生み出した上で、ほんの僅かな成功例を生み出す狂気の研究だ。

 この失敗作達は、全てが元々はちゃんとした一人の人間である。彼、彼女らには友人・家族・恋人などがいたことだろう。

 しかし、もはや彼らがそれを享受することはできない。仄暗い水の底に隔離され、自身の体を『喰種の赫包(いぶつ)』に蝕まれ、食い荒らされる傷みに(うめ)くだけ。

 

 崩壊してゆく自己に残ったのは、朧気な遠い思い出と、命。

 

 そして、今日はそれさえも奪われることになる。

 

 首に生えた双葉が大きくなり、中央の茎から大きな花が咲く。それは、どこか向日葵(ひまわり)に似ていたが、向日葵とは似て非なるモノであった。

 向日葵なら黄色いはずの花弁は、血に似た紅い色をしており、真ん中の本来なら茶色い部分には、大きな空洞化と無数の牙が生えている。

 

 花はゆっくりと伸びていき、失敗作達へ近付いていく。その花はヒトを喰らう悪魔の花、しかし、失敗作達はそれを理解することすらままならない。

 

「おはな」

「おはな」

「ま……ま……」

 

 その花がどんなモノか理解することもなく、失敗作達は花へ群がっていき……。

 

……イタダキマス

 

─────失敗作達は花に飲み込まれていった。

 

 紅い向日葵の茎からはナニカが潰れる音や、ナニカを無理矢理引きちぎったような音がする。その中からくぐもった叫びのようなナニカが響く。それは、生きたまま体をバラバラにされた者達による怨嗟の叫びだろうか。

 

 彼らが助かる事はない。その血の一滴に至る全ては、悪魔の花……カオリの再生のために使われるのだから……。

 

ゴチソウサマ、サスガかのうサンだ……こんなトコロにオイシいオヤツが置いてアルとは、サテと……少し感覚が戻っテキタカナー? まだ水ノ中に御飯がありそ……ん!? 向こうから何か……

 

 感覚が戻ってきたことで、カオリは何者かの接近を感知する。だが直前まで感覚のほぼ全てが鈍っていたため、気付くのが遅れてしまい……。

 

「オイオイオイ、なんだありゃ? 人間の首から花が生えてんぞ!?」

 

 部屋の向こうからやってきた『アタッシュケースを持った集団』……喰種捜査官達と鉢合わせてしまった。

 

あらー? 捜査官さんが来ていましたかー。これはちょーっと良くないなー……あれ? あの捜査官は!

 

 捜査官達の中に、カオリの良く知る捜査官『亜門鋼太朗』と、情報として仕入れた『真戸(あきら)』の姿があった。

 

 

「篠原さん……あの人? 植物? も嘉納による人体実験の被害者でしょうか……?」

「……亜門、あの植物……クインケを持っているぞ。嘉納はCCGの捜査官を人体実験に使ったってことか!?」

 

ふふふっ……ちょっとからかっちゃお!

やぁ亜門クン、それにアキラも。アキラは亜門君の部下になったソウだね? アキラを宜しく頼んダヨ

「うぉっ、喋ったぞ!? あの植物どこから喋ったんだ!?」

 

 喋らないと思っていた植物が声を発した事により、捜査官達は慌ててクインケを構える。

 

「ん? 俺とアキラの名前……?」

「おい植物……私の知り合いに貴様のような謎生物は居ない。何故私や亜門鋼太朗の事を知っている」

 

 亜門とアキラは怪訝な顔で植物を睨み付けた。

 

オット、そうだったな……これからクインケを出すガ、キミたちと戦う気は無い……ワタシが誰なのかを説明しヨウ

 

 カオリはアタッシュケースを開くと、大盾型クインケ『ナース』を取り出す。

 

「それは『フエグチ』!! まさか貴様が神代利世(かみしろリゼ)か!?」

ソウとも! 11区でクズどもを討伐し、キミに襲われたカミシロリゼ上等捜査官だ! そして……

 

 カオリはRc細胞を操作し、花の中央に『とある顔』を再現する。

 

「なっ!?」

「馬鹿な!!」

 

 花の中央に現れたのは人の顔。

 

 だが、現れたその顔に捜査官達の動揺が走る。

 

 なにせその顔は……。

 

 

「真戸……」

「真戸……さん……」

「父さん……?」

 

 

─────真戸呉緒の顔、そのものだった。

 

 

ァー……アー……あー……あー……っと失礼。死んだはずの私がなぜこんな化物じみた姿になっているか疑問なのだろう? だがその前に、亜門君達はなんの理由でここに来たんだい? もしや、ここの研究所の持ち主『かのうあきひろ』が、『アオギリの樹』と手を組んで人体実験をしている証拠を掴めたのかな?」

 

 捜査官達に動揺が走る中、初めに声を上げたのはアキラだった。

 

「神代リゼ、貴様は『大喰い』もしくは『レザーフェイス』か?」

「……何故そう思う?」

「質問に答えろ」

「……我が娘は手厳しいな。レザーフェイスに関する質問は『いいえ』だが、大喰いに関する質問は『半分正解』だな」

 

 半分正解。その答えに捜査官達に疑問が浮かぶ。片やアキラは鋭い目で植物を睨みつけている。

 

「アキラ、ここからは俺が代わろう」

 

 憎しみに満ちた顔で植物を睨むアキラを見かねて、亜門がバトンタッチをした。

 

「真戸さんかもしれないそこの植物、話を詳しく聞かせてください」

「……ふむ。神代利世という女は確かに『大喰い』と呼ばれる喰種であった。だが、()()()神代利世は既に死んでいる事はご存知かな?」

「鉄骨落下事件ですね?」

「正解だ亜門君。そして、『赫包』というクズどもをクズたらしめている器官を内包した死体は、嘉納の手に渡った。嘉納は気になったのだろう、人間に赫包を移植すればどうなるかを。嘉納は実行した……生きてる人間に赫包を移植し、人工的に喰種を作り出した」

 

 人工的に喰種を作り出す。あまりにも悍ましい事実に、捜査官達から冷や汗が流れ落ちる。

 

「そして……今度は死んで間もない死体に赫包を移植した。例えば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか……だが……そう、肝心の脳味噌がどこにもない。脳味噌以外にも記憶は宿るのか、そんなふわっとした思い付きから生まれたのが、この私『真戸呉緒と神代利世』の記憶を持った『喰種ですらない謎の生命体』こと……私だ」

 

 その言葉に、亜門は表情を鋭くした。

 

「なるほど……つまり貴様は真戸さんの記憶を受け継いだ()()なんだな?」

「死体とは酷いな亜門君。生き返ったことを喜ぼうじゃないか。また一緒にカレーを食べよう」

 

 すると、アキラが再び前に出る。

 

「……一つ聞きたい。貴様が本当に父の記憶を持っているなら、マリスステラの前に飼っていたペットの名前を思い出せるハズだ。父は溺愛していたからな」

「すまんなアキラ。私の記憶は不完全なんだ……可愛がっていたような記憶はあるが、名前までは思い出せそうもない」

 

 その言葉に、アキラは他の捜査官達へハンドサインを行う。

 

「……そうか、やはり貴様は父ではないな。顔を似せた所で、貴様は父とは程遠い存在だ。貴様は死体、もしくは喰種だ。そもそもマリスステラの前にペットは飼っていない。なにより……父にあった知性が、貴様からは欠片も感じられない」

「羽赫、撃て!!」

 

 捜査官達を率いていた特等捜査官『篠原』の合図により、羽赫のクインケを持っていた捜査官達が一斉射撃を放った。

 

「おやおや酷いじゃないか」

 

 カオリはナースを構え、飛来する弾丸を弾いていく。ナースは甲赫のクインケであり、甲赫は羽赫に強いという性質を持つ。いくつかの弾丸はナースをすり抜けてカオリへ当たるが、服に穴が空く程度で、カオリへは傷一つ付けることができない。

 

 だがこれは偶然か、この場には『最強のクインケ』があった。

 

 そのクインケが放つ羽赫の弾丸は、放物線を描くように射出されるため、他の直線的に飛ぶ羽赫のクインケと比べ、着弾までに時間がかかっていた。

 

 最強のクインケを持つ捜査官は『車谷(くるまたに)東吾(とうご)』という名の一等捜査官であり、所有するクインケは『アブラガマ』という羽赫のクインケ。

 

 アブラガマは粘り気のある水球を飛ばすクインケだ。しかし、それはただの水ではなく、()()()()()()()()()()()()である。

 つまるところ、ナパーム弾や火炎瓶に似た性質のクインケであり、その性質上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!

 

 回復しきっていないカオリは、上方向から降ってくるアブラガマの水球に気付かず……。

 

「ぶべっ! 目くらま……」

 

 

─────水球が着弾した瞬間、轟音と共にカオリは炎上した。

 

 

「み゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!? 水水水み゛み゛み゛み゛」

 

 しかし、ここには潤沢な水がある。カオリは無我夢中で水の中へ飛び込んだ。

 

「総員、再浮上に備えろ」

 

 再び浮上してくる事を考慮し、篠原達はしばらく水面を眺めていたが、カオリが姿を見せることは無い。

 

「クルマン、グッジョブだ! 総員、戦闘配備を維持したまま周囲警戒にあたれ。あのゾンビ植物の言うことを信じるなら、嘉納はアオギリと繋がっている。つまり、ここにアオギリの構成員が居ると考えられる!」

 

 

 その後、亜門達はアオギリの構成員であり、Sレート喰種の『ナキ』を発見した事で、嘉納はアオギリと繋がっているという確信を深めた。

 

 だがそれは同時に、カオリの嘘にまみれた証言も信じてしまうことになる。

 

──────────

 

「ふぅー、ごちそうさまでしたっ!」

 

 カオリが捜査官と戦った部屋は、水底が別の部屋へと繋がっており、そこから繋がる部屋には大量の失敗作達が存在()()()()

 今はもうカオリに捕食され、誰も残っていない。

 

 百を優に超える数の食料を捕食したことで、カオリは再び元の姿を取り戻し、タタラとの戦いで消耗したRc細胞の補給も完了した。

 それだけではない。失敗作とはいえ、赫包を持つ半喰種。共食いの効果は適用され、カオリは更に強くなる。

 

 アオギリや嘉納にとって、失敗作はゴミでしかない。しかし、カオリにとっては失敗作も含めた全てが、美味しい食料だった。

 

「ふぅー、食べた食べたー! でも、あの子達やカネキさん程の美味しさじゃなかったなー。何が違うんだろう? それよりも服どうしよう……捜査官衣装は燃えちゃったし……まぁいっか。それよりちょっと休もうっと」

 

 アブラガマの炎によりほとんどの物が燃えてしまい、今やカオリの持ち物は顔付きホッケーマスクとクインケしか残っていない。それは当然服も例外ではない。

 

 つまり、今のカオリは『顔だけ隠した全裸』という変態極まる格好だ。そんな全裸の殺人鬼は、誰もいない床にごろりと寝そべっていた。




 ま ど っ ち フ ラ ワ ー 
「ハウディ! 僕はお花のクレウィー!」
  →地獄の業火(アブラガマ)に焼かれた。

マダムA。再びカオリ相手に生還。
しかも今回は無傷!やったね!


Q.赫子の弱点って尾→鱗→甲→羽→尾だろ?炎の弱点ってなんだよ。
A.赫子はイメージに大きく左右されるそうです。それは時としてマイナスに左右することもあるのです。

Q.首無しかおりん口調変わりすぎじゃね?
A.この時は本能だけで動いているため、『花』という理想ではなく『飢えた捕食者』という実態が表に出てきている状態なのです。

Q.じゃあなんでタタラ達食わなかったの?
A.まだ再生途中だったのです。タタラさん達が早々に立ち去らなかったらタタラさん達も危なかったです。

■全裸にマスク
東京喰種√Aのオープニングオマージュ。
「服着ろよ→体隠せ→マスクじゃねーよ!→取れとは言ってねぇよ→ごめん言いすぎた。だから泣くなよ」の流れは賛否両論っぽいけど私は好きです。
でも、腹から声だせのテンプレはもっと好きです。

■ナースこと『フエグチ弐』の凄さ
原作の東京喰種:Re『ル島編』にて真戸暁准特等捜査官が使用。
赫者モードへと変化したタタラの炎を……

 完 全 に 防 ぐ 

火耐性のやべーやつ。まどっち曰く、その赫子を良いところだけを受け継いだらしいヒナミさんは、タタラさんを完封できる可能性が……。

原作でも本作でもサクっと死んでしまったリョーコさんですが、赫子のポテンシャルは旦那以上にすげぇや!

■車谷東吾
一等捜査官。見た目はバナナ○ンの独特な髪型をしている方に似ている。おそらく他の東京喰種二次創作では間違いなく出てこないであろう人物。
ちなみにこの人の直属の上司に『磯山重司(いそやまじゅうじ)』という上等捜査官がいます。『シャク』という尾赫のクインケを持っていますが、本作で磯山さんが出ることは無いでしょう。

■アブラガマ【独自解釈】
原作では『篠原VS眼帯』の時に、車谷さんがこれ持ったままボケーっと突っ立っていただけで、羽赫としかわかっていない謎のクインケ。
本作では名前の響きから着弾後炎上する油を発射するクインケに。対カオリ用の最強武器へと変わりました。

※注意
本作では独自解釈クインケだけでなく、後々にはオリジナルクインケも登場します。
独自解釈の例:アブラガマ、赤舌、タルヒなど
オリジナルの例:サカモト、ゴースト、世界など
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