花屋喰種   作:みぞれアイス

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第47話 Remember me

「さぁ、おいでフレディ」

 

 カオリは尾赫の赫者(デンジュモク)へと姿を変え、リオの出方を静かに待つ。

 

オネェチャンッ!!

 

 リオの肩らしき場所に生えた()()()()()()()()が強烈な推進力となり、カオリに向かって大地を飛翔する。

 

 両者の間にあった距離は瞬く間にゼロへ向かうが、地中から突如現れた無数の根に、リオはその身を捕われた。

 

「ふふふっ、蜘蛛が蜘蛛の巣にかか……んっ?」

 

 だが、リオの強さはカオリの想定を超えた。リオはカオリの尾赫を振り払い、さらに距離を詰めていく。

 

「ふーん? ()()()()()尾赫だと少ししか止めらんないんだねー。それじゃ、これならどうかなー?」

 

 カオリはいくつもの甲赫(ツル)を展開し、リオに向けて振るう。カオリの甲赫は尾赫より速度こそ劣るも、圧倒的重量で全てをなぎ払う。

 

 そして薙ぎ払われるのは、赫者として更なる一歩を踏み出したリオとて例外ではない。

 

「ふふふっ、さぁさぁ愉しい鬼ごっこだよっ!!」

 

 捕まれば逃げ切れない。それを本能で理解しているのか、リオは『コウモリ状(じぶん)の赫子』と『ブレード状の(エトからもらった)赫子』の二つを推進力にし、縦横無尽に空を移動する。

 だが、愚直にリオを追うモノ、回り込むモノ、関係のない動きをするモノ……様々な挙動の甲赫(ツル)がリオの動きを追い詰めていく。

 

「流石は高槻さんの赫子ってことかな? なら私の新しい攻撃方法を試してあげる! 簡単にいうと……『やどりぎのタネ』と『はっぱカッター』ってところかなー?」

 

 カオリは通常よりも太めの甲赫と尾赫を生やしていく。

 

 その甲赫の先端には葉のようなモノが付いており、尾赫の先端には球体のようなモノが付いている。

 

「これをぐるぐる回すよー!」

 

 甲赫のツルがリオを追いながらも、新しい赫子が葉や球体をブンブンと振り回す。

 

 遠心力に従い、それらはみるみる速度を増していき……。

 

「ぽいっとなー!」

 

 カオリは先端の葉と球体を切り離した。

 

 切り離された甲赫の葉は、鋭く空気を裂きながらリオへと飛来するが、リオもそれを認識しているため、リオはいくつもの赫子を出して迎撃に移る。

 

「─────ッ!

 

 しかし、高速飛翔する葉は、赫子ごとリオを切り裂いた。薄い葉のように見えても、それはカオリの甲赫。最高峰の硬さと重さを持つソレは、決して受け止めて良いものではなかった。

 

 切り裂かれたリオは即座に体を繋ぎ直すも、次々に飛来する葉に体を刻まれていく。

 

ッァァアアアアアアッッ!!

「ふふふっ、まだ終わってなーいよっ?」

 

 そして……葉の嵐に少し遅れて『球体』も飛んできた。

 

「さぁ、どうするのかなー」

 

 飛来する葉、迫りくる蔓……そして球体。リオは瞬時に飛来進路を予測し、射線から外れようとするも……。

 

「どーんっ!」

 

─────球体から無数の棘が飛び出し、リオに突き刺さる。

 

 

 それはカオリ曰く『やどりぎのタネ』。

 

 

 球体のような『種』から飛び出した棘には、いくつもの口がついており、リオを内側から食い荒らしていく。

 

あ……ギっ……

 

 体を切られ、内側から体を食い荒らされるリオは、少しずつ動きを緩めていき……。

 

「ふふふっ……まだその姿に慣れてないなら、私と戦うのは早すぎたね?」

 

 赫者を維持できなったリオは、べしゃりと音を立てて地に落ちる。

 

「よーし、おーわりっ!」

 

 カオリは意識が朦朧としたリオを赫子で縛り上げ、前もって集めていた『収穫物』を取りに行った。

 

──────────

 

 ニコは電話の最後で、カオリへこう告げていた。

 

『宗ちゃんが言ってたんだけど、ジェイルって(ヴィー)も注目してた喰種らしいのよねェ。だから、当日現場に隠れてる奴がいるハズよん? ま、こんなことレザーフェイスちゃんに言わなくても対処できると思うけど、念のために……ネ?』

 

 

 

 

 時は遡り、単身リオがキジマの元へ向かっている途中の頃。

 

 

「……()()、分かってる?」

 

 レザーフェイス風の衣装に身を包んだカオリが、ヤギの被り物をしたロウに小声で話し掛ける。

 

「ええ、もちろんですわ。全部で20……ですか?」

 

 ロウの告げた20という数、それはこの場に隠れている見張りの数である。だが……。

 

「んー、近くには20だけど……更にその奥に15、そのまた奥に5。全部で40だねー」

「ア……アタクシが半分しか……」

 

 半分しか察知できていなかったことにロウは肩を落とす。

 

「仕方ないよー。多分泥か何かを被ってるせいで、ニオイ分かりづらいし? さてと……今から捕まえるから、ちょっと止まっててねー」

 

 カオリはズボンの裾から、ゆっくりと尾赫を出していく。

 尾赫はそのまま足下の地面へと進み、端からはカオリが立ち止まっているようにしか見えない。

 

 この瞬間こそ、隠れている40人は動くべき瞬間だった。だが、彼らは隠れ続ける。

 

 それこそが彼等の命運を決めた。

 

「よし、全員捕捉。それじゃー……頂きます」

 

──────────

 

 15区……それは(ヴィー)にとって苦い記憶。

 

 当時活躍()()()()()功善(くぜん)』という喰種が、とある事件を機に使えなくなってしまったため、功善の代わりになりそうな喰種を探していた。

 

 代わりになる条件は、組織の駒として必要な要素を持つ者。

 一定以上の強さを持つ個体である事は勿論だが、凶悪過ぎず、秩序を持って行動する個体……功善の様に弱みがあれば言うまでもない。

 

 とはいえ、そんな都合の良い存在などそうそう居るハズもない。探索に数年の月日を費やし、ついに彼らは使えそうな駒を発見する。

 

 白羽の矢がたったのは、15区に住む喰種の男だった。

 

 その男は15区に拠点を構える中規模な喰種組織における切り込み隊長の男であり、喰種の女と結婚をするため近々切り込み隊長を引退するとの情報を得ていた。

 

 安定した食事、CCGに追われない暮らしというアメ。家族や所属組織がいつでも人質になりうるというムチ。

 これらを盾にVは喰種の男を勧誘する予定であったが、男の勧誘は失敗する。

 

 なぜなら、Vは切り込み隊長の男と出会うことができなかったからだ。

 

 喰種組織のリーダーと切り込み隊長には、集会の後で会場へ行くと告げていたが、V構成員の男がその会場に足を運んだ時、そこには一人の若い女と、()()()()()しか存在しなかった。

 

「あらー? あなたは()()()でしょうか……? まぁいっか。ふふふっ、いらっしゃいませー」

「……どういうことだ?」

 

 向日葵のマスクをつけ、全身を返り血で紅黒く染めた女。ライブラリにはいない喰種である。

 

「……誰だ貴様は」

「はいはーい! みんなからは『花狂い』と呼ばれている『神楽坂弥生(かぐらざかヤヨイ)』さんですよー?」

 

 花狂いのヤヨイことカオリは、のんびりとした口調で返事をした。

 

「花狂い……確か組織の下っ端にそんな呼ばれ方をしている奴がいたような……おい、他の連中はどこにいった?」

「ふふっ……」

 

 男はカオリに問うが、カオリからは馬鹿にしたような微笑がこぼれる。

 

「本気で言ってるんです? 冗談でも変わらないんですけどね。きっと誰かの友達でしたか? それじゃあ……さよーならっ」

 

 男は刹那に殺気を感じ、急いでカオリから飛び退くも……。

 

「……チッ、カスったか……」

 

 男の首筋には一本の横線が引かれ、そこからゆっくりと血が流れ始めた。

 

「へー、案外速いんですねー?」

 

 ケラケラと笑うカオリに、男は冷や汗を流す。

 

「それじゃ、もういっかーい」

「ま、まて! この際貴様でも良い! 我々の組織、『(ヴィー)』に所属しないか?」

 

 今の一撃だけでも分かる程、赫子の扱いに長けた喰種。欲しかった喰種ではないが、この女でも充分役に立つと考え、男はカオリに勧誘をかけた。

 

「『びー』? 聞いたことがありませんねー?」

 

 カオリの突き出した赫子が、男の目の前で止まる。

 

「我らの組織に加わるのは非常に名誉ある事だ。飢えない食生活、CCGに追われない暮らしが確約される」

「ふーん? それは良さそうだけど……じゃあ好きなように暮らして良いのかなー? ふふふっ、なーんてね。どうせ対価があるんですよね?」

 

 赫子を仕舞うカオリの様子を見て、男は交渉の余地があると判断した。

 

─────否、判断(ごかい)してしまった。

 

「対価といっても大したものじゃない。我らVに忠誠を誓い、我らが出す課題をこなしてもらうだけだ」

 

 安定した暮らしの対価として、汚れ仕事をさせる。それは秩序の守護者を自称するVにとって、破格の条件である。

 

「ざっくり言えば服従かぁ……わかりましたー」

 

 カオリはゆっくりと、男へ向けて歩いていく。

 

「私は『びー』に忠誠を誓う……」

 

 カオリが血に塗れた右手を差し出すのを見て、男はその手を握ろうとするが……。

 

「……わけないじゃん?」

 

 先程よりも近い距離。男は逃げる間もなくカオリに首を切断され、その生命活動を永久に停止した。

 

 

 その後、戻って来ない男を見にきたVの構成員達も皆そろって首を切断され、最終的には全てを捕食される。

 

 15区に足を踏み入れたVは全滅し、『血溜まりビル事件』の犠牲者候補として処理された。

 

 

 これがVとカオリの始まりである。

 

 Vが分かった事と言えば、最初の男が舌に埋め込んでいた盗聴器の情報だけである。

 

 月日が流れても、Vはヤヨイという女喰種を発見できなかった。散発的に構成員を15区へ派遣するも、成果無しか行方不明に終わる結果となった。

 

 赫子弾(Qバレット)やクインケを持った彼等は、並の捜査官を凌駕する強さを持ち、決して弱い存在ではない。Vがここまで失敗したのは、カオリの索敵範囲が広範囲に及んでいた事と、カオリが白兵戦ではなく暗殺を主としていた事が原因である。

 

 

 

 そこから更に数年後、15区『高円寺』の花屋にて『神楽坂ヤヨイ』という名の店員がいる情報をついに入手する。

 

 Vの構成員が高円寺の花屋へ行った時、確かに『花屋』はあったものの……。

 

─────その日、全ての従業員が出社してこなかった。

 

 その後の調査にて、従業員や取引先の資料は消され、従業員の家族も()()()行方不明であることが分かった。Vは中途半端に手掛かりを得たモノの、『花狂い』に関する追加の情報は何一つ得られなかった……。

 

 

 そして月日が流れ……。

 

 

「CCG准特等捜査官のキジマ式による独断専行にて、ジェイル捕獲作戦が実施される。ジェイルは突然変異の赫子を持つとされているが、その実力はSSレート喰種『ランサー』に勝てず、Sレート喰種『キンコ』には勝利する程度のものだ。これだけなら40人も動員する必要は無い……だが、厄介な事にジェイルは『15区』へ逃げ込み、今も生存している……ジェイルが『花狂いの神楽坂ヤヨイ』……現『レザーフェイス』の傘下に居るのならば、ジェイルだけでなく奴も現れる可能性がある……本当ならば『貴将(きしょう)』を参加させたいが、これから行われる梟……いや、『功善討伐作戦』を考えれば、万が一にも貴将を失うわけにはいかない。ゆえに諸君ら『特捜』の出番だ……花狂いは神出鬼没ゆえに、今までは後手に回ってきたが、出現場所が分かっていれば駆逐も叶うだろう。諸君らの健闘を祈る」

 

 Vの構成員達を束ねる男は、40人の構成員にそう告げた。

 

──────────

 

「目標発見、ターゲットはご丁寧にレザーフェイスのコスプレ中だが……隣には山羊頭の女がいるぞ……何者だ?」

 

 カオリとロウを真っ先に見つけた男が、通信機に向かって呟く。

 

『分からん、でも油断するなよ。先達が文字通り命を捨てて残した情報によれば、花狂いは暗殺型の喰種だ。感知範囲内に入ってしまったと感じたら、即座に撤退しろ』

 

 耳に付けた通信機から、同僚の忠告が飛ぶ。

 

「分かってる。ただでさえ寿命が短ぇんだ、こんな所で死ねるかよ……っと、レザーフェイスの動きが止まった……バレたか? ひとまずお前の距離まで下がることにする」

 

 だが、男もその同僚も理解していない。

 

 15区から喰種が消える。それを成し得たカオリの感知範囲がどれほど広いのかを……。

 

『……おい、なんか地面が揺れてねぇか?』

 

 通信機から聞こえてきたのは、カオリ達から()()()()に居る男の声。

 

『……ッ!? やべぇみんな逃げろォ!!』

 

 その言葉とともに、耳障りなノイズが鼓膜に響く。

 

「おいッ! どうし……」

 

 

 その時、男は理解した。理解できてしまった。

 

 

「おいおいおい、なんだよこれ……」

 

 男の眼前に(そび)えるは、暗黒の森。黒い木々が突如足下から生え、広範囲を覆っていたのだ。

 

「誰か無事な奴は! おい、誰か返事をしろっ!」

 

 男は通信機に向け声を飛ばすが……。

 

「誰か居ギャッ!?」

 

─────突如飛来した何かに、耳ごと通信機を破壊された。

 

「……全く。これが特等や准特等クラスの実力者ですの? 名ばかりのカカシも良いところですわね。アナタ達が凡愚なせいで、アタクシは一匹しか倒せない……それも()()()残した一匹だけ……」

 

 山羊の被りモノをした女が、つまらなそうに呟く。

 

「……ッ!!」

 

 クインケを出す時間は無い。男は即座にQバレットを構え、引き金を引くが……。

 

「遅い!」

 

 山羊頭……もといロウは甲赫の槍を素早く振るい、男の首を切り落とす。

 

 

「他愛ないですわね……有馬貴将だけが特別なのかしら?」

 

 ロウはそう吐き捨て、槍を仕舞った。

 

 

「お嬢おつかれー! それじゃ、ひとまず摘まみ喰いする?」

 

 39個の果実を付けた大樹……もといカオリが、ゆっくりとロウの倒した死体へと近付き、40個目の果実へと変えていく。

 

「むしろ元気なくらいですわね……では、少し頂いても?」

「はーい」

 

 カオリは果実のひとつを開き、『厚切り肉』をロウに手渡した。

 

「……ふむ、ふむ。これはなかなか良質な……隻眼の肉程とは行かずとも、充分にレストランでメインを飾れますわね」

 

 舌の肥えたロウを満足させる美食に、カオリは愉しそうに頷く。

 

「うんうん。それじゃあ、勿体ないけど一旦地面に置いちゃうよー。これからリオちゃんで遊ぶときに邪魔になっちゃうからねー」

 

 カオリは無造作に果実を落としていく。地に落ちた実はぐじゃりと音を立て、朱い果汁と果肉をバラまいた。

 

「とはいえ汚れても姉様なら綺麗にできるのですし、アタクシは気にしませんわ。では……ボウヤの決着を見届けに行きましょう」

 

 

 この後の展開は変わらない。キジマをリオが倒し、リオをカオリが倒す。

 

 

 そして、カオリは『収穫物』こと『40人の半人間の血肉』とリオを運び、キジマの隠れ家へと向かっていくのであった。

 




 お い し い ご は ん 
半喰種が美味しいなら、半人間だっておいしいよね?という独自解釈です。
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