花屋喰種   作:みぞれアイス

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第49話 神代利世と人工喰種 《Side.CCG》

 特等捜査官の篠原は、嘉納の研究所地下にてムカデの半赫者こと『眼帯』と交戦し負傷。入院生活を余儀無くされていたが、無事退院の運びとなった。

 

 篠原がCCGへ復帰して少し経った頃、CCG20区支部の会議室にて会議が開かれる。議題は嘉納の地下研究所での一件だ。

 

「よし、それじゃあまずは先の作戦で遭遇した喰種の説明から入る。まずは亜門が『眼帯』と呼んでいる鱗赫の半赫者だが、極めてタフでスピードもある上に、一撃が重い。『鎧型クインケ(アラタ)』の装甲すら耐えられなかったことから、極めて厄介な喰種…………というワケにもいかなくなったかもしれん。理由は後で説明させてもらう」

 

 そう語る篠原は自身の腕をさする。『眼帯』につけられた傷は完治しているが、何となく痛む気がしていた。

 

「……次は謎の植物型喰種『神代利世(かみしろリゼ)』とその一派だな。『眼帯』と交戦中に館内放送を行った自称一等捜査官の『桜野祐子(さくらのユーコ)』と、ジューゾーが交戦した自称二等捜査官の『夢街凛(ゆめまちリン)』。こいつらはCCG捜査官の階級を名乗っていたが、当然CCGの職員にそんな名前はいない。神代の性別は不明……体付きは女、頭は花、顔は真戸、そんな奴に性別なんてあるかすら分からん……交戦は一瞬で終わっちまったが、クルマンのアブラガマがやけに効いていた様にも見えた。演技かもしれんが……」

 

 篠原は溜め息を吐く。神代リゼについては、問題がまだあるからだ。

 

「神代は一旦置いといて次に行くぞ。桜野祐子は更に不明だな……館内放送の声は女だったということと、一等捜査官を自称していた事から、上等の神代以下、二等の夢街以上の存在と考えることができるだろう。そして、最後は夢街凛だ。タワーシールド型の甲赫を展開したらしいが、どうやらそれだけじゃないらしい。体付きは女っぽかったようだが、理由は後で話すが男だと判明している。それじゃ、次の喰種だ」

 

 亜門達は資料のページをめくる。そこには見知った喰種達が載っていた。

 

「両者Sレートの甲赫『美食家(グルメ)』と『ナキ』。そして、グルメの部下だと思われるガスマスク3体と、ナキの部下だと思われる白スーツの巨漢2体。白スーツの巨漢は肉弾戦こそ仕掛けてきたが、赫子の使用は無し。ガスマスクに至っては右往左往していただけだった。この事から、巨漢のレートはB-。ガスマスクのレートはCといった所だろうな。そして……最後のヤツが問題だ……ページをめくってくれ……」

 

 亜門は、そのページを見て顔を歪める。

 

「この二人の名前は『安久黒奈(やすひさクロナ)』と『安久奈白(やすひさナシロ)』……教練を行っていた亜門や同期のジューゾーならよく知ってると思うが()()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()だ……彼女達が神代リゼの言っていた『人工喰種』なのだろう……ジューゾーは赫子の発現を確認し、喰種として対処を行ったが……正直な所、安久姉妹を喰種として判断していいのかどうかは上でも意見が割れている。今後この二人に関しては、上の判断を待ってから行動してほしい」

 

 そんな中、二等捜査官の滝澤が手を上げる。

 

「神代リゼに関しては良いんですか? 真戸の父親かもしれないんですよね?」

「いや、奴に関しては問題無い。人権は生きている人間に適用されるため、死人と喰種のハーフなら喰種対策法が適用できる。それに、()()()()()()()()()()()()()

 

「嘘……ですか?」

 

 首を傾げた滝澤に、篠原は深く頷いた。

 

「ああ、あの植物型喰種についての話に移る。まずは奴について分かっている事を上げていく。半年前の11区掃討作戦にて、奴は『ジェイソンを追いつめるだけの強さがある』こと。そして今回の嘉納ラボ強制捜査にて『奴が真戸殺害に関与している可能性が極めて高いこと』、『何らかの理由で嘉納を狙い、奪い損ねた事』が新たに判明した。そして、神代が嘉納ラボで我々に放った言葉は『嘉納がアオギリと組んでおり、アオギリ幹部のタタラが真戸を殺害した』……ここまでで足りてない情報はあるか?」

 

 篠原は周りを見回すが、誰も挙手しない。

 

「よし、ここまでの情報を元に亜門班と推理をしていった所、この神代利世と名乗る植物こそが、15区に潜む喰種『レザーフェイス』ではないかとの結論に至った。順番に説明していくが、我々は真戸呉緒殺害事件の犯人をラビット、フエグチ、レザーフェイスのどれかだと断定し、捜査を行ってきた。そこに神代が名前を出した『タタラ』という喰種だが……コイツは法寺が詳しいよな? 説明を頼む」

 

「はい。タタラは中国の喰種集団『赤舌連(チーシャーリェン)』のトップにいた『(イェン)』という喰種……その弟ですね。当時私が所属していた中華人民共和国捜査チームが駆逐し損ねた残党であり、その実力は兄と同等かそれ以上とも。イェンは炎を放つ甲赫を持っており、タタラも炎を扱う赫子の可能性があります。地下研究所の広間にて、壁や床が熱によって溶けたような場所がありました。タタラがあの場に居て、何者かと交戦していたと私は推測しています」

 

 法寺の説明に、篠原は満足そうに頷く。

 

「とまぁこのように、タタラという喰種は炎を纏う凶悪な個体だ。真戸を殺しうる強さはあるかもしれんが……奴があの水路で戦闘をしていたのなら痕跡が残っていただろう。それと……これはキジマ准特等からの情報で、特等クラスにしか連携されていないことなんだが……」

 

 篠原は再び溜め息を吐いた。

 

「キジマ准特等の追っていたジェイルという喰種が『夢街凛』だと判明した。旧多(ふるた)というキジマ准特等の部下から聞いた話によると、その場に居た神代と桜野からは『フレディ・クルーガー』と呼ばれていたらしい。それと同じく神代が『レザーフェイス』と呼ばれていたそうだ……キジマ准特等と旧多二等捜査官の証言によれば、フレディは赫者……それも、総議長が若い頃に討伐した『オバQ』並みだそうだ……桜野についてはキジマ班でも分からなかったようだが……コイツも多分赫者なんだろうな……」

 

 そんな中、手を挙げる者が一人。

 

「ん、どうしたアッキーラ」

「桜野は……『ランサー』では?」

 

 二等捜査官の真戸アキラは、ランサーこそが桜野裕子であるような気がしていた。

 

「……なんだよ、また勘か?」

 

 滝澤はいつものようにアキラへ突っかかる。

 

「そうだな……勘で良ければ聞いて欲しい。レストランにて確認された赫子痕は、ジェイル改め『フレディ』『ランサー』『グルメ』『大喰い』……レストランにあった大喰いと思われる赫子痕と、研究所地下に残された安久姉妹の赫子痕が一致した。この事から、大喰いはレザーフェイスが言ったように死んでおり、その赫包が安久姉妹に移植されているとする。なれば、レストランにいたのは『大喰い』ではなく安久姉妹。そして、ランサーとフレディの赫子痕だが……両者が戦っていたのではなく『共闘』だとすれば?」

 

「共闘?」

 

「あぁ、レザーフェイスが居たであろう会場から逃げ出したレストラン客を、廊下でフレディとランサーが狩る。こう考えると桜野裕子はランサーだと思える……それともうひとつ、CCGデータベースにあるSSレート以上、もしくは強さ不明の喰種を抽出し、そこから男の個体やアオギリ構成員を除外……さらに目撃情報が極端に少ない喰種と絞り込んでいってもランサーがヒットした。こっちは単純な消去法だな」

 

 アキラの意見に、篠原はゆっくりと頷く。

 

「おぉっ、確かに! ランサーならあり得るか……よし、上に報告しておこう。それにしても……レザーフェイスが真戸の仇でほぼ確定だ……亜門、アッキーラ。フレディの強さから考えると、レザーフェイスは強いぞ……おそらく、今までのどんな喰種よりもな……」

 

「……隻眼の梟にレザーフェイス。私の両親を殺したクズ共はどちらとも厄介だな……だが、私は諦めたりしない」

「心配には及びません。私は凶悪な喰種を駆逐する為に、日々鍛えています」

 

 力強く返事をする亜門とアキラに、篠原は優しい笑みを浮かべる。

 

「あぁ、本当に真戸は良い部下と娘を持ったよ……さて、少し脱線したが、次は今回の捕縛目標だった嘉納についてだな。あの場にいた我々以外の勢力は、この様になる」

 篠原はホワイトボードに『白スーツ』『グルメとガスマスク』『眼帯』『安久姉妹』『15区』『タタラ?』と書いた。

 

「桜野祐子の放送が正しいなら、レザーフェイス達は嘉納を取り逃した。ならば15区に嘉納は居ないだろう。だがそうなると、『誰が嘉納を連れて行ったか』となる。15区の喰種共でも作戦に失敗するような相手は……」

 

 篠原は『タタラ?』とかかれた部分を丸で囲んだ。

 

「ま、コイツしか居ないわな。つまり『アオギリの樹』が嘉納を匿っているんだろう……そうすると、今後アオギリは元人間を手駒に攻めてくる可能性がある。恐ろしい事だよ本当に……桜野の言っていた『第二目標を達成』というのも気になるがな……」

 

 CCGは喰種を駆逐するための組織であり、人間を殺めるための組織ではない。それを思った彼等の表情は暗かった……。

 

「それで、最後の議題は『人工喰種』についてだ……安久姉妹は嘉納の手によって喰種へ変えられた。そして、そうなるともう一人、人工喰種にされた候補者がいる……」

 

「……『金木研(かねきケン)』ですね」

「そうだ。大喰いと共に鉄骨落下事件に巻き込まれた大学生にして、『喰種の臓器を移植された被験者』だ……そうなると、彼も人工喰種にされている可能性がある……」

 

 篠原は会議室に備え付けられていた電話機をとると、内線をかけ始めた。

 

「篠原だ。入ってきてくれ」

 

 短く用件を伝えて数秒後、会議室の扉が開いた。

 

「どうもっす。なんか雰囲気暗いですね……」

 

 入ってきた青年の名は、『永近英良(ながちかヒデヨシ)』。CCGの臨時職員にして……金木研の友人だ。

 

「永近君、単刀直入に言おう。君の友人である金木研は、人工的に喰種へと変えられた可能性がある」

「…………」

 

 永近は表情を消す。それは篠原に何も悟らせない様にするための顔だった。

 

「怖い顔をしないでくれ、我々は人殺しの組織じゃない。彼は被害者であり、むしろ我々CCGは彼を保護する義務があるといっても良い。もちろん君を喰種対策法で罰したりしない。彼は喰種ではなく『人間』だからね。だからこそ聞きたい。亜門」

 

 亜門はゆっくりと立ち上がると、永近に一枚の写真を手渡した。

 

「これは……」

「『眼帯』と呼ばれている個体だ」

 

 それは、監視カメラに写っていた『眼帯』を印刷した写真であった。

 

「喰種にも(かかわ)らず殺しを、捕食を拒絶した喰種であり、俺を殺さなかった喰種だ……だから聞きたい、彼が金木研か?」

 

「…………本当に殺したりしないんですね?」

「あぁ、もちろんだ」

「私と法寺も約束しよう。彼が保護を必要とするなら、我々は金木研を無碍に扱わない」

 

 彼等の目に嘘は無い。永近は深く息を吐くと、両手を上にあげた。

 

「はぁーっ……もう隠しても無理そうっすね……降参。そうっすよ、コイツはカネキです」

 

 その言葉に、亜門は悲しみと優しさを混ぜたような目をする。

 

「そうか……『変な喰種』ではなく、やはり『人間』だったんだな……」

 

「決まりだな……人工喰種にされた被害者の救済措置……後日行われる特等会議の議題に出しておくとしよう」

 

 人工喰種……それはすぐに解決できる問題ではない。それでもまずは一歩を踏み出す。そう心に決めた篠原だった。

 

──────────

 

「……よって、15区に潜伏していると考えられる『レザーフェイス』『ランサー』『フレディ』のレートをSSSとする。15区の捜査には准特等捜査官以上が同行するようにして欲しい」

 

 特等捜査官達が集まった場にて、CCG局長の和修吉時はついに15区の喰種達のレートを制定した。Vの立場としては秘密裏に消しておきたかった喰種だが、構成員の多くが消された今、形振り構うワケに行かなくなったといえる。

 

「人工喰種に変えられたアカデミーの元生徒である安久黒奈と安久奈白、人工喰種の半赫者『金木研』、アオギリの樹に匿われた嘉納、15区に潜む3体のSSSレート……2体いる梟……事態は急速に動き出している。CCG局長の立場として、人工喰種にされてしまった被害者の救済は必要だと考えている。そこで、彼等がCCGの保護を求めるなら、将来的に設立する『Q's(クインクス)』に配属させることで解決を図っていきたい」

 

 吉時は篠原の提案を受け入れた。今後設立するクインクスの指導者として期待でき、なおかつ人工喰種『眼帯』は極めて優秀な戦力となりうる。篠原の提案は渡りに船だったのだ。

 

「ありがとうございます。こっちとしても人間を殺すのは気が引けますからね……」

「でもよぉ篠原、安久はともかく、金木は制御できんのか? お前喰われたんだろ?」

 

 特等捜査官の丸手(まるで)は、カネキの資料を見ながら疑問を投げかける。

 

「暴走時には駆逐する。それは人工喰種だけでなく、クインクスも同じだ」

「……局長がそう仰るなら」

 

 局長である吉時がフォローに入った事で、丸手は渋々納得した。

 

「人工喰種やクインクスの問題、15区の喰種についてもしっかり議論していくが、まずは最も優先するのは梟についてだ。梟のうち一体は、20区にある『あんていく』という喫茶店に潜伏していることが判明した。この店は『人工喰種・金木研』が働いていた店でもあり、ここの店長『芳村功善(よしむらくぜん)』こそが、梟の一体である。この機会を逃すわけにはいかない……ここに『20区梟討伐作戦』を発令する」

 

 

 事態は、急速に動き出していた。

 




 三 体 の S S S レ ー ト 
どうあがいても絶望。事実上の最危険地帯に。しかし捕食被害者が全く無い。ただし行方不明者は多い。

■原作と違う点
・人工喰種
人工喰種の存在をカオリが大々的にバラしたため、人工喰種化実験に詳細な捜査の手が伸びた。
結果カネキと白黒が身バレ。CCGは保護を約束するが……。

・15区
ようやくCCG全体にその危険性が浸透しだした。15区の職員達は今までヌルかった環境が地獄へと変わっていたことに戦々恐々。異動願いを出す職員も出始めたとか。

・ヒナミとトーカ
レザーフェイスというまどっち殺害の最有力容疑者がいるため、議題にすら上がらず。

次回、20区戦だと思った?残念、日常回です。
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