花屋喰種   作:みぞれアイス

5 / 117
原作における「僕を人殺しにしないでくれ」にあたる部分です。
みんな大好きまどっち&ちゃんヒナ回。




第5話 Commission of Counter Ghoul

 喰種捜査官は人間の身でありながら喰種(グール)と渡り合う者達であり、喰種の赫子(かぐね)から作られる『クインケ』という武器を使って戦う。

 また、喰種捜査官には白い鳩のバッチがついているため、喰種達からは『白鳩』『ハト』などと呼ばれている。これは人間が警察を『おかみ』や『サツ』と呼ぶのと同じニュアンスである。

 

 笛口親子があんていくに来る少し前、笛口一家の父『笛口アサキ』が捜査官によって討伐された。そして、笛口アサキの痕跡を辿りながら、20区には笛口親子を追って『喰種対策局(CCG)』の本部捜査官がきていた。

 

 捜査官達の綿密な捜査が功を奏し、20区にて笛口リョーコ及びヒナミが道を歩いて居るところを発見。近くの一般人を迅速に避難させると、笛口親子へ攻撃を開始した。

─────笛口アサキから作られた『クインケ』を使って。

 

 笛口リョーコは、捜査官の使うクインケが自身の夫である『笛口アサキ』のモノであることに動揺し、戦意を喪失した。

 しかし、戦意を失いながらも捨て身の突撃を行う事で、捜査官から娘のヒナミを逃がすことに成功した。リョーコ自身の命と引き換えに。

 

 身バレした上に両親を失ったヒナミ。今後、ヒナミが普通の生活を送るのは難しいだろう……。

 

 

 なお、カオリはここしばらく花屋の仕事が忙しかったため、あんていくに花を届けたら直ぐに店へ帰っていた。ゆえに、カオリにこれらの情報が入ってくる事はなかった。だが、例えその情報が入ってこようとも、カオリは何もしなかったであろう。

 

 そんな多忙な花屋も一段落し、久々に芳村の淹れたコーヒーを飲みたいなぁと思い、業務終了後に20区へ愛用の125ccスクーターを走らせていた。

 

 しかし、『あんていく』へ到着する直前、嗅ぎ慣れたニオイがカオリの鼻腔へと入ってきた。

 

(……これは喰種の血のニオイ……たぶん霧嶋さんの血かなー? それと……クインケのニオイ! こっそり野次馬しよーっと)

 

 路地裏にスクーターを止め、『狩り用装備』に着替えてからニオイのする場所へ向かう。今日の衣装はハロウィンマスクに黒のツナギ。ブギーマンスタイルである。

 

 

 ニオイを辿って水路の中へ入っていくと、ヒナミとトーカ、そして初老の男性捜査官を発見した。カオリは物陰に隠れ、様子を伺う。

 

(うーん、形勢は霧嶋さん達が有利ですねー)

 

 捜査官は右腕を失っており、断面からとめどなく血を流している。トーカは部位欠損こそないが、腹部からかなりの出血がある。

 一方、ヒナミは無傷で立っていた。ヒナミは肩甲骨付近から(はね)のような甲赫(こうかく)と、腰の辺りから蛇腹剣のような鱗赫(りんかく)を、左右に一対ずつ生やしている。鱗赫の一つに捜査官の血液が付着しているため、カオリは捜査官を圧倒しているのはヒナミだと理解した。

 

「もう……やめてよ!! もうお姉ちゃんを傷つけないで!!」

 

 ヒナミは捜査官に向かって叫んだ。

 

(んー……ヒナミさんの赫子(かぐね)は甲赫と鱗赫かー。尾赫に少し弱いけど、悪くはないのかなー? それよりも、甲赫を腕に巻き付ける喰種が多い中、私のように甲赫を展開するヒナミさんは好印象ですねー! さぁヒナミさん、もう一対甲赫を出そう! それで、それは体に巻こう!)

 

「おとうさんと……おかあさんを……そんな風にしないでよぉっ!!」

 

 ヒナミから一対の蛇腹剣(りんかく)が放たれ、片腕の捜査官を襲う。とっさに捜査官は盾のようなクインケを展開し、身を守る。

 そのクインケはヒナミの甲赫に良く似ていた。そして、捜査官の足元に落ちている腕には、ヒナミの鱗赫に良く似た蛇腹剣が握られていた。

 

(あのクインケがヒナミさんのお父さんとお母さん? リョーコさん、いつの間にか死んじゃってたのかー。そうすると、狙いはヒナミさんかな? 霧嶋さんは巻き込まれた感じかなー)

 

「クハハッ……素晴らしいッ! 凄いぞ!! 両親の赫子の優れた部分だけが見事に引き継がれている!! 良質な赫子だ! 欲しいッ! 貴様の赫子から作るクインケが欲しいッ! ……ええい、これは重い! こっちだ!!」

 

 『防御力が高いが重い甲赫』のクインケを、捜査官は投げ捨た。代わりに『防御力は低いが攻撃力の高い鱗赫』のクインケを拾って振るう。

 

 捜査官の放つ蛇腹剣は空中で起動を変え、変則的な動きでヒナミへ迫る。しかし、捜査官の蛇腹剣はヒナミの甲赫に絡め取られ、ヒナミの鱗赫がガラ空きになった捜査官の左足を切り落とした。

 

(ん? ヒナミさんの鱗赫って操作性悪いのかなー? 今のは体を真っ二つにすれば終わったのに)

 

「グァッ! く……フフ……素晴らしいな……絶対に私のクインケにしてやる!! 家族は一緒にいるべきだからなァ!!」

 

 腕と足を失ってなお、捜査官の戦意は衰えない。体を引きずりながらも、取り落とした蛇腹剣(クインケ)の元へ這っていく。

 

「ヒナミっ……! 早くトドメを……!」

「とど……め? わたし……できないよ……」

「アンタの両親の仇なのよ!? 私もこれ以上はもう……っ」

 

 ヒナミは捜査官へトドメを刺す気がなく、かといってトーカは深手を負っているため、これ以上動くことが出来なかった。

 

「わたしも……考えたんだ。この人に仕返しすれば、このモヤモヤも消えるのかなって……でも違った! 復讐なんてどうでも良かった……!! ……かなしいだけなの……おとうさんとおかあさんに会いたくて……悲しいだけだった……っ!!」

 

 ヒナミの叫びが、哀しく水路内に響き渡る。

 

「さんにんで……3人で暮らしてた時に戻りたいっ! もどりたいよぉ……!! ひとりは寂しいよ……おとうさんっ、おかあさんっ……!!」

 

 ヒナミの叫びは、トーカと捜査官両方の顔を曇らせた。

 

「あぁ……そうとも……家族は一緒に居るべきだ……離れ離れになってはいけないんだ……」

 

 捜査官の呟きは、外傷ではない別の痛みを堪えているような声色だった。

 

「……だから……私のクインケになれぇッ!! それなら家族一緒さァ!!」

 

 捜査官の手が、ついに蛇腹剣へと届いた。

 

「マズっ! ヒナミ避けて!!」

 

─────その時、カオリに妙案宿る。

(そうだ、クインケ……使ってみよっかな! じゃあ二人を助けて、お礼にクインケ貰おっと!)

 

 カオリは物陰から尾赫を展開し、捜査官に向けて振るう。刃のように薄く鋭い尾赫は、蛇腹剣を振り上げていた捜査官の腕を斬り落とし、返す刃で胴体を切断した。

 

「グガァッ! ……まだ他にも……喰種(クズ)が居たのか……!!」

 

 

「誰ッ! ……レザーフェイスさん!? なんで20区に……」

 

 物陰から現れた新たな存在に、トーカは警戒を(あらわ)にするが、この前『HySy』で見たブギーマンであると分かり、警戒を解いた。

 

「20区は助け合いの街。偶然通りかかったので、急いで助けに来たんですよー」

 

 否、カオリは物欲(クインケ)に目が眩んだだけであり、単なる野次馬として見殺しにする予定であった。

 

 

「糞っ……貴様等に……生きる価値などあるもの……か! まだだ……わたしは……ヤツを! 隻眼の梟を……この手で葬るまでは……」

 

 それは執念か。捜査官は両腕と下半身を失って尚、動く。

 

 隻眼の梟。その言葉にピンと来たカオリは、上半身だけとなった捜査官へ近付き、その耳元で囁く。

 

「ふふっ……なら良いことを教えてあげます。フクロウさん狙いだったなら『ヒナミちゃん(ちゃぱつのこ)』じゃなくて『霧嶋さん(あおかみのこ)』を狙うべきでしたねー。青髪の子はなんと、フクロウさんの部下でした。そしてフクロウさんはここから歩いてちょっとの場所に住んでますよ。惜しかったですねー?」

「……ッ!? ラビットが……フクロウの手下……『(かすか)』……ア……アアアッ……ならばッ……尚のこと……死ねな……い……」

 

 捜査官は生命活動を停止した。その死に顔は苦悶と絶望に満ちている。

 

「ふふ……ふふふふふっ! とーっても素敵で綺麗な顔ですよー捜査官さん」

 

 

 カオリが切り落とした捜査官の左腕が、トーカの足元へ落ちてきた。その手を覆う白い手袋は、トーカを無性に苛立たせた。

 

「糞がっ……こんな手袋なんかしやがって……私らには触るのも嫌かよ!!」

 

 トーカは怒りに任せて手袋をひっぺがす。その薬指には指輪が付いていた。

 

「あっ……」

 

 

 苛立ちは急速にクールダウンし、言い様の無い感情がトーカを(さいな)んでいた。

 

 

──────────

 

 

「みんな大丈夫か! ……レザーフェイス!?」

 

 水路の入り口側から、あんていくの古参従業員である『四方蓮示(よもれんじ)』とカネキが走ってきた。

 

「四方さん……カネキ……大丈夫です。レザーフェイスさんが助けてくれましたから……」

「レザーフェイスが……? そうか、ならいい。それより、別の捜査官がこちらに向かってきている。死体を運ぶ時間もない。行くぞ」

 

 四方は捜査官の死体やクインケに見向きもせず、ここから去る準備をしている。

 

「あ……あれー? 本当に何も要らないんですかー? いいんですかー? 全部貰っちゃいますよー?」

「あぁ、こちらでは処理できない。あなたなら問題無いとは思うが、一応気をつけて。みんな走れ!」

 

 カオリを残し、四方達は水路の奥へと走り去っていった。

 

「さようならー……さて、じゃあ『全部』貰ってしまいましょう!」

 

 捜査官が持っていたアタッシュケースに『ヒナミの両親(ふたつのクインケ)』を詰めた。

 

「後は痕跡を消……うーん、この捜査官の顔は食べるのが勿体無いですねー。ここに置いてってあげよっと! こんなに良い表情なんだから!」

 

 カオリはクインケで捜査官の首を切断し、首から下を甲赫で包みこんでいく。

 

 瞬く間に捜査官の体はカオリの赫子に呑み込まれ、姿を消した。

 

「四方さん達が行った方向に、囮をぽーい!」

 

 カオリは四方達が走って行った方向へ、捜査官の顔を投げた。これで捜査官の増援が来ても、四方達の方へ向かうだろう。

 

「それじゃ、私は別の道からかーえろっと」

 

 アタッシュケースを両手に持ち、カオリは水路の出口ではなくその逆、下へ下へと向かっていく。

 

「あった。24区の壁みーっけ!」

 

 カオリは甲赫で壁を切り裂きながら、壁の中へと入っていった。

 

──────────

 

真戸(まど)さん!! どこにいるんですか!! 真戸さあああああん!!」

 

 カオリが地面の下へと逃げた直後、水路にて若い捜査官が叫んでいた。

 彼の名は『亜門鋼太朗(あもんこうたろう)』。上司の『真戸呉緒(まどくれお)』と二手に分かれ、喰種容疑者『フエグチ・娘』を追っていた。

 

 作戦決行中に亜門は『眼帯の喰種』と遭遇し、戦闘を行った。しかし、結果として亜門は眼帯の喰種にクインケを破壊され、上司の元へ駆けつけるのが大幅に遅れてしまった。

 

 想定の時間から大きく遅れて合流地点に向かった亜門。そこに上司の姿は無かった。

 

「む、これは血痕っ! ……真戸さんのか? それとも喰種のか? ひとまずこれを辿ろう」

 

 亜門は点々と水路に付着している血を辿っていき……そして、上司と合流した。

 

「あ……あぁ……そんな……」

 

 亜門の敬愛する上司は、首だけになっていた。その顔は苦悶と絶望に満ち、上司の嘆きが、無念が、怒りが、亜門へと語りかけてくるようであった。

 

「許さん……!! 許さんぞッッ……喰種(グール)ゥゥウウウウウ!!!!」

 

 亜門の慟哭が、轟音と共に水路中へ響き渡る。

 

 それは、トーカ達の耳まで響くほどの嘆きであった。

 

 

──────────

 

 

「ふっふふー。クインケ手に入れちゃったー! しかも2個ー!! 甲赫の方は私の赫子の簡易版として使えそうかなー! 剣の方は鱗赫なので色々便利そー! 夫婦揃って使ってあげる方がヒナミさんは嬉しいかなー?」

 

 カオリは新しく増えたコレクションを自宅の壁に飾りながら、クインケを愛おしそうに眺めていた。

 




 お い う ち 

せっかくのシリアスシーンが主人公のせいで台無しィィイイ!

原作の流れなら、次はグルメ編なのですが……
グルメ編に主人公は介入できないのでまるっとカットです。粉☆バナナ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。