花屋喰種   作:みぞれアイス

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第50話 あんていくの臨時看板娘?

 ブギーマンの恰好をしたカオリは『Helter Skelter』にて、ニムラ達と軽食をとっていた。

 

「とまぁ、そんなわけで『あんていく』は終わります。CCG総戦力に対し、あんていく側の主戦力はターゲットの『梟』と古参従業員三人。あんていく陣営は極めて不利な戦いになります。逃げるなら20区は完塞しますので、どっちでも美味しいんですよ」

 

 ニムラは新鮮な機密情報をカオリ達に話していく。(ヴィー)の構成員であるニムラだが、組織への忠誠心は無い。ニムラの目的はカオリの好感度稼ぎだ。

 

「はいはーい! 可愛いロマちゃんはその前に辞めまーす。ま、よく見える場所で見物はさせてもらいますけどねっ!」

「私もどこかで見物しよーっと。芳村さんの本気、見れるかなー?」

 

 楽しそうに笑うカオリに、ロマは首を横に振る。ロマは芳村の実力をおおよそ把握しており、それはカオリが期待している強さには程遠いということも……。

 

「バイトとして近くで見てたから分かりますケド、あのジーチャンもう歳ッすよ。共食いはもうやってないみたいなんで、だいぶ衰えてるっすねぇ。もう全盛期の力は出せないんじゃないっすか?」

「うーん……芳村さんの『本当の全力』は結局分からないまま終わっちゃうのかなぁ……歳月は残酷だなー」

 

 ニムラの話では芳村はVの元構成員……つまりCCG上層部の手の内をおおよそ知っている。そんな芳村の全力全開が見られると思っていただけに、カオリは残念そうに肩を落とす。

 

「梟のお爺様よりも、ワタシは蓮示(れんじ)きゅんが心配だわァ……彼が死んじゃったら、イトリやウタが悲しむもの……」

「だねぇ。あたしよりもウーさんがマズいね……」

 

 ニコとイトリは『あんていく』に残る可能性の高い四方(よも)の身を案じている。ウタと四方は付き合いが長く、四方が死ねば間違いなくウタは嘆くだろう。

 

「まぁまぁ、そのレンジくん? なる方がピンチになったら助けに行きますよ。ロマが」

「うえっ!? 私が!? そこは宗ちゃんが行ってよ」

 

 ロマにとって四方への思い入れは殆ど無い。生きようが死のうがどうでもいいため、ニムラの提案を拒否した。

 

「無茶言わないで欲しいですよぉ……僕は『15区から来るかもしれない喰種を見張る仕事』があるんですよぉ……」

 

 ニムラの発言に、カオリは首を傾げる。

 

「なんで15区(うち)を見張るのー?」

「……あのー、この前(ヴィー)の半人間を40人も殺したの忘れてます? 僕も最低限の報告はしなくちゃいけないので、そこから情報が伝わってるんですよ。SSSレート級が三体、しかも全員赫者の可能性有り。一番弱いとされる『フレディ』ですら『オバQ』並み。危険視しないワケが無ヴンッ!?」

 

 笑うニムラを、ロマがひっぱたいた。

 

「おいハト野郎、オバQいうな。『うろんの母』って名乗ったのにオニツネの野郎……ふざけた名前つけてくれてさぁ!」

 

 憤慨するロマ。その正体は現CCG総議長が若い頃に駆逐したハズのSSSレート喰種『オバQ』である。

 そんなオバQは名を帆糸ロマと変え、今も生きていた。

 

「ごめんごめーんごっ」

「……やっべぇ。宗ちゃんを『うろんな拳』でぶんなぐりてぇ……」

「ひぇぇSSSレートの化け物ー!? ……っと、それは置いといて。レザーフェイスさん、お伝えしたモノは準備できてます?」

 

 ふざけていたニムラが、突如姿勢を正す。

 

「はーい、『ドクター』と『ナース』。それに尾赫と甲赫の一部。それと尾赫の粉末ですよー」

 

 カオリは二つのアタッシュケースと、自身の赫子のカケラを手渡した。

 

「どもどもー。それじゃ、この笛口夫婦をキメラクインケに改造しますので、僕はちょっと引きこもりますね。ついでに『ぼくさつ1号』と『ロッテンフォロウ』……あ、チェーンソーのことです。これらの認証解除もやっておくので、今日中には多分無理ですねぇ……まぁその分お金弾んで貰ってるから良いんですけどね……この仕事だけで僕の年収超えますしハイヨロコンデー! それじゃ、さっそく取り掛かりますんで僕はこれにて」

「ちょっと待ってくださーい」

 

 店の奥へいこうとするニムラへ、カオリは待ったをかける。

 

「ナース改造する時、私の赫子は内側の素材にとどめておいてくださいね? 私の赫子を表面に使っちゃうと、ナースの凄まじい耐性が崩れちゃうから!」

「(耐性……? 少しこのクインケを調べてみますかねぇ……)ええ、元より貴女の素材は合成の中間素材として内側に使いますよ?」

「ならいいですよー。宜しくお願いしまーす」

 

 ニムラはカオリの弱点を知らないため、首を傾げつつも肯定し、改めて店の奥へ消えていった。

 

──────────

 

 別の日、カオリは花屋で仕事をしていた。

 

「あんていくの店長さん、もう良いお歳なのね。店を畳んじゃうなんて残念だわ……お得意様だったのに……仕入れを調整しないといけないわね」

 

 花屋の店長は、カオリからあんていくがもうすぐ店を畳むという話を聞き、残念そうに首を振る。

 

「でも芳村さん、引退しても多分生活安泰ですよー」

「そうなの? 喫茶店って儲かるのかしら?」

「どうなんでしょー? 喫茶店はともかく、安泰なのは芳村さんの娘さんのおかげですねー」

「娘さん? あの店長さん、独身だと思ってたわ」

 

 カオリが仕事を休みの日は、別の従業員が花を卸しにいく。稀に店長自身も行くことがあり、芳村の人となりを知っている。そのため、花屋の店長は芳村に娘がいることに驚いた。

 

「芳村さんの娘さんは有名人ですからねー、あんまり騒がれたく無かったんじゃないですか? 何せ娘さんは有名な小説家の『高槻泉(たかつきせん)』ですし」

 

 高槻のファン、もしくはVの構成員ならば、この情報に狂喜乱舞しただろう。だが店長はファンでもVでもないため、割とどうでもいい情報だった。

 

「ふーん、あのちょっとホラーっぽい作品の? 確かにテレビによく出てるわよねぇ……可愛いからかしら? というかカオリちゃんも負けず劣らず綺麗よね。秘訣は?」

 

 むしろ店長が気になるのは、若さの秘訣。

 

「良く食べて良く寝ることです! 間食は控えて、家でゆっくり食べましょー!」

「良く食べて良く寝たからこんな私は体型になってるのよねぇ……あ、でも間食してたわ」

「それと、適度な運動も大事ですよー? 私は鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、他にもちらほらとやってますねー」

 

 その言葉に、店長はガックリとうなだれる。

 

「……やっぱり運動なのね……でも、かくれんぼって運動なのかしら……?」

「やり方次第で、いくらでも運動になりますよ? ヤクモちゃんとは良くかくれんぼや鬼ごっこして遊んだなぁ……本当全然捕まえられなくて……」

 

 知らない名前に、店長は首を傾げた。

 

「ヤクモちゃんって誰かしら? 私も知ってる子?」

「多分店長は知らないと思いますよー。13区に住んでた引き算が得意な子でした。でも……喰種に殺されちゃったんですよねー……」

「あら、そうなの……13区、喰種出るもんねぇ……15区に引っ越せば良かったのにねぇ……15区、喰種全然出ないし」

 

 店長はヤクモちゃんという女の子を想像し、その冥福を祈る。

 

 だが、店長は知らない。15区は決して平和などではないことを。

 

 ヤクモちゃんという存在は小さな女の子……もしくはカオリと近しい年齢の女性ではなく、筋肉質な大男であることを。

 

 そして……そのヤクモちゃんなる人物を殺した喰種こそ、カオリだということを。

 

「ですねー。本当に15区は『最高の喰場(いいまち)』ですよねー。それじゃあ店長、私は『あんていく』さんにお花売ってきまーす」

 

 カオリはスクーターに跨がり、あんていくへと向かった。

 

 

 

 

「ひーっ、い、いらっしゃいませー!」

 

 あんていくに大勢の客が居る中、ロマはたった一人の従業員として慌ただしく動き回っていた。

 

「こんにちはー。お花を届けに来ましたよー」

「花屋さぁああん! 助けてくださーい! あたし一人じゃ回りませんよぉ!!」

 

 救世主といわんばかりに、ロマは来店したカオリに抱きつく。

 カオリは優しくロマを撫でると……。

 

「私じゃ珈琲の美味しい作り方なんて知らないよ? 頑張ってねー」

 

 手伝う事無く店の奥へ行こうとするが、ロマは凄まじい力で……並の喰種なら潰れるほどの力でカオリを引き止める。

 

「待ってぇ! ちょっちコーヒー淹れるのに専念しなきゃ駄目そうなんで、注文と運ぶの手伝ってくださーい!! ちなみにニシキ先輩は、リオっちの代役として出勤して貰ってるトーカさんと一緒に買い出し中ですぅ!! 今だけ、今だけ! 頼みましたよぉっ!」

 

 ロマは伝票とペンを強引にカオリへ渡すと、コーヒーを淹れ始めてしまった。

 

「もー……仕方ないなぁ」

「ロマちゃーん! 注文まだー?」

「はいはーい。私が代わりに受けますよー」

 

 カオリは注文票を手に、客へと向かう。

 

「おろ? ねーちゃんは誰だい?」

「ここにお花を卸してる花屋ですよー? お花を届けに来ただけのハズが、帆糸さんに手伝いをお願いされちゃったので、今だけの臨時店員さんです。それで、注文はどうしますか? 美味しいのは『あんていくブレンド』ですよー」

 

 柔らかく微笑むカオリに、客はニヘラと歪む。

 

「うへへ、花屋さんか。カヤさんとはまた違った魅力がイイ……! それじゃそれ1つ」

「血はお入れしますかー?」

 

 その言葉に、目の前の客だけでなく周囲の客達も固まる。周囲の客達もロマとカオリのやり取りを見ており、物珍しい臨時店員に注目していたのだ。

 

「……へ? お前何言って……」

「ふふっ、大丈夫ですよー? 今来てるお客さん、私も含めてみーんな喰種ですよ? ……あれ、そういえば『あんていく(ここ)』では血を入れないんだったかな?」

 

 喰種だと看破されたことに冷や汗を流しつつ、客の男は深呼吸をした。

 

「ふぅーっ、ビックリして漏らすかと思った……オホン、ここは人間(カタギ)にも商売してる店だからな。そういうサービスはやってないぜ? そういう店なら近場でも14区まで行かねぇとな……ていうか今来てんの全部喰種だったのか……だからアイツらコーヒーしか頼まなかったのか……人間だと思ってたわ……」

 

 男がそう呟くと、周囲の客がカオリ達に声をかけはじめた。

 

「うはは!! なんだよォ! おめーも喰種だったのかよ! 美味そうとか思ってて悪かったな! 俺はアメリカンコーヒー」

「ねえちゃん凄ぇな! どんな感知能力してんだ? 俺も『あんていくブレンド』だ!」

「俺はおかわりだ!」

 

 カオリは客の注目を伝票に書き込んでいく。

 

「はーい。それじゃーちょっと赫子(かぐね)使いますけど、驚かないでくださいねー」

 

 カオリは複数の細長い尾赫を足元から生やし、ロマの元へ送っていく。

 器用に伝票を運ぶカオリの赫子を前に、客達はその赫子についてあれこれ語り合い始めた。

 

「うおっ!? 赫子ってそんな風にもつかえんのか! 畜生、赫子出せる奴は羨ましいぜ……!」

「数こそ多いみたいだが、随分細いな……あれじゃハトのクインケ相手にゃすぐ折れちまいそうだ……」

「あれは尾赫か……? 俺も尾赫だが、あんな器用には使えん。威力を犠牲にした精密タイプって所だな」

 

 客達は細い根のような赫子を、精密特化のもろい赫子だと判断する。

 しかし事実は異なり、カオリの尾赫は堅さも凄まじい。

 

「ひゃわー! 相変わらず精度のお化けっすねー……『あんブレ』4つに、『アメコ』2つはできてるっす! そのまま持ってっちゃってくださーい!」

「はーい……あれ?」

 

 カオリは尾赫で器用にコーヒーを受け取ると、注文した客に渡そうとするが……。

 

「帆糸さーん、これとこれ、なんか人間の食べ物混ざってるよー! 多分砂糖かなー? 作り直してー」

 

 カオリはそのうち2つをロマへと返す。すると、客達から拍手があがった。

 

「ねーちゃんナイス! ロマちゃんは良く砂糖やミルクを間違えて入れちまうんだよ」

「ミルク……あぁ、()()()のですねー?」

 

 含みのあるカオリの台詞に、男は苦笑いを浮かべる。

 

「おっと? つまりねーちゃんは()()()のを知ってるってワケか……てことはナンだ、レストランの関係者か? つっても、レストランはこの前無くなっちまったから、元関係者か」

「そうですねー。関係者といえば関係者ですよー?」

 

 確かにカオリは関係者だが、喰種レストランを壊滅させた関係者である。

 

「ほぅ、従業員って感じじゃねぇし客か? なら、ミルクはミルクでも『練乳』の方は好きかい? ……へぶっ!?」

 

 ニヤリと笑う男に、カオリは脳味噌にダメージが出ない程度のチョップを放つ。

 

「もーお客さん、その質問はヘンタイさんですよー? まぁ嫌いじゃないですよ、幼い子の練乳が好みですねー。でも『ふつうの』の方が好きですよー?」

 

 カオリは男と談笑しつつも、ロマの淹れたコーヒーを赫子で配っていく。

 

「いてて……『ふつうの』は俺も好きだな。まぁ妊婦は貴重だから値段も高ぇんだよなぁ……金の無ぇ今はもう飲めねぇな……てーか練乳はガキのが好みなのか? セレブ連中はイケメンかダンディの練乳を好む奴が多いんだが、ねーちゃんは珍しいな。もしかすると、俺の料理を食ってたお客さんかもな」

 

 その言葉に、カオリは首を傾げる。

 

「俺はレストランの元コック見習いさ。俺がレストランで働いてた頃はよー、乳搾りばっかやらされてたんだよな……女相手なら良かったが、俺の担当は男のガキばっかりでよ。なんか知らんけど俺はガキウケするっぽくてな……んで、ねーちゃんも俺の絞った練乳コーヒー飲んでんじゃねーかなって思ってよ……あっ、嫌なこと思い出しちまった。レストランで働いてた時の俺は、人間のオスのニオイでくせぇったらなくてなぁ……そんで、客の一人にいたオカマのピエロが……俺を熱い目でジッと見つめてくるんだよ……しかも事あるごとにボディタッチしてきやがったし……んで、ソイツ日を重ねるたびに触り方も視線もだんだんヤッベェ感じになってきてさ。あ、これ次は犯されるわってくらいまでエスカレートした時……怖くなってレストラン辞めちまったんだよなぁ……」

 

 もしかしてニコの事だろうかと思いつつも、カオリは客の注文を赫子で書き取り、カウンターにロマが置くコーヒーを配っていくが……。

 

─────ロマが皿を滑り落としたのを感知すると、床に落下する前に、カオリの尾赫は皿を掴み取った。

 

「気をつけてねー?」

「ひゃわっ!? あ、ありがとうございます!」

「おおっ! すげぇなねーちゃん!!」

「お見事!!」

 

 曲芸じみた技量と速度を持つカオリの赫子捌きに、客達は大きく拍手をする。

 

「さてと……これで一段落かなー? それじゃ私は仕事に戻るよー。帆糸さんは頑張ってねー」

「あざす! ううぅー、先輩達が早く戻って来ることを願うっす……」

 

 客の注文が一通り落ち着いたので、カオリは店の奥へと歩いていく。

 

「楽しかったぜねーちゃん! もし花屋辞めたらここで働いてくれよな!」

「よっ、赫子曲芸師!!」

「今度はそこのショタコンホモグールばっかりとじゃなくて、俺達とも喋ってくれよなー!」

「おいっ!! そりゃ確かに男の(よろこ)ばせ方なら熟知してっけど、俺はショタコンでもホモでもねぇぇ! 仕事で仕方無くやってたんだよォ!!!」

 

 賑やかな客達に手を振り、カオリは今度こそ芳村のもとへ向かった。




 ち ち し ぼ り 
構成要素が人間なら喰種だって飲めるっ!
モブだって喰種。残酷な事もやってます。

喰種レストランの情報について、カネキくんはわざわざ月山さんへ接触しましたが、モブだって知ってることもあるんじゃないか。という独自解釈でした。

次回もあんていくとHelter Skelter回です。
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