梟討伐作戦の当日、CCGにより20区全域には避難命令が出ていた。それに伴い、あたりには人の気配すらない。
そんな無人の街の中、あんていくにほど近いアパートでカオリ達は待機していた。もちろん知らない人間の家である。
外から響くは戦いの音。あんていくの喰種達が、あんていくを拠り所にする喰種達が、少しずつその身を削られる音が響いている。
「ふふっ、たくさんたくさん遊ぼうねー。危なくなりそうなら撤退するんだよ?」
レザーフェイスの恰好をしたカオリが、リオに優しく問いかける。
「もちろんだよ、お姉ちゃん。あんていくにはお世話になったからね……お別れの挨拶はできなかったけど、僕は今でもあんていくが好きだったよ」
フレディの衣装の身に纏ったリオが、戦いに備えて意識を集中させていく。
「フフフ……アタクシが『ブギーマン』の衣装……光栄ですわぁ!」
ブギーマンの衣装を纏ったロウは、その喜びを噛みしめる。
「ハァイ、調子良い? こっちは車の確保を完了済みです。地上ルートの逃げ道は抜かりありませんぞ」
ペニーワイズの衣装を纏った小林は、複数の車のカギでジャグリングをしている。
「うんうん。みんな準備できてるね! それじゃ、クインケを渡すよー」
カオリは4つのアタッシュケースを持つと、1人に1つずつ手渡した。
「みんなのクインケを説明するよー。私のクインケは『ドクター・改』。ドクターを元にナースを混ぜた『キメラクインケ』ってやつだね。今までとの違いとして、ドクターでも防御が可能になったよ! でも追加されたナース部分は、元々のナースより若干射程が短いんだよー。だから手数が増えた訳じゃ無くて、ドクターに盾が増えたって感じかなー。私の尾赫を合成素材に使ってるから、大して重くないよっ! それじゃ、次はマイケルのクインケ!」
マイケル……もといロウのクインケは、『ナース』をメインとしたクインケであったが……。
「これ、アタクシでもちょっと重く感じますわね……」
そのクインケはとにかく重かった。
「マイケルのクインケは『ナース・改』だよ! ナースを元にドクターを混ぜた『キメラクインケ』だね。特長としては、私の甲赫を合成素材に使ってるから全体的に重いよ! その分攻撃力も防御力も上がってるねー。欠点だけど、私やマイケル並みの力が無いと腕が折れるってとこかなー? こっちはひたすら攻撃力を向上させたって感じだねー」
続いてカオリは小林のクインケを指差す。
「ペニーワイズのクインケは、この前キジマさんから貰ったハンマーだよ。確か名前は……『ぼくさつ1号』だったかなー? 甲赫のクインケで、重さはドクター改よりちょっと軽いくらい。相手をかち割るためのクインケだね。普通の甲赫みたいだから、羽赫の攻撃を野球みたいに弾き返せるかもしれないねー」
小林はスレッジハンマーを肩に乗せる。スレッジハンマーはずっしりとした重さを感じさせるが、小林にとってさほど気にならない重さだった。
「最後はフレディ! フレディにはこのチェーンソーだよー! 本当は私が持った方が
リオはチェーンソーを眺める。
理由は分からないが、リオは自身のナニカが揺れ動くのを感じた。
「…………」
「どったのフレディ?」
「ううん、なんでもない」
リオは頭を振ると、チェーンソーをアタッシュケースに仕舞った。
「……ん、みんなクインケを確認できたね。さてと、これから私たち『15区』は、捜査官さん達……そしてその向こうにいる和修家へ喧嘩を売るよ。マイケル、フレディ、ペニーワイズ……みんな私と初めて会ったときとは比べ物にならないくらい強くなった。私達4人なら『青メガネ』が総大将だったとしても皆殺しにできると確信してる……でも、皆殺しはしない。捜査官さんは、クインケ作りと街の治安を守る『
カオリはクスクスと嗤う。それは紛れもなく捕食者の笑みであった。
「ちょっと喧嘩を売って、何人か殺して、ちゃっちゃと逃げる。ついでに芳村さんをもっかい勧誘する。15区に攻め込もうと画策してる『びー』と捜査官さん達の心を折る。だからみんな……」
カオリは大きく腕を広げる。
「
15区の化け物達が、20区に解き放たれた。
──────────
最初に気付いたのは、一等捜査官の
交戦区域から少し離れた場所にある監視カメラの映像に、フルフェイスヘルメットを被った三人組の男女が映っていた。
やや大きめな成人男性一人と、細身の成人女性二人。CCG特殊作戦服に身を包んだ彼等の姿は、パッと見は捜査官に見えるが……馬淵は心当たりがある。
「……
『ハアァッ!!? 15区に貼り付かせてた連中は何やってんだ!?』
丸手特等捜査官の声が通信機から響く。その声には焦りが含まれていた。
「前から潜んでたんじゃないですか? まぁその場合……
『15区を警戒していた連中を呼び戻せ!』
「ただちに」
だが15区警戒班には、新たな脅威が迫っていた。
──────────
15区警戒班のニムラは、15区とは
「旧多二等、なぜ逆側を警戒している?」
「え? レザーフェイスは暗殺に特化した喰種と言われているので、馬鹿正直に正面から来るとは思えません。だから逆側を警戒してるんです」
ニムラの言葉に、准特等捜査官の男は眉を寄せる。
「……なぜキミが暗殺特化だと知っている? それは上等捜査官にすら教えていない情報だぞ?」
「この情報源はキジマさんですよ? 僕も現場に居ましたし……ところで……あれ、なんでしょうか?」
ニムラが指差したのは20区の夜空。
「ん? 空がどうした?」
「いえ、空じゃなくて、あれです。こっちに向かって何か飛んできてませんか?」
准特等は双眼鏡を取り出し、ニムラの指差す方角を再度見る。
そこに見えるは、コウモリのような翼を生やした人型の生命体が、こちらに向かって飛来する姿……。
「……喰種!? 総員、11時の方角から喰種が接近中!! 空から来るぞ!! 羽赫班は対空戦闘用意!」
「准特等! 敵のマスクと服は!?」
「マスクはよく分からんシワシワ顔、服は縞々セーターにジーパンだ!」
S級配置の陣形を組み始めた捜査官達に、ニムラが慌てて手を振る。
「准特等っ! それ15区の『フレディ』ですよぉ!? ソイツがキジマさんを病院送りにした奴です! SS級配置でお願いします!」
「なんだとッ!? ソイツならSSS級配置だ!! お前等、ここに特等捜査官は居ねえ。無理だと感じたらすぐ撤退しろ!! 畜生……来ないんじゃなかったのか!? マジで来るなんて聞いてないぞ丸手特等ッ!!」
准特等は通信機を手に取る。
「こちら15区警戒班! 『フレディ』が単騎で突っ込んできたが、20区側から来てるぞ!! そっちの警備はどうなってやがる!?」
『わかりません! こっちにも突然15区の喰種らしき存在が現れて……!』
通信機の向こうから、馬淵の慌てたような声が帰ってくる。どうやら本部も分かっていないようだ。
「そっちには何が居る!」
『我々と同じ服を来ていますが、男が1体、女が2体! 男は不明ですが、女はおそらく神代利世と桜野祐子かと。こっちに戻ってくる事はできますか!? こちらの人手が足りません!』
「無茶言うな! こちらもこれからフレディと交戦だ!」
准特等は通信を切るとクインケを構えた。
「旧多二等! フレディはキジマが追ってた奴だろ? 奴の特徴を大声で!」
「は、はいっ! フレディはまず、羽赫・甲赫・鱗赫・尾赫全ての赫子を使ってきます! しかも赫者で、その強さは過去討伐された『オバQ』に並びます!!」
ニムラの叫びに、准特等は頭を抱える。
「それで神代や桜野以下だと? ええい、15区の喰種はバケモノか!? 羽赫班! なんとしてでもフレディを地上に降ろせ! やつが羽赫を持ってるってことは、このままじゃ上空から一方的に撃ち殺されるぞ!!」
「あの、僕は逃げたいんですけど……」
「うるせぇぞ旧多二等! 逃げたいのは俺もだ馬鹿野郎!!」
羽赫のクインケを持つ捜査官は、リオに向けて弾丸を飛ばす。
だが、リオは空を自在に飛び回り、弾幕を綺麗に躱していく。
「チッ! ちょっと貸せ!!」
准特等は羽赫班の一人からライフル型のクインケを奪い取ると、リオに狙いを定め……。
「落ちろッ!!」
リオの胸元を弾丸が撃ち抜いた。
だが、リオは空中でバランスを崩しつつも、地上に向けて水晶の弾丸をばらまく。
「まずい、甲赫班の後ろへ下がれ!!」
准特等は慌てて指示を出すものの、飛来する水晶は捜査官が逃げる前に空中で炸裂し、細かい弾丸となって広範囲へ降り注ぐ。
「ぐぁっ……畜生足をやられた……お前等大丈夫か!?」
准特等が痛みを堪えつつ声を張り上げるが、上空からの攻撃により、部隊のほぼ全てが負傷し血を流していた。
「准特等! この人の血が止まりません!!」
一方、ニムラは大柄な捜査官の背後に隠れることで弾丸から身を守ったが、盾にされた捜査官は夥しい量の血を流したまま意識を失っていた。出血量の多さから、おそらく助かることはないだろう。
「お前等! 怪我人をカバーしつつ空から目をそらすんじゃねぇ!!」
だが、自身の傷、仲間の傷に目を取られた捜査官達は、リオから注意をそらしてしまう。
その隙を縫うように、リオはチェーンソーを構えた状態で空から降ってきた。
「しまっぎゃバババババ!!」
急降下するチェーンソーに当たってしまった捜査官は、体を肩から真っ二つに切り裂かれ、肉塊へと姿を変える。
「くそったれ!! だが奴は地上に降りた! 無事な奴は一気に畳みかけろ!!」
「あはっ! あはははは!!」
羽赫以外のクインケを持った捜査官が、リオへ殺到するが……。
─────リオは即座に特殊な赫子を展開し、霧を纏う半赫者へと変わる。
甲赫のクインケはチェーンソーや紫色の鱗赫に砕かれ、尾赫のクインケは水晶弾に撃ち抜かれ、鱗赫のクインケは大樹の根に似た灰色の尾赫に貫かれていく。
半赫者の霧を纏ったリオの前に、捜査官は近寄ることすらできない。
「おやすみ! オヤスミィ!」
そして、クインケを失った捜査官達へ、真横から水晶の雨が降り注いだ。
──────────
リオの力は圧倒的だった。チェーンソーに斬られた者は即死し、赫子によって傷を負った者は死者こそ少ないが、いたる所に傷を負い、まともに戦える状況ではなくなっていた。
この場に立っているのはたった三人。周りを盾に逃げ回ったニムラと、気力を振り絞って何とか立っている准特等……そして、リオ。
「ハァっ……ハァーっ……冗談キツいぜ全く……相手は殆ど無傷でこっちは俺と旧多二等以外全滅……撤退する暇すら無ェ……」
だが、リオは半赫者状態を解き、彼等に背を向けた。
「あ? オイ、フレディさんよ。俺達を殺さねぇのか?」
「はい、殺しませんよ。あっ! でもでも、優しさだからじゃないんですよ? 優しさで殺さないなんて事をするのは、20区の梟さんや、隻眼の歯茎さんだけで充分ですから」
リオは唄うように語る。
「僕たちの目的は15区に攻め込もうとする『和修家』の心を折ること。普段みたいに行方不明にさせちゃったら、分かってもらえないでしょ? だから、あなた達はちゃんと報告してください。ちなみに、僕はレザーフェイスさん達より、とっても弱いんですよ? そんな僕に満足なダメージすら与えることができないなら、15区に攻め込んだとき、きっとたくさんの死人が出るんでしょうね……あ、死人じゃなくて行方不明者かな?」
リオは屈辱に歪む准特等から、ニムラへと視線を移した。
「キジマさんの部下の……フルタさんですね? キジマさんは元気ですか? 姿が見えませんけど」
「いえいえ、あなたのせいで絶賛入院中ですよ? キジマさんのクインケで僕達を襲うなんて、趣味が悪い喰種です……ねッ!!」
茶番を交えつつも、ニムラは自身の持っていた刀型のクインケを投擲する。それはリオの想定よりも速く飛来し……。
「うぐっ……」
リオの腹に突き刺さった。
「こんのっ……お返しです!」
リオは刺さった刀を抜き、投げ返す……だが、それは倒れていた別の男へ。
飛来したクインケは倒れていた捜査官の首を刎ね、血飛沫が舞い、赤い水溜まりが広がっていく……。
「ああっ!! 僕のクインケで!?」
「さようならフルタさん。食卓で会わないことを願っていますよ」
リオは翼のような羽赫を展開し、空へと飛び去っていった。
「逃がすかクソがぁッ!!」
准特等がヤケクソ気味に放ったライフル弾は、水色の盾のような甲赫に弾かれ、リオの体を貫くことはなかった。
その後もヤケクソのようにライフルを乱射する准特等だが、もはやリオに届いてすらいない。
「こちら二等捜査官の旧多です。15区警戒班はフレディによって壊滅、死者複数名、重軽傷者多数。というか僕以外無事な人がいません。フレディはこの場を去りましたが、至急救護班を派遣してください。え? こっちからの応援ですか? まともに動けるの僕だけしかいませんよ? そもそも、僕がそっち行ったら、誰がここの部隊治療するんですか? 治療キットも足りてないんです。はやく救護班を派遣してください」
唯一冷静だったニムラは、テキパキと後処理を行っていた。
飛 翔 喰 種
シミュレーションゲームでお馴染み、まずは航空戦力による攻撃からスタートです。
原作JAILのリオくん羽赫最終形態は、とっても空を飛べそうな赫子なんですよっ。エトさんが飛べるなら、リオちゃんだって飛べるハズ!
そして、本作における覚醒リオちゃんの基本戦術は『上空から出血デバフのついた羽赫をバラまくこと』です。
原作の『出血デバフ』って、文章にするとめっさ凶悪じゃん。ってことから、リオちゃんが航空爆撃キャラに。
対空戦闘を想定してないCCGにとって、リオちゃんは下手するとカオリよりも厄介な相手に……。
■進化したフエグチシリーズについて
・ドクター改(旧・フエグチ壱):
原作フエグチ壱に比べ、射程距離と威力がやや上昇。追加された甲赫は自身を守る&近接型の敵を薙ぎ払うくらいの射程距離。
甲赫が混ざった関係上、普通のクインケよりも重い。
・ナース改(旧・フエグチ弐):
原作フエグチ弐に比べ、防御力と攻撃力が大幅上昇。追加された鱗赫は中距離の敵にも有効。でも甲赫の射程距離と然程変わらないため、敵の赫子パターンによって使い分けよう。
火力と耐久が大幅向上した代わりに、もはや人間では扱えないほどに重い。