「ふーん、『青メガネ』は居ないんだ? まぁいいや。ねぇフクロウさん? 私達が助けに入れば、ここを切り抜けられるよ? だから……15区に来ない?」
カオリは芳村に再度勧誘をするも、芳村は首を横に振る。
「そっかー。助けはいらないんだ? じゃあフクロウさんの戦いを見物させてもらうねー」
「待て神代利世。15区ということは、やはりお前がレザーフェイスなんだな?」
芳村から離れようとしたカオリへ、篠原が疑問を投げかけた。
「そうだねー。もう隠す必要もないよねっ」
カオリとロウはCCG特殊作戦服を脱ぎ捨てる。
「いかにも! 私がレザーフェイスだよー。みんな自己紹介しよっ!」
「初めまして、アタクシはブギーマン。ランサーでも構いませんわよ?」
「僕はフレディです」
「ハァイ、調子良い? 俺は踊る道化師ペニーワイズ」
カオリ達はクインケを掲げ、高らかに名を名乗った。
「あれがジェイソンの皮膚でできたマスクか……悪趣味な喰種だな」
「やはり桜野はランサーだったのか!? ならヤツの部下はどこに……?」
「ホラー映画の殺人鬼気取りが」
「あれは……真戸のクインケか? だが形が以前と変わってるぞ?」
「あっちはキジマのクインケだな」
捜査官達が口々に呟くのを背に、カオリ達はマンションの給水塔に腰掛けた。
「フクロウさん、
カオリ達は芳村の戦いを見物し始める。捜査官達は15区の喰種が乱入してこないことを安堵しつつ、それでも警戒を怠ることなく、芳村へ攻撃を始めた。
──────────
カネキは芳村達を助けに単独で20区へ乗り込んだ。そして、第2隊と第3隊を退け、入見と古間を助け出した。
だが、カネキは強烈な違和感を感じている……。
その違和感は……捜査官達にあった。
(なぜ僕を殺そうとしない……)
豊かなチョビ髭の特等捜査官も、ツンツンした頭の准特等捜査官も、これといった特徴は無いがかなり手練れだった上等捜査官も……誰もがカネキを討伐ではなく、捕獲しようとしていた。
(なんで……? 古間さん達には殺す気で攻撃していたのに……?)
そして、カネキはついにその理由を理解する。
「止まれ『金木くん』」
「!?」
その男、上等捜査官の亜門鋼太朗。だが彼は、カネキを『眼帯』としか知らなかったハズである。
「な……なんで……」
自身の正体がバレている事に狼狽えるカネキ。だが、亜門は武器をゆっくりと下ろしていく。
「総員、武器を彼に向けるな。
亜門の指示で、他の捜査官達もクインケをおろした。
「違う……僕は、喰種だ……」
「いいや、君は人間だ。犯罪者『嘉納明博』によって喰種に変えられてしまっただけの、人間なんだろう?」
亜門は優しく語りかける。それは紛れもなく、彼が人間に対して語りかける時の声であった。
「どうしてそれを……」
「安久という姉妹を知っているか? 君と同じ赫子を使う
「……ええ、知ってます」
亜門は悲しそうな顔で言葉を続ける。
「彼女達はアカデミーの優秀な生徒であり、悪に手を染めるような人間じゃなかった……平穏に生きていた善良な人間が、『悪』によってある日突然
篠原……それはカネキが地下研究所にて肉を喰らった相手である。そんな相手が自身の救済を願い出たことに、カネキは目を見開く。
「金木くん、君が望むなら……君はまた人間として生きられるんだ。CCGは君のような人工的に喰種へ変えられてしまった人への仕事も用意してある。仕事内容は現段階では機密のため教えられないが、もちろん汚れ仕事じゃない。だから金木くん……
それは魅力的な提案だった。
だがその提案は、あまりにも遅かった。
「……あんていくの皆はどうなりますか?」
「残念だが、奴らは喰種対策法に従い駆逐される。例外は君だけだ」
カネキは目を伏せ、深呼吸をする。
「……あなたの名前をお聞きしても?」
カネキのそれを好意的に受け取った亜門は、顔を輝かせた。
「ああ! 俺の名前は
「その提案、お断りします」
カネキにとって、あんていくの仲間達を見捨てる選択はできなかった。
「っ!? ……なぜだ!? 君は人間として生きられるんだぞ!!? 上井大学だって辞めなくて良いんだ! 永近だってお前を待ってる! 君は陽の当たる場所に戻ってくるんだッ!!」
「僕はあんていくのみんなを見捨てないッ!!」
亜門の叫びにカネキも叫び返す。亜門は溜め息を一つ吐くと、首を横に振る。
「……この1年、君は喰種の世界に居たんだろうな……突然喰種にされてしまった君は、誰にも頼れなかった。そんな中『あんていく』の喰種達が君に手をさしのべ、君はそれに縋ったんだろう? この俺だって分かる。だが……そんなモノはまやかしだ!! 喰種は
「ヒトも喰種も違わないッ!! 確かに喰種の中には、アオギリの樹やレザーフェイスみたいな悪もいるけど、人間だって悪がいる! 喰種だって、あんていくの皆みたいな優しい喰種がいるんだっ!! そんなみんなを、ただ喰種だからといって切り捨てるなら……
カネキは4本の鱗赫を生やし、亜門へと走り出す。
亜門も甲赫の大剣型クインケ『クラ』を構え、カネキと対峙する。
「良いんだな? お前はそれで良いんだな?
亜門もまた、カネキへと走り出した。
──────────
一方、ところ変わって作戦本部。
CCG局長の
「馬鹿な……このままではピースが崩れる……だが今
吉時……否、
「マル……貴将……いや、第0隊に地下の防衛をやめさせ、第1隊に加えたとしよう。そのとき、相手は梟、レザーフェイス、ランサー、フレディ、ペニーワイズ、金木研、そしてもう一体の梟と仮定する。0・1合同部隊の勝率はどのくらいだ……」
吉時は丸手特等捜査官に聞くが、丸手は首を横に振る。
「……有馬ならなんとかしてくれるかもしれませんが……もし有馬が何とかできなかったら、勝率はゼロでしようね……そもそも、レザーフェイスとランサー、ペニーワイズについての情報が無さ過ぎます。レザーフェイスは今まで存在すら疑われてた喰種で、ランサーは『かつて7区で准特等捜査官と一等捜査官のペアを無傷で瞬殺し逃亡した』という情報しかありません。その上ペニーワイズに至っては今回が初の遭遇です。それに……こういう言い方は嫌いですが、嫌な予感がするんですよ……吉時さん、有馬が長年愛用してるあのクインケ……」
吉時は少し考え、有馬は3つのクインケを10年以上愛用していることを思い出す。
「ああ。『
「ええ、それは……」
丸手は言葉を続けようとするが……。
「いえ、すみません、考え過ぎでした。馬鹿げた妄想です。忘れてください」
「……? そうか」
丸手は自身の言葉を取り下げた。
「あの、丸手さん」
そのとき、別の方向から声がかかる。丸手が振り返ると、そこには永近がいた。
「永近か……金木研は残念だが……」
「俺がカネキを迎えに行きます」
「は?」
「だから、俺がカネキを迎えに行きます」
永近は親友を迎えに行くつもりのようだが、丸手は首を横に振る。
「馬鹿言うんじゃねぇ。亜門の交渉が失敗した今、奴はもう『SSレート喰種・眼帯』として処理するしかねぇ」
「亜門さんには悪いっすけど、亜門さんじゃダメっすよ。俺が行かないと……カネキは人間のダチが俺しか居ないから……俺も、カネキに帰ってきて欲しいから……だから丸手さん、これは確認でもお伺いでもなく、報告です。俺はカネキを迎えに行きます」
丸手は永近を睨みつけるも、永近は一歩も引かない。丸手は深く溜め息を吐いた。
「ったく……行ってこい。だがな永近……死ぬんじゃねぇぞ。お前、これから死ににいく奴みてぇな目してんぞ」
「ハハハ、カネキを置いて死んだりしませんよ。では……行ってきます」
永近は何も持たず、本部を飛び出した。
「頼んだぞ永近……まぁ、その前に亜門が倒してるかもしれんがな」
──────────
カネキと亜門が戦っている中、白衣の男が駆け寄ってきた。
「亜門上等!! これを!!」
白衣の男……CCGの研究員『
「ギリギリ間に合ってくれたかな? 『ドウジマ・改』が完成した! それともう一つは『アラタ』の試作品だ!! アラタは特等達の予備用だったんだけど、キミが使え! アタッシュケースを開くだけでいい、そのアラタは自動着脱式なんだ!!」
亜門はアタッシュケースを開くと、鎧型のクインケが亜門へ自動装着された。
「負担の大きいアラタだけど、キミなら使いこなせる! 頼んだよ亜門上等っ!」
もう一つのクインケは亜門が愛用していたクインケ『ドウジマ』が大きくグレードアップした武器だった。かつては鈍器だったドウジマは、今や鋭いランス型のクインケへと進化していた。
「これなら……いける!」
装備を強化した亜門は、先程よりも素早い速度でカネキへと走っていった。
新しいクインケにより、始めこそ亜門は戦闘を有利に運んだものの、カネキが半赫者になってからは、一進一退の攻防となっていた。
「これで決めるッ!」
亜門は『
「……ガハァッ!!」
「亜門さん……僕の……っぐ……アアアアアアアアアッッ!? さ、再生しない!?」
亜門の鋭い刺突にカネキは対応することが出来ず、腹部を大きく抉り取られる。だが、亜門もまたカネキの赫子によって右腕を肩から切断されてしまった。
カネキは傷を即座に修復しようとするが、その傷は再生する様子が無い。
治らない傷に呻きながら、カネキはジリジリと捜査官たちから距離をとっていく。
「ふーむ、瓶兄弟の赫子を使ったのが良かったかな?」
地行博士がつぶやくように、亜門のドウジマには『瓶兄弟』という尾赫の喰種が使われている。だが、ドウジマは他の喰種から作り出したクインケである。
これはニムラが行った『笛口夫妻』の改造と似ている。ニムラはカオリの素材を内側部分に使ったが、地行は瓶兄弟の素材を外側部分に使った。それにより、ドウジマには瓶兄弟の特徴である『尾赫の能力』が適用され、鱗赫であるカネキへ大きなダメージを与えたのだ。
「追撃はしない方が良いね、まずは亜門上等を治療しよう。僕は一旦作戦本部に戻らせて貰うよ! 治療はよろしく!」
応急処置の技術を持たない地行は、丸手の待つ作戦本部へと歩いていく。第4隊4班はフラフラと逃げ去るカネキを放置し、亜門の治療に専念した。
──────────
カネキはマンホールを降り、下水道へと逃げんこんだが、そこで幻覚に苛まれていた。
「立て直して……店長を助けなきゃ……ニク……人を殺して……違う、嫌だ! 亜門さん死なないで! みんなを……守る、摘む……殺す? 奪う……僕の、私の、俺の……あああああ来るな! やめろォォオオオオ!!」
リゼとヤモリの幻影が……自身が喰らったハズの存在が、自身を喰らおうとカネキへ纏わりつく。もちろんそれは幻であり、この場にリゼやヤモリが居るワケは無い。
「消えろ!消えろ!!俺のモンだ!! 私の体は俺のものだ!! 僕の体から出て行け!! 出て行けよぉぉおおおおお!! よこせェ! 俺のニク!! 私のォォオオオ!!!」
カネキは自分がリゼやヤモリを喰ったと思い込んでいた。
(違った……喰われていたのは僕の方だったんだ)
「そうだよ? ごはんになったのは貴方」
その時、空から悪魔が舞い降りる……それは山羊の頭に赤いドレス、全身から植物のようなナニカを生やした『
「ねぇ、ヤクモちゃんや神代ちゃんを喰べたつもりでいたみたいだけど、私の時はどうだったかなー? 確かに貴方は私の赫包を食べた。でも、決して貴方は私を喰べていない……だってそれだけの力は無いんだもの? だから……」
山羊頭の両腕から、リゼとヤモリが生えてくる。
「貴方じゃヤクモちゃんや神代ちゃん程度の喰種にすら、ご飯にされてしまうんだよー」
カネキは闇の中で、リゼとヤモリの幻影に体を喰われていった……。
──────────
マンホールを降りた下水道にて、永近はカネキを発見した。
「ようカネキ……探したぜ?」
「あ……あがっ……変なのが見える……聞こえる……またいつもの幻覚……? これは夢だ……だってそうじゃないと僕……僕が喰種になったってヒデに……ヒデに……!!」
「この1年……ずっとそうやって苦しんでたんだな……」
永近はカネキの肩に手を当て……。
「知ってた! ンな事良いからさ、とっとと帰ろーぜ?」
カネキが人間だった時と変わらず微笑んだ。
「ぐ……ぁっ……ガァァアアアアッ!!」
だが、カネキは戦闘の傷が深く、痛みと苦しみでのたうち回った。
「酷ぇ傷だな……これじゃ途中で死んじまうか……? 方法、これしかねぇよな……」
永近は覚悟を決め、
「悪ィなカネキ。お前のファーストキス……俺が貰うぜ」
──────────
カネキの意識が正常に戻ったとき、永近の姿は無く、口の中からは甘い味がしていた。
無意識にフラフラとさまよう内に、カネキは入見達との合流地点である地下空間の『ルートV14』という場所に来ていた。
だが……そこにあったのは、たくさんの死体。入見や古間と同じ恰好をした喰種の山。
死体の花園に立つのは、一人の捜査官……白い髪にメガネの男、特等捜査官の『有馬貴将』だった。
有馬の持つ槍型のクインケに、カネキはどこか違和感を感じる。それはまるで、
「あっ……」
カネキはそのクインケの……
槍型のクインケから感じる禍々しい気配は、
(出方を見る? 逃げる? いや、それじゃ駄目だ。あっという間に殺される。僕から仕掛けないと……先制攻撃? 不意打ち? だけど……どうすればいい? どうすれば僕は『あいつ』に勝てる……?)
その後は言うまでもない、カネキは有馬に勝つことはできなかった。
カネキが最後に浮かべた景色は、山羊頭の女悪魔が嗤う姿だった。
嗤 う バ フ ォ メ ッ ト
カネキくんの活躍は原作とほぼ変わらないため、バッサリカットです。
原作を買って、読もう(ダイマ)
■原作と異なる点
・幻影にカオリ
→レストランの時に甲赫の赫包食べてますからね。リゼさんやヤモリさんよりも強烈な赫包ですので、そりゃ幻影にも出てきます。そして、その見た目がなんとバフォメット。レストランの時にしかしていない衣装ですが、それほどまでにカネキくんがレストランで受けたインパクトは凄かった。
・「お前のファーストキス俺が貰うぜ」
→原作には無いセリフ。でも、永近さんの損傷部分から考えると、口にぶちゅっとヤっちゃってますよね!
・亜門さんを第4班が治療。
→しかし、これにより亜門さんが辿る運命を第4班全員が味わうことに。