カオリは『地下からやってくるニオイ』を感じとっていた。
そのニオイは地下から空へと移動し、上空からまっすぐこちらに向かってくる。
「みんな、戦う準備だよー」
「……有馬ですの?」
「違うよ? 『偽物の梟』がこっちに向かってきてる……あ、梟さん倒れた」
カオリ達が空を警戒していると、ついに芳村が倒れる。倒したのは法寺准特等捜査官の『
「さてと……まずは何をしにきたのか聞く前に……どーんっ!」
カオリは甲赫から巨大な葉を生やし、葉を上空に向けて飛ばす。回転する葉の刃はヒュンヒュンと音を立てながら空を斬り裂き……。
「アブネェッ!!?」
飛翔する『
「ゴバァァッ!!?」
「流石にアタクシの攻撃は避けれなかったみたいですわね」
─────ロウの投槍に射抜かれてバランスを崩し、隻眼の梟は屋上へと墜落した。
「っ!? 一体何が……?」
「新手か!?」
突然モンスターが降ってきたことに捜査官が唖然とする中、カオリ達は即座に行動を開始する。
「さぁ、ここからは私達の時間だよー!」
カオリは根のような尾赫を振るい、進路上にいた篠原を薙ぎ払う。
篠原は屋上の柵に激突し、血を吐きながら崩れ落ちた。
「グ……ぼっ……!」
「篠原特等っ!! くっ……資料とだいぶ様子が違いますが、あれがもう一体の梟かっ……!」
おかっぱ頭の男性捜査官が呟く。
「そうだよ
「おいっ!? 誰の事を言ってる!!」
「そうですわよレディ・ソーヤー。彼は囲碁の名人、塔矢アキラですわ」
「ほっほっほ! 皆様違いますぞ? 彼はゴルドア王国の王子、クルトナーガに違いありません」
その見た目から連想されるキャラクターを口々に述べるカオリ達に、おかっぱ頭の男性捜査官は怒りを爆発させる。
「ふざけるな喰種共! 私は『
宇井は怒りのままに『ハルバード型のクインケ』を振るう。そのハルバードの刃渡りから考えて、誰に当たるはずも無い攻撃だが……。
「みぎゃぁっ!?」
先端から鞭のような刃が伸び、
宇井の持つクインケは、甲赫A+の『タルヒ』というハルバード型のクインケである。内蔵したギミックにより、定着している刃を部分崩壊させ、瞬間的に鞭のような刃を追加する能力を持っている。
そして……その副次効果として、タルヒは
「レディ・ソーヤー!? ……まさかあのクインケ!!」
「っいたた……もー冷たいなー! 体もエプロンも破けちゃったよー!」
カオリは即座に傷を再生させ、
「おかえしだよー!」
─────宇井目掛け、葉の刃が空気を切り裂きながら飛来する。宇井は咄嗟にタルヒを盾のように構え、飛来する
「ぐっ!? ……タルヒが保たないっ……!!」
タルヒはミシミシと音を立てながら壊れてしまった。
「さてと……怪我して『あーるしー細胞』を使っちゃったなら、補充しないとねー!」
カオリは篠原へと進路を変える。
「篠原さんをやらせはしません!」
「レザーフェイスさんの邪魔はさせないよ?」
カオリの意図を理解した法寺が篠原を守ろうと立ちふさがるものの、リオは『芳村そっくりの赫子』を出し、法寺に向けて弾幕を放つ。だが、法寺の持つ甲赫のクインケ『赤舌』ならば、リオの羽赫も防ぐことができた。
「くっ……だが赤舌ならこの程度……」
「
しかし、その隙をついて法寺を小林の
「ありがとー。それじゃー頂きま……っと!?」
篠原を捕食しようとしたカオリだが、咄嗟に『ドクター』の盾部分へと身を隠す。
─────カオリが隠れると同時、粘り気のある水球がドクターに着弾し……轟音と共に炎があがる。
「や、やったか!?」
声の主は『
「あっはっはー!! 嘉納さんちでは良くも燃やしてくれたよねー! でも、その攻撃はもう効かないよー!」
4000度の炎すら無傷で防ぐほどの火炎耐性を持つ『笛口リョーコの赫子』で守れば、その限りではない。
「なんで!? あのときはっ……!」
「んー、あの時はアオギリのタタラって喰種と戦った後で消耗してたからだよー?」
カオリは尾赫を一閃し、車谷の両腕を切り落とす。
「ぃぎゃぁぁぁ!! う、腕がぁ……っ!!」
「はーい、この悪いクインケは没収でーす! ペニーワイズ持っててー。そして……いただきます」
カオリは小林にアブラガマを渡しつつ、人間と同じくらいの太さを持つ尾赫を生やす。
その先端にはびっしりと牙が生えており、車谷はこれから自身が何をされるのかを理解した。
「あえてゆっくり食べよっかー」
「ひっ……来るな……こ、来ないでくれ……やめろぉぉぉおおお!!!」
カオリは車谷の
「だ、誰か助けてっ!? 助けて下さい篠原特等!!」
「ふふっ、ゆっくり……ゆーっくり……かじられていってねー!」
カオリはゆっくりと車谷の背を縮めていく。
指が砕かれ、
それは果たしてどれほどの痛みか……車谷はもはや人ならざる生命体の如き叫びを上げる。
「総員! 車谷一等を救出せよ!!」
捜査官達はカオリの赫子を切断し、車谷を助けようと駆けだすが……。
「おうおう! 痛ッッテぇぇナァぁコノ糞共がよォオオオオ!! oh oh 渚の胃袋 by the way!!」
隻眼の梟……もといエトが起き上がり、カオリに向けて羽赫を飛ばし始めた。
「ふふふっ!! 甲赫は羽赫に強いんだよー?」
カオリはひときわ巨大な葉のような甲赫を展開し、エトの攻撃を防ぐ。
だが、カオリが守ったのは15区の仲間と、捕食中の車谷、そして篠原だけである。他の捜査官達はエトの弾幕のせいで、カオリに近付くことができない。
その上エトの攻撃に便乗するように、リオが水晶のような羽赫を捜査官達に向けてバラまきはじめた。
エトとリオのよる羽赫の嵐。彼らは少しずつその身を刻まれ、血で汚していく。
「くそっ……このままじゃジリ貧だ……せめて有馬さんがいてくれれば……」
宇井の願いも虚しく、時間は過ぎる。その間も車谷の叫喚が空間を奏で続け……やがて聞こえなくなった。
車谷を食べ終えたカオリは次の行動に向け、無数の赫子を生やしていく。それらは大樹のように太く、そして長い……。
「もー、さっきから偽梟さんが鬱陶しいなー! もう一回寝ててねー?」
無数の甲赫と尾赫が縦横無尽に飛び回り、エトへと迫る。
「黙るのは
「いいえ、アナタですわ! アオギリの梟!」
ロウは青いボディスーツのような『特殊な赫子』を全身に纏い、弾幕の中に突っ込んだ。
カオリはロウに当てないように甲赫の鞭をエトへ振るい、ロウは
ロウの赫者はカオリ達と違い、異形の姿ではない。その姿はともすれば赫者に成り立て、もしくは半赫者にも見えるだろう。
だが、それは間違いだ。『花を咲かす』事が目的のカオリと違い、ロウの目的は『美しくなる』事。
美しさを損なう異形ではなく、美しさを保つ細身の赫者。極限まで圧縮された美と武。その極限まで圧縮された甲赫は、カオリの甲赫にも匹敵する強度を誇る。
そして、ロウは火や氷といった特殊な弱点はない。苦手なのは通常の甲赫を持つ喰種同様、鱗赫の赫子。
それはつまり、羽赫の攻撃に対してのみだが……ロウはカオリ以上の防御力を発揮する!
「フフフ、跪きなさいな!」
ロウは赫子の槍を手に持つと、エト目掛けて投擲し……。
「グギャアァッ!!」
─────槍はエトの腹部を突き抜け、空の彼方へ飛んでいった。
「避けられましたわね……赫包のある肩を狙ったのですが……」
「こんのぉ……何度も何度も調子に乗りやがって……」
「てかさー、なんで来たの? おとーさん助けに来たの? おとーさん大好きっ子だったりするのかなー?」
今更だが、カオリはエトに疑問を投げかける。『あんていく』と敵対しているハズの
「あぁ? ……アァ、ソウダヨ。パパヲ助けに来たのさ」
「そっかー! 私もお父さん好きだったよー! 喰種なのにちょっと美味しかったんだよねー。うんうん、それじゃあ仕方ないなー。今回だけだよー? 今度会ったら親子丼にするねっ? みんな攻撃中止。梟さんを連れてって良いよー」
カオリ達はエトへの攻撃を止める。エトは芳村を掴み、空へと逃走を図るが……。
「逃がさんぞ!」
カオリ達の攻撃が止むことで、捜査官達の行動も可能になる。特等捜査官の
「無粋だナァ! かつて私に傷を負わせた黒磐クゥン!!」
しかし、エトはブレード状の羽赫を振り回して黒磐を吹き飛ばし……。
「ヌグゥ……ッ!?」
「あのときのお返しサァ!」
─────黒磐の左腕を切り下とした。
「黒磐特等ッ!!」
「ばいばーい。おとーさんと仲良くねー!」
カオリは手を振り、空へと飛んでいくエトを見送る。
だが……。
「バァ─────カ!! コイツは死ぬほど嫌いだよ!! この老いぼれジジイは嘉納の実験材料になって死ぬんだよォ!!」
空高く、エトは真実を告げた。
「……マイケル」
「ハイっ!!」
ロウはカオリの意図を正確に理解し、エトに向けて槍を投げる。
「グキャァッ!? ……ギャハハハハハ!!」
槍に貫かれバランスを崩すも、エトは落ちることなく空の彼方へ消えていった。
──────────
「あーあ、飛んでっちゃった……やること無くなっちゃった。後は適当に捜査官さん達をいじめてから帰ろっか」
そう言いつつ、カオリは倒れていた篠原の右足を『鎧型クインケごと』甲赫で切断した。
「ぎっ……ぐぁああああああ!!!」
篠原の絶叫が響く中、カオリはマスクをずらし、その足を咀嚼していく。
「うん、美味しい! ……ペニーワイズ、ちょっと篠原特等がうるさい」
「OK!」
小林は痛みにのたうつ篠原の頭部目掛け、スレッジハンマーを叩きつけた。
本来なら脳漿が炸裂するほどの衝撃だが、篠原には鎧型クインケ『アラタ』がある。篠原は屋上の床に顔面を沈めるのみに留まり、即死は免れた。
だが、衝撃を完全に消せるわけではない。篠原の頭部からはドクドクと血液が吹き出し、危機的状態であることは間違いない。
「うん、ありがとー!」
静かになった篠原を眺め、カオリは満足そうに頷いた。
「……しのはら……さん……」
蹂躙される篠原の姿が、ジューゾーの心を掻き乱す。
『
それは、初めて出会った篠原の姿。
『どうだ? 勉強頑張ってるか? 差し入れにドーナッツ買ってきたぞ!』
それは、昇進試験の筆記問題を助ける篠原の姿。
『ジューゾー、私はお前が死んだら悲しいよ』
それは、ジューゾーが自分の身を大事にしないことを心配する篠原の姿。
『ジューゾー、この前20歳になったんだよな。それじゃあ、この作戦が終わったらさ……一緒に呑みに行かないか? 良い店を知ってるんだ……死ぬなよ? お前と呑みに行くのが楽しみなんだからな?』
それは、この作戦が始まる前の篠原の姿。
─────片足を失ってなお、ジューゾーは走った。
ジューゾーはカオリ目掛けてナイフ型のクインケを投げ、カオリの体に弾かれる。
カオリ目掛けて鎌型のクインケを振り下ろし、弾かれ、また振り下ろし、弾かれる。
「─────!!─────!!!」
ジューゾーは目を見開き、カオリ目掛けてガンガンとクインケを叩きつける。
それは全くの無意味。だがその姿に、カオリは強い感動を覚えた。
「全く……身の程知らずのボウヤですわね」
「止めなくていいよ」
ジューゾーの首を刎ねようとしたロウを、カオリが止める。
「ふふふっ……ふふふふふ!! ねぇ、ジェイソンの声無き叫びが聞こえない? まるで、クリスタルレイクの底で泣き叫んでるみたいだよ!! あぁ、良いよ! 凄く良いよジェイソンっ!! 負けるな! レザーフェイスなんかに負けるな!! 頑張って頑張って頑張ってよぉ! ジェイソンは
攻撃を受けているカオリ自身が、ジューゾーを応援している。
その様子にロウ達15区の喰種は肩を竦めると、他の捜査官がカオリ達の邪魔をしないように牽制の攻撃を始めた。
「さぁ! さぁさぁさぁさぁ!! もっと足に力を入れて!! それじゃあレザーフェイスに傷一つ付いてないよ! あ、足は私が片方食べちゃったね! てへぺろっ!!」
弾かれた拍子に体勢を崩し、転ぶ。だがジューゾーは片足で器用に立ち上がると、再び弾かれるだけの攻撃を繰り返す。
だが、ジューゾーの力は少しずつ弱くなっていく……梟相手に最前線で戦い、カオリ達との戦いでは足を失っただけでなく、リオの羽赫を幾つも浴びている。
出血により、ジューゾーの意識は少しずつ薄れていく。それでもなお、カオリへの攻撃をやめない。
「鈴屋くん……もう、もう良いんだ。このままでは死んでしまう!! 撤退して治療を受けるんだ!!」
「い、や……だ……」
宇井の叫びを無視し、ジューゾーは鎌を振るうが……。
「うーん、飽きた!
カオリは手で
投げた飛ばされたジューゾーは、一人の捜査官によって受け止められる。
「まったく……捜査官の鑑だね、鈴屋ボーイは……」
ジューゾーを受け止めたのは、立派なチョビ髭をたくわえた男……特等捜査官の田中丸
そして、続々と捜査官達がやってくる。ツンツン頭の准特等捜査官『
「みなさん! 持ち場は!?」
「局長の指示だ。20区の喰種はほぼ制圧が完了し、戦局はこの場を除いて追撃戦に移行した」
宇井の疑問に、平子が答える。
「それに、みなさんクインケが軒並み予備なのは何か理由が……?」
「単騎で厄介な喰種が紛れてやがった……そいつにクインケを壊され、予備を使わざるを得ないってワケだ」
鉢川は吐き捨てるように告げると……。
「くっ……ふふっ……あはははははは!!」
カオリはケラケラと嗤いだした。
「ふふふっ、『単騎で厄介な喰種』? 『そいつにクインケを壊された』? くひひっ、ねぇ、ねぇねぇねぇ? あなた達が戦った『歯茎』さんってね、私達の間じゃなんて言うか知ってる? 『美味しいご飯』だよー?」
カオリはカネキが捜査官達のクインケを破壊して回っていたことを感知していた。
カネキ相手に捜査官達がこれほどまでに敗北した事があまりにも可笑しかった。
だが、それ以上に……。
「あなた達は私達のご飯相手に、そんなボロボロにされる程度の強さしか無いんだよ? そんなあなた達が、私達と戦って勝てると思うの? ねぇ、ねぇねぇねぇねぇっ!!」
─────それ以上に、苛立っていた。
「ご飯のご飯が、捕食者の捕食者に勝てると思われてるほど、私達は弱いと思われてるんだね? 暗殺特化で白兵戦なんてできないと思ってるんだね?」
嗤っていたカオリが、突如雰囲気を変える。それは怒りよりも殺気に近い感情。濃密な死の気配に、捜査官達は思わずよろめいた。
「そっか、だから和修さんちは未だに私を狙ってるんだね? 未だに勝てると思ってるんだね? そっかそっかー。フレディ」
「はい」
カオリとリオは、特殊な赫子を纏っていく。
カオリが纏う赫子はみるみる大きくなり、カオリの姿が飲み込まれていく……カオリを包み込みながら肥大化した赫子は、やがて一つの化物を形どる。
「私の
カオリの変化した姿は
黒い体には真紅の斑、真紅の花には黒い斑。
真紅の花からはガス状の赫子が花粉のように立ち込めている。
かつてジェイソンの皮を剥いだ日、あの日よりも4倍の大きさを持つ
「は……ははは……もー、笑けてくる! 法寺さん、借りますよ」
気絶している法寺の手から、宇井は『赤舌』を拾い上げる。
「あーもう!! こんなのどうしろってんですかぁ!!」
ヤケクソになって笑う宇井の目の前には4体の喰種。
巨大で重厚な
花の化け物よりは少し小さいが、充分デカい
大きさは人間と変わらないが、隻眼の梟相手に傷一つ負わなかった
そして、未だによく分からない
「無理無理!! これ、有馬さんが来るまでの時間稼ぎすらできる気がしないんですけど……!!」
宇井は力なく笑い、クインケを握りしめた。それは倒すためではなく、少しでも生き延びるために……。
赫 者 ざ ん ま い
カオリ「勝てると思われてるんだね?」
ニムラ「今までCCGから逃げ隠れしかしてないし残当」
梟「あっるぇー?なんでリオきゅん裏切ってないん?」
花「ふふふっ、引き抜きなんてさせないよ高槻さん?」
■もしもカネキくんがクインケを壊して回らなかったら。
「ハイア─────マァァァッインドッ!!」
「みぎゃぁぁぁぁぁ!!?」
「姉様が死んだ!」
「この人でなし!」
「ランランルー\(^o^)/」
■原作と異なる点
・エトさんの出番
→さっさと撤収。次回有馬さんと戦うのはカオリです。
・篠原さんの負傷原因
→これまたカオリに。鈴屋さんの因縁が深まっていく。ジェイソンの名を冠する者の宿命。
・捜査官達の心象変化
→単体でもヤバイSSSレート赫者三体。しかもさっきまで大苦戦していたカネキを食事扱いするような連中相手。戦う前から心折れてる捜査官もチラホラ……。
■独自解釈のクインケについて
・タルヒ
名前の由来は『垂氷』らしいです。名前的に追加の刃には冷気纏ってても不思議じゃないよね!ってことから本作では氷属性が付与されています。
■おまけ・赫者ロウについて
いわゆる『アラタ』の完全上位互換。
速い、硬い、羽赫無効。つよい。
でも鱗赫には弱い。本話では弾かれまくってた
次回、無印編最終回。