「今この瞬間に、全員を殺す事もできる。だけど、貴方達には私達の事を和修家の皆に伝えて貰わないとね? フレディ、私達ごと爆撃開始」
カオリが小林を
「空からの攻撃に注意しろ!」
捜査官の誰かがそう叫ぶ。その捜査官の言葉に合わせるかの如く、リオは上空から次々に水晶の雨を降らす。
それは殺戮を齎す死の雨。
水晶の雨は着弾と共に爆弾の如く破裂し、ナイフのように尖った水晶が屋上全体に飛散する。小林よりも柔らかい皮膚を持ち、『盾型のクインケ』を持つものが殆ど居ない捜査官達は、ほぼ全員が水晶の嵐に呑み込まれていく……。
─────たった一撃。リオが水晶の雨を振らせただけ。
「あ……ぐぁ……」
「痛ぇよぉ……!」
「嫌だ……死にたくない……」
「足……俺の足はどこにいった……?」
それだけで、眼下には地獄絵図が広がっていた。
捜査官達にはいくつもの水晶がめり込み、時に貫通し、屋上は瞬く間に紅い絨毯が敷き詰められていく。
「ふふっ……因みにこんな事もできるよー?」
カオリが宣言すると同時、足が無事だった捜査官達の足の裏から足首にかけて激痛が走る。
そして、捜査官達の合間を縫うようにして、屋上の床から無数の棘が突き出した。
「わかったかな? みんなの足に赫子を突き刺したよー。みんなの横から生えてる赫子を見れば分かると想うけど、足だけじゃなくて頭まで貫通させることだってできるよ! つまり、みんなを殺そうと思えばいつだって殺せることを忘れないでね? さぁ! 今ので死んじゃったのと死にかけは食べていいよっ! 今日はお残しもご飯で遊ぶのも許します! 好き勝手に食い散らかそう!」
─────カオリ達は動けない捜査官達を、思うがままに蹂躙し始めた。
捜査官達の中には特等捜査官等の極めて優秀な者達も混ざっているが、優秀な者が持つクインケは、真っ先に破壊されていく。
特等捜査官『
「足をやられてなお動くその姿勢は立派ですが、させませんわよ?」
ロウがモーガンの真横に現れ、持っていたクインケを弾き飛ばす。弾き飛ばされた『ハイアーマインド』は屋上のフェンスを通り過ぎ、地上へと落下していった。
クインケを失ったモーガンに、もはやできることは何も無い。
「アナタは『不殺対象』ですので、腕だけにしますわね」
ロウの回し蹴りがモーガンへ放たれる。一度目は右腕、二度目は左腕、三度目は腹部へ……一瞬のうちに三度の蹴りを受けたモーガンは屋上の隅へと吹き飛んでいき、その両腕は曲がるべきでは無い部分で曲がっていた。
特等捜査官が真っ先に脱落してしまったことで、捜査官達の心に大きなヒビが入る。
その後も鉢川や平子といった優秀な捜査官達は、次々と気絶させられ、クインケを屋上から投げ捨てられていく。
「よっし、ひとまず厄介かもしれない人は大人しくなったかな?」
「レディ・ソーヤー、塔矢アキラが残ってますわよ?」
カオリ達は宇井へと視線を移す。だが宇井は既にかなりの傷を負っており、動ける状態には見えない。
「んー、ほっといていいんじゃない? まだ動けるかもしれないけど、あの状態ならペニーワイズでも倒せるだろうし。それよりも……」
カオリ目掛けて羽赫のクインケを撃っていた捜査官が、カオリの尾赫に絡め取られた。
「や、やめ……離ビョッ!?」
「そろそろお楽しみの時間にしよっか」
捜査官はバタバタと暴れ、尾赫の拘束から逃れようとするも、首に蔓が巻き付いた刹那、無理矢理首を引きちぎられた。
強引に捩じ切られた首からは血飛沫が舞い、赤い花をより赤く染めていく。カオリはバリボリと頭を噛み砕き、残った首から下を眺める。
首のない死体は筋肉の反射でガタガタと痙攣し、ズボンから汚物を滲ませていた。
「ふふっ……他の人達に味付けしよーっと」
カオリは首なし死体の足だけを尾赫で縛ると、ぶんぶんと振り回す。
振り回された首からは止めどなく血液が溢れており、それは雨のように捜査官達へ降り注ぐ。
「ちょっと出が悪いかなー!」
カオリはその捜査官を空中へと放り投げ、甲赫でバラバラに切り刻んだ。
血、臓物、汚物、骨。その捜査官を構成するあらゆるモノがバラまかれ、辺りに地獄のような光景を作り出す。
そんな光景に捜査官達は耐えきれず嘔吐する者、漏らす者、気絶する者などが現れるが、カオリはそんな者達に追い打ちをかけるかのように告げる……。
「ばっちぃ人や、気絶した人からご飯だよー?」
カオリの宣言通り、耐えきれなかった者が新たな材料となり、屋上を彩る。
カオリに、ロウに、リオに、小林に……脱落した捜査官は生きながらにして地獄を与えられ、そして殺されていく。
ロウは捜査官の男女を問わず『生命の源』を引きずり出し、それを咀嚼する。
リオは急降下して捜査官を浚うと、再び上空へ運び、屋上に向けて叩き落とす。何度も叩きつけて柔らかくなった肉を、空中でゆっくりと咀嚼する。
小林は生きたまま捜査官の腹を切り裂き、中身を潰し、捏ねて、楕円形の肉塊にした後、残った残骸にアブラガマを発射。燃える死体の炎で簡易的なハンバーグを作っていく。
両足を負傷しているためロクに動くことが出来ない捜査官達は、もはや目の前で繰り広げられる殺戮と叫喚の
幸いにしてモーガンや平子といった一部の捜査官は殺されずに気絶で留まっているが、殺されていないものには共通点がある。
─────優秀な者だ。
優秀な捜査官であればあるほど、カオリ達は殺さず、他の者を殺していく。それは気絶から復活した時に、絶望を見せつけるため。
カオリ達の目的は全滅ではない。ゆえに一部は残す必要がある。そして、その一部は優秀であればあるほど和修家へ脅威が伝わる。そう考えたカオリだからこそ、優秀な者達はあえて生かしているのだ。
そんな15区の喰種が奏でる蹂躙劇に、もはや捜査官達の心は折れていた。最初にこれといった攻撃したのはリオとカオリだけであり、ロウはその後の追撃のみ。小林に至っては全く攻撃していない。それにも拘らずこの有様。
ここからどう立て直すかなど、何も思い付かなかった。
だが……。
「みんな一旦中止、来たよ」
カオリは殺戮を中断し、ある一点を見据える。ロウ達がカオリの視線の先に目を向けると、とある捜査官達がやってきていた。
「本部、各部隊に散っていた第0隊は集結し、これより15区の喰種と戦闘に入ります」
そこに現れたのはこの流れを変えるかもしれない者。ついにCCG最強の男『有馬
「やっと……ですか……」
宇井はそう呟き、意識を手放す。
「やっほ、13年ぶりだね『青メガネ』……でも、お前はきっと覚えてないよね」
カオリは楽しそうに嗤う。かつて自身を撃ち抜いた者を前に……CCG最強の男を前に……15区最強の喰種は嗤っていた。
有馬は確かにメガネだが、青の要素はどこにもない。むしろ有馬のイメージは白だ。ならば、なぜカオリが有馬を青メガネと呼ぶのか……それは彼の髪の毛にある。
今でこそ有馬の髪の毛は真っ白だが、カオリが当時に出会った時、有馬の髪の毛は青かったのだ……。
「ペニーワイズは見学しててね。マイケルとフレディは援護を」
「全員、重傷者を優先しつつここから退避。俺一人でやる。クインケはそのままここに」
「んー、そっちは一人なの? 後悔しても知らないよー? マイケルとフレディは例の攻撃が来たら対処よろしくー」
互いが互いの仲間に指示を出し、最初に動いたのは有馬だ。
有馬はアタッシュケースから、二本の棒が付いたライフルのようなクインケこと羽赫の『ナルカミ』を取り出し、カオリに向けて引き金を引く。
「電気」
カオリがそう呟くと同時、ナルカミから電撃が
だが、カオリには傷一つ付かなかった。
「ざんねん! こうかは、いまひとつのようだ!」
カオリは床から無数の棘を生やし、さらにロウが槍を有馬目掛けて投擲する。
常人なら気付くことなく即死するであろう死の棘を、音を超え飛来する死棘の槍を、有馬はまるで未来でも見えているかと錯覚するような速度で躱していく。
「マジかよ……ナルカミが効いてねぇ……」
「でもレザーフェイス達の攻撃も当たってねぇ! 流石有馬さんだ!」
戦闘範囲から退避し、様子を見ていた捜査官達は、有馬の勝利を願った。
有馬が続いて取り出したのは、槍型のクインケこと甲赫の『
「無視。フレディは上空へ」
有馬はIXAをカオリに突き刺すが……IXAはカオリにふれた途端、音を立てて折れた。
「アハハハハハ!! それは13年前の!! 半赫者にすらなっていない時の!!
カオリは嗤いながら有馬へ向け、刃のように薄くした甲赫の鞭をいくつも振るう。カオリにとって近~中攻撃は甲赫の間合い。当たれば即死する凶刃が飛び交い、有馬はそれらを紙一重で避けつつも、甲赫の刃を掠めた皮膚はジリジリと切られていく……。
有馬達の通信機経由でカオリの声を聞いていた丸手は、悪い予感が的中したことを嘆いた。
「マジかよ……マジで嫌な予感があたっちまった。それも最悪の方向だ。やはり奴がIXAの素材だったのか……IXAはCCGの最高傑作クラスのクインケだ……それが無傷だと? いくら奴自身の赫子とはいえ、そんなこと有り得るのか? ……だが、頼んだぞ有馬。お前だけが頼りだ」
丸手は有馬の勝利を願った。
カオリは無数の甲赫を振るい、それと同時に床からいくつもの尾赫の棘が突き出す。その上に横方向からは槍が飛来し、上方向からは水晶の雨が降り注ぐ。
だがそれでもなお、有馬は人間離れした速度でカオリから離れていった。とはいえ無傷では済まなかった。掠めたいくつもの傷が出血を伴い、有馬の白い服を赤く染め始めている。
「すばしっこいなぁ……」
カオリは尾赫の先端に球体を次々に生やすと、有馬に向けてフワッと投げつける。
有馬は少し考え、次のアタッシュケースから取り出したクインケによって撃ち抜いていく。
そのクインケに撃ち抜かれた球体は、力なく破裂した。
それは、どこかのSF映画に出てくる光線銃のようなライフル型クインケこと羽赫の『サカモト』。13年前にカオリの右肩を丸ごと奪い去った武器だ。
「氷」
カオリが口にしたように、『サカモト』は冷気を帯びた弾丸をとばすクインケである。有馬のもつクインケの中で、カオリに有効な攻撃を与えることのできるクインケだが……。
「防がせて貰いますわよっ!」
ロウは槍を一閃し、氷の弾丸を叩き落とした。
「ありがと!」
カオリも尾赫から球体を次々に飛ばしていく。種のようなそれは有馬の近くで破裂し、中から無数の棘が飛び出すが……。
─────有馬は落ちていた半月状の盾型クインケを拾い、リオの水晶豪雨とカオリの種攻撃を曲芸のように防ぎ、受け流していく。
それと同時に、落ちていた巨大な剣型クインケ『
赤舌は、かつて法寺が討伐した『
弟のタタラは燃える尾赫を持つ。なら兄の甲赫もまた……。
─────炎の属性を持っている。
「っあづゥ……!?」
炎を纏う剣が、カオリの体を焼きながら突き抜けていった。
「ふ、ふふふっ……体が裂けてもすぐ治ふぎゃぁっ!?」
有馬の追撃は続く。有馬はロックバスターのような羽赫のクインケ『ホロウ』を拾い上げ、カオリに射出していた。
ホロウもまた法寺の持っていたクインケであり、そのクインケは着弾と同時に、
爆風によって抉れた体は即座に再生するが、何度も攻撃を受けるわけにはいかない。そう考えたカオリは体の花から『ドクター』を取り出すと、尾赫の一本に持たせた。
「あーもう!! すぐ治るけど本当に面倒くさいなぁ! もういいよ。バイバイ」
カオリは今までよりも遙かに巨大な
─────それは丁度、この屋上の広さとほぼ同じ。
「マイケルはこっちに。潰れろ青メガネ!」
カオリは屋上全てを多い尽くす葉を、そのまま屋上に向けて振り下ろす。
それはまさしく回避不可能の全体攻撃。だが、回避不可能なら、穴を作れば良い。
有馬は半月型の盾を投げ捨てると、右手にサカモト、左手にホロウを装備し……ホロウを降ってくる葉めがけて撃ち、自身もその爆発の中へ跳んだ。
爆発によって溶けた虫食いに入り込み、降ってくる葉を潜り抜けることに成功した有馬だが、無傷とはいかない。
ホロウの爆風は、人間にも効くのだから……!
爆風にあぶられ、降り注ぐ水晶の雨が体をかすめ、有馬は顔にこそ出さずとも、着実に疲弊していた。
「アハハハハハ!! まだまだ続くよー? もういっかーい」
次々と巨大な葉が叩きつけられ、屋上は少しずつ崩壊していく。
降り注ぐ水晶の雨と黒い壁の合間を縫い、有馬はカオリへホロウを放つものの、ホロウは『ドクター』によって難なく防がれる。
「それはもう効かな……ん、これは……!?」
─────だが、それと同時……有馬はカオリ達に向け、とあるモノを投げつけていた。
それは『CRcガス』……Rc細胞の活動を抑制させる煙幕だ。通常の喰種がこの煙を吸引した場合、赫子の使用が不可能になり、防御力も人間と変わらないレベルまで低下する。
しかし、これは半人間の有馬自身にも悪影響が出る諸刃の剣。しかも、相手が強大な喰種となればなるほど、CRcガスの効果は目減りする。
それでもなお、有馬にチャンスが訪れた……!
「くっ……赫者の維持が不安定にっ……!」
ロウは体内のRc細胞の活動を正常に戻すために、足を止めてしまう。
「ふふっ、私には効かなーい!」
そういうカオリもまた、少しだけ赫子の動きが遅くなっていたが、カオリはそれに気付かない。
─────そして、有馬はサカモトとホロウの引き金を引いた。
「……えっ?」
カオリが驚きの声を漏らす。カオリは確かに攻撃を『ドクター』で防御をしたつもりであった。
だが、それは普段の感覚とのズレ。尾赫は自身の感覚よりも遅く動き……。
─────カオリの体にいくつもの穴が空き、『ドクター』が持っていた尾赫ごと吹き飛ばされていた。
「ドクターがっ!!」
ドクターは屋上の外へと吹き飛び、地上へ落ちていく。それを回収するために尾赫を伸ばすが……。
「邪魔するな青メガネェ!!」
有馬はドクターへ伸びる尾赫をホロウで焼き払う。その間にいくつもの氷弾を撃ち込んでおり、ロウはそれらを防ぐので手一杯だ。リオは上空に居るため間に合うわけもなく、小林では何も対処できない。
カオリは落ちたドクターが下にいる捜査官に回収されたのを感知する。
「……撤退するよ!!」
即座に逃走を選択したカオリは『特殊な赫子』を
─────カオリ達が立っていたマンションそのものを破壊した。
カオリはマンションの一階まで尾赫を伸ばしており、その赫子で一階をまるごと削り取っていた。
一階を失ったマンションは轟音と共に崩壊を始め、周囲には濃霧よりも濃いチリが立ち込める。
有馬は咄嗟に別のマンションに飛び移るが、カオリ達を崩落の最中で見失ってしまう。
やがて煙が晴れた頃、カオリ達はどこにも居なかった。
──────────
「大量の出血と、頭部への強い衝撃により、脳に深刻なダメージを負っています。彼は……『植物状態』です。意識が戻ることはもう……」
篠原が入院している病院にて、ジューゾーと黒磐へ医師から篠原の現状を告げる。
「…………」
左腕を芳村に奪われた黒磐は悲しそうに、カオリに右足を奪われたジューゾーは表情の抜け落ちた顔で篠原を見つめていた。
「利き手じゃなくて良かったな、イワ」
その時、病室の入り口から右腕の無い男性が姿を見せた。
「
「元だよ。もう引退したジジイに特等なんてつけんでいい……はぁーあ……真戸といいコイツといい、上司不幸な奴らだよ……全く……まったく……馬鹿……野郎がよぉ……」
引退した上司は、かつての部下を思い、嗚咽を漏らす。
「…………」
ジューゾーは、それを静かに見ていた。
──────────
「嘘だァ!! 亜門鋼太朗が死ぬものか!! ちゃんと確認したのか!!」
亜門を密かに慕う筋肉質な女捜査官『
「ああ、
「ならちゃんと確認を……」
「あの場にいたのは『レザーフェイス』だぞ!! 奴は人間を丸呑みにする!! 確認したさ! ガレキを退けてシッカリとな!! でも居なったんだよ!! どこにも!! つまり
「やめろォ! デタラメだ!!」
その時、ミサトの肩を叩くものが現れる。
「ミサトくん、落ち着いて」
「ミサト、戦いであれば当然死者も出る。局の中で取り乱すな」
ミサトが振り向くと、そこには法寺准特等と真戸アキラ二等捜査官が立っていた。
「法寺准特等……真戸……」
ミサトは大きな音が出るほど歯を食いしばった。
「真戸ッ!! 貴様なぜそう冷静で居られるんだ!! わた……私はっ……! 憧れていたんだ、亜門鋼太朗に……憧れていたっ!! 取り乱して何が悪い!! お前は悲しくないのか!? 滝澤二等だって、お前の……アカデミーの級友だろうが!」
亜門だけでなく、滝澤もまた行方不明となっていた。ミサトの叫びに、滝澤の上司であった法寺の顔が歪む。
「真戸ッ! お前は級友とパートナーである上司を失ったんだぞ!! 仲間が二人も……もっとお前は……!」
「ミサト」
涙を流して叫ぶミサトに、アキラがそっと声を掛ける。
「勘弁してくれないか……」
ミサトが見たアキラの顔もまた、とめどない涙で溢れていた。
「真戸……」
「好きだったよ……滝澤も、亜門上等も……そして……」
アキラは持っていたアタッシュケースを開く。そこにはレザーフェイスが『ドクター』と呼んでいたクインケがあった。
「……これは父のクインケだ……有馬特等がレザーフェイスから取り返してくださったが……私は……そんなことよりも……皆に生きてほしかった……っ!! 父も、上司も……友人もっ……!! みんな……みんな……っ!! 奴に……殺され……っ!!!」
「……ナルカミもIXAも効かないレザーフェイスでしたが……私の『
泣き崩れるアキラ、静かに頭を下げながら泣く法寺。三人の涙は流れ続ける。
しかし、この光景は今のCCGにおいて珍しいものではない。それほどに20区の戦いでは、死傷者・行方不明者の数が多かったのだ。
──────────
「数が合わない? それはレザーフェイスの仕業ではなくてですか?」
おかっぱ頭の捜査官『宇井』は、特徴の無いのが特徴の捜査官『平子』に疑問を投げかけた。
「あぁ、行方の知れない局員の数が多すぎる。だが妙なんだ……行方不明になった局員……例えばこの『亜門鋼太朗』という男、この男の配置場所はここだ」
平子は地図を開くと、とある地点を指差す。
「確かに……レザーフェイスの出現地点、交戦地点、そしてそこから15区へつながる経路……どのポイントにも合致しませんね……」
「あぁ、有馬さんが15区に飛んでいくフレディを見ている。だから他の連中もまっすぐ15区に戻っていると考えているが」
宇井はふと、嫌な想像をした。
「……寄り道するほど元気だったんですかね?」
「さぁな、でももし有馬さんと戦ってなお寄り道するほど元気だったとしたら……そりゃもう最悪だな。それよりも別働隊……隻眼の梟が現れたことを考えると、アオギリの別働隊が連れ去ったんじゃないかって上は考えているらしい……」
宇井の知らない情報を平子が知っていることに、宇井は眉を寄せる。
「……なんで上等のあなたがそんな事知ってるんですか?」
「有馬さんが教えてくれた」
「それ教えてもらってないんだけど……」
平子は宇井の視線から逃れるため、話題をそらすことにした。
「…………状況だけ考えれば『眼帯』さえ来なければ『20区の梟』を討伐できていたかもな」
「せっかく法寺さんが仕留めた20区の梟は、『隻眼の梟』に持っていかれましたからね……今回の作戦……勝者は15区連中なんですかねぇ……ところで、15区の喰種はヤケに和修家を敵視していましたが……なにをやったんでしょうね? CCGではなく『
宇井の疑問に、平子は肩をすくめる。
「さぁな。俺は役目通り戦うだけだ。その先の全ては上の判断に任せるよ」
「……それ、思考放棄ですよ?」
──────────
「喰種捜査官であれば、一般人の素体よりも丈夫だろうね。しかもこんなにたくさん」
どこかにある地下研究所の中で、嘉納はしみじみと呟いた。
「ここにいれば、いくらでも実験体を持ってきてやる」
「助かるよ、今までは実験材料の入手に困っていたからね」
アオギリは20区でエトが大暴れしている隙に、捜査官達を攫う計画を立てていた。計画と違いエトは大暴れする前に敗走こそしたが、代わりに15区の喰種達が大暴れしたおかげで計画は無事完遂。大量の実験体というなの捜査官達を確保することができた。
「……だからちゃんと結果を出せ。失敗作ばかりでは俺達の食料にしかならん」
「ハハハ、やるだけやってみるよ」
タタラは嘉納が失敗作ばかりを作ることに不満を告げるが、嘉納はどこ吹く風だ。
「でも大丈夫、今度は失敗作でも強いはずだよ……っづ……」
保存液の中に浸かる芳村を愛おしそう眺めながらエトは笑うものの、包帯からは血が滲んでいる。
「大丈夫か、エト?」
「うん、とりあえず治ってきてるよ。はぁ、元々は『隻眼の王』と茶番をする予定だったのにね……レザーフェイス達にぶち壊されたよ……リオくんも何故か裏切ってくれなかったし……」
エトは痛みと屈辱で忌々しそうに顔を歪める。
「……王は?」
「負傷中、でも命に別状は無いよ。ちょっと寿命が縮んだくらいじゃない?」
──────────
「いやー、本当に助かりましたよ! おかけで
「オニツネ漏らしたとか赫子生える。レザーフェイスさんぐっじょ! ……で、カネキ様は結局どうなっちゃったん?」
後日、14区にある『Helter Skelter』にて、ロマがカオリに聞く。
「知らなーい。でも、青メガネが持ってた
ブギーマンの恰好をしたカオリは、ロマに聞き返した。
「面倒になって行くの辞めたっす。ぶっちゃけ『あんていく』はカネキ様調べるために入ったようなもんだし、別に思い入れないってゆーか? つーか、カネキ様ってば店長助けに行って犬死にしちゃったんですか? うっはマジかぁ、ダサすぎて赫子生える」
ロマはケラケラと笑いながら血酒を呷る。
「えー……あんていくには僕がいたじゃないですか」
リオがじっとりとロマを見る。
「そりゃリオっちとのウェイトレスは楽しかったけどさー。でもリオっちは『
ロマとリオが語らう横で、ロウはニムラへ訝しげな目を向けていた。
「それにしても旧多二等、まさかアナタが『PG』だったとはねぇ……美味しそうなニオイがするから、いつも身嗜みに気を使ってると思ってましたわよ? アタクシ達相手にスパイ活動なんてしようものなら、いつでも首を刎ねて差し上げますわ」
社交界用の仮面をつけたロウは、血酒を飲みながらニムラと語らう。
「いやー、すみませんねぇレディ・ロウ。でもレディもお人が悪い、まさか気付いていらっしゃったなんて。確かにレストランへはスパイとして潜入してたましたけど、ここが本命ですのでご安心を。それに、今は同盟です同盟。仲良くしましょ?」
ニムラはこの場で唯一人、ポテトチップスをバリボリと頬張っていた。
「ハァイ、調子良い? 俺は踊る道化師ペニーワイズ」
「……親父、アホなのか?」
道化師の恰好をした小林は、同じく道化師の恰好をしたガンボに呆れられていた。
「……すまん。あったのが久々すぎて何話していいか分からん。それにしてもお前……こんなに太ってる割に、大して強くなってないな?」
「そういう親父は……ごめん、昔より引き締まってるし強くなってるな……」
ガンボは記憶にある父親と今の父親の姿を比較する。体は昔よりも引き締まっているし、何より記憶の時よりも少し若返っている。
「ほっほっほ、そりゃ周りはとびきりの赫者しかおらんしな。俺はただの運転手兼料理人でしかないが、それでも日々、せめて足元に追いつこうと頑張ってるさ」
「……なぁ親父、俺も15区の主にお願いしたら、強くなれるかな?」
小林は首を横に振る。
「……やめといたほうがいいぞ? お前、俺と違って食事にこだわり無いだろ? 15区は最高の料理を作れる環境がある。だが、体を切り刻まれるような共食いの痛みに耐えられる自信はあるか?」
「ごめんやっぱやめ……」
「良いよっ! ガンボだっけー? じゃあ次の共食い遠征の時に連れて行くねー」
「え、あの……おれ」
「良かったな、
「あ、ちなみに、有馬さんのとこに『
「さっき
ニコはニムラに向けて妖しくウインクし、ニムラの臀部へそっと手を当てる。
「ギェーッ!! 違いまっせニコ姐貴兄貴!? 『さ・さ・き・ハ・イ・セ』です。あ、でも漢字で書くと琲世と排泄って読み間違えますね。うぇっ、佐々木くんはバッチィなぁ! っとそうじゃなくて、なんとこの佐々木くん、元カネキくんでぇーす! 敵対の姿勢を見せた人工喰種は本来は殺処分なんですけど、なんでか有馬さんが殺処分を撤回させたらしいんですよねぇ。なので当初の人工喰種被害者救済案に従って、クインクスに配属予定です。ちなみに、佐々木くんが偽名な理由は、15区の喰種に狙われないようにするためっぽいですよ? どこぞの喰種が『美味しいご飯』とか言うから……ま、ここでバラしちゃったんで……もう偽名の意味、無いんですけどねっ!」
ニムラはドヤ顔で内部情報を漏らした。
「で、出たー! 宗ちゃんの華麗なる情報リーク! 名前変えたのに即バレとかカネキ様可哀想過ぎて赫子生える!」
「ほーん、カネキチ生きてんのはわかったけど、何、ハトに回ったの? それってウチらもやばくね? カネキチに店の場所知られてんじゃん」
「チッチッチ、それはノープロです。この佐々木くん、なんと有馬さんに脳味噌弄られて記憶なくなってまーす」
どこかで聞いたことがある手法に、ロマはカオリへと振り向く。
「……マジで!? まさか有馬貴将の正体はレザーフェイスさん!? どうりで強いわけだアイツ」
「えっ、青メガネって赫子使えたの!?」
カオリは自分と同じような赫子を生やし、カネキの耳へねじ込む有馬の姿を想像する。
「なんでやねーん。そうじゃなくて、カネキくんの脳味噌を破壊して記憶を消去したって感じです。有馬さんがやったのはパソコンでいうファイルの削除で、貴女の場合は上書き保存って感じなので、同じようなことはできませんね」
「そっかぁ……」
ニムラの説明に、カオリは残念そうに肩をすくめた。
「ほぇー、でもカネキ様生きてて良かったー。だって……もっともっと落ち込むトコが見たいんだもの」
ロマが、愉しそうに笑う。
「……そうだね。今時『悲劇』なんて流行らないよ。だから……もっと楽しいこと、しよ?」
今までずっと食事に専念していたウタが、愉しそうに笑う。
「そうそう、『面白くなくちゃ生きてる意味なし』!」
ニムラは組織のスローガンを掲げ、愉しそうに笑う。
「面白くってヒゲ生えちゃう!」
「面白くって赫子生えちゃう!」
ニコとイトリはハイタッチを交わし、愉しそうに笑う。
「最後に笑うのは……『
「そして、『
Helter Skelterにいる全員が、愉しそうに笑っていた。
安 定 の 即 逃 走
ちょっとでも不利になるとすぐ逃げる系ラスボス。
ちなみにですが、名無しの人達はたくさん死傷したけど、名前付きのキャラは車谷さん以外死んでませんよ!
……車谷さん?あの人は原作でももう出てこないですし、原作でも20区戦で死んでたって解釈して良いんじゃないですか?
原作生存キャラが死ぬのはもう暫く後の話です。
Q.なんでカオリの範囲攻撃で屋上消えてなくならないの?
A.床へぶつかる瞬間に威力を弱めてるんです。
Q.あとがきで出てきたモンハン風アイテム説明。戦喰種って結局どういう意味なの?
A.IXAの喰種。だから花喰種ではなく
■独自解釈クインケ
・IXA-イグザ-
独自解釈要素:原材料
独自解釈と言うよりも捏造設定というべきでしょうか。
植物っぽい見た目の盾、有馬さんが長年愛用するほどの有用性。
そんなクインケの原材料なら、こんな喰種だったのかなぁという独自解釈でした。
・赤舌-チーシャ-
独自解釈要素:炎属性の追加
38話でカオリを焼き払った『タタラ』。その兄から作られているクインケなら、当然炎属性はあるでしょ?という理由から炎属性が追加されています。原材料の名前も『
・ホロウ
独自解釈要素:炎属性の追加
アニメ版の描写的に、多分炎っぽい?と感じたため炎属性を追加。
それに法寺さんの中の人は、炎属性魔術師トッキーの人なので、やっぱり武装は炎系統が良く似合う。
・落ちていた半月状の盾型クインケ
実は原作に名前だけ登場していたとあるクインケ。詳細はreのオークション編までお待ち下さい。
■オリジナルクインケ
・サカモト
有馬さんの武器が『ナルカミ』。つまり『鳴上』(ペルソナ4の主人公。中の人つながり)なら、オリジナルのクインケは有馬さんと見た目や雰囲気が似ているキャラ(いわゆる外の人つながり)の名前にしよう。ということで『サカモト』(坂本ですが?の主人公)に。
なおサカモトの原材料になった喰種は、ベヨネッタみたいな動きをする子でも、坂本という苗字でもありません。詳細は次話にて。
■みんなの戦果
・アオギリ:エトが一時的な負傷こそしたが、芳村と大量の実験材料を確保できた。宇井の言う20区戦の勝者は間違いなくアオギリ。
・15区:15区の恐怖をたっぷりと見せつけることができた。ただしドクターを有馬に取られてしまった。
・CCG:芳村以外の喰種駆逐完了(本部発表)。カネキを確保。ただし多くの死傷者が出てしまった。15区の喰種にトラウマを覚えた者も多い。
・あんていく:芳村と店を失う。20区の拠り所にして守護神消滅。これからは20区でも行方不明者が出始める。もはや20区も他の区同様に、喰種が安心して暮らせる場所は無い。
■次回の投稿について。
これにて無印編&JAIL編は終了です。ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
次回からre……ではなく、開始前の幕間編です。
幕間には、クインケ『サカモト』の原材料、新しい仲間、花マンと花ウーマン、共食いツアー、15区に配属される謎の新人女捜査官二人組、カオリの元から離れたロウが『ランサー』と呼ばれるに至った経緯……そしてR18版などの話を投稿予定です。
しかし……誠に恐れ入りますが、次の投稿はまた遅れます。
投稿再開まで今暫くお待ち下さい。
半年以内には再開予定です!