花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第2話 フラワーショップ西荻窪最後の日

 15区にある『フラワーショップ西荻窪』にて、店長とカオリが談笑していた。

 

「20区の高層マンション、喰種に壊されたらしいわよ? その余波で周囲の建物もメチャクチャ……怖いわよねぇ……」

「地図でみた感じだと、あんていくさんも無くなっちゃってるみたいですねー」

 

 カオリは残念そうに首を振るが、カオリこそがマンション破壊を実行した張本人である。

 

「喰種って吸血鬼とかゾンビの類だと思ってたんだけど、爆弾使うのかしら?」

 

 喰種の生態系がイマイチ分からない店長は首を傾げた。

 

「どうなんでしょうか? でも、今の時代はパソコンで作り方見つかるらしいですからねー」

 

 ちなみにカオリはその手のホームページを知っているが、作成中に爆発するリスクを考え実行には至っていない。むしろ金とツテのあるカオリにとって、買った方が早いし安全だ。

 

「喰種ってパソコンするのかしら?」

「いにしえの古城に住んでるようなら持ってないでしょうけど、家に住んでるならあるんじゃないですか?」

「それ吸血鬼でしょ。というか喰種って下水道とかに住んでるんじゃないの?」

「臭そうですねー……というか店長、それゾンビじゃないですかー? ……でもまぁ、下水道に住んでるならニオイで分かりそうですねー」

 

 カオリはからからと笑うが、店長の顔は、どこか暗い。

 

「そうよねぇ……分かるハズよねぇ……人と何か決定的に違う何かが……」

「…………」

 

 考え込む店長を、カオリは冷たい目で見ていたが……。

 

「ねぇ、カオリちゃん」

「どうしたんですかー?」

 

 店長が顔を上げた時、カオリはいつも通りの表情に戻っていた。

 

「……20区の知り合いから聞いたんだけど、あんていくの芳村さん、喰種だったみたいよ? カオリちゃん知ってた?」

「そうなんですか? 知りませんよー。というか芳村さんって喰種だったんですか? 血のニオイも下水道のニオイもしなかったですよー?」

「……カオリちゃん、芳村さんとの契約を持ってきたのは貴女よ? 何か隠してない?」

 

 店長はカオリを鋭く見つめた。

 

「えー……もしかして喰種に通じてると思ってます……? 喰種対策法で死刑になるやつじゃないですか。そんな危ないことしませんよー? というか、死刑の危険犯してまで花売りに行くってただの頭おかしい人じゃないですかー。しかも私って経営者じゃなくてバイトですよ? 利点無いですよねー……そんなことするくらいなら空き巣でもしたほうがよくないですかー?」

 

 不機嫌そうに肩をすくめるカオリに、店長は顔を緩めた。

 

「そう……そうよねぇ……考え過ぎだったわね。そもそもカオリちゃん、私と一緒にご飯食べ行ったことあったもんね……」

「……んっ? 店長もしかして、内通者どころか喰種だと思ってたんですかー!? もー、私だって怒りますよっ! がおー、たーべちゃうぞー!」

 

 カオリは店長の脇腹をくすぐった。

 

「きゃぁっ、ごめんごめんカオリちゃん! あはははは! もうくすぐらないでー!」

 

 くすぐられながらも、店長はカオリを観察する。だが牙も無く、人間にしかみえない。

 

 あんていくの繋がりゆえにカオリを疑ったが、カオリは喰種ではなく、単なる偶然だったのだろうと店長は感じていた。

 

 

─────この日の夜までは。

 

 

「いただきまーす」

 

 店長は夫と、そして小学生の一人息子と共に夕食をとる。家族団欒の時間だ。

 自慢の夫、自慢の息子、順風満帆な花屋の仕事。店長はこの幸せが、いつまでも続くと思っていた。

 

 

 

 ふと、店長は細長いナニカがキッチンの床を這う姿に気付く。

 

「やだ、虫か何かがいるのかし……」

 

─────その瞬間、店長は後頭部に衝撃を受け、意識を失った……。

 

──────────

 

 店長が目を覚ますと、店長はどこかの大部屋の中にいた。

 

「……どこよ、ここ……っあ、あなた!!」

 

 店長の目の前で、店長の夫が椅子に縛り付けられている。

 

「うっ、動けないっ!?」

 

 夫を助けようとした店長だが、店長もまた椅子に縛り付けられており、ジタバタともがくだけに終わる。

 

─────その時、突如大広間の扉が開き、奥から道化師の恰好をした男が現れる。

 

「ハァイ、調子良い?」

「だ、誰よアンタ!!」

「俺は踊る道化師ペニーワイズ。『IT(イット)』って映画、見たことあるかい?」

「み、見てないけど……」

 

 その言葉に、ペニーワイズは残念そうな顔をする。

 

「おーぅ……面白いのに。貸してあげようか……っと言いたいところだが、今日の主役は俺じゃないからな。オススメは無しだ」

 

 ペニーワイズは鉄でできた椅子を部屋に幾つも運びこんでいくと、床の金具に取り付け、椅子達を固定した。

 

「アンタ!! 私達をどうする気よ!! ウチの子はどこ!?」

 

 一緒に食事をしていたハズの息子がいない。その事実は店長の焦燥感を突き上げていく。

 

「ああ、お前さん達の子供には後で会わせてやる。それと、お前達をどうするかは知らん。さっきも言っただろ? 俺は今日の主役じゃないんだ。後で黄色いエプロンの女が来るから、そん時に聞いてくれ。黄色いエプロンの女が今日の主役、そしてお前等を攫った張本人だ。それと、あんまりギャーギャー騒がないでくれるかい?」

 

 そういうとペニーワイズは、アタッシュケースから(いか)ついスレッジハンマーのようなモノを取り出した。

 

「あまり騒ぐようなら、これで子供を挽き肉にしなきゃならん。あ、こっちの旦那にするか」

 

 ペニーワイズは気絶している店長の夫目掛け、スレッジハンマーを振りかぶる。

 

「やめてぇ!? わ、分かったわよ……だからこの人やあの子に酷い事しないで……」

「ならいい」

 

 ペニーワイズは設置した椅子に、次々と人を設置していく。設置されていく人々は顔に布袋を被せられており、何者なのか店長には分からなかった。

 

 

「よし、これで全員だ」

 

 ペニーワイズは布袋を外していく。するとそこには……。

 

「ど、どうして……殆ど私の店の……」

 

 一部は店長の知らない人物だったが、大半はフラワーショップ西荻窪で働いていた従業員達だった。

 

Exactly(その通りでございます)! ここにいるのはフラワーショップ西荻窪の従業員と、その家族などの関係者だ」

 

 だが、一人足りない。

 

「カオリちゃんが居ない……ううん、カオリちゃん()()が居ない……まさか……!!」

 

 店長の背中に、冷たい汗が流れた。

 

 

「はーい、ご名答! 流石店長さんですねー!」

 

 その時、扉の向こうからカオリがやってきた。

 

「黄色いエプロン……やっぱりカオリちゃんが私達を攫った犯人……! 一体何が目的なのっ……!?」

「その前にペニーワイズ、みんなを起こして」

「ほっほっほ、分かりました」

 

 小林は小さな水鉄砲を手に、気絶している人々に水をかけていく……水を掛けられたことで目を覚ました従業員たちは、状況が理解できずに喚き散らしている。

 

「すみません店長。私、今日でお店を辞めます。なので……皆さんを食事に招待しようと思ったんですよー!」

 

 カオリはいつもと同じように微笑むが、それがかえって不気味さを放っていた。

 

「なんで? ……なんで?」

「ふ、ふざけないで! 解いてよ如月さん!!」

「警察に通報するからね!」

「ねぇ! 私のカレが一緒に居たはずなんだけど、カレはどこ!?」

「私達が何をしたのよ! 辞めるなら勝手に辞めれば良いじゃない!!」

 

 口々に文句を言う人々を無視し、カオリは食べ物の乗ったワゴンを持ってきた。

 

「はいはーい。みんな騒がないで欲しいよー? 大丈夫! ご飯を作ったから皆にご馳走するだけだよー! ちょっぴりパワハラでごめんね? みんなご飯を食べる前に連れてきたから、お腹すいてるよねー!」

 

 カオリは食器が固定されたトレーを、一つずつ椅子に装着していく。トレーには銀色のフタが付いており、中身を見ることはできない。

 

「よしできたー。怒ってる人もいるし、泣いてる人もいるから、それでせっかく作ったご飯を台無しにされてもこまるからねー。ひっくり返されないように固定したよっ! それじゃ、片手を外してあげる! 左利きの人は教えてねー?」

 

 カオリは連れてきた人の片手を解放していく。

 

「みんな食べ終わったら解放してあげるよー。そうそう、毒は入ってないから安心してね!」

 

 カオリはフタを取っていく。

 

「……あれ? 普通……」

 

 トレーにはパン、ストロー付きのお茶、サラダ、そして()()()()()()()()()()()()()()が入っていた。

 

「もー、別に毒やゲテモノを食べさせる気はないよー!」

 

 食事から漂うニオイは、間違いなくご馳走といえるモノであった。

 

「それじゃ、早速食べよっか! ちなみに、食べないと飢え死にするまで放置するからね? もしくは……」

 

 カオリが手で合図を送ると、ペニーワイズはスレッジハンマーを掲げる。

 

「ペニーワイズが皆の頭を粉々にするよ? ペニーワイズは踊る道化師だけど、いわゆるホラー映画のピエロだから、割と危ないよー。例えばこんな感じに」

 

 カオリの合図と共にペニーワイズがスレッジハンマーを振り下ろすと、さっきまで食事を運んでいたワゴンが飴細工のようにひしゃげた。

 

「やだぁ……っ!!」

「ひぃっ……」

「い、イカれてやがる……」

「ねぇ、私のカレは!?」

「はいはい、ちゃんと会えるよー。だからまずは食べ終わってからね。ちなみに、全員が食べないと解放しないから、みんなの事を思うならちゃんと食べてね? ちなみに、ここに居ない人にはこの後で食べさせるから、皆が食べ終わらないと飢え死にするよー?」

 

 それは明らかな脅迫。彼らは恐る恐る食事を口にしたが……。

 

「美味いな……」

「もー、店長さんの旦那さんってば! 腐ったモノなんて食べさせませんよー!」

 

 その食事は美味しかった。

 

「そういえばカオリちゃん、自炊してるのよね……こんな馬鹿なことしなくても、私達は誘ってくれたらちゃんと来たのに……ところで、これはなんのお肉かしら? 牛とも豚とも違うわね……」

「ひつじですよー」

 

 知っている動物の肉だったため、店長達はひとまず安心して食事を進めていく。

 

 

 そして、全員が食事を終えた。

 

 

「んー! みんな良く食べましたー!」

「食べたぞ。早く俺たちを解放してくれ」

「そのまえにー、今回のお肉はどうだった? 美味しかった? 自信作なんだよ! 私と……()()()()()()()

 

 カオリの言葉に、どこか引っかかるモノがある。

 

「ねぇ……本当に羊の肉……だったのよね?」

「んー? ただの肉だよ? 私にとってはただの肉。でも、みんなにとっては特別な肉だよ?」

 

 カオリはニヤリと笑う。その邪悪な笑みは紛れもなく……。

 

「手塩にかけて育てた肉、もしくは沢山愛情を注いだ肉だよ? 人によっては、沢山愛情を注いで貰ったかもしれないね」

 

─────殺人鬼の顔だった。

 

「どんな味だった? 特別な味がしたよね? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その味は最愛のヒトの味。羨ましいなー、私にはもう味わう事のできない味だよ。私のお父さんは昔に食べちゃったから……ね?」

 

 

 

 その味と共に、彼らはその者達との思い出が、まるで走馬燈のように駆け巡り……。

 

「うぉ゛ぇぇ゛え゛エ゛エ゛ッ!!!」

 

 彼らは例外なく吐瀉物を吹き出した。

 

 

「あっははは!! みんな汚いなー! でも、ここはそういうために作った場所的だから、シャワー完備だよ!」

 

 カオリは壁についたハンドルをひねると、天井から温かいシャワーが降り注ぐ。シャワーのお湯は床に落ちた吐瀉物を巻き込み、排水溝へと消えていく。

 

「それでは、この場にいなかった皆とご対面だよー! ペニーワイズ」

 

 ペニーワイズは扉の奥から大きな箱を持ってくる。そこには布がかけられており、中身を見ることはできない。だが、彼らは中身を予想できてしまう。

 

「ほいっとなー」

 

 布を取ると透明な箱があった……。

 

 

─────ギッシリと生首が入っている、赤く染まった透明な箱が。

 

 

 彼らは音も無く吐瀉物を吹き出す。胃の中身を全て吐き出し終わると、次は涙と悲鳴、そして排泄物を垂れ流しはじめた。

 

「酷い……酷いよ……私達が何か悪いことをしたの!? 如月さんに何か恨まれるようなことしてないよねぇ!!」

 

 カオリの同僚だった女が、カオリに向かって怨嗟の叫びを放つが、カオリは首を横に振る。

 

「ううん。皆のこと、恨んだり憎んだりしてないよ? それに、みんな悪いことなんてしてないよ?」

「だったらなん─────」

「これは()()()()()()だよ? 皆が悪いことをしたから罰を受けてるんじゃなくて、()()()()()()()()()()()ご褒美を貰ってるんだよ?」

 

 カオリは自分の目に手を当て、離す。そこには赤と黒の目……『赫眼(かくがん)』に変わっていた。

 

「な……何よその目……」

 

 続いてカオリは、肩の辺りから葉っぱのような赫子を生やした。

 

「嘘……まさか……喰種……」

「如月ちゃんが……?」

「カオリちゃんが喰種……?」

「どうして!! 15区に喰種は居ないんじゃなかったの!?」

 

 口々に叫ぶ彼等の姿に、カオリは愉しそうに笑いかけた。

 

「ふふふっ……15区に喰種が居ないんじゃなくて、15区に居た喰種はみーんな私が殺して、食べちゃったんだよ? そして、これからみんなもご飯になるんだよ?」

 

 カオリの赫子が、ゆっくりと彼等に迫っていく。

 

 

 放心する者、ひたすら叫ぶ者、命乞いをする者、諦めただ自らの死を受けいれる者、カオリに有らん限りの罵倒を浴びせる者。それら全てが……。

 

「いただきます」

 

 この日、命を終えた。

 

 

 

 

──────────

 

 CCGは『あんていくに花を卸していた15区の店』を突き止めた。

 

 捜査官の一人は、開いている『フラワーショップ西荻窪』に足を踏み入れる。

 

「すみませーん、CCGの者ですが!」

 

 しかし、返事はない。

 

「すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!!」

「兄ちゃん、そこの花屋は今朝から誰もおらんぞ」

 

 叫ぶ捜査官の背中に、老人が声をかけた。

 

「失礼、貴男は?」

「ワシゃほれ、あのマンションに住んでるただの爺よ。ワシゃ日課で毎朝散歩しとったんだがな、普段は開いてない時間に店が開いとったんよ。不思議に思って中を覗いたんだがな、だーれもおらん。そんでの、普段やってる時間になってもだーれもおらん。刑事さん、こりゃ事件かのぉ?」

 

 心配そうに語る老人に、捜査官は正直に話す。

 

「わかりません、これから調査します。それと、私は警察ではなくCCG……喰種対策局の者です」

「あー、シーシージー? 吸血鬼狩ってるとこの?」

「吸血鬼……正式には喰種(グール)ですけど、まぁその認識で合ってますね……」

 

 捜査官は本部に連絡し、フラワーショップ西荻窪の調査を行った。

 

 金目のモノだけでなく従業員の情報も無くなっていたが、CCGはその権力を利用し、ここの経営者が誰に毎月給料を支払っているかを調べ、従業員を割り出した。

 

 しかし、結論から言うと、何も見つからなかった。経営者の家も、従業員の家も、誰もいない。金目のモノも軒並み無くなっていた。

 

 そして、CCGは最後の従業員の家に行く。そこは()()()()()()()()()()であった。

 

「ごめんくださーい」

 

 捜査官はノックをするが、返事はない。

 

()()()()()! いませんかー?」

 

 やはり返事はない。捜査官は玄関のノブを捻ると……。

 

「やはり開いてる……」

 

 ()()()()()()()()()、玄関の鍵は開きっぱなしだった。

 

 

「ここだけ何者かが侵入した痕跡があるな……」

 

 捜査官は警察の応援を呼び、調査を行う。

 

 

 後日、警察より如月カオリという人物が住んでいたアパートの顛末(てんまつ)が分かったが、それはCCGが望んでいた答えではなかった。

 

「クソっ、ただの空き巣かよ!! しかも犯人、あの時俺と話した爺さんじゃねぇか!! でもまぁ、不謹慎だが良かったというべきか……俺じゃレザーフェイスには勝てそうもねぇしな……」

 

 捜査官は落胆と安堵の入り混じった溜め息を吐きながら、報告書を作成していった。

 




 花 屋 で は な く な っ た 喰 種 
花屋要素消えたァ! 無職喰種やんけ!

芥子「死体すら無かったそうです」
局長「……知ってた。高円寺の時と同じだよなぁ」
芥子「次はどうしますか?」
局長「共通点は15区の花屋……とりあえず杉並全域の花屋を調べてくれ」

Q.従業員達誘拐されてんのに、すんなりカオリの指示に従って飯食うのおかしくない?
A.所謂友人補正。見ず知らずの人に誘拐されるならまだしも、犠牲者達にとってカオリは可愛くてちょっとお馬鹿な同僚だった存在ですし。


次回から過去編が続きます!
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