花屋喰種   作:みぞれアイス

6 / 117
第6話 Helter Skelter

 カオリが捜査官を殺害した後日、カオリは20区へ置きっぱなしだった125ccスクーターを取りに来た。幸い盗まれては居なかったものの、シートがズタズタに切り裂かれていた。

 

「うっ……座席が切られてる……交換しなきゃなぁ……」

 

 どんよりした気分でエンジンを掛けると、スクーターから爆音が鳴り響いた。

 

(うるさ)っ!? 何なの……あ、筒が盗まれてる……」

 

 シートに悪戯されただけでなく、マフラーが盗まれていた。

 

「あーもう!! 別に部品は大した金額じゃ無いけどイラっとくるなぁー! でも誰がやったか分かんないし……こんな時はご飯で気分を紛らわせようっ!」

 

 爆音と共に、カオリはスクーターを買った店へと向かう。バイク屋の従業員にパーツを取り付けて貰うと、カオリは14区へスクーターを走らせた。

 

 

 14区。共食いが流行する危険な場所である。喰種(グール)達は喰種を食べようと、喰種のニオイのする場所に集まってくる。

 普通の喰種なら避けて通りたくなるような地域だが、ここはカオリにとって、ご飯が自分から歩いてくるレストランのような場所でしかない。

 

 今日のカオリは赤と黒のストライプセーターにジーパン、そしてソフト帽を被っている。マスクはまるで火事で顔の皮膚を全て失ったような大火傷風マスク。

 映画『エルム街の悪夢』にでてくる『フレディ・クルーガー』の衣装である。

 

 そのモチーフ通り、今日の14区はまさしく悪夢に包まれた。

 カオリは最初の喰種を捕まえると、わざと血のニオイを撒く。そのニオイが漂うは、人通りのない路地裏。

 

 この日、ニオイに釣られて人通りのない路地裏へ来てしまった喰種達は、次々と姿を消すことになった。

 

(うーん……『あーちゃん』戻ってきてないなぁー。でもあの子、どこに行ったんだろう? 羽赫(うかく)の長所を自分から殺しちゃう様な子だけど、他のひとたちよりは使えたんだけどなー……)

 

 1年前にフラっと14区に現れ、そしていつの間にか居なくなっていた『あーちゃん』の事を考えながら、カオリは次々と喰種を捕食していった。

 

 

 数十体もの喰種(ごはん)を食べて、すっかりお腹がいっぱいになったカオリは、14区行きつけの酒場『ヘルスケ』に行くことにした。

 英語の苦手なカオリはこの店を『居酒屋・ヘルスケ』と呼ぶが、正しくは『Helter(ヘルター) Skelter(スケルター)』という名前の、居酒屋ではなく()()である。

 

「いらっしゃーい。そろそろ来ると思ってたよ! いつものでいい?」

 

 『Helter Skelter』のドアをあけると、バーの女マスターである『イトリ』と、カオリの知っている3人がいた。

 

「あらー? イトリさんだけじゃなくて、四方さんもウタさんも金木さんもいるんですねー? はーい、いつものでおねがいしまーす」

「レザーフェイス、この前はトーカ達が世話になった。今日はオレが奢ろう」

 

 どうやら四方がカオリの飲み代を出してくれるそうだ。

 

「この前ウタさんのお店であったときと見た目が違いますけど……レザーフェイスさんなんですよね? ……この前はヒナミちゃん達を助けてくれてありがとうございました! ……ところでイトリさん、なんでこの人がもうすぐ来るって分かったんですか?」

 

 カネキの質問に、イトリは待ってましたと言わんばかりに推測を述べる。

 

「うんにゃ、あたしんトコに今日は14区で喰種達が次々行方不明になってるって情報が入っててね。ただ殺されただけなら、捜査官(ハト)や『共食い(いつもの)』だと思うんだけど、行方不明の場合は……夜逃げしたか、()()()()()()()()()()()()()()のどちらかなんだよね。んで、もし後者だったなら、そろそろウチにデザートしに来るかなぁって」

 

「ぜ、全部食べるんですか……その……喰種って美味しいんですか?」

 

 カネキは疑問を口にする。

 

「うーん、別に美味しくはないかなー。人の方が美味しいよ? だけど、毎日人っていう美食ばっかり食べてたら、舌が肥えすぎちゃうよー? ほら、20区に『しゅーちゃん』居るでしょ? あの子みたいにもう普通の人間(ごはん)じゃ満足できなくなったら、喰種生(じんせい)勿体ないでしょー?」

「あー……カネキチ? 彼女の言うことはマジにならなくて良いよ? 同族(グール)の肉なんて食べれたもんじゃないから……はい、いつものコーヒー2杯とワインとおつまみのセットね!」

 

 2杯のコーヒーを飲みながら、ジャーキーのような肉をかじり、人の血を発酵させた飲み物こと『ワイン』を少しずつ飲む。これがカオリの『いつものセット』である。

 カオリはフレディマスクを少しずらし、味わうようにゆっくり食べる。

 

「あの……レザーフェイスさんは隻眼(せきがん)の喰種ですか?」

「違うよー? なんでそう思ったの?」

「いえ……隻眼の喰種は食欲旺盛で同族を食べると聞いたので……」

 

 喰種は興奮時などに目の虹彩が真紅に変わり、結膜が漆黒に変化する。これを『赫眼(かくがん)』と言い、通常であれば両目が赫眼へ変わるのだが、極稀に片目しか赫眼にならない者が存在する。これを『隻眼の喰種』と言い、隻眼の喰種はその稀少さゆえ、様々な逸話がある。

 カネキは人間から喰種になったというレアケースの影響か、『隻眼の喰種』であった。

 

「隻眼の喰種は金木さんでは……? いえ、なるほど、ふふふ……さては金木さんも共食いしちゃいましたねー? でも金木さんの食欲は隻眼だからというよりも、神代(かみしろ)ちゃんの赫子があるせいじゃないかなー? 神代ちゃんは隻眼じゃないけど、ご飯をモリモリ食べる子だったからねー」

 

 カオリはカネキが余りにもお腹が空きやすいのかと思い、この事を話したが、カネキは特段そんなワケはなく、過去に存在した隻眼の喰種についての話をイトリから聞き、少し気になっただけである。

 

「そだ! レザーフェイスさんは『喰種のレストラン』って知ってる? カネキチ君に依頼中なんだけど、あなたが知ってれば手っ取り早いからね!」

「ちょっ……それ僕が集める情報じゃ……」

 

 イトリはカオリに問いかけた。『喰種レストランの情報を知ること』、それはカオリが来る前に、イトリが金木に依頼した内容と同じであった。

 

「喰種レストランですかー? それは14区(ここ)の事じゃないですかー?」

「違う違う。喰種()食べる()()じゃなくて、喰種()食べる()のことなんだけど……レザーフェイスさんがそんなレストラン知ってるワケないかー……料理だけじゃなくて、他の客やコックさんまで食べちゃいそうだし」

 

 イトリはそりゃそうかと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 

「うーん……『ろーちゃん』なら知ってるだろうけど、今どこにいるか知らないしなぁ……そうだ! 『しゅーちゃん』なら知ってるかも知れませんよー?」

「あー、あたしもそう思ってるから、カネキチ君に『美食家クン』への接触を依頼したのよ」

 

 月山習(つきやましゅう)。『美食家』『グルメ』の異名を持ち、カオリからは『しゅーちゃん』と呼ばれている20区在住の喰種である。

 月山財閥の御曹司であり、財力を持ってして美食を楽しむ所謂(いわゆる)金持ちのボンボンである。

 

──────────

 

 この後、カネキは月山との接触に成功。月山に誘われて喰種レストランへ行き、カネキ自身が食材にされかけた……なんて事があった。

 

 そしてカネキが食材にされかけた数日後、今度はカネキの知人であり、同じ大学に通う喰種『西尾錦(にしおニシキ)』の彼女『西野』を月山が浚い、西野を巡ってニシキ・カネキ・トーカVS月山の戦いがあった。

 

 

 しかし、それはカオリのあずかり知らぬ事である。カオリは花屋として働き、オフの日は映画や食事に行く、至極平穏な日々を送っていた。

 そして、いつものようにカオリが『あんていく』へ花を届けに行くと、従業員に『西尾ニシキ』という喰種(ひと)が増えていた。背が高く、眼鏡をかけた茶髪の青年である。

 

「どうも、西尾です。昨日からここで働いてます」

「はーい。私は花屋アルバイトの花村カオリです。これからよろしくおねがいしまーす」

 

 そして、この西尾ニシキが入った事で、驚愕の事実がカオリを襲った。

 なんと、ニシキとカネキは『大学生』だったのである。

 

「ひゃー! 大学生ですかー!? カミイ大学というのは良く分かりませんが、高学歴さんなんですねぇー。それよりも、金木さんって大学生だったんですかー。霧嶋さんと同じ高校生だと思ってましたよー。私は大学どころか小学校にすら行ってないので、羨ましいですねー」

 

 カネキやニシキの通う上井大学とは、とても偏差値の高いマンモス大学である。

 四則演算がギリギリできるレベルであり、スクーターの免許を取る時に学科試験をカンニングしたカオリには、まず縁のない話である。

 

 

──────────

 

 

 ところ変わって、ここは喰種対策局の20区支部。

 『特等捜査官』の篠原、『准特等捜査官』の法寺(ほうじ)、『一等捜査官』の亜門、『二等捜査官』の滝澤。計4人が会議を行っていた。

 

 

「亜門、これからは忙しくなるぞ。全体報告の通り、厄介な事になっている」

「はい篠原さん……なんでも11区の本局捜査官が『全滅』したと……」

 

 11区とは、かつてカオリが神代リゼと出会った場所であり、羽田空港が有名な区である。

 

「その通りだ。混乱を招かない様に情報規制は敷いているが、11区支部は現在無力化されている……戦える人間が残っていないため、他支部や本部から捜査官を追加派遣しているが、依然逼迫(ひっぱく)した状況であることに変わりはない。何より……」

 

 篠原は一呼吸置き、より深刻な事態を告げる。

 

「11区を中心として、11区北側に位置する9・10・12区も同様に捜査官殺しが急増している。各区に捜査官を派遣しなければいけないため、11区の奪還は進んでいないのが現状だ……」

 

「あのー、すみません。捜査官殺しが起こったその区が指定危険区になるのは分かるんですが、なんで今回から15区と20区も指定危険区になったんでしょうか……? 捕食件数はどちらも他の区より少ないですよね?」

 

 滝澤は指定危険区についての疑問を口にする。指定危険区とは、人間が生活する上で命の危険が高い地域を指す。

 しかし、20区は捕食被害の少ない地域であり、15区に至っては殆ど捕食被害が無い地域である。

 

「個体評価で判断したのさ。15区は後で説明するが、まず『20区(ここ)』は単体でかなり危険な奴が多いことだ……『グルメ』もだが、最近11区からやってきたと推測される『大食い』の危険度はSレートを超えている。それに、『ラビット』という新たな強敵も浮上してきた」

 

 『グルメ』とはカオリが『しゅーちゃん』と呼ぶ喰種であり、『大食い』とはカオリが『神代ちゃん』と呼ぶ喰種である。カオリ基準では『どちらも食事にうるさい変な子』程度の認識だが、本来は非常に危険な存在である。

 

 『ラビット』こと霧嶋トーカは、笛口母娘の一件に深く関わっており、その際に捜査官を1名を殺害し、更にもう1人上等捜査官を殺害した容疑がある。その捜査官のうち一人は『真戸』という上等捜査官であり、この会議の場にいる亜門一等捜査官直属の上司であった。

 

 なお、カオリはトーカが『ラビット』であるどころか、戦うだけの力を持っている喰種であることすら知らない。カオリが見たのは無傷のヒナミと、ボロボロになっていたトーカと捜査官なので、トーカが戦うところを見ていないのだ。

 そしてカオリがトドメを刺し、首以外の全てを奪った人物こそが『真戸』という上等捜査官であることも、当然ながらカオリは知らない。

 

「南側の4つ(9・10・11・12区)がヤバい状態で北(20区)が落ちたら、挟み撃ちでマズい事になる。我々の配置は予防線ってワケ。そして……11区関連の件は『ある可能性』を示している」

「ある可能性……?」

 

「組織化された喰種達が『我々CCGを潰そうとしてる』もしくは『大規模な喰種同士の争い』だ」

 

「まさか……」「そんなことが……」

 

 篠原の答えに、亜門と滝澤は驚きを隠せない

 

「西側の区で捜査官殺しが起こっていないのは15区のみ。だが、ここには厄介な事情があるのは知っているか?」

 

「うーん……自分が知っているのは、過去15区で起こった『血溜まりビル』からの『喰種一斉失踪事件』。今でも15区で続いている『喰種の居ない街』くらいです」

 

 若い滝澤は、何か不思議な事が起きているとしか知らない。

 

「まぁ、分かったのはついこの前だからな。知らないのも当然だが、ついにその原因が明らかになった! 推定レートSS以上。性別は恐らく女。喰種共から呼ばれている個体名は『レザーフェイス』……15区に存在するたった一体の喰種だ。こいつは今までCCG(われわれ)にシッポを見せていない狡猾さを持つ上に、『人間よりも喰種を捕食する』らしい……亜門、この意味が分かるよな?」

「共食い……間違いなく赫者の喰種……15区の喰種はこの喰種を恐れて別の場所へ……?」

 

「悪いニュースはそれだけじゃない。レザーフェイスって名の通り、他人の皮膚をマスクにしているイカレ野郎だが……その材料は13区のSレート喰種『ジェイソン』だそうだ。少なくともあのジェイソンですら太刀打ちできないってことが分かってる……そして、レザーフェイスがこの騒動に乗じて動き出した可能性がある。警戒しておくに越したことはないってわけよ」

 

 何もない事を祈るがね。と、篠原は苦笑する。

 

「ところで亜門君、滝澤君。先日13区の捜査官が捕まえた『ナキ』という喰種(グール)を知っているかい?」

 今まで黙っていた法寺が、亜門達に問いかける。

 

「Sレートの甲赫(こうかく)……ジェイソンの右腕と言われている喰種ですね」

 

「このナキがレザーフェイスについて詳しく証言してくれたおかげで判明したんだ。亜門君が知っての通りナキはジェイソンの右腕のような喰種でね。因縁のあるレザーフェイスについて、それはもう詳しく語ってくれたのさ……もし本当に組織化された喰種集団が居るのなら、そこにジェイソンは居るだろう。そしてどのような形であれ、ジェイソンと因縁のあるレザーフェイスも動くと読んでいる」

 

「それと、今の法寺の話に付け加えるとだな……レザーフェイスの捕食方法だが……『痕跡が一切残らない』事が分かった……亜門、あの場にはラビットと思わしき血液と、真戸の首と血液があった。痕跡こそ無いが恐らくは真戸の追っていたフエグチの娘も居たんだろう。だから本部は、真戸を殺した犯人をラビットだと決めているが……ラビットは真戸より弱く、フエグチの娘は戦う力の無い喰種と聞く。そんな奴らにあの真戸が遅れを取るとは思えん。真戸より強く、痕跡すら残さない喰種……俺はラビットではなくレザーフェイスが真戸を殺した犯人じゃないかと考えている。確証は無いがな……」

 

 新たに浮上した仇の可能性に、亜門は表情を固くした。

 

「俺の予想だが……喰種集団が南を固めているように、レザーフェイスは北を固めている可能性があると読んでいる。今回の真戸殺害は恐らくレザーフェイスが11区の喰種集団に先んじて20区へ手を打った結果だろう……それと、大食いの犯行と思われる捕食被害も最近は起こってない。20区にレザーフェイスが来ているなら、もしかすると大食いはレザーフェイスに喰われちまったかもしれんなぁ……」

 

 厄介な喰種が現れた事に、篠原は溜め息を吐いた。

 

「……喰種集団は我々CCGを殲滅しようとしている可能性が極めて高い……また、喰種集団の目的がレザーフェイスだったとしても、その時には大きな被害が出るだろう……どちらにせよ、そんな事は決して実現させてはならん。東京の街並みは我々人類のものだ……こっちは『グルメ』と『大食い』を重点的に洗い直す。亜門は引き続き支部捜査班と連携して『ラビット』を探し出せ。なお、レザーフェイスについての情報はこちらでも収集するが、亜門達も収集してくれ。真戸の弔い合戦だ、勝つぞ亜門」

 

 CCGの捜査官達は20区を走り回る。人間の平和を守るために……。

 

 

──────────

 

 その頃、20区へ向かっていたカオリは、ふと懐かしいニオイを感じ取った。

 

「あらー? あんていくへに遊びに行こうとしたら、意外なニオイがしてますねー? 今日はのんびりする日だったんですけどー……これはちょっと遊ぶしかないですねー!」

 

 カオリはスクーターをUターンさせ、『衣装』を取りに帰った。

 

「ふふふ……久々に遊びましょうね……『ヤクモちゃん』、『あーちゃん』」

 

 晴れ渡る15区の空に比べ、20区の空には雨雲が立ちこめていた。




 中 野 区 の 悪 夢 

レザーフェイスを一番最初に見せるくらいには、主人公はイトリさんと深い交友関係があります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。