花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第8話 人間惨歌

 2009年。カオリが20区の裏路地を散策していると、青年の喰種と『霧嶋姉弟』が何やら話し合っている場面に出くわした。

 

(およ? 霧嶋さん達だ。もう一人はどなたかなー?)

 

 霧嶋トーカとアヤトの二人組は、数年前から芳村の庇護下にあるため、カオリは霧嶋姉弟を『捕食してはいけない喰種』として認識している。

 

「君達が霧嶋姉弟かい? どんどんと力をつけてるそうじゃないか」

 

 しかし、青年の喰種は知らない相手だ。とはいえ20区にいる喰種なら、確証が無い限りこちらから積極的に手を出すわけにはいかない。それが芳村との約束だからだ。

 

(まぁいいや。どうせ食べれない相手には興味無いし)

 

 カオリはその場を離れようとするが、青年は興味深い一言を口にする。

 

「君達はとても……Moderato(モデラート)(ちょうどいい)! 僕は今()()()()()()()()に相応しい相手を探していたんだ」

 

─────同胞喰らい。馴染みのワードを放った青年の言葉に、カオリは足を止める。

 

「ハァ? モデ……なんだって?」

「なんかウゼぇなコイツ……」

 

 霧嶋姉弟はさして強さを持たない喰種だ。だが両親を捜査官に殺された故か、やたらと喧嘩っ早い喰種である。

 

「やれやれ……まぁ、これから君達をいただこうとする僕相手では仕方ないか。一応自己紹介しておこう。僕は『月山(しゅう)』……『美食家』もしくは『グルメ』と名乗った方が分かりやすいかな?」

 

(美食家で月山……? 資産家喰種の、えっと……『くろっくむっしゅ』……だったかな? そこの一人息子だっけ? 芳村さんの警戒を解く意味でも、助けてあげたほうがいいかなー?)

 

「殺そうぜ姉貴!」

「また芳村のジイさんにグダグダ言われるよ。まぁ殺すけどさ!」

 

 相手がかの資産家『月山家』の喰種であるにも拘らず、霧嶋姉弟は月山へ襲いかかった。

 

 非戦闘員の姉弟と資産家喰種の一人息子。ならば一瞬で勝負がつくだろうとカオリは判断し、霧嶋姉弟を助ける態勢に入るが……。

 

(……んー、手加減……?)

 

 強者たるハズの美食家は、あまりにもお粗末な攻撃を繰り返している。

 

(あー、理解した。私もオニヤマダ(なまはげ)にやられたなー……)

 

 否、カオリはそれを良く知っていた。

 それは弱者を地獄に落とすための『舐めプ』。必死に足掻く弱者の姿を嘲笑い、飽きたら少しだけ本気を出して相手の心を粉砕する。強者のためだけに微笑む絶望と格差の遊戯。

 

 

……そうカオリは判断したが、それは誤りであった事を知る。

 

 

「ハァ……ハァ……中々やるじゃないか。僕が勝てない強さでは無いようだけど、これ以上の損耗は損益分岐点を割ってしまう。ここは一旦退くとしよう」

 

 

 なんと月山は霧嶋姉弟を倒しきれず、その場から去っていく。

 

 

(─────えっ?)

 

 カオリは困惑した……月山を名乗る青年が、カオリの想定以上に弱すぎたのだ。

 月山から感じるRc値の濃度は低い。だが、それは芳村同様に力を抑えていると思っていた。

 

(え? なんで? キエさん言ってたよね? 『月山家は日本で最も富と名声と力を持ってる喰種の家だ』って……)

 

 資産家ならば食糧も潤沢にあって然るべき。喰種の中で最上級の富豪たる月山家の一人息子ならば、それはもう上質な肉を食べ、それに見合った強さを持っているとカオリは確信していた。

 

 かつての師たる『罠師(キエ)』は月山家を危険な存在と認識しており、対月山グループ用の爆発物や火器を大量に集めていた。

 

……()()()()()()

 

─────その時、カオリに電流走る。そう、キエが集めていたのは……。

 

 

(……そっか、私はまた勘違いしてたんだ……そうだよね、『強い喰種』が相手なら、そもそも『爆弾』や『ロケラン』なんて買わないよね……)

 

 カオリは理解した。月山家の恐ろしさはつまり……。

 

(月山家は自衛隊……もしくは駐在アメリカ軍を動かせるかもしれないって事かなー? CCGかもしれないけど……)

 

 対戦車ライフル、ロケットランチャー、超大型爆弾……それらは喰種よりも、兵器で武装した人間と戦うために使うものだ。

 

 ならば月山家の恐ろしさは『単体(グール)の強さ』ではなく『集団(にんげん)の強さ』となる……。

 

(─────作戦変更。月山家から(むし)るぞー!)

 

 カオリはニヤリと嗤う。単体の強さが大した事無いなら、カオリは負けない。

 

(ふふふっ……仲良くしよーね? 美食家さん)

 

 ヨロヨロと歩く月山の後ろ姿を、カオリは静かに追いかけた。

 

──────────

 

「こーんにちは、美食家さん」

「なにかな? 僕は今気分が─────」

 

 戦闘直後で気が立っていた月山は、苛々しながら振り返る。

 

「悪フゥ─────ン゛ッ!?」

 

 そこに居たのは、黒いツナギを来たブギーマンだった!

 

「テンテンテンテンテンテン、デッ、デデッ……デッ、デデッ」

 

 怪しげなメロディを口ずさみながら、今にもこれから自身へ危害を加えんとするその姿。

 月山は反射的に赫子を展開してブギーマンへと切りかかるが……。

 

「テンテンテンテンテンテ……いきなり攻撃してくるなんて酷いなー」

 

 月山が放った必殺の一撃は、ブギーマンに()()()で受け止められていた。

 

「……馬鹿なッ!?」

「ふふふっ……そうそう、美食家さんの戦いをさっき見させて貰いましたけど、あんなんじゃ私には傷一つ付かないですよー? 喰種の強さは赫子に大きく依存します。バイクに例えるなら、赫子がエンジンで人の肉がガソリンですねー。ハイオクのガソリンをいくら積んだところで、スクーターとハーレーじゃトルクも馬力も違うんですよー?」

 

 月山はバイクについてあまり詳しく無いが、自慢の赫子では掠り傷すら負わない程に力の差があることだけは理解した。

 

「それで美食家さん、喰種の肉に興味があるんですよね?」

「あ……ああ。ところでレディ、お会いしたことはあったかな?」

「さぁ? 少なくとも私は貴方を知ってますよ。まぁ、貴方のおとーさんを知ってるって言い方が正しいかなー」

 

 圧倒的な力の差。だがブギーマンに戦う気は無いようだ。

 背に冷たい汗が流れるも、月山は何とか平静を保ちつつ話す。

 

「ふむ……社交界の方かな?」

「ふふっ……後で教えてあげますね? それで、喰種の肉には興味があるなら……」

 

 

 ブギーマンはツナギの裾から細長い赫子を生やし……自身の小指を切り落とした。

 

「はい、まずは味見してみてくださいな?」

「お……oh, unique……」

 

 突然発生した自傷行為に、月山は唖然とする。

 

「あ、もう再生してるんで気にしなくて良いですよー?」

「……えっ? ま、まぁそれなら有り難く頂こう」

 

 出された食事を食べない事は美食家の矜持が許さない。月山は恐る恐る小指を口に含む。

 

─────その瞬間から凄まじいマズ味が口に広がる。今すぐにでも吐き出したい。だが目の前の相手がそれを許してはくれない。

 

「むぐっ!? むぐぐぐッ!!?」

 

 なにせ、月山の口はブギーマンの手によって塞がれているのだから……。

 

 月山は形容しがたい表情をしつつ、その肉を咀嚼した。

 

「で、どうでした?」

「な、な……な!! ……スゥーッ」

 

 月山は大きく息を吸い込み、ブギーマンに背を向ける。

 

 

 そして、上半身だけをくるっと回し、両腕を真横へと広げるポーズを取った。

 

 

粉☆バナナ(これは罠だ)!! キミが僕を陥れるために仕組んだバナナ(罠だ)!? なんなんだこの味はァ!? おかしいじゃないか!? こんなモノがこの世にあるのか!? 存在して良いのかッ!? 僕が食べてきた中で最低の食べ物は『Rc細胞壁』だと思ってきた!! だが……ッ! この不味さはそれを凌駕しているッ!! これが共食いの味だと!? プーさん蹴(ふざけ)るなァッ!!」

 

 あまりの不味さに月山は激昂する。

 

「ふふふっ……ちなみにですけど、24区に住む喰種達も同じ様な味がしますよー? それじゃあ……今度は私が貰いますね?」

 

 怒り狂っていた月山だが、ブギーマンの聞き捨てならないワードに思わず固まった。

 

「……は? Calmato(カルマート)(おちつきたまえ)、キミは何を言ぁっがッ!!?」

 

 ハロウィンマスクを半分ほどズラしたブギーマンは、月山の肩へ食らいついた……!

 

「んむ……んむ……んん!! 美味しい!? なるほどっ! 『美食家』とは『()()になる月山()』の略だったんですねー!」

「き……き……ッ……貴様ァ!! 誰を喰ってる!! 僕は新世界の美食家だぞッ!!」

 

 月山はブギーマンを突き飛ばし、腕に巻きつけた赫子で刺突を放つが……。

 

「知ってますよ? 貴方は資産家喰種『月山家』の人ですよね? なら貴方は21区の喰種、フクロウさんの庇護下じゃない。だから……食べても問題無い」

「ぎゃぁッ!!?」

 

 月山の赫子はブギーマンの袖から伸びた細い赫子に砕かれ、逆の肩に噛みつかれた。

 

「……馬鹿がッ!! 理解しているのか!? それは月山家の全てを敵に回すことだぞ!!」

「ふーん? なら……」

 

 ブギーマンは袖から伸びた赫子で月山を拘束する。月山は拘束を振り解こうとするも、赫子の拘束はピクリともしない。

 

「実際に来て貰いましょうか?」

 

 ブギーマンは月山のポケットに手を突っ込み、タブレット型の電話機を奪い取る。

 

「な、何をする……?」

「んーっと……電話帳はどれかなー? これかな?」

 

 電話帳に記されているのは『父上』……ブギーマンは何の躊躇も無く通話ボタンを押した。

 

「初めまして、くろっくむっしゅさん。15区のババ・ソーヤーです。『罠師の後継者』と言った方が良いですか? 貴方の大切な美食家さんと一緒にいます。ちょっと西荻窪駅まで来てくださいますか? 商談をしましょう。西荻窪についたらこの携帯に折り返して下さい。待ってますね?」

 

 クロックムッシュの返事を待たず、一方的に電話を切った。

 

「15区……だと!?」

「ふふふっ……そうですね、15区ですよ? さぁ……もう私が誰か分かってますよねー?」

 

 月山は赫子の拘束から解放されたが、逃げることはできない。

 マスク越しで分からないが、ニヤニヤと嗤っているのだろう。

 

「ふふふふふ……さぁ、いきましょうか……っとその前に」

 

 ブギーマンは月山の問いに答えることなくマスクを取る。そこに現れるは、数ある美女を食卓に並べてきた月山を以てしても、一番美しいと思えるほどの女だった。

 

「貴方と私は、きっと友達になれると思うよ。だから貴方を『しゅーちゃん』と呼ぶね。私は『花村カオリ』、貴方はしゅーちゃん。自己紹介もできたから、友達だよっ! 友達なら……逃げちゃ駄目だからね?」

 

 月山は逃走を選択できない。もしも本当にカオリが15区の喰種……『レザーフェイス』ならば、月山に勝ち目は無い。

 

 傍目には美男美女のカップルにも見える二人組は、静かに15区行きのバス停へと歩いていった。

 

──────────

 

 月山家当主の『月山ミルモ』は、執事の『マイロ』に車を運転させ、西荻窪駅の付近まで来ていた

 

「……マイロくん、ここからは一時も油断してはいけないよ。何せ15区に足を踏み入れて生きて帰った喰種は殆ど居ない。それに、レザーフェイスは『レディ・ロウ』……いや、それ以上に厄介な可能性が極めて高い」

「そんな事が……もしやッ!?」

 

 セレブ界に彗星の如く現れ、名だたる相手を単独で叩き潰す超新星。二大セレブの一角『ビッグマダム』をねじ伏せ、三大セレブへと勢力図を書き換えた脅威の女喰種『ロウ』……マイロにとって間違いなく最強の喰種といえるロウだが、ふとマイロは思い至った。

 

─────ロウの強さは、どこで身に付けたのかと。

 

「ええ。マイロくんの推測通り、レディ・ロウのバックにいるのはレザーフェイスだ。それに先程の電話……ビッグマダムが言っていた『罠師の弟子』がレザーフェイスなら、正面からぶつかっても勝ち目は無いよ。僕らはビッグマダムより権力や経済力で優位にこそ立っているが、武力は彼らの方が高い……そんなビッグマダム達を没落させたのは『罠師』と『罠師の弟子』のたった二人だ。『罠師』は戦う力を持ってなかったから、たった一人でビッグマダムの部下を皆殺しにした事になる……」

 

 喰種社交界において『罠師の弟子』は専ら禁句だ。話題にしたら最後、その者はある日を境に自宅のあらゆる金品ごと行方不明になる。

 罠師が消えた今も、弟子は17区に住んでいると思われていたが、どうやら15区に引っ越していたようだ。

 

 

「……直ぐにでも習様を救出せねば!!」

 

 敬愛する御曹司が如何に現在危険な状況であるかを理解したマイロは、すぐにでも月山を助けにいこうとする。だが、ミルモはマイロの肩にそっと手を当て、静かに首を横に振る。

 

「習くんがどこにいるのか分からない以上、僕らは待つしかない。それに、恐らく向こうはもう僕らが来ていることに気付いてるんじゃないかな? ……例えばほら、向こうから2つの大きなクーラーボックスをかけたレディがいるだろう?」

 

 ミルモの指差す方向を見ると、小さなクーラーボックスと大きなクーラーボックスを肩に掛けた女が歩いていた。

 

「……釣り人なのでは? 釣り竿は持ってなさそうですが、恐らく現地でレンタルするのでしょう」

 

 だが、女はマイロ達が乗っている車へ真っ直ぐに歩いてくる。

 

「マイロくん、念の為ドアのロックを解除しておいてください」

「承知しまし……おわっ!?」

 

─────マイロがドアのロックを開けた途端、助手席の扉が乱暴に開かれ、クーラーボックスを肩に掛けた女が入り込んできた。

 

「んしょっ……と。それじゃあ道案内はしますので出してくださーい」

「貴様ッ!! 誰の断りを得て車に入……」

 

 挨拶どころか許可すら無く乗り込んできた無礼な女にマイロは激昂するものの……。

 

「あ、そういうの要らないですよー」

「りもがっ……!?」

 

 マイロの口腔にはサイレンサー付きハンドガンの銃身がねじ込まれていた。

 

「喰種の粘膜は人間の強度と殆ど変わりません。引き金を引けば脳味噌は吹き飛びます。貴方は頭が再生できる喰種かなー?」

「そこまでにしていただけますかな? ミス・ソーヤー」

 

 クーラーボックスの女……もといカオリはミルモの言葉に従い、銃をマイロの口の中から引き抜く。

 

「……ごほっ……ん゛っ!」

「ふふふっ、くろっくむっしゅさんは私が誰だか分かっているんですねー? それじゃ、ここを真っ直ぐ進んで下さーい」

 

 息子を誘拐し、使用人に拳銃を突きつけるという暴挙から始まったカオリとミルモの関係は、こうして始まりを告げた。

 

──────────

 

「さてと、それじゃあ早速商談しましょっか」

 

 ()()()()()()()()にてカオリ達は簡単な自己紹介を済ませると、商談が始まった。

 なお、この部屋の名義人は『如月カオリ』。フラワーショップ西荻窪にてカオリの現住所とされている場所である。

 

「……待ちたまえ!? パパとマイロを殴り倒しておいてThrough(スルー)なのかね!?」

 

 月山が指差す先には気絶する成人男性が二名……ミルモとマイロであった。

 ミルモ達はカオリに連れられマンションへと入ると、肩から血の滲む月山を目撃してしまう。激昂した二人は赫子を展開しながらカオリへ飛びかかるも、カオリの甲赫によって二人の赫子は一撃で砕かれ、追撃の尾赫に頭蓋を揺さぶられた。

 

 その結果がこれである。ミルモは物腰が柔らかく、好戦的な性格でも無いためレートは設定されていない。

 だが、ミルモの実力はかのビッグマダムに並び立つ程だ。

 

 そんな自慢の父が、一撃っ……! 一撃で気絶っ……!

 月山にとって、ミルモの攻撃は紛れもなく必殺の一撃だったように見えた。

 だが、目の前の女はそんな父親の赫子を、常温保存したチョコレートのように粉砕したのだ……!

 

「い……いや、起き上がるのを待つべきじゃないかな?」

「うーん、別にしゅーちゃんと取引でも良いんだよー? しゅーちゃんだって月山家なんだから、取り引きできるよね? だから『妖精さん』とは顔合わせだけでも充分だよっ」

 

 カオリは次期月山家当主なら月山家の資産を自由に使えると思い込んでいたが、そんな事は無い。例え有数の資産家とて、無駄遣いはできないのだ。

 

「いや、僕が僕の裁量で使えるのはお小遣いだけなのだが……ん? 妖精さん?」

「しゅーちゃんのおとーさんの名前が『ミルモ』だから妖精さん! うーん、じゃあ妖精さんが起きるの待ってた方が良いかなー?」

 

 カオリはごろりと床に寝そべると、ミルモ達が起きるのを待つことにした。

 

──────────

 

「起きたね! それじゃ始めるよー!」

「……ウィ」

 

 ミルモ達が起き上がると、カオリは有無を言わさず商談を開始。ミルモ達と出会う前に用意しておいた小さなクーラーボックスを開けると、そこに入っているのは……。

 

「これは……もしや」

 

─────やや乳白色の液体が入った瓶と、バラバラになった赤ん坊だった。

 

 普通の人間なら目を背けたくなるような凄惨な光景だが、この場に居るのは人狩りを行う喰種のみ。人間の死体で気分を悪くするような事もない。

 

 むしろ、希少な珍味を前に目を輝かせていた。

 

「そーですよー。昨日捌いたばっかりの新鮮な赤ちゃんです。しかも生まれる前のっ! 所謂(いわゆる)『当たり』ですねー。それで、こっちの瓶は何なのか分かりますよね?」

 

 赤ん坊と対になるモノ。自ずと答えは導き出される。その上、赤ん坊の肉片からは良いニオイが漂う、嫌々始まってしまったこの商談だが、ミルモ達は少しずつ乗り気になっていく。

 

「ふむ……母乳ですな?」

「そのとーり! そしてー……」

 

 カオリは大きなクーラーボックスを開ける……そこには真空パックに詰め込まれた肉や内臓が()()()入っていた。

 

「じゃーん! 両親の希少部位もバッチリ完備。新婚の夫婦を捌いたので、肉も結構若いですし健康ですよー。ほら! この旦那さんのコレ、結構太いですよっ!」

「なるほど……それで、これを幾らで売っていただけるので?」

 

 ミルモの問い掛けに、カオリはニッコリと微笑む。

 

「ふふふっ……値段はそっちで決めて貰います。でも、味見無しに値段なんて決められませんよね? だから……」

 

 カオリは3つの皿に、赤子の右足、父親の心臓、母親の胎盤をそれぞれ置いた。

 

「さぁ、みなさんお好きなのをどーぞ!」

「これはこれは……それでは僕はコレをいただきましょうか」

 

 ミルモは胎盤の載った皿を選んだ。

 

「はい、次はしゅーちゃん」

「そ……そうだね……僕はコレを貰おうか」

 

 月山は赤子の右足を選び、残った『父親の心臓』をマイロへと渡す。

 

「それじゃあ執事さんはハツをどーぞ」

「……ご丁寧にどうも」

 

 月山とマイロは冷静に努めようとするが、素材の時点でニオイからしても普段の食事より上質……! 冷静さにはところどころ綻びが生じていた。

 

「さぁ、どうぞっ! 素材のままでも充分美味しいですよー」

 

 本来なら毒を警戒するべきだが、ミルモ達は先の一件で力の差を理解した。もしも相手が殺す気なら、毒を使う必要も無い。

 それが分かっているからこそ、彼らは食事を口に運び……目を見開いた。

 

「っ! ……なるほど。かのレディが退屈そうに食事をする理由はこれでしたか……」

「この心臓……雑味がまるで無い」

「あれだけ不味いモノを僕に喰わせたとは思えない程に洗練された味だ……いったいどうやって……ところでパパ、かのレディとは誰の事で?」

 

 月山はロウについて全く知らない。月山にとってロウはあまりにも危険な存在であるため、ミルモが教えていないのだ。

 

 

 

─────結局、ミルモは月山へロウについて語らなかった。

 

 

 

 月山はあの日……カネキへ共食いを提供しようとレストランを開き、レザーフェイスとロウ相手に蹂躙されるあの時まで、ロウの危険性について何も知らされなかった。

 

 もっと早くロウについて教えておけばとミルモは後悔した……レストラン参加者の遺族達から届いた賠償請求書類の山を眺めながら……。




 月 山 家 大 損 害 
原作と違いレストランでの捕食者がロウ&カオリなため、遺族の矛先はロウへ。ただしロウは『MM氏が提案したのでアタクシは悪くない。賠償請求するならMM氏へ』で突っぱね。
それ以上突っかかるとロウに消されかねないので、矛先は『ディナーは皆様!』と提案したMM氏……もとい月山家へ


次からはナッツクラッカーの過去編になりまぁす!
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