花屋喰種   作:みぞれアイス

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今回からちょっとロウの過去話編が続きます。


幕間第9話 美の法・第一条

 それは、今より少しだけ昔の話。村松キエがまだ17区を支配していた頃。

 

 15区を支配下に置いていたカオリは、単身15区へ乗り込んできた勇気ある女喰種を仲間にし……そして別れた。

 

『それじゃろーちゃん、資産家への道、頑張ってね。何年後になるか分からないけど、ろーちゃんがお金持ちになったらいつか会いにいくよー』

 

 お金持ちになりたい。それも自分の手で。この願いをカオリは受け入れ、女を15区から送り出す。

 カオリから餞別として5億円をポンと貰った女は、気持ちを新たに第一歩を踏み出した。

 

 

 

 高円寺から総武線に乗り、なんとなく降りた両国。そこで7区の不動産屋を巡る。

 

 7区のとある駅から徒歩20分の距離にボロボロの雑居ビルが安値で売られていたため、それを女は丸ごと買い取った。

 リフォームの手配を済ませ、やることが無くなった。暇潰しに町の散策をしていると、喰種のニオイを感じ取り、ニオイを放つ場所へ目を向ける……。

 

「…………」

 

 それは小さな少女だった。少女は羨ましそうにブティックのショーウィンドウに飾られた衣服を眺めている。

 

 ボサボサの髪、汚い衣服、いかにも浮浪者然とした恰好のため、道行く人々は少女を奇異の目で一瞥し、話しかける者は誰も居ない。

 

 

 そんな中、女喰種は少女へと近付いていく。

 

 

「お嬢ちゃん、家族の人はどうしたのかしら?」

 

 少女はビクリと肩を揺らすと、女へと振り返り……。

 

「─────綺麗な人……私も……キレイに、なりたい……」

 

 

 それは、()()()()()()()の、心の底からの願いだった。

 

 

「!! ……あら、お嬢ちゃんもそうなの? アタクシと同じね……ねぇ、お嬢ちゃんはキレイになりたい? アタクシね、実は『コレ』なの」

 

 女は少女だけが見えるようにかがむと、自身の目を赫眼(かくがん)へと変える。

 

「私と一緒……!? なりたいっ! 教えて!!」

 

 女が喰種だとわかった少女はキャッキャと飛び跳ね、美しさの秘訣を尋ねた。

 

「良いけど……家族はいるかしら?」

「ううん……みんな死んじゃった」

 

 少女は悲しそうに首を振る。

 

「そう。なら、アタクシに着いてきなさいな」

 

 女は道中で少女の服を買うと、少女を自宅に連れていく。

 

 

─────女はかつて『キレイになりたい』と願い、その夢を叶えた。

 

 ならば……次は自分が誰かの願いを叶える番だ。

 

 

 

 

 

 女は雑居ビルに戻るとすぐに少女の体をシャワー室で洗い、新しい服を着せる。古い服は袋で縛ってゴミ箱に放り込んだ。

 

「さて、体も綺麗になったところで自己紹介といきましょうか。アタクシは……」

 

 女は本名を口に出そうとして止まる……自分は何者か……親がつけた名か、カオリとの繋がりを示す名か。どちらが『自らに相応しいか』を考え、口を開く。

 

「かつての名は捨てましたわ。今のアタクシは『ローリー・ストロード』。姉様からは『ろーちゃん』と呼ばれていましてよ」

 

 女はカオリとの繋がりを示す名を選んだ。

 

「えっと……わたしは……『マユ』です……えっと……ロ……ロー……?」

 

 どうやら子供に横文字の名前は分かりづらかったようだ。

 

「はぁ……呼び辛かったら好きなように言えば良いですわよ……」

「それじゃあ『ロウ』さんで!」

「ロウ……悪くないわね。これからはアタクシもロウと名乗ることにしますわ。ローリー・ストロードは姉様のための名前ですもの」

 

 この日を境に、女は『ロウ』と名乗ることを決めた。

 

「ロウさんには、お姉さんがいるんですか?」

「フフフ……マユ、アタクシも貴女と一緒でしてよ。アタクシもかつてはみすぼらしい姿をしていたの。そしてアタクシは美しき御方に拾われ、ここまで強く、そして美しくなれましたの。故に敬意と親愛をもって……そしていつかは追い付く目標として、アタクシはあの方を『姉様』と呼ぶのよ」

 

 そんなロウの姿に、マユは目を輝かせる。

 

「じゃあ、わたしにとっては『ロウ姉様』です!」

「フフフ、つまりは姉様の妹分の妹分ですのね? 良いでしょうマユ。貴女が姉様の、妹のそのまた妹を名乗るなら、アタクシは貴女をキレイなレディに導きますわ! それではマユ、早速キレイになるための活動を開始しましょう。マスクを準備……してるわけないですわね……道中で買うとしましょう」

 

 

 

 

 ロウは近くの雑貨屋で『目出し帽(バラクラバ)』と『レインコート』を2つ買い、マユと自分に装備した。

 

「さて……困ったわね……名前が無いわ……よし、ひとまずアタクシは『アルファ』、アナタは『ベータ』よ。喰種の時間は自らの名前を名乗らない。良いわね?」

「はい! アルファ姉様!!」

 

 マユの返事に、ロウはマユの頭を撫でた。

 

「良い子ですわね。ちなみに、赫子は何が使えるのかしら?」

 

 ロウは何気なく聞いたが、喰種は赫子を満足に使えない者も多い。マユも例外では無かった。

 

「あの……かぐね……使い方知らないです……」

「……あー、そういえば……姉様と居るとやっぱり感覚が麻痺しますわね……オホン、ごめんなさいねベータ。赫子はゆっくり使えるようにしていきましょう。それじゃあ赫子が使えるようになるまでは、アタクシの戦いを見てなさいな」

 

 ロウはゆっくりと路地を進んでいく。

 

「あの……ここ、この地域を喰場にしてる喰種の住処ですよね……?」

「そうね。他者の喰場(くいば)だから行くのよ」

「手土産、何もないですよ?」

「……手土産? 冥土の土産の事かしら?」

「……?」

「……?」

 

 ロウはカオリに……もとい、共食いに毒されている。ロウにとって喰場とは喰種(メシ)の在処だが、本来喰場とは近寄るべきではない場所だ。

 

 ロウはニオイを辿りながら路地裏を進んでいくと、そこには5人ほどの喰種が(たむろ)していた。

 

「オイ、そこの女共。何しに来ベェッ!?」

 

 ロウ達に声をかけた喰種の首が飛んだ。

 

「ベータ、そこで待ってなさいな。この程度の雑魚なら『半赫者』を使うまでもなく余裕でしてよ」

 

 ロウは甲赫の槍を一閃し、別の喰種の首を刎ねる。

 

 映画マニア(カオリ)に毒されたロウもまた、映像作品にのめり込んだ。だが、ホラー映画が主体のカオリと違い、ロウがのめり込んだのは『アクション』と『アニメ』だ。

 ロウは自身の赫子が槍状であった事から、槍を使う人物が出る作品を多く視聴し、カオリと違い本も読むため、槍術の指南書も熟読した。

 

 その結果、ロウはフィクション混じりの我流ではあるものの、一流の槍使いとなった。

 そんなロウをカオリは『ヤクモちゃんくらいなら余裕で倒せる』と評価する。

 

 ロウは『ヤクモちゃん』という喰種の事を詳しく知らないが、それはSSレートクラスの喰種である事を意味していた。

 

 SSレートクラスの力を持つロウと、Aレートしかない喰場の主。勝負はすぐに終わり、喰種達の住処には首無しの死体が山積みとなった。

 

「す……凄い……」

 

 ロウの圧倒的な強さに驚くマユだが、ロウは首を横に振る。

 

「駄目ですわね……この程度の相手に時間が掛かり過ぎてますわ。姉様ならアタクシが1人目を殺した時点で全滅させてましてよ……この程度の相手を纏めて瞬殺できる程度にならなくては真の美には程遠い……アタクシも、そしてベータも精進しますわよ!」

「は、はいっ!」

 

 元気よく返事をしたマユに、ロウはにっこりと微笑む。

 

「よろしい。ベータ、死体を全部うつ伏せにして並べていってくれるかしら?」

 

「……? はーい」

 

 マユはロウに言われた通り、死体をうつ伏せに並べていく。

 

「ふむ、これはここ……と」

 

 ロウは並べた死体の背中を切り裂き、赫包の位置を確認していく。

 

「できました!」

「ちょっとお待ちなさい。この男は確かここだったわね。ビンゴ! ではベータ、さっそく赫包を食べますわよ」

「ふぇっ!? 共食いするんですか!?」

 

 喰種の禁忌を何気なく犯そうとするロウに、マユは驚きながらも聞き返す。

 

「キレイになるためには、相手の赫包を捕食し、自らの赫包を高める必要があるのよ? テロメアは美しさの秘訣。そのテロメアをより長く再生し活性化させるのが共食いでしてよ? 綺麗になり、強くなる。一石二鳥の共食いをしない者に美は無し! ベータは美しくなりたい?」

「綺麗に、なりたい!!」

「ならまずは、これを食べなさいな」

 

 ロウはこの中で一番弱かった男の赫包を引きちぎり、マユに手渡した。

 

「うぅ……いただきますっ……!」

 

 マユは恐る恐る口にした。口に入れた途端、強烈な不味さが口腔を暴れ回る。

 

「吐き出しては駄目よ?」

 

 だが、ロウが吐き出すことを許さない。

 

「その不味さは美へと導く味! その不味さを感謝し、吐き出さず飲み込みなさい!!」

「う……ううううう……っ!!」

 

 あまりの不味さに涙を流しながらも、マユは赫包を飲み込んだ。

 

「うう……飲み込みまし……っ!? 痛いっ!! 痛いよぉ!! 助けて姉様ぁ!! 痛、いだぃぃぃいいっ!!!」

 

 共食いによるRc細胞の活性化が始まったのか、マユは痛みにのたうち回る。

 

「それこそが美へと変わる痛みですわよ!! その痛みが、アナタを美しき存在へと変える! それは綺麗な体へと変わっていくための痛み。その痛みと共に、アナタは確実に美女へと進化していくのですわ!!」

 

 だが、ロウは助けない。()()()()()()()で折れて貰っては困るのだ。

 

「ちなみに、どこが痛いの? これから触るから、痛いところを教えなさいな」

 

 ロウは肩に手を触れる。

 

「ここ?」

「違うっ!! もっとしたぁぁ!!」

 

 ロウは肩甲骨に触れる。

 

「ここ?」

「そこ痛いっ!! でも、もっと下も痛いよぉ……!!」

 

 他も痛い……ロウはその事実に驚きつつも、手を進めていき、次は腰に手を触れる。

 

「ここは?」

「もうちょっと……したが痛いよぉ……」

 

 ロウはお尻の少し上、尾骶骨に手を触れる。

 

─────だが、もしここが痛むなら……。

 

「まさか……ここ?」

「そこっ……そこが痛いよぉ……!」

 

 

 ロウは体に電流が走るのを感じた。

 

 

「あぁ、ああああ!! アナタ最高ですわ!!」

 

 ロウは歓喜に打ち振るえた。その赫子はまさに、自らが良く知る存在と同じ……!

 

「ぅ……痛いの、ちょっとだけ収まってきた……姉様……どうしたの?」

 

 様子のおかしいロウを、マユは心配そうに見つめた。

 

「アナタ、赫子二種持ちよ!! しかも……姉様と同じ甲赫(こうかく)尾赫(びかく)っ!! アタクシならアナタを更に強く(うつくしく)できますわ!! 何せその二種持ちの運用方法を一番長く見てきたのはアタクシですものっ!! それに……」

 

 ロウは槍をくるくると回す。

 

「アタクシも甲赫、しかも姉様とは別タイプのスピード型。どんな赫子でも育成できる自身がありましてよ? ベータ、アナタを世界で3番目の美女にしてあげますわ!!」

「1番じゃ……ないんですか?」

 

 微妙な順位に、マユは首を傾げた。

 

「1番と2番は姉様とアタクシですもの。アタクシはアナタを世界で3番目の美女にする。そこからアタクシや姉様を超えられるかはアナタ次第でしてよ? ただし、その痛みを乗り越えられなければ、3番どころか番外でしてよ? ゆえにベータ、食べ続けなさい。アタクシも食べますわ」

 

 ロウは一番強かった男の赫包を食べ始める。

 

「っぐぅ~ッ!! この痛みが……っ! アタクシを……より強く、美しくするッ!!」

 

 痛みを堪えながら赫包を食べていくロウの姿に、マユは大きな感動を受けた。

 

「わたしも……キレイになるんだ!!」

 

 マユも赫包を食べていくが、痛みはより強く、より酷くなっていた。

 

「うううううっ!!……痛い!! さっきよりいだぃぃぃいい!! でも、負けな゛い゛!! キレイにな゛る゛ん゛だぁぁ!!」

 

 涙でグシャグシャになりながらも、マユは赫包に食らいついていく。

 

「びぃ゛っ……!! ぎっ……!! ぁぐ……!?」

 

─────突如、マユの体に裂傷ができ、そこから血が滲み出した。

 

「っく……その傷は不浄の体が生まれ変わる傷ですわ!! それを乗り越えなさい、ベータッ!!! 美のために!!」

「ギレ゛イ゛に……な゛るっ!!」

 

 血が吹き出し、視界が激しく明滅する中、マユは根性で共食いを続け……。

 

 

「ぁ……き……かびゅっ……!!」

 

 マユはロウが指定した分の赫包を食べきった。

 

「ベータ……アナタは見所がありますわよ……ちゃんと嫌がる事無く食べきったんですもの……今は眠りなさいな。起きた時、アナタは自分の肌に気付くはずでしてよ? だって、初めて姉様に共食いをさせて頂いた時のアタクシがそうだったもの……」

 

 激痛に失禁し、血と汚物の水溜まりで魚のように痙攣するマユを、ロウは優しく撫でる。

 前もって用意していたウェットティッシュでマユと自分の体を拭いた後、マユを抱えながら自宅へと戻っていった。

 

 

──────────

 

 7区担当の喰種捜査官は、目の前の惨状に顔をしかめる。

 

「うぇっ、ひどい有様だ……」

 

 一列に並べられた、背中を切り開かれた首無し死体。捜査官にとって、何の意味があって実行されたのか分からない死体だった。

 

「喰種の縄張り争いってヤツなんでしょうか……チッ、どいつもこいつも赫包が抜き取られてる。これじゃクインケが作れないですね」

「いや、問題はそれだけじゃないんだけど、分かるかい?」

 

 赫包が無いと文句を言う部下に、他の問題は何かあるかと上司は問う。

 

「どういう事です? クインケが作れないのが問題なのでは?」

「それだけじゃない。赫包が無くなっているということは、『赫包を持っていった奴がいる』のは分かるかな? これ、喰種が食べちゃったんだよね。はい、喰種が赫包を食べると何が起こるでしょうか? アカデミーでやったかな?」

「え、えっと……確か……共食いする喰種は凶暴な奴が多いとかなんとか……」

 

 その答えに、上司はポリポリと頭を掻く。

 

「まぁ間違っちゃいないけど、ずいぶんザックリしてるね……共食いを繰り返す喰種は凶暴性が増すと同時に強くなっていくんだよ。そして、通常の赫子の他に『特殊な赫子』を纏う『赫者』や、その途中の『半赫者』といったのが出てくるんだ。さて、赫者や半赫者と聞いて思い至る喰種はいるかな……」

 

 部下は怯えながら、自身の知っている赫者を告げる。

 

「『骸拾い』や『隻眼の梟』です……」

「うん、どちらも極めて危険度の高い喰種だ。骸拾いは討伐済みだけどね。とまぁ、共食いをする奴は極めて危険ということだけ覚えておけばいいさ」

 

 捜査官達はこの地域に凶悪な喰種が現れた事を悟り、気を引き締めた。

 




 キ レ イ に な り た い 
というわけでここからはマユちゃんこと原作キャラである『ナッツクラッカー』の過去話が始まりますよっ!

マユちゃんことナッツクラッカーさん、原作内では名前が明かされる事無く討伐されてしまいましたが、マユという名前がちゃんとあったようです。私も調べるまで知らなかったんですけどね……。
そして、マユちゃんの中の人、新人声優さんだったようで中の人ネタが使えないという事実も発覚。マユちゃんの中の人にはこれからの活躍を期待しております。

ちなみに、ロウが『テロメアをより長く再生し活性化させるのが共食い』と言ってていますが、原作では貴未さん(西尾さんの恋人)が『Rc細胞はテロメアを代替する』と言っています。
正しいのは貴未さんです。所詮ろーちゃんは独学者じゃけぇ。


7区は原作だと喰種レストランのある場所ですが、リアルだとスカイツリーがある場所です。
でも、スカイツリーが完成するのは原作開始の半年前(2012年2月)なので、この時スカイツリー無いんですけどね!
ちなみに、キエさんがまどっち&亜門ペアにやられたのが2008年です。
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