花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第12話 美の法・第四条

 捜査官達のダブルセイバーは、光ではなく赤い赫子でできている。マユはその刃の中に、ギザギザした形状……鱗赫の特徴があるのに気付いた。

 

「鱗赫のクインケなら……っ!」

 

 マユは鱗赫と相性の良い尾赫を生やすと、准特等のクインケを弾く。だが、マユと相対しているのは一人ではない。

 

「おっと、僕を忘れちゃいませんかっ!」

 

 准特等と入れ替わるように、一等捜査官のクインケがマユの頭へと迫っていた。

 

「きゃっ!!」

 

 マユは咄嗟に避けるも顔を薄く切られてしまう。とはいえ、マユも共食いを行う喰種の端くれ。傷は即座に再生していくものの……。

 

─────切られたマスクは戻らない。マスクが地に落ち、マユの素顔が月光に揺れる。

 

「っ、しまった……!」

「一等、写メ」

「既に!」

 

 マユは咄嗟に顔を隠そうとするが、一等は片手で素早く携帯電話を取り出し、マユの顔が隠れる前に写真に収めた。

 

「このっ……!! させるかッ!」

「無駄だ、これで貴様の顔は割れる。とはいえ、貴様にはここで死んで貰うがな」

 

 マユは一等捜査官を止めようとするも、即座に准特等捜査官の妨害が入る。

 

「送信終わりました」

「……間に合わなかった!」

 

 マユの抵抗虚しく、写真は対策局本部へと送信されてしまった。

 

「ここからは自分も加勢します」

「ああ……いや待て、そこから一歩前に出たらすぐ下がれ」

「……? わかりました!」

 

 一等はその指示に従い、一歩進んでから後ろに跳ぶ。

 

 すると、地面から突如マユの尾赫が生えてきた。

 

「地中から赫子!?」

「やはりな……分離赫子か。それも設置型の振動感知……面白いクインケになりそうだ。それゆえに通常の喰種より厄介だが……」

 

 准特等は何も無い場所でダブルセイバーを振るい、地面から飛び出してきた赫子達を切り落とした。

 

「フォースと共にあれば、この程度他愛なし」

「くっ……なら、直接叩くだけ!」

 

 マユは尾赫を振り上げ、准特等に向かって叩きつける。だが、准特等は涼しい顔で回避しながら、マユの尾赫を切り落とした。

 

「そんな大振り当たらんよ。それに……近付いたな?」

「自分もいますよっ!」

 

 一等捜査官もダブルセイバーを器用に回すと、マユの腹部を切り裂く。

 鮮血が舞い、夜闇の庭園を鮮やかに彩った。

 

「外してるぞ。もっとフォースを感じるのだ」

「すみません、赫包からズレましたか……」

「ぁぐ……お、お腹が……」

 

 マユの腹部から吹き出す血液が、庭園の床を汚していく……。

 

「フッ、鱗赫と相性の良い尾赫だからといって、勝ち目があるとは限らない。まぁ……我々が羽赫のクインケを持っているか、貴様が甲赫の喰種だったらすぐに終わっただろうがな……」

 

 マユは尾赫だけでなく甲赫も持っているが、鱗赫の二人組には無駄と判断し、尾赫のみで攻撃を行っていた。

 

「レートはせいぜいA程度か? まぁ、よくもった方だろう……ぬ?」

 

 トドメを刺そうとした准特等が、マユから視線を外す。

 

「どうしたんですか?」

「ああ、もう一体来たようだ」

 

 

─────准特等が呟いた直後、マユの前にロウが飛び込んできた。

 

 

「ね、姉様っ!」

「気付くのが遅れましたわッ! アタクシの失態ですわね……」

 

 

 槍を構えたロウは『特殊な赫子』を纏っており、その姿は青い軽鎧の戦士を彷彿とさせた。

 

 赫者……そんなロウの姿に、准特等は首を横に振る。

 

 

「一等、コイツはそのまま写メれ。()()()

「はいっ! ……ん?」

 

 一等捜査官は即座にロウを写真に撮る……が、准特等の発言に違和感を覚えた。

 

「……え? 無理ってどういう?」

「コイツのフォースは暗黒面に満ちている……つまり……こういう……ことだ……」

 

 准特等の胸には赫子の槍が突き刺さっており、准特等はゆっくりと崩れ落ちていく。

 

 

「准特等ッ!? 本部、更に新手の喰種! 赫者、女、仮称個体『ランサー』!! 准特等が一撃……で……」

 

 一等捜査官の胸にも槍が突き刺さっていた。

 

「こふっ……くっ……最悪、だ……よりにもよって、そんな見た目しやがって……自刃せよ……ラン……サー……」

 

 一等は最後の力を振り絞り、写真付きのメールを本部へ送信すると、ゆっくりと息を引き取った。

 

「……ちょっと前にやってたアニメのセリフですわね? 残念ながら、アタクシは英雄なんかではなくてよ? 色や武器は似てますが」

 

 ロウは槍を一閃し、二人の捜査官の首を刎ねていく。死んでるとは思うが、念の為だ。

 

「……逃げますわよ。他にもハトが潜んでいるかもしれませんわ。戦利品と死体は……勿体ないですが諦めましょう。アタクシの背中へ、背負っていきますわ」

 

 ロウはマユをおぶると、急いでその場から走り去った。

 

 

 

 

 その後、喰種対策局(C C G)のライブラリーにはSSレート喰種『ランサー』と、Aレート喰種『ナッツクラッカー』が登録された。

 どちらも7区を拠点にしていると予測したCCGは、7区の警備を強化するが……その後どちらの喰種もパッタリと目撃情報が消える。

 だが、7区近辺の地域には今も『ランサー』や『ナッツクラッカー』の赫子痕が見つかっているため、CCGは周辺地域を含めた捜査網を張らざるを得なくなった。

 

 

 顔が割れてしまったマユは、外に出ることが減り、店でも顔を半分以上隠すような装備をするようになる。

 マユが担当していた受付の仕事も、後任に引き継いだ。

 

 とはいえ、今や有数の資産家であるロウの庇護下であるマユ。家でもできる娯楽には事欠かない。

 

「見つけた……! これが『ランサー』!」

 

 そんなマユは、あの日の一等捜査官が言った『自刃せよランサー』と、ロウの言った『アニメのセリフ』から、今やロウの異名となったキャラクターの元ネタを発見した。

 

「なら……私は『ナッツクラッカー』なんかじゃなくて……こうなりたい」

 

 画面には紫色の髪をした美女が映し出されている。『ランサー』が登場するアニメに出てくる『ライダー』というキャラクターだ。

 

「綺麗なキャラ……買っちゃお!」

 

 さっそくマユはライダーのコスプレセットをネット注文した。

 

 

 

「その恰好はどうしましたの? これから行くのは職場ではなく狩りですわよ?」

 

 ますます露出の高い衣服に身を包むマユに、ロウは怪訝な顔をする。

 

「ライダーです! 姉様がランサーなら、私はライダーになりますっ!」

「……フフッ、良いでしょう。行きますわよ『ライダー』! 人間や喰種を狩って魔力を回収ですわ!」

「はいっ!」

 

 

 縄張り争いが激しく、喰場の主が居ないとされる7区。かつてはビッグマダムが支配していたとされる地域……。

 

 だが、セレブ界に名を連ねる喰種は、そこの本当の主を知っている。

 

──────────

 

 時が経ち、今は2013年。マユ達従業員はここ半年ほど不安を募らせている。

 

 半年前、ロウはいつも以上に上機嫌で帰ってきた。マユが事情を聞くと、『姉様にお会いできた』とのことだ。

 

 マユ達は当然『マイヤーズ姉様』についてロウから教わっている。

 ロウに5億もの現金を手渡し、ロウのセレブへの第一歩を進ませた者。ロウを超える美貌。そして……ロウを超える強さ。

 

 だが、マユ達は市井の情報も得ている。15区に住むたった一人の喰種が、どれだけ危険で恐ろしい存在かを……。

 

 15区に存在したかつての仲間を軒並み捕食し、人間よりも喰種を捕食し、13区の主を蹂躙し顔を剥ぎ、姿さえ知らない恐怖の怪物『レザーフェイス』。

 

 ロウが何日も帰って来ない日は、レザーフェイスに喰い殺されてしまったんじゃないかと肝を冷やし、ロウが五体満足で帰って来た時は、全員が胸をなでおろす。

 

 そんな日々が続き、彼女達の不安は大きくなっていく。

 

 ロウはある時を境に医学書を読み出した。ロウの眺めるタブレットには意味不明な文字列が並び、マユ達はロウが自分の知らないどこか遠くに行ってしまうのではないかという恐怖を感じていた。

 

 そして、20区掃討戦のニュースが流れ、それと共に新たな3体のSSSレート喰種と、1体のSSレート喰種が発表される。

 

 そのSSSレート喰種の1体こそが、ロウであった……。

 

 

 自分達の知らない所で激しい戦いを繰り広げていたロウに、自分達は捨てられるんじゃないかと不安が募っていく。

 

 

 そんな中、ロウがマユ達の元へ帰ってきた。

 

 

「姉様……お話があります」

 

 マユと最初の7人は、思い詰めた顔でロウを見つめる。

 

「どうしたのマユ。何かありまして?」

「……姉様は……私達を捨てますか……?」

「一体何を言っ……」

 

 目に涙を浮かべたマユに、ロウは首を傾げてから周りを見回すが……。

 

 他7人も同様に涙を浮かべている光景に、ロウは何か自分が失敗したことを悟った。

 

 

「……アナタ達はなぜ泣いているのかしら?」

「……最近っ、ちっとも構ってくれないよ姉様っ!! 15区に行って全然帰ってこないし、帰ってきても何か難しいことしてる!! お土産にご飯をたくさん持ってきてくれるのは嬉しいけど、そうじゃないよっ! 私達は姉様と一緒に狩りがしたいよっ! 帰ってきてよ姉様っ!! 姉様の姉様が一人しか居ないように、私達の姉様だって一人しか居ないんだよぉ……寂しいよ姉様……いつか15区のブギーマンに喰い殺されるんじゃないか不安で眠れないよ……勝手にSSSレートになんてなんないでよっ……『7区(わたしたち)』を捨てて……『15区(むこうがわ)』へ行かないでよぉっ……!!」

 

 癇癪を起こしながら泣くマユと、静かに涙を流す従業員達に、ロウは自分の失敗を理解した。

 

「そういうことでしたのね……アタクシは……こんなにも慕われていましたのね……謝罪しますわ、アナタ達を仲間外れにしたことを。これからはもう、アナタ達を置いていったりしませんわ。こんなにアタクシを慕ってくれているのなら、()()()()()()()()……」

 

 ロウは携帯で誰かにメールを打ってから、マユ達を優しく抱き締める。

 

「姉様っ!! もういなくなんないでっ!!」

「我々従業員一同、レディ・ロウを心よりお慕いしております。だからこそ、これからも我々と共に居てください」

「フフッ、みんなアタクシの大切な仲間ですわ。だから……」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……え゛?」

 

 ロウの予想外の回答に、マユの涙が引っ込んだ。

 

「どうやら、姉様達は1時間程で到着みたいですわ」

 

 ロウは返ってきたメールを見ながら呟く。

 

「れ……レディ? ここに来るんですか? 15区の……マイヤーズ様が?」

「ええ。フレディもペニーワイズも一緒ですわ。歓待の用意は要りませんわよ? 姉様をお迎えするのはここにいるアタクシ達だけでやりますわよ」

 

 一時間後に15区の怪物達が来る。マユ達に心の準備をする余裕は無かった……。

 

──────────

 

「いらっしゃいませ、レディ・ロウの姉君(あねぎみ)様と仲間の皆様」

 

 2号は震えそうになる足をこらえつつ、カオリ達を出迎える。

 

 2号の目の前には黒いツナギにハロウィンマスクを被った女、道化師の格好をした男、ジーパンと縞々セーターに焼けただれた顔のようなマスクをした性別不明の子供が立っている。

 

「お招き感謝、私はペニーワイズ。踊る道化師でございます」

「はじめまして、フレディです。ろー(ねぇ)とその会社の皆様、よろしくお願いします」

「お招きいただきありがとうございまーす! ……ろーちゃんも中々良い子を揃えてるねー。それに……」

 

 軽い挨拶をすると、カオリはゆっくりとマユへ歩いていく。

 

「ひっ……」

「へぇ、この子……私と同じ二種持ちなんだねー!」

 

 至近距離のカオリ。マユは絶対的捕食者を目の前に、視界が暗く、息が苦しくなり……。

 

─────マユはパタリと倒れた。

 

「えぇー……ろーちゃーん? 何を吹き込んだのかなー? この子気絶しちゃったんだけどー」

 

 極度の緊張で気絶してしまったマユを一瞥し、カオリはロウへ不満を告げる。

 だが、ロウはカオリの悪評を一切語っていない。

 

「……姉様は隻眼の王とも言われている喰種『エト』を下し、CCG最高戦力の有馬を負傷させた存在。そして、長らく謎だった喰種が消える街に住む『喰種を捕食する喰種』として存在が知れ渡りました。皆には姉様が危険な存在ではないと伝えてはいますが、それでも限界がありましてよ? 噂レベルの存在だった今までと違い、今後は姉様が現れるだけで気絶する喰種も出るでしょう……」

「そっかー。それじゃしょうがないねー」

 

 カオリは楽しそうに笑うが、ハロウィンマスクごしであるため、表情を伺うことはできなかった。

 

「それじゃ今度の共食い小旅行は、ここのみんなで行こっかー! ……あ、後一人でいいんだけど、運転手って居る? ペニーワイズだけだと運転手が足りないや」

「分かりました。アタクシからは雑用長のパーシーを連れて行きますわね」

 

 哀れパーシー、自身の知らぬ間に地獄への遠征が決まった瞬間である。

 

 

 

 その後、従業員達が思っていたよりもカオリ達はフレンドリーであることが分かったため、多少の緊張はあるものの、楽しい時間を過ごした。

 

 カオリが居るにも拘わらず、マユ達が楽しい時間を過ごせた一端として、カオリが持参した『美味しい食事』があったのは言うまでもない。

 なにせ、カオリが持参した肉は、とっておきともいえる『カネキの肉』。かの月山(グルメ)をも虜にした絶品である。

 

 なお、さらにそれを超える美食『白黒姉妹の肉』は、数が少ないため持ってこなかったのは内緒だ。

 

「なにこれ……大姉様(おおねえさま)が持ってきたこれ……美味しすぎるっ……!! これが6区で話題になってた『眼帯』って喰種の肉……? 隻眼の喰種って美味しいんですね!!」

「まさかこれほどとは……レディ・マイヤーズ、隻眼の梟も美味しかったのですか?」

 

 怯えていたマユ達はすっかり懐柔され、その中で2号はエトの肉について尋ねたが……。

 

 カオリは首を横に振る。

 

「食べてないけど、もう偽梟さんはニオイが駄目になっちゃってたよー……あのニオイは『ゴミ捨て場の肉』を食べ過ぎてるねー」

「ゴミ捨て場の肉……?」

「2号、24区に存在する『Rc細胞壁』の事ですわよ」

「……えっ、アレ食べれるんですか?」

 

 ロウの補足に2号は驚く。Rc細胞壁は極めて堅く、食べることなどできそうにないからだ。事実、2号の鱗赫では削るのがやっとである。

 

「食べれるよー? しかも、共食いと同じ様に赫子が強くなれるよ? ……だけど、人間の食べ物よりも不味いし、あーるしー細胞の活性化による痛みも酷いねー……そして、食べると自分の肉が不味くなるよ。勿体ないよー……」

 

 カオリは深く溜め息を吐いた。

 

「まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って考えれば、あえて食べる意味はあるのかもしれないけどねー」

 

 ヤレヤレと肩を竦めるカオリに、2号達はRc細胞壁を食べておこうと心に決めた。

 

 例え多少仲良くなったとはいえ、彼女達にとって自分をいつでも捕食できるカオリの存在は怖いのである。

 

 

 




 ラ イ ダ ー ( 意 味 深 ) 
なお、当方FateはPC版StayNightと書籍版Zeroしか知らないので、ライダーと言えばメデューサ or アレキサンダーなのです。そしてランサーは自刃する。

次からは時系列が戻り、無印編とre編の間となりまぁす!
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