花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第13話 共喰サーキュレーション

神代(かみしろ)ちゃんを攫おう!」

 

 花屋を辞め、一日中引きこもって映画を見ていたカオリが突如叫んだ。

 

「……どうしたのお姉ちゃん? お姉ちゃんが神代上等捜査官でしょ?」

 

 のんびりとベッドに寝転がっていたリオは怪訝そうに首を傾げる。リオにとって『神代リゼ』とは、カオリの別名だ。

 

「んー、神代ちゃんの名前はもう使わないかなー。また別の名前を使う予定だよ。神代ちゃんは『大喰い』って呼ばれてた子だね。死んだと思ってたから勝手に名前使っちゃったけど、まさか生きてたとはねー」

「あれ? 『大喰い』って確かカネキさんの赫子の……」

 

 リオは以前、月山から『大喰い』について聞いている。月山が言うには『食事に質より量を求める卑しい雌豚』だそうだ。

 

「そだよー。嘉納さんが美味しいご飯を作るための材料。カネキさんや白黒さんの『元ネタ』ってところだねー。今は四方さんが捕まえてるから、奪ってこようかなーって」

「そっかぁ。その神代さん攫うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()?」

 

 リオの言うとおり、カオリ達は独自に人工喰種化実験を行っている。

 

 ロウは莫大な資金を以て、7区と15区の地下に秘密研究所を作り上げた。

 ニムラはその立場を利用し、CCGの持つ技術をロウ達へ流した。

 そして、カオリは持ち前の能力で大量の実験体を確保した。

 

 三者三様の力が合わさった結果、カオリ達の秘密研究所は、アオギリを大幅に上回る技術レベルを擁している。

 現にアオギリは『人間の人工喰種化実験』しか行えていないが、カオリ達は上記以外にも『クインクス』や『オルゴール』といった実験も行っていた。

 

─────そして何より、ニムラには教えていない『本命』の研究もある……。

 

 

「うーん。神代ちゃんの赫子には何か秘密がありそうなのは勿論なんだけど、一番の理由は()()()()()()()()()()()()()かなー」

「ロマさんに?」

 

 リオは首を傾げる。ロマは果たしてそういうことに興味があっただろうか……?

 

「そそ。帆糸さんが『レザーフェイスさん、15区で人工喰種化やってるなら、神代リゼを宗ちゃんより先にゲットして下さい! 宗ちゃんと嘉納がリゼについてなんか情報隠してるっぽいので!』って言ってたんだよねー」

 

 ロマにとって大切なのは、ニムラの理想よりも『自分が愉しめるかどうか』だ。

 ニムラとカオリを比べたとき、カオリの方がロクでもない(おもしろい)事を巻き起こしてくれるとロマは判断していた。

 

 

「そんなワケで、ニムちゃんが何か隠している神代ちゃんを攫って、ニムちゃんが泣き叫ぶくらい弄り回すぞー! リオちゃんはどうする? 一緒に来る?」

「いかない。昨日やった共食いの反動で体痛いし」

「そっかー。それじゃ行ってくるねー」

 

 カオリは一人、愛用のスクーターに乗って20区へ向かった。

 

──────────

 

 その日の夜。かつて覚えたリゼのニオイを辿り、カオリは多数のコンテナが積まれている廃倉庫にやってきた。

 恰好はフルフェイスヘルメットにグレーのスーツ。神代上等捜査官の衣装である。

 

 

 カオリは真っ直ぐにコンテナの山へ向けて歩き……。

 

 物陰から飛来してきた電撃に直撃した。

 

「…………レザーフェイス、これ以上このコンテナに近寄るな」

 

 物陰から紫電を纏った四方が告げる。しかしカオリは服が焦げた程度で、体には傷一つ無い。

 

「電気は無駄だよカラスさん。私と青メガネの戦いは見てなかったのかな?」

 

 四方の警告を無視し、カオリは構わず進んでいく。

 

「それと、次にやろうとしてる事も無駄だよー?」

 

 カオリはそう告げると、自身の側頭部に手をかざす。

 

(フン)ッ! ……何ィ!?」

 

 手をかざした途端、カオリへ強烈な脚撃が飛来……カオリの後方に隠れていた(シャチ)が、全力の蹴りを放っていた。

 

 しかし鯱が放った渾身の蹴りは、カオリの手を弾き飛ばすことができず、逆に鯱の足首に鈍痛が走る結果となった。

 

「んー、油断したろーちゃんに運良く勝てたとしてさ、肉弾戦で私を突破できると思われていたのなら哀しいなー。それとも、私が赫子を使ってない様に見えたかなー? ざんねんっ! 赫子は服の下に纏っていましたー!」

 

 カオリかワイシャツのボタンを外すと、その下には黒い赫子が細かく巻き付いている。

 

「あ、でも手の甲には赫子してなかったね! ドンマイ!」

 

 愉しそうに嗤うカオリに、鯱は苦々しく顔を歪めた。

 

()ゥ……娘は渡さぬッ……!」

「ふふふっ、だいじょーぶ! あなたの娘さんは強くなるよっ! 私が『大喰い』に相応しい喰種にしてあげるっ」

 

 カオリはゆっくりと、そして堂々とコンテナに近付いていく。

 その間も四方は幾つもの電撃を放ち、鯱が間を縫うように打撃を叩き込んでいくが、カオリの足は止まらない。

 

「……はぁー……ねぇ、行きつけのお面屋さんの親友と、これから仲間になる神代ちゃんのおとーさん。私があなた達を攻撃しないのはそれが理由。私は優しいからねー? ……でも、あんまりうるさいと……」

 

 カオリは鬱陶しそうに呟くと、側頭部に向けて蹴りを放っていた鯱の足を掴んだ。

 カオリは移動速度こそ遅いが、反応速度は通常の喰種を超える。常人には捉えることすらできない蹴りであったとしても……。

 

「こうなるよー」

 

 メシャリと音を立て、鯱の右足首はカオリに握り潰された。

 

()ァァァアアアッ!!?」

「うるさいなー!」

「ゴバッ……!?」

 

 痛みに叫ぶ鯱を尾赫で吹き飛ばすと、鯱は静かになった。

 

「ね? だから諦めようねー? それで、カラスさんも諦めてくれるよね? 梟さんが居ない20区はもう、安住の地なんかじゃない。だから諦めてくれないと、生き残ってる従業員……青髪の子と、メガネの子を食卓に並べちゃうよー?」

 

 青髪の子(トーカ)が殺される。それは四方にとって、自身の死以上の意味を持っている。

 

「やめろっ! トーカには手を出すな!」

 

 トーカの母、霧嶋ヒカリ。旧姓は四方ヒカリ……トーカは四方の姉が残した忘れ形見であり、失うわけには行かなかった。

 

「うん? 『アオギリの神代さん』がいるから霧嶋さんって言わないようにしたのに……名前言っちゃうんだ? ……まぁいいや、非戦闘員の霧嶋さんなら、ペニーワイズですら攫えるからね? 分かったらそこを退いて欲しいなー? 大人しく退いてくれないと、カラスさんの赫包を毟るよ? ヤクモちゃんにしたような事を、霧嶋さんにしちゃうよ?」

 

 四方にとって、リゼよりもトーカが大切だ。

 カオリに攻撃が効いてない以上、リゼは確実に奪われる。その上トーカまでも失うことは、四方にとって耐えられるモノではない。

 

「……すまない、鯱……」

 

 四方は顔を歪めながらも、コンテナの前から動いた。

 

「うん、ありがとうカラスさん。それじゃ早速……こんばんは神代ちゃー……ん?」

 

 コンテナの中に入ったカオリの目の前には、拘束布に包まれた物体が横たわっている。

 

「…………」

 

 カオリは拘束布を尾赫で切り裂くと、中からリゼが出てきたのだが……。

 

「あ……アアアアアッッ!! 肉……ニクが食べたいのよぉっ!! ……肉……? 肉が目の前に目の前にィィ!!」

 

 喰種は飢餓状態に陥ると、理性が急速に崩壊する。目の前にいるリゼは相当飢えていたのか、目の前の相手が誰かも分からず飛びかかった。

 

「落ち着いてね?」

 

 カオリはリゼに向け尾赫を一閃。防御姿勢すら取れなかったリゼは、勢い良く地面に叩きつけられた。

 

「あ、が……お願……い……肉を……ちょう……だいっ!」

「もー、しょうがないなー! それじゃあ肉よりもっと良いものをあげるね?」

 

 カオリは自身の甲赫、その赫包の一つを半分ほど抉り取る。

 

「っ()ぅっ……! はい、どーぞっ!」

 

 リゼの口に赫包の欠片をねじ込むと同時に、カオリはリゼを尾赫でぐるぐる巻きにした。

 

「んっ、んぐっ……うぅっ、死ぬほど不味いわ……ん? 体が……い……痛い……いぎゃぁぁぁあああああッッ!!」

 

 カオリの持つ高純度のRc細胞、その集合体である赫包の一部。それはリゼの餓えを瞬く間に満たしたが、同時にRc細胞の異常活性による激痛が始まった。

 

「リゼっ!!」

 

 リゼの絶叫を聞きつけ、鯱は足を引きずりながらもコンテナの中へ飛び込んでくる。

 

「お父様ァ! 痛いよ゛ぉ!!体が腐り落ちてる゛の゛よ゛ぉ゛っ!!」

「寝ててねー?」

 

 助けを求める娘へ駆け寄ろうとする鯱に、カオリの甲赫が鞭のようにしなり……。

 

「リゼ、今助ベァッ!?」

 

 鯱を再び外へと吹き飛ばした。

 

 しばらくの間リゼの叫びは続くが、段々と収まってきたのか、肩で息をする程度まで回復した。

 

「はぁっ……はぁっ……ちょっと四方! この肉腐ってたわよッ!! あまりの不味さにお父様の幻覚すら見えたじゃないの! 貴方なんてもの食べ、さ……せ……」

 

 リゼは食事を与えた喰種が四方だと思っていたのか、思わず怒鳴りつけるが……。

 

「神代ちゃんやっほー。四方さんじゃなくてソーヤーさんだよ?」

 

 カオリが赫子をヒラヒラと振っていた。

 

「あ……レザ……きゅぅっ……」

 

 かつてカオリから一方的に蹂躙され、捕食されかけたトラウマが蘇ったのか、リゼは静かに気を失う。

 

「寝ちゃった? よっぽどお腹が空いてたんだねー。それじゃ、お家に帰ろっか! 一緒に来るよね? うん、一緒に行こっかー!」

 

 そんな様子をカオリは自分勝手に納得させると、リゼを担いでコンテナから出た。

 

「……レザーフェイス、お前の目的はなんだ……」

 

 四方は担がれたリゼを哀しそうに見つめながら、カオリへ疑問を投げ掛ける。

 

「私の夢は昔から変わってないですよ? 花になることです」

 

 カオリは足を止めることなく四方に告げると、スクーターの置いてある場所目指し、暗闇の中へと消えていった。

 

 

──────────

 

 リゼが目を覚ますと、そこはしらない部屋だった。

 

「……ここ、どこかしら? 四方! 居ないの?」

 

 リゼが声を張り上げると、鉄の扉がガラガラと音を立てて乱暴に開く。それを四方かと思ったリゼだが、ドアの向こうに立っていた人物は、リゼにとって望んでいた人物ではなかった。

 

「ひぃっ……な、なんでレザーフェイスがここに……!?」

「おはよーっ! 目が覚めた? 早速だけど、神代ちゃんには色々言いたいことと聞きたいことがあるから直接脳味噌に聞くね!」

 

 カオリは極細の尾赫を生やすと、リゼの耳へと入れていく。

 

「へ? あがはッ!?……いぎっ……」

「動くと危険だよー? まぁ喰種だから大丈夫だろうけどね」

 

 

 しばらくするとリゼの目から光が消え、虚ろな表情へと変わる。

 

 

「それじゃあ、まずは自己紹介から、あなたは何者?」

「大喰いの神代リゼ……」

 

「鉄骨落下事件について知ってることは?」

「……ニムラが……なんで私に……」

 

「……ニムラとの関係」

「おさななじみ」

 

「? ……神代ちゃんの実家」

和修(わしゅう)家……」

 

「和修家での立場」

「和修家繁栄のための繁殖用個体」

 

「鯱との馴れ初め」

「和修から逃げた私を偶然拾った」

 

「昔の名前は和修リゼ?」

「繁殖用の個体に苗字は付かない」

 

「私のこと好き?」

「化け物」

 

「むー……」

 

 カオリはリゼの耳から赫子を引き抜いた。

 

「あっ……あ……嘘……どうして私はあんなことを口走って……!?」

 

 自分が脳を弄られている間も記憶はあったのか、リゼは青い顔で震えだす。そんなリゼにカオリは優しく微笑んだ。

 

「脳味噌を弄り回したからだよー! 拷問で口を割らせるのも悪くないとは思うけど、こっちの方が手っ取り早いし、これから仲間になる相手に拷問もどうかと思うよねっ?」

 

 まるでこれが優しい方法と言わんばかりのカオリに、リゼは引きつった笑みを浮かべる。

 

「……脳味噌を弄るのも立派な拷問よ……というか今のショックで思い出したわ……私、攫われたのよね? ということは……ここは15区?」

「うん、15区だよー。そういえば、神代ちゃんは飢えて狂ってた時の記憶や、嘉納さんちの地下で容器の中に入れられてた時の記憶って残ってる?」

 

 リゼは首を横に振る。監禁中の記憶はところどころ抜けており、残ってる記憶も酷く曖昧だ。

 

「悪いけど、私がニムラに潰された日から今までの情報が欲しいわ。教えてくれるのよね? だって私達は仲間で友達なのでしょう?」

「むー、さっき化け物って言ってたのに調子良いんだからなぁー……まぁいいや。それじゃあここ1年で起きたことを教えていってあげるね!」

 

 カオリはここ1年間の思い出を語る。その中に、リゼにとって嬉しいニュースもあれば、悪いニュースもあった。

 

(ヴィー)のクズ共が死んだのは良いニュースだけど……CCGに顔がバレてるし、ニムラが仲間にいるのね……それに……神代リゼの名前がもう使えないじゃないのよ!? ……勝手に名前を使わないで欲しかったわ……」

「ごめんねー? 神代ちゃんは死んだと思ってたし。でも安心してね! 私が神代ちゃんに新しい名前と顔をあげるよー」

 

 

 カオリは再び尾赫を生やすと、リゼの体を縛り上げていく。リゼはこの時、カオリが何か恐ろしい事を自分にするのではという確信があった。

 

 

「ふふふっ、物凄く痛いけど、痛みを和らげてあげるね?」

「ちょっ、ソレ無し!! やめて、ソレを耳に入れな……あ゛っ……!?」

 

 ぞぷりと音を立て、再びリゼの耳へと赫子が入り込んでいく。

 

「それじゃあ、楽しい楽しい顔剥ぎの時間だよー!」

 

 カオリは甲赫をナイフの様に展開し……。

 

─────リゼの顎に突き刺した。

 

 だが、リゼの体は動かない。脳を支配しているのはカオリであり、リゼは激痛をじっと受けるしかないのだ。

 

「うんうん、暴れないね! やっぱりここが動きを司ってる部分なのは間違いなさそうだねー。それじゃ、ささっといこー!」

 

 顎からうなじへ、うなじから顎へと切れ込みを入れ、その傷口へ赫子のナイフを入れ、皮膚を傷付けないように肉と皮膚をはがしていく。

 

 丁寧に、それでいて素早く。カオリはリゼの顔を剥いでいき……。

 

「よっし! ヤクモちゃんの時よりも私は上達してるねー!」

 

 髪の毛ごと剥ぎ取った皮膚は、完璧な形を保っていた。

 

 カオリはその出来映えに深く頷いた後、人体模型のような顔になったリゼへ一枚の画像を見せる。

 

 目つきの柔らかい、茶髪の女だった。

 

 

「これが神代ちゃんの『元々の顔』だよー? だから……っ(い゛)たた……再生するならこの顔になるんだよっ!!」

 

 カオリは自分の尾赫……その赫包を少しだけ抉り出し、リゼの口へと叩き込む。

 

「…………!?」

 

 リゼが赫包を飲み込むと、緩やかに皮膚が再生していく。

 

─────だが、再生される顔は……カオリの見せた画像の女だ。

 

 元々のリゼよりも顔付きが柔らかく、髪は元々の紫色ではなく茶色の髪が生える。

 

 リゼというキャンバスに現れたのは、リゼとは別人の顔だった。

 

「できたー! でも一時的に脳を勘違いさせて再生してるだけだから、しばらく顔に傷付けちゃダメだよー?」

 

 

 最後にリゼの口へ普通の肉を叩き込んでから、尾赫を耳から引き抜く。

 

 

「おめでとう! 今日からあなたの名前は、『椎名利沙(しいなリサ)』だよ! 宜しくねシーナちゃんっ!」

 

 強力なSSレート喰種『眼帯』の原点とも言える彼女の素質はカオリを越えており、リオにすら匹敵する。

 

 

 この日、15区は更に凶悪な仲間を迎えいれた。

 




 リ ゼ 加 入 
お兄さん許してパワーバランス壊れちゃ^~う

■椎名利沙という名前について
椎名まゆり(シュタインズゲート)
メルフォンシーナ(PSO2)
リサ(PSO2)

全部中の人繋がり
キジマさんやウタさんを始めとして、オンラインゲームPSO2ネタが割と含まれている本作ですが、当方エピソード4で脱落した手合いです。無課金無wiki勢では魔人ファレグが倒せませんでした。
(ノ)'瓜`(ヾ)火力と制限時間足りない

ガチ勢なら10分くらいで倒せる壊世密林アンガ・ファンダージソロ討伐に5時間位かかる程度の火力だから仕方ないね……。
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