花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第14話 Surge

 ロウが経営する7区の巨大風俗店……その地下にある『実験場』にて、カオリはロウの成果を眺めていた。

 

「ふふふっ、人工喰種化は安定してできるようになったって考えて良いのかなー?」

「はい。失敗して死ぬケースや『タロチャン』になるケースは殆ど潰せましたので、最低限の水準は確保できる計算ですわ」

 

 暗殺と人攫いに長けたカオリ、その薫陶(くんとう)を受けたロウ。そんなロウが指揮する『従業員達』……実験材料の調達量はアオギリを大きく上回っている。

 そして、カオリとロウの持つ莫大な財力により、地下研究所はアオギリよりも進んだ機材を揃えている。

 さらに、CCGと和修家にパイプを持つニムラにより『嘉納すら持っていない技術』を入手している。

 

─────いわば、ここは喰種の研究に関して世界で最も進んだ場所である。

 

「いぇーい! 他のはー?」

「では、始めに旧多(PG)が入手した『クインクス計画』と『オルゴール計画』の実験結果について説明しますわね。クインクス実験は、人工喰種化よりも大幅に安定した結果を出しましたわ。ですが、赫子の出力は大幅に下がりますわね……そして何より、クインケ鋼の入手難度を考慮するとマイナスもいいとこでしてよ……残念ですが人工喰種化の方が良いですわね」

 

 人間にクインケ鋼でコーティングした赫包を埋め込み、『人工喰種よりも安全で安心な兵士を作る研究』がクインクス計画である。

 事実、ロウとニムラによるクインクス実験は人工喰種化よりも大幅に高い成功例を出した。

 

 しかし、クインクス実験の必須材料となるクインケ鋼の入手は極めて難しく、人工喰種化よりも手順が面倒な上に、成功しても人工喰種より弱いといった欠点があり、お蔵入りとなった。

 

「続いてオルゴール実験ですが、こちらもお蔵入りですわね……成功例こそ人工喰種化よりは上でしたが、こちらもクインケ鋼を使う上に、得られるモノが少な過ぎですわ。そもそも、やってから思ったのですが……姉様の脳改造なら確定成功で同一結果が得られますわ……得られたモノといえば、アタクシがドイツ語に詳しくなった事くらいですわね」

 

 オルゴール計画……正式名称『シュピールドーゼ』。クインケの赫包コントロール技術と遠隔起動機構を応用した『自立式クインケ』を作る計画だ。

 喰種そのものを人間側の武器として使うことを目的とした計画だが、カオリ達にとっては必要の無いモノであった。

 

「なら総統閣下の『おっぱいぷるーんぷるん』ってどういう意味なの?」

「und betrogen worden……『騙されていた』という意味ですわね」

 

 なお『Sie ist ohne Ehre(ちくしょうめー)』は『お前に名誉は無い』という意味である。

 

 

「そうなんだ! それで……『本命』はどう?」

「……残念ですがそちらに関しては被験体が脆弱ゆえに失敗しております。なにぶん旧多(PG)に秘密の実験ゆえ、どうしても手探りになってしまいますわ……」

 

 ロウは首を横に振る。本命の研究……『喰種への人工喰種化施術』は人間の人工喰種化よりも難航していた。

 

「一番の原因は、赫包同士の干渉で発生する内部崩壊に耐えられないことですわ……並の喰種が持つ再生力では内部崩壊に再生が追いつかず、やがて死にいたります。通常の鱗赫程度の再生では足りないため、最低でも鱗赫の半赫者で試したい所ですが、生憎そこまで優秀な実験台は見つかっておりません……『Helter Skelter』のロマやニコ辺りを実験に使えれば良いのですが、現状は味方ですし……」

 

 鱗赫の喰種は再生力が高い。だが、ロウの求める条件に該当する喰種は味方陣営だ。

 

「んー……鱗赫じゃないけど、再生力ならアオギリの『口だけ仮面の人』や『小説家さん』はどうかなー? 尾赫や羽赫だけど、再生力なら高かったよー?」

「……流石にアオギリの最高幹部やボスを確保するにはアタクシの保有する従業員達では無理ですわよ? ……ゆえに、姉様やリオにも協力していただく必要がありますわ。大規模な戦闘になるかと」

 

 アオギリとの全面衝突。おそらく問題無く片付くだろうとは思いつつも、カオリは『その後の事』を考慮する。

 リオは上空から、カオリは地中から、ロウとリゼと小林は地上から攻め、最優先でタタラを殺す。タタラさえ消えればアオギリで厄介なのはノロとエトだけであるため、勝利は確実……なのだが、その問題はその後だ。

 

 アオギリと大規模な戦闘を行えば、間違いなく捜査官達が押し寄せる。捜査官達にはCRcガスを始めとした対喰種用装備が豊富にあるため、予想外の損耗を受ける可能性があった。

 

「うーん……アオギリはともかく、その後で捜査官さん達とぶつかり合うには準備が要るよねぇ」

「はい。ですので今はアオギリと事を構えるよりも、人工喰種の量産を優先いたしますわ。ある程度生産が軌道に乗りましたら、姉様には脳改造をお願いしますので……っと、話を戻しますわよ? アタクシが鱗赫の実験体を求める理由として、鱗赫の喰種……より正確に言うならば『再生能力』の高い個体は他の赫子を持つ喰種よりも長い時間生存しましたの。この紙を御覧くださいませ」

 

 ロウはカオリにA4の紙を渡す。そこには各実験体の強さ、所有赫子、再生速度、埋め込んだ赫包の種類、手術に使った『カオリの尾赫の粉末』の量、術後の経過等が記載されている。

 確かにロウの言う通り、再生能力的の高い喰種であればあるほど、生存日数が長いようだ。

 

「実験の結果、他者の赫包を埋め込まれた喰種は、死ぬまでの間に戦闘能力が飛躍的に向上しています。また、埋め込まれた赫包は少しずつではありますが定着傾向にあることも分かっています。ですが、内部崩壊に再生が追いつかず、定着する前に死にましたわ……」

 

 ロウの説明に、カオリは『本命』の成功を予感した。

 

「……んー? ここまで分かってるなら試せるね。やろっか!」

「っ!? ご冗談はおやめくださいまし! いくら『本命』とはいえ、そこまで事を急かなくても! そもそも、成功例はゼロなのですわよっ!?」

 

 カオリの『本命』……それはリオの『捕食対象の赫子を得る能力を持つ赫子』と、リゼの『驚異的な成長能力と再生能力を持つ赫子』を()()()()()に移植することである。

 

「ねぇろーちゃん? 一番長く生存したのは『再生能力が高い喰種』へ『手術時に私の粉末を使った場合』なんだよね? なら再生力が高くて、粉末の原料を体内に持っている私ならやれると思わない?」

「ですが成功例はありませんのよ!? それに未だ単一の赫包移植しかしておりませんわ! ()()()()はまだ実施すらしていませんわ!」

 

 医学的見解から考えれば、ロウの言うことこそ正しい。いくらなんでも実績がゼロだ。

 手術に失敗し死ぬ危険性は極めて高い。

 

 だが……カオリは首を横に振る。

 

「駄目な時は部位を抉り取ればいい。そもそも、そこまで悠長に待ってられないよ? リオちゃんもシーナちゃんも驚異的な速さで強くなってる……シーナちゃんの赫子はリオちゃんの赫子を手に入れてからでも良いかもしれないけど、リオちゃんの赫子を経由する事で変質するかもしれない……だから、私は二人の赫子を移植する。ろーちゃんは心配してくれてるんだよね? でもね、これはもう決定事項」

 

 カオリはロウを優しく撫でつつも、ハッキリと告げた。

 

 今宵、カオリへの赫包移植手術が始まる……!

 

 

 

「……ちなみに、『養殖』はどう?」

「まだ始めてから間もないのでなんとも。せめて1年は様子を見ませんと」

 

 なお、ニムラへ秘密にしている実験は、一つだけではない。 

 

 

 

──────────

 

 15区の地下にある24区……所謂『いつものゴミ捨て場』にカオリ達は集まっていた。

 

「すでにみんなには伝えてるけど、私はもしかしたら数年単位で目覚めないかもしれないから、その時はマイケルの指示に従ってね?」

 

 カオリはこの施術で、かつてのように数年間眠り続ける可能性を考慮している。

 とはいえ再生能力は当時の比ではないため、当時より早く起きられるとも思っていた。

 

「ヘッドホンよし、MP3プレイヤーよし、肉よし。それじゃあ始めるよ! まずフレディと()()()()()()はうつ伏せになってねー? マイケルは私が暴走した場合に備えて赫者で待機、ペニーワイズは記録係だよっ! さてと……」

 

 いつものマスクではなく『目出帽(バラクラバ)』を被り、レザーフェイス衣装とヘッドホンを装備したカオリは大きく深呼吸を繰り返し、精神を研ぎ澄ませる。

 緊張を、恐怖を、興奮を吐き出し、平静を吸い込むかのように、ゆっくり……ゆっくりと呼吸を繰り返していく。

 

「ふぅーっ……よし、はじめるよっ!」

 

 カオリは2本の尾赫をリオの肩とリゼの腰へ当て……一瞬のうちに赫包を切り取った!

 

「あっ……ぐ!!」

「痛ぁぁアアアアッ!? ちょっと! 麻酔くらいしなさいよ!? 嘉納だってそれくらいの配慮はあったわよ!! っ痛……本当洒落にならないくらい痛いわ……」

 

 赫包の損傷によるダメージが二人を襲う。痛みに慣れたリオは小さく声を漏らすだけであったが、大きな痛みになれていないリゼは激痛に声を荒らげる。

 

「ごめんねー。でもあんまり痛くないようにはしたんだよー?」

 

 カオリはリゼ達に謝りながら、上半身のワイシャツを脱ぎ捨てた。

 上半身の衣服が下着とエプロンのみであるため、小林は横乳の見える位置に移動しようとするが……。

 

「ストップですわ。それ以上はアナタが浮かび上がる事になりましてよ? 姉様の背中のみを映しなさい」

「おーぅ……ほんの冗談ですとも……」

 

 すぐさまロウに察知され、小林の楽しみはお預けとなった。

 

「ふふっ、別に良いんだけどねー。マイケル、準備はいい?」

「勿論ですわ!」

 

 ロウは素早く赫者へ変わり、リオ達の前に立つ。

 

 カオリはそれを確認すると、自身の右肩と左腰を赫子で穿(うが)ち、素早く赫包を埋め込んだ。

 穿たれた穴は即座に再生し、二種の赫包(いぶつ)がカオリの体内へと組み込まれていく。

 

「よしっ、とりあえず二つの赫包を癒着させたよ! 今のとこは大丈夫かなー? 内部崩壊も起こってないみたいだし?」

 

 なんともなさそうなカオリの様子に、ロウ達は安堵の吐息を吐く。

 

─────だが、異変は突如訪れた……!

 

「……ん? あー……ごめんマイケル。やっぱダメかも」

 

 カオリがそう告げた途端、カオリの両足がもげた。

 

 否、足だけではなく全身がボロボロと崩れていく……!

 

「姉様っ!?」

「……痛い。この前『白髪さん』に焼かれた時よりも痛い……『なまはげ』に蹂躙された時よりも痛い……痛い痛い痛い痛いなぁぁぁああああああッ!!」

 

 カオリは痛みに激昂しながらも『自身の音声』が入っているMP3プレイヤーを押す。ヘッドホンからは大音量で声が響き、自分自身に指示を与えていく……。

 

「……頭に花。痛覚を遮断。固定。あぁ、痛くない。痛くないなぁ! くひひ……っ!! アハハハハハ!!」

 

 カオリはブツブツと呟きながら、頭頂部に赫子の花を咲かす。

 

 花の根はカオリの脳を突き刺して、脳や神経の機能を破壊していく。

 それは痛みから逃れる手段としては有効であるかもしれないが、乱暴に根が突き刺さった頭からは血液が滲み出していた。

 

「おねぇちゃん……」

 

 カオリの体は急速に腐り落ちていく。だが、持ち前の即時再生を繰り返し、かろうじて生命体と呼べる姿を保っていた。

 

「ちょっとランサー? アレ、思いっきり失敗してないかしら? 喰種(グール)じゃなくてアンデッドの屍人(グール)みたいになってるんだけど……?」

「……今までのケースとはまるで違う……そもそも今までの実験台は、埋め込まれた赫包の痛みに泣き叫ぶだけでしたわ。姉様のように受け入れようとした喰種なんていませんのよ……しかも姉様が埋め込んだのは高品質な赫包二つ……実験では低品質の赫包を一つだけしか……」

 

 崩壊していくカオリ。もはや手足は生える傍から溶け、腐り落ち、ドス黒い染みへと変わっていく。

 

 

─────そして、ついに崩壊は頭部にも発生した。

 

 

「★■●ー、▲★●ー?」

 

 

 溶けゆくカオリが何か喋っているが、その声はぐじゅぐじゅと響く粘性の音に掻き消され、もはや何を喋っているか分からない。

 その間にも崩壊は進行していき、頭部が完全に溶解した頃、カオリの崩壊が止まった。

 

「……もしかして死んだ?」

 

 地に落ちたヘッドホンとバラクラバを眺めながらリゼが呟く。もはや死体にしか見えないソレだが……。

 

「そんなことはないと思います」

「フレディの言うとおりですわ。姉様の再生力ならばまだまだ余裕なハズ……」

 

 ロウがそう呟くと同時、腐敗した胴体から無数の赫子が生えていく。

 だが、それらの中にいつもの甲赫(ツル)尾赫(ねっこ)ではない赫子があった。

 

─────右肩と思わしき部分からは『無数の赤い花が咲いた水晶』が生え、腰の左側と思わしき部分からは『無数の白い花が咲いた触手』が生えている……。

 

「あれは僕の羽赫……?」

「あっちは私の鱗赫……なのかしら? 花がモッサモサしてるけど……」

 

 自分達の赫子と似たようなモノが生えたカオリを眺め、リゼ達は首を傾げる。だが、『喰種への赫包移植』を行ってきたロウは驚愕に目を見開いた。

 

 なぜなら、今までの実験では誰一人として移植元の赫子を発現させた喰種は居ない。

 カオリが人工喰種化手術に成功した喰種第一号だ。

 

「……人間と違い、喰種へ他者の赫包を定着させるにはあれほどの崩壊と再生が必要という事ですの……? ならば事実上に姉様以外には不可能なのでは……? いえ、バァルが今より強くなればあるいは……」

「私は絶対にやらないわよ? というかアレを見た上で私にやらせようとか冗談じゃないっての」

 

 恐ろしい事をサラッと呟くロウに、リゼはすかさずツッコミを放つ。

 

 リゼはカオリやロウと違い、楽しく暮らせれば良いと思っている。ここまでして強くなりたいとは思っていないのだ。

 

 赫子に覆われた首無しのカオリを眺めつつ、雑談をしていたロウ達だが……。

 

「……ァア

 

─────カオリの首から顔ではなく『特殊な赫子』で構成された花が生え始めるのを確認した途端、ロウの空気が変わる。

 

「全員撤退ですわ! 速くなさい! 死にますわよッ!!!」」

 

 ロウは即座に15区と24区をつなぐRc細胞壁に槍を穿ち、通り抜けられる大きさの穴を空けた。

 

ニク!! ニクがアルゾッ!!!

 

 花の怪物は事前に用意しておいた肉を喰らっていく。

 

 体の再生にRc細胞を多量に消費したカオリは、極度の飢餓状態に陥っている。

 そこに理性はなく、ただ『喰らう』という本能のみで動く狂食の権化……ロウは首無し状態のカオリが嗅覚のみで動いている事を知っているため、ニオイを遮断できる壁の向こう側へ避難しようとしていた。

 

「ここのRc細胞壁は他の場所より再生が早いものの、即時再生では無くてよ! 地上まで走り抜けますわ!!」

 

 怪物が気付く前に24区の壁を抜け、15区の地下水路へ戻ってきたロウ達は、止まることなく水路を走り抜けていった。

 

足リナイ!! タリナイィィィイイイイッ!!

 

─────壁を喰らいながら荒れ狂う植物を地下の奥底に放置して。




 デ モ ゴ ル ゴ ン 
当方ネットフリックスには加入してないゆえ、Dead by Daylightのコラボで初めてストレンジャー・シングスを知ったのですが……。
「あ、これ本作でマダムAが嘉納さんちで逃げ切ったアレやん」って思いましたァ!

しかもデバデにゴーストフェイスもコラボしちゃった!?
ゴーストフェイス軍団はre編で予定してるのにっ!

そんなわけでますますDead by Daylight色が増してくる本作ですが、今後も宜しくお願い致します。

■バァルちゃん
リゼさんの15区でのネーム。カオリが付けようとした名前は断られた。
花「えー、かっこいいのに『ピンヘッド』……」
竜「絶対にイヤ。その名前も衣装も絶対にイヤ」

■各種実験
人工喰種化:原作でカネキくんやタッキーさんがやられたやつ。
クインクス:いわば:re編のメイン
オルゴール:re最終巻で入見さんと古間さんに施されてたやつ
↑↑ここまでは原作にあった研究↑↑
↓↓ここからはオリジナル(独自解釈)な研究↓↓
本命:原作でエトさんがカナエさんにやったヤツから着想を得た。内容は本話の通り。
養殖:原作カネトーから着想を得た。内容はお察し。
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