花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第15話 すべてが『(F)』になる

 24区で『モグラ叩き』中の捜査官が、がっくりと肩を落としていた。

 

「はぁ……『グールイーター』が見つからねぇ。そろそろちゃんと休みてぇんだがなぁ……」

 

 そんな上司の姿に、部下の男は苦笑いを浮かべている。

 

「アハハ……まぁその分自分らで狩ってるんで、普段より功績多いですけどね。これなら次のボーナスは期待できそうてす」

 

 彼らは24区を担当する捜査官達であり、敵だらけの24区で休憩を取るために『喰種を喰らう花(グールイーター)』を探していた。

 

「でも良いんですか? この前グールイーターは『要駆除対象』になったじゃないですか」

「お前マジメか? お偉いさんが言うにゃグールイーターとレザーフェイスが花繋がりだからって理由だろ? んなクソみたいな理由で休憩時間をドブに捨てられるかっての……こちとら出世コースからとうに離れたロートルだ。エリート様の高尚な御題目は出世コースを歩んでるヤツがやってくれや。俺は害虫を食虫植物に食わせる仕事やって日銭稼げりゃ充分。草刈りをするかどうかは給料が今の倍に増えたら考えてやるよ」

 

 上司は24区のベテランだが50歳を超えている。数年前にようやく上等捜査官になったばかりであるため、出世することはもう無い。

 彼にとって、エリートの謳い文句を馬鹿正直に実行する価値は見いだせなかった。

 

「それによ、お前はそうやって喋る元気があるんだろうが、他の連中見てみ? 疲れて喋る元気ないだろ? 俺は部下に無理させねぇのが仕事なの。労災ゼロ、ヨシ! ってな」

 

 部下の男は元気に喋っているが、この場にいるのは二人だけでは無い。他にも数名の捜査官達が、疲労困憊の顔で歩いていた。

 

「そもそも……七光りのボンボンみてぇに部下殺してまで昇進したかねぇよ」

「また和修(わしゅう)准特等の陰口ですか? 査定下げられても知りませんよ?」

 

 CCG局長の『和修吉時(よしとき)』には『(マツリ)』という名の息子がいる。階級は准特等だが、後ろ暗い話の多い人物だ。

 

「ケッ、実際下げられてんだよなぁ。なーにが『局長と和修准特等は反目しあっている』だアホくせぇ。あんなのは方針の違いなだけで、局長は馬鹿息子にゲロ甘だっつーの」

 

 上司の男は吐き捨てるように愚痴をこぼす。だがここは24区、それを咎める者は誰もいない。

 

「世襲のお偉方ってのは気にくわねぇよなぁ。下々の金も命も思いのままってか? まだ喰種(ゴミ)共の方がマシだぜ。喰種なら殺しゃ金になるが、アイツらはブッ殺したらムショまっしぐらよ。あーあ、あの一族が喰種だったらなぁ……」

 

 和修家はCCGを支配する一族だ。当然立場相応の恩恵がある。

 

……それゆえに、和修家は常に『最高』を求められる。

 

 SSSレート喰種『オバQ』を討伐した総議長。優秀な司令塔として大成した局長。彼等は彼等に求められている水準に達しため、反発は少ない。

 

 だが、マツリはドイツで大きな『やらかし』をした。

 

 当然ドイツには居られなくなったが、日本に戻ると失態が無かったことになり、功績のみがピックアップされ……マツリはさも当然のようにその報酬を受け取った。

 

 そう、マツリは日本へ戻ってから昇進したのだ。

 

 上層部から見れば、確かにマツリの『やらかし』を帳消しにし、かつプラスとして換算できる程の功績だったのかもしれない。

 だが下の立場から見れば、マツリが大量の人間を捨て駒にし、一切の責任を追うこと無く功績を独占したようにしか見えない。

 

 ゆえに、マツリの厚遇に賛同できない捜査官……とりわけ出世ルートを外れた捜査官達や現場で戦う人間からは、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている。

 

「……っと話がズレたな。俺らの方針は以前と変わらずグールイーターを利用し、駆除しねぇ。嫌なら異動願いを出せ」

 

 冷たく突き放すような言葉を男は放つが、彼の元を去る部下は居ない。部下達にとって、彼以上の上司はいないのだ。

 

「抜けるワケないじゃないですか、自分らも出世ルート脱落者ですからね……ガキやエリートの上司に付いても捨て駒かゴミ扱いですし、成果は横取り……その点ここなら捨て駒にされたり成果を奪われる事も無いですし、休憩や有給もちゃんと取らせてくれます。何より、勤務時間外に無賃研修させられる事もないですし」

「そりゃ無理させて部下死なせちまったら始末書と遺族への詫び回りだからなぁ……ありゃメンタルにやべぇの……っと!?」

 

─────その時、地面が大きく揺れた。

 

「地震ですか……大丈夫でしょうか? 24区(ここ)は耐震基準守ってるとは思えませんし」

「まぁ、気をつけて進むしかねぇな。頭上には気をつけておけよ! いや待て、足音だ」

 

 部下に注意を促す上司だが、自分達以外の足音が近付いてくるのを感じ取る。その足音の数に、上司は背中に汗が滲み出した。

 

「オイオイ……何匹居やがる……? 二、三匹って数じゃねぇな……総員戦闘準備、団体さんのお出ましだ! まっすぐこっちに走ってくるぞ!!」

 

 上司の号令と共に、各々武器(クインケ)をアタッシュケースから取り出していく。

 数秒後に喰種の集団が現れたが、こちらに向かってきているというよりも、何かから逃げているようにも見える。

 

「奥に何か居るって感じか……? 羽赫は掃射開始だ!! それ以外は『ガス』構えて待機!」

 

 羽赫のクインケを持った捜査官達は、向かってくる喰種達へ銃弾を撃ち込んでいく。喰種達は僅かに足を止めるも、捜査官達へ向かい続ける。

 

「一番左の奴! 投げろ!」

 

 捜査官の一人が喰種達へ『CRcガス』を投擲した。

 

 地下の喰種達は、CRcガスを見たことも聞いたことも無い。缶から吹き出すガスは喰種達の力を奪い、喰種達は足をもつれさせ転倒した。

 すかさず追撃を行おうとする捜査官だが……。

 

─────通路の奥から『植物の蔓』のようなモノが飛び出し、転倒した喰種達を喰らう……あれは捜査官達が良く知る『グールイーター』の捕食器官だ。

 

「クインケ仕舞えッ! グールイーターだ!!」

 

 自分たちの休憩スポットである『グールイーター』は、喰種に反応して襲いかかる。それは喰種から作られたクインケも同様だ。

 しかし、クインケをアタッシュケースにしまっておけば、自分たちは襲われない。事実、グールイーターの蔓は喰種達を捕食した後、捜査官達を襲うことなく道の奥へと戻っていった。

 

「よっしゃ、後を追うぞ! 休憩時間だ!!」

 

 捜査官達は軽やかな足取りで植物を追う。するとそこには……。

 

─────普段の『白い花』ではなく、妖しく煌めく『赤黒い花』が咲いている。

 

 しかも赤黒い花は無数に咲いており、禍々しい花畑ともいえる様相を(てい)していた。

 

「……ありゃ? いつもと色が違う上に、群生してやがるぞ」

「だ、大丈夫なんでしょうか? なんか花粉みたいなの出てますけど……」

 

 赤黒い花からは、赤い粒子が漏れ出している。

 

「お前等もマスク付けて待ってろ。俺が安全性を確かめる」

 

 見るからに毒のような何かだが、上司は防塵マスクを付け、花へと歩いていく。

 上司は片手に『簡易Rc検査機』を持ち、花粉の舞う領域へとかざした。

 

 検査機に表示された数値は5000、6000と上がっていき……。

 

─────9999を超え、『F』と表示された。

 

「やべぇ、テメェら離れるぞ! この花粉はRc値1万超えの猛毒だ!! マスクも長く保たねぇ! 『ROS(ロス)』になるぞ!!」

 

 正式名称『Rc細胞過剰分泌症(Red child cell Over Secretion)』略して『ROS(ロス)』……人間の体内にも微量に存在するRc細胞が、過剰に生成される病気である。

 具体的な症状として、赫子のような嚢種(のうしゅ)が生え、激痛、嘔吐、記憶障害、精神退行、五感の鈍化などを併発する。

 幸いROS発症者から感染することは無いが、治療法は確立されていない。

 

 明確な感染ルートは分かっていないが、Rc値の高い空気や液体を摂取すると発症するのではないかと言われている。

 

 通常の空気中において、Rc値が3桁に到達することすら稀であり、4桁になることはまず無い。そもそも、平均的喰種の血中Rc値が4桁前半だ。

 しかし、この空間のRc値は『5桁超え』である。許容水準を大幅に超えたRc細胞が空気中に漂うこの空間は、人間どころか喰種すらも危険な空間となっていた。

 

「1万超え!? 駆除しますか?」

「クインケは絶対出すんじゃねぇ!! この数のグールイーターを相手にすんのは無理だ! さっさと逃げ……なんだとッ!?」

 

 上司は即座に退避を命じる……が、それでも遅かった。

 

 来た道にはいつの間にか無数のグールイーターが咲き乱れており、花の壁ができている。

 

「クソっ、いつの間に……退路が絶たれてやがる! テメェら、なるべく息抑えて前に突っ切るぞ!!」

 

 上司は覚悟を決め、先へ進むことを選択する……だが、その覚悟を打ち砕くように、更なる脅威が迫る……!

 

─────赤黒い花々から、更に花粉が吹き出した。

 

「絶対息吸うな! 走れ!」

(……まだRc値が上がるってのか!? こりゃマスク越しでも吸ったらやべぇ!)

 

 捜査官達は必死に息を止め、花々の間を走り抜ける。だが、どこまでも花畑は続く……。

 

 やがて、部下の一人が耐えきれず息を吐いた。

 

「ぷはっ……ご、ごほっごほっ! ぁご……か……がぁぁぁアアアアアッッ!!?」

 

 吸い込んだ空気には、防塵マスクで防ぎきれなかった花粉が残留している。

 毒の粒子を過分に含んだ空気を吸った事で、部下は激しく咳き込み、更に空気を吸ってしまう。

 

 毒を吸い込んだ部下は激しく苦しみだし……。

 

 

─────部下の体から赫子に似たナニカが飛び出した直後、グールイーターに捕食された。

 

 

(……ROSの発症が早すぎる!? しかもROSを発症したら『捕食対象』になるのか!)

 

 仲間が死んだことで、部隊に動揺が走る。中には仲間を助けるために声を出してしまった者も居たが、彼らもまた即座にROSを発症し、花の養分へと変わっていく……。

 

 

 彼等は無言で走り抜けた。しかし、進めども進めども花畑は続く……。

 

 

(まだか!? どこまで花が続いてやがる!! そろそろ息が保たねぇ……っ!)

 

 赤黒い花畑は終わらない。

 一人……また一人と倒れていき、ROSを発症していく。やがて、上司の男も呼吸が続かなくなり、空気を吸ってしまう。

 

「っぶはッ!! ……ぉごほっ!? ち、畜生……ここで終わってたまるかァッ!!」

 

 上司は最後の力を振り絞り、クインケを取り出すが……。

 

 クインケに反応した無数の蔓が、まるで津波のように迫っていた。

 

「ま……そりゃ無理だわな」

 

 

──────────

 

 

 地下の奥深く、もはや大木の如く巨大な花が咲いている。

 

 そんな花の中央から、一人の女が咲いた。

 

 

「っぷはぁ! ……ぅ……あ゛ぁ……あ、れ? ……あぁそっか。フレディとバァルちゃんの赫包を埋め込んで暴走したんだっけ……ん、また背が伸びてる?」

 

 目を覚ましたカオリは、目線の高さが凄まじく高いことに気付いた。

 自分の体を見下ろすと、植物のような赫子が全身を包み込み、もはや大木に近しいサイズの花を形成していた。

 どうやら背が伸びたのではなく、今までになったことが無い形態の赫者になっていたようだ。

 

 また、自身の赫子が数十km以上の広範囲に渡って広がり、地下の至る場所で『釣り』及び『壁の捕食』を行っている事を感知した。

 そして、花のいくつかは捜査官達によって攻撃されているようだ。

 

「むぅ……流石にここまで24区をメチャメチャにしたら捜査官さんに捕捉されちゃうよね……さっさと赫子を戻しちゃおう」

 

 カオリは全速力で赫子達を体に戻していく。

 戻ってくる赫子は太く、長く、高密度……赫子を戻す度に、自身の体が何十倍にも圧縮されていくような気分が襲う。

 

「っ……赫子の量が今までと桁違い……赫子を戻しただけで体が苦しい……でも、ここから更に仕舞わないと……」

 

 数十分かけてすべての赫子の仕舞い終わると、巨大な花の体は圧縮された赫子でミチミチと音と立てていた。

 

「っづぅ……! 風船みたいに弾け飛びそう……ハァイ、調子よくなーい……でも、まだ終わってない……!」

 

 カオリは捕食したモノが内包していた大量の『不要部分』を吐き出しながら、今度は赫者状態を解いていく。

 

「あっ……ぃぎっ……!? か、体が……っ!!」

 

 カオリは地下に張り巡らせていた赫子を収納した時点で、今までの数百倍近い赫子の圧縮率になっていた。すでに体の限界を迎えているといってもいい。

 しかし、赫者状態の『巨大な花の姿』は20メートルを優に超えているため、元の人間サイズに戻るためには、ここから更に十倍以上の赫子を圧縮していかなければならない。

 

「ぁぐっ……!! うぎぎぎぎぎぎっっ!! ぐ……っはぁ、はぁ……あ、後どのくらい……?」

 

 カオリは所々出血させながらも、赫子を体内に戻していく。

 

 巨大な花は10メートル程まで小さくなったものの、限界を超えて圧縮された赫子により、全身が内側から膨張し、いくつものアザができていた。

 

─────その時、カオリは閃く。自身を形成する赫包は、二種ではなく四種へと変わった。

 ならば、甲赫と尾赫だけでなく、羽赫と鱗赫の領域にも負荷を回せるはずだと……。

 

「ふ、ふー、ふーっ……ッはぁぁぁぁあああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 地下の領域を揺るがすほどの叫びを上げ、カオリは全身にRc細胞を無理矢理循環させていく。狙うは肩と腰の付近、そこへ集めるように……!

 

 ポコポコと身体が脈動し、激痛が体を蝕む。時折赫包の圧縮が崩れ、赫子がデロリと体外に溢れ出す。

 

 それでもなお、カオリはRc細胞を循環させ続け……。

 

「き、来たッ! 腰と肩に新しい赫包ッ!! こっちならまだ余裕がある!!」

 

─────羽赫と鱗赫を、自分のモノとした。

 

 コツを掴めば後は容易い。肩の赫包と腰の赫包へ、Rc細胞を回していく。

 モコモコと疼き、痛みを発する肩と腰……次々と赫包が形成されていき、巨大な花は(しぼ)んでいく。

 

 

 

 

「はーっ……はぁ……よ、よし! なんとか全部仕舞いきったァ! ……あれ、服もお面も無い!?」

 

 地下にそびえ立っていた花の化物はもう居ない。その場に立つのは全裸のカオリただ一人。

 何も身に付けていない事に気付いたカオリは慌てて赫子を纏おうとするが、周囲に生存反応が無いことを嗅ぎ分けた。

 

「んー、誰もいないみたいだからまぁいっか! ……というか感覚がキツ過ぎ……ちょっと慣らさないと……頭がクラクラする。今って何年の何月……?」

 

 嗅覚だけでなく、他の感覚も鋭敏になっている事がわかったものの、今までよりも大幅に強化された五感はカオリの脳内をガンガンと揺さぶっている。

 

「目が回る……くさい……うるさい……肌がジンジンする……でもこれ以上は無理。一旦普通の肉を食べなきゃ……早く家に帰ろう……」

 

 カオリはよろよろと歩きながら、自宅へと向かっていった。

 

──────────

 

「……は?」

 

 Helter Skelterに来ていたニムラは、イトリ達から驚きの内容を告げられた。

 

「だから、レザーフェイスさんが『赫子四種持ち』になっちゃったんだってば。しかも羽赫はリオっちで、鱗赫は多分リゼ」

「ただでさえ厄介な子だったのに『進化する赫子』と『竜の因子』まで取り込んだレザーフェイスちゃんは、もう誰にも止められないわよォ。どうするの宗ちゃん?」

 

 イトリとニコの言葉が、ニムラの耳を突き抜けていく。

 ニムラの脳裏に最悪のケースがいくつも去来し、背筋に冷たい汗が流れ落ちる。

 

「……い、一旦情報を最初から整理しましょうか……まず事の発端として『四方蓮示』が寝床にしていたコンテナ倉庫が、レザーフェイスの襲撃を受けたことはあってますか?」

「そ。これは蓮ちゃんから聞いた情報だから間違いない。襲撃理由こそ教えてくれなかったけど、嘉納の研究所から大喰いを連れ出したのは蓮ちゃんだから、多分レザーフェイスさんは大喰いの確保狙いで蓮ちゃんを襲撃したんだと思う。それを裏付けるように、最近15区に新しく『バァル』って仲間が増えたっぽいよ?」

 

 新しい仲間……15区入りできる条件は、カオリに気に入られた者のみ。リゼの秘密を知っていればカオリがリゼ確保に動くのもわかる。だが……ニムラはカオリにリゼの秘密を伝えていないし、イトリ達も教えていない。

 

「ンフ……バァルといえば暴食の悪魔『ベルゼブブ』の元ネタになった神よォ? レザーフェイスちゃんやロウのネーミングセンスじゃないわね……()()()()()()()()()()()()()()()なら()()()()んだろうけど……ネ?」

「……つまりその『バァル』がリゼさんなら、正気を取り戻して動き回ってる……と、いうわけですか」

 

 リゼが正気を取り戻しているのなら、和修家の全てが筒抜けになったも同然だ。ニムラは自分の呼吸が荒くなっていくのを感じた……。

 

「んで、宗ちゃんとロウのやってた人工喰種、クインクス、オルゴールだけど……もう一つ、ロウだけで秘密の研究やってたのよ。これがそれね。ロウがいうには『もう使わないから売ってあげますわ』だってさ」

 

 ニコはニムラに書類の束を手渡す。それを読めば読むほど、ニムラは疑問が沸き上がっていく。

 

「喰種への赫包移植実験……こんなのできるわけがない……」

 

 ニムラからすればこんなものは理論、実験結果、手順、どれもが滅茶苦茶な素人研究だ。成功する可能性などカケラも無い。嘉納も鼻で嗤うだろう……。

 だがロウは()()()()()()()研究し、()()()()()()()()()イトリへ研究成果を売り渡した。その事実は変わらない。

 

 それはつまり……。

 

「ロウはレザーフェイスさんを使って成功させちゃったんでしょ? でもレザーフェイスさんですら暴走は免れなかった。その結果が24区で突如発生し、()()()()に原因不明のまま収束した『グールイーター亜種大繁殖事件』って事」

「そのまま奈落の花になってくれてればワタシ達も嬉しかったんだけど、レザーフェイスちゃんは帰ってきた。ただでさえ最強クラスだったのに、『最強の赫子』と『最強の素質』を兼ね備えて……ネ?」

 

 ニムラもキジマと共に駆り出された『24区グールイーター亜種大繁殖事件』。地下中に生い茂る猛毒の花畑……。

 

 地下に咲き乱れる赤黒い花々は強過ぎた。ROSを誘発する猛毒の花粉が舞っているため、息苦しい強化防護マスクを着用する必要があった。

 炎に弱いという事は分かれども、地下空間で炎を使おうものなら、あっという間に酸欠となるため、有効な戦術として活用できなかった。

 

 毒だけではない。離れていても即死級の鋭さを持つ根が襲いかかり、近付けば防御不可能な超重量の蔓攻撃が飛来する。

 

 あっという間に戦線は壊滅し、CRcガスを用いて地道に駆除する方法しか取れなくなった。

 

 

 そんなCCGを嘲笑うかの如く、花の生える速度は駆除スピードを上回る。

 

 

 だが、地上への侵攻が秒読み状態に迫る中、突如として花々は消えた。

 花が消えたことで穴だらけになった24区は、まさに探索のチャンスかと思いきや、R()O()S()()()()()()()()()()()をRc細胞壁が吸収したことで、壁は即座に再生。

 

 ロクな成果を得られず、原因不明のまま終わり、この事件は世に出せないCCGの恥部となった。

 

 

─────ROSを誘発する猛毒……?

 

 

 ニムラは今更ながら『ある可能性』に気がついた。

 

 

「宗ちゃんも気付いたみたいネ? レザーフェイスちゃんは『既に竜へ至った』のよ……植物型の竜なら、差し詰め『ビオランテ』かしらァ?」

 

 ニムラの計画が音を立てて崩壊していく……膝の力が抜け、力なく崩れ落ちる。

 

「アハ、終わった……リゼさんは確保され、レザーフェイスが竜になり、いつでも『降竜儀』を発動可能……もう手の打ちようが無いじゃないか……う、うう……う~ううう……あんまりだぁ……」

 

 ニムラの目から大粒の涙がいくつもこぼれ落ち、メソメソと泣き始めた。

 

HEEEEYYYY(ヘエエエエイイイ)!! あァァァんまりだァァアァ!!」

 

 その時、突如カウンター奥の扉からロマが現れ、ニムラへじっとりとした視線を投げかける。

 

「おはよロマ。()()()()()()()()()?」

「な……なんだ、いったい? な、泣いている。血管ピクピクで怒ってくると思いきや、この宗太って野郎……予想外! き、気持ち悪いぜ。ダダっこのように泣きわめいてやがる……」

 

 イトリがロマに問いかけるも、ロマの返答はニムラへの罵倒っ……! あまりにも酷い言い様に、イトリは飲んでいた血酒を吹き出した。

 

AHYYY(アヒイイイイ) AHYYY(アヒイイイイ) AHY(アヒイ) WHOOOOOOO(ウホ オオオオオオ)HHHHHHHH(オオオオオオオオ)!! おおおおおおれェェェェェのォォォォォ計画ゥゥゥゥゥがァァァァァ~~~!!」

「怒るより……ぎゃ、逆に不気味なものがあるぜ……早いとこトドメを刺そう!! 必殺、夜叉の構えからの~~」

 

 赫子でニムラを貫こうとするロマ。だがイトリ達はロマが冗談でやっていると理解しているので、ロマの行動を止めることはない。

 

「はいはい。んで、ロマが出てきたって事は、宗ちゃんに何か言うことあるんでそ?」

「てへぺろっ! というか宗ちゃーん、レザーフェイスさんは『降竜儀』を発動しないよ」

 

 ロマの言葉に、ニムラはピタリと泣き止んだ。

 ニムラのややスッキリとした顔付きに、今度はニコが吹き出した。

 

「ロマ、どういうことです?」

「急に泣き止むな赫子生える! ……んっと、もうこうなっちゃったら隠しておくのは無理でしょ? だから私が宗ちゃんの計画全部バラした。んで、こっちの計画が終わるまで何もしないようにお願いした。結果は成功、レザーフェイスさんは宗ちゃんが満足するまで『開花』は保留するってさ。良かったね!」

 

 ロマの話が本当なら、自分の計画は薄皮一枚繋がった……だが、なぜ?

 

「ロマ、対価に何を支払いました?」

「みんなの赫子の能力の詳細情報。それと私の赫包を少しだけレザーフェイスさんに食べさせた」

 

 Helter Skelterの喰種達は、全員が特殊な能力を持つ。ロマもHelter Skelterの一員であるため、通常の鱗赫では持ちえない能力が備わっている。

 

「へっ? ……ちょ、ちょっと待ってよ!? あたし達の赫子も教えたの!? ヤダ!! 絶対あたしやウーさん喰われるじゃん! 赫包喰われる痛みはシャレにならないんだってば!!」

「ンフ、慌てすぎよイトリ?」

「うっさいオカマ! アンタは良いわよねっ!! 他者回復なんて絶対レザーフェイスさんが欲しがらない能力で!! あたしはファンネル! ウーさんは変化! どうみてもあの人が欲しがるヤツじゃん!! 今度あの人が店来た時なんていうか予想してあげようか!? 『こんばんはイトリさん、早速だけど一口食べさせてねー』に決まってるでしょうがぁぁああああああッ!!!」

「必死過ぎてヒゲ生えちゃう」

「アンタはリオっちにでも喰われろ!」

「バッチコイよ!!」

「死ね!」

 

 ギャアギャアと言い争うイトリ達を横目に、ニムラはロマへ確認する。

 

「えっと……つまり、レザーフェイスはロマの能力まで受け継いだと……?」

「そゆこと。レザーフェイスさんは分離赫子の長期間保持と自在操作もできるようになったよん。んで、後々は他のみんなの能力も得るからごめんご」

 

 ロマはヘラヘラと笑っているが、ニムラからすれば笑い話では済まない。

 つまるところ、遠距離攻撃を獲得しているカオリに『ホーミング能力』も付与されたことになる。そして、将来的には『遠隔ビット』『変身』『分身』も使えるようになるのだろう……。

 

「分かってるとは思うけど、リオっちも私達やリゼの能力得るだろうから『竜は少なくとも三体』になるんでよろしこ。キジマはレザーフェイスさんがどうするか分かんないけど、キジマも入れるならもっと増えるね」

「……無理ゲーでは?」

 

 ニムラは頭を抱えながら、今後の方針を考え直さざるを得なくなった。

 

 

 

 




 H e l l o W o r l d . . . 
感想でもちょくちょく言われていた『ビオランテ』の片鱗がついにやってきました。ここからカオリはいつでも最終章イベントを任意で発動可能です。

夢はいつでも叶えられるようになれましたが、ニムラさんの『降竜儀』を待つことにしました。


─────せっかくならより大きな花にしたいですからね。


■モンハン風カオリの赫子説明
・基本赫子
  檻喰種の紫群青玻璃
  戦喰種の重甲
  呑竜の天鱗
  戦喰種の剛尾
・追加獲得
  槍喰種の背甲
  溝喰種の鱗
  霊喰種の鱗
  砕喰種の背甲
  砕喰種の尾
  禿喰種の背甲
  嬢喰種の羽×2
  嬢喰種の背甲
  嬢喰種の鱗
  嬢喰種の尾×3
  その他クインケ・地下喰種多数

■赫子収納について
本話でカオリは赫子を収納していますが、正確には収納ではなく、カオリの赫子スキル『捕食する赫子』を使って展開中の赫子を捕食し体内に再吸収……というややこしい事をしています。
通常だと赫子を解除すると霧散したり溶けたりしますし、もったいないの精神なのです。
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