「ひゅー……ひゅー……」
「ライダーちゃんしっかりして!! 意識をちゃんと持って!!」
走るワゴンの中、全身から血を流しながら気絶しているマユへ1号は呼び掛けていた。
「レディ・ランサー……申し訳ありませんが、私達はここまでのようです……特にライダーは我々より赫子の種類が多いため、共食いによる消耗は危険水域まで達しています。このままではライダーもガンボなる男のようになってしまいます……」
そうロウへ告げる2号もまた、全身に幾つもの裂傷ができている。このワゴンの中で傷を負っていないものは、ロウと小林だけだ。
なお、これらの傷は戦闘によってできた傷ではない。今回の遠征は縄張りの拡大や戦闘訓練のためではなく、捕食のみに焦点を当てている。
戦いに出ているのはカオリとロウのみであり、これらは全て共食いの副作用による裂傷であった……。
「……確かに皆そろそろ危険ね。ペニーワイズ、クーラーボックスの様子は?」
「まだ全てカラっぽですとも。とはいえ馬鹿息子は早々に脱落し、従業員のみなさんはもう限界が近い。ここからは赫包をクーラーボックスに詰め込む作業でしょう」
淡々と語る小林に、ガンボが脱落したことを悲しむ様子は無かった。
小林にとって、ガンボは自分の元から決別した存在であり、愛着もない。あげくの果てはあの弱さ……小林にとってガンボはもはやどうでも良い存在に成り下がっていた。
せめてレートAクラスの強さがあるなら話は別だったが、Bレート程度の強さなら
何かをオススメする気にすらなれず、早々に脱落して良かったとも思っているほどである。
「そう……ここからは箱詰めメインにして、その後アタクシや姉様、まだ元気なバァルの食事メインで行きましょう。姉様にもそう伝えておきますわ」
そのことが分かっているロウは、ガンボについての話題を出さず、淡々と物事を進めていった。
──────────
「始まったようです……」
月山家の使用人『松前』は、そうバンジョーに告げる。
それは今この瞬間より、
「ほ、本当にここは大丈夫なんだよな……?」
「ええ。モニタールームの使用人からの報告によると、21区中に設置された監視カメラから、幾人もの死体を確認しているそうです。ですが、月山家周辺の死体はありません。どうやらレディ・ロウは約束を守り、怪物もそれに賛同したようです」
ひとまずの危機を回避された事で、バンジョー達は胸をなで下ろした。
「……とはいえ油断はできません。かの怪物は気紛れな性質を持っているため、ここに気を引くようなモノが……」
─────ふとその時、玄関のチャイムがなった。
「来客……? こちら松前、どなたの来訪ですか」
『……レ、レザーフェイスです!!』
通信機から聞こえる声には、焦りと恐怖がこもっていた。
「通しなさい。それはレディ・ロウを遥かに超える相手です。扉を開放し、非戦闘員は全員下がりなさい」
松前はテキパキと指示を出していく……だが、その顔には一筋の汗が伝っていた。
「バ、バババババンジョーさん……ウチら死にたくないっす! 助けて下さい!!」
「か、勘弁してくださいよぉ……」
「まだあわわ……あ、慌てるような……」
「待てお前等! 今考えてる!!」
ガスマスク3人組が慌てふためく中、バンジョーはこの窮地をどう乗り切るかを考える。
(駄目だ……どうすりゃ良いんだ……相手はあのヤモリやアヤトですら太刀打ちできなかった奴だぞ……ん? ……いや待て……そもそも逃げる必要はあるのか?)
─────その時、バンジョーの脳裏にはカオリと出会った時の記憶が呼び起こされた。
始めはあんていくでカネキに『逃げろ』と伝えたあの時……あの時のレザーフェイスは誰も殺さなかった。
(今なら分かる。もしも本当にあの人が噂通りの喰種なら、あの時のあんていくで俺達やヤモリ達が生きて帰れるワケが無いんだ)
次の記憶は11区、アオギリのアジト……。
(あの時俺達が入れられていた牢屋は
レザーフェイスはヤモリの手からカネキを助け出してくれた。実際はカネキが自力でヤモリを倒したのだが、バンジョーはカオリがヤモリを倒し、その後カネキを助け出したと思っていた。
次の記憶は喰種レストラン……確かにあの時はカネキや月山達は捕食されたが……。
(でも、月山がああ言うまでは普通の客だったんだ。なら、月山が『ディナーは皆様』なんて言わなければ、普通に食事をして普通に帰ったんじゃないか……?)
バンジョー達は3度レザーフェイスと遭遇し、殺されなかった。ゆえにバンジョーは思う。
(……もしかして、俺やイチミ達が反アオギリだと知っているから殺さなかったのか?)
─────勘違いっ……バンジョー、圧倒的勘違いっ……!
バンジョーとガスマスク三人組は弱い。それこそガンボにすら4対1で負ける強さなのだ。
そして、弱過ぎる喰種を捕食したところで、あまり共食いの効果は得られない……つまるところバンジョーが殺されなかった理由は『食べてもほぼ価値がないから』でしかない……っ!
(俺は月山家が反アオギリであることを知っているが、あの人は月山家が反アオギリだと知らない。でも、あの人は俺が反アオギリだと知っている……なら、俺が説得すれば松前さん達は助かるんだ……!)
そんな事を知る由もないバンジョーは立ち上がり、扉に向けて歩き出す。
「バンジョイ様……今から逃げても無駄ですよ? 既にこの屋敷全体が化物の射程圏内でしょう……」
「違う。俺はあの人と話しにいく」
「……は?」
暴挙……っ! あまりにも暴挙……!
松前は目の前の大男がトチ狂ったのかと疑うが、バンジョーは確信ともいえる自信を持っていた。
「俺は弱い。それこそあの人の攻撃が掠っただけで死ぬ自信がある。だが、あの人は20区で俺をヤモリ達から助けてくれた。11区やレス……あー、
恐ろしい存在だが、対話不可能な存在ではない。そう万丈は結論付けるが、ガスマスク三人衆は不安だった。
「……『二度あることは三度ある』の方が合ってないっすか?」
「『三度目の正直』だったら自分達死ぬんですけど……」
「というか? ウチら4度目じゃないっすか?」
そんな中、万丈はガスマスク達に優しく微笑む。
「イチミ、ジロ、サンテ。不安になる事は無いぜ。そもそも、ヤモリやアヤトが怯えて使い物にならなくなる相手だ。だから……俺は開き直った! それに、どんな相手だって、話しあえば分かり合える。そうカネキが言ってたろ? 俺は頭が良くねぇからよ、頭の良かったカネキを信じるぜ」
広間へ向かう万丈はの姿は格好良かった……その背中が緊張の汗でビショビショじゃなければ。
「レザーフェイス
入口の広間に到着するなり、バンジョーは声を張り上げる。
なお、さん付けなのはレザーフェイスが恐いからだ。
「はいはーい、レザーフェイスさんですよー?」
また、そこにいたのはレザーフェイスだけではない。
レザーフェイスの隣には、バンジョーの知らない女が立っていた。
「……あら万丈くん、久し振りね」
その女は親しげにバンジョーの名前を呼ぶが、バンジョーは首を傾げる。
自分にはあんな『奇抜すぎるマスクをした知り合い』は居ない。
「ん……? すまねぇが、マスクで誰か分からねぇ」
「そうよね、あの時はマスクなんてしてなかったものね。ねぇ、万丈くん?
─────万丈はドキリとする。
かつてアオギリが台頭する前、11区のリーダーだった『ハギ』を殺した存在は……。
「ま、まさか……リゼさん……なのか?」
「正解。覚えていてくれて良かったわ」
人、猫、蛙が混ざり合ったマスクをした女は、ゆっくりと赫子を展開する。
それはカネキの赫子と瓜二つ……まさしくリゼの赫子であった。
「リ、リゼさんは死んだんじゃ……? だってリゼさんはカネキと鉄骨に……」
「生きてたのよ。ここ1年間は嘉納という医者に監禁されてたんだけどね……今はこうして自由にしているわ」
だが解せない……過去にレザーフェイスがリゼを下した事で、リゼが11区から逃亡したとバンジョーは考えていた。
つまり、リゼはその原因となったレザーフェイスを嫌っていたハズだ。
「リゼさんは以前『15区の化け物に殺されかけた。15区には絶対近寄らない』って言ってたじゃないスか。どうしてそんなリゼさんが15区に?」
「ちょっ、バッ……!? 私の横にその本人いるんだけど!?」
バンジョーからのキラーパスに、リゼは慌てふためく。
そんなリゼの様子を、ニヤニヤとレザーフェイスは眺めていた。
「あれー? バァルちゃんって、11区の情報を私に流してくれる友達じゃなかったっけー?」
「ば、万丈くんの勘違いだから。アオギリが11区に攻めて来たのが悪いだけだから」
「そっか、じゃあしょうがないねー」
リゼの言うことを信じたのか流したのかは分からないが、レザーフェイスはそれ以上リゼを追及すること無く、近くに控えていた松前へと歩いていった。
そんな中、リゼはバンジョーに近寄り、そっとささやく。
「……仕方ないのよ、監禁されていた私を助けたのはこの人なんだから……でも15区は悪くないわよ。11区は
「も、もちろんス! 俺の知ってる範囲で良ければ!!」
カオリに立ち向かおうとしていた万丈だが、好意を寄せていたリゼの登場により、すっかり目的を忘れて思い出話に花を咲かす。
─────ゆえに、カオリがすでにこの場から離れていたことにバンジョーは気付かなかった。
──────────
「しゅーちゃん久し振りっ!」
「…………あぁ……レザーフェイス氏か……リトル・リオは息災かな?」
月山習の自室にて、カオリは月山と出会っていた。
とはいえ、忍び込んだワケではない。カオリの後ろにはメイドの『松前』と男装執事の『
ちなみにこの月山家党首、漢字で書けば『母』という文字が入り、口に出せば『ミルモ』と、非常に可愛らしく女性的な名前をしているが……。
男である。
オッサンである。
ナイスでクールなダンディである。
「リオちゃんは元気だよー! でも、しゅーちゃんは死にそうだね? んー、取り込んだ赫包が体に馴染めなくて、内側から崩壊してる感じかなー?」
「フフフ……共食いのスペシャリストたる貴女には分かるようだね? そう……何を食べても満たされないんだ……カネキくんが居なくなった事が、こんなにも僕の心を狂わせているのさ……」
月山の足下にはいくつもの『残骸』が散らばっているが、月山はゲッソリとやせ細っていた。
「手元に美味しいご飯が居なくなったのがそんなに悲しいの? んー……『マザボ』の生産には成功してるから、カネキさんと似たような味ならいくらでも量産できるよ? 神代ちゃんの赫包を使った人工喰種なら、食用で良ければ売ってあげよーか?」
美食家であるからこそ、至上の美食たるカネキが消えた事で月山が病んだとカオリは判断した。
だからこそ、これからは美食が提供可能であることを教えるが……月山は首を横に振る。
「違うんだよレザーフェイス氏……きっとかつての僕ならそれで良かった……でも、今の僕には他でもないカネキくんが必要だったんだ……貴女には理解してもらえないだろうけどね……」
カオリにとってカネキは、ただの美味しいご飯でしかない。
だが……月山にとって、カネキという存在はそれ以上の意味があった。
確かに最初はカネキの味目当てだったとしても、今の月山にとってカネキはかけがえの無い友であり、主……代わりなど存在し得ないのだ。
「そうだね、全然分かんないね。だってもう歯茎さんや白黒さんだけじゃない。美味しいご飯は増えるんだよ? 歯茎さんに固執する必要は、もうどこにもないんじゃないかなー?」
「ハハ、だろうね……」
カオリの興味すら感じさせない振る舞いに、月山は哀しげに笑う。
そんなカオリの振る舞いに、男装の執事が鋭い目をカオリに向けているが、カオリにはどうでもよかった。
「まぁいいや。ねぇ『妖精さん』? しゅーちゃんは共食いの適性が全く無いみたいだから、このままだと死ぬよ? 妖精さんはしゅーちゃんを助けたいよね?」
カオリはニヤリと笑う。ミルモは決して息子を見捨てない。
─────そうでなければ、月山家の御曹司はとっくに殺されているのだから。
「でも、そんな妖精さんに朗報ですっ! 私は共食いによる崩壊を抑制する薬を持ってるよっ! ……欲しい? というか、これを売りにわざわざここまで来たんだよねー」
カオリに妖精さんと呼ばれた
一見良好そうに見える月山家とカオリの関係だが、カオリが無理矢理月山家に上がり込んでいるだけであり、月山家とカオリは決して良好な関係ではない。
むしろ月山家にカオリを倒しうる人物がいるなら、即座に排除する程度の関係である。
そんな関係だったとしても、カオリと月山家は今までに何度も裏取引を行っている……が、全てカオリによる人質ありきの取引だ。
「ふふっ、まー信じられないよねー? だから……」
カオリは一瞬で尾赫を生やすと月山を拘束し、『黒い粉末』を口にねじ込んだ。
「ムグッ!?」
「無理矢理食べさせてあげるっ!」
敬愛する御曹司への暴挙、メイドと執事は即座に行動を開始する。
「習様ッ!!」
「
松前は
「なっ……!」
「馬鹿なッ!?」
「んー、服に傷が付くから止めてほしいなー」
カオリの服が少し破けた程度であり、カオリの皮膚には傷一つ無かった。
「松前くん、カナエくん……ミス・ソーヤーには私の赫子ですら傷一つ付かなかった。そもそも、追い返せるならとうに追い返しているし、レストランの一件で賠償金を払ったりしてないよ……」
ミルモが呟く通り、松前とカナエの攻撃はカオリの体を貫くことはできなかった。
「観母様の剣ですら……」
「そういうこ……ん? あれ? そのメイドさんの赫子……ふふふっ……そっか! じゃあちょっと……
─────刹那、空気が一変する。
カオリは無数の尾赫を展開すると、松前を縛り上げ、自らの近くに引き寄せた。
「なっ、何を!?」
「良いねッ! 凄く良いねぇっ!! 貴女もお花なんだねっ!! だから貴女にお裾分け!! 貴女も私にお裾分けだよ!!」
テンションが急変したカオリは、自身の背中に尾赫を突き刺す……!
「ぁ
カオリは背中から引き抜いた細い尾赫を、今度は松前の背中に突き刺した……!
「ぐっ……ぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!??」
「大丈夫! 貴女は壊れないよっ! 沢山実験したからねー!! それにしゅーちゃんも、あんまり暴れないでね? 今はこっちのメイドさんが第一優先だから、あんまり暴れると困っちゃうなァー?」
カオリは尾赫を器用に操り、月山と松前を固く拘束していく。
異物を赫包に注入された松前、粉末を飲み込んだ月山。二人は苦しみにのた打ち回ろうとするが、カオリの尾赫に捕らわれた今、僅かに身動ぎをするくらいしかできない。
「習様ッ! 松前ッ! 二人から離れろォッ!!」
慕っている御曹司と大切な同僚が、苦痛に悲鳴をあげている……ゆえにカナエはカオリへ攻撃を繰り返す。
例え効いていないと分かっていても、
「執事さんうるさい、今いいとこだから」
だが、カオリはそんなカナエを見ることすらせずに赫子を一閃。
赫子はカナエの顎を正確に打ち抜き、脳を揺さぶられたカナエは音もなく崩れ落ちた。
「さぁメイドさん! 貴女にはサービスだよっ!! しゅーちゃんよりも粉いっぱいあげる! んー、再生がちょっと足りない? じゃあ私の血をあげるね! 肉もあげたほうが良いかなー?」
カオリは自らの腕を切裂いて、血液を松前の口腔へ流し入れていく……月山に飲ませた量の倍以上の『粉末』を混ぜながら……。
苦悶の声を上げる息子とメイド、力なく床に横たわる執事、それを作り上げたエプロンの女……ミルモはただ静かに、その様子を眺めていた。
──────────
「よっし、メイドさんはバッチリ! メイドさんの赫包をちょっとだけ貰っちゃったけど、その分私のもちょっとあげたから良いよね!! 私は薔薇の種をもらって嬉しい。メイドさんは薔薇に花が咲くかもしれないから嬉しい! まさに『うぃんうぃん』の関係だね!」
カオリは楽しそうに笑うが、肝心の松前は気絶しており、カオリの言葉は聞こえていない。
「それで……どうかなしゅーちゃん? さっきよりもかなり楽になったんじゃないかなー?」
「ハァ……ハァ……お陰様でね……体は痛いが、少し楽になったようだよ……」
「しゅーちゃんが元気で何よりだよー! それで、しゅーちゃんは
カオリの指摘通り、月山はもはや狂食を止めることはできない。
月山は苦々しい顔をしながらも、『我慢できそうにない』と告げた。
「うんうん。それじゃ妖精さん、この素材……一回に使う量はこのくらいで、30回分。これを売りに来たんだけど……今回はメイドさんが凄く良いことをしてくれたから、タダにしてあげる! お金は次からは取るよー」
ミルモはただ静かにカオリを見つめる。その顔にはどこか困惑があった。
「ちなみに、同じモノはろーちゃんも持ってるから、そっちから買っても良いけど……ろーちゃんはきっと凄い金額を言ってくるよ? それに、これが作れるのは私だけ。生産者から直接買った方がお得だよー? もちろん、しゅーちゃんが共食いをやめれば要らないんだろうけどねー」
カオリは嘲るように語る。それは、月山が共食いをやめられない事を理解しているが故の嗤い……。
「あー、効果を説明して無かったね! この粉の効果は、共食いで異常活性した『あーるしー細胞』を無理矢理体に馴染ませる効果だよ。共食い前でも共食い後でも良いし、あまりオススメはしないけど何度か共食いをした後にまとめて服用しても良いよ? 副作用として、馴染ませる過程で激しい痛みが出るし、しゅーちゃんみたいに共食い適性が全く無い子は、短期間で使いすぎると逆に猛毒になりうるから注意してね? 買わなくても良いけど、これ無しだとしゅーちゃんはあまり遠くないうちに死んじゃうからねー?」
ミルモは少し目を伏せ、再びカオリを見据える。その目には覚悟が宿っていた。
「分かりました、ミス・ソーヤー。次回も歓迎しましょう」
「ありがと妖精さん! ついでに色々用意してもらいたいものもあるんだー! やっぱり薬品系は妖精さんのところが一番品質が良いからねー。今まではたくさん仕入れさせるのは可哀想だからあんまりやらなかったけど、しゅーちゃんの命を助けるためだもんね、全力でやるよね?」
カオリの語る薬品類は全て病院専用の薬や特殊な工場専用の溶剤を始めとした『特殊な資格が必要なモノ』や『日本では使用が認可されていないモノ』だ。
それは
膨大な量の禁制品は、例え月山家とも言えど危険な橋を渡ることになる……。
これらは、ミルモが断れない事をカオリが知っているがゆえの無茶振りである。
武器はロシアンマフィア、薬品は月山家……カオリにとってお気に入りの仕入先だ。
──────────
「バァルちゃんお待たせ。取引終わったよー」
「……しまった!? リゼさんとの会話が楽しくて忘れてたッ!」
リゼとの思い出話に熱中していたバンジョーは、カオリが声をかけたことでようやくカオリに気付いたらしく、慌ててその場から飛び退く。
ガスマスク三人衆がじっとりとバンジョーへ視線を向けている事から、バンジョーだけがカオリの接近に気付いていなかったようだ。
「な、なぁ! ここには手出ししねぇんだよな!?」
「うん、私は商売に来ただけだよー? 今は食べないから安心してねー」
バンジョーは『今は』という言葉に若干不安を覚えるも、ひとまずの脅威が訪れないことが分かり、安堵の息を吐いた。
「そうか、それなら良かった……なぁレザーフェイスさん、アンタはアオギリとは敵対してんだろ? それなら俺達と……」
「私の味方を宣言するのは勝手だけど、私はあなたを助けないし、守りもしないよ? じゃあね」
バンジョーの言葉が予想できたため、カオリは途中で会話を打ち切り、玄関から外へと歩いていく。
「待ってくれリゼさん! 俺はリゼさんを……」
「万丈くん。さっきも言ったけど、神代リゼは今夜で終わり。私は神代の苗字も、リゼの名前も、万丈くんの知ってる顔も捨てたの。次会ったときは『バァル』と呼んで頂戴? またね、6区のリーダーさん。6区の喰種はさっき殆ど殺したから、あなたがリーダーよ」
そう告げるリゼはバンジョーへ振り返る事無く、カオリの後を歩いていった。
茨 の 赫 子 を 手 に 入 れ た
わぁいビオランテ、かおりビオランテ大好き!
松前さんがやや強化されました。
強化方法は原作カナエさんと一緒。とはいえ、原作カナエさんみたいに自壊はしません。あげたのは本当にちょっとだけなので。
■マザボ
カオリ達の作っている人工喰種の型番。
正式名称は『マザーボード』。
嘉納先生が作った人工喰種の資料に『フロッピー』という名称が記載されていたため、カオリ達の作っている人工喰種はそんな『フロッピー』の名にちなんだ名称が付けられている。
他にも『カセット』や『ブルーレイ』などの型番がある。
■人・猫・蛙のマスク
悪魔『バエル』の姿。
バアル神は悪魔バエルや暴食のベルゼブブと同一視されてるよっ!
ある意味で中の人繋がりかな?