花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第20話 Thermoplastic Elastomer

 小林の仕事はタクシードライバーだ。奇跡的に喰種であることが人間にバレず、もうすぐで10年になる。

 

 10年民間企業でタクシードライバーとして働けば、個人タクシーとしての開業が法的に許される。

 そのため、タクシードライバーは余程その企業が好待遇でないかぎり、10年後の独立を目指す。

 

 とはいえ、独立には様々な手続きと初期投資が必要だ。

 

「小林さん、もうすぐ10年なんですね。独立用の資金は確保済みなんですか?」

「ええ、もちろん」

 

 小林はニッコリと頷く。小林は裕福というわけではないが、独立できるだけの資産は持っている。

 

「……15区のお嬢様でしたっけ? やっぱりお金持ちの固定客が居ると、歩合(ぶあい)が良いんですねぇ……小林さん、そのお嬢様……僕にも紹介して貰えませんか? もしくはそこの使用人でも……今月ちょっと売り上げがピンチなんですよ……」

 

 若いドライバーは小林に懇願するも、小林は苦笑いを返すのみであった。

 

「……ははは、あの方は気難しい人でね……それに紹介するにしても、料理はできるかい? あの人と語らうには料理の知識が必要だよ?」

「うう……料理はできません……」

 

 件の人物ことカオリと語らうなら、花の知識やホラー映画の知識でも良いが、小林はカオリを紹介する気など無い。

 ゆえに、間違いなく持っていないであろう料理の知識を必須条件とした。

 

「それならば諦めるしかないね。私は昔から料理が好きなのは知ってるだろう?」

「趣味はお菓子づくりって書いてますもんね」

 

 若いドライバーは小林のネームプレートを思い返していた。

 

「私があの方に出会ったのはまさに運が良かったからだ。偶然あの方が私のタクシーに乗り、私のネームプレートを見たことが始まりだよ。ジャムなおじさんに似てるから、パンも作るのか。そう聞かれたから、私はイエスと答えた。すると、あの方はコロッケパンの作り方を語ったんだ。これが更なる幸運、そのコロッケパンのレシピは私の作るモノとほぼ一緒だった。そこから私はあの方から声がかかるようになり、今に至る……だから、タクシードライバーに無駄な知識なんてないのさ」

 

 小林は自信を持って告げる。

 

 無駄だと嗤われてきたものこそが、カオリの興味を引くに至ったからだ。

 

「……ちょっとばかし特殊な趣味とかでもですか?」

 

 若いドライバーは不安そうに尋ねる。何せこの若者は少し趣味が独特だ。

 

「もちろんさ。例えばそうだな……お金は持っているけど、女性よりオナホールが好きな人間不信の中間管理職サラリーマン。なんてどうだい? 冴木(さえき)君」

 

 若いドライバーの名は『冴木空男(さえきからお)』。

 名前の割りにどこか冴えない顔つきだが、昨今人気の若手ミュージシャンに似た顔であるため、以外にも顔の良さで採用されてここにいるらしい。

 

「持ちネタがオナホールしかなくて不安なら、歌を練習するのはどうだい? 最近人気の歌手……あー、なんとかに似てるんだろう? まぁ、休日は色々新しい事にチャレンジしてみると良いんじゃないかい? ()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 冴木も小林と同じく、人間社会に溶け込もうとする喰種だ。

 だからこそ冴木が入社したとき、そのニオイを嗅ぎ取った小林は冴木の教育係を名乗り出た。

 

 なにせ、喰種が人間社会に紛れ込めるかどうかは最初が肝心だ。そこさえ乗り切ってしまえば、後は割となんとかなる。

 

「それにだ冴木君、タクシードライバーをやっていくと、お客さんから色々なことをオススメされる。たくさんのオススメを受け、たくさんのオススメをこちらもする。オススメによって雑学は増え、より私達は豊かな生活になる……例えば冴木君、君が私にオススメしてきたオナホールの『ぷに○なシリーズ』だが、今年の6月に新作『ぷに○なスーパーデラックス』が発売なのは知っているかな?」

 

 小林は冴木からオススメされた『トルソー型オナホール』を試し、そしてその情報を収集していた。

 

 話す相手に合わせ、相手の好む話題を提供し、最後に自身のオススメへと引き込む。これこそが小林(ペニーワイズ)のオススメ術だ。

 

「ふふふ、冴木君は知らなかったようだね? パソコンは持っておいた方が良い。こういった情報はインターネットにしかないからね。携帯もそんなガラケーなんかじゃなく、スマートフォンが理想だよ? 格安SIMなら普通の携帯電話よりも安くてオススメだ。さて、この新しい『スーパーデラックス』は、従来品よりも重い4キログラムのオナホールだよ。今までの2.4キロだと物足りなかったんだろう?」

「……良いですね! 発売日が楽しみです! ……でも、やっぱり重さが足りなそうです……」

 

 冴木は悲しそうに目を伏せる。

 

 彼にとって、たった4キロでは足りないのだ。

 

「おーぅ……そうなると冴木君はまた『リアルホール』を作るんだろうけど、証拠を残し過ぎだよ? 近頃は警察だけじゃなく、捜査官(ハト)も動き出している。せめてリアルホール作りは自宅で行い、切り離したパーツは見つからないように食べるか燃やすのがオススメだ」

 

 冴木はオナホールで満足しきれなくなると、女性の首と手足を切り落とし、胴体だけを持ち帰る。

 その際、冴木は胴体以外のパーツを捨てて行くため、残骸の切断面から鱗赫の喰種による犯行ということまで判明していた。

 

「そして、冴木君の事件を担当している捜査官は『下口(しもぐち)』という人物なのだが……この写真を見てくれるかい」

 

 その写真にはタラコ唇が特徴的な捜査官が写っており……。

 

「あっ……」

 

 冴木はこの捜査官を知っていた。

 

「ああ……厄介な事に、この捜査官(ハト)と私達は出会っている。それも、キミが玩具屋に残っていた『ぷに○なデラックスハード』のラス1を手に取ろうとしたときにブッキングした人だ……せっかく趣味が合いそうな人物だったが、どうやら捜査官だったようだねぇ……? その因果か分からないが、キミのCCGでの個体名は『トルソー』になった。おめでとうトルソー、君が下口氏のトルソーにならないことを願っているよ?」

 

 自分の事を知っているかもしれない人物が自分を追っている。

 その事実に冴木は体を震わせた。

 

「ど、どうしたら良いですか小林さん! このままでは……」

「いや……なら少しは控えたらどうかな? 半年後の『スーパーデラックス』発売まで我慢すればいい」

 

 小林は至って正論を述べるが、冴木は首を横に振る。

 

「む、無理ですよぉ……僕はまだ若いんです。半年も我慢なんてできませんよ……」

「おーぅ……だからオナホールで我慢しよう? 私はもうすぐここを辞める。私が辞めた後、冴木君は一人で頑張らなくてはならない。今のままでは冴木君が心配だ……だから、冴木君はしっかり我慢を覚えるんだ」

 

 だが、冴木は下半身を自制できる自信がなかった。

 

「……ううっ……小林さんは居てくれないんですか? 小林さんは強いし、人間社会に溶け込むのも上手なので、もう少し手伝って欲しいですよぉ……」

「すまない。私はあの方を優先する必要があるんだ」

「15区のお嬢様ですか? 人間なんてほっときましょうよ……」

 

 冴木は15区在住の存在=喰種ではないと認識しているため、『お嬢様』を人間だと判断した。

 

 だが、小林はそれを訂正しない。

 

 小林にとって、冴木はあまりにも浅慮だからだ。

 

 赫子痕を残さないカオリの変幻自在な赫子と違い、冴木は鱗赫の赫子痕をクッキリと残してしまう。

 しかも、死体を隠滅することなく放置し捜査官を呼び寄せる。

 

 そんな冴木相手に、小林は自分が15区陣営の『ペニーワイズ』であることなど言えるわけがなかった。

 言ったが最後、間違いなく冴木はカオリにすがりつき、カオリは冴木の赫包を喰らった後に、小林かキジマ用のトルソーに変えるだろう。

 

「……冴木君、君もお金の大切さは理解しているだろう? 数千万円規模の収入を蹴ってまで、冴木君の面倒を見ることはできない。それに……分かっているのかい? 私の勤務地は15区だ。日が沈む前に逃げ出さなければ必ず死ぬ、喰種にとって最も危険な街だ。日が出ている時間だとしても『レザーフェイス』の喰場を荒らしたら死ぬ。冴木君、キミはいつでも我々を喰い殺せる怪物が住まう地で働く勇気はあるかな?」

 

 小林はカオリに存在を許されているが、冴木は違う。冴木にとって15区は間違いなく危険地帯だ。

 

「む……無理です……」

「うむ、すまないね冴木君」

 

 小林は浅慮なこの青年が、少しでも長生きできることを願った。

 

 だが……それと同時に、それは難しいとも感じていた。

 

──────────

 

 冴木に仕事のノウハウやコツを引き継がせつつ、小林はタクシーを走らせる。

 

「ここは近道なんだよ。カーナビに頼るばかりじゃなく、こういう細道もあることを覚えておくといい」

 

 冴木を助手席に乗せ、タクシーは道をひた走る。

 

「研修で学んでるとは思うけど、私達が営業できる範囲は1区から23区と三鷹、武蔵野市だけだと法律で決まっているよ? たとえば、15区でお客さんを乗せて、八王子まで行くことはできる。その帰り道に、八王子から4区へお客さんを運ぶことはできる……でも、八王子から神奈川に行くことは拒否しないといけないんだ。これを破ると警察に捕まるから注意するんだよ? 警察に捕まれば、そこで喰種だとバレる……タクシードライバーは捜査官(ハト)だけじゃなく、警察官(サツ)にも気をつける必要があるんだ」

「はい! ……あ、小林さん。あそこで女の子が手を振ってますよ?」

 

 冴木の指差す方を見ると、少女とも言えそうな程に若い女が手を振っていた。

 

 小林は若い女の目の前で停車すると、扉を開ける。

 

「お客様、ただいま新人の研修中でこざいまして、助手席に新人を座らせておりますが、構いませんか?」

「はい、構いません」

 

 若い女は無表情で肯定する……その時、小林は若い女から漂う『微かな血のニオイ』を嗅ぎ取った。

 

(生理……ではない。もしやこの娘、喰種か? それとも捜査官(ハト)か? ……こんな時に花村さん、もしくはロウさんが居ればな……)

 

「……あの、乗っても良いですか?」

 

 突如黙った小林を、若い女は不安そうに眺めている。

 小林は考えを中断し、柔和な顔で微笑んだ。

 

「これは大変失礼しました。ええ、もちろんお乗り下さい。ところでお客様、どちらまで?」

「8区まで。近くに来たら詳細はその時に」

「分かりました。近くに来たらお伝えしますね」

 

 小林は8区に向けタクシーを進ませる。早速小林は若い女を退屈させまいと口を開こうとするが……。

 

「あの……お二人とも……喰種……ですよね?」

 

─────若い女が特大の爆弾を放ってきた。

 

 女の爆弾発言に、冴木はあからさまに狼狽える。

 

「……ほっほっほ、お嬢さんは冗談がお上手だ。ですが……私には鋭い牙も、闇夜を飛ぶ翼も無く、日光に当たっても燃えたりしませんよ? この冴木君もです」

「!! そ、そそそそうですよお客様。僕達は人間です。ほ、ほら、目だって赫眼(かくがん)じゃないでしょ!?」

 

 赫眼という言葉を使った冴木に、小林は内心で溜息を吐く。その言葉を使うのは、喰種か捜査官だけだ。

 

「……冴木君、『かくがん』? とは何だい? ……もしかして喰種というのは目が違うのかい? それなら分かりやすくて良い。ほらお嬢さん、このミラーで私の顔は見えますかな?」

 

 小林はシラを切る。この女が捜査官であった場合、冴木をスケープゴートにして逃げるためだ。

 

 だが、若い女は首を横に振り……。

 

「私も喰種です。捜査官(ハト)ではありません」

 

 その目を赫眼へと変えた。

 

「な、なんだ……良かったですね、小林さん」

 

 冴木は安心したかのように一息つくが、小林はむしろその逆、喰種の女を警戒していた。

 

 小林の知りうるシチュエーションにおいて、喰種が喰種だと明かす場面は少ない。

 明かす場合の可能性は大きく分けて2つ……何かを依頼する場合と、敵対している場合だ。

 

「……お嬢さん、荷運びの依頼で?」

 

 そして依頼の場合、大体のケースはこの荷運びこと『死体運び』だ。

 

「いえ、違います」

 

 だが、喰種の女はそれを否定する。

 

「……じゃあ、何のご用で?」

「我々は情報を必要としています。なので、我々の傘下に加わってください。我々があなた達を守る代わりに、我々にタクシーの録音データを渡してください。我々は『アオギリの樹』……従って頂けるなら、あなた達の身の安全は約束します」

「……なるほど、それならば……」

 

 小林の答えは決まっていた。

 

「お断りします」

「アオギリに加えて下さい」

 

 小林の拒否と共に、隣から加入の声が響く。

 

「ええっ!? 小林さん入らないんですか!? 小林さんってかなり強いですし、僕としては小林さんが入ってくれた方が嬉しいんですけど……小林さん以外に頼れる人居ないですし……」

「……そちらの……サエキさんは加入ですね。小林さんは加入拒否ですか……理由を聞いても?」

 

 喰種の女はどこか不満そうな目で小林を見る。断られるとは思っていなかったのだろう。

 

「なぁに、個人的な理由です。それに、冴木君は昨今世間を賑わせている『トルソー』という喰種でしてね。冴木君は諜報のみならず、戦闘でも充分活躍できる力を持っていますよ?」

「そ、そうですか? いやぁ、小林さんにそういって貰えると嬉しいなぁ」

 

 冴木へと話の内容をズラし、拒否する理由をはぐらかして笑う小林。

 

 

 そんな姿を、女喰種は訝しげに見つめていた。

 

──────────

 

「では、僕はこれで失礼します」

「お疲れ様、また明日」

 

 業務終了後、小林はタクシーで冴木を冴木の自宅まで運んだ。

 ルール的には黒寄りのグレーだが、咎める者は誰もいない。

 

「さて、私もタクシーを返して帰……おや?」

 

 昼間に8区まで乗せた女喰種が、小林のタクシーに向かって手を振っていた。

 

「お嬢さん、またお会いしましたね。今度はどちらまで?」

「20区までお願いします……冴木さんは居ないんですね」

「ええ、新人のうちは定時で帰してあげないと可哀想ですからね。それでは20区へ向かいます。近付いたらまた教えますよ」

 

 小林はタクシーを20区へ向けて走らせると、女喰種は再び昼間と同じ質問をする。

 

「小林さん、アオギリに加入しない理由を教えて下さい」

「……ほっほっほ。昼にもお伝えしたとおり、個人的な理由ですよ?」

 

 しかし、小林は理由を語らない……否、言えるわけがない。

 なにせ小林が所属している15区は、アオギリと敵対している組織だ。

 

「アオギリは強大な組織です。戦闘部隊と違い、あなたや冴木さんのノルマはレコーダーのデータを渡すという簡単なモノ。それだけでアオギリの庇護があるんですよ? なぜ断るんですか?」

 

 食い下がる女喰種に、小林は疑問を抱き始める。

 

「ヤケに私程度の喰種に執着しますね。何か理由があるんですか?」

「……それは言えません。いいえ、私は知りません」

 

 女喰種は首を振る……その様子に小林は、アオギリの上層部が自分を欲しているのではと推測した。

 

「なるほど、だいたい理解できました。それにしても……まさか私が捕捉されているとは……恐らくアナタに指示を出したのはアオギリのボス『高槻泉(たかつきせん)』じゃないですか?」

「え? 高槻……?」

 

 困惑した様子の女喰種。どうやら高槻の指示では無いようだ。

 

「おや、違いましたか? かの喰種だからこそ私を嗅ぎ付けたと思ったのですが……そうなると、タタラという炎の喰種ですか?」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 高槻先生が喰種でアオギリのトップ!?」

 

 女喰種はタタラにタクシードライバー……もとい車の運転ができる喰種を集めるように言われており、その前段階としてレコーダーの取引を持ち掛けていただけである。

 

 だが、小林は高槻(エト)がリオの引き抜き工作をしたように、今度は自身を引き抜きに来たのだろうと判断してしまったのだ。

 

「……思い出しました。タタラさんとエトさんは『敵に()()()()が誰だかバレてるかもしれない』って言ってました……」

 

 脈絡も無く話し出した女喰種に、小林は首を傾げる。

 

「その敵は……15区に住む喰種……」

 

 相手はこちらの正体を掴んだ……しかも小林の自爆によって……。

 その事実に、小林の体から滝のように汗が噴き出す。

 

(マズい……俺だけではアオギリには勝てないっ……!)

 

 小林はSSレートの喰種『ペニーワイズ』としてCCGのライブラリーに載っているが、このレートは人への危険度が加味されているレートだ。

 小林の実力を他喰種と比べれば『S(プラス)』といったところ。

 アオギリの幹部達を歯牙にもかけないカオリ達と違い、小林が幹部やボスクラスを相手にするのは難しいのだ。

 

「……小林さん、もしかして『ペニーワイズ』ですか?」

 

 完全にバレていた。

 

 とはいえ、15区に成人男性の喰種は小林(ペニーワイズ)しか居ない。誰にでも分かる問題であった。

 

「それで……()が踊る道化師ペニーワイズだとして、俺と敵対する組織にいるお前は、俺を殺すのか? 確かに俺は15区で最弱の喰種。殺すのは容易いだろう……だが、俺の運転と料理はレザーフェイスさんに高く買われている。あの人は食事に拘る……俺が消えればアオギリは終わるぞ?」

 

 小林は嘘混じりの脅迫をする。例え小林が無惨に殺されたとしても、カオリは表情一つ変えないだろう。

 だが、それをカオリ以外は知らない。だからこそこの脅迫は一定の効果を持つ。

 

「ううん、私はアオギリの中で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だから、今後小林さんには近寄りませんし、小林さんの事をアオギリに話しません。でも条件が一つ……私と戦ってくれませんか?」

 

 女喰種は()()()()()を生やす。

 

─────それらの赫子は、小林のよく知る形状をしていた。

 

「なっ!! ドクターとナースの赫子だとッ!!? ……なるほどお嬢さん……貴女が『ヒナミさん』か……」

 

 女喰種……もといヒナミは静かに頷く。

 

「……お父さんとお母さんは()()()()のクインケとして、20区であの日……名だたる捜査官達と渡り合った。私はそんな医者と看護婦の娘として、私の実力がどこまであるかを知りたい。だから、どこか見つからない場所まで案内してください」

「ふむ……仕方ありませんね……あの方が花屋であったことも知っていると……」

 

 小林は20区の駐車場にタクシーをとめると、水路に向かって歩いていく。

 

 

 やがて到達した場所は、かつてヒナミとトーカが喰種捜査官『真戸呉緒(まどくれお)』と戦った場所であった。

 

 

「ここは……」

「ここなら良いでしょう。それではお嬢さん……You float too(お前も浮上しろ)ッ!」

 

 先手を打つは小林。7()()の鱗赫を自在に振るい、ヒナミへ飛びかかった。

 

 ヒナミの赫子はカオリの使うクインケと同じ。

 小林はヒナミが中距離戦で真価を発揮する喰種だと判断していた。

 

 ゆえに狙うは近距離戦。それは危険な甲赫の間合いでもあるが……。

 

「くっ……攻撃が重い……」

 

 ヒナミは小林の鱗赫による連撃を防ぐことで精一杯であった。

 

「ほっほっほ! 俺が何度ドクターやナースに刻まれてきたと? ナースの弱点は赫子の速度を超える手数の攻撃、それに鱗赫さァ!! ……ですが、この程度では無いのでしょう?」

「はい。今度はこちらから行きます」

 

 ヒナミは4つの鱗赫を生やし、小林の鱗赫を絡め取っていく。小林は急激に強くなったため、赫子のコントロールは若干不安定だ。

 その点、ヒナミの赫子はコントロールが高水準で保たれている。

 

 縦横無尽に飛び回る小林の蛇腹剣は、少しずつ絡まり、手数が減っていき……。

 

「……ふむ、私の負けですねぇ。流石あの人が一目置く『ヒナミさん』といった所ですか……」

 

 小林の赫子には全てヒナミの鱗赫が巻き付いており、赫子を解除しなければ動けない状態となっていた。

 甲赫が健在のヒナミと、赫子の動きを封じられた小林……勝敗は明らかだった。

 

 もちろん、実戦ならここから格闘戦を挑むこともできるし、赫子を切り離して仕切り直すこともできる。むしろここからが小林の本気を発揮する領域だ。

 

 だが、これは殺し合いではなく力試し。無駄な出費はできないため、実にあっさりと戦いは終わった。

 

「ありがとうございます。これでまた一つ、自分がどれだけ戦えるかが分かりました。私はまだまだですね……小林さんの本気を引き出せなかった……」

「いえいえ、ヒナミさんも大した強さだ。三年前の私なら手も足も出なかったでしょうね……ヒナミさん、貴女も15区に如何ですかな? 貴女ならばあの方も受け入れると思いますよ?」

 

 小林はヒナミを勧誘するが、ヒナミは首を横に 振る。

 

「……いいえ。私はアオギリでやりたいことがありますので」

「おーぅ……ならば仕方ない。何を選ぶかは貴女次第。その道が我々とぶつからない事を祈っていますよ。では、私はこれにて」

 

 小林は駐車場に向けて歩きだすが……。

 

「待ってください。リオちゃんは元気にしてますか?」

 

 ヒナミの発言に、小林は思わず振り返った。

 

「……知り合いですかな?」

「リオちゃんは元気でやってますか? ……それと、お兄さんは……助かりましたか?」

 

 ヒナミは分かっている。もしもリオの兄が生きていたなら、あの20区の戦いに居ただろう。

 

 だが、あの場にいた男は小林のみ……。

 

「いいえ、かなり前からクインケにされていたようです。ですが、キジマという捜査官からクインケは回収していますよ。フレディがあの時持っていたチェーンソーが、フレディの兄です」

「……やっぱり、リオちゃんが『フレディ』だったんですね……どうしてリオちゃんは……いいえ、どうして花屋さん達はあんなに強いんですか?」

 

 ヒナミの疑問に、小林はタクシーに乗り込みつつ告げる。

 

「喰種を食べればいいんですよ。喰種を車に例えるなら、赫子はエンジンです。エンジンをどんどんグレードアップしていけば、車はどんどん速くなる」

 

 ヒナミの返答を待たず、小林はタクシーに乗り込んだ。

 

「…………」

 

 走り去るタクシーを見送るヒナミの目は、どこか寂しさが漂っていた。

 




 ぷ  に あ な S P D X 
2015年6月発売です。
2018年3月には、なんと10キロのトルソー『ぷに○なミラクルデラックス』が発売されています。
しかし、2018年まで冴木さんが生存する未来は……。

■原作と違う点
・冴木さんの勤続年数
原作では5年くらいタクシードライバーをやってると六月さんに言ってるのですが、冴木さんってそんなに発見できないキャラじゃないっしょ?と思ったので、他の県でドライバーしてて、東京に来たのは最近なのかなぁと解釈しました。

・小林さんとの関係
原作では冴木さんの方が圧倒的に強いため、小林さんと関わることはありませんでした。
しかし、本作では小林さんの方が強いため、冴木さんに関わる余裕あり。

・オナホネタ
トルソーだからね。仕方ないよね。
原作でも冴木さんリアルホール作ってるし。
何より冴木さん性豪やんけ!

・下口上等捜査官
見た目がムッツリっぽいというだけで変なキャラに独自解釈された捜査官。原作ではちょっと嫌味なだけどちょっと良いヤツな捜査官です。

・見た目が似ている若手ミュージシャン
誰とは言いませんよ。言いませんとも。
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