花屋喰種   作:みぞれアイス

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幕間第21話 Haunted Ground

 東京は『大深度地下法』により、地表から40メートル以内が個人の所有地として認められる。

 

 それより地下は一部例外はあるが、基本的に国の所有となり、地下鉄等の敷設に使用される。

 つまり、地表40メートルよりも地下に何かを作ったとしても、国に捕捉されてしまう可能性があるのだ。

 

 だが、捕捉されない場所も存在する。

 

 東京の地下深くには『24区』が広がっており、24区は一部の出入り口を除き『Rc細胞壁』で覆われている。

 Rc細胞壁は極めて堅く、通常の重機では削る事ができない。

 

─────つまり、24区の中は国が捕捉できないのだ。

 

 とはいえ、喰種対策局( C C G )が24区を探索している関係上、捕捉される可能性はゼロではない。

 だが、24区は直線距離ですら十数キロの深さがあるため、深部は全くといって良いほど探索されていない。

 

 

 

 そして、東京15区の地表から2キロ程下りた地点……ここにはカオリの秘密実験場が広がっていた。

 

 比較的浅い深度ではあるが、ここは24区の中。

 ゆえに国に捕捉されることはないが、通常なら間違いなく捜査官に捕捉される。

 

 だが、この場所を捜査官が捕捉できる可能性はない。

 なぜなら……ここへ通常の方法で辿り着くルートが厳しすぎるからだ。

 

 カオリの実験場から徒歩で行ける唯一の道は『15区のゴミ捨て場』への一本道となっている上に、道中は『グールイーターの並木道』である。そして、ゴミ捨て場と繋がっているのは『24区の最深部』だ。

 

 よって、24区在住の喰種であろうとも侵入できる可能性はまず無い

 なお、現時点で24区の喰種はほぼ全て死に絶えているため、そもそも侵入を試みる者が居ないのは御愛嬌である。

 

 ここへ入るには、実験場を包み込むように展開されているRc細胞壁を破壊して突入する方法しかない。

 だが、ここのRc細胞壁は他のRc細胞壁よりも頑丈で分厚く、再生力の高い壁であり、この壁を破壊できる者は極一部の例外を除き存在しない。

 

 ゆえに、ここへ入るにはかなりの手間となるのだが……所有者たるカオリのみが使える秘密の通路が存在する。

 

 

 

 

「姉様、地下へ行きますので『道』をあけて下さいまし」

「いいけど、ろーちゃんは通れるようにしてあるから、わざわざ私に言わなくても良いんだよー?」

 

 西荻窪にある『花村』の表札がついた家にて、ロウはカオリへ話し掛けた。

 

「ですが、ここは姉様の家ですので、家主が居るときには許可をいただこうかと」

「そっかー。じゃあついでに温泉入ろっか! リオちゃんとシーナちゃんもおいでよ!」

 

 カオリはテレビを見ていたリオと、本を読んでいたリゼを温泉に誘う。

 

「温泉!? 入りたいっ!」

「そうね、温泉も気になるし、自分の食事がどうやって作られてるかも気になるわね」

「じゃあみんな服脱いで地下室に集合だよー!」

 

 こうして、地下実験場の見学が始まった。

 

──────────

 

「……色々ツッコミを入れても良いかしら?」

「うん? 良いよ?」

「まずフレディの……何それ?」

 

 リゼはリオを指差す。服を脱いで集合のハズにも拘わらず、リオはパンツのようなモノを穿()いていた。

 

「え、えっと……これ、自分じゃ脱げなくて……」

「シーナちゃん、それは私の分離赫子だねー。リオちゃんが()()()をしたりされないようにしてあげてるんだよー。だからあんまり気にしないであげてね? あ、ちなみに今日は外さないよ?」

「……っ」

 

 リオを男だと証明する部分には、ブーメランパンツ状の赫子がくっ付いている。それはカオリしか外せないため、リオは脱ぎたくても脱げなかったのだ。

 

「あー、貞操帯みたいなモノね。確かにフレディが孕んじゃったりしたら大変よね」

「……んー、そうだねー」

 

 リゼはリオが男だと知らないが、それを指摘する者は誰もいない。わざわざ教える必要が無いからだ。

 

「んじゃ次カオル、その傷どうしたの?」

「え? あー、これ? こっちは昔喰種にやられた傷で、こっちは昔捜査官にやられた傷」

 

 カオリの下腹部と右肩から腕には、大きな傷跡がついている。

 

「肩のは青メガネ……有馬特等に甲赫の赫包ごと腕を吹っ飛ばされた時の傷だよー。その時に吹っ飛ばされた私の腕が……えっと……なんだっけ? あ、そうそう! 『(いくさ)』ってクインケがあるじゃん? アレになった」

 

「えっ、IXA(イグザ)ってカオルの赫子から作られたクインケだったの!? 道理で強いわけね、あのクインケ。それじゃそっちの傷は……あ、ゴメンやっぱり止める。そのタイプの傷ができる理由、今思い出したから」

 

 カオリの下腹部にある大きな傷跡……リゼはそれに良く似た傷を知っていた。

 

「はぁー……私も和修から逃げ出さなかったら、多分そうなってたのよね……」

「ふふふっ、じゃあニムちゃんには感謝しないとねー?」

 

 ニムラには感謝するべきかもしれない……だが、それとこれとは話が別だ。

 

「それは嫌。ニムラが私を鉄骨で潰した事と嘉納の実験体にした事は、まだ許してないから……と、とにかく! 疑問も解決したし、温泉入りましょう!」

「はーい。ハッチ開けるよー」

 

 カオリは地下室の片隅にあるハッチを開ける。

 

─────そこには、巨大なラフレシアに似た花が2つ咲いていた。

 

「……え? 何コレ? 温泉は?」

 

 花の中央は空洞になっているが、そこから温泉が湧き出ているような事は無く、ただ風の漏れる音が響いている。

 

「え? 温泉は地下にあるから、この分離赫子の滑り台を使って行くんだよ? ちなみに左の赫子はゴミ箱兼実験体や餌の投入用だから、入ったら汚れるからねー? それじゃシーナちゃん、先に行ってるねー!」

 

 カオリは右の花へ飛び込み……。

 

「ひゃっほおおぉぉぉぉぉ……」

 

 元気な叫び声と共に消えていった。

 

「……何をボサっとしてますの? リオとシーナは早く行きなさいな。アタクシは最後にハッチを閉めますので」

「それでは僕から行きますね? ひゃっ……えっ暗い速い怖いちょっと待ああぁぁぁぁ……」

 

 リオも花へ飛び込んだが、リオは悲鳴を上げながら消えていった。

 

「……あ、これもしかして絶叫マシン系?」

「いえ、違いますわよ? 人間の作るスライダーは、せいぜい数百メートルですわよね? このスライダーは約2キロですわ。そしてほぼ直滑降。つまり……世界最高峰の絶叫スライダーでしてよっ!」

 

 ロウはリゼを花の中へ叩き落とした。

 

「ちょま心の準備いいいいぃぃぃぃ……」

 

 絶叫をあげながら、リゼは花の中へと消えていった。

 

──────────

 

「……スライダーの中がニオっていたのですが、弁明はありますこと?」

 

 スライダーから降りたロウは、不機嫌そうな顔で告げた。

 

「ひっく……うぅ、ごめんなさい。暗くて速く怖くてぇ……」

「……いえ、楽しかったわよ。最初ちょっと漏らしたかもしれないけど……というか、私をいきなり叩き落としたランサーのせいよね?」

 

 2キロに及ぶほぼ直滑降のスライダー。スライダーの壁は真っ暗で良く分からないが、染み出す粘液で濡れており、それが更に降下速度を増す作りになっている。

 1分程度の時間で2キロ先の場所へ到達すると考えれば、それがどれほどのモノか分かるだろう。

 

 初めてカオリの赫子スライダーを使ったのなら、漏らしても仕方がないのだ。

 

「……先に温泉ですわね」

「うん。リオちゃん達はたぶん漏らしちゃうだろうと思ってたからねー。さぁ、こっちだよー!」

 

 泣き出したリオと涙目のリゼを連れ、カオリとロウは温泉へと向かった。

 

 

 

「へぇ……良い温泉ね。24区って案外悪く無いわね」

「いえ、ここ以外に温泉はありませんわよ? 姉様の赫子で24区の壁を突き破り、そこから源泉と地下水を持ってきているのですわ」

 

 炎や冷気以外では壊されず、自動修復するパーツとして、分離赫子は高い水準を保っていた。

 よって、カオリの地下実験場は、スライダーや取水装置などを始めとした様々な設備を、カオリの分離赫子によって賄っている。

 分離赫子の肥料は24区の壁で補給でき、血液は『血液供給用』の人工喰種がいる。ゆえに、ここならばカオリの分離赫子は使い放題なのだ。

 

「あれ? でもカオルの赫子って熱に弱いのよね? 源泉は大丈夫なの」

「姉様は『赫子じゃない炎や氷なら大丈夫』と仰っていましたが、それでも温度変化には弱かったようで、必要以上の『補給』が必要でしたわ。なので、源泉そのものを取るのは機械を使い、姉様の赫子パイプを通る温泉は40℃をキープするようになっていますの」

 

 Rc細胞由来の熱量攻撃でなければ大丈夫だとカオリは思っていた。だが、実際はRc由来で無かったとしても、カオリは炎や氷に弱いことが発覚した。

 

 とはいえRc細胞由来の熱量と違い、赫子が溶けるような事はない。ただ若干脆くなるだけだ。

 

「ここで機械なんて動くんだ? ……あれ? そういえば照明があるってことは電気きてるの?」

「勿論完備ですわ。例えばここの照明や空調設備、及び実験場の各種機材等は、温泉を利用した地熱発電を使っていますわ。それらの設備等は人間が使っているモノを持ってきていましてよ?」

「だから地下なのに光があるのねぇ……」

 

 水は地下水、電気は違法設置した地熱発電設備。カオリの実験場は地下にも拘らずインターネット以外完備の素晴らしい環境だ。

 

「ちなみに、廃棄物とか排水とかはどうしてるの?」

「全部24区の最下層へ投棄してますわ。24区最下層の一区画は、おそらく深刻な環境汚染が起こっているでしょうね」

 

 なお、24区最下層の投棄場所は、正規の道順でここへ来るための道も兼ねている。

 

「うへぇ……24区の喰種ってカオルが皆殺しにしたらしいけど、もし生きてても地獄ね」

「だと思いますわ。ところで、最下層に『姉様のものではない赫子の様なモノ』があったのだけど、シーナは何か知ってるかしら? 以前24区の喰種を拷問にかけて聞き出した限りだと、『ナァガラジ』という喰種らしいのですわ」

 

 ナァガラジという名前は分からないが、リゼには思い当たる事があった。

 

「あー、私って和修家の根幹に関われたワケじゃないから、曖昧な情報になるんだけど……」

 

──────────

 

「さぁ! お風呂でさっぱりしたことだし、リオちゃんとシーナちゃんには実験区画も見てもらうよー!」

 

 別のお風呂に入っていたカオリとリオが合流し、4人は実験区画へ向かう。

 

「ここではクインクス、オルゴール、喰種への赫包移植の三つはもう潰しちゃったから、人工喰種の量産と養殖を行ってるんだよ。まずはあれを見て」

 

 カオリの指差す先には、茨の檻の中で互いを殺し合う人工喰種達がいた。

 

「あれは『カセット』って人工喰種だよ。嘉納先生の研究に『フロッピー』や『タロちゃん』っていう名前があってね? 『カセット』は『タロちゃんとフロッピーの中間くらい』の出来栄えの人工喰種なんだ。まぁ失敗作の事なんだけどね。赫子が使えないから、まぁ捨て駒にしかならないねー。これはカセット同士で共食いを繰り替えすことで、『ディスク』になれるかどうかを検証してるんだよー」

 

 カオリは楽しそうに嗤う。

 

 彼等、彼女等は、『カセット』になる前は平和に生きていた人間達である。

 だが……拉致され、化物へ変えられ、放置され、極度の餓えから互いを喰い合う地獄のような生活へと変えられてしまった。

 

 当然彼等はこんな生活を望んでいない。事実、カオリ達を見つけたカセット達は、イバラの棘に身体を貫かれてなお、手を伸ばしている。

 

─────助けを求めているのだ。自分たちが今、誰に拉致され、どこに居るのかも知らず……。

 

「勿論食用のカセットもたくさんいるよ。というか、カセットのほとんどが食用なんだけど、それは後回しでいいよね? どうせ生簀(いけす)の中に浸かってるだけだし。それじゃ次はアレを見て!」

 

 カオリの指差す先には、頭から花の生えた人工喰種達が、赫子を使ってRc細胞壁へ攻撃を行っている。

 

「あれは『ディスク』。カセットの上位版だよー。フロッピーよりも良いのはCDだよね? だからディスクって名前。ディスク達は赫子が弱いけど使えるから、壁を攻撃して強度と限界を測ってるんだ。でも、普通の喰種って疲れたら赫子使えなくなっちゃうじゃん? だから、頭に植えた花で脳味噌を無理矢理弄って、死ぬまで赫子を使わせてるんだよー。あ、死んだ」

 

 死んだ人工喰種はガリガリにやせ細り、ガイコツのようになっていた……赫子の使いすぎによる餓死だ。

 

「うーん、ディスク達はレートBからAくらいの強さってところかなぁ……? まぁ最近はディスクの量産ができるようになってきたから、次は共食い実験で『ブルーレイ』に進化できるか実験しないとねー。それじゃ、次はあっち!」

 

 カオリの指差す先には、ヘッドフォンをしてチカチカ光る画面を眺めている人工喰種達がいた。

 

「あれは見ても良くわかんないと思うけど、洗脳中の『ブルーレイ』だよー。要はディスクより更に凄い! フロッピーなんてもう目じゃない! って感じの人工喰種だね。ちなみに、キジマさんもこのブルーレイだよ。まぁ、リオちゃんの赫子を使ってるのはキジマさんだけだから、キジマさんはちょっと特殊なんだけどねー」

 

 その後もカオリは実験区画を案内し、人工喰種達を紹介していった。

 

「それじゃ最後、アレを見て!」

 

 カオリの指差す先には、手足の無い肥満体の人工喰種が何体も培養槽に浸かっている。その人工喰種達は手足の切断面や口などに、極太のチューブが繋がれていた。

 

「あれは『マザーボード』だよっ。人工喰種を作る時、一々私達の赫包を取ってたら痛いし、私達が弱くなっちゃうでしょ? だから、人工喰種に使う用の赫包を取るための人工喰種だね。人工喰種を作るための人工喰種だから『マザーボード』なんだよー。ちなみにマザーボード達からは、私の分離赫子に使う用の血液も採取してるよ! マザーボード達は身体や脳味噌を結構弄ってるから、逃げたり攻撃してくることもないし、考えることも無いよ。ただ血液や赫包を生むための装置だねー」

 

 この実験場には、このような人工喰種達が何千人と居る。

 

 そして、彼等に救済が訪れることは……無い。

 

 

「さぁ、次は養殖だね! とはいっても、こっちはあんまり数が多くないんだよねー」

 

 カオリが訪れた養殖区画には、頭から花を生やした女性達が寝転がっていた。

 

「ろーちゃんの実験の結果、人工喰種は食性こそ喰種だけど、遺伝子の情報は人間のままであることがわかりましたー! ……つまりどういうことかというと、人工喰種のメスが喰種との子供を産むときに、隻眼の喰種になるかもしれないんだよっ!」

 

 死んだように動かない人工喰種達は、皆一様に下腹部が膨らんでいる。この人工喰種達は、全員が妊婦なのだ。

 

「人工喰種なら人間の肉を食べても病気にならないし、身体も丈夫。隻眼の喰種が生まれると良いんだけどねー。こればっかりは時間がかかっちゃうからねー」

「ちなみに、種付け前の人工喰種はアタクシの地下研究所にいますわよ。喰種専用の風俗店は人間用の本店と違い、極秘裏にやっているので中々客が増えなかったのですが……最近はだいぶ喰種の間でクチコミが広まったようで、少しずつ数が増えてきていますわね。来年にはもっと数が増やせるかと」

 

 

 世にもおぞましい研究と実験の数々。

 

 だが、ここにカオリ達を非難する者は誰も居ない。

 

 

─────なにせ、ここで正気を保っているのは、喰種だけなのだから……。

 




 温 泉 回 と 胸 糞 の ミ ッ ク ス
15区陣営はダークサイド。はっきりわかんだね

なお、貞操帯はアレな描写を書かないならR15で大丈夫なハズ。だってシティハンターが貞操帯ガッツリ描写してたけどOKでしたし。
でも、駄目だったら修正します。

■赫子スライダー
いわゆる指数関数のような形状。終盤以外はほぼフリーフォール。
最後に速度が落ちていき、べしゃっと地面に投げ出される。
なお、カオリの許可無き者が使用した場合、スライダーは対象を捕食する。

■実験場への行き方(正規ルート)
1. 地下最深部へ行く。
2. 地下最深部の汚染領域を突っ切る。
3. 突っ切った先にある道を上に進み『ゴミ捨て場』へ行く。
4. グールイーター並木を突破する。
5. 到着。

■人工喰種強さランク付け
・弱い < 強い
タロちゃん < カセット < フロッピー < ディスク < ブルーレイ

■Q&A
Q1.スライダーは大深度地下法大丈夫なん?
A1.コンクリートの中を通すように作っているので、すぐにはバレない。なお当然無届け、発見者は死ゾ。

Q2.これどうやって戻ってくるの?
A2.戻ってくる時用の直通路ってか、ロウが機材を搬入した時に使ったエレベーターモドキが別途あります。とはいえ描写する意味がないので割愛。

幕間編はこれにて終了です。
次からは:re編なのですが……。

すみませんッ!次のオークション&クインケ鋼強奪編で7区陣営が弱すぎる不具合が発生しているので、全体的に修正を行っています。
更新再開までは今しばらくお待ち下さい。

2019年12月末までには更新を再開します!
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