花屋喰種   作:みぞれアイス

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ゼラニウム
黄色:予期せぬ出会い
桃色:決意・疑い
真紅:憂鬱

おまたせしました!
:re編のスタートです!


花屋喰種:re【THE LEGION】
Re:第1話 Geranium


 タクシー会社『23タクシー』を退職して独立した小林は、個人タクシーを営んでいた。

 勤め人時代と違いノルマに追われる事もなく、ヒナミとの邂逅以降アオギリからの接触も無く、実に平和なモノである……(もっと)も、アオギリは散発的に発生する『フレディ』の襲撃で小林どころではないのかもしれないが。

 

 気ままにタクシーを走らせていると、馴染みの『玩具屋』に見知った顔が入っていくのが見えた。

 

「おや、あれは冴木君か……彼は最近『リアルホール』を作り過ぎだな……討伐されるのも時間の問題だろう……ああやって『スーパーデラックス』でずっと満足してくれていれば良かったんだけどねぇ……」

 

 CCGに潜入したカオリの情報によれば、冴木空男……もとい『トルソー』の捜査は着実に進みつつあるらしい。

 

 担当捜査官である下口(しもぐち)の話によると、犯人が『性欲旺盛な男』であることまで調べがついているようだ。

 (トルソー)が『体に傷痕のある女性』を狙っている事も、近い内にバレるだろう。

 

「彼は()()()()()べきだったか……? とはいえもう手遅れか……こっちに飛び火しないと良いが……」

 

 小林が喰種であると発覚してしまえば、タクシードライバーとして築き上げた10年間のキャリアが消えてしまう。

 今となってはカオリやロウの力により、キャリアを偽造する事は容易いものの、小林は慣れ親しんだこの顔と名前を捨てることはあまりしたくなかった。

 

「花村さんと神代さんはCCGへの内部工作、ロウさんは技術開発と実験台調達、リオ君は捜査の攪乱と赫包調達……そして馬鹿息子は()()()()()()()()()()……そして俺は運転と調理。俺の役割は大したことが無いが、誰しも順当に事を進めている中でヘマはしたくないものだ……」

 

 小林は冴木への愚痴をこぼしつつ、タクシーを走らせていく。

 

 すると、小林に向けて手を挙げる男性が現れた。

 

「あのアタッシュケース……捜査官(ハト)か……単独な上にタクシーを使うなんて珍しいが……恐らく冴木くん関連だろうな」

 

 捜査官がタクシーで移動することはあまり無い。CCGにはパトロール用の車やバイクがあるからだ。

 それゆえに小林は『タクシードライバー(トルソー)を追う捜査官の一人ではないか』と考えた。

 

 とはいえ、捜査官だからと乗車拒否などしようものなら、たちまち足が付きかねない。仕方なく小林は捜査官らしき男の前で停車する。

 

 入ってきた捜査官は、年にして20前後の若い捜査官だ。三白眼と泣き黒子(ぽくろ)が特徴的であり……。

 

─────その青年から()()()()()()()()()()()()

 

(まさか、クインクスか?)

 

「……お客さん、どちらまで?」

「西公園まで」

 

 人工喰種ならば小林も理解があるが、クインクスについては良く分かっていない。カオリ達はクインケ鋼の不足を理由に、クインクスの実験をすぐに止めてしまったからだ。

 

 つまり、クインクスは小林にとって良く分からない存在だ。

 この男の嗅覚次第によってはバレるかもしれないという危機感を小林は抱きつつも、相手にそれを悟らせないように接客を始める。

 

「─────とまぁ、そんなワケで最近は……」

「お菓子作りですか」

「……おや、私の趣味のことで?」

「ええ」

 

 かつてのカオリと同じように、お菓子作りについて聞いてくる男……小林の背中に、一筋の汗が流れた。

 

(……マズい、花村さんの情報によればクインクスは『対15区を見据えた部隊』だ……! つまり、コイツの狙いは冴木君じゃなくて俺かッ!?)

 

──────────

 

「おや、私の趣味のことで?」

「ええ」

 

 二等捜査官の『瓜江久生(ウリエくき)』は、目の前のタクシードライバーに疑問を抱いていた。

 

「ンフフ、私の顔は『ジャムなおじさん』に似てますからね。お菓子作りがメインではありますが、パンも作りますよ?」

 

 クインケを内包した捜査官『クインクス』の中でも優れた嗅覚を持つ瓜江は、様々なタクシードライバー相手に捜査をしてきた。

 その中で分かったこととして、ドライバー達は多かれ少なかれ『趣味のニオイ』がすることだ。

 

「お客さん、お菓子やパン作りに興味はありますか?」

「いえ、甘いモノは苦手なので」

 

 だが、この男から『趣味のニオイ』はしない。

 

「おーぅ、それは勿体ない。甘いモノを作れる男性は女性にモテますよ?」

「(なんだコイツ、まるで俺がモテないかのように言いやがって)今時、甘いモノに釣られる女なんて居ないでしょう。騙されませんよ」

 

……否、体臭すらしない……タクシーという密閉空間において、あまりにも不自然。

 

「いえいえ、そんな事はないんですよ。私が今一番お世話になってる方は、お菓子を作る私を気に入ってくださったんですよ。今ではその方と個人的な付き合いもありましてね。あなたは上司が女性だったりしませんか? お菓子作り、オススメですよ?」

 

 確証は無い。だが、この男こそが……。

 

「すみません、ここで止めて下さい」

「まだ西公園まで先ですよ? それに、申し訳ありませんが、道交法の関係でトンネル内で停車はできないんですよ……トンネルを出たら停車しますね」

 

─────喰種であるという予感があった。

 

「そうですか、ならそのまま聞いて下さい」

 

 瓜江は運転席に乗り出すと、小林に『手帳』を見せる。

 

「喰種捜査官です。趣味がお菓子作りなのは、嘘ですよね?」

「お客さん、運転席に乗り出しちゃ危ないですよ? ちゃんとシートベルトの着用をお願いしま……」

「僕、人より鼻が利くんで、軽く洗ったくらいじゃ分かりますよ? 血のニオイ」

 

 否、小林からは何のニオイもしない。だがこの車内に漂う『不自然なほどにかき消されたニオイ』に、血が混ざっているような気がする。

 

「おっほ、これは恥ずかしい。実は昨日から痔でしてねぇ……匂ってましたか? だとしたら大変失礼致しました」

「そうですか……小林昭(こばやしあきら)、お前には喰種の容疑がかかっている。署まで同行して貰う」

 

 瓜江は嘘を付いた。実際に小林へ容疑はかかっていない。

 

「ほっほっほ、私が喰種? 私に血を吸うための牙なんて生えてませ……」

「御託は良い」

「…………」

 

 ピシャリと瓜江が言い放つと、小林は無言で車を走らせる。

 

「おい、止めろ。それに……どこへ向かっている?」

「駐車場ですよ。私をCCGに連れて行くのでしょう? こんな所で車を止めっぱなしにしたら渋滞になりますからね……」

 

 小林はタクシーを進め、人通りの少ないコインパーキングへと車を止める。

 

「ここで良いでしょう。さて……行きましょうか」

 

 小林はゆっくりと、()()()()()()()()()()()

 

「どこへ行く。CCGはそっちじゃない」

「残念だが、()が行くのはCCGではなく自宅だ。You float too(お前も浮上しろ)ッ!」

 

 小林は突如身を翻すと、瓜江めがけて『赫子(かぐね)』を振るい、瓜江の持っていたアタッシュケースを破壊する。

 それは喰種の赫包(かくほう)から作られる武器である『クインケ』が入った箱だ。

 

 捜査官(てき)が喰種へ対抗するための武器を持っていたとしても、発動前に壊してしまえば何の問題も無い。

 

「(しまった、クインケを起動する前に破壊された……)赫子か……厄介だな……」

 

 頼みの武器が破壊されたことに、瓜江は小さく舌打ちをする。

 

「ん……赫子が厄介……? おーぅ、お前は今まで赫子すら使えない雑魚しか相手にしていないのか? ()()()使()()()()()なのにか?」

 

 クインクスの事を知っている小林は、嘲笑いつつも心の中で首を傾げる。

 

(クインクスが正式稼働して半年、クインクスはこの半年間まともに戦ってないのか? いや、そんなハズは無い)

 

 自己再生及び赫子を使用できる人間ならば、間違いなく第一線に配置され、()()()()()()()()()()()戦いの日々を送っているだろうと小林は読んでいた。

 

「(コイツ……俺がクインクスだと知っている?)知っているなら話は早い。俺たち(クインクス)は、お前ら(グール)の能力を使う」

 

 瓜江は甲赫を()()()()()()と、小林に向かって切りかかるが……。

 

「ナメているのか? 残念だが甲赫は鱗赫に弱い。それに、たかが半年の付け焼き刃がどこまで通じるかな? 元人間」

 

 小林は子供をあしらうかのように、瓜江の剣状の甲赫を弾いていく……が、小林の脳内は疑問が渦を巻いていた。

 

(俺が戦闘能力実験をしたブラッドとフラワーのクインクスは中々強かったが……こいつは雑魚とでもいうのか? だが、花村さんの話では、CCGのクインクスに使われている赫包はどれもSS級……例え初期状態でもブラッドよりやや弱い程度のハズだが……どうなっている?)

 

 かつて15区の地下実験場で小林が実験体達の戦闘能力をテストした際、クインクスは『ディスク以上ブルーレイ未満』の戦績であった。

 

 だが、それに比べて目の前の男は、ディスクにも負けそうな強さしかない。

 

 

 これには理由がある。クインクスには赫包の出力をコントロールする『5つのフレーム』が設けられており、これを使って赫包の稼働率を『0%、20%、40%、60%、80%、100%』の6段階で制御する。

 カオリ達の作ったクインクスとCCGの作ったクインクスにおける最大の違いは『リミッター』だ。

 CCGのクインクスは、安全運用のためにリミッターが設けられており、一定以上のフレームを解放できないようになっている。

 片や15区のクインクスにはリミッターが無く、脳味噌に処置が施されている実験体が自在にフレームを調整できた。

 

 同じ走るモーションでも、稼働率20%と100%では移動距離が大きく変わる。戦闘中、自在に変わる強さの波。変幻自在な赫包稼働率は、地下の戦闘能力実験において小林を大いに惑わせた。

 

 だが、CCGのクインクスはそれができない。

 

 つまり、小林は勘違いをしていた。瓜江は小林をナメているのではなく、そもそもこれが全力。前提が間違っているのだ……!

 

(……もしや、こちらの油断を誘っているのか? 近くに仲間が潜んでいると考えるべきだな。まさかCRc狙撃銃か?)

 

 そんな事など知る由もない小林は、周囲に目を向けるが……周囲にそれらしき銃口は見あたらない。どうやら杞憂のようだ。

 

「(クソ、こいつ強いぞ……)貴様、やはりトルソーか」

 

 瓜江の放った言葉に、小林は僅かにキョトンとするが、すぐに口角を吊り上げていく。

 

「ククククク……そうか、もしかしてキミはあの方が言っていた『初期ロットのSS級クインクス』ではないのか? ……なるほど、俺ではなく彼を追っていたのか」

 

 小林の放った言葉に、瓜江は内心で首を傾げる。

 

(SS級の初期ロットとは何の事だ……?)

「……ふむ、確かに彼程度の強さならキミでもどうにかできただろう。納得の弱さだ」

 

─────納得の弱さ。その言葉が瓜江の心に突き刺さる。

 

(違う……俺は弱くなどない……ッ!)

 

 瓜江は小林めがけて走るが、攻撃を仕掛ける前に小林の赫子が瓜江を吹き飛ばした。

 

「がはっ……!!?」

「おーぅ? 怒ったのかい? 風船をあげようか? ……っと思ったが今は持ってないな。代わりにヒントをあげよう。彼を探したいならアダルトショップを巡ると良い。彼は彼の由来となったオナホールが大好きだからね。とはいえ、下口(しもぐち)というハトが既に捜査をしているようだ。遅かれ早かれ彼は下口に消されるだろうね」

 

 小林は大きなヒントを瓜江に与えるが……。

 

(……何言ってんだコイツ?)

 

 瓜江久生、19歳。そこまで汚れていなかった。

 

 アカデミーで特待生になるほど勤勉な瓜江青年にとって『トルソー』とはオナホールの事ではなく、芸術品の事を指していたのだ……!

 

「更に教えてあげよう。俺の趣味がお菓子作りなのは本当だ。ただ、使う材料が小麦粉や砂糖じゃなくて人間ってだけさ……さて、俺はクインクスの肉を食べれなかったから、個人的にお前達の味に興味がある。おいしければ是非お菓子にしようじゃないか? ……だがその前に」

 

 小林は2本目の鱗赫を生やすと、小林の後ろから飛来してきた『小型のロケット弾に似た羽赫』を叩き落とした。

 

「羽赫か……大した威力ではない……ん? いや、だが今の赫子……スレにアップされていた『ターミネーター』と似てるぞ? そしてあの少年の甲赫は『あいさつの魔法』と似ている? ……まさか初期ロットなのか? でもどういうことだ? なぜその赫子でそんなに弱い? ……まさか、フレームが解放できないのか? 確かに資料ではリミッターというゴミ機能の情報もあったが……」

 

 ブツブツと呟く小林を横目に、瓜江は羽赫が飛んできた方向を見据える。

 

「うーりーえーくん? もしかしてピンチだったりする? クインケどしたの? 壊れたの? 頼むよ班長ォ……ケケケ!」

 

 その方角から、金髪の青年が姿を現した。

 彼は三等捜査官の『不知吟士(シラズぎんし)』……羽赫のクインケを内包したクインクスだ。

 

「おや? 初期ロット組は強さ的に『触手仙人』のクインクスが班長になると思っていたが……キミが班長なのかい? クインクスというのは()()()()()()()()()()()()との触れ込みだが、フレーム解放はどうした? できないのか? なら警戒には(あたい)しないようだな」

 

 そう吐き捨てる小林に、瓜江は首を傾げつつも、鋭い目で睨みつける。

 

「おい班長、触手仙人って何だ?」

「(黙ってろマヌケ)……クインクスといいフレーム解放といい、お前はどうしてそれを知っている? アオギリの幹部だな?」

 

 アオギリには情報が漏れている。それが理由で、かつてコクリアの集団脱獄が発生した事は有名だ。

 ゆえに、瓜江は小林をアオギリの幹部と判断したが……。

 

「おーぅ……アオギリ幹部なんぞ既存の部隊で倒せるだろうに。なんだ、赫子で俺が誰か分からないのか? 仮にも俺達を倒すための部隊なんだろう?」

 

 小林は残念そうに呟くと、赫子を追加で生やして行く。

 

 小林の赫子が4本になったとき、瓜江達はその正体にたどり着いた。

 

「シラズ……俺達が狙っていたトルソーはレートAの喰種だったな……」

「ああ。でも、コイツのレートは……」

「……SSだ。俺達はとんでもない当たりを引いたらしい」

 

 顔を青くするシラズに対し、瓜江はニヤリと笑う。SSレートの少人数討伐、その功績は計り知れない。

 

(俺より低い成績で卒業した()()()()()()()()()()ができたんだ。俺だってできる……!)

 

「ハァイ、調子良い? 今はマスクや衣装が無いから恰好付かないが、俺は踊る道化師ペニーワイズ。15区で最弱の喰種だ」

 

 15区……それは現存する3体のSSSレート喰種が生息する超危険地域にして、あらゆる喰種が捕食される場所。

 例え小林が15区で最弱の喰種だとしても、その強さはアオギリの上位幹部クラスに匹敵する。

 

 トルソーを軽く凌駕する難敵の出現に、シラズは息を呑む。心なしか足も震えていた。

 

「やれやれ……個人タクシーは半年で終わりか……はぁ、俺()顔を剥がされ、別の名を与えられるのだろうな……」

 

 仕事中に身バレしてしまった場合、例え顔を隠そうが、ナンバープレートから身元が割れてしまう。

 ゆえに、もう小林は顔を隠す意味が無かった。

 

「な……なぁ班長? 流石に俺達二人でSSレートは、いくらなんでもキツくねぇか?」

「(SSレート、功績、昇進!!)ヤバそうならすぐ撤退する。それにだシラズ……通常のSSレートでもかなりのボーナスが出るが、1()5()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ?」

 

 シラズには難病を患った妹がおり、その治療のために多くの金を必要としている。

 

「そ、そう……だよな。金は必要だもんな……よ、よし! 今までBレートまでしか相手にしたことネェけど……やってやらぁ!!」

 

 シラズは覚悟を決め、小林へ鋭い視線を向けた。

 

「ほっほっほ! 気合いは充分のようだが、この段階で俺に傷一つ付けられないようでは、所詮『人工喰種の成り損ない』か? 注意すべきは有馬班と()()()()だけで良さそうだな?」

 

 キジマ班という言葉に、瓜江は思わず歯軋りする。

 

 キジマ班にはアカデミーを1年で卒業した二人組が所属しており、その二人組と瓜江は同じ時期に卒業した。

 その後、その二人組はキジマ班へ配属され、この半年で凄まじいまでの喰種討伐数を挙げている。

 

 二人組のアカデミーでの成績は中の下。瓜江よりも遙かに低い成績で卒業した。

 だが、それでもCCGの今年度注目新人はクインクスではなくキジマ班の二人組だ。

 

 Aレート喰種の複数駆除、Sレート半赫者の討伐、SSレート『角折れ』の狩猟……キジマ班の輝かしい功績に対し、クインクスはBレートやCレートの雑魚を少し倒した程度であった。

 

「(ここで成果を上げ、キジマ班よりも俺達クインクスが有能な事を証明してやる)シラズ三等、俺は赫子を使う。フォロー頼んだ!」

「っ……まかせろ!」

 

 瓜江は甲赫を腕に纏い小林へと疾駆する。その合間を縫うようにして、シラズはロケット弾を小林へ撃ち込んで行くが……。

 

「さっきと同じか? いくら俺が15区最弱とはいえ、さすがにその攻撃は弱過ぎるぞ?」

 

 小林は赫子でロケット弾を叩き落とし、無防備に走るだけの瓜江へ赫子を突き刺した。

 

「あぐぉっ……!!」

「ふぅむ、味はどんなものかな?」

 

 小林は瓜江の腹部から赫子を引き抜くと、付着した肉片を口に含む。

 

「ふむふむ……人間以上、人工喰種未満……悪くは無いが、これなら『カセット』で充分か……アオギリの『新・人工隻眼』に期待するとしよう。だが……そっちも味を比べてみようか?」

 

 そう呟くと、小林の姿が消える。

 

「っ……し、シラズ! 後ろだ!!」

「へ? ……ぶほぉっ!?」

 

 小林はシラズの背後へ素早く移動し、シラズを赫子で貫く。

 

 小林の動きはロウやリオに比べれば遅い動作であったが、シラズ達が見失う程度には速かったのだ。

 

「ふむ……味は結構違いがあるのか。そして……再生力は普通の喰種より高めか。羨ましい限りだな」

 

 シラズ達の腹部に空いた穴は、少しずつ修復されていく。

 

 だが、それと比例するように……少しずつ赫子の形が不安定になっていく。

 

(クソ……相変わらず持ち時間が短い……)

 

「おやおや? どうやら赫子を出せる時間は短いようだな。よくてBレート程度の赫子か……3年前の俺なら倒せただろうが、時期が悪かったな。さようならだ、You float too(浮かび上がれ)!」

 

 小林は更に赫子を生やし、6()()()()()を瓜江達めがけて放つ。

 

(クソがっ……昇進もせずこんなところで死んでたまるか……ッ!!)

(ハル、サッサン……すまねぇ……)

 

 傷の治りきっていない瓜江達に、回避行動を取る余裕は無い。

 それはまさに絶体絶命の危機であったが……。

 

─────小林の赫子は、新たにやってきた人物の赫子によって受け止められた。

 

「二人とも、無事!?」

「佐々木一等……!!」

「さ、サッサン!!」

 

 小林の赫子を受け止めた人物は『佐々木琲世(ハイセ)』。一等捜査官にして、クインクス班の『指導者(メンター)』だ。

 

「……しまった、遊び過ぎたか」

 

 そして、小林は佐々木を知っている。

 

「ハァイ、調子良い? ()()()初めましてだな佐々木ハイセ。俺は踊る道化師ペニーワイズ。ペニーワイズはキミの事も知ってるよ? 驚いた? ……例えば、お前が居るときは必ず『真戸アキラ』がこちらを『CRc狙撃銃』で撃ち抜こうとしている事とかをなッ!!」

 

 小林は辺りを見渡し、真戸アキラ……もといCRc狙撃銃の存在を確認すると、素早く射線上の遮蔽物へ飛び込んだ。

 

 Rc抑制弾とCRc狙撃銃。それはCRcガスに続く新たな新兵器であり、喰種を狙撃によって無力化したり殺したりする事のできる弾丸だ。

 喰種に着弾すれば赫子の出力を大幅に減らせるため、高レート喰種への対抗手段として用いられている。

 

 唯一の欠点として、弾丸を1発作るだけでも大きな費用がかかる。そのためこれを所持しているのは、CCGの中でたった3班しかない。

 

 その中の2班は『キジマ班』と『真戸班』だ。残り1つは必要に応じた班が適宜所持している。

 

 キジマ班は強大な喰種に対抗するために。そして真戸班……もとい『クインクス班』は、()()()()()()()()()()()()()のために……。

 

「瓜江君達は下がって援護を! ここは僕に任せて!」

 

 赫子とクインケを構え、ハイセは小林に向かって走るが……。

 

「知ってるのはそれだけじゃない。記憶を無くす前のキミの事や、キミの肉の味だって俺は知ってるぞ?」

 

 そう告げる小林に、ハイセの足が止まる。

 

「僕の肉……それに前の記憶……?」

「ではヒントを上げよう。『1000引く7は』?」

「……? 993……ぁ……あぐっ……!?」

 

 数字を口にした途端、ハイセの全身に痛みが走る。

 

 ハイセの脳裏に浮かぶは、ハイセを拷問しながら笑う大男の姿。

 

「誰……? し、知らない! 僕はこんなの知らないッ!?」

「俺ではCRc狙撃銃には勝てないからな! 戦いから降りるとしよう!」

 

 小林はハイセを『CRc狙撃銃の射線上』へと突き飛ばし、どこかに電話を掛け始める。

 

「じゃあな!」

 

─────突如、轟音と共に小林のタクシーが爆発した。

 

 小林は冴木(トルソー)が捕食を繰り返しだしてから、同じタクシードライバーである自身にも飛び火するかもしれないという懸念があり、自分のタクシーと()()に爆弾をしかけていた。

 それは携帯電話で起動する簡単なものだが、威力は申し分ない。

 

 突如発狂した上司(ハイセ)と、突然のタクシー爆発。

 これらに気を取られたクインクス達は、猛スピードで逃げていく小林を追うことができなかった。

 

「嫌だッ! 選びたくないっ!! もう誰も傷付けたくないんだッ!!!」

「お、おい班長! サッサンはどうしちまったんだ!?」

「……真戸上等に聞け、俺は知らん(ふざけるなよピエロ野郎……次は殺す、絶対だ)」

 

 

 瓜江はペニーワイズとの戦闘を振り返る。ペニーワイズは、最初から最後まで()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その事実は、瓜江の心に小さな傷跡を残す。

 

 SSレート喰種を討伐した父と、SSレート喰種に手も足も出なかった自分……。

 

 父の背中は、未だ遠い。




 こ れ で も 最 弱 
小林はカオリ経由で金木(ハイセ)さんの事を知っています。まどっちの娘が持つCRc狙撃銃のことも知っているので、全力で逃げます。

花「ベラベラ喋ってないで早く殺しなよ」
夢「小林さん何やってるんですか……」
槍「相手がアナタの正体を分かっていなかったのなら、その時に逃げるか殺すかすべきだったのでは?」
竜「とぅっとぅるー(笑)」
霊「赫子不可避。このプレミっぷりはまさにガンボのとーちゃんだわ」
宗「ちくわ大明神」
式「愚鈍浅薄脆弱無為弁えよ」

ペニーワイズは死んだ。言葉の刃に耐えきれなかったのだ。

■原作と違う点
・始終小林がクインクスを圧倒。
クインクスは黒星を付けてしまったものの、『ペニーワイズを発見する』という成果は、原作よりも功績大幅プラス。むしろトルソー討伐よりよっぽど凄い。

■独自解釈要素
・CRc狙撃銃/Rc抑制弾
:re一巻のオロチ戦でアッキーラさんが暴走した佐々木さんへ使った武器です。
喰種(ハイセ)を銃弾で鎮圧できたってことは、Rc抑制系の銃弾だと解釈しました。
この銃が沢山あるとアオギリ滅亡RTAが始まるので、超高コストゆえに数が少ないということにしています。

・クインクスに使われている赫包
クインクスは内蔵クインケの取り替えができず、しかも上層部肝いりの案件。ならば使う赫包はおそらく最上級クラスが投入されうると考えました。
ゆえに、初期クインクスに投入した赫包は全てSSレートの中でも強い奴を入れるんじゃないかと。
よって、本作ではネット掲示板の強さランクSSに輝くくらいやべーやつの赫包が使われている……という事にしています。
結論として、カオリ陣営はCCG内部情報とネット情報を統合し、クインクスの元ネタ喰種を知っています。自分達でもクインクス実験を少しだけしていたのも相まって、クインクスの初期ステータスを本来よりも大幅に高めで設定していました。
なので、クインクスが想定よりも弱過ぎる事に小林さんは混乱していたのです。

■おまけ4コマ・もしもトルソーが『体に傷痕のある女』としてカオリを狙っていたら
1.
「小林、おみやげあげるねっ!」
「ほほう、随分大きなお土産ですな! どれどれ……」
2.
「おーぅ、これは成人男性の胴体ですな。今夜の食材で?」
「違うよー?小林用のオナホールだよー!」
3.
「小林用にちょうど良いと思ったんだー!」
「あっ……まさか……おっほwww冴木くんマジ脳味噌シザーマン未満www」
4.
「ところで小林、なんで私の体に傷があることをオナホーが知ってたのか詳しく」
「おっほwww脳味噌シザーマン未満は俺だったwwwランランルー!!」
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