「佐々木一等、それに
コクリア監獄長の『
(監獄長顔怖っ……!)
(相変わらずパンチのあるお顔だなぁ……)
「フフフ、ムツキ三等、私の顔が怖いと考えているね? 安心したまえ、戸影教官とキジマ准特等の方がよほど邪悪な顔をしていただろう? 私は彼らの友人ではあるが、彼らほど恐ろしい存在ではない」
「っへぇ!? あ、えーと……すみません、キジマって方は……」
キジマと戸影双方を知っているハイセは苦笑いを浮かべるが、ムツキはキジマに会ったことが無かった。
「おや? 会ったことは無いのか? そうだな……インターネット上で汚いベイマックスなどと呼ばれている男だ。もし知らなければ今日の仕事終わりにでも調べてみるといい……それにしても、クインケを内蔵した人間の捜査官とは……局長はとても大胆なお考えで好ましい」
「え、えーっと、ありがとうございます?」
灰崎へ曖昧な返事を返しつつ、ムツキ達はSSレートの喰種が収監されているエリアへと進んでいく。
「先代の
コクリアはアオギリに攻め込まれた。その事実に、ムツキは不安そうな顔をする。
「ククク……問題ない。壁は以前よりもクインケ鋼を増量してコーティングしているし、コクリア全体には低濃度のCRcガスが満ちている。クインクスは問題無いが、佐々木一等は少し眠そうにしているだろう?」
ハイセはフラフラと歩いている。確かに眠そうだ。
「並の喰種ならこの中で満足に動くことはできないし、佐々木一等のように高危険度の喰種も、このように動きや思考が鈍る。さぁ到着だ。この中はCRcガスが無いから、佐々木一等もすぐに元へ戻るだろう」
ハイセを喰種と呼んだ事にムツキは嫌な感じを覚えたが、ムツキが言い返す前に尋問室へ到着した。
──────────
「こんにちは佐々木さん。外はいいお天気かしら? きっとブルジョアジー共が優雅に労働者を搾取しているんでしょうね」
扉を開けた先にいたのは、人体模型のような顔をした喰種だった。
「っ……!?」
「フフフ、そこのお嬢ちゃん……少年かしら? まぁいいわ。そこの方ははじめましてね。アタシゃしがないババアさね、ただ顔の皮膚を剥がされただけの……ね。そんなに怯える必要は無いよ」
この喰種の個体名は『アップルヘッド』。かつて
「それで、このババアのどんな知恵袋が必要だい? ああ、花子の事を聞いても無駄だよ? あの子はもう私の知らない高みにいるさね」
「いいえ。トルソーという喰種についてです」
ハイセがその名前を出した途端、アップルヘッドは大きく溜め息を吐いた。
「はぁ……いくらクソ神父が昨日『削ぎ師』んトコと遊んで疲れてるとはいえ、奴は数日すれば復活するだろう? 捜査官ってのは待つことを知らないのかい? アタシにソイツの事を聞くのは間違ってるだろうに……確かにアタシの顔は男か女か分かんないだろうけど、れっきとした女さね。なんで下口さんといい佐々木さんといい、アタシがオナホールに詳しいと思うんだいまったく……そもそも、ぷに●なシリーズとやらはアタシが捕まってから発売されたヤツだろうに……」
「い、いえ! そこからのアプローチではなく、捕食場所からのアプローチをして欲しいんです。今資料を表示しますね」
ハイセ達はやや赤くなりつつも、ボードに資料を表示していく。
「トルソーの捕食範囲は広範囲に及んでいて、移動には車両を使っていると思われます。被害者は全員女性で、皆胴体だけが奪われています」
地図上に記された被害分布図は、幅広く分布しており、決まった喰場を持たない喰種と思われる。
「ふむ……これは下口さんにも言ったけど、トルソーとやらは間違いなく単独犯さね。そもそも、頭ってのは喰種にとって非常に重要なパーツなのさ。頭部の様々なパーツは、肉では味わう事のできない味を齎してくれるし、頭部はマフィアに売り飛ばしゃ良い値が付く。自分が食べているモノを認識する高揚感ってのもあるわね……そんな頭部を捨て去るようなヤツは、喰種の中でもとびきり
キエは肩をすくめ、ヤレヤレと首を振った。
「恐れているからでしょうか……」
「……どういうことだい?」
なぜハイセが『恐れている』と推測したのか、キエは分からない。
「目は感情を映し、口は言葉を紡ぐ。顔は非常に多くの情報を含んでいる部位です。その情報の一切を遮断したがっている。つまり、ただの人間を恐れている……そう考えると……」
「ほう。なるほど、つまり……」
「「人間社会に溶け込んでいる」」
キエとハイセ、二人の意見は一致した。
「……佐々木さん、案外それが正解かもしれないね。下口さんとはまた違ったアプローチだ……なら……この分布図の中央、ここからここらへんまでの間かね。この一帯の病院、幼稚園、保育園を全部出しな! ……案外病院が多いね……病院は大病院と産婦人科医と小児科以外は消しな! ……やっぱり保育園と幼稚園と小児科は消して良い」
残ったのは大病院と産婦人科のある病院のみ。その分布は……。
「ハッハッ! アタシゃ天才かねぇ! 見な佐々木さん! こりゃ綺麗に放射状だ!!」
病院を中心として、トルソーが捕食事件を起こした地域はほぼ放射状に広がっていた。
「ククク……さぁ佐々木さん、トルソーとやらの仕事、なんだか分かっただろう?」
「そうか、だから瓜江くんは……はい。タクシードライバー、ですね?」
ハイセの言葉に、アップルヘッドはニヤリと笑う。
「正解。さしずめ病院の送迎タクシーってとこかねぇ? 下口さんの推理を引用するけど、トルソーってのはまぁ性欲旺盛で、アレも馬みたいにデカいって推理だった。つまり、トルソーってのは経産婦を対象にしてるんじゃないかい? もし違うなら、病院に共通する何かを持った娘を狙ってるってトコさね。さぁ、後は佐々木さんの仕事だ。下口さんとは違うアプローチ、どっちが先に届くかは分からないけど、精々頑張りな!」
こうして、ハイセ達のトルソー捜査は大きく進んだ。
その後、調べを進めていくと、被害女性は経産婦ではなく『外科に通っていた女性』であることが判明した。
トルソーの足取りは、すぐそこだ。
──────────
「小林アキラという人物は喰種でした。つきましては、捜査にご協力願います」
タクシー会社『23タクシー』の事務所にて、キジマ達は従業員達へ聴取を行っている。とはいえ、ここには小林の潜伏場所に繋がる情報など無い。あくまでもパフォーマンスだ。
「あの小林が喰種だったんですか……? とてもそうには思えませんが……そういうことでしたら……冴木くーん! 小林から新人教育受けてたっしょ? ちょっとトップバッターよろしく! 俺は他に小林と仲良かったヤツ無線で呼んでくるから!」
責任者の男は、冴木をキジマの前へと連れてきた。
「こんにちは冴木さん。私は喰種対策局対策一課東京15区担当の准特等捜査官、キジマと申します」
「じゅ……15区ですか? ここは15区じゃないですよ?」
15区は喰種にとって最も縁の無い場所だ。何故そんな場所を担当している人物がここに来ているのか冴木には分からない。
「ああ失礼。小林アキラは15区に潜んでいる喰種です」
「……え? う、嘘だ」
それはありえない。もしもそうなら小林は……。
「おや? どうして? 貴方は何か知っているのですか?」
「あ、え、ね、ネットに書いてありました。15区は喰種が出ないって」
冴木は無理矢理誤魔化したが、どうやらキジマは追及しないようだ。
「ああ、確かに他の区に比べて少ないでしょう。でも存在するからこそ、こうして15区担当捜査官の私がいるのです」
─────つまり、小林は15区の喰種であることは間違いない。
それを理解した時、冴木の心は暗い感情に包まれた。
その後、冴木の記憶は曖昧だ。上の空で聴取を受け、解放されてすぐタクシーを運転し……いつの間にかタクシーの休憩スポットに来ていた。
……15区の喰種で成人男性。そんなのは一人しか居ない。
「クソッ! クソがクソがクソがぁッ!!」
冴木は自分の足に握り拳を叩きつける。今すぐにでも誰かを『リアルホール』にしないと気が収まらない。だが、今それをしたらバレる。我慢するしかない……。
「小林さんがペニーワイズ!? なら『15区のお嬢様』はレザーフェイスの事じゃないか!! あああああ畜生ッ!! どうして僕を15区に誘ってくれなかったんだ小林さんッ!!」
冴木に渦巻くのは強烈な嫉妬。今になって理解した……小林がアオギリへの加入を断ったのは、アオギリの庇護が不要だからと。
「そりゃそうですよねぇッ!! 15区とアオギリなら15区の方が安泰ですもんねェェェエエエエッ!!」
「─────ならトルソーさん。貴方は何ができますか?」
「……ああ、我を忘れてました。そういえば居たんでしたね、『ヨツメ』さん」
冴木は後部座席にヨツメ……もといヒナミを乗せていた。
他人がいる状況にも拘わらず、冴木はこの始末……嫉妬に狂っていたのである。
「あの人は特別な才能を持った喰種のみを迎え入れます。稀代の謀略家アップルヘッド、絶大な資産を持つランサー、空を飛ぶ赫子を持つフレディ、そして……至高の料理人ペニーワイズ。トルソーさん、貴方は貴方の何を以て、あの人に取り入るんですか?」
かつてカオリに勧誘されたヒナミだからこそ分かる。15区は決して冴木を受け入れない。
「あーもー分かってますよッ!! 所詮僕は性欲だけのカスって言いたいんでしょう!!」
「はい」
「ちょっとは慰めてよヨツメさん!?」
「……あの人はニオイにとても気を使います。私は耳だけじゃなく鼻もそこそこ良い方ですが、あの人と会った時、あの人をニオイで判断する事ができませんでした。その反面、トルソーさん……このタクシーの中は酷いニオイです。いえ、タクシーというよりも貴方が……この有様で15区の喰種達が貴方を迎え入れるとでも?」
冴木はあまりにもニオイへの配慮が足りていない。これでは喰種どころか人間すら気付きかねない程に鉄臭かった。
「え……そんなにニオってますか?」
「はい。そもそも、ニオイ以前にあなたは証拠を残しすぎています。下口という男だけでなく、
冴木は首を横に振る。小林が23タクシーを去ってからというもの、冴木は世の中の情報を集められなくなっていた。情報収集を小林に依存しすぎていたと言っても良いだろう。
「私も詳しくは知りませんが、彼らは『
「はい。それは小林さんが教えてくれました。箱……『クインケ』は喰種の赫包から作られるんですよね? でも赫包を埋め込むなら、人工喰種になるのでは?」
「……そこは分かりません。もしかすると人工喰種の別名かもしれませんし、人工喰種とは別の存在かもしれません」
ヒナミは何となく『花屋さんなら知ってるんだろうなぁ』と思った。15区の喰種は何故かこの手の情報を、アオギリやあんていくよりも早く得ていた。
(トルソーさんのタクシー会社に来ていたキジマという
「とにかく、クインクスは喰種の能力を使う可能性があります。中には嗅覚に優れた者もいるかもしれません」
「ご忠告どうも……」
冴木は渋々感謝を述べる。年下の喰種にあれこれ口出しをされるのは癪であったとしても、今の冴木を助けてくれるのは
──────────
日の暮れたCCG15区支部の一室にて、キジマ班の四人が集まっていた。
「で、キジマさんはトルソーと実際に話してみてどうです? 大坪さんは離れた所から見た感じどうでしたか?」
ニムラの問いかけに対しキジマとカオリは残念そうに首を横に振る。キジマが23タクシーへ聴取を行った日、あの場にはキジマだけでなくカオルもいたのだ。
「臭過ぎ。あれじゃあちょっと仲間にはしたくないかなー」
「キヒヒヒヒ! あの程度の喰種にクインクスは『一カ月もかけて人相を割り出す』としか言えないとは嘆かわしい。ヤツは酷すぎる。私という捜査官相手に挙動不審な上、血とイカのニオイがプンプンしている。私達ならアレの討伐に一週間もかからないだろうね」
喰種の本能ともいえる食欲より性欲に偏った珍しい存在ということで、一応仲間候補としてカオルの中に挙がっていた……が、ヒナミの指摘した通り、冴木は臭過ぎたのである。
「そんな事より旧多一等、『例の件』についての対処を決めましょう」
「うん、リサさんの言うとおり。とはいえ、具体的な日にちはまだ分かってないですね。まぁ、在庫の関係上、来年の1月から3月のどこかになると思いますよ? とはいえ、あくまで僕の予想でしかないので、前後する可能性は充分ありますけどね」
ニムラが齎した情報は、カオル達にとって極めて重要な情報だ。この件を成功させれば、カオル達の人工喰種化実験は更に一歩先を行くことになる。
「んー? 例の件って『強奪作戦』のこと? その件って、ろーちゃんが自分達の力だけでやりたいって言ってるから、私と小林は最後に地下へ持って行く仕事だけやるよー? ニムちゃん達はろーちゃんの指示で頑張ってねー」
ロウは
「……? ランサーとその部下だけでやるのでは?」
「んー、ろーちゃんがいった事をそのまま伝えるよー?『あたくしの作品、エサをたかりにくるペット、ぴーじー。ゆえにあたくしの配下でもありますわ』だってさー」
そしてリオは妹分。つまり、カオルと小林を除いた全員がロウの配下としてカウントされていた。
「え!? 私ってランサーにペットだと思われてたの!?」
「僕の理由が雑ゥ! 赫子生えない」
「キヒヒヒヒ! つまりカオルさん無しでどこまでできるか試したいという事だろうねぇ」
圧倒的な力を手にしたカオルは不参加であったとしても、15区陣営の恐ろしさは変わらない。
……否、以前よりも仲間が増えた今、より大きな恐怖となるだろう。
「ああ、半年後が楽しみだなぁ……
在 庫 か ら 判 断
例え情報が極秘であろうとも、内部にいればこういう所からアタリを付けられるのが強み。
ドナートおじさんは原作じゃタクシードライバーまでの情報しかくれなかったけど、リンゴのお婆ちゃんは更に詳しいヒントまでくれたぞっ!
そして、神父と違って物腰も柔らかいため、ドナートからキエを喰種協力者のメインとしてシフトしつつある班もいるとか。
オークション編で会場に15区陣営が集まってるとクインクスや鈴屋班が死んでしまい、再送確定になります。
よって、15区陣営はオークションよりクインケ鋼の強奪が重要としています。