花屋喰種   作:みぞれアイス

90 / 117
【ロベリア&ロベリア・カーディナリス】
花言葉は悪意、謙遜、優秀さ。


Re:第8話 Lobelia

 マダムAにとって『隻眼の喰種』及び『レザーフェイス』という組み合わせは、強烈に()()()()を感じさせるモノであった。

 だが、マダム(エー)はその場から動かず、タイミングを伺う。下手な行動を起こせば、レザーフェイスに目を付けられ死ぬ……そんな予感がしたからだ。ゆえにマダムAは自身の直感を信じ、待ち続けた。

 そして、ジューゾーの出品と同時に『今なら大丈夫』という確信めいたモノが脳裏をよぎる。その直後、マダムAは大ホールから飛び出した。かつて自身にトラウマを植え付けた『眼帯』と『レザーフェイス』から一刻も早く逃げるために。

 

「あああやっぱり……嫌な予感が当たった……ハトが来てたじゃないの……!」

 

 大ホールの廊下から外を見ると、そこにはいくつもの『捜査官の死体』が転がっている。

 

「ハトが死んでるのはレディ・ロウの仕業かしら? 全部死んでる……と考えるのは楽観的過ぎよね。なら、まだ生き残りのハトが居ると仮定すると……見つからないルートは……窓を割って逃げる、エントランスから出る、控え室の裏口から出る、もしくはその他……」

 

 マダムAはそれぞれの脱出経路をシミュレートするが、直感に響く答えは出てこない。

 

「駄目ね……窓を割った時に音が出る。ああもう、なんでこの窓嵌め込み式なのよ! エントランスは間違いなくハトがいるだろうし、裏口も怪しいわ……他の可能性……レザーフェイスの近くに行く? 確かにハトには殺されないだろうけど、レザーフェイスに喰われるわね……後は、後は……」

 

─────その時、突如マダムAの背後に何者かの影が現れる。

 

「誰ッ!? ……あら、確かアナタ……『スケアクロウ』だったかしら?」

 

 それは『へのへのもへじ』が描かれた布袋を被った和服の男。戦闘能力もなく、喋ることもできず、食事をしている姿すら見たことがない。ただのカカシ……そんな男だった。

 

「……□△○……□△○……」

 

 声にならない声を上げつつ、スケアクロウは天井を指さす。

 

「天井……?」

 

 マダムAも天井を見上げる。そこには空調用の排気口があるだけだか……。

 

「……ッ! 空調のダクトね!! そこから逃げれば!!」

 

 マダムAの発言に、スケアクロウは深く頷く。

 

「よっしゃ、やったろうじゃないのよ! ……あら、ドライバー持ってるのね? 準備が良いわね! ついでに肩車して下さるかしら?」

 

 スケアクロウからドライバーを受け取り、肩に跨がる。

 

「ちょっと待ってなさいよ…………よし、取れたわ!」

 

 マダムAはダクトの蓋を外すと、ダクトの中に潜り込む。

 

「ほら、早く手を伸ばしなさい! アナタも逃げますわよ!」

「……□△○!? ……□△○」

 

 マダムAはスケアクロウを見捨てる事無く、ダクトの中へと引き上げた。だが、何故かスケアクロウはやや不満そうな気配を出している。

 

「……何スネてるのよ、もしかしてオークションを最後まで見たかったのかしら? どうせ私達に買える金額じゃないから無理無理、諦めなさい。残っててもハトかレザーフェイスに殺されるだけよ……さてと、ちょっとそっちにズレて下さる?」

 

 引き上げたスケアクロウをズラすと、内側からダクトのネジをしめ直す。

 

「ネジの向きが逆だから、いつかはバレるでしょうけど、発覚までは時間が稼げるわ! さぁ、行きますわよスケアクロウ!」

 

 

 力無き二人組は、静かにダクトの中を進む。そしてついに、外へと続く排気口が見えたが……。

 

 

「大芝上等、本当に私達8人だけで裏口を張るんですか?」

「仕方ねぇだろ、レザーフェイスに仲間達が殆ど殺されてんだ。これ以上人を割けんぞい」

 

 排気口の向こう側に、捜査官達が待機していた。

 

(くっ……これじゃあ出られないわ!)

 

 万事休すの状況であったが、すぐに状況は好転する。

 

「なんだ? 裏口からバイクのエンジン音がするぞ? お前等ついてこい……おい! そこのおボッ!?」

 

 大芝は仲間を引き連れて裏口へと走り……小さい悲鳴の後、声が途絶える。

 

(死んだ? ピエロの構成員が倒したのかしら? ……っ、誰かこっちに来る!!)

 

 一つの足音がマダムA達の潜む排気口へと近付き……。

 

─────バギッという音を立て、排気口の蓋が無理矢理引き抜かれた。

 

「ッギヒィッ!? スケアクロウ! アナタだけでも逃げ……」

「あ、だいじょーぶですよー? 捜査官さんはみんな殺しましたよー?」

 

 パニックに陥ったマダムAに、排気口の蓋を破壊した主は優しく語りかける。語りかけた後、声の主は再びバイクのエンジンをかけ始めたようだ。

 

「……っあ、お、お仲間でしたのね……た、助かりましたわ……」

 

 マダムAとスケアクロウは、ゆっくりと排気口から外へ出る。どうやらここは裏口の駐車場だったようだ。

 

 

「どなたか存じませんが助かり……あ……あれ、レザ……」

 

 マダムAは固まる。フルフェイスヘルメットで顔は分からないが、黄色いエプロンをつけたその姿は……。

 

「しばらく捜査官さんは来ないから、逃げるなら今のうちですよー。じゃあね、マダムエー。それと()()()()。今は急いでるから食べないであげる」

 

─────バイクで走り去る声の主は、紛れもなくレザーフェイスだった。

 

「……ハッ!? 私も逃げなきゃ! スケアク……あれ?」

 

 正気を取り戻したマダムAは、スケアクロウの姿を探すが、そこには一枚の紙切れが落ちているだけであった。

 

『オレはよわいから先ににげるね。助けてくれてありがとうマダムエー。スケアクロウより』

 

「……スケアクロウって人間だったの? でもニオイは間違いなく喰種だった……嘉納センセの言ってた『フロッピー』ってヤツかしら? ……って、そんな事より逃げなきゃ! 私だって弱いのにぃー!!」

 

 マダムAは慌てて夜の街へと走り出す。悪運の申し子マダムA。喰種レストラン、嘉納地下研究所に続き、今回も無事五体満足で生還を果たしたのであった。

 

──────────

 

 蛇腹剣のような銀色の鱗赫を持つ喰種達が平子達を襲う。捜査官達の間合いよりも広い攻撃距離を持つ喰種達は、付かず離れず赫子を振るっており……。

 

「ちィッ! 接近してこねぇ鱗赫の喰種は面倒臭ぇな。ところで平子上等、こいつらの赫子は……」

 

 下口は薙刀型のクインケで相手の蛇腹剣を破壊しつつ、敵の()()()()()()()()()()()赫子に対して疑問を口にする。

 

「ええ、ペニーワイズの赫子と酷似しています。人工喰種の可能性がありますね」

「やっぱりか胸糞悪い。だがレートはAってとこか? ホンモノよりは劣るようだな……っとォ!!」

 

 下口は敵の一体へ強く踏み込み、剣を一閃する。

 大きく斬られた傷口は、少しずつではあるが着実に再生する。終わらない戦闘に、下口のイライラは少しずつ募っていくが……。

 

「下口上等、落ち着いて下さい。腰の赫包(かくほう)を破壊してから首を()ねれば死にます。尤も、この程度の相手なら首を刎ねただけでも大丈夫かもしれませんが」

 

 平子は一度の踏み込みで二度刀を振り、腰と首を切断する。

 

 赫包が無くなったことで再生力が失われ、首を飛ばされた事で『シルバーディスク』は生命活動を停止した。

 赫包を失えば喰種は緩やかに生命活動を停止していくが、今は一刻も早く敵を片付けて真戸達を追いかけたい状況である。平子達は少しずつ敵を殺していく。

 

 だが……。

 

『うーん、やっぱり平子班相手にソレじゃ難しいですかねぇ……それじゃあ『シルバーディスク爆発』でお願いしまぁす!』

「退避」

 

 次も爆発するであろうと踏んでいた平子達は、即座に物陰へと隠れた。

 

『ふんふん、二度目の爆発は無効……仕様変更が必要と……それじゃ、追加行きますよぉ?』

「……クソが! このふざけた声の野郎を止めないと駄目なんじゃないか?」

 

 下口の言うとおり、更に喰種達がやってくるようだ。

 

『アッハ! そうですねぇ……皆さんには最後まで性能テストに付き合って頂くつもりですよぉ? 次は『グラトニーディスク突撃』でお願いしまぁす!』

「下口上等、相手がどこから指示を出しているのか分からない上に、これ以上隊を分けると各個撃破される危険があります」

 

 赤紫色の触手のような鱗赫を持つ喰種達が、煙の向こうから飛び出してくる。

 だが『グラトニーディスク』は『シルバーディスク』よりも近寄ってきてから攻撃をしてきたため、下口達は喰種達を難なく両断するが……。

 

「刃の位置をズラされた? ッお前ら気をつけろ!」

 

 敵は急所を避け、更に突っ込んでくる。

 

 下口が咄嗟に叫んだ通り、斬られた喰種達は即座に切断面がくっつき、再び下口達を襲う。

 

「ぐっ……!?」

「がぁっ……!?」

 

 グラトニーディスク達による不意打ちともいえる攻撃に、とうとう平子班から脱落者が出た。

 

「……負傷した梅野(うめの)根津(ねづ)は下がれ。道端(みちばた)は二人の応急手当てを」

「はい!」

 

 平子班のメンバーは平子、伊東、黒磐、道端、梅野、根津の6人。その内の半分が戦線を離脱したことで、下口に緊張が走る。

 

「おいおい平子上等、俺達4人でなんとかなるのか?」

「ええ、伊東と黒磐は優秀ですから」

 

 先程より戦局はやや不利になったものの、なんとか渡り合えると平子は判断した。

 

「ハッ、なら良いけどなッ!! ところでアイツらの赫子って、佐々木一等の赫子じゃないか?」

『そのとおり! 佐々木一等と同じ赫子です! その再生能力は佐々木一等で良く知っているでしょう?』

 

 謎の声は愉しそうに解説をする。

 

「だが佐々木一等よりは弱いんだろう? ならばこの下口が負ける道理は無い」

 

 下口は鋭く踏み込むと、敵喰種の腰を素早く両断した。

 

 下口は平子ほどでは無いが、実力のある捜査官である。でなければ有馬特等の後継者ともいえる平子や、クインケの扱いに優れ、クインクスを纏めるアキラと肩を並べる事などできない。

 

『おや……? どうやら僕は貴方達をオロチやトルソー程度の雑魚に手こずる方々と認識していたのですが、少々侮っていたようですね……なら最後のテストにしましょうか……『グラトニーディスク爆発』『フラワーブルーレイ突撃』でお願いしまぁす!』

「読めてんだよ馬鹿が!」

 

 両断した喰種を急いで蹴飛ばし、物陰へと飛び込む。

 

 轟音と共に喰種達は爆発し、その向こうからゆっくりと3体の喰種が歩いてくるが……。

 

─────煙の奥からやってきたのは『木のような赫子を背中に生やす喰種』が1体、『巨木の根に似た赫子を尾骶骨付近から生やす喰種』が2体……。

 

「おいおい冗談じゃねぇよ!? その赫子は20区の時の……ッ!!」

 

 それは紛れもなく、レザーフェイスの赫子であった。

 

「……おい平子上等、行けるか?」

「伊東と黒磐は下がれ。こいつらは恐らくハイセより強い」

 

 平子と下口は一歩前に、伊東と黒磐は一歩後ろに下がり……。

 

「強度はどんなもんだッ!」

 

 下口は背中に括り付けていた『赫子弾(Qバレット)』装填済みの銃を構え、木の生えた喰種へ発砲するが……。

 

「チッ、人工喰種だろうとQバレットは効かねぇってか。相変わらず頑丈だな糞が!! なら……」

 

 下口は腰に付けていた缶を喰種達に投げつける。下口が投げた缶、その中身はCRcガスである。

 

 下口は20区の戦いにおいて、15区の喰種達による蹂躙の真っ只中にいた捜査官であった。

 吐かないように、気絶しないように、ただ恐怖に震えながら、フレディの水晶に身を刻まれ、有馬特等の救援に心から感謝した。それと同時に、彼は自身の弱さを恥じた。

 

 だが、キジマ班のように15区へ攻めていける勇気は無い。真戸アキラのように病的な程に強さを渇望する根気もない。平子のように優れた身体能力もない。

 

 ゆえに下口が取った策は『いつ15区の喰種が来ても対応できる装備をする事』であった。

 

 20区戦で、15区の喰種達に最も効果があったのは有馬特等が使ったCRcガスだった。

 ゆえに、下口はいつもクインケラボに頭を下げ、自分の班へ多めにCRcガスを配備してくれるように頼んでいたのだ。

 

 

 缶は赤色の煙を噴きだし、喰種達の赫子が崩壊していく。

 

「これでどうだよクソッたれェ!!」

 

 すかさず下口が繰り出した袈裟斬(けさぎ)りは、甲赫の喰種を真っ二つに切り裂いた。

 

「次はテメェだ!!」

 

 下口は振り返り尾赫の一体を切りつけるが……下口は見誤った。

 

「……ガハァッ!!?」

 

 20区戦でのレザーフェイスは、誰よりも早くCRcガスから立ち直っていた。

 そして、人工喰種たちもまた……極めて早い復帰ができることを……。

 

「下口上等!」

「ただじゃ……やられねぇよ!!」

 

 根のような赫子に貫かれながらも、下口はもう一度尾赫の1体へ剣を振り下ろす。

 

 平子も即座にもう一体の喰種へと走り、腰と首を両断した。

 

『ありゃー。やっぱりCRcガスはエグいですねー。それじゃ『フラワーブルーレイ爆発』で』

 

「おらァッ!!」

「下口上等、何をっ?」

 

 自身はもう助からない。ゆえに下口は最後の力を振り絞り、平子を柱の向こうへと投げ飛ばす。

 

「平子ォ! 後は任せ……」

 

─────轟音と共に、3体の『フラワーブルーレイ』から爆炎が吹き荒れる。

 

 

 謎の根と爆発による不意打ちを受けた下口班は、下口以外のメンバーを全て失っていた。自身が死んでも、嘆く部下はもう居ない。

 ゆえに下口は自らの身を犠牲に、平子の命を救ったのだ。

 

(CRcガスはCCGを変える最高の武器だ。頼んだぞ平子上等……部下と仲良くな)

 

 下口はニカッと笑い、炎の中に呑み込まれていった。

 

 

『下口上等の健闘に拍手! サンキューノッブ!!』

 

 ブツッという音と共に、謎の声は途切れる。

 

 平子は下口が居た場所に深く頭を下げ、両手を合わせた。

 

「下口上等、貴方の活躍は無駄にしません……行くぞ、仲間達の死を無駄にしないためにも。梅野と根津は撤退して治療に専念しろ」

 

 平子達は顔を歪めながらも、第二中央棟へと走る。

 

──────────

 

『オークションは終わったけど、これから皆を落札者に譲り渡すから、突入はもうちょっと待ってて欲しいなー』

 

 第二中央棟はまるでジャングルだ。樹木のような赫子が通路を覆い尽くしており、それらへ触れずに通ることは不可能と言って良い。

 

『通り抜けるのはオススメしないよー? 体がもげちゃうからねー』

「なら破壊すればいい」

 

 アキラは背骨のような蛇腹剣『フエグチ・改』を振るうが……。

 

『さっきみたいな弱い強度にはしてないんだよー?』

「瓜江は下がれ。()()を使う」

「はい」

 

 瓜江が大きく下がったのを確認し、アキラは赫子の壁にCRcガスを投げつけた。

 

 それと同時に、アキラと鈴屋班のメンバーはクインケを樹木型赫子に叩きつけていく。

 

『うげ、しーあーるしーガス……でもあーるしー細胞をしっかり回せば緩和できるって学んだんだよー? しーあーるしーガス、やぶれたりー!』

 

 赫子の壁にヒビこそ入るものの、破壊するまでにはかなりの時間を要しそうだ。

 

「ヒビが入ったならいずれは破壊できる。クインケを壊さない程度に攻撃を続けるぞ!」

 

 アキラ達はクインケを振るい続けるが、赫子の破壊は遅々として進まない。そして、ついにタイムリミットがやってきた。

 

『それじゃ、私は用があるからこれで失礼するね? せいぜいアオギリやお客さんと遊んでてよ』

 

 その言葉と共に、第二中央棟を覆っていた樹木が引いていく。

 つまり……レザーフェイスは完全に射程圏外まで逃げたと考えて良いだろう。

 

「……行くぞ」

 

 言いたいことはいくつもある。だが、それらを全て飲み込んで、アキラはハイセ達との合流を優先した。

 

「(逃げるな! 俺達と戦えレザーフェイス!)……了解」

 

 瓜江は功績を逃した事を内心で悔しがるが、今の自分ではレザーフェイスに太刀打ちできないことくらい理解している。

 それでもなお、父の幻影が強敵と戦うことを求めていた……。




 下 口 殉 職 

原作よりもかなり強い下口さんですが、真戸班や平子班と方を並べるくらいなら、下口さんは結構優秀なんじゃないかという独自解釈です。
薙刀は原作のロゼ編で使っています。

なお、元茨橋班でロゼ編の時に下口班へ再編成された女の子二人組は、カオリの先制不意打ちで殉職しています。

スケアクロウから喰種のニオイがするのは、原作でもお馴染み。無印の頃に丸手さんへ言ってましたが、死んだ喰種の服を使うことでニオイを誤魔化してました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。