花屋喰種   作:みぞれアイス

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【カーネーション】
黄:軽蔑
紫:気品
白:純愛
赤:敬愛


Re:第10話 Carnation

 ジューゾーは義足に仕込んでいた無数のナイフ型クインケ『サソリ』を手に、会場を走る。

 かつては最強の飼いビトと呼ばれていたジューゾーの前に、喰種達は為すすべもなく倒れていく。

 

 だが……。

 

「ぐほ、ほほほほほ!! ジューゾーちゃぁん? ママにおいたをするなんて悪い子ねぇ……? いい子ポイント0点! さぁ、いい子タイムを始めましょうか……!」

 

 ビッグマダムは自身に突き刺さっていたナイフを投げ捨て、大蛇のような尾赫をぬらりと生やした。

 

 ビッグマダムはロウよりも強さで劣るとはいえ、SSレートの上位に位置する喰種。言わば東京23の区という新世界の四皇にあたる。

 

「そうですねぇ。僕は悪い子になってしまったので、たくさんいい子いい子して下さいねぇ!」

「ハッ! 誰がジューゾーちゃんにその曲芸を仕込んだと思ってるんだい? 私を倒そうなんざ調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

 ビッグマダムの巨体が跳躍するが、ジューゾーは素早く身を躱し、ビッグマダムめがけてナイフを投げつけていく。

 

「僕はもう負けない。でも、流石にキツいですねぇ……なにせ相手はママだけじゃない……!」

 

 ジューゾーは一本のナイフを背後へ投擲する。

 

「っ痛ェ! でも兄貴が受けた痛みに比べたら屁でもねぇぞ!!」

「この脳筋! いくらヤモリの仇の一人だからって闇雲に突っ込まず連携しろ! 相手はあの鈴屋ジューゾーだ!! というか私達の役目はマダムの護衛だ! 違約金取られるぞ!?」

 

 不意打ちを仕掛けようとしたナキの顔には深々とナイフが刺さり、十字をモチーフにしたヘルムを被った女ことミザが連携の大切さを説き、ナキに従うガギとグゲはオロオロとあたりを見回す。

 

 クインケのナイフが顔に刺さったものの、ナキにとって大きなダメージではないようだ。

 

「後は150億の子とウサギさんが居たはずですよねぇ? 流石にジェイソン無しだと厳しいです……はんべー、急ぐですよ」

 

 部下達は大ホール(ここ)に向かっている。ただそれだけを信じ、ジューゾーは孤独な戦いを続ける。

 

 幸いにもアオギリの増援は無く、ビッグマダムの付き人達はジューゾーやビッグマダムの攻撃による巻き添えを恐れて近寄らない。

 

「ちょこまかとォ……良い子にしなさいッ!! そんなチンケなオモチャで私をどうこうできると思ってるのかい! ……おいコラ護衛ィ! ジューゾーちゃんを殺さず生け捕りにしねぇか!! 誰がアンタらを雇ってんのか分かってんだろうなぁ!!」

「ムチャ言うんじゃねぇ! オレはヤモリのアニキみてぇな上手い生け捕りはできねぇよ!」

「やめろバカナキ! 依頼主に暴言を吐くんじゃない!」

 

 是が非でも生け捕りにしたいビッグマダム。生け捕りの苦手なミザとナキ。それぞれが足を引っ張り合い、ジューゾーは着実に時間を稼いでいく。

 

 

 そしてついに……。

 

 

「鈴屋先輩ッ!! お待たせしましたッ!」

 

 鈴屋班の4人が増援としてやってきた。

 

捜査官(ハト)……ふぅん? ジューゾーちゃんのお友達かしらぁ? おい付き人と護衛共、アンタらは新手と遊んでな! そいつらはブッ殺して良いわよ」

 

「行くぞナキ、ここで少しでも点を取り返し、報酬を貰おう」

「……おう? テンなんて取られてねぇぞ何言ってんだ? ……良く分かんねぇけど、ここからは殺して良いんだよな! オレのホンチョーハッシだ!」

 

 ナキ達は赫子を構え、鈴屋班へ向かって走るが……。

 

温過(ぬるす)ぎる」

 

 そう呟くのは冷めた目をした金髪の青年……鈴屋班の副班長を務める『半井恵仁(ナカライけいじん)一等捜査官』だ。

 半井は懐から缶を取り出し、ナキ達の近くへと投げる。

 それは鈴屋班のクインケに並ぶ主力武器……赫子を抑制するCRcガスだ。

 

「げえっ!? 赫子が使えなくなる煙!!」

「なんだと!? ……っく、力が入らない……」

 

 ナキはかつて嘉納の地下研究所で亜門とアキラからCRcガスを使われているため、煙を見て即座に下がった。だが、ミザは煙を僅かに吸い込んでしまい、思わず膝を突く。

 

「ババア! 何やってんだもっと下がれ!!」

「っぐ……わかっている!」

御影(ミカゲ)(たまき)はビッグマダムの付き人共をやれ。阿原(アバラ)、お前は鈴屋さんにクインケを渡したら白スーツのデカブツをやれ……さてと、じゃあな」

 

 半井は背中に括り付けていたをQバレットを構え、ナキ目掛けて引き金を引く。

 

 フルオートで放たれるQバレットは正確にナキへと飛来し……。

 

─────ナキへ弾丸が届く前に、その射線上へガギとグゲが立ちふさがった。

 

「ガキ! グゲ! 何やってんだお前らッ!? やめろォ!!」

「ギガガ……ヤ……ヤベライ!!」

「ゴオオ……アニギヲ……バボルゥ!!」

 

 ガギとグゲは決して強い喰種ではない。体こそ大きく筋肉質だが、喰種として肝心の赫子を使うことのできない。その上まともに喋ることすらできない。

 本来ならば迷い無く捨て駒にされるような存在だが、ナキはそんな彼らであったとしても、仲間は決して見捨てない。

 そんなナキの存在は、ガギとグゲにとって、ヤモリよりも大切な存在であった……例え、自らの命を捨てたとしても。

 

「……チッ、弾切れか。阿原の獲物奪っちまったが……まぁ阿原だし良いか」

 

 半井は撃ち尽くしたQバレットをしまうと、アタッシュケースから双剣型のクインケを取り出す。

 

「おい、ガギ……グゲ……しっかりしろ!! オレを……一人にすんなよぉ!!」

 

 半井は双剣をナキめがけて振り下ろす。それは確実にナキの首を捉えていたが……。

 

「チッ、面倒臭ぇ。さっさと死ねば良いものを」

 

 ナキは甲赫を腕に纏い、半井の双剣を防いでいた。

 

「おりゃあぁ!!」

 

 CRcガスのダメージから回復したミザは半井へ剃刀のような赫子を振るう。

 半井がバックステップで大きく距離を離したのを確認すると、ミザはグゲの死体を担いで走り出した。

 

「ナキ、もう無理だ。ガギは私が運ぶから、お前もグゲを連れて逃げるぞ! ひとまずはアヤトと合流しよう!」

「……クソぉっ!!」

 

 逃げ去ったナキ達を、半井は冷めた目で見送る。

 今の半井にとって、対処すべきはあの程度の敵ではなく……。

 

「さて、御影達が殺しきれていない雑魚をとっとと片付けて、鈴屋さんの援護をするか……」

 

─────ビッグマダムに他ならない。半井は双剣を構え、ビッグマダムの付き人達へと刃を振り下ろした。

 

──────────

 

「今だッ! 鈴屋先輩! あなたのジェイソンです!!」

 

 ビッグマダムがジューゾーから距離をとった隙に、半兵衛はアタッシュケースをジューゾー目掛けて投げる。

 

「はんべー、ぐっじょぶです。さぁママ、ここからは僕の本気をお見せします。はんべーは皆の援護にいって下さい。それと……例え僕がピンチでも、僕の援護には入らないで下さい」

 

 巨大な鎌型のクインケを構えたジューゾーは、その重さを確かめる様に振り回す。

 

「……先輩、御武運を!」

「本気ィ……? ハッ、そんなチャチな鎌なんざ持って、一揆でも起こそうってのかい? ジューゾーちゃん……調子に乗るんじゃねぇぞォ!!」

 

 ビッグマダムは激昂しながらも、冷静にジューゾーへ尾赫を叩きつける。

 

 だが、ジューゾーは回避に専念していた今までと違い、ビッグマダムの尾にあわせるようにして、鎌を一閃した……!

 

「やるじゃない。まさか私の尾赫を切るなんてねぇ……でも……」

 

 即座に生えなおした尾が、ジューゾーの横腹へと叩きつけられた。

 

「ぐほ、ぐほほほほ!! ジューゾーちゃんのスタミナは後どのくらいかしらァ!? それにねぇ……私はジューゾーちゃんの『今の望み』を知ってるわよ?」

 

 床に叩きつけられたジューゾーへ、ビッグマダムは言葉を紡ぐ。ビッグマダムはジューゾーを捜査官に奪われた後も、ジューゾーの動向を逐一調べていたのだ。

 

「……そんなんで、ロウのアバズレやレザーフェイスに勝てると思ってんのかい!! その程度しかできないなら捜査官やめちまいな!!」

「……その通りですねママ。この程度の攻撃じゃ僕は倒れない……痛みを無視できるようになれたのは、ママのおかげだから」

 

 ジューゾーはゆっくりと立ち上がる。全身にはいくつもの出血があるが、その目は闘志を失ってはいない。ジューゾーは再び鎌を構え、ビッグマダムへ立ち向かう。

 

「そう! 限界を超えて立ち上がるのよジューゾーちゃん!! まだまだ行くぞォ!」

 

 マダムの尾が縦横無尽に跳ね回り、ジューゾーを打ち据える。尾赫で床の瓦礫を薙ぎ払い、散弾のような瓦礫がジューゾーを襲う。

 

 だが、ジューゾーは止まらない。ビッグマダムの尾赫を切断し、腕を落とし、体を切り裂く。

 

「ハァ……ハァ……ジューゾーちゃん! 環境の全てを味方にするのよ!! 立地を、死角を、意表を突けるモノを、相手の油断を!!」

 

 ビッグマダムは喰種である。切られた尾赫も、手足も、傷も再生する。だが、再生のたびに自身のRc細胞は減っていく。

 強大なる喰種ビッグマダムにも、ついに再生されない傷ができ始めた。

 

「そろそろ私もキツいわね……これで終わりにしてあげるわッ!!」

 

 その宣言に応えるかのように、ビッグマダムの尾赫が一回り巨大化した。

 それは大蛇を超え、まるで龍の尾……。

 

「後で治療してあげるから……大人しく寝……」

 

 ジューゾーへと踏み込んだ瞬間、ビッグマダムは宙に浮く。

 

「……えっ!?」

 

 ビッグマダムが踏み込んだ足下には、水溜まりがあったのだ。

 

 それは、ジューゾーの血液による紅黒い水溜まり……通常の水よりも様々な成分を含んだ水溜まりは、ビッグマダムの巨体を滑らせるのに充分であった。

 

「環境を味方にしましたよ、ママ」

「ぐ……ぐほ……ッ!」

 

 当然その隙を見逃すジューゾーではない。ビッグマダムは腹を起点とし、体が上下に分離していた。

 

「ああ……赫包は下半身の方……もう再生はできない。ジューゾーちゃん、アナタの勝ちよ……いい子ポイント……60点ね……まぁ、今更良い子ポイントなんて……ジューゾーちゃんは私を憎んでるんでしょうけどね……」

 

 ビッグマダムは急速に命を失いつつも、ジューゾーへ優しく語りかける。

 しかし、ジューゾーは首を横に振った。

 

「ママ……傷だけが、あなたから貰った何かでした。傷だけが懐かしい……」

 

 ジューゾーの脳裏に、かつての記憶が流れていく。その殆どは拷問の記憶であったが……。

 

『ジューゾーちゃん、これがキリンよ。世界で一番ツブツブな生き物なの』

 

 それは、ジューゾーに絵本を読み聞かせるビッグマダム。僅かだが、優しい記憶も混ざっていた。

 

「周りの誰が、あなたをどう言おうと……ぼくは、あなたを恨んだことなんてない。これは、仕事です」

 

 周りの付き人達を全滅させた半井達もまた、ジューゾーの独白に耳を傾ける。

 

「ッ!! ……ぐほ、ぐほほほほ!! そう、ならジューゾーちゃん、あなたにお願いがあるの……」

 

 ビッグマダムは大きく笑うと、自らの分断された下半身を指差した。

 

「私の赫子でできたクインケで……ジューゾーちゃんは……ロウとレザーフェイスをブチ殺して頂戴……この私をナメ腐り、私を足蹴にして、私の富を奪う憎いアイツ等を……良いわよねぇ? ……だってジューゾーちゃんも……アイツ等が憎いのでしょう?」

 

 その時、ジューゾーはビッグマダムの真意に気付いた。

 

「……ママは最初から……そのつもりだったのですか?」

 

 この戦いにおいて、ビッグマダムは明らかに不自然……そう、ビッグマダムはまるで()()()()()()()()()()()()ように思える……それどころか、ジューゾーへ戦いを教えるかのようであった。

 

「さぁ……どうかしらね……」

「ふふふ、ママはいつもそうです……はい、必ず。僕はママのクインケで15区の喰種達を殺します」

 

 強く頷いたジューゾーへ、ビッグマダムは弱々しく笑いかえす。もう命の灯は風前であった。

 

「ぐほほ……期待しているわよ……いい子ポイント……100……て……ん……」

 

 最後に優しくジューゾーを撫でると、ビッグマダムは静かに眠りへとついた。決して覚めることのない、深き眠りへと……。

 

「おやすみなさい、ママ……サヨナラ、おとうさん」

 

 ビッグマダム……本当の性別はまさかの男。3区に君臨し、その資金力は全盛期の頃ならクロックムッシュに匹敵するとも。人間に対して影響力を持つクロックムッシュと違い、多くの喰種に影響力を持っていたビッグマダムは……この日、舞台から消えた。

 

 この日を境に、東京に存在する喰種達のパワーバランスは大きく崩れる事になる。

 

─────なにせ、今日消えるのはビッグマダムだけではないのだから。

 

 

 




 綺 麗 な マ ダ ム 
本作ではlieではなく、真実を告げたマダム。
本作では3区の主ということにしていますが、原作における実際の支配領域がどこだったのかは不明です。
でも3区が一番似合うんですよねビッグマダム。何せ3区は搾取する街『新橋』があり、富める者が集う青山や白金台とかがありますし

ビッグマダムが四皇なの?って思ったそこのあなた。別に名前繋がりってだけじゃないんですよ?
ビッグマダムはちゃんと『富、名声、力』持っていたんです。途中からカオリに略奪されてますが……

■ワンピース風キャラ紹介・東京の四皇
芥子「まぁ店長が店長……それも仕方ねぇか。所詮功善は先の時代の……『敗北者』じゃけぇ」
ミルモ「ええ総理、感謝します。─────ある喰種について話が……」
ビッグマダム「ハ~ハハハ!ママママ……血、肉、臓物、コーヒー豆……殺して奪え!お茶会の素材は厳選しないとねぇ?」
エト「うまくやったよ……功善のジジイは……」
・15区ver
カオリ「56人殺したのさ。てめぇのように『生意気な奴ら』をな」
リゼ「おーおー(私の赫子で)好き勝手やりなさる……」
ロウ「強き者よ……淑女たる礼儀をもって、世界最強の赤槍で沈めてやろう」
リオ「ゼハハハハ!僕の赫子は引力!全てを引きずり込む力!」
小林「ハデにYou float too!」

カオリの元ネタが分からない?60皇で検索だっ!
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