「鈴屋さん、我々はどうしますか?」
鈴屋班全員の応急手当が完了したため、副班長の半井はジューゾーに指示を仰ぐ。
「そうですねぇ……クインクスの米林三等から全体通信で助けを求められているので、ナッツクラッカーの援護に行くのが一番なんでしょうけど……多分ここで戦いになりますよぉ?」
「……? それはどういう……!!」
半井がその真意を尋ねようとした途端、大ホールの壁が大きく吹き飛び、瓦礫と共に2人分の人影が飛び込んできた。
一人はハイセ。全身から血を流し、ぐったりと瓦礫の中に横たわっている。そしてもう一人は……
「お前のセリフは……そうだな、『死にたくない』と『やっぱ死にたい』なんてどうだ? ……ん? よう鈴屋、久しぶりだなァ?」
人工喰種『オウル』となった滝澤政道であった。
「せーどー、お久しぶりですねぇ。その姿……人工喰種です? ハイセを取り返してくれた……ってワケじゃなさそうですねぇ? 一応聞いておきますけど、同意無く人工喰種にされた人物は、本人の申し出があればCCGで保護されるです。せーどー、CCGに戻ってくる気はあるです?」
滝澤の様子から、ジューゾーは滝澤が戻ってこないという確信があった。だがそれでも、ジューゾーは問い掛ける。
「いんや、俺はもうCCGにゃ戻れねぇ……もう俺に人間として生きることは無理なんだよ鈴屋……だから、俺は喰種『オウル』として生きる」
「そうですか。本部、こちら鈴屋。人工喰種となった滝澤二等を発見したです。ですが、滝澤二等は保護を拒否したため、これより滝澤二等を喰種として対処します」
『こちら和修。人工喰種ということは15区の喰種か。15区の喰種ならば速やかに討伐しろ、以上だ』
マツリにとって、15区の喰種を駆逐する事には大きな意味がある。なぜなら、15区の担当はキジマとニムラだからだ。
キジマの功績を奪い取る事は気分が良いし、ニムラは
嫡子である自分の方が優れているとはいえ、ドイツから追放された自分と順調に功績を挙げるニムラ。ニムラは半人間であるものの、立場が逆転する可能性も捨てきれない。
だが……マツリは勘違いをしている。
「おい鈴屋。その通信の向こうにいる奴にゃ悪ィけど、俺は15区の喰種じゃねぇ。俺は嘉納のクソ野郎に変えられた人工喰種だ。レザーフェイスのなんちゃってラジコン喰種とは格が違ぇのよ?」
─────オウルは15区の喰種ではない。
「嘉納……ならアオギリですかねぇ? あのせーどーがどうしてそうなっちゃったのかは、ヒジョーに興味が湧きますが……さようならです」
ジューゾーは大きく鎌を振り上げ、オウル目掛けて一閃するが……オウルはまるで踊るかの様なステップでひらりと身を躱す。
「そんな疲弊した状態で俺と戦おうなんざ可笑しくって……お菓子食って美味しくって……ああああ!! お菓子が喰いてぇなぁぁあああああ!!! ……っと、取り乱した。鈴屋、選ばせてやるよ? ステージの中央に小さな小屋があるだろ? あの小屋には地下へ繋がる道があって、そこにはオークションに出品された人間たちがいる。だがそこには客共も一緒だ。早く助けないと人間は全滅しちまうぞ? コイツか、民間人か、好きな方を選べ。俺はコイツ以外に興味は無ぇから、民間人にゃ手を出さねぇ」
「……ハイセ。僕は篠原さんの教えに従い、民間人の救助を優先するです。恨んでくれて構わないですよ」
もはや瀕死ともいえるハイセに、ジューゾーは無情にも告げる。
だが、それはジューゾーの信頼でもある。
かつて『眼帯』の異名を持っていた半赫者のハイセなら……かつての上司、篠原をも下した半喰種なら……。
「流石は篠原サンの元部下。そういうと思ってたぜ? ほら、お仲間を連れて早く行けよ」
「……みんな、行きましょう」
ジューゾーは部下を引き連れ、ステージに設置された小屋の中へと足を踏み入れていった。
──────────
「ササキ……いや、カネキっつった方が良いのか? ……アイツはお前じゃなくて民間人の救助を選んだぞ。まぁ対策法じゃ民間人優先だから仕方ねェのかもしれないが……んで、お前の部下と真戸は管理棟でナッツクラッカーと交戦中、平子さんのトコはピエロと交戦中。他の奴はみーんなレザーフェイスにやられちまった。もう援護はナシ、可哀想だな? 同情してやるぜ」
Rc抑制剤の効果が残っている中でオウルの猛攻を受けたハイセは、血に塗れた虚ろな表情でオウルを見つめる。
「所詮こんなもんだ、お前の居る場所なんて。良いように使われて、ゴミみたいに棄てられんのがオチだ……お前は空っぽ。肉を詰め忘れたソーセージ……いや、違うな。お前はヤギだ。オオカミに大事な7匹の子供を喰い殺されて、最期は腹を
オウルは何度もハイセを殴りつける。
無抵抗に殴られ続けるハイセは、
「……そうか、俺はとっくにお前を超えていたのか。興醒めだ、デザートにしてやる」
オウルはブレード状の羽赫を纏うと、ハイセ目掛けて突き出すが……。
─────突如、オウル目掛けて背骨のような蛇腹剣が飛来してきた。
「っトォ!!」
オウルは回避の為にハイセを放り投げた。
放り投げられたハイセは、新たな乱入者の手へと渡る。その人物は……。
「なぁんで邪魔するかね…………チャンヒナぁ?」
……仲間であるハズのヒナミであった。
「オウルさん、この人には利用価値があるので殺さないでください。それよりも、レザーフェイスさんが殆どの
ヒナミはハイセを殺さないようにとオウルへ告げるが、オウルはニヤニヤと笑いながら首を横に振る。
「くひ……くひひひひ!! 利用価値があるから殺さないでだぁ? 建前はやめようぜチャンヒナぁ。そのササッキーマウスが大事なんだろ? 3年前、ソイツたった一人をアオギリから助ける為だけに、初代梟とレザーフェイスなんつぅ爆弾を11区に投げ込んだ『元あんていくの看板娘』さんよぉ!! それとな、チャンヒナの言うとおりにするかどうかは……お兄さんがきめます」
オウルはブレード状の羽赫から無数の弾丸をハイセへと撃ち出すが、ヒナミはハイセを守るように『大きな
「ヒャハハァ! 流石15区からスカウトがかかる喰種の赫子はレベルが高ぇなァ! だが俺の赫子だって、元の持ち主は15区にスカウトされてたらしいじゃねぇの? だから、思いっきり
オウルは羽赫の弾幕をバラ撒きながら、ヒナミ目掛けて突っ込んだ。
「ちゃんヒナこそ援護に戻れよ! おほほほほ!! ゴミは責任持って食べさせていただきます!!」
「くっ……!」
ヒナミは甲赫と鱗赫を同時に展開し弾幕を迎撃するものの、オウルの弾幕は凄まじく、ジワジワと体が削られていく……。
そんな中、ヒナミの脳裏にはかつての思い出が蘇ってきた。
『これは
それはカネキと共に居た頃の記憶……記憶の一つ一つが、ヒナミに力を与えていく。
(ことばを綺麗だというあなたの感覚が、私にはとても新鮮だった……誰か教えて? 本当に、この人はただの
「おォ? 段々ペースが良くなってきたじゃないの!」
ヒナミの赫子はより繊細に、より大胆に飛び回り、オウルの接近を許さない。そんなヒナミの姿を、オウルは
(例えカラッポでも、例えわたしの事を分からなくても……彼の魂の入れ物がここにしかないなら……もう一人で戦わせないっ! この人を守るっ!!)
─────ヒナミの赫子はオウルの赫子を超え、オウルの全身を切り刻んだ!
「あじゃぁぁあああああああ!!!」
切り刻まれたオウルは悲鳴と共にホールの床を転がるものの、その体はみるみる再生していく。
「痛い痛い……強いねぇえチャンヒナァア……おいちゃんハァハァして来ちゃった……
起き上がったオウルは『一部に特殊な赫子を纏った姿』……半赫者へと姿を変えていた。
「は、半赫者っ! ここで抑えなきゃ……なんの為にバンジョーさん達から離れたか分からなくなる……私が、守るからっ!!」
その後、ヒナミは半赫者と化したオウルと戦い敗北する。
だがヒナミが時間を稼いだ事で、ハイセに投与されていたRc抑制剤の効果が切れた。
動けるようになったハイセは、満身創痍のヒナミに代わり、オウルと戦う。
だが、それでもオウルの方がやや強く、ハイセは劣勢へと追い込まれていくが……。
「滝澤ッ!!」
大ホールに到着したアキラの叫びに、オウルの動きが止まった。
「真戸……」
「……滝澤、戻ってこい。ハイセのために作られたルールはお前にだって適用できる。お前は喰種捜査官として復帰できるんだ」
差し伸べられた手をオウルは哀しげに見つめ、首を横に振る。
「無理なんだよ真戸……俺の家族がどうなったか知ってるか?」
「……行方不明になった。私はレザーフェイスの仕業だと考えている」
オウルは乾いた笑いがこみ上げる。全てレザーフェイスのせいだったらどれほど良かったか……。
「ハハハ、だったら俺は泣くだけで済んだのかなぁ!! ……やったのはアオギリだ。んで、家族は俺に消化された」
「なっ……自分の家族を……!?」
オウルが自発的に食べたとは考えられない。ならば実行者はアオギリ……アキラはアオギリの非道な行いを思い、僅かに歯軋りをした。
「嘉納のクソ野郎に無理矢理な……でも、すんげー美味かったんだよ……俺は
「……なら連れて帰るだけだッ!」
蛇腹剣が激昂するオウルへ飛ぶ。だが、殺意の無い攻撃など、オウルにとって余裕で回避できる。
ヒラヒラと攻撃を躱しながら、オウルはアキラにとって聞き逃せない事を口にした。
「良いこと教えてやるよ? 亜門さんは生きてるぜ。俺と同じだがな」
「……!」
─────アキラの足が止まる。それはつまり……。
「じゃあな!!」
「待て滝澤っ!!」
アキラが止まった隙をついて、オウルは大ホールから逃げ出す。
アキラは遠ざかるオウルへ叫ぶが、オウルが振り返る事は無かった。
──────────
『本部、こちら真戸! ナッツクラッカーは討伐した! 管理棟に向かう医療班を増員してくれ! 管理棟は制圧した!!』
平子の無線機から聞こえてくるアキラの声に、ウタとロマの動きが止まる。
その一瞬の隙、平子達はウタ達にクインケを突き刺すが、その傷は即座に回復……しない。
「……えっ、マユっち死んだの? こマ? ウチらランサーにブッ殺されね?」
「……平子さんは有馬さん並に強かった。黒磐さんの息子と糸目さんも特等捜査官並に強かった。だから僕達は援護に行く余裕すらなかった……この傷を以てそう証明しよう」
ウタはそう告げると、今度は伊東の振る刀にワザと当たりにいった。
「無理じゃね? だとしたらオロチ程度の雑魚捜索に手間取ってた平子班って評価どうなんのよ?」
「僕の導き出した解に間違いはない。『オロチはキミの姉が知ってるように、とても頭が良い。だからオロチはそんな平子班を相手に上手く立ち回っていた』ということにしよう。というわけで平子さん、ここからの立ち合いは強くあたって、あとは流れでお願いします」
ウタから八百長を提案されるが、それに乗るつもりは無い。あくまでも殺すつもりで攻撃を仕掛け続ける。
だが、ウタ達は攻撃を受け続けるも急所は避け、死に至ることはない。
「こういうとき私達鱗赫って良いよね。意図的に再生弱めりゃすぐ怪我できるし」
「そうだね。甲赫のクラウンじゃこうはいかないよね。よし、そろそろ良いかな。大ホールの小屋から商品に繋がる地下への道があるよ? 喰種も居るかもね」
そう告げ、ウタは足元に何かを放り投げる。
─────手榴弾だ。
「退避!」
平子は部下二人へ素早く指示し、物陰へと駆け込む。物陰に駆け込むと同時に爆発が起こり、砕かれたコンクリートの煙が舞う。
煙が晴れた時、ウタ達はどこにも居なかった。
その後、平子達は大ホールへ突入する。大ホールにはアキラとハイセがおり、ハイセは少女の喰種……フエグチを捕獲していた。
平子は悟る。おそらく本来の捕獲者はアキラだが、ハイセに所有権を譲ったのだろうと。
「その小屋から地下に繋がる。その奥にオークション客と民間人がいるらしい」
平子達は小屋に爆弾が仕掛けられていないことを確認後、小屋の中に隠された階段から地下へ行き、民間人と多数の喰種を発見。既に交戦中のジューゾーと共に、数多くの喰種を駆逐した。
人数が足りないため、多くの喰種は逃げてしまったが、それでもかなりの数を討伐したため、その功績は計り知れないだろう。
オ ー ク シ ョ ン 編 終 了
■オークション編における原作との相違点まとめ
・ガンボが参加していない
・アオギリ構成員の数が少ない
・シラズ、才子、ハイセが追加出品
・ミルモが月山習を完治させる素材を入手
・捜査官多数殉職
・下口やオークション編で初登場の捜査官全員が物語から脱落
・ムツキの値段が2億どころじゃない
・ピクハゲが強化
・ナッツクラッカーが強化
・自爆する人工喰種が出現
・クインクスが一時的に超強化
・クインクスの暴走時に変な人格が出てくる
・クインクスが全員大怪我を負う
・真戸アキラが強化
・ビッグマダムが鈴屋へ思いを告げる
・滝澤が誰も殺していない
・ロマが初見殺し攻撃を誰にも見せていない
・スケアクロウが管理棟に到達できなかった
・オークション会場にクインケ鋼輸送を終えた部隊が援護に来ない