ロウ達は今、高速道路上で行われているアオギリとCCGの戦いを少し離れた場所から見守っている。ビッグマダムがオークション会場の護衛を減らしたゆえか、CCGと戦っているアオギリ構成員達の数こそ凄まじいが……。
「レディ・ロウ。あの弱さでアオギリの戦闘員なのですか? 幹部や隻眼の梟はともかく、あの程度なら私達どころか『ディスク』達でも殲滅できそうなほどに弱いですね」
鱗赫の喰種である『2号』は、ゴミの様に駆除されていくアオギリの喰種達に冷ややかな目を向けている。
「あら2号、貴女だってアタクシの元へ来るまではアレ以下の強さでしたのよ?」
「……確かにそうですけど」
「そもそもの話、彼らが非戦闘員の可能性もありましてよ? ねぇバァル?」
ロウはリゼへと話題を振る。この中でアオギリに一番詳しいのはリゼだからだ。
「そうね。現6区リーダーのバンジョーくんから聞いた話だと、非戦闘員と通常の戦闘員にそこまで大きな力の差は無いそうよ? まぁ、バンジョーくんがアオギリに居たのはジェイソンが死ぬまでだから、今は分かんないけどね? というかアオギリが弱いのって、フレディが殺しまくってるからじゃないの?」
「お姉ちゃんがくれたこの花が、僕を導いてくれるから……」
リゼの問いかけに対し、よく分からない答えを返すリオ。植木鉢に咲いた赤黒い花をうっとりと愛でるリオは、可愛らしくもあり、また不気味でもあった。
否、フレディの衣装を着ている今、明らかに不気味さが勝る。
「アオギリ構成員の質が低いのもありますが、相手が悪過ぎですね」
「ええ、相手には姉様から生還どころか姉様を撃退した『青メガネ』……有馬貴将がいますし、他にも厄介どころがチラホラと……さて、アタクシはそろそろ『ブルーレイ』達の準備をしますわ」
11月11日、この日CCGでは2つの作戦が同時進行していた。それはオークション殲滅作戦と、クインケ鋼の大規模輸送作戦だ……15区側の言い方をするなら『金策』と『クインケ鋼強奪作戦』だ。
それはまさに偶然。ロウ達の意図したモノではないため、計画を変更せざるを得なくなった。
本来であればオークションは単なる金策だけでなく、既製クインケ奪取、実験材料確保、食料調達も兼ねる予定であった。
しかし、クインケ鋼の確保チャンスとあれば話は変わる。ニムラの手によるクインケの密造、更なる人工喰種の実験、そして『15区地下拠点』の強化等……クインケ鋼は様々な用途に使用することができ、かつ自身達では生産できない代物……ロウ達にとってクインケ鋼の確保は大きな意味を持つ。
とはいえ折角のオークションを無かったことにするのは勿体ないので、一部のメンバーを分ける事にした。
─────だが、これこそが失敗であることに、この時点で気付けた者は居ない。
ロウ達は『ピエロ』がいるからオークションに割く人員は最小限で良いと判断した。だが、ロウ達はピエロの実力をあまりにも過大評価していた。
確かにピエロはSSSレート喰種『オバQ/うろんの母』であるロマを擁し、他にもウタなどの赫者が居る。SSSレート……それは他者と隔絶した強さと危険度を持つ喰種だが、享楽的なロマは基本的にやる気を出さない。
そしてなにより、ピエロは裏方でこそ真価を発揮する組織であり、直接的な戦闘能力は15区どころかアオギリよりも劣っている事をロウ達は知らない……。
ゆえに、オークション会場でマユやパーシーが死ぬことなど、ロウ達は想定すらしていなかったのである。
──────────
「ここまでか……」
襲撃の指揮をとっていたタタラは、時間切れを悟る。先程エトから『レザーフェイスがスクーターに乗ってオークション会場を後にした。多分そっちに向かってる』と通信があったためだ。
スクーターの速度ならばこちらに来るまで時間はあるが、その時間内にクインケ鋼を奪取するどころか破壊する余裕も無い。むしろ欲をかいて時間を浪費し、アオギリ・CCG・15区の三つ巴の戦いになろうものなら、間違いなくアオギリが不利だ。
「チッ……退くぞ」
タタラは素早く指示を出すと、撤退戦に移行する。CCGはアオギリの殲滅よりクインケ鋼の護送を優先したのか、追いかけてくる気配は無い。
だが……闇夜に紛れてアオギリを追跡する者が一人居た。しかし、それをタタラや15区の喰種達が知る由も無い……。
──────────
捜査官達がアオギリを撃退して一息つこうとしたとき、唐突にそれは訪れた。
『カセット第一部隊、人間達に突っ込みなさい!』
どこからともなく響く女の声を皮切りに、バラクラバで顔を隠した喰種の軍勢が走ってきた。
かつてナッツクラッカーとランサーを初めて発見したとき、両者共バラクラバで顔を隠していたという情報が残っている。そのことからクインケ鋼輸送作戦の指揮を執る丸出特等捜査官は、次なる襲撃者を15区の喰種と判断した。
「チッ、ついに出やがったか……野郎共! 相手はバラクラバで顔を隠してやがる! おそらくランサーの仲間だ! てことは15区の喰種が来るぞッ! 上空を警戒しろォォォオオ!!」
そんな丸出の叫びにあわせるように、上空から巨大な塊が猛スピードで飛来し……最後尾の護送車ごと道路を巻き込み、大爆発を起こした。
高速道路の高架は爆散し、一般道へ無数の瓦礫が降り注ぐ……。
「経路の遮断……逃がす気はねぇってか?……だが、こっちもハナから引く気は無ぇ!! 総員、上空を警戒しつつ迫ってくる15区のクズ共をブッ殺せェ!!」
捜査官達は迫り来る喰種達を容易く薙ぎ払っていく。だが、15区の喰種にしてはあまりにも弱い。あっさりと死んでいく敵喰種に、丸出は首を傾げるが……。
『カセット第一部隊、総員爆発なさい!!』
─────轟音と共に喰種達が一斉に爆発したとき、丸出はその考えを即座に撤回した。
「自爆攻撃だとっ!? 総員急いで被害状況を確認しろ! すぐに次が来るぞぉ!!」
爆発に巻き込まれた者、奇跡的に防いだ者、そもそも当たらなかった者……無傷な者達が被害状況を確認しようとするが……。
─────空から炸裂する水晶の雨が降り注いだ。
「やっぱり『パラソル』を配備しといて正解だったな」
丸出は大きな傘に似たクインケ『パラソル』から顔を出す。そのクインケは、まさしく今日のために作られたクインケであった。
かつて20区で起きた戦いにおいて、CCGは空から攻撃してくるフレディによって壊滅的な打撃を受けた。ゆえに、CCGはフレディ対策として甲赫の盾を大量に生産し続けてきた。当然今回の作戦にも大量配備されている。
攻撃一辺倒の戦闘スタイルから、攻守のバランスを考慮した戦術への変更。それが功を奏し、自爆攻撃と水晶の雨を受けてなお、多くの捜査官達が戦闘を継続できる程度の傷で済んでいた。
─────だが、15区の攻撃はまだ終わらない。
どこからともなく『ランサー』の赫子と思わしき槍型の赫子が音を超えて飛来し、直線上に立っていた捜査官を串刺しにしていく。
高速道路のそばにあるビルの屋上に立っている謎の喰種は巨大な塊を射出し、高速道路ごと捜査官を粉々にしていく。
そして、そのビルに立つ別の喰種からは、着弾とともに炎上する水弾が飛んでくる。それはかつて『車谷東吾一等捜査官』の持っていたクインケ『アブラガマ』だ。
弾速の遅さから対喰種にはあまり活躍しなかったアブラガマだが、対象が『ガソリン車』なら話は別……。
─────アブラガマの弾丸は次々にトラックへと着弾し、ガソリンを巻き込み業炎となる。
初撃を盾によって防いだ者達も、崩落する高速道路、ガソリンの引火によって燃え広がる炎、盾すらも貫く投槍が重なった攻撃に、少しずつ数を減らしていく。
「クソ! このままじゃジリ貧だ!! ひとまずビルから撃ってくる喰種を何とかしろォ!!」
丸出は遠距離から攻撃を仕掛けてくる2体の喰種を指差した。
──────────
「チャッキー、どうやら私達とのダンスを御希望みたいよ?」
アブラガマによるトラック破壊を行っていたバァル……もといリゼが楽しそうに『チャッキー』へ語る。
「キヒヒヒヒ! 殲滅戦、電撃戦、打撃戦、防衛戦、包囲戦突破戦退却戦掃討戦……撤退戦!! なんだっていい! 戦争を、大戦争を! さぁ、シーナ……地獄を作るぞ」
カラフルな長袖に青いデニムのツナギを来たその姿……それは映画『チャイルドプレイ』に出てくる殺戮人形とそっくりな着ぐるみだ。
彼の正体はキジマ式。ロウとニムラによる人工喰種化実験体の第一号であり、唯一『リオの赫包』を使った特殊個体である。
「ちょっと! 今は『バァル』って呼ばなきゃ駄目!」
「おっと、これは失礼。身バレして害虫のように地べたを這い回るのは屈辱の極みだ……さてバァル、何か実行したい作戦はあるかな?」
チャッキーの問いかけにリゼは少し考える。ロウの部下達を応援に呼ぶ、リオによる航空支援を頼む、ブルーレイをけしかける……色々と作戦は浮かんでくるが……。
「せっかくなら力試しがしたいわ。豚が私に『登竜門を超えた』と言うのなら、私の力、あいつらにぶつけてみたい」
豚。それはニムラの事である。彼が喰種社交界で使っている名前が『PG』であるため、リゼはそれをピッグと解釈し、豚と呼んでいた。
なお、リゼがニムラを豚と呼んだ事から、カオリはニムラを『アマンダ』と呼び始める。しかし、リゼはその元ネタが分からなかった。
「それじゃ、ちょっと来るまで遊んでましょうか? チャッキー、狙いはアイツ。
「キヒヒヒヒ! 私の操る、羽赫のアハトアハトが、有馬特等を撃破するのが好きだ!!」
キジマは巨大な塊を有馬目掛けて放つ。もはや人に対して使うものではない程に大きなソレは轟音と共に飛翔し……。
─────有馬の持つクインケ『
「ちょっと……子供時代のレザーフェイスに負けないでよ」
「甲赫は羽赫に強い。しかし、よもや防がれるとは……とてもとても悲しいものだ……」
「でも、
リゼはアブラガマを有馬に向けて乱射する。炎に弱い赫子で構成されているIXAなら、アブラガマを防ぐことはできない。
だが……乱射した水弾は、有馬の持つもうひとつのクインケによって迎撃された。
「あれは、『サカモト』……だったかしら? アブラガマの遅い弾速じゃ的にしかならないわね……」
有馬は飛来する水弾にあわせるようにして、氷の弾丸を射出。水弾を凍りつかせる事で無効化したのだ。
「さてと、私はビルの中に入るわ。貴将と遊べないのは残念だけど、ビルにノコノコ入ってくるハトを殲滅しないとね?」
「キヒヒ、私は砲撃を続けよう」
リゼはビルの中へと入っていく。遮蔽物の少ない屋上よりも、室内の方がリゼにとって戦いやすいからだ。
戦いは、より一層熾烈さを増していく……。
──────────
「だあああ畜生!! さっきの爆発で味方は半分以上やられてんだぞ!! なんでこういう時に限ってキジマ班は居ないんだ!! おい
富良の近くにいた同期の捜査官が、富良へそう言い放つ。
だが、7区担当捜査官の
「だからぁ! 俺はキジマさんの派閥じゃ無ぇって言ってんだろうが!」
「でも居ねぇ理由知ってんだろ?」
「……和修准特等がキジマさんをオークション作戦からハブった。そんでキジマさんは怒って部下と一緒に大分の温泉巡りに行った。この作戦は当日まで秘匿されてたからキジマさん達の有給は拒否できなかった」
2年前に7区で発生した『喰種レストラン神隠し事件』に『ジェイル』……現『フレディ』の赫子痕があったことから、キジマは7区へ頻繁に足を運んでいた。ゆえに、7区の担当捜査官である富良は、2年前からキジマとの交流が深い。
だが、富良は昔から有馬を目標にしてきたため、誰かの派閥に属したりはしていないつもりだ。それでも、本人の意思とは無関係に、7区の捜査官はキジマ寄りの人間だと他区域の捜査官達から思われている。
「やっぱり知ってるじゃねぇか! ていうか和修准特等は何やってんだよ!? キジマ班は今や有馬班、鈴屋班に並ぶ三大功労班だっていうのに……」
「話は後だ! また喰種集団が来るみた……ん?」
富良が指差す先には、喰種達と思われる影がいくつも現れる。
だが、その喰種達はマスクを付けておらず……。
「……ふざけんなッ!!俺達が殺せっていうのか!?」
─────背丈は140センチを下回る低身長……そして……片目だけが
それはつまり……。
「……人間の子供を……人工喰種に……ッ!!」
富良は悲痛な叫びをあげる。CCGは人殺しの組織ではなく、喰種を駆逐するための組織だ。
人工喰種については『被害者が人間社会に敵対する意思や行動を取っておらず、かつ被害者の要請があったときのみ人間として扱う』とされている。
だが、無表情で迫り来る子供達に、その様子は無い。
「薬か何かで理性を消してんのか……胸糞悪いことしやがる……ッ!!」
「おい富良ッ! 今は私情を捨てろ!! 殺さねぇとこっちが殺されるぞ!! どうせ奴らも爆発する! 近付けさせるな!!」
同期の男は羽赫のクインケで子供達を撃ち抜いていく。
「くそっ……すまねぇ……!!」
富良も甲赫のクインケ『シュタイナー』を手に、敵を切り裂き、遠くへと弾き飛ばした。
元人間の返り血を浴びる……あまりの胸糞悪さに、富良の武器を握る手が震え、涙で視界が滲む……だが、戦えただけ富良は良い方だ。
他の班では子供だけでなく、老人達が迫りくることもあった。
老いた家族がいる者、子供をもつ者……敵の姿に家族を重ね合わせてしまった者達は戦意を喪失し、無表情の人工喰種達にのみこまれていった……。
──────────
「フフフ……姉様考案の子供型と老人型のカセット爆弾は凄まじいですわね。明らかに操られていると分かるゆえに、子供や老人を大切にする人間にはそれだけで精神的ダメージを与え、自ら手にかけさせる事で心をズタズタにする……そして最後は……」
ロウは通信機を片手に、ニヤリと笑う。
「最優先命令、カセット第二部隊は爆発なさい。そしてカセット第三部隊は突撃なさいな」
─────捜査官へ隣接していた子供と老人の人工喰種達が、轟音と共に爆発した。
「フフフ……敵陣はディスクやブルーレイを使うまでもなくほぼ壊滅ですわ。足場の高架もボロボロで身動きすら手間取る始末……そしてクインケ鋼の護送車は全て破壊した。ここからどうやって立て直すのかしらねぇ?」
幾度となく爆発に巻き込まれた高速道路は、もはや車どころか人が歩く事すら困難なほどに破壊されていた。
高架で繋がれていた道路は地上へ堕ち、辛うじて残った骨組みが不安定な道を形成している……人間にはもはや渡ることすら困難な大穴がいくつもできているが、身体能力の高い喰種ならば関係が無い。
子供、若い女性、そして老人の混成部隊である『カセット第三部隊』が、崩壊した高架を軽やかに跳躍し、捜査官達へ迫る。
だが、残る捜査官達は第二部隊の爆発に巻き込まれなかった者達だ。負の感情を切り捨て、理性的に行動できるベテランばかりが残っていると言い換えても良い。
「なるほど。三度目では効果が薄いと……なら次の作戦に行きましょうか……今し方、姉様からも準備が終わったと連絡がありましたので」
ロウは再び通信機を片手に、操り人形達へ指示を出していく、
「ドリームを除く人工喰種各員に通達。ブラッド部隊はカセット第三部隊を盾にクインケ鋼の運び出し。シルバー部隊とグラトニー部隊はブラッド部隊の補助。フラワー部隊はブラッド部隊の運び出したクインケ鋼を所定の地点へ輸送なさい」
ロウは通信機をしまうと、赫子の槍を展開した。
「アタクシ達も出ますわよ。生き残りを殲滅しましょう」
『『Yes, my law!!』』
ついにロウとその部下達が動き出す。ただでさえ数を大きく減らしている捜査官達に、更なる脅威が迫ろうとしていた……!
元 人 間 を 殺 せ
相手はどう見ても洗脳されている老人や女子供。さぁ……アナタはどうする?
原作におけるピエロの各地攻撃では成人男性が使われているようでしたが、本作では女子供老人を使うことで、正義の味方のSAN値をゴリゴリ削りにいきます。
勿論脳には処置済み簡易の人間爆弾。もはやハナヤグールというよりもテロリストグール。
■IXAは火や氷に弱い?
リゼさんはIXAをアブラガマなら防げないと判断していますが、IXAはカオリの特殊弱点ができる前に作られているので、実はアブラガマだって防げます。
ただし、その事をカオリや有馬さんも含めて誰も知りません。