花屋喰種   作:みぞれアイス

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【タンジー】
花言葉は婦人の美徳、戦いの宣言など



Re:第17話 Tansy

「フラワーブルーレイがっ!? ブラッド部隊は守って!!」

 

 2号は慌てながらも、素早く指示を出す。だが、人工喰種は大まかな命令は理解できても細かい命令は理解できない。

 命令をする場合、既存の命令よりも上か下かを指定しなければならないのだが、2号はその指定を忘れてしまっていた。

 

 結果、ブラッド部隊はフラワー部隊を守ることなく進軍を続け、圧倒的火力を持つはずのフラワーブルーレイ達は次々と丸出に撃ち抜かれていく。

 しかも、フラワーブルーレイを倒しているのは丸出だけではない。

 

「みなさん、私の後ろはお願いします!!」

 

 この2年間のうちに特等捜査官へと昇進した『法寺項介(ほうじこうすけ)』は、CRcガスをバラ撒きながら他の人工喰種達を潜り抜け、時として弾避けに使いつつ、フラワーの人工喰種だけを斬り倒して行く。

 法寺が持つクインケは『赤舌(チーシャ)』……法寺が丸出へ貸している『ホロウ』同様に、炎の属性を持つクインケだ。

 そう。法寺ならばCRcガス無しでもフラワーブルーレイを倒すことができるのだ。

 

 2号は他部隊にフラワーを護衛するよう指示をだしていくが、クインケ鋼の輸送に専念する人工喰種達は、やはりフラワーブルーレイ達を守ろうとはしなかった。

 

「くっ……上手く操作できない……!! なら私達がやるしか……みなさん! あの炎剣は甲赫、私と尾赫の3人(4、6、7号)が出ます! 3号と羽赫の2人(1、5号)は炎弾の相手をお願い!! 他の従業員は引き続きで!」

 

 2号達が飛び出すと同時、ロウから通信が入る。

 

『人工喰種達はそのまま輸送を続けなさい。フレディとチャッキーは私の援護から輸送部隊と2号達の援護へ。2号、特等捜査官の相手は任せましたわよ! 貴女達ならできますわ』

 

 ロウから信頼され、大役を任されている。その言葉は2号達の闘志を沸き立たせた。

 

「Yes,my law! 勝利は我らが手に!!」

 

 2号達の単体戦力はアオギリの幹部達を上回ることもあれば、下回ることもある程度の実力だ。具体的にいうなれば、かつてアオギリに存在した瓶兄弟や現アオギリ幹部のミザやナキよりは強いが、アヤトやヒナミには劣るというもの。

 そんな彼女達では特等捜査官を相手にするのは厳しいだろう。

 

「作戦変更! 炎弾のハトはフレディさん達の支援に任せて、私達7人は炎剣のハトに対処!」

 

 だが、彼女達最大の強みはコンビネーションにある。そのコンビネーションによる攻撃は、ロウ一番の懐刀であるマユをも上回るとロウは確信している。

 

 

 ゆえに、ロウは2号達を信じていた……。

 

 

──────────

 

 時は少しだけ遡り、ロウが戦場へと降り立つ頃……。

 

 ロウはこの作戦一番の障害になりうる『有馬貴将(きしょう)』へと一直線に跳んだ。

 

 喰種達から『白い死神』と呼ばれ、カオリの赫子からできたクインケを持つ者。20区戦では自分達を退けたのみならず、キメラクインケ『ドクター』を奪い返した捜査官。

 

 そんな圧倒的強者の有馬だが、ロウには倒す策があった。

 

 一つ、有馬が基本的に持つクインケは『サカモト』『ナルカミ』『IXA(イグザ)』の3つ。羽赫を無効化し、IXAを貫けるロウならば有馬相手に無傷で勝利できる。無論捜査官なら他のクインケを使うこともできるだろうが、手は打った。

 

 それこそがカセットによる自爆攻撃。地形諸共クインケを破壊することで、有馬の使えるクインケの数を制限し、有馬にとって相性の悪い武器で戦闘を強いる作戦だ。

 

「邪魔ですわ!!」

 

 ロウは進路上にいる捜査官をクインケごと薙ぎ払い、有馬だけに狙いを定める……。

 

 そんな有馬から飛来するのは氷の弾丸。電気か氷の弾丸が来ることを想定していたロウは、全身に『特殊な赫子』を纏わせる事で攻撃を無効化した。

 

 不利な武器を持っている間に速攻をかける。確かに有効な手であるが、ロウは見誤った。

 

─────有馬が最初から普段と違うクインケを持ってきている可能性を。

 

「……ッ」

 

 有馬が素早く展開したクインケで槍で吹き飛ばす。その様子に、ロウは目を見開いた。

 

 そう、貫くのではなく()()()()()()()。それはつまり、IXA相手なら貫けるハズの槍が止められた事を意味する。

 

「まさか最初から別のクインケを……!!」

 

 

 有馬が構えていたのは半月型の大盾。ニヤリと笑うような意匠の施されたそれは、有馬のクインケではない……。

 

─────甲赫SSクインケ『アジテ』……これは現在リゼと戦っている宇井の所有するクインケだ。

 

 

 そして、有馬はサカモトをアタッシュケースに戻すと、もうひとつのアタッシュケースを開く。

 

「こちら有馬、ランサーとの交戦に入る。俺以外のS3班はクインケ鋼の防衛に回れ」

 

 それは、禍々しく揺らめく一振りの刀。

 

「……電気のクインケでも、姉様のクインケでもありませんわね……それに……そのクインケはとっても危険な予感がしますわ……」

 

 これこそがVの秘密兵器。甲赫の喰種であるレザーフェイスやランサーを倒すために、Vから貸し出された最強のクインケ……!

 銘は『ゴースト』……現CCG総議長が若い頃に討伐した『オバQ』から作られたクインケであり、その性能は脅威の鱗赫SSSレートだ。

 

「作戦変更! フレディ、チャッキー! アタクシごと羽赫をバラまきなさい!!」

 

 ロウが叫ぶと同時、有馬が人智を超えた速度でロウに肉薄する。だがロウは15区最速の喰種。有馬が繰り出す剣戟を、ヒラヒラと躱していく。

 

 有馬の繰り出す刃は、全てが必殺の一撃。だが、刀と槍……武器のリーチは圧倒的にロウへ軍配があがる。

 

 その上、状況もまたロウに味方する。ロウを必ず仕留めなければならない有馬と違い、ロウは有馬の攻撃を回避しているだけで良い。

 なぜなら、有馬を襲うのはロウだけではないからだ。

 

 空からは水晶の雨が降る。真上から降る小さな炸裂弾の雨に、斜め上から放物線を描いて飛来する巨大水晶が混ざる……。

 

 雨の降る地上にはいくつもの炸裂音が木霊し、広範囲へ広がるほぼ回避不可能の攻撃。有馬は水晶の雨を大盾(アジテ)で防ぐが、例え有馬といえども雨の中で戦えば体は濡れる。

 

 その体は少しずつ水晶の雨に打たれ、服は赤く濡れていく。

 片やロウは青いボディスーツのような鎧に身を包み、雨を無傷で防ぎ、有馬へ反撃を開始した。

 

 例え有馬が半人間とはいえ、ロウは生粋の喰種……その中でも最上位クラスに位置する。スタミナも耐久力もロウが大きく上回っているのは言うまでもない。

 

 傷と疲労により、有馬の動きは誤差程度だが遅くなっていき……。

 

─────そしてついに、ロウの槍が有馬の脇腹を掠めた。

 

「…………」

「フフフ……(ヴィー)最強の男も、水晶の雨の中でアタクシと戦うのは難しいようですわね? 逃げるなら見逃してさしあげますわよ?」

 

 有馬が大きく後退したことで距離が開き、ロウはニヤリと笑いながら有馬を見据える。

 

 ロウの目的は有馬を倒すことではなく、クインケ鋼を奪うこと。ゆえにわざわざ有馬と戦う必要はない。よって、ロウは有馬へ戦闘の終了を提案する。

 

「……こちら有馬、現在ランサー及びフレディと交戦中。そちらに行くのは少し時間がかかる、もちこたえてくれ。それよりも、もう一体の砲撃してくるヤツを止めてくれないか? 戦いづらい」

 

 だが、水晶の雨に打たれながらも、有馬は撤退することなくロウと対峙した。

 

「そう……なら死になさいな」

 

 ロウが槍を振り上げた途端、ロウの後方より『CRc狙撃弾』が飛来する。

 

「気付いてますわよ?」

 

 ロウは軽く槍を振るうだけで銃弾を弾き飛ばす。その時間はまさに刹那……だが、その弾く僅かな時間、矛先が有馬から離れた。

 

 まさに一瞬の隙。有馬は一気に跳躍し、ロウめがけて刃を突き出す……!

 

「ッ!! 危ないですわね! ですが無……駄?」

 

 突き出された刃を、ロウは槍の柄で弾く。だがロウの右目には風穴が空いた。

 

─────喰種の表皮は極めて硬い。カオリや赫者のロウのように、全身に赫子を纏うタイプならなおのこと頑丈だ。

 だが、粘膜は人間と同じくらいの強度しか持たない。

 

 有馬の右手には『ゴースト』。そして左手には『アジテ』……ではなく『サカモト』が握られていた。

 それはまさに神業。一瞬で武器を持ち替え、ロウの眼球を氷弾で撃ち抜いたのだ。

 

 並の喰種ならば、頭を撃ち抜かれたことで勝敗が決する。だがロウは並の喰種ではなく、この程度で死ぬことは無い。

 無論それは有馬も理解しており、降り注ぐ水晶の雨に身を刻まれながらもロウへ『ゴースト』を突き出す。

 

「痛いじゃないのッ!!」

 

 顔の右半分に大穴が空きつつも、ロウは槍を振るう。

 

 だが、片目だけでは距離感をはかることは難しく、ロウの槍は『ゴースト』を弾くことなく虚空を穿つ。

 

「!?」

 

 攻撃をはずした事を理解すると、ロウは即座に身を屈める。それにより、有馬の剣先はロウの胸……即ち『甲赫の赫包』がある場所から、首筋へと変わる。

 

 赫包へのダメージは致命的な隙を生むため、なんとしてでも防がねばならない……例え首が刎ねられようとも……!

 

 スパァンと綺麗な音を立て、ロウの首が飛ぶ。だがそれと同時にロウの槍が軌道を変え、再び有馬へと迫り……。

 

─────有馬の左手にあった『サカモト』を貫いた。

 

 有馬はサカモトに深く槍が突き刺さっている事を確認すると、サカモトを即座に手放し、『アジテ』を構え直す。

 片やロウの切断面からは細い紐状の赫子が伸び、飛んでいった自身の頭と再接合する。

 

 ロウの頭は掃除機のコードの如く、首へ猛スピードで戻っていき……あっという間に首の接合と欠損した顔面の再生を完了させた。

 

「ふぅ……壊せたのは氷の銃だけですか。アタクシとしてはアナタの左手ごと破壊する予定だったのですが……」

 

 ロウは跳躍して有馬から大きく距離を取ると、感覚を確かめるように首の関節を鳴らし、再度槍を構える。

 

 水晶の雨に打たれ、有馬の服は赤黒く変わっている……ロウも顔の右半分が抉れ、首を刎ねられてこそいるが、その傷はもはや塞がり、赫者モードの発動を維持してなお残存Rc細胞には余裕がある。

 

「ですが、もう終わりにしま……あら?」

 

 その時、ロウの耳元に装着した受信機から、2号達が劣勢であることを物語るような通信が入ってきた。

 

「仕方ありませんわね、ですが目的を見誤るワケにはいきませんもの……」

 

 ロウは再び後方へ大きく跳躍し、迫りつつあった有馬との距離を更に離してから通信機に向けて告げる。

 

「人工喰種達はそのまま輸送を続けなさい。フレディとチャッキーは私の援護から輸送部隊と2号達の援護へ。2号、特等捜査官の相手は任せましたわよ! 貴女達ならできますわ」

『Yes,my law! 勝利は我らが手に!!』

 

 水晶の雨は有馬から離れていく。有馬を遮るモノはもはや無く、白い死神の刃がロウへ迫る。

 

「雨は晴れましたわ……ですが、濡れた体が乾くワケではありませんのよ?」

 

 ロウは槍を構える。だが、構え方が今までと違う。

 

「雨も晴れた事ですし、ここからは二槍流でお相手致しましょう」

 

 それは20区戦では見ることの無かった構え……有馬が不利な状態は変わらず、ロウとの戦いは続く。

 

──────────

 

 有馬一人がフレディとチャッキーを引きつけていたおかげで、他の捜査官は頭上を気にせず戦うことができた。

 だが、フレディ達の雨がこちらに降り注ぐようになってしまった今、そうは問屋が卸さない。

 ゆえに、2号達と戦う捜査官達は雨雲に気をつけて戦うことを強いられる。だが水晶の降り注がない安全地帯も存在する。

 

 それは喰種達が密集する場所。ロウは羽赫の雨を無効化できるが、他の喰種は違う。ゆえにフレディやチャッキーはその地帯を攻撃できないのだ。

 

 なら喰種達に接近すれば良いだけの事だが、人工喰種達は近接~中距離攻撃が主体の喰種であり、接近は即ち人工喰種達の射程圏内に飛び込むことと同じである。

 その上、人工喰種集団の中心にいるのは2号達だ。7人の精鋭喰種はロウの指導を受けて強くなった者達であり、その戦い方は『15区のやり方』を踏襲している。

 そして、嫌がらせのように飛んでくるアサルトライフルの弾丸と手榴弾……当たればただでは済まされない。

 

 15区のやり方は『接近を許さない戦い方』……言い換えれば『接近戦なら確殺する戦い方』だ。

 とはいえ2号達は相手を確殺できるほどの強さは無い。ゆえに彼女達は『接近される前にガッツリ削る』という方針を掲げている。

 

 

「クソが! これじゃあ『ホロウ』が撃てねぇ!!」

 

 丸出は忌々しそうに吐き捨てる。人工喰種達から離れた場所で炎弾を撃っていた丸出は、今まさに水晶の雨に曝されていた。

 自身も盾を構え、周りの捜査官達にも盾を構えさせることで身を守ってはいるものの、狙いを定める余裕すらない。

 

『ンン、ボーイズ&ガールズ! ビルの上にいる喰種は死角に逃げられたせいで打つ手無し……レディ清子を援護する!』

『フレディにCRc狙撃弾は当たってるだけど、すぐに復活するみたい……助かります。二人かがりならフレディを止められるかも』

 

 CRc狙撃銃を持つ二人から通信が入る。どうやら二人かがりでフレディを撃ち落とす作戦に出たようだ。

 

「こちら丸出! 盾だって長くは保たねぇ!! フレディの撃墜を急いでくれ! 宇井班、ビルの上にいる狙撃手は何とかならねぇか!? このままじゃ全滅しちまう!!」

『こちら宇井! さっきも伝えましたけど、『大喰い』に足止めを受けてます!! こっちに増援下さい! 相手はSSSレート級なんですよ!?』

「こっちもSSSレートに炸裂弾の雨降らされてんだよ!! そこにいる戦力で突破しろ!!」

 

 捜査官達は圧倒的不利な状況下で、羽赫のクインケを持つ者達は水晶の雨に倒れ、近接のクインケを持つものは人工喰種達の物量に押しつぶされていく。

 

 人工喰種の中でとりわけ厄介なのが『赤紫の鱗赫を持つ人工喰種』だ。

 そもそも殆どの攻撃が効いていない『植物型の赫子』や『槍型の赫子』を持つ喰種と違い、この人工喰種は倒したか倒してないかが判別できないのだ。

 

 倒したと思ったら即座に再生し動き出す、かといって動かない奴=死んだと思っていたら、実は嘘でいきなり動き出す……まるでゾンビのようなしぶとさと狡猾さに、捜査官達は次々と倒れていく。

 

 そしてついに……人工喰種集団の先頭が、クインケ鋼へと辿り着いた。

 

「おい!! 誰か動けるヤツはいねぇのか!? このままじゃクインケ鋼を奪われちまう!!」

 

 丸出はクインケ鋼の防衛を指示するが、クインケ鋼の防衛に動ける捜査官は居なかった。

 

─────いかんせん、数が違う。

 

 今なお数百に及ぶ人工喰種集団に対し、捜査官達はアオギリとの戦闘、空から降り注ぐ水晶の豪雨、人工喰種による自爆テロによって数を大きく減らしている。

 

 喰種達と戦うことで精一杯な彼らは、人工喰種達によってクインケ鋼が運ばれていくのを止めることはできなかった……。




 ク イ ン ケ 鋼 強 奪 開 始 
法寺さんがとても頑張っていますが、それでも限度はあるのです。
弾薬やグレはお馴染みロシアンマフィアからの大量購入です。AKしかり、ソ連製のモノばっかりだゾ。

■独自解釈クインケ
・アジテ
宇井さんのプロフィールにのみ書かれており、実際に使っていたシーンはありません。
本作ではゲームDbDの『興奮(Agitation)』というパーク(スキル)のアイコンと同じような見た目をしている盾ということにしています。
何でも防ぐ最強の盾です。宇井さんのもう一つのクインケが斧なので、斧と大盾のバーバリアンスタイルとかかっこいいなぁと思い、盾のクインケにしました。

■オリジナルクインケ
・ゴースト
うろんの母ことロマから作られたクインケ。
総議長が過去に討伐したと言うなら、それなりの残骸はあったと思うんですよね。
当然クインケが作られても不思議じゃないかなぁと。
作成時期が古いため追加機能無し。とんでもなく鋭いただの刀です。
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