無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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多少誤字修正等を加えた再投稿になります。基本的に内容は変わらないので、一読された方はスルーください


世界が終わったあと

歴史の教科書の最初のページは世界の終わりから始まる。2265年に一度世界は終わったのだ。人類史では大変な出来事ではあるが、地球にとってはたまに有るただの大災害によって。

なんてことはない。空から大量の隕石が落ち、地が裂けて海が陸を飲み干しただけの話だ。脆弱な陸の生き物、特に人間の歴史は一旦そこで閉ざされる。その日に「世界」は終わった。

 

ハズだった。だが人間はしぶとく、結局なんとかなった。

 

世界の終りを予め知っていた人間は、たとえ海が陸を飲み込もうと、地が裂けようと、空から無数の石が落ちてこようとも、被害を一切受けない新世界を作った。七千万人あまりの、主に極東の人間が開発し、移住したのは方舟。宇宙を飛ぶ舟は当時の技術の結晶で、向こう数百年は太陽エネルギーのみで自給自足を可能とする世界だ。そして、そこに住む人々は旧世界の終わりを宇宙から眺めた。

世界が終わる前、人々は新世界の事を「隔離世界(シェルターワールド)」と呼び、住まう人々を世界の危機から逃げた者として、負け犬だのと侮辱した。結果的にはその負け犬こそが生き残ったわけだが。

 

何年とかけて世界は文字通りに荒れた。自然災害という神の所業は、地球という人類の住処をリセットした。

そして新世界の人間は新しい住居である世界の不安に駆られながらも、いつもと変わらない日常を過ごし、自然による淘汰が終わった時には、皆口を揃えて「ここにいて良かった」と安堵し、生を噛み締めた。

これからも自分達はこの中で生きていくだろう。変わらない日常を謳歌し、生きている喜びを刻み込んで生き、死んでいくだろう。その当たり前に歓喜した。

 

今日も新世界は平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは隔離された世界の中での話であり、荒れた世界で死に逝った者達にも、辛うじて生き残った極少数の者達にも関係の無い話である。

 

確かに大津波は大陸を飲み干した。数えるのも億劫になる程度には人が死んだ。だが、極少数の人間は生き残ってしまった。なぜ生きているのか分からないが生きてしまった。彼らは海水という砂漠が引いた大陸の中心部に集まり、僅かな食料を持ち寄って、いつ災害に襲われるか、いつ食料が尽きるのかわからない世界で生きていた。

初めはよかった。世界には非常食という命綱があり、極少数の生き残りであるがために食事には困らなかったから。海水の引いたかつての街や、かつて街だった海に潜り、世界を水中から見下ろして漂う非常食を集めることは出来た。だが一年もすればそれらは見当たらなくなり、次第に飢え始める。

そこから始まるのは、スクリーンの中でよく観た人間同士の醜い略奪だ。至極簡単な話で、人ではなく自分が生き残るのには効果的なやり方だった。非難などさせはしない。自分が生きていくのに食料が必要で、食料は他人が持っているのだ。だから人々は盗み、争い、殺す。

 

しかし人を襲うのはそれだけではなかった。本当に恐ろしいのは、人ではなかった。

 

 

 

 

 

それは新世界で「エーテル」と名付けられた。エーテルは発見当時、オゾン層付近に漂っていた。今まで地球にて観測されたことのない謎の素粒子は、元々隕石に含まれていたものであり、隕石が地上に衝突した際、地球内部に漂い始めたとされている。地球で一番軽いとされる水素よりも軽い気体で、その結果エーテルは宙へ浮き上がるが、オゾン層より更に上には上がらないらしい。「本来地球にあるべきものではなく宇宙へ帰還しようとしている」様から、科学式で表すエーテルではなく、神学としてのエーテルの名を拝借した。

人類は、新世界の技術が発達した後にエーテルのその特異な性質を知ることとなったが、雨に含まれたエーテルが大地に降り注ぎ、地球に蔓延を始め、その性質が世界に影響を起こしたのは隕石の墜落から二年目。世界が飢えを知ってすぐの事であった。

 

突然、人が手から火を出したのだ

 

それは吹けば消えてしまうような、小さなものだった。煙草に火をつけることすら叶わない、弱々しい、小さな火。しかしそれは日を増すごとに大きくなった。世界の人は歓喜した。これで、暖かく眠ることができると。

 

次に、人が手から水を出した

 

最初は一日に三滴ほどしか出せなかった。飲み水にすらならない。しかし時間が経つにつれ、一日に必要な水分を出せるくらいにはなった。世界は湧き上がった。これで、喉を潤せると。

 

世界の人々はこれを魔術と呼び始めた。新世界にたどり着くことのできない、自分達だけの力だと舞い上がり、自分達は隔離世界などに頼らずとも生きて行くと。

全てが順風満帆に思えた。この奇跡のような魔術の力が自分達の救いだと信じて疑わなかった。だが彼らの誤算は、エーテルが魔術を与えるのは人だけではなかったということだろう。

 

まず獣が人に牙を向いた。単純な話だ。飢えていたのは人だけではない。生き残ってしまった犬が、猫が、鳥が、虫が。エーテルの力によって生態系を崩し始めた。肉体の硬化や、筋力が向上した動物達は正面切って人に攻撃をし、殺害して、捕食する。

後に新世界が解明する事だが、エーテルは付着したものに対して細胞の変化を促す。変化された細胞は魔力を持つ。魔力を持った細胞はそれ自体の性質を高められる。ゲームにして例えるならば、ステータスが全て大幅に上がる。さらに言えば、意識することによって、その機能に対して魔力を振り当て強化される。犬で言えば嗅覚を。猫で言えば脚力を。鳥でいえば飛行速度を。毒をもつ虫で言えば、その毒性を。単純明快にして、最悪な結果だ。

人になす術がない訳では無い。人も同様に、意識すれば腕力を、脚力を、嗅覚を、視覚を、聴力を強化できるのだ。それでも人が追い詰められるのには訳があった。人の体は大きく、様々な器官を有するため、エーテルの浸透率が悪かった。つまり、魔力の保持量が少ない。だから、他の動物のように大幅な強化というわけにはいかないのだ。

 

だがしばらくして、世界の人々は意図せず辿り着く。さらに魔力を得る方法を。数少ない人々しか扱うことの出来なかった奇跡のような魔術を扱える領域に。

 

非常食が尽き、人々は動物を食し始めた。魔力を持った動物達をだ。最初は忌避する者も多かった。あんな得体の知れない動物達を食べるのかと。体に悪いのではないかと。しかし、次第にその感覚は薄れ出す。良心や忌避感では拭えない飢えによって。彼らは飢えを凌ぐために自ら魔力を持つ動物達を食し始める。それは、単純に栄養素の補給と魔力量の増加に繋がっていた。エーテルによって変化したエーテル細胞は、食らえば食らうだけ自らの魔力量の増加に繋がる。食らえば強くなる。気がつけば、最初に魔法で火を出した者は、炎神と讃えられていた。水を出した者は水神と祭り上げられていた。

 

そうして人々は力をつけていく。食べれば食べるだけ強くなると信じて疑わずに。やがて二百年もの時が経過した。その頃、世界は魔術師で溢れ返っていた。魔力を持った動物達、魔獣は数を減らした。そしてそれは、人の力の停滞に繋がった。だから人々は独自の集落を作り上げ、協力し、そして、別の集落に攻め入って他人を食し始める。全ては力のため。魔力のため。自らの集落が最強であると証明するため。何世代もその風習を受け継ぎ、終わらぬ戦いが続いていた。

 

そんな中、彼は産まれた。後に世界の人々を喰らい尽くして、新世界から魔人と呼ばれる世界の成れの果てが。

 

名は、根本亮と言った。

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