無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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主人公と中ボス①

ホワイト地区の高級住宅街に置かれたデパートは、新世界中のブランドが集まる。休日に人が集まるのも納得な規模を持ち合わせているが、その実はセントラル並みの価格設定。凡そ学生や貧富な者が容易く手を出せる範囲にあるものではない。はずなのだが、あろうことか本日はモール内全ての店で割引中。いつもより活気が三割増しになっている。

日頃、スーパーマーケット等で買い物をしていた亮は、そんなことを知る由もなかった。

 

「ねえ義兄さん、今日行くデパートってどういうところ?」

「ンー、なんかすげえいっぱい入ってるところだ」

「大体デパートって色々入ってる気がするけど……うん、でも楽しみにしてる」

「おう、俺もだ」

 

道中、亮は優衣と会話に花を咲かせていた。彼女と道を歩くことが、自分の好きな彼女と道を歩いているような、そんな感覚に見舞われ、受け入れ、充実していた。

 

「おい黒いのマジでこれどーする?」

「どーするもなにも……どうにかなるのかな?」

 

優衣と亮の数歩前を歩く愛菜と八代は、互いに顔を寄せてこの状況について話し合っていた。

 

「妾とお主と主の三人で行くならまだよかった。どーせ五十歩百歩で妾達には興味を示さんかったじゃろ。しかし主のことじゃから、本当に似合うものがあれば似合うと言ってくれるはずじゃ」

「うんうん。本当、そういうところ卑怯なんだよね」

 

三度ほど頷いて互いに理解を深め、さらに会話は続く。

 

「じゃが!今回はあの白い方がおる。つまり主は妾達の方にはマジで一切興味を示さず、何百年とかけて培ってきた全ての知識を使って白い方の服を選ぶことじゃろう……」

「……つまり」

「多分妾達なにしても虚しいだけだと思うんよ……」

「がっでむ!」

 

茶番のようなやりとりだが二人にとっては死活問題だった。数少ないデレられる機会というものが激減してしまっている。

 

「完全に悪手じゃったの」

「けどこうでもしない限り亮と外出って機会ないよね」

「…………」

「ん、そういえば八代ちゃんはよく買い物行ってたか。あー、なるほど、裏切りね」

「や待て落ち着くのじゃ黒いの今は仲間割れをしている場合ではないと思うん」

「……まぁ、そうだね。きっとチャンスはやってくる。それを逃さないようにしよう」

「うむ、がんばるのじゃ!」

 

とまぁ、それぞれ思いを込めながらデパートへと歩いて向かう。化け物達の愉快な行軍だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人が多い。普段ならばそれだけで帰宅に値する。が、本日の亮にその選択肢はない。それはもちろん、優衣という最愛の彼女の妹を名乗る、彼女に似た存在があるためだ。彼女が服を選んでくれと言うなら自分の持ち得る全ての知識と財産を使い果たして選ぶことを厭わない。が。

 

「おっ、根本さんと七尾さんじゃん、どういう組み合わせ?」

「意外な二人」

「あ、鈴木君、双海さん、こんにちは」

「っべぇ主人公キタ」

 

到着するなり愛菜と優衣に話しかける二人組がいた。二人については亮はある程度の情報がある。クラスメイトの鈴木和馬と双海寧音。どうやら身内間でのお買い物はお預けらしい。

 

「八代」

「わかっとる」

 

この流れでは向こうと合流した買い物になるだろうと踏み、亮は八代と自分の姿を透明にさせる。周りに多数の人がいる状況ではあるが、瞬時に透明になることで周りには違和感を感じさせるだけで済む。

 

「あれ、いま誰か居なかった?」

「き、気のせいじゃないかな?」

「(亮、逃げた……)」

 

当初の計画では彼らを発見次第、自分は亮の影に入り、優衣を彼らにに押し付け最大の敵を排除してから八代とタイマン。だったのだが、まさかこんなに早く、しかも自分も排除されることになるとは思ってもいなかった。

 

「何かの縁。みんなで回ろう」

「そうだな。七尾さんと根本さんなんて組み合わせも珍しいし」

「そうだね」

「……うん、わかりました」

 

寧音の提案に、数馬、優衣、愛菜の順で乗っかって行く。優衣は割り切れたようだ。

 

「(っしゃあ!!妾の一人勝ちぃぃぃ!)」

 

ガッツポーズを決めた八代と、別の適当な女性の姿に変化した亮は遠くから四人を眺めていた。そう、男性ではなく女性である。私服の高校生に見られる外見だ。旧世界で食らった少女をベースに、女性が着ていても違和感のない服装をチョイス。

これで周りにはボーイッシュな女の子が妹を連れている風に見える。

 

「ある……いやお姉ちゃん?」

「黙れ狐。向こうの声が聞こえない」

「……ボケの方にツッコンでー。え、というかこれずっと続けるん?」

「当たり前だろ。あの鈴木数馬とか言ったか。優衣に触れたら二度と外歩けない体にしてやる」

「……妾、勝ったと思ったんだけどなぁ……」

 

なんとも非情な世界だった。普段なら絶対にやらないであろう女装からの気合とやる気に満ち溢れた尾行。八代が知る中でトップに入る真剣さである。

 

「どしてこうなったんじゃ」

 

それくらいしか言葉が出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ため息を着いてから一歩を踏み出した。せっかくのチャンスがタイミング悪い時に出現した彼らのせいで消し飛んだ。恐らく彼らというよりかは、鈴木数馬その人が原因。彼はいつもいつもとても良いタイミングで現れる。

訳あって保健室で着替えてる時に侵入して来る。ナンパされてる時に遭遇する。媚薬の件でちゃっかり首を突っ込む。修学旅行では宮里由紀の自称妹と一戦交える。そして今は自分と亮の時間を邪魔する。

 

「(……いつか闇に落として二度と戻ってこれないようにしよう)」

 

心に決めて先を行く数馬と寧音と優衣の後に着いて行く。この光景からすると優衣だけくっつけて自分はフェードアウトしてもいいんじゃないかと思うが、一緒に行くことに合意してしまった手前そうもいかない。それに。

 

「……めっちゃ見てるんだよなぁ」

 

亮と八代がこちらの様子を伺っているのはわかる。どこにいるかは分からないが気配がする。このままフェードアウトしたり、逸れたと誤魔化し亮と合流しても、亮の行動は変わらないだろう。ならば別にここで彼らと行動するのとなんら変わらない。

 

「根本さん」

「ん、双海さん」

 

とまぁ考えていたところで寧音が愛菜の隣に並ぶ。

 

「この前は、ありがとう」

「……んーと、なんの話ですか?」

「その……薬の……」

「その件はもうお礼を受け取りましたから」

 

媚薬の事件の時の被害者がこの寧音だ。たまたま彼女が車で拉致られるのを目撃し、放置して帰ろうか悩んだものの、たまたま数馬が居合わせてしまっていたので救出したのだ。もし彼が居なかったら助けなかっただろう。

 

「まだ足りていないわ」

「なら今度、牛丼でも奢ってください。それで」

「わかったわ。何杯でもいい」

 

別に有象無象のお礼など要らなく、期待していないわけだが。こう言っておけば無難に話は終わる。

 

「すげえさすがセール」

「……割引で桁が一つ減ってるとお得な感じがするね」

「いや七尾さんそれはわからなくはないけど、たぶん騙されてるから」

 

数馬と優衣は商品を眺めつつ、楽しそうな会話を繰り広げている。

 

「……」

「やー、主。耐えてる方だと思うんけど、殺気ぱねえのじゃ……あぁ、胃が痛い……」

 

それに比例して八代の精神が削られていく。女性の姿の亮が殺気を滲ませるという前代未聞の事態は、旧神、九尾の狐と言えど想定の斜め上を行くものだったのだ。

 

「んー、これどうかな」

「いいんじゃねえの?白のカーディガン、よく七尾さんに似合うと思うぜ」

 

とまぁ必然的にそうなるだろう。数馬の方は亮など知らない。似合うかと聞かれて似合うなら似合うと答えるだろう。ただそれだけの当たり前のことが。

 

「……」

「主空気が冷えてる言うかそれはまずいんよ地球が土星になっちゃう。あ、そうじゃ!これはサプライズで後で合流する時、可愛い白いのが見れると思うと良さげな感じあるじゃろ!」

「……一理ある」

「(セーフッ!)」

 

さすがは魔人と一心胴体の存在だったと言うべきか。しかし、こんなところでそんな経験を発揮しても仕方ない。本当につくづく仕方ない。

 

「んー、このパーカーは……」

「……根本さん、また黒い服?」

「まぁ。根っから黒が好きなんです。名は体を表す、って感じですかね」

 

愛菜と寧音は優衣と数馬に少し遅れて着いている。亮に選んでもらうことはこの際諦め、いつものように彼の好きそうな服装を考えて、それに近付けるような物を選ぶことにした。

名は体を表すなんて嘘だ。自分の名も体も彼に貰ったものだから、彼の好みが自分の好みになる事は必然。

 

「そう。……この黒のキャスケットなんてどう?」

「ん、いいかもですね。どうですか?」

「凄く様になってると思う。イメージカラーが黒のあなたにぴったり」

「……買いですかね!」

「即断即決。いいと思う」

 

この時、愛菜は愚か、八代も気付かなかった。優衣の方にばかり注視していた亮が、一瞬愛菜と寧音のやりとりを見て、満足そうな表情をしていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、楽しいショッピングの時間はそろそろ終わりを告げる。別に帰宅の時間になったとかそういう話ではない。忘れてはならない要素が一つある。

この場には、主人公がいるということだ。

 

主人公とその仲間とボスキャラとその仲間。それらが集結している場に、問題が起きない世界など存在しない。そんな物語は読者を興ざめさせてしまう。

少なくとも、このシナリオを書いた神が読んだ創作物の中では必ず問題が起きる。それは主人公が一歩を踏み出すために、あるいはボスキャラに主人公を認知させるために。神が描いたこの物語でもそれは変わらない。

 

今までラスボスと行動をし、この世の闇を知り、問題に首を突っ込んでは解決し、ハッピーエンドに導いてきた鈴木数馬は今日この場で無敵の中ボスと邂逅することになる。偶然を操作された必然の結果。そのための過程のもう一歩。

まずは亮の元に連絡が来た。

 

「なんだ」

『コードC……そのデパートに三台の盗難車が向かっている。おそらくは議会制民主主義、彼らの過激派の連中だ』

 

現在の王政というやり方が気に食わない。ただそれだけの集まり。表立って活動している連中はまだいい。議会制民主主義の名の下にきちんと話し合いの場を設け、王や公的機関に現在の政策、経済などに意見や意義を申し立てる。名乗るだけあって、彼らはきちんと国民の声に基づき行動する。例えばSNSなどで次回の対話の際に投げかける質問を募ったり。逆に政府側から彼らの行動力を買われ、現在の政策による国民への影響分析などを任されることもある。もちろんそれらは公的に行われてもいるが、彼らの調査と結果が大きく異なったり別の意見が出たりすることもあるのでバカにはできないのだ。

まぁそれが表向きの連中。その裏では革命を謳った者達が少なからず存在していた。武力によって王権を揺るがし、その隙を議会制民主主義が付け入る。それはもちろん彼らとて望んだ形ではない。しかし過激派の連中は望まずとも王権が弱まれば彼らが進出することを知っていて、彼らはそれが狙いだとわかっていても、国が荒れるなら進出をやめることはない。

過激派はどうにかしなければならないといけない存在ではあるが、それはあくまで表の者達がどうにかしなければならない問題である。

 

まぁつまり。

 

「……手を出すなと」

『正当防衛をするなとは言わんが、あくまで表向きの連中での処理を頼む』

 

正直なところ。魔人に一人取り込ませ、記憶を手に入れ、アジトや今後の方針を知ることで二日足らずで壊滅する。しかしもしそんなことをしてしまえば、国の治安維持を疑われるというものだ。メディアに警察がやったと流せばしばらくはどうにかなるかもしれない。が、警察関係者が知らないと言えばもうおしまいだ。

 

「残り時間は」

『六分。武装のレベルからしてそこの警備隊では役に立たないだろうから制圧には五分から十分。そこの構造上、まず表からかなりの人数が侵入。少数が非常階段あたりから四階の警備室に突入するはずだ。だから最も安全なのは屋上と言ったところか』

「ン、わかってる」

『……どうでもいいが、なぜ女性の声を』

 

通話を途中で切り上げ、八代を呼ぶ。

 

「楽しい買い物どころじゃなくなってきたの」

「そういうことだ。お前はとりあえず屋上で待機だ」

「んー妾は人質、というものをやってみたいのじゃ」

「……はぁ」

 

たかだか武装集団如きに遅れを取ることは無いから、人質になることにはなんの問題もないだろう。鉛玉程度で傷を負う体ではない。それに、ないだろうが万が一、亮や八代が出なければならないほどの事態の場合、内側から崩せるのは奇襲の面でも良い手になる。

勝手にしろと許可を出し、携帯電話で愛菜へ発信する。

 

「愛菜、コードC。五分だ」

『…………ごめんそれなんだっけ』

「お前な……まぁいい。なんか創作物の中みたいな事案が発生するから気をつけろ」

『……んー、まぁそんな気はしてたから大体わかった。亮と八代ちゃんは先に戻ってていいよ。一応私は善良な極術師として売名してくる』

「善良……?」

「うるさい!」

 

たかだか武装集団如きに遅れを取る面子ではないが、こういう表立った舞台に亮と八代が立つわけにはいかない。亮が一人で壊滅させ英雄になり信仰を集める道も考えはしたが、恐らくは一時的に英雄視されど、それはいずれ恐怖へと変わるのが目に見えているので却下する。

しかし、愛菜は極術師として名を馳せているのでこれには当てはまらない。もちろん、闇に沈めるをことを除いてではあるが。

 

「ン、まぁともかく頼んだぞ。八代は人質志望らしいから、俺は優衣を探してくる」

『大丈夫だと思うけど、了解。んじゃまた』

 

通話が切れると同時に。

 

────ババババババ!

と、銃声がデパート内に響いた。

 

「……マジでデパートをテロリストが襲撃か。なんだこれ」

 

使い古されたシチュエーション。苦笑いしか出てこない。亮は五階フロアからライフルを発砲させながら事を進める彼らを見下ろしていた。




次回は別視点を混ぜつつ話を進める流れです

番外編として過去話やらキャラとの個別エピソードを挟むか迷いまいまい
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