無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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ベランダでの意味のない回想の前座①

「ンで終わりか」

 

三十秒で倉庫内に集まっていた者どもは窒息死した。数は事前の情報通り二十四人。皆、先ほどまでの息ができない苦痛の顔のまま、蒼白の顔で死に絶えている。

そしてここからが本番だ。死体を浮遊させそれらを体に触れさせ、取り込む。二十四人も取り込めば今日のデパートの襲撃から今後の計画までの全容を把握できるだろう。と、その前に携帯電話に着信があった。

 

「作業中だったら迷惑だぞ」

『君一人での仕事の場合はほぼ行って帰ってきているだけだろうに。さて、君からの要請を受けてシェイカーに使いを送ったが、死んでいた。氷漬けにされてな』

 

今日のテロリストの装備。エーテル分散装置が気になって、帰宅してすぐにナナシへそのことを伝えた。その結果、シェイカーは氷のオブジェクトになっていたらしい。

 

「氷漬け?なんだ、宮里由紀か」

 

現在、人を氷漬けにするほどの魔術を扱うのは極術師の宮里由紀ただ一人。一応上位術師で氷を扱うものが居ないことはないが、彼らはどうあがいても氷の造形を作る事に留まる。

 

『そこなんだ、解せないのが。氷からは宮里由紀と同じ魔力が検出されている。が、本人は今日明日でイエロー地区にて家族旅行だ』

「昨日やって今日発見されたって可能性は?」

『ない。昨日シェイカーは新しく開発した魔術を込めた弾薬を、次の外界遠征で使うために遅くまで軍の上層部と会議だった』

「あいつ、ブルーの軍基地に住んでるんじゃねえのか」

『最近は定時でホワイト地区の家に帰宅していたらしい。研究熱心なシェイカーには珍しい事だと内部でも噂されていたが』

 

ならば必然的に犯行可能なのは帰宅してから深夜に使いが入るまで。それだけあれば同じ地区内の宮里由紀ならばやれないこともない。しかし、宮里由紀は殺しなんてしたこともない、珍しい極術師だ。殺さなきゃいけない理由があったのかもしれないが、だが、それよりも可能性が高い事がある。

 

「そういや、宮里由紀のクローンっつーか、アバターいるだろ」

『……突然、何を言い出すんだ……』

 

図星を突かれたとか、そういう空気ではない。これは、本当に知らなかった感じだ。

 

「この前、王居に向かう時、リニアモーターカーに宮里由紀の子供みたいな形したアバターがいたぞ。あれじゃねえの」

『……………………なぜそれをもっと早く言わないんだああああああああああああああああああああ!!!』

「うるせえよ」

 

ナナシが声を荒げて叫ぶなんてのは珍しいが、電話口であるのを忘れないでほしい。痛くなるような鼓膜は持っていないが、人の叫び声というものは気分を害するものなのだ。

 

『初耳だぞこっちは!!今日の件だって大人しくしてろと言っただろふざけるな管理室で寝かしたやつ!あれ警察間で未だに原因不明なんだぞ!!あと君のペット!なんだ人質になって事情聴取なしで帰宅ってふざけてるのか!?』

「世の中には理解できないことっていくつかあるだろ?」

『君ら化け物共の行動は超常現象と!』

 

確かに珍しく自分でも遊びすぎた感はある。最後の最後で顔を出して愛菜と会話してしまったのも含め。

 

『……まぁいい』

「そうだ。あんま怒るとシワが増えると聞いた。まぁあんたには関係ないか」

『黙れ……それで、食事は終わったのか』

「食事じゃねえよ。人を殺してるだけだ」

 

言って窒息死させた二十四人を同時に浮かせ、四体ずつ体に触れさせ、取り込んでいく。そうして一人一人の人生が無い脳に刻まれていく。幼少期の記憶から窒息死する瞬間までと、その人生の中での喜びやら悲しみやらその他も諸々。

 

「いっつ……はは」

『……どうした?』

 

初めて。ナナシは魔人が痛みと言う言葉を発したのを聞いた。

 

「あぁいや、他の方法だったならいいんだが、二十四人の窒息死をほぼ同時に食らうと二十四人分の痛みがちょいと。ン、久し振りの痛みで大したことないのにオーバーリアクションになった」

 

亮に痛覚はない。が、痛いという記憶が集合して痛みを錯覚しただけのこと。予め知っていれば声を出すほどではないのだが、最近は二十四人を取り込むなんてしていなかったので、予期せぬ感覚に声を漏らしてしまっただけのことだ。

 

『で、何かわかったか』

「…………ンー、なんだ、これは……あー」

 

珍しく魔人が得た情報の処理に困っている様子。ナナシは嫌な予感を抱きながらも魔人の言葉を待った。そして、数秒の間ののちに、口を開く。

 

「大袈裟に言って、新世界が危ない。控え目に言って王と宮里由紀が危ない」

『……なに?』

 

ちょうどいい塩梅の言葉は果たしてどこに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、これから起こりうる事態とその被害を分析したものをナナシに伝え、仕事は終わり。これからの方針はナナシと、ナナシの上司である王が決まる。あくまで下っ端の亮は言われた仕事をこなすだけなのだ。

 

「ただいま」

 

いつものようにそう言って、扉を開く。

 

「おかえりー」

「主、おかえりなさい」

「義兄さんおかえりなさい」

 

愛菜、八代、優衣が迎えてくれる。三人の言葉を聞いて、少し心につっかえていた何かが落ちた気がした。今更だが、亮の中には何百以上の人の記憶がある。自分の意思と並行して、その何百の記憶が渦巻く。慣れているとは言え、常に何百の喜びやら悲しみやらが身体中を這いずり回っているのだ。その心内の想像は常人にはできない。

 

「お前らまだ起きてたのか。夜遅いだろ」

 

今日のデパートで購入した腕時計を見ると、もう深夜の一時半を指していた。

 

「んー、なんとなく?」

「みんな義兄さんが心配だったんだよ」

「そゆことよ!」

 

いつも通り。暖かい家庭だった。自分が積み上げてきた冷たい行いとは真逆。間違いなく自分が持っていてはいけないものだ。

 

「そう思ってくれてんのは嬉しいが、夜更かしは体に良くないぞ。ほら寝た寝た」

 

はーい。と声を合わせて、それぞれ自室に戻っていく。全員が部屋に入り、シンと静まったリビングを眺めてから、電気を消して、亮も自室に戻る。

毎晩。この時間が憂鬱だった。自分には当たり前で、慣れた事であれど憂鬱。とりあえずは帰宅してからの一服をしようと思い、ベランダへ出る。

 

「……はぁ」

 

このタバコを吸うという行為は、気持ちの鎮静剤にして、思い出すための切っ掛け。今日も今日とてポケットからロケットを取り出し、握り締め、思い出し、浸る。まず顔を上げて月を見た。今日は確かこの世界では満月が設定されていた。設定通り、満月は輝いていた。

嫌な夜だと思う。大切な人の受け売りだが、人は空を見上げて月が輝いているとまずそこを見る。月が綺麗だと口にする。半月だろうと三日月だろうと、今日は綺麗に見えないだの欠けているだの口にする。

大切な人はそれを嫌った。夜空で一番輝く存在が、その周りで小さく輝く星々を邪魔する。最も輝く存在の前には、周りで小さく輝く存在が意味を持たない。意味を持っても、装飾品になることが多い。

 

あの世界では、炎神と水神が太陽と月だった。それに属さない自分たちは、周りで輝く星以下だったのだろう。或いは、太陽と月を必死に飲み込もうとする雲か。

どっちでもいいが、どうせ二つの輝きの前には無意味だった。

やがて自分は二つの輝きを飲み込む闇になったわけだが。

 

「最近の厨二病患者の方がもう少し上手い例え方するか」

 

そう鼻で笑った時、ガラガラとベランダの戸が開く音がした。この距離でならば顔を見ずとも誰かは察しがつく。

 

「寝ろって言っただろ」

「んー、なんとなく寝れなくて」

 

愛菜。深淵として産まれ、亮として新世界に来てからの二人目の家族。自分が新世界に対して牙を向けないたった一つの理由。

 

「結構前、亮が言ってたじゃん。寝れない時はベランダに出て、外の空気を吸って、夜景を観ろって。そうしたら世界なんて大したもんじゃないってわかって、別に怖いものなんかないって。それでも寝れない時は俺のとこに来いって」

「やめろなんか痛い」

 

本当にそう思って言った言葉ではあるし、もし今も愛菜があの頃と同じで世界を怖がっていたなら同じ言葉をかけたとも思う。が、自分の言った言葉を復唱されるととっても恥ずかしいのだった。

 

「まぁでも、それで私は気持ちよく寝れてたからいいんだよ」

 

バカにするわけでもなく、笑顔で言い切った愛菜。この笑顔は彼女がいつになっても変わらない。彼女に名前をつけて、手を伸ばした十年前の笑顔から何も変わっていない。

だからだろうか、亮はこう切り出した。

 

「たまには、昔話でもするか」

「むかし話?……それは、亮の?」

「ン、そうだな、俺と、お前の話だ。俺がお前を拾った日の話だ」

「ん、ちょっと恥ずかしいけど、たまにはいいのかな」

 

根本愛菜の原点として、彼女もきっと覚えているはずだ。だからこそ彼女は未だに牛丼が好きなのだ。

 

「あの日はナナシを本気で脅して居場所を吐かせたんだったな」

「えぇぇ……あれって脅しに乗るタイプ?」

「普通は乗らないと思うが、まぁ新世界と天秤にかけたら仕方ないってところだ。力は偉大だな」

「亮らしいね」

 

世界を壊されたくなければ国家機密を一つ差し出せ。国があっての国家機密なのだから、実質取引にすらなっていない。

 

「ンで、それからはーーーー」

 

語り出すのは全く意味のない過去の話。語る必要すらなく、理由もない。ただ確認するためだけの話。これを話したからと言って、今更二人の仲が深まる事も違える事もない。

それでも、過去を思い返す。それはいつまでも過去にしがみつく彼の得意分野だ。




おっかなびっくりで詳細見たらお気に入りが100件超えてました。何が起こってるのかよくわからんのですがありがとうございますorz
これからもクソみたいな話にお付き合いいただけると幸いです。
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